歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

《『書道全集 中国篇』を通読して 要約篇はじめに》

2018-07-18 17:54:54 | 書道の歴史

《『書道全集 中国篇』を通読して 要約篇はじめに》

はじめに
前回のブログで中国の書道史に興味があることを記した。

そのことを大学時代の恩師にお伝えすると、2014年8月12日に、神田喜一郎ほか編『書道全集』(平凡社刊、1965年~1968年、中国篇、全15冊、別巻2冊、計17冊)を譲り受けた。記して深謝の意を表したく思い、この全集(以下、『中国書道全集』と略す)を要約して、その内容を紹介し、加えてコメントを付して、中国書道史を再考してみようとした。
要約作業は、地道にコツコツとノートに抜き書きを作り、パソコンのワードに打ち込んでいった。合い間を縫って作業を続けたので、約4年間を費やすことになり、その間、私に様々な困難・苦境がのしかかってきた(このことは、「あとがき」で言及したい)。
この全集の各巻の叙述スタイルは、殷・周・秦代から清代までの中国書道史の総論・概説をすべて神田喜一郎(1897~1984)[以下、敬称を略す]が執筆し、各論・テーマ別個別論を中田勇次郎(1905~1998)、外山軍治(1910~1999)、宮崎市定(1901~1995)、内藤乾吉(1899~1978)、青木正兒(1887~1964)、貝塚茂樹(1904~1987)、小川環樹(1910~1993)といった中国史および中国書史に精通した歴史家・中国文学者が詳説し、書の図版を解説するという一貫した構成である。この叙述・構成からもわかるように、この全集は、神田喜一郎の中国書道史理解が大きな位置を占め、多大な影響力をもち、本全集の性格・特色を規定しているといってよい。また、豪華で多才な各論の執筆陣の中で、執筆数からも明らかなように、中田勇次郎が筆頭に挙げられる。
後掲の目次を参照してもらえばわかるように、執筆陣を一見するに、京都帝国大学教授で東洋史学者であった内藤湖南(1866~1934)の影響を受けた“京都学派”の学者たちであったことに気づく。内藤乾吉は内藤湖南の息子である。神田喜一郎は京大史学科支那史学を専攻しており、後述するように、中国書道史の「二大潮流」説を提唱している。宮崎市定は、周知のように、師の内藤湖南が提唱した「唐宋変革」論を受け継ぎ、唐以前を中世・宋以後を近世と設定した。中田勇次郎は、内藤湖南の伝統を受け継ぐ支那学が隆盛した時代に京大文学部支那語学支那文学科に入学し、青木正兒らに指導を受けて、主に宋詞について研究した。漢文学、書道史を専攻し、コメント篇でも詳しく紹介するように、中田は中国書道史の第一人者であった東洋史家である。

ところで、今日、著名な中国書道史家として、石川九楊(1945~)がいる。京大法学部を卒業して、書家となった異色の経歴をもつ書道史家である。その代表作である『中国書史』(京都大学学術出版会、1996年)にも、内藤湖南への言及があり、“京都学派”の影響が感じられる。しかし、先の歴史家・中国文学者とは異なり、書家の立場から、中国書史を「筆蝕の歴史」として捉えるという独特の史観を提示している(この著作内容はコメント篇で詳しく紹介してみたい)。

そこで、本ブログで述べてみたい要点は、次の諸点である。
・『中国書道全集』をなるべく忠実に要約すること
・各巻の巻頭論文である神田喜一郎の「中国書道史」をきちんと理解すること(神田喜一郎『中国書道史』岩波書店、1985年に再録)
・石川九楊の『中国書史』(京都大学学術出版会、1996年)の内容を理解し、神田喜一郎の捉え方との相違を浮き彫りにすること
・その他、中国の書史に関する卓見を広く紹介し、その理解を深めること

現在、原稿はワードに約67万語を打ち込んだ段階で、2018年初めに思うように時間が割けなくなった事情が発生した。私事で恐縮であるが、2018年1月、父の大病が発見され、緊急手術、術後治療で、私も自由に時間が作れなくなった。取り急ぎ、『中国書道全集』の要約篇をアップロードしておくことにした。要約篇その1中国1という形で、その1~は要約篇の通し番号、中国1は目次を参照してもらえばわかるように、中国篇1巻中国1を指し、中国1~14までの14冊を指す。
なお、要約篇の次は、コメント篇ないし書評篇と題して、次のようなテーマを論じたいと考えている。

【コメント篇の章立て】
Ⅰ中国書道史の捉え方
・神田喜一郎の中国書道史の捉え方とその業績
・中田勇次郎の業績
・石川九楊の中国書史の捉え方
Ⅱ中国書道史の時代別・テーマ別検討
・≪王羲之≫
王羲之の人と作品
 人生
 息子王献之
作品
 行書「蘭亭序」
 草書「十七帖」
中国書史における王羲之の意義
 王羲之と顔真卿
 書法 古法と新法 二折法と三折法
英文紹介
 Chiang Yee(蒋彝), Chinese Calligraphy : An Introduction to Its Aesthetic and   Technique,Harvard University Press, 1973, 3rd edition.
 Yujiro Nakata ed., Chinese Calligraphy, Weatherhill, 1983.
王羲之の作品解説
 「喪乱帖」
 「奉橘帖」
 「孔侍中帖」
 王献之の「鵞羣帖」
 孫過庭の「書譜」で言及された王羲之
 「永字八法」について

唐代
 初唐の三大家について(欧陽詢、虞世南、褚遂良)
 顔真卿について
 懐素について
その他~柳公権、楊凝式

宋元明清代
宋代の書について
元代の書について
明代の書について
清代の書について
中国の近代の書
日本の書
中国と日本の書史の相違点

Ⅲ中国書道史の作品検討
「千字文」について
「書譜」について

Ⅳ補遺――書体と筆順
 楷書・行書・草書
 筆順の問題
以上が、コメント篇で論じる予定のテーマである。

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 まず、最初に要約篇で扱う『中国書道全集』の目次を掲載しておく。
目次
中国篇
1 中国1 殷・周・秦
 中国書道史1    神田喜一郎
 中国文字の構造法  小川環樹
 甲骨文と金文の書体 貝塚茂樹 
 古銅器の形態    梅原末治
 近時出現の文字資料 梅原末治
 古印について    水野清一
 古石刻について   神田喜一郎
 別刷附録 楚帛書

2中国2 漢
中国書道史2    神田喜一郎
漢鏡とその文字   梅原末治
漢晋の木簡     森鹿三
碑碣の形式     水野清一
別刷附録 司隷校尉楊淮表紀

3中国3 三国・西晋・十六国
中国書道史3    神田喜一郎
西域出土の書蹟   森鹿三
天發神讖碑について 外山軍治
鐘繇について    中田勇次郎
別刷附録 楼蘭出土・李柏文書

4中国4 東晋
中国書道史4    神田喜一郎
王羲之とその周囲  外山軍治
二王法帖の系譜   中田勇次郎
押縫について    内藤乾吉
別刷附録 王羲之 喪乱帖 孔侍中帖

5 中国5 南北朝Ⅰ
中国書道史5    神田喜一郎
千字文について   小川環樹
瘞鶴銘について   外山軍治
南朝の法帖     中田勇次郎
六朝の陵墓     森鹿三
別刷附録 梁呉平忠侯蕭景神道石柱題字

6中国6 南北朝Ⅱ
中国書道史6    神田喜一郎
北碑の書法     中田勇次郎
摩崖について    外山軍治
墓誌について    水野清一
龍門石窟      長廣敏雄
六朝の異体文字について 小野勝年
別刷附録 馬鳴寺根法師碑

7中国7 隋・唐Ⅰ
中国書道史7    神田喜一郎
欧陽詢化度寺邕禅師塔銘について  中田勇次郎
虞世南について   内藤乾吉
唐太宗と昭陵の碑  外山軍治
隋唐の碑碣     長廣敏雄
造像銘について   水野清一
中国の古写経    石田幹之助
別刷附録 美人董氏墓誌

8中国8 唐Ⅱ
中国書道史8    神田喜一郎
褚遂良の書法    内藤乾吉
孫過庭の書譜    中田勇次郎
張旭について    外山軍治
集王聖教序の碑について 日比野丈夫
別刷附録 集王聖教序

10中国9 唐Ⅲ・五代
中国書道史9    神田喜一郎
顔真卿の書学    青木正兒
懐素の書とその影響 中田勇次郎
浮図と経幢     塚本善隆
唐代の用筆法    中田勇次郎
五代の文化と書   那波利貞
別刷附録 顔真卿 争坐位稿

15中国10 宋Ⅰ
中国書道史10    神田喜一郎
蘇・黄の書法    中田勇次郎
米芾について    内藤乾吉
徽宗と中国の文化  外山軍治
契丹・女真・西夏の文字 田村実造
別刷附録 蘇軾 黄州寒食詩巻

16中国11 宋Ⅱ
中国書道史11    神田喜一郎
南宋の学者、文人とその書 鈴木虎雄
朱子とその書    宮崎市定
宋代禅僧の墨蹟   神田喜一郎
賈似道について   外山軍治
金人と書      外山軍治
別刷附録 范成大 詩碑 贈仏照禅師詩

17中国12 元・明Ⅰ
中国書道史12    神田喜一郎
趙孟頫の研究    外山軍治
明代の法帖     中田勇次郎
詩書画三絶     島田修二郎
文房趣味      青木正兒
別刷附録 趙孟頫 尺牘 与中峯明本

21中国13 明Ⅱ・清Ⅰ
中国書道史13    神田喜一郎
董其昌の書論の基礎となったもの 神田喜一郎
張瑞図について   中田勇次郎
明清の賞鑒家    外山軍治
別刷附録 王鐸 遊中條語

24中国14 清Ⅱ
中国書道史14    神田喜一郎
北碑派について   中田勇次郎
清朝の金石学    貝塚茂樹
明清の賞鑒家(続)    外山軍治
別刷附録 書道全集索引


さて、以下、順次、この目次に従って、『中国書道全集』の内容を要約していく。

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