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タイ、異常なバーツ高

2007年04月17日 16時29分54秒 | ■時事・評論
タイの通貨バーツが昨年来じわじわ高くなっていた。
それ自体は、タイの好調な輸出の表れとみられていた。
しかし、政変以降、急激にバーツ高が進んだ。
通常、政情の「不安定」な国の通貨は安くなる。
政変がなかったとしても、現在のバーツ高騰は異常と言うしかない。

タイバーツは、97年のアジア通貨経済危機以降は、1ドルが約40バーツと、非常に安定していた(99年を除く)。それが現在、1ドルが32.23バーツとなっている(4月17日現在)。昨年に比べ、20%近くも高くなっている。

バーツ高騰の主因は、海外からの短期資金の流入によるものと見られている。タイ暫定政府は短期資金の規制を行なったが(06年12月)、効果はみられなかった。そして3月15日には9年ぶりの高値34.90バーツを記録し、以降高値を更新し続けた。

アメリカ政府が言うところの民主主義を後退させる「軍事クーデター」が発生し、しかもその後、複数の爆弾事件も勃発している。現在、主だったデパートなど人の出入りの多い場所では、入り口で必ず荷物チェックがなされている。また南部三県での混乱もまったく収拾できていない。そうした政情の「不安定な」タイに、なぜ海外から短期資金が流入し続けているのか。おかしくはないだろうか。普通、不安定なところからおカネは逃げるものだ。しかも、規制をしてもまだ資金が流入し続けたのはさらにおかしい。資金の自然な流れとは言えない。昨年の政変が、タイの国内勢力同士による単純な覇権権力争いなら、交渉する相手が代わるだけで、このような異常な通貨高の圧力が発生することはないはずだ。バーツ高騰には、外部からの「強固な意志」が働いているとしか思えない。

バーツ高が進めば、タイの輸出競争力は低下し、輸出関連産業に影響を与えるだろう。また、割高になったバーツによって観光客のサイフの紐も固くなり、観光業にも影響を与えるだろう。景気が低迷すれば、暫定政権に対する支持率は低下し、ついには不信任につながるかもしれない。暫定政権が選挙に敗北すれば、前首相が堂々と返り咲くこともあり得る。そうなれば誰が得をするだろうか。

タクシン前首相は、積極的な外資の導入と巨大プロジェクトによる急速な成長政策を行なっていた。タクシン前首相在任中に、巨大新空港(スワンナプーム空港)の建設が着工・完成した。また、高速道路やスカイトレインの延長事業、サイアム地区再開発事業、そして過剰と思えるほど多くの商業ビルやデパート、高層住宅が首都に建設された。スカイトレインに乗ってバンコク市内を眺めれば、いまでも建設中の多くの高層ビルを目にすることができる。タクシン前首相時代のこうした巨大プロジェクトによる成長政策には外国の技術や資本が必要であり、多くの外国企業や外国資本に活動の機会と利益を提供してきたことは間違いない。

では、現在の暫定政権の経済政策はどうだろうか。それは、急速な成長経済とは裏腹の「足るを知る経済」として知られている。「足るを知る経済」とは、現プミポン・タイ国王が長年にわたって提唱している理念で、何ごとも中庸をもってよしとするという考え方と言える。短期的な利益をめざすのではなく、地域間の格差を是正する、持続可能な経済成長をめざすものだ。

タクシン政権下の巨大プロジェクトによる急速な成長経済政策によって、大きな利益をあげてきた外国資本にとっては、「足るを知る経済」はあまり有難くない経済政策と言えるだろう。何としてもタクシン時代に戻して、いままで同様利益を享受したいと考えるだろう。そのためには、暫定政権に徹底したダメージを与えなければならない。その答えがバーツの高騰ではないのだろうか。

暫定政権は、バーツ高騰に対する対策として金利下げを決定した。また財政政策も検討されている。しかしながら、どちらの政策もバーツの安定に効果があるとは思えない。かつての日本も円高を止めることはできなかったのだから。

1995年4月19日、円ドルレートが1ドル79.75円の史上最高値をつけた。1994年からはじまった異常な円高の最終局面だった。この超円高によって、バブル崩壊で疲弊した日本経済はとどめを刺された。翌1996年に発足した第二次橋本政権は金融市場の自由化を行なった(「金融ビックバン」)。これはワシントンの圧力による規制撤廃、自由化、民営化という「構造改革」の幕開けだった。そして「構造改革」は小泉政権へと受け継がれていった。その結果、日本経済がどうなったか、そして誰が利益を享受したかはいまさら言うまでもない。いま、タイのバーツを高騰させているのもまったく同じ原理と言える。通貨高騰や暴落を起して、相手を屈服させるのだ。

アジア通貨はつねに外国資本からの圧力と脅威にさらされている。こうした脅威に対抗するために共同防衛策が検討されている。ASEAN+日中韓の13ヶ国による通貨安定のための外貨準備策だ。5月に京都で開かれる蔵相会議で正式に提案される予定だ。しかし、この構想はどこからか横槍が入って失敗に終わることもあり得る。

97年にタイで通貨危機が発生したとき、タイ政府の要請を受けて、日本はいち早く救援に乗り出そうと動いた。しかし、この試みはワシントンによってみごとに潰された。本来なら、タイの通貨危機は日本の資金によって簡単に初期消火されていた。したがって、アジアを巻き込む通貨経済危機に発展することもなかったはずだ。だが、IMFがタイに乗り込んでくるとボヤはたちまち大火災になり、近隣諸国に燃え広がった。

この大惨事を目の当たりにして、日本は97年秋に「アジア通貨基金」の設立を提案したが、アメリカ、IMF、中国の反対にあってこの試みも挫折した。アメリカ政府とIMFは、アジアが共同して通貨を安定させることを阻み続けている。今回のASEAN+日中韓による独自の通貨安定構想のゆくえもたいへん心もとない。

アジア通貨経済危機によって、タイ、韓国、インドネシアはIMFによる「支配」を受けいれ、多くの企業や銀行を外国資本に売り渡した。IMFの強要する規制撤廃、自由化、民営化によって、この三ヵ国の経済はさらに悪化し、福利厚生は縮小し、格差は拡大し、失業や犯罪は上昇した。ワシントンやIMFが強要する政策とは、実質的な政治経済的な占領にほかならなかった。それによって、得をしたのは欧米の多国籍企業や金融資本だ。

通貨危機以前は、アジア経済は持続的で安定した成長をしていた。しかし、欧米の経済理念(グローバリゼーション)を受け容れた途端、通貨経済危機に見舞われた。

昨年9月のタイの政変とは、こうした外国の都合によって翻弄される経済的枠組みから脱っすることが真の目的であったと見ている。そのためには思い切った手段が必要だった。それが見せかけの「軍事クーデター」だった。ワシントンやIMFの目を眩まし、手出しができないようにするためには、そのくらいの思い切った手段が必要だったのだ。これが「タイ・マジック」だ。

現在の不自然なバーツ高騰は、ワシントンやIMF、欧米資本からタイ暫定政権に対する宣戦布告なのではないだろうか。

このままバーツ高騰が続き、タイ経済が低迷し、暫定政権の試みがはからずも失敗すれば、タイのみならず日本の国益をも損なうことになる。日本の生産設備の多くはタイに移転しており、日タイの経済は深くリンクしている。いすゞ自動車などは、今年でタイ進出50周年になる。それを記念して様々なキャンペーンも行なわれている。同じように何十年も前からタイに進出している日本企業は多い。日タイの経済関係は想像以上に長く、そして深い。タイ経済の真の安定は、日本の国益でもある。グローバリゼーションとは無縁の時代、日本もタイもともに持続可能な経済成長を続けていた。

いま、タイの暫定政府は孤軍奮闘している。
日本政府はかつてそうだったように、タイ経済を救出しようとしているのではないだろうか。
しかし、かつてそうだったように、したくてもできないのかもしれない。





9年ぶりに1ドル=34.9バーツ、バーツ高進行 2007/3/15
http://www.newsclip.be/news/2007315_010285.html

1ドル=34.6バーツ台、バーツ高進行 2007/3/22
http://www.newsclip.be/news/2007322_010478.html

タイ財務相、外為規制を事実上撤廃 2007/03/26
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20070326AT2M2601M26032007.html

ASEAN財務相会議、外貨準備拠出で合意・為替安定へ新体制 2007/04/06
http://www.nikkei.co.jp/news/kaigai/20070406AT2M0502C05042007.html

市場の不安定性を懸念、ASEANは経済協力を強化すべき=タイ財務相 2007/04/06
http://www.worldtimes.co.jp/news/world/kiji/2007-04-06T103457Z_01_NOOTR_RTRJONC_0_JAPAN-254272-1.html

タイ中銀が0.5%利下げ、景気減速・バーツ高で 2007/4/11
http://www.newsclip.be/news/2007411_010881.html

金融資本に巨大な民主的規制をかけよう!タイで短期資本に対する規制
http://attackoto.blog9.fc2.com/blog-entry-67.html

「足るを知る経済」哲学 在京タイ王国大使館
http://www.thaiembassy.jp/rte1/content/view/254/

秋篠宮さまタイご訪問へ
http://www.sankei.co.jp/shakai/koshitsu/070302/kst070302000.htm