空飛ぶ自由人・2

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小説『生存者ゼロ』

2023年02月12日 23時00分00秒 | 書籍関係

 [書籍紹介] 

北海道根室半島沖の北太平洋に浮かぶ石油掘削基地TR102からの
連絡が途絶えた。
テロの可能性もあるため、自衛隊の出動となった。
救助に向かった陸上自衛官三等陸佐の廻田宏司(かいだこうじ)たちは、
掘削基地の職員全員が無残な死体となっているのを発見する。
皮膚が全て溶解してなくなり、全身が壊死し、
室内は血の海だった。
こんな劇的な症状を示すのは、
ウィルスや細菌によるものとしか思えない。
デボラ出血熱並の症状だ。
帰還後、廻田たちは隔離された。
掘削の時、地中から未知の細菌を掘り出してしまった可能性があるからだ。
TR102は閉鎖され、
報道陣には知らされなかった。

政府は感染症学者の富樫裕也博士らに調査を命ずる。
富樫はかつて勤め、石を持て追われた古巣の国立感染症研究所村山庁舎にこもり、
死体から発見された新種の病原体の特定は出来たが、
その発症メカニズムや治療法は見出せないでいた。
隔離された廻田たちに
感染した結果は見られず、解放された。

それから9カ月後、
知床半島近く、中標津(なかしべつ)の川北町で異変が起こる。
救助の要請の後、連絡が途絶えたため、
現地に向かった警察も消息を断つ。
たまたま北海道にいた廻田に出動命令が下り、
現地に向かった廻田は、
血に染まった死体の山を見る。
それは、TR102と同じ状況だった。

ここに至っても政府は何も出来なかった。
出来たのは、川北地区を封鎖することだけ。
どうしてTR102から北海道に細菌が渡ったか、
解明されることはなく、
また、潜伏期間もなく、
なぜ住民全員が同時に発症したのかも不明だった。
富樫はメディアに情報を提供することを画策するが、
その前に逮捕され、
コカイン中毒の烙印のもと、拘束されてしまう。

その一カ月後、
紋別、北見から足寄、帯広に至る道東の複数地域で感染症が発生する。
感染者の数は少なくとも8万人、全員が死亡した。
道東地域は隔離され、
逃れて来る道民と治安部隊が封鎖地点で衝突した。
また、感染から逃れるために、根室港を出航した客船が
定員の3倍に当たる3600名を乗せて上海に向かい、
中国軍の魚雷攻撃を受けて沈没した。
国際社会は日本からの渡航を禁じ、
物流も遮断された。
日本は孤立した
日本国の存亡の危機に陥りながら、
政府は議論のみ繰り返し、
対処を自治体に任せていた。

途中、生物学者の弓削亜紀が加わり、
真相が明らかになる。
それは、地中から新細菌が掘り出されたのは事実だが、
それは人間には害毒を与えず、
あるモノに感染して、体内に入り込み、
脳を支配して、
凶暴性を発揮させたというのだ。

(それが何であるか、本書をお読み下さい。
ただ、TR102の探索で、
そのモノの死骸はないはずがないのだが。)

しかし、政府は信じず、
札幌東に防衛線を敷き、
爆弾を投下して、北海道を焼却し尽くす、という方針を決める。
しかし、防衛線は破られ、
自衛隊とそのモノとの戦いが続く。
津軽海峡を越えて本州にそれが及べば、
日本が、世界が壊滅する。
廻田や弓削の提言は政府に聞き入れられるのか・・・。

この本筋に、
富樫が古巣を追われた話、
アフリカでの研究施設で妻子を失った苦悩、
廻田の、部下をむざむざ死なせた苦衷などが挟まるが、
あまりうまく繋がらない。
なにしろ、話がウェット過ぎる。
まして、「パウロの黙示録」を持ち出しての神の災厄など、
全く不要な要素だ。
災厄と新月の関係など、ご都合主義というものだろう。

ここまで読んで、
あれ、なにかの作品と似ていないか、
と思った方がいるだろう。
そう、2月8日に紹介した「ホワイトバグ」だ。
地中深くから蘇ったものによって、
人類の滅亡が始まる、
という話と同工異曲。

実は、「ホワイトバグ」↓と作者が同じ安生正だ。

小説『ホワイトバグ』 - 空飛ぶ自由人・2 (goo.ne.jp) 


本作は、「ホワイトバグ」より9年も前に書かれた、
2012年の「このミステリーがすごい! 大賞」受賞作かつデビュー作なのだ。
読むのが逆になってしまった。
同工異曲だが、本作が日本だけが舞台なのに対して、
「ホワイトバグ」は世界が舞台になっているところに進化がある。

いずれにせよ、スケールの大きな作品。
なにしろ、地球上の生物は億年単位で5度の絶滅を経験し、
その6度目の絶滅を描こうというのだから。
コロナのパンデミックを予言したような部分もある。
冒険小説として、面白く読めた。

                                                                                                                                               



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