前回の記事で、ひとつ書き忘れをした。
一行ですむのだが、それではなんなんので少しだけ付け足しておきたい。
2002年4月にチャベス大統領に対してクーデターが行なわれたが、このとき暫定政権の大統領に就いたのは、ペドロ・カルモナという人物だった。カルモナはベネズエラ経営者連盟会長で、ベネズエラの財界や富裕階級を代表する人物のひとりだ。
クーデターで誕生したこのカルモナの暫定政権を支持した国はごくわずかだった。たったの二日天下だったので、支持や承認をするヒマがなかったと言える。また別の見方をすれば、支持を表明した人たちは異様に判断が素早かったと言える。普通、二日程度の時間では、まともな情報収集も分析も判断もできない。いち早くクーデターを支持した人たちは、そもそも情報収集も分析も最初から必要なかったのだろう。
その人たちとは、
まず、ジョージ・W・ブッシュ・アメリカ大統領。
これは当然すぎるほど当然だろう。公式にチャベス大統領を非難し続け、チャベス大統領を国際的な孤立に追い込み、クーデターを企む勢力に動機と勢いを与えた。また実際的な支援を反チャベス派に行なっていたことも明らかになっている。
それから、アスナール・スペイン首相(当時)も暫定政権を支持した。
アスナール首相は、翌年のブッシュによるイラク攻撃を支持し、1300名の戦闘部隊を派兵するなどブッシュの良き同盟者だった。
そして、アメリカとスペインとともに、ペドロ・カルモナの暫定政権を驚くほど素早く支持した組織があった。
そう、IMFだ。
前回、書き忘れたのはこれだ。
クーデターの首謀者のひとりペドロ・カルモナが暫定大統領に就いたのが、4月12日の午前6時。IMFがこの新政権を「喜んで援助する」と声明を発表したのが午前9時30分。新政権発足から、たったの4時間半(-1時間の時差により)しかたっていない。それだけの時間で、クーデター首謀者や実行者の人定(クーデターに加担した将軍は14人もいる)から、クーデターの動機・性格、今後の成り行きまでを分析し、ステイトメントを準備し、記者会見を行うというのは神業に近い。要するに、IMFは明らかにそうした情報収集や分析の必要などなかったということだ。
このクーデターには、アメリカ政府が関わっていたということはいまでは疑いの余地はない。ワシントンに本部を置く、アメリカの付属機関であるIMFが事前に計画を知らされていたとしても不思議はない。不自然なほど素早い声明が行なえた説明がほかにあるだろうか。このときのトマス・ドーソン報道官の記者会見の模様(ビデオとトランススクリプト)はIMFのサイトで閲覧できる。
http://imf.org/external/mmedia/view.asp?eventID=93
アメリカ政府やIMFによる不自然なほど素早い支持発表は、国際社会に向けたメッセージだったと言える。”我々に続け”ということだ。アメリカの顔色を伺わなければ、国際社会で何も発言できない政権は多い。また、アメリカの意向にあえて反対する政権もすくない。そして、IMFの管理下にある、あるいは影響下にある国々にとっては、IMFが公式に支持表明した暫定政権に対して取れる選択肢はひとつしかない。つまり、アメリカとIMFがカルモナの暫定政権をいち早く支持することによって、国際社会のほとんどの国が自動的に支持することになるという仕組みだ。
しかし幸い、クーデターは二日で幕を閉じた。アメリカ政府もIMFも、まさかたった二日後にチャベス大統領が生きたままミラフローレス(大統領宮殿)に戻ってくるとは夢にも思っていなかったに違いない。だから、不自然なほど素早い支持表明を臆面もなくできたのだ。自分たちの力を過信しすぎていたのかもしれない。あるいは、ベネズエラ国民やチャベス大統領、政府スタッフの力をみくびっていたと言えるかもしれない。
[スペイン前政権、クーデターを支援]
アメリカ、IMFとともに、2002年のカルモナの二日政権を支持した、スペインのアスナール首相(当時)についても若干のべておきたい。
アスナール政権は、イラク戦争に1300名の実戦部隊を送るなど、アメリカのよき同盟者だった言える。しかし、スペイン国民は、そのようなアスナール政権を拒絶した。2004年3月の選挙で社会労働党のホセ・ルイス・サパテロにあえなく敗れた。
そして、アスナール政権が倒れると、チャベス大統領はスペインを訪れた(2004年11月)。このとき、スペイン新政権の外務大臣モラティノスはチャベスの訪問に合わせて重大な発言をした。
「前政府の下で、(カラカス)のスペイン大使は、クーデターを支援せよ、というスペインの外交上前代未聞の命令を受け取った」
とモラティノス外相は国営テレビのインタビューで語った(04年11月23日)。
チャベス大統領は、
「それが行なわれたことに疑問の余地はない。スペイン大使は唯一、アメリカ大使とともに反乱者を承認した」
と答えた。
http://www.indymedia.org.uk/en/2004/11/301754.html
対米重視政策を採っていたアスナール前政権は、アメリカの反チャベス策略にかかわっていた可能性が高い。
結局のところ、2002年の反チャベス・クーデターを不自然なほど素早く支持したのは、すべて直接間接の当事者だったから、ということなのだろう。
今日に至るまで、チャベス大統領に対する再クーデターや暗殺の危険は消えていない。
また、IMFは2003年からベネズエラの経済成長率を故意に低く見積もり続けているという報告もある。
http://www.cepr.net/documents/publications/imf_forecasting_2007_04.pdf
IMF・世銀、ベネズエラが脱退表明するなか、衰える権威に直面
http://agrotous.seesaa.net/article/41544884.html#more
ベネズエラ再クーデタの危険(ル・モンド・ディプロマティーク2002年6月号)
http://www.diplo.jp/articles02/0206.html
IMF's Support for Coup Government in 2002 May Have Influenced Venezuela's Decision to Withdraw from the Fund
http://www.cepr.net/index.php?option=com_content&task=view&id=1159&Itemid=77
IMF:Press Briefing by Thomas C. Dawson, (video)
Friday, April 12, 2002 9:30 AM
http://imf.org/external/mmedia/view.asp?eventID=93
IMF:Press Briefing by Thomas C. Dawson,(Transcript)
http://imf.org/external/np/tr/2002/tr020412.htm
Political Forecasting?
The IMF's flawed growth projections for argentina and venezuela
http://www.cepr.net/documents/publications/imf_forecasting_2007_04.pdf
Spain says former government backed Venezuela coup
http://www.indymedia.org.uk/en/2004/11/301754.html
Moratinos defends coup comments
http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/4059555.stm
What A Difference Three Years Can Make: Bush Rebuffed in Venezuela (Again)
http://www.venezuelanalysis.com/articles.php?artno=1416
THE REVOLUTION WILL NOT BE TELEVISED (グーグル・ビデオ)
(ドキュメンタリー:アイルランド)
http://video.google.com/videoplay?docid=5832390545689805144
一行ですむのだが、それではなんなんので少しだけ付け足しておきたい。
2002年4月にチャベス大統領に対してクーデターが行なわれたが、このとき暫定政権の大統領に就いたのは、ペドロ・カルモナという人物だった。カルモナはベネズエラ経営者連盟会長で、ベネズエラの財界や富裕階級を代表する人物のひとりだ。
クーデターで誕生したこのカルモナの暫定政権を支持した国はごくわずかだった。たったの二日天下だったので、支持や承認をするヒマがなかったと言える。また別の見方をすれば、支持を表明した人たちは異様に判断が素早かったと言える。普通、二日程度の時間では、まともな情報収集も分析も判断もできない。いち早くクーデターを支持した人たちは、そもそも情報収集も分析も最初から必要なかったのだろう。
その人たちとは、
まず、ジョージ・W・ブッシュ・アメリカ大統領。
これは当然すぎるほど当然だろう。公式にチャベス大統領を非難し続け、チャベス大統領を国際的な孤立に追い込み、クーデターを企む勢力に動機と勢いを与えた。また実際的な支援を反チャベス派に行なっていたことも明らかになっている。
それから、アスナール・スペイン首相(当時)も暫定政権を支持した。
アスナール首相は、翌年のブッシュによるイラク攻撃を支持し、1300名の戦闘部隊を派兵するなどブッシュの良き同盟者だった。
そして、アメリカとスペインとともに、ペドロ・カルモナの暫定政権を驚くほど素早く支持した組織があった。
そう、IMFだ。
前回、書き忘れたのはこれだ。
(暫定政権に対して)国際通貨基金(IMF)や米国大統領、それに欧州連合(EU)の現議長国スペインのアスナール首相が熱烈な支持を示した。
http://www.diplo.jp/articles02/0206.html
ベネズエラの民主的な選挙で選ばれた政府が軍事クーデターによって転覆させられたわずか数時間後、IMFは「ふさわしいと彼らが考える如何なる方法でも[ペドロ・カルモナの]新政権を喜んで手助けする」と公然と言明した。
新たに据えられた独裁政権――国の憲法、議会や最高裁判所を直ちに解消したそれ――に金融援助をするというこの即座の表明はIMFの歴史において前例のないことであった。通常IMFは、選出された政府に対してすらこれほど迅速に反応することはない。http://agrotous.seesaa.net/article/41544884.html#more
クーデターの首謀者のひとりペドロ・カルモナが暫定大統領に就いたのが、4月12日の午前6時。IMFがこの新政権を「喜んで援助する」と声明を発表したのが午前9時30分。新政権発足から、たったの4時間半(-1時間の時差により)しかたっていない。それだけの時間で、クーデター首謀者や実行者の人定(クーデターに加担した将軍は14人もいる)から、クーデターの動機・性格、今後の成り行きまでを分析し、ステイトメントを準備し、記者会見を行うというのは神業に近い。要するに、IMFは明らかにそうした情報収集や分析の必要などなかったということだ。
このクーデターには、アメリカ政府が関わっていたということはいまでは疑いの余地はない。ワシントンに本部を置く、アメリカの付属機関であるIMFが事前に計画を知らされていたとしても不思議はない。不自然なほど素早い声明が行なえた説明がほかにあるだろうか。このときのトマス・ドーソン報道官の記者会見の模様(ビデオとトランススクリプト)はIMFのサイトで閲覧できる。
http://imf.org/external/mmedia/view.asp?eventID=93
アメリカ政府やIMFによる不自然なほど素早い支持発表は、国際社会に向けたメッセージだったと言える。”我々に続け”ということだ。アメリカの顔色を伺わなければ、国際社会で何も発言できない政権は多い。また、アメリカの意向にあえて反対する政権もすくない。そして、IMFの管理下にある、あるいは影響下にある国々にとっては、IMFが公式に支持表明した暫定政権に対して取れる選択肢はひとつしかない。つまり、アメリカとIMFがカルモナの暫定政権をいち早く支持することによって、国際社会のほとんどの国が自動的に支持することになるという仕組みだ。
しかし幸い、クーデターは二日で幕を閉じた。アメリカ政府もIMFも、まさかたった二日後にチャベス大統領が生きたままミラフローレス(大統領宮殿)に戻ってくるとは夢にも思っていなかったに違いない。だから、不自然なほど素早い支持表明を臆面もなくできたのだ。自分たちの力を過信しすぎていたのかもしれない。あるいは、ベネズエラ国民やチャベス大統領、政府スタッフの力をみくびっていたと言えるかもしれない。
[スペイン前政権、クーデターを支援]
アメリカ、IMFとともに、2002年のカルモナの二日政権を支持した、スペインのアスナール首相(当時)についても若干のべておきたい。
アスナール政権は、イラク戦争に1300名の実戦部隊を送るなど、アメリカのよき同盟者だった言える。しかし、スペイン国民は、そのようなアスナール政権を拒絶した。2004年3月の選挙で社会労働党のホセ・ルイス・サパテロにあえなく敗れた。
そして、アスナール政権が倒れると、チャベス大統領はスペインを訪れた(2004年11月)。このとき、スペイン新政権の外務大臣モラティノスはチャベスの訪問に合わせて重大な発言をした。
「前政府の下で、(カラカス)のスペイン大使は、クーデターを支援せよ、というスペインの外交上前代未聞の命令を受け取った」
とモラティノス外相は国営テレビのインタビューで語った(04年11月23日)。
チャベス大統領は、
「それが行なわれたことに疑問の余地はない。スペイン大使は唯一、アメリカ大使とともに反乱者を承認した」
と答えた。
http://www.indymedia.org.uk/en/2004/11/301754.html
対米重視政策を採っていたアスナール前政権は、アメリカの反チャベス策略にかかわっていた可能性が高い。
結局のところ、2002年の反チャベス・クーデターを不自然なほど素早く支持したのは、すべて直接間接の当事者だったから、ということなのだろう。
今日に至るまで、チャベス大統領に対する再クーデターや暗殺の危険は消えていない。
また、IMFは2003年からベネズエラの経済成長率を故意に低く見積もり続けているという報告もある。
http://www.cepr.net/documents/publications/imf_forecasting_2007_04.pdf
IMF・世銀、ベネズエラが脱退表明するなか、衰える権威に直面
http://agrotous.seesaa.net/article/41544884.html#more
ベネズエラ再クーデタの危険(ル・モンド・ディプロマティーク2002年6月号)
http://www.diplo.jp/articles02/0206.html
IMF's Support for Coup Government in 2002 May Have Influenced Venezuela's Decision to Withdraw from the Fund
http://www.cepr.net/index.php?option=com_content&task=view&id=1159&Itemid=77
IMF:Press Briefing by Thomas C. Dawson, (video)
Friday, April 12, 2002 9:30 AM
http://imf.org/external/mmedia/view.asp?eventID=93
IMF:Press Briefing by Thomas C. Dawson,(Transcript)
http://imf.org/external/np/tr/2002/tr020412.htm
Political Forecasting?
The IMF's flawed growth projections for argentina and venezuela
http://www.cepr.net/documents/publications/imf_forecasting_2007_04.pdf
Spain says former government backed Venezuela coup
http://www.indymedia.org.uk/en/2004/11/301754.html
Moratinos defends coup comments
http://news.bbc.co.uk/1/hi/world/europe/4059555.stm
What A Difference Three Years Can Make: Bush Rebuffed in Venezuela (Again)
http://www.venezuelanalysis.com/articles.php?artno=1416
THE REVOLUTION WILL NOT BE TELEVISED (グーグル・ビデオ)
(ドキュメンタリー:アイルランド)
http://video.google.com/videoplay?docid=5832390545689805144