[映画紹介]
台湾の台中市にある、昔ながらの理髪店「家庭理髪」。
女店主アールイは40年にわたって店に立ち続け、
ハサミの音を響かせている。
引っ越した遠くの町から通い続けてくれる常連客もいるが、
その一人の歯科医が病に倒れたことを知ったアールイは、
「本日公休」の札を掲げ、
古びた理容道具を持ち、
愛車に乗って先生のもとへ向かう。
スマホを忘れて行ったため、
連絡が取れずに、子どもたちはやきもきする。
このアールイの車での旅と並行して、
子どもたちの状況が描かれる。
アールイの夫はすでに他界しており、
二人の娘と一人の息子をハサミ一つで育てた。
長女のシンはスタイリストとして、
CM撮影の現場などで働いており、
次女のリンは都会の美容院で働いている
長男のナンは変なビジネスに手を出しては、
無駄な時間を過ごしていた。
三人の子どもはあまり実家に寄り付かず、
近所で自動車修理店を営む次女の元夫チュアンが
優しくて善い男で、元義母を何かと気にかけてくれている。
こうした事柄が
過去と現在の時間軸を交差して描かれる。
町の片隅にある古い理髪店で
起こる平凡な出来事、
台湾の道路を走るアールイの車の周囲の田舎の光景。
家族の絆と、
客との交流。
心が暖かくなる映像ばかりだ。
アールイは、客の後頭部を見て、
その人生を思う。
常連客との会話は、
わずかな時間の人生の交流。
常連の髪型の好みはもちろん、
接客時の会話から相手の家族の事情まで把握しており、
頭の形を見ると似合う髪型がわかる、
頭の後ろ側にも“もう一つの顔”がある、と言う。
女性監督のフー・ティエンユーの母親が理容師で、
主人公アールイのモデルになった。
撮影に使ったのも実家の理髪店だ。
描かれるのは、
監督が日常的に触れた原風景。
アールイを演ずるのは、
24年ぶりにスクリーンに復帰した名優ルー・シャオフェン。
2023年の台北電影奨で主演女優賞を獲得。
特に事件らしい事件は起こらないが、
何か大事なことを見せられた気がする。
人生経験が豊かな人ほど、
この映画に魅かれるだろう。
全国の床屋さん必見の映画。
主題歌『同款』が素敵。
5段階評価の「4.5」。
シネスイッチ銀座で上映中。
私は、48年間、市内の同じ理髪店で髪を切ってもらっている。
前に住んでいたアパートの隣にあった理髪店だ。
市内の別の場所に引っ越してからも、
15分ほど自転車を走らせて通う。
最初にやってもらった時、
私の髪は剛毛だったそうだ。
今は、髪が細くなり、
地肌が見え、
すっかり白くなった。
この床屋さんは、私の人生を知っている。
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