空飛ぶ自由人・2

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短編集『夜露がたり』

2024年07月07日 23時00分00秒 | 書籍関係

[書籍紹介]

武家ものの長編を書いてきた砂原浩太朗初の市井もの短編集。
いずれも『小説新潮』に掲載された8編を収録。

「帰ってきた」

錺職人の善十が蒼ざめておみのと住む長屋に帰宅した。
善十の兄弟子の弥吉が、島から帰ってきたらしい。
おみのは弥吉の前妻で、
弥吉が島送りになった後、
ずるずると善十と所帯を持った。
弥吉が知ったら、仕返しをされるだろう。
案の定、おみのの勤める居酒屋に
偵察めいた男がやって来た。
やがて弥吉が現われて・・・

「向こうがわ」

両国橋の向こうとこっちに別れ、
それぞれ仲間を集め、
抗争を続けている幹太と進次郎。
幹太には、前に住んでいた町への憧れが残っている。
ある時、前の町に出かけた幹太は・・・

「死んでくれ」

太物問屋につとめるおさとの前に、
十年前に姿を消した父親の辰蔵がうらびれた姿で帰って来た。
辰蔵の作った借金を毎月返していたおさとに、
ばくちの新たな借金がのし掛かってくる。
死ぬ思いで店から金を前借りして返しにいくと、
さらに借金は増えていた。
おもわずおさとは「死んどくれよ」と口走る・・・

「さざなみ」

出戻りのおさくと所帯を持った勝次は、
おさくの寝言に慄然とする。
何者かに殺された前の亭主・源太の名を呼んだのだ。
おさくが前の亭主を忘れられないのだと
嫉妬に狂った勝次は、つい非難してしまう。
家を飛び出たおさくを追った勝次は、
川べりで思わぬ話を聞かされる・・・

「錆び刀」

主家が改易になって放り出された田所平右衛門は、
同じ長屋のおよしと思いを寄せている。
およしの計らい手習い所を開所し、
何とか軌道に乗った。
そんな時、道場仲間の山崎市之進から
婿養子の話をもちかけられるが・・・

「幼なじみ」

呉服屋に雇われたばかりの小僧の梅吉は、
手代になった秀太郎と店で再会する。
二人が一緒にいたのは、貧困の長屋だった。
その長屋から抜け出そうと、
秀太郎は奉公してめきめき頭角を現し、手代になった。
その才覚と自分のふがいなさを比較する梅吉。
しかし、その呉服屋に盗賊が目をつけており、
実は梅吉は・・・

「半分」

幼なじみのおのぶの死を知り、おゆみは葬儀に出かける。
おのぶの転落は知っていたが、
わざと知らないふりをして、行き来もなく、
それがおゆみの罪悪感となっていた。
残された男の子と女の子が気になり、
おゆみは度々二人のもとを食べ物を持って訪ねていた。
それがおのぶへの罪ほろぼしだった。
しかし、ある時・・・

「妾の子」

おるいは妾の子で、それが原因でいじめられもした。
母親が亡くなって、父親の美濃屋に引き取られたが、
同業の小松屋の跡取り息子・繁蔵との縁談がまとまっていた。
しかし、小松屋の庭で、繁蔵と二人きりになった時、
繁蔵が言う。
「あんた、妾の子だそうだな」・・・

市井ものの短編というと、
藤沢周平の作品群を思い浮かべるが、
ちょっと一味違う。
登場人物がどうしようもない定めから
抜け出せずに苦悶している様
読者の心に暗く迫るからだ。
唯一、「妾の子」だけが、
幸せになれそうな予感を与えるが、
後の7篇は、辛い読後感だ。

よほど作者は昏いものを背負っているのだろう。
藤沢周平も昏いものが背景にあったが、
段々それが抜けて、
心温まる作品を書くようになった。
砂原浩太朗も、もう少し時が必要なのかもしれない。

 



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