歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の布石~白石勇一氏の場合≫

2024-11-03 18:00:04 | 囲碁の話
≪囲碁の布石~白石勇一氏の場合≫
(2024年11月3日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでは、囲碁の布石について、次の著作を参考に考えてみたい。
〇白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年
 布石の基本的な考え方が、第1章、第2章、第4章に述べてある。
 そして、目次にもあるように、「第6章 布石紹介(三連星、中国流、星とシマリの布石)」三連星、中国流、星とシマリの布石が主なテーマとなる。
 それぞれの布石の特徴としては、次のように言われている。
〇三連星~四線を中心に、スピード最優先で大きく構えることを目指す作戦
〇中国流~高低のバランスを取り、足元を固めながら勢力圏を広げていく作戦
〇星とシマリの布石~じっくり腰を落ち着けて、相手の出方を見ながら打ち方を決めるような作戦
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、144頁)

 ただ、三連星については、若干のコメントを書き加えておく。
 三連星は、かつて武宮正樹氏の“宇宙流”として、一世を風靡するほど流行した。
 現在、三連星の布石は、プロ棋士やアマ高段者の間では、打たれない。その理由の一つには、攻略法(三連星破り)が研究されたことがあろう。
 例えば、次のようなYou Tubeのサイトを見れば、そのことがわかる。
〇囲碁学校(小松英樹九段)
 「小松流 碁の勝ち方 ゆるまず打つ!(3)」(2017年1月30日付)
〇rido channel
「3連星が打たれなくなった理由【布石理論】」(2020年2月7日付)
〇プロ棋士 柳澤理志の囲碁教室
「三連星対策シリーズ1 白の大模様返し作戦!」(2020年4月27日付)
※なお、三連星の可能性については、次のようなYou Tubeのサイトもある。
〇将碁チャンネル(山田規三生九段)
「おすすめのAI流三連星1」(2024年5月4日付)



【白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版はこちらから】

やさしく語る 布石の原則 (囲碁人ブックス)




〇白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年

本書の目次は次のようになっている。
【目次】
まえがき
序章 本書の内容と活用法
第1章 勢力圏を意識する
第2章 勢力圏争いに勝つ
第3章 確認問題①
第4章 勢力圏への入り方
第5章 確認問題②
第6章 布石紹介(三連星、中国流、星とシマリの布石)
第7章 実力テスト
第8章 知識編
<コラム>




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・白石勇一氏のプロフィール
・本書の内容
・第1章 勢力圏を意識する
・第2章 勢力圏争いに勝つ
・第2章 テーマ図3
・第3章 確認問題①
・第3章 第7問~三連星の布石
・第4章 勢力圏への入り方
・第4章 テーマ図1
・第5章 確認問題②
・第5章 第4問
・第5章 第6問
・第6章 布石紹介(三連星、中国流、星とシマリの布石)
・第6章 三連星
・第6章 中国流
・第6章 星とシマリの布石
・第7章 第3問~中国流
・第8章 知識編
【ヒラキとツメ】【二間ビラキ】【二間ビラキもどき】【割り打ち】
・第8章 知識編
定石や定型~【テーマ図5】:大々ゲイマへの打ち込み
・【補足】布石 削減の手筋~藤沢秀行『基本手筋事典 下』より







白石勇一氏のプロフィール


白石勇一六段
昭和59年生まれ。神奈川県出身。岩田一九段門下。
平成17年入段。平成27年六段。
「白石勇一の囲碁日記」 http://blog.goo.ne.jp/igoshiraishi

本書の内容


「序章 本書の内容と活用法」
<本書の内容>
白石勇一氏の前作『やさしく語る 碁の本質』では、中盤戦、つまりお互いの石がぶつかり、弱い石ができてからの考え方、打ち方がテーマであった。
中盤戦は地を気にせず、石の強弱を第一に考えて打てばよいと主張している。
自分の弱い石は守り、相手の弱い石を攻めることの重要性、またその方法について解説していた。

一方、本書は、その前の段階、布石がテーマである。
布石を上手く打つことができれば、自分に弱い石ができなかったり、相手の弱い石を作ることにもつながる。そうなれば、中盤戦も有利に戦うことができる。
布石は中盤戦のための大事な準備区間であるという。

第1章では、勢力圏という概念について説明している。それを理解すれば、布石で何を目指すべきなのか、イメージが掴める。
第2章、第4章では、局面によってどういう打ち方をすればよいのか、その指針となる「原則」について説明している。
そして、第3章、第5章は確認問題である。第2章、第4章で学んだことを、しっかりと身に付けてほしい。
第6章は布石紹介である。アマ同士の対局でよく打たれる布石と、その特徴を紹介している。
第7章には、それまでの内容の総まとめとして、実力テストがある。どれだけ本書の内容を理解し、身に付いているかを確認することができる。
第8章は知識編である。覚えておくと役に立つ形や定石などを収録してある。
(本書の内容を理解するために役立つものも多いので、最初に第8章から読んでもよいようだ)
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、11頁)

第1章 勢力圏を意識する


①勢力圏を意識して打つ。
【布石は勢力圏争い】
・中盤戦では、地よりも石の強弱が大切。
 布石(序盤)でも、石の強弱が最も大切。
 しかし、碁が始まったばかりの段階では、お互いに弱い石がないことが多い。
・そこで、「勢力圏」という概念が出てくる。
 石は打った場所そのものだけではなく、周辺に影響力を及ぼす。そして、味方の石の影響力が及ぶ範囲を勢力圏と呼ぶ。
➡いかに相手より広い勢力圏を確保するか、これが布石の基本。
・勢力圏にも、強弱がある。
 勢力圏の強弱は、石の強弱によって変わる。
 弱い勢力圏は、相手に消されたり、奪われたりしやすい。
 だから、布石では、勢力圏を広げることはもちろん、固めることもまた重要。
(弱くなりそうな石を守る、と言い換えてもよい)
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、14頁~15頁)

【勢力圏の及ぶ範囲】
〇どこまでを勢力圏と見るべきか?
➡勢力圏の及ぶ範囲は、辺方向に向かっては、4路先まで。
・相手がこの範囲内に入ってくれば、攻めのチャンス。
・4路というのは、絶対的な基準ではないが、目安にはなる。
・例えば、黒に背後から迫られても、二間にヒラければ、ある程度ゆとりがあり、急な攻めは受けにくい。
・二間ビラキは、辺で安定したい時の基本の形。
(布石では非常に重要なので、ぜひ覚えておこう)

【勢力圏をつなげる】
・勢力圏同士をつなげると、より強く、大きな勢力圏ができる。
➡それが育っていくと、「模様」へ、そして最終的には、大きな地になる。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、16頁~17頁)

②相手の勢力圏も意識する。
・自分の勢力圏を大きく広げることは大事だが、相手がいることを忘れてはいけない。
 相手も勢力圏争いに勝とうとしているのだから、隙あらばこちらの勢力圏を破壊しようと狙っている。だから、相手の妨害を警戒しながら、ほどよい間合いで勢力圏を広げていく。
・また、相手の勢力圏が大きくなりそうであれば、逆にこちらから妨害しにいった方がいいこともある。碁盤全体を見て、勢力圏争いに勝つ方法を考える。
・一般に、ヒラキは五間までとされている。(あくまで目安だが)
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、19頁)

③その他
【三線と四線の違い】
・辺にヒラく時は、三線か四線が基本。
(五線にヒラいてはいけないわけではないが、足元をすくわれやすく、活用はやや難しい。本書では扱わない)
・それでは、三線と四線は、どちらがよいのか?
 これはプロにとっても永遠の課題で、多くの場面で明確な答えは出ていないそうだ。
 
〇ただ、両者には大きな違いがある。
・三線の方が、打ち込みに強い。
・四線は打ち込みに弱く、三線はボウシ、肩ツキが弱点といえる。
・大雑把にいえば、四線は模様を張ることや攻めを好む人、三線は確実性を好む人に向いている。

※布石は、まず三線、四線から占めていくのが基本。
 また、そこから五線や六線など、中央へ進出していく手ももちろん有効だが、二線の手は基本的に好ましくない。二線は根拠を確保する時、奪う時だけ。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、24頁~26頁)

第2章 勢力圏争いに勝つ


【原則を意識して打つ】
・本章では、勢力圏争いに勝つ方法として、次の3つを原則とする。
①「広い所から打つ」
②「弱い石の周りは大きい」
③「模様の接点を逃さない」
➡これらを意識して打つことで、勢力圏を効率よく広げることができる。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、30頁)

第2章 テーマ図3


【第2章 テーマ図3黒番】
・広い所に打つというのは見た目に分かりやすいが、それだけではいい布石は打てない。
・まだ、13手目なので、正解を逃したからといって、大きく形勢を損なうという場面ではない。しかし、いい流れで布石を展開できるかどうかの分岐点にはなるだろう。

【勢力圏争いの原則 弱い石の周りは大きい】
・前作のメインテーマだった「石の強弱」がここで登場する。
・布石は石がまったく置かれていない所からスタートすることもあり、まずは「広い所から打つ」という原則を最初に説明した。
・だが、より重要なのが、この「弱い石の周りは大きい」という原則。
・格言にも、「大場より急場」とある。

【1図】(正解)根拠の要点
・右辺白は二間ビラキして、一息ついたが、まだ強い石にはなっていない。
・そこで、黒1と根拠を脅かす手が好手になる。
※これは、自身の守りを兼ねており、後に白aなどと詰め寄られた時も安心。
 つまり一石二鳥の好手。
・攻めを避けて、白2と守れば、黒3とさらにプレッシャーをかけながら、勢力圏を広げて、好調。
・黒5まで、黒の勢力圏の方が広くなった。
※相手に守りの手を打たせることで、勢力圏争いを有利に展開できる。

※4図黒1は広い所だが、白2と根拠の要点に打たれては、チャンスを逃している。
 一方、左辺では黒9と守らされている。こちらは黒が有利な戦場ではない。
 やはり、1図のように、明快にリードを築きたい。

【2図】(正解変化)勢力圏争いで優位に
・白が右辺を守らなければ、一例として黒2以下の攻め方がある。
・自然と外側に黒石が増え、黒12となって、巨大な勢力圏が出現した。

【3図】(正解変化・その後)黒有利な戦い
・もちろん、2図の後、白1などと侵入する余地はある。
※しかし、取ることはできなくても、厳しい攻めでポイントを挙げられる。

【4図】(失敗)広い所だが
・黒1が悪手というわけではない。
・しかし、調子よく上下を固めてから、悠々と白10と打ち込み、白の流れがよい。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、40頁~42頁)

第3章 確認問題①


【実戦に向けての練習】
・本章では練習問題を用意した。
 より実戦に近い形で考えることができるだろう。
①「広い所から打つ」
②「弱い石の周りは大きい」
③「模様の接点を逃さない」
➡この3つの考え方に基づいて、選んでもらえばいいが、考え方の手順としては、以下のようになる。
①碁盤全体を見渡して、お互いの弱い石、弱くなりそうな石を探す。
②あればその周辺を打ち、無さそうなら…
③広い所、模様の接点を探す
※ちなみに、石の強弱を見極める力は、死活の力に大きく左右される。
 大体このぐらいのスペースがあれば生き、このスペースは危ない、という感覚を身に付けておくが大事。
(囲碁の勉強法として、詰碁が重要と言われるのは、それが理由)
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、58頁)

第3章 第7問~三連星の布石


【第3章 第7問黒番】
・これまでに培ってきた感覚を生かして、ぜひ正解してほしい。
・さて、局面は双方が三連星の布石で対峙したところ。
 勢力圏争いで優位に立つには、黒A~Cのどれがよいだろうか。

【1図】(正解)模様の接点
・黒1が正解。
・白2なら黒3以下、目一杯に広げ、勢力圏争いは明らかに黒有利。
※白がどこに入って来ても、大きな地が残るだろう。

【2図】(正解変化)黒有利な戦い
・白2の反撃を恐れる必要はない。
※黒の勢力圏なので、有利に戦える。
 右辺白が苦しいし、上辺黒aなども狙える。

【3図】(次善)模様の接点を逃す
・黒1ものびのびした手であるが、何と言っても、白2が絶好点。
・白8までは一例であるが、白模様が大きく盛り上がった。

【4図】(失敗)狭い所を囲う
・黒1、3のような打ち方はいけない。
※下辺は狭く、これから盛り上がる余地も小さい所。
・白6まで、右辺黒の勢力が泣く。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、75頁~77頁)

第4章 勢力圏への入り方


【相手の方が勢力圏が広い時】
・時には相手の勢力圏に入っていくことも必要。
だが、相手の勢力圏での戦いは、危険を伴う。
 入っていったものの、厳しく攻められて形勢が悪化してしまった、というのはよくある。
・そうならないためには、どうすればよいか?
 ➡読みの力をつける、戦いの手筋を学ぶ、といったことはもちろん大切。
 ただ、不利な状況で始まった戦いは、どんなに頑張っても、上手くいかないことも多い。
〇一番大切なことは、入っていく前に状況をしっかり把握し、適切な入り方を選ぶこと。

〇相手の勢力圏へ入る際に従うべき3つの原則
①相手の弱い所に打ち込む
②苦しい打ち込みより浅い消し
③苦しい逃げ出しより楽な捨て石
※棋力が多少違うぐらいでは、読みの力に大きな差があることは少ない。
 戦いの結果を大きく左右するのは、スタート地点である。そこで正しい考え方ができれば、自然といい結果がついてくる。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、80頁)

第4章 テーマ図1白番


【第4章 テーマ図1白番】
・お互いに勢力圏を広げ合う布石になっている。
・形勢は開いておらず、このまま大きさ比べを続けるのも一局。
・ただ、そういった展開に自信が持てない人も多いだろう。その場合は、黒模様に入っていくことを考えたいところ。
・どう打ち込めば、苦しい戦いを避けられるだろうか。

【勢力圏への入り方・原則①相手の弱い所に打ち込む】
・相手の勢力圏に打ち込めば、当然弱い石を作ることになる。
 では、その石が厳しく攻められないためには、どうすればいいのだろうか。
➡そこで重要になるのが、「相手の弱い所に打ち込む」という原則。

・石を攻める際には、自分の石が弱くならないことが重要。
 無理な攻め方をして、逆に自分の石が取られてしまった、ということは経験されていることだろう。
 これを逆の立場で考えると、「相手の石を弱くしておけば、自分の石は厳しく攻められない」ということになる。
 そこで、相手の根拠の無い石や、連絡が不完全な石を狙って、打ち込んでいくのである。

【1図】(正解)黒の弱い石を狙う
・左下黒は、左辺白の勢力圏に入っている石。
・そこを狙って白1と打ち込む。
※これは四線の構えの弱点を突いており、次に白aで根拠を奪う手を見ている。
・すると、黒も黒4、6といった手で、自分の石を守らなければいけない。
※そこを一緒になって逃げていけば、急な攻めを食わずに済むし、場合によっては反撃も狙える。

【2図】(正解変化①)黒の弱い石を狙う
・黒2のボウシに対しては、白3が黒の弱点を突く手。
・黒4の受けを待って、白5とヒラけば、悠々と根拠を持つことができた。

【3図】(正解変化②)楽に治まる
・黒2、4などと打てば、左下黒は安泰であるが、その間に白も形を作ることができる。
※単騎で侵入したことを考えれば、大成功。

【4図】(失敗①)強い所に打ち込む
・白1と打ち込むのは、失敗。
・黒6まで、左下の黒が強くなってしまった。
※後は白が一方的に攻められるだけであろう。

【5図】(失敗②)黒に響かない
・また、白1と高く打ち込むのも、いまひとつ。
※黒の根拠を脅かしていないから。自分の根拠も作りにくく、かえって苦労する。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、81頁~84頁)

第5章 確認問題②


【実戦で正しく判断するために】
・第4章の内容はおもに次の点にあった。
〇肩ツキとボウシの違い
〇石を捨てるサバキ

※白石勇一氏が最も伝えたいことは、布石でも石の強弱が一番大事であるということ。
・相手の石を弱くできる場面はチャンスである。
・逆に自分の石が弱くなったり、いじめられたりすることは避けなければならない。

☆さて、第5章は確認問題である。
 第4章で学んだことを実戦に生かせるよう、練習しよう。

【実戦での考え方】
①相手に弱点があれば、そこを狙って打ち込む
②弱点が無ければ、消しを考える
③(圧倒的に不利な状況で戦いが始まってしまった場合には)苦しい逃げ出しより楽な捨て石
※①②の考え方ができていない人が多い。それは大きな失点につながる。
 だから、この考え方が実戦でできるようになるまで、しっかりと身に付けよう。
・捨て石を苦手にしている人は、捨てることを思い付かないから、戦いが苦しく感じた時に、自然と石を捨てる発想が浮かぶようになれば、碁は格段に変わるという。

・捨て石での注意点としては、石数が増えていくと、だんだん捨てにくくなっていくということである。
だから、戦うか捨てるかは、なるべく早い段階で決断するように心がけよう。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、108頁)

第5章 確認問題②~第4問 白番


【第4問 白番】荒らしの手筋
・ここからは、プロ同士の対局を題材にしている。
レベルが違うとはいえ、考えるべきことは、そう変わりない。
・本局は、水間俊文七段との対局で、著者の白番。
・白20は黒a(15, 六)のカケから勢力を築かれることを嫌ったもの。
・さて、問題は黒21とトバれた場面。
☆左辺黒が大きくなりそうだが、どう邪魔しにいくか?

【1図】(正解)ボウシで消す
・黒石が多いので、白1とボウシで消した。
・黒2と受けてくれれば、白3と引き上げて、満足。
※黒地は隅や辺だけに限定されている。

【2図】(正解その後)後の狙い
・左上の黒地が大きく見えるが、後に白1、3の狙いがある。
※中国流、ミニ中国流などではよく出て来る形である。

【3図】(続・正解その後)
・黒1とカカえるぐらいであるが、白12までと生きることができた。
※こういう荒らしの手筋を知っていると、布石を無理せず打てるという。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、121頁~123頁)

第5章 確認問題②~第6問 白番


【第6問 白番】
〇藤沢里菜初段(当時)との対局で、著者の黒番。
・右上は最近の定石。白は右上で大きく治まったが、その代わり黒は右辺に勢力を得た。
・このまま放置すると、右下のシマリを中心に巨大な黒模様ができそう。
・白はどう邪魔しにいくべきだろうか?
 選択肢は多いが、惑わされてはいけない。


【1図】(正解)安全に消す
※右下一帯は黒に弱みが無いので、深入りしてはいけない。
・白1の肩ツキが正解。
※安全に黒模様の巨大化を防いだ。

【2図】(失敗①)深入り
・白1と入っていくところではない。
・黒8まで一例であるが、白がいかにも窮屈。
➡これでは生きても、よくない。

【3図】(失敗②)方向違い
※消す発想はよいが、右辺は黒石が最も多い所。
※そちらに入っていっては、肩ツキといえども、反撃されて苦しくなる。

【4図】(失敗③)無謀な打ち込み
・だから、白1の方の打ち込みなどは、最悪の結果を招く。
・黒4まで、もはや命の問題になっている。
➡万が一生きたとしても、ダメ。

【5図】(別解①)ボウシも正解
・他の手としては、白1なども考えられる。
※やはり安全に消す意味で、右下は少し大きくなる代わりに、aの打ち込みが残る。

【6図】(別解②)攻めを狙う打ち込み
・また、黒▲の攻めを狙う白1の打ち込みも、いい発想。
・ただ、黒4とトバれると、右下一帯が大きくなることを嫌い、実戦は1図だった。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、129頁~132頁)

第6章 布石紹介(三連星、中国流、星とシマリの布石)


「第6章 布石紹介」において、代表的な3つの布石を紹介している。
〇三連星
〇中国流
〇星とシマリの布石

・どんな布石作戦にも共通するのは、「大きさ比べに勝つ」ということであると、白石勇一氏は強調している。
そこを目指すための道筋は様々である。
〇三連星~四線を中心に、スピード最優先で大きく構えることを目指す作戦
〇中国流~高低のバランスを取り、足元を固めながら勢力圏を広げていく作戦
〇星とシマリの布石~じっくり腰を落ち着けて、相手の出方を見ながら打ち方を決めるような作戦
※その他、とにかく確定地を取っておき、後から模様の中に入っていって勝負、といった布石法もある。

・まず、勢力圏を広げる際には、入られても困らないように気を使っていることが大切である。
・基本的にはヒラキは五間幅までが無難とされている(応用で六間にヒラくこともあるが)
・また、相手の勢力圏の近くの石は、しっかりと守ること
(これは打っているとつい忘れがちだが、非常に重要)
☆布石の手順を丸暗記するのではなく、こういった考え方を身に付けてほしいという。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、143頁~144頁)

第6章 三連星①


【三連星①のテーマ図】
≪棋譜≫(145頁)
・黒1、3、5が三連星である。
⇒三連星と言えば、武宮正樹九段が有名である。
 三連星から豪快な模様を張る「宇宙流」は一世を風靡した。
※足早に勢力圏を広げ、入って来た白を攻めるのが基本パターンである。
※模様や攻めの碁が好きな方には、おすすめの戦法。
(地を気にしてしまうと、上手くいかない)

【1図:中央へ勢力圏を広げよ】
≪棋譜≫(146頁の1図)
※隅や辺を地にすることにはこだわらず、どんどん勢力圏を広げていく。
 また、辺へのヒラキ方は黒7など、なるべく高く構える。
※中央へ勢力圏を広げることを意識せよ。
【2図:勢力圏内での戦いは大歓迎】
≪棋譜≫(146頁の2図)
・白8は黒a(16, 六)と受けさせ、黒の勢力圏を小さくする狙いである。
・これに対しては、黒9などとハサむのがおすすめ。
※黒の勢力圏なので、戦いは大歓迎。
【3図:三々に入って来た石を閉じ込める定石】
≪棋譜≫(147頁の3図)
・ハサミには白10と三々に入れば無難。
・黒25まで長い手順になるが、これはぜひ覚えよ。
※三々に入って来た石を閉じ込める定石は、必ず必要になると、白石勇一氏は強調している。
【4図:模様の接点を逃すな】
≪棋譜≫(147頁の4図)
・白26に対しては黒27と、模様の接点を逃さず打つこと。
※このように大きく構え、白が中に入って来たら攻める作戦。
 a(10, 十八)のスソアキは当面気にしてはいけない。
【5図:変化図】
☆4図黒27で地を気にして黒1と打ったりすると、せっかくのスピードを失ってしまう。
・白20となって、白の方がのびのびした姿になる。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、145頁~148頁)

第6章 三連星②


【三連星②のテーマ図】

☆黒の三連星に対し、白も三連星で対抗して来ることもある。
 この場合、黒がやるべきことは変わらない。とにかく大きさ比べに勝つことである。
(黒番であれば、思い切り広げている限りは大丈夫)

【1図:模様の張り合いの展開】
≪棋譜≫(152頁の1図)
・このような模様の張り合いの展開もある。
⇒こういう時は、黒9のような模様の接点を逃さないように。
(白に打たれると、白模様の方が大きくなりかねない)
【2図:急所を逃すな】
≪棋譜≫(152頁の2図)
・黒13は下辺の星(10, 十六)が狙われないように守る手である。
 同時に模様の谷を深くしてもいる。
・黒15は模様の接点である。
※こういう碁では逃がせない急所なので、迷わず打とう。
【3図:根拠を奪う常套手段】
≪棋譜≫(153頁の3図)
・黒模様が大きくなったので、白16と入りたくなるが、そこですかさず、黒17、19が根拠を奪う常套手段。
・黒23まで、白は非常に窮屈な姿になっている。
【4図:理想的な展開~サガリがよい攻め方】
≪棋譜≫(153頁の4図)
・白24、26と守れば、すかさず黒27のサガリがよい攻め方。
⇒白の根拠を奪いながら、a(17, 十七)の三々入りを無くしている。
※白を攻めている間に、自動的に黒地が増える、理想的な展開である。
【5図:変化図~三連星の趣旨に反した展開】
≪棋譜≫(154頁の5図)
☆1図黒9で本図黒1などもいい所であるが、白2がいかにも絶好点である。
⇒この後、黒a(6, 三)やb(3, 六)と入らされる展開は、嬉しいものではない。
 三連星の趣旨に反している。

【6図:変化図~スケールの小さい構えに】
≪棋譜≫(154頁の6図)

☆また、2図黒15で本図黒1と急に地を気にしてしまうのも、いけない。
⇒白2、4となると、いっぺんにスケールの小さい構えになってしまう。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、151頁~154頁)



第6章 中国流①


【中国流①のテーマ図】
≪棋譜≫(155頁)
※中国流は三連星と同じく、足早に勢力圏を広げて白の侵入を待ち構える打ち方である。
 三線に石が二つある分、三連星に比べるとやや腰を落とした打ち方と言える。
※中央へ勢力圏を広げるスピードでは劣るが、隅や辺に侵入して来る手に対しては強い。
☆四線ばかりだと足元が気になる方には、こちらがおすすめ。

【1図:中国流の打ち方】
≪棋譜≫(156頁の1図)
※右辺を3手で済ませ、どんどん他へ勢力圏を広げていく。
・隙間が空いているので、白a(17, 六)やb(16, 十五)に入る余地はある。
⇒しかし、黒はそれを待ち構えている。
【2図:黒は下辺に展開して、白の侵入を待ち構える】
≪棋譜≫(156頁の2図)
・白6、8など、外側から黒の勢力圏を制限するのが、白の正しい態度である。
※その代わり、黒は下辺に展開して、白a(16, 十五)やb(11, 十七)の侵入を待ち構えることになる。
【3図:その後の展開①~一つの定石】
≪棋譜≫(157頁の3図)
・白1なら黒2から攻める。
・白17までは一つの定石であるが、黒は下辺、右辺が自然に固まる。
※先手も取れるので、黒18などに回り好調。
【4図:その後の展開②~右下を拡大する展開】
≪棋譜≫(157頁の4図)
・白1なら黒2から攻める。
・黒12までは一例であるが、白を攻めながら自然と右下を拡大する展開になれば、理想的である。
※このように、中国流も攻めを意識した布石なのである。

【5図:変化図①~白は右辺に入っても、根拠の無い石に】
≪棋譜≫(158頁の5図)
・1図の後、白1と入っても白7までしかヒラけず、根拠の無い石になってしまう。
・黒10までは一例であるが、白を攻めている間に、周囲の黒がどんどん強くなっていく。
【6図:変化図②~黒の嬉しい展開】
≪棋譜≫(158頁の6図)
・また、六間幅なので、白1と入りたくなるが、これも罠である。
※白は狭い所を何手も打たされることになり、黒は外側に石が増えていくので、嬉しい展開である。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、155頁~158頁)

第6章 中国流②


【中国流②のテーマ図】
≪棋譜≫(159頁)
・今度は白が変化して、白6から下辺に展開して来た。
⇒それなら、黒は上辺へ展開するのが自然な進行というものである。
☆一例として黒11までと構えた後の展開を考えてみよう。

第6章 布石紹介(星とシマリの布石)


第6章 布石紹介(三連星、中国流、星とシマリの布石)
【星とシマリの布石】
【テーマ図】
・シマリはまず一隅を確保し、拠点にする打ち方。
➡種類、向きなどは色々とあるが、いずれもただ地を稼ぐ手ではない。 
・滅多なことでは死なない2子なので、周囲にできる勢力圏も強力。
 これを意識して打とう。
※三連星や中国流に比べると、足は遅いが、隙の無い打ち方ができる長所がある。

【1図】
※小目からのシマリの特徴として、2手で隅を確保できている点が挙げられる。
※周囲に相手の石が来たとしても、危なくなる可能性は低く、安心して打つことができる。
【2図】
・白6と外側からカカると、黒も9、11と対抗して、模様の張り合いになりやすい。
・黒13でシマリを中心にしたしっかりとした模様ができ、これは黒にとって理想的な展開。
【3図】
・その後、白1と打ち込んで来た場合を考えてみよう。
※シマリがしっかりしているので、右側を心配する必要がない。
・黒6まで、どんどん攻めて好調。
【4図】
・右辺に白1と入るのも窮屈。
・黒10までは一例であるが、右辺や下辺の黒がどんどん固まっていく。
※白はただ逃げるだけになってしまうので、これも黒好調。
【5図】(変化図)
・2図白6で右辺に割り打ちする手もある。
・これに対しては、黒2から上辺を大きく構えるのが、一つの行き方。
・白3に石が来ても、既にシマっているので、大丈夫。
【6図】(変化図)
・白1に黒2と割り打つなどもよい。
※お互いに大きな模様ができない、じっくりした展開。
 相手の出方を見ながら、好みの打ち方を選べるのも、この布石の利点。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、163頁~166頁)

第7章 第3問~中国流


【第7章 第3問】
・鈴木嘉倫七段との対局で、著者の黒番。
・特に重要なのは、なぜ白14や白20の肩ツキを打ったかということ。
・これらの手で、右辺や上辺に打ち込む手の是非も考えてみてほしい。
・なお、スペースの都合上、解説していないが、黒19は上下の白を分断して、右辺白への攻めを狙いながら、下辺白の勢力圏の広がりを制限している。非常に重要な一着。

【1図】(実戦黒1~9)
・黒の中国流に対し、白6、8と下辺に勢力圏を広げて、対抗した。
・黒9は、上辺に勢力圏を広げつつ、右辺への侵入に備えている。
【2図】(実戦白10~黒13)
・白10も同様の意味で、左下の勢力圏を固めて、対抗した。
・黒11、13と広げられ、右辺から上辺にかけて、大きな黒模様ができそうだが…。
【3図】(実戦白14~白20)
・そこで白14の肩ツキから、消しに出た。
➡黒地を辺に限定すれば、十分という考え方。
・黒19にさらに白20と肩ツキしたのも、同様。
【4図】(変化図①)
・実戦白14で、本図白1のように入るのは、黒が待ち構えている所。
※周囲が黒石ばかりなので、一方的に攻められて、形勢を損なう。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、179頁~182頁)

第8章 知識編


・本書の最終章は、知識編。
 前半は前作と同様、囲碁用語の説明。
 言葉は知っていても、意外と本当の意味や役割の理解が不完全の人も多い。
・後半は、定石や定型の中で、これを覚えておくと、必ず役に立つ、というものを詳しく解説している。
 俗に「定石を覚えて2目弱くなり」などという。 
 その真意は、定石の意味を理解せず、手順だけを丸暗記していると、状況に合わせない定石を平気で打って失敗してしまう、といったところ。
 それは一理あり、定石は打てば得点が入るような万能なものではない。
 正しい使い方を知らないのであれば、状況をしっかり見て判断し、自分の頭で考えた手を打った方がずっとよい。
※ただし、そうは言っても、知らなければなかなか打てない手もある。
 そして、その手を逃したばかりに形が崩れ、どうにもならなくなってしまうようなこともある。

・死活が絡んでいる場合は、さらに深刻。
 定石を知らなかったばかりに石が死んでしまったという経験は、覚えがあるのではないだろうか。
 また、気が付いていないだけで、大損をしているケースもよくある。
 例えば、生きている石に手を入れたり、逆に取れている石にさらに手をかけてしまうケースである。
(それは、場合によっては1手パス同然になってしまう)
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、198頁)

囲碁用語


・囲碁用語については、次の用語を解説している。
【ヒラキとツメ】
【二間ビラキ】
【二間ビラキもどき】
【割り打ち】


【ヒラキとツメ】
・ヒラキとは、隅や辺の石から、辺に向かって展開する手の事を指す。
 通常は三線か四線である。
 目的は勢力圏を広げること、または弱い石を守ることである。
・ツメは相手の石に詰め寄り、ヒラキを妨害する手。
 目的は、主に攻めを狙うことであるが、相手の勢力圏を狭めたり、自分の勢力を広げる目的でも打たれる。
※また、多くの場合、ツメは自分の石からのヒラキにもなっている。ヒラキながらのツメということで、ヒラキヅメとも呼ばれる。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、199頁)

【二間ビラキ】
・二間ビラキの強みは、非常に切られにくいこと。
 その強みを生かし、主に石を補強する際に使われる。
・図は上辺、右辺、下辺が三線、左辺が四線の二間ビラキ。
 中央は、ヒラキではなく二間トビ。
・試しに、白1から中央の二間トビを切りにいってみよう。
 ちょっと強引だが、一応白5までと切ることができた。
・では、上辺で同じように切りにいくとどうなるだろうか?
 黒6まで、逆に白が取られてしまった。
➡これが二間ビラキの強み
※四線の二間ビラキの場合は多少手段の余地は生じるが、やはり切るのは大変。

〇ただ、実際には、辺で安定する際には、三線の二間ビラキが基本。
 というのは、四線に足元に隙があるからである。
 白aにスベられると、簡単に根拠を奪われてしまう。
 一応、三線の二間ビラキに対して、bやcと足元から侵入することも不可能ではないが、離れた手なのでリスクもある。
・よって、三線の二間ビラキは多用されるのだが、2手だけで生きているわけではない。
 下辺のように、両側に詰め寄られている時は、気をつけよう。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、200頁)

【二間ビラキもどき】
・右上白1のハイコミを打たれ、右上黒が心配。
・そんな時は、右辺にヒラいておく必要があるが、白石にくっつける黒2は進みすぎで、黒aが正着。
※この黒2のような手を、著者は「二間ビラキもどき」と呼んでいる。
 二間ビラキと違って俗筋の代表であるが、残念ながらアマの人には大人気(笑)

・この後の進行を左上に示しておこう。
・白2のオサエに黒3と打ちたくなるが、白4と「2目の頭」をハネられてしまった。
※黒はダメヅマリで不自由な形になっている。
・この後、白10までは代表的な進行だが、黒石が内側に引きこもり、外の白はすっかり強くなってしまった。
※この二間ビラキもどきが悪いと理解しておくと、他の場面でも役に立つ。

〇右下を見てほしい。
黒▲のは隅の星からの五間ビラキであり、多用されるが、何故ここまでヒラけるのかを考えてみよう。
・白1のカカリに対して、黒2、4は攻めの常套手段。
・この後、白は二間ビラキができない。
 白bと打つのは「もどき」であり、よくないことはこれまでの図から明らか。
※つまり、白は根拠の確保が難しく、弱い石を作る結果になるのである。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、201頁)
【割り打ち】
・相手の勢力圏を分断するため、真ん中付近に打つ手を割り打ちと呼ぶ。
・なぜ真ん中かと言えば、次にどちらかの方向にヒラいて、根拠を確保できるから。
・カカリなどに比べると、急な戦いになりにくいという特徴がある。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、202頁)

定石や定型


【定石や定型】
・テーマ図1コスミツケへの三々・①
・テーマ図2コスミツケへの三々・②
・テーマ図3コスミツケへの三々・③
・テーマ図4ハイコミからの置き
・テーマ図5大々ゲイマへの打ち込み
・テーマ図6三々に入った石の閉じ込め方
・テーマ図7三々ツケからの攻防

【テーマ図5:大々ゲイマへの打ち込み】
≪棋譜≫(214頁のテーマ図5)
・白△の大々ゲイマの構えは、三間なので打ち込みが狙える。
・黒1と打ち込み、白2に黒3の割り込みがポイント。
※シチョウ関係があるので、あらかじめ確認してから、決行しよう。

【1図:通常の形】
・白1のオサえれば、穏やか。
・黒6まで白の根拠を奪い、aと切る狙いも残った。
※黒としては、満足できるワカレ。
【2図:白1の成立はシチョウ関係次第】
・白1と切れば、黒2と逃げる一手。
※この後、シチョウ関係が問題になる。
【3図:シチョウその1】
・まず、白1と取る手。
・これには黒2~6とシチョウに抱え、この石を取れるかどうかが問題になる。
・シチョウが悪くて逃げ出されてしまうと、黒バラバラでいけない。
【4図:シチョウその2】
・もう一つは、白1とつなぐ手。
・すると黒2とアテ、これもシチョウ。
※3図とは方向が違うので、注意。
 打ち込む前に、両方のシチョウ関係を確認しておこう。
【5図:黒失敗】
・白1のツケに黒2と打ってしまうのは、よくある失敗。
・白3と切られて、ダメヅマリになり、苦しくなる。要注意。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、214頁~215頁)

【テーマ図6:三々に入った石の閉じ込め方】
≪棋譜≫(216頁のテーマ図6)
☆三々に入って来た石への対応は、定石の中でも非常に重要。
⇒間違えると、いっぺんに形が崩れてしまうこともある。
 特に次の一手は、絶対に逃してはいけない。
【1図:絶対の一手~ノビ】
≪棋譜≫(216頁の1図)
・黒1のノビが絶対の一手。
※これはハサミが黒(8, 十七)以外のどこにあっても、あるいは何もない場合でも同じ。
 自分の2目の頭であり、相手の2目の頭も狙う、形の急所なのである。
・白2と守れば穏やかで、黒3と止めて、定石完成。
【2図:内→外の手順で切る】
≪棋譜≫(216頁の2図)
・白1の押しが少し難しい手。
・これには黒3から切りを2つ入れるのがポイント。
【3図:目的達成】
≪棋譜≫(217頁の3図)
・白1を待って黒2とハネれば、白a(7, 十五、つまり黒2の右)とハネられなくなっている。
・白3と1目取るぐらいなので、黒6まで閉じ込めることができた。
※ハサミの位置が変わっても、大抵は同じ打ち方で閉じ込めることができる。
【4図:切る順番が大事】
≪棋譜≫(217頁の4図)
・2図で切る順番を間違えて、黒1は、白2と取られて失敗。
※白は、1目ポン抜いて厚くなり、黒(8, 十七)の存在がかすんでしまった。
【5図:急所を逃す】
≪棋譜≫(217頁の5図)
※もし1図黒1のノビを逃してしまうと、どう打ってもよくならない。
・白4に切りが入り、黒の外勢は崩壊するだろう。
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、216頁~217頁)

【補足】布石 削減の手筋~藤沢秀行『基本手筋事典 下』より


削減の手筋


・拡大と逆の立場にあるのが削減。
 相手のモヨウ拡大を未然に防ぐのがその目的である。
 双方のモヨウが接しているときは、削減の手段が拡大の手段を兼ねることも多い。
・単騎で敵のモヨウに乗り込むばあいには、主として第三線のヒラキに対する圧迫手段となる。
 早期にキメては相手を固めただけとなるし、時期が遅れては逆襲の恐れが生じる。
・削減の基本的パターンは限られており、むしろ応手に変化が多い。
(藤沢秀行『基本手筋事典 下』日本棋院、1978年、72頁)

【1図】(カタツキ)
・白1がカタツキ、最も深い削減手段である。
・黒2、4が基本の受けで、白の足もとをさらって将来の攻めを見込む。
※黒モヨウの谷がごく深ければ、白1にaなどと攻められて、危険。
※左方にも黒モヨウが広がっていれば、黒4でbとオサれて、つらい。
(藤沢秀行『基本手筋事典 下』日本棋院、1978年、72頁)

カタツキ


【カタツキ 黒番 原図】
・黒の形は厚みともいいきれず、白からヨリツかれては、上辺が盛り上がる。
・機先を制して、上辺を消す急所はどこか。

【1図】(ボウシ)
・黒1のボウシなどでは、白2と受けられて、上辺がぴったりの構えになる。
・白aとオサれては、まだけっこううるさい。
・といって、黒aのオシは損がさきだし、黒bは白1で苦しい戦い。

【2図】(黒1、急所)
・aのオシを含みに、黒1とカタにカケて、上辺を第三線の地に限定してしまう。
・白2、4と出て来ても、これで行き止まり。
・黒13とキッて、この厚みは相当なものだろう。


【3図】(伝家の宝刀)
・前図白6で1とツイだときにかぎり、黒4のオシから6と打つのである。
※黒8ののち、白aなら黒bとオサえてよく、白bなら黒aのタタキを打つ。
※白1は黒に調子を与えるだけだ。
(藤沢秀行『基本手筋事典 下』日本棋院、1978年、78頁)


≪囲碁の布石について プロローグ≫

2024-10-27 18:00:06 | 囲碁の話
≪囲碁の布石について プロローグ≫
(2024年10月27日投稿)

【はじめに】


 布石は、家造りにたとえれば土台の段階で、碁では重要な分野である。
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、3頁)
三村智保九段によれば、布石には、「広げる」と「固める」という二つの要素があるとされるという。
⇒広げることは、攻めの布石につながる
 固めることは、シノギの布石につながる
(この二つの要素が複雑にからみ合うため、「布石の必勝法」を作ることができない)

三連星:「広げる」という布石の原則に従えば、三連星が有力。つまり「攻め」の布石。
小目の布石:小目に打つと、「固める」打ち方になり、「シノギ」の布石。そして、お互いが堅い布石を選ぶと、細かいヨセの碁になる。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、14頁~20頁)

 布石は、碁でいちばん自由な分野であるが、自由すぎるので、アマチュアにはかえって難しい分野でもある。
 今回から、囲碁の布石について、次の著作を参考にしながら、考えてゆきたい。
 まずは、初回ということで、プロローグ的に、主な著作の概略を紹介しておく。

〇白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年
〇三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年
〇高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年
〇瀬戸大樹『NHK囲碁シリーズ 布石の打ち方が変わる!』NHK出版、2014年
〇山下敬吾『実戦ですぐに使える布石』日本文芸社、2016年[2018年版]
〇大竹英雄『大竹英雄の基礎布石の独習法』誠文堂新光社、1983年[1987年版]
〇小林覚『はじめての十九路盤布石』棋苑図書、1997年
〇趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年
〇片岡聡『布石 これだけはいけない』フローラル出版、2001年[2003年版]
〇林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]
〇依田紀基『基本布石事典 上(星・小目の部)』日本棋院、2008年[2013年版]
〇依田紀基『基本布石事典 下(星・小目・その他)』日本棋院、2008年



【白石勇一『やさしく語る 布石の原則』(マイナビ出版)はこちらから】

さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・白石勇一『やさしく語る 布石の原則』の「まえがき」と本書の内容
・高尾紳路『囲碁 布石入門』の「はじめに」
・三村智保『三村流布石の虎の巻』の「まえがき」
・広いところから打つ~三村智保『三村流布石の虎の巻』より
・攻めの布石・シノギの布石~三村智保『三村流布石の虎の巻』より
・一段落に気をつける~三村智保『三村流布石の虎の巻』より
・星の定石について~趙治勲『布石と定石』より
・昭和期の布石の変遷について~林海峰『基本布石事典(上)』より




白石勇一『やさしく語る 布石の原則』の「まえがき」と本書の内容


・白石勇一氏の前作『やさしく語る 碁の本質』では、中盤戦、つまりお互いの石がぶつかり、弱い石ができてからの考え方、打ち方がテーマであった。
中盤戦は地を気にせず、石の強弱を第一に考えて打てばよいと主張している。
自分の弱い石は守り、相手の弱い石を攻めることの重要性、またその方法について解説していた。

・一方、本書は、その前の段階、布石がテーマである。
布石を上手く打つことができれば、自分に弱い石ができなかったり、相手の弱い石を作ることにもつながる。そうなれば、中盤戦も有利に戦うことができる。
布石は中盤戦のための大事な準備区間であるという。

・第1章では、勢力圏という概念について説明している。それを理解すれば、布石で何を目指すべきなのか、イメージが掴める。
・第2章、第4章では、局面によってどういう打ち方をすればよいのか、その指針となる「原則」について説明している。
・そして、第3章、第5章は確認問題である。第2章、第4章で学んだことを、しっかりと身に付けてほしい。
・第6章は布石紹介である。アマ同士の対局でよく打たれる布石と、その特徴を紹介している。
・第7章には、それまでの内容の総まとめとして、実力テストがある。どれだけ本書の内容を理解し、身に付いているかを確認することができる。
・第8章は知識編である。覚えておくと役に立つ形や定石などを収録してある。
(本書の内容を理解するために役立つものも多いので、最初に第8章から読んでもよいようだ)
(白石勇一『やさしく語る 布石の原則』マイナビ出版、2017年、2~3頁、11頁)

高尾紳路『囲碁 布石入門』の「はじめに」


・初級の人は、入門時に使う九路盤から十九路盤に変わった途端、その広さにとまどって、迷子になったような気分になり、どこに打てばよいか分からなくなってしまう。
 それは、中級、上級と進級しても同じようなものである。
・なぜ、どこに打てば良いかが分からなくなるかと言えば、布石の場合は、死活や手筋の分野と違って、明確な正答が出にくい分野だからである。
・布石は、家造りにたとえれば土台の段階で、碁では重要な分野である。
 そこで、どこに注意すれば布石の大筋がつかめるか、実戦に臨んで応用できるようになるためには、どこがポイントかに心掛けて、構成したという。
・本書では、大筋の方向を間違えないための目の付け所はどこかに絞り、細かいことは省き、中盤の戦いにおいても応用がきき、勝率のアップにつながるような基本的な考え方が身につくように心掛けたそうだ。
(それは、初段以上になっても、十分通用する布石の考え方であるとする)
(高尾紳路『囲碁 布石入門』成美堂出版、2013年、3頁)

三村智保『三村流布石の虎の巻』の「まえがき」


・布石は、碁でいちばん自由で楽しい分野である。
 初手を天元から打っても良いし、辺から打っても、別に悪くなるとは言い切れない。
 好きに打って良い。
・プロの布石や定石にあまりとらわれずに、自分なりの作戦を楽しんで欲しいと、著者はいう。
 ただ、初級の人から「どう考えたらよいのか、何をしたらよいのか分からない」と途方にくれた声をよく聞く。 
(確かに自由すぎるのも困りもの)
・本書では、布石の基本の考え方に加え、著者のお勧めの作戦も示している。
 一手一手の意味を正確に分かろうとするよりも、流れを感じてほしいという。
 繰り返し手順を見ていると、だんだんコツがつかめてくる。
・布石は動くものである。
 自分が今ここに打って、相手がこうきて……こんな感じになったらいいな、と想像しながら打つことが大事だという。
➡楽しみながら打てば、上達も早くなる。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、3頁)

広いところから打つ~三村智保『三村流布石の虎の巻』より


・布石のはじめは空き隅から打ち始める。
(江戸時代の頃からもその原則は変わっていない)
⇒やはり、空き隅がもっとも「効率がよい」と思われているから。

【参考図:星・小目・三々・目外し・高目】
≪棋譜≫(8頁の1図)

A:星、B:小目、C:三々、D:目外し、E:高目

※すべてが三線から五線の間に入っている。
⇒これは、布石そのものの原理である
<参考>
・二線の石は地が小さいだけではなく、封鎖されやすく死にやすいというマイナスがある。
・なお、一線に打つのは論外。
 一線は地がまったく増えない上に、根拠もない。
 布石における一線は最悪。

三々:三線~五線にかけてが効率がよく地を作るエリア 
   もっとも堅実に隅のエリアを確定地にする打ち方
星 :三々よりも風船をふくらませたようなイメージ
   効率よく地を作れる可能性がある半面、破裂する危険性もある
高目や目外し:少し辺に向けて力を入れる打ち方
   よく打たれている基本の打ち方であるが、難解な定石になることも多く、使いこなすには、ある程度の知識が必要
(本書では、定石の細かい話はしないので、高目や目外しの詳しい解説については他書に譲るという)
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、8頁~13頁)

攻めの布石・シノギの布石~三村智保『三村流布石の虎の巻』より


【攻めの布石・シノギの布石】
・布石は、まず空き隅に打つ。
 その後が問題である。基盤があまりにも広くて迷ってしまう。
・迷うのは、基盤が広いからだけではない。
 「隅の次は辺に、辺の次は中央に、とにかく広いところを順番に打っていけばいい」という布石の原則はある。
 ただ、この原則が、布石の100%を表してはいない。
・布石には、「広げる」と「固める」という二つの要素がある
⇒広げることは、攻めの布石につながる
 固めることは、シノギの布石につながる
(この二つの要素が複雑にからみ合うため、「布石の必勝法」を作ることができない)

三連星:「広げる」という布石の原則に従えば、三連星が有力。つまり「攻め」の布石。
小目の布石:小目に打つと、「固める」打ち方になり、「シノギ」の布石。そして、お互いが堅い布石を選ぶと、細かいヨセの碁になる。

<まとめ>2種類の布石
①「攻め」の布石
風船をふくらませるかのように、自分のエリアをどんどん広げて相手が入ってくるのを待ち、その石を攻めて主導権を握る。
②「シノギ」の布石
まずはしっかりと自分の構えを固めて、後から相手の模様に打ち込んで荒らし、地でリードを奪うことを目的とする。

※どちらの布石を選ぶかは、「棋風」と言われる好みの問題。
・相手との兼ね合いがあるので、お互いに模様を広げ合って、大乱戦になるような碁もあれば、お互いに堅く打って細かいヨセ勝負になる碁もある。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、14頁~20頁)

【具体例】
【三連星の大きな模様】
≪棋譜≫(21頁の2図)

・白1の受けから黒2とヒラく。
➡大きな模様を作ることができる

【ハサミの場合】
≪棋譜≫(21頁の3図)

・ただし、白は1とハサんでくる可能性もある
※ここで黒の応手によっては、布石の方向が変わる
中国流~第1章 主導権を握る「攻め」の布石

第5章 一段落に気をつける~三村智保『三村流布石の虎の巻』より


・アマチュアにとっては、「攻めの布石」一本槍で実戦をこなすことが棋力向上の近道でああろうという。(序章や第1章参照)
 しかし、本当の力をつけるためには、総合的にいろいろな知識を身につけ、判断力を磨いていく必要がある。
・第5章では、「一段落の判断」について解説している。
 このことは、技術だけではなく、心構えの問題という面もある。
 アマチュアが布石で遅れを取る原因のほとんどは、この「一段落の判断」ができないことにあるらしい。
 一か所を打ちはじめると、いつでもそこから離れることができず、相手の手についていって、小さいところを打ち続けてしまう。

☆それでは、何をもって一段落したと判断すれば、いいのだろうか?
(毎局ごとに違う形が出てくるのだから、暗記しようとしても意味がない)
⇒三村智保氏によれば、一段落の基準となる「お互いに弱いところや攻められる石がない状態」を見分ける考え方を身につける必要があるとする。
 つまり、自分の石が攻められず、相手の石を攻めることもできなくなったと思えば、そこから目を離す。これが大切であるそうだ。

・アマチュアは、「いつ手を抜いていいかわからない」人が多い。
 たしかに相手がどこに打ってくるかわからないし、何か自分の見落としがあるのではないかという不安もあるだろう。
 けれど、自分が「もう一段落した」と思ったら、他の場所に大きいところを探す習慣をつけるようにするとよいと、アドバイスしている。
(その結果、実際はまだ一段落していなくて、攻められたり、大きなキズを作ったりしても、それは経験だと割り切る。何となく、いつまでも同じところを打ち続けていても、上達にはつながらない)
第5章では、対局中の心がけについても言及している。
(三村智保『三村流布石の虎の巻』株式会社マイナビ、2012年、204頁)

星の定石について~趙治勲『布石と定石』より


趙治勲氏は、「私の選んだ星の定石」で、次のようなことを述べている。
古今の高手に受け継がれ、教えられた定石は、約2万もあると言われている。もちろん、全部覚えることなどは無理。しかし、基本的な定石をマスターすることは、それほど大変なことではない。

大切なことは、定石の手順を暗記することではない。
石の流れを読み取り、“定石の成り立ち・心”を知ることである。一手ずつ確かめながら勉強してほしいという。

星の性格


盤端から4の四に位置している星は、次に示すような性格を持っている。
①三々が空いているため地になりにくい。
②中央への戦いには有利。
③星からバランスよくヒラけば、大模様が完成する。
④もともとが守りより、攻め指向で、相手の石を“高い位”から攻撃して効果をあげる。
⑤定石の型が、わりあい簡明である。
⑥置碁では、星を上手に生かして打てば、勝てるが、そうでない場合、相手にアマされることがたびたびである。
⑦互先では、星から三連星、タスキ星、中国流と、各種の布石展開が見込まれ、もし黒番と仮定すれば、ほとんど相手にじゃまされずに構えることができる。
(趙治勲『趙治勲の囲碁 布石と定石』日東書院、1985年、164頁~165頁)

昭和期の布石の変遷について ~林海峰『基本布石事典(上)』より


●新布石革命
①昭和8年秋、新布石革命
 新布石時代の木谷実と呉清源の星打ちに関する考え方の差
②昭和30年前後の第二の新布石時代
③昭和50年前後の第三の新布石全盛期(中国流や二、三連星)
※20年周期で布石の変遷は興味深い。

①昭和8年秋、新布石革命
・昭和8年秋、新布石革命は燎原の火のごとく燃え盛り、囲碁界を席捲した。
 主唱者は木谷実と呉清源である。
 その三連星ないし星打ちが中心となって、高目、大高目、5ノ五、三々などの特殊戦法による中原志向が、旧来の布石法の価値観と鋭く対立、これをひっくりかえそうとした。
・旧手法は、第三線が主体の考え方なので、これを否定するためにはどうしても石の位置が高くなり、中央が主戦場となる。
・黒1、3、5の星の三連星は、位を高く保ち、勢力を誇示するのに絶好の拠点となった。
・三連星主唱者の木谷実が、前田陳爾の黒の三連星に対して、白の三連星で向かっていった。
 新布石時代の木谷実と呉清源の星打ちに関する考え方の差

≪棋譜≫
【木谷実vs前田陳爾】
昭和11年 春季大手合 
 黒六段 前田陳爾(15目勝)
 白七段 木谷実


②昭和30年前後の第二の新布石時代
③昭和50年前後の第三の新布石全盛期(中国流や二、三連星)
(林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]、3頁~4頁、74頁~81頁、127頁)

〇中国流
・本書では、黒が第五手目を辺の第三線に打つ形を中国流、そして第四線の高い位置に打つものを新中国流という表現に統一したという。
(五手目の高い中国流は中国流を発展是正した意味をこめて、修正中国流ともいわれているが、ここでは新中国流で通したそうだ)

・中国流の布石法は、本来、日本で生まれたものである。
 それが中国に渡り、中国から逆輸入されて、この名がある。
 ここでは中国流を生むに至った背景と、それに共通する布石法が従来から日本にあったことを述べて、この部の導入としたいという。

・中国流布石は、昭和30年台(表記ママ)に安永一を中心とするアマチュア強豪の間で研究され、打たれていた。
 そして、安永が中国に渡り、中国選手にこの打ち方を紹介、当地でその技法が検討され、黒の5の手が第三線の低い中国流として日本に逆にもどってきた。
 また、昭和41年に訪中した島村俊広がこの布石法の感化を受け、ひと頃、島村流の名でプロ碁界を悩ませたのは、衆知のところである。
・日本の囲碁界で中国流が流行し、これを実戦に用いる棋士が多くなったのは、昭和40年台の後半から50年台にかけてである。
 武宮正樹にみられる大模様作戦が二、三連星の星打ちを基調としたのに対応し、中国流と新中国流が爆発的な人気を呼び、これら勢力重視と中央志向の風潮は、第三期の新布石時代再現の様相さえ呈するに至った。
・ある時期の加藤正夫は黒番のすべてを新中国流に徹し、抜群の成績とともにこの技法の発展に寄与した。
・中国流がこれだけ囲碁界に人気を得た原因として、一時期実利主義に走った全体的な傾向に対する批判と従来の布石を立体的な視点でとらえ、これに流動性を与えようとする時代的な要求があったことを、あげねばならぬだろう。
(林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]、308頁、310頁)

〇特殊戦法としての天元
・特殊戦法といえば、天元をはじめ第一着手を辺に打ったり、隅の大高目や5ノ五等に配したりと、そういう種類の打ち方の総称である。その多様性はいうまでもない。
・昭和ひと桁の新布石革命前後の久保松勝喜代の天元打ちは、その熱心な研究と共に有名である。大手合の黒番で天元を打ち続け、同じ関西の棋士陣営に大きな影響を与えた。
・すでに、天元は、寛文10年(1670)の道策・算哲の御城碁で打たれているなど、歴史は古いが、地のあまさとその勢力活用法に問題があって、技術的な発達をみていなかった。
 中原を志向する新しい試みとして、脚光を浴びるようになったのは、昭和に入ってからであり、今も有力な序盤の技法として、研究の対象になり得るものである。
(林海峰『基本布石事典―上(星の部)―』日本棋院、1978年[1983年版]、458頁)




≪囲碁用語と英語~おもにYou Tubeおよびレドモンド九段の著作より≫

2024-10-20 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁用語と英語~おもにYou Tubeおよびレドモンド九段の著作より≫

【はじめに】


 今回のブログでは、「囲碁用語と英語」と題して、英語の囲碁用語について考えてみたい。
 以前のブログで、マイケル・レドモンド九段の次の著作を紹介したことがあった。
〇マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年
 その際に、次のようなことを記した。

パリ五輪でバッハ会長は、いみじくも、次のように語り、選手たちをたたえた。 
「五輪は平和を作ることができないのは分かっている。だが、五輪は平和の文化を創り、世界をインスパイアすることができる」と。
 さて、スポーツの祭典であるオリンピックのみならず、囲碁という文化も、「平和の文化を創り、世界をインスパイアすることができる」のではないかと思っている。
 例えば、呉清源氏は、1928年、瀬越憲作氏らの尽力により、14歳で来日し、川端康成とも親交があり、『名人』の中でも、“天恵の象徴”と表現されている。そして、木谷実氏とともに、新布石時代を築いた(平本弥星『囲碁の知・入門編』30頁~31頁)。また、呉清源—林海峰—張栩という、法灯ならぬ“碁灯”を継承する(張栩『勝利は10%から積み上げる』18頁、60頁、99頁)。
 また、原爆下の対局で知られる、島根出身の岩本薫氏は、戦後、アメリカなどに囲碁の海外普及に後半生を捧げた(平本弥星『囲碁の知・入門編』36頁~38頁)。
 このように、囲碁文化の歴史は、平和および国際性と密接に関連している。

 マイケル・レドモンド氏は、奇しくも、4年後の2028年に開催されるロサンゼルスと同じ、カリフォルニア州出身のプロ棋士である(サンタバーバラ)。日本では数少ないアメリカ出身のプロ棋士である。妻は中国囲碁協会の牛嫻嫻三段、牛栄子四段は姪である。10歳の頃に物理学者の父親に教えられて、囲碁を始めたという。その後の活躍は、プロフィールにある通りである。

【マイケル・レドモンド氏のプロフィール】
・1963(昭和38)年5月生まれ。米国カリフォルニア州出身。大枝雄介九段門下。
・1977年院生。1981年入段。1985年五段。2000年九段。
・1985年留園杯優勝。1992年新人王戦準優勝。1993年棋聖戦七段戦準優勝。

 さて、このレドモンド九段の著作において、目次を見てもわかるように、
〇<コラム>世界の人と碁を打とう!(用語編)
〇<コラム>世界の人と碁を打とう!(会話編)
 そこには、英語の囲碁用語について、記してある。このことが今回のブログのテーマを考えてみるきっかけとなった。
 レドモンド九段の著作のみならず、You Tubeやネットのブログ記事などを調べてみた結果を今回、まとめてみた。

<ダメ、ダメヅマリ、カケツギの英語の囲碁用語について>
・英語の囲碁用語について調べているうちに、ダメ(駄目)の意味を考え直す機会となった。
 日常用語の駄目と違って、囲碁用語としてのダメには、呼吸点(「ウィキペディア」にも記述あり)、活路(高川秀格・名誉本因坊の説)といった意味がある。
 ダメの英訳のlibertyは、日本語の日常用語の「駄目」より、意味合いないしニュアンスとしては、呼吸点、活路に近いのではないか?
 ダメヅマリは、英語でshortage of liberties(直訳すれば、自由の不足、欠如)である。
 ダメの意味の一つが、呼吸点、活路であることを知っていれば、ダメヅマリとは、shortage of liberties(shortage=short+-age(状態))だから、次のような連想が働く。
 自由の不足➡呼吸点ないし活路の不足➡息苦しい状態、活きづらい状態
と考えれば、ある程度、しっくりと納得できるのではないか?
(これは私の“勝手読み”なので、ご注意を)



【マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』(日本放送出版協会)はこちらから】





マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年
【目次】
1章 攻めは分断から
 攻めの考え方①
 攻めの考え方②
 中央での戦い
 閉じ込める
 封鎖を避ける 
<コラム>世界の人と碁を打とう!(用語編)

2章 両ガカリ対策
 両ガカリ対策
 戦いはまず頭を出して
 閉じ込めて主導権を握る

3章 ハサミで戦おう
 積極的なハサミ
 弱点をねらう
 戦いはスピード
 全局を視野に
 ボウシの威力
 まず封鎖
 閉じ込めれば大模様Ⅰ
 閉じ込めれば大模様Ⅱ
<コラム>世界の人と碁を打とう!(会話編)
 
4章 見合いと振り替わり
 オサえる方向に注意
 カカっていこう
 小目に挑戦
 囲わせて勝つ
 切る・切られる
 見合いをみつけよう
 簡単! 高目と目外し




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はじめに
・英語の囲碁用語~ レドモンド『攻め・守りの基本』より
・英語の囲碁用語(レドモンド九段の解説)~Hatena Blogより
・Nihon Kiin Go Channel for overseas
・【囲碁】Techniques of Capturing Race by Tsuruyama Atsushi 8P
➡眼あり眼なし、大ナカ小ナカ、タヌキの腹つづみの問題
・【補足】タヌキの腹つづみの問題~山下敬吾『基本手筋事典』より

・You TubeチャンネルNYIG-Go~Stephanie Yin







碁は世界語


・平本弥星氏は、「碁は世界語」と題して、次のようなことを述べている。
 国や文化の違いを超えた人々の交流が爆発的に増加し、その勢いはますます加速している。碁は言語や宗教の壁を越えて、世界中に広まりつつある。

・平成12年(2000)は、次の点で、囲碁が内外メディアで話題になり注目されたという。
①学生時代に碁をよく打ったというビル・ゲイツの立教大学でのスピーチ
②米国出身の棋士マイケル・レドモンド(1963-)が九段に昇段したこと
※日本棋院には、当時3名の欧米出身現役棋士がいたという。
タラヌ・カタリン四段(ルーマニア、1973-)
ハンス・ピーチ四段(ドイツ、1968-)

・世界チャンピオンを決める個人戦は、昭和63年(1988)の第1回世界選手権戦・富士通杯が最初。
(富士通杯には、日中韓のほか、中華台北、欧州、北米、南米の代表(アマも含む)が参加)
・1992年に韓国で、1999年には中国で、世界戦が誕生。
・近年は、世界戦で韓国選手の活躍が目立ち、韓国では、4人に1人が碁に関心をもっているそうだ。
・欧州では、毎夏に数百人の選手が参加して、ヨーロッパ・ゴ・コングレスが開催され、イタリアに在住する若手女流棋士、重野由紀二段(日本棋院)は、囲碁普及に情熱を傾けている。
・日本棋院と提携のパンダネットやWWGOは日本語で対局できる。
・ゴ学は日本語と碁だけの平本氏も、ハンド・トーク(手談)しているという。
(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、240頁)

2024年9月26日投稿後、英語入力エクセルにて

英語の囲碁用語~ レドモンド『攻め・守りの基本』より


1章 攻めは分断から
<コラム>世界の人と碁を打とう!(用語編)16頁、58頁

(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、16頁、58頁)

マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年
世界の人と碁を打とう!(用語編)16頁、58頁
世界の人と碁を打とう!(用語編)

手 move
アタリ atari ※チェスでの王手「check」という人も見かけるが、正しくない
一間トビ one space jump
星 Star Point
天元 Center Point ※「テンゲン」で通じることもある
小目 3-4 Point ※「Point」は星以外の隅の手の表現にも使われる
ツギ connection
連絡する connect
カタツギ solid connection
カケツギ diagonal connection ※中国由来のtiger's mouth
ケイマ knight's move ※チェスのknight(桂馬)の動きという意味
大ゲイマ large knight's move
サルスベリ monkey jump
地 territory
目(モク) point(s)
見合い interchangeable alternatives
振り替わり exchange または trade
シマリ corner enclosure
一間(二)シマリ one(two) spacecorner
enclosure
小(大)ゲイマシマリ small(large) knight's
cornerenclosure
手順 the order of moves
正しい手順 the correct order of moves
コウ ko
ヨセコウ an indirect ko
布石 Opening または Opening moves
中国流の布石 The Chinese opening
中盤 middle game
終盤 endgame
早碁 lightning Go


3章 ハサミで戦おう
<コラム>世界の人と碁を打とう!(会話編)164頁
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、164頁)

<コラム>世界の人と碁を打とう!(会話編)164頁

碁を打ちましょう
友達に気楽に呼びかけるなら
Let's play Go!
少し丁寧で上品に誘うなら
Shall we play Go?
 
どのくらいお打ちになりますか?
How strong are you?
私は3級(段)です。
I am 3kyu(dan).
※ちなみに欧米の段級はたいへん辛いので、ご用心。
地域にもよるが、日本の段級よりも、2~3段厳しいことが多い。
 
どんな手合いですか?
What is the handicap?
互先で打ちましょうか?
Shall we play even?
 
それはいい手ですね。
That is a good move.
 
終わりですね?
Are we finished?
数えましょうか?
Shall we count?
 
【結果の確認】
黒の五目半勝ちです。
Black wins by five and a half points.
※「白」なら「white」
 
※秒読みは、second reading であるが、もっと広い意味で over time という
言葉を使うこともある。
(マイケル・レドモンド『攻め・守りの基本』日本放送出版協会、2001年、164頁)

英語の囲碁用語(レドモンド九段の解説)~Hatena Blogより


・レドモンド九段が英語の囲碁用語について、解説したブログがある。
 すなわち、
〇Hatena Blog
独男の雑記帳「囲碁英語~2023年7月碁聖戦配信から」(2023年11月17日付)
がそれである。
 その内容を紹介しながら、英語の囲碁用語について考えてみたい。合わせて、その用語を使った例文をあげておく。

・2023年7月に行われた棋戦解説で、レドモンド九段が英語の囲碁用語を紹介していたので、記録しておきたいという。
・2023年7月15日、金沢市で開催された第48期碁聖戦第2局、井山碁聖vs一力棋聖
・佐田篤史七段がYou Tube解説、そこに大盤解説のレドモンド九段が訪れた。
 対局解説と並行して、佐田七段がレドモンド九段に囲碁用語を英語でどう呼ぶかを質問して場をつないでいったそうだ。

・<英語囲碁用語集>には、次のようなものがある。
 囲碁用語英訳集――囲碁のパンダネット
 British Go Journal―Glossary Of Go Terms /Brtitish Go Association
Japanese Go Terms at Sensei’s Library

<動画の中で紹介された用語>(2:13:45あたりから、2:27:16あたりまで)
・ツケ:attachment tsukeでも大体通用する。
・ハネ:hane 適当な英語がなく、英訳されず使われた。
・ツギ:connection
・カタツギ:solid connection
・カケツギ:カケツギ(掛け継ぎ)の直訳で hanging connection。
 ※中国ではカケツギは「虎の口」と呼ばれ、最近は中国語由来の tiger’s mouthが使われてきている。
・シチョウ:ladder(はしご)
・ゲタ:net(暴れようとする石を網で捕らえるイメージ)
・両アタリ:double atari
・ヌキ:take(つまり、特別な用語というより単に石を「取る」意味)
・手筋:チェスにならって、tacticsと呼ばれることがあるが、「筋のよさ」の意味合いがtacticsでは出ず、ぴったり「手筋」の訳語になっていない。昔の強い人は日本語を使って tesujiと言ったそうだ。
・コウ:ko
・一手寄せコウ:one-step approach ko
・セキ:seki
※ネットを調べれば用語集などは見つるだろうが、ここではこの動画の中で紹介された用語ということで記録しておくという。
 レドモンド九段のわかりやすい説明と、佐田七段の素直な質問と反応がよかったと記す。



〇ダイアナ・ガーネット(Diana Garnet)さんによる囲碁の例文

・Igo is a territory game.
囲碁は陣地取りゲームです。
・Run away with kosumi or a one point jump.
 逃げるときはコスミや一間トビです。
・Approach with the Knight’s Move.
 攻めるときはケイマです。
・You capture stones by surrounding them.
 石は囲むと取れます。
・Achieve stability with a two-point jump.
 二間ビラキで安定させよう。
・Attack weak stones with a pincer move.
 弱い石はハサんで攻めよう。
・Be careful not to extend too far!
 ヒラキ過ぎには注意しよう!
・Let’s use the Cap Block.
 ボウシで封鎖しましょう。
・Use standard joseki moves.
 定石を使ってみよう。
・Analyze the strengths and weaknesses of the stones.
 石の強弱を判断しよう。
・Secure the corner for your own.
 隅で実利を確保しよう。
・The battle starts with the framework.
 模様の碁で戦います。
・Be aware of triangles in your framework.
 模様は三角形を意識しましょう。
・Restrict your opponent’s framework.
 相手の模様を制限しよう。
・Stop them from coming out into the center.
 中央へ出るのを止めよう。
・Aime for your opponent’s weak points!
 相手の弱点を狙おう!
・Be careful of how much and the direction of extensions.
 広さや向きに注意しよう。
・The shoulder hit is super effective.
 肩ツキは効果的です。
・Invade enemy territory with a shoulder hit or cap.
 肩ツキやボウシで侵入しよう。
・Drive them away with a diagonal attachment.
 コスミツケで追い出そう。
・Rebuke overreaching attacks.
 深入りをとがめる。
・Stop an escape with a cap.
 ボウシで出口を止めよう。
・Block a two space extension.
 二間ビラキを封鎖しよう。
・Look for the weakness of the Knight’s Move.
 ケイマの弱点を探そう。
・Reinforce areas with dense clusters.
 厚みを作ってみよう。
・Fuseki once you’ve played the two star points.
 二連星からの布石
・Keep your three consecutive star points alive.
 三連星を生かしましょう。

You Tubeより


Nihon Kiin Go Channel for overseas


・Nihon Kiin Go Channel for overseasは、日本棋院が海外の囲碁ファンに向けたサイトである。

This“Nihon Kiin Go Channel for
overseas”will provide mainly overseas
go players with various online contents
with regards to the Japanese Go
professionals and its Go art and culture
including the following contents;
 Pro Lectures
 Pros Free Talks
 Live pro Game Commentary

〇Nihon Kiin 100th Year Anniversary photographs
(2024/07/02)
The Nihon Kiin was founded in July
1924. This video shows that Nihon
Kiin’s path and steps and history for
its 100 years throughout the photos.

【囲碁】Techniques of Capturing Race by Tsuruyama Atsushi 8P


Techniques of Capturing Race 
by Tsuruyama Atsushi 8P
(2021/09/02)
※This video is sponsored by INAF
(Iwamoto North America Foundation for Go)
約30分弱

攻め合いの手筋を紹介
とくに眼あり眼なし、大ナカ小ナカ、狸の腹鼓について解説
19秒~3分あたり

眼あり眼なしの問題



Black to play
First, I would like to talk about
“Meari-Menashi” (“One eye”versus
“No eye” capturing race)
which is a useful knowledge and
technique of a capturing race.

The number of Black liberty is 4.
On the other hand, White has 5 liberties
and white currently looks like
an advantage in the capturing race.

If Black simply starts filling the
White liberty,
White gives Atari and captures Black.

However, actually there is a way
that Black can win this capturing race!

What is a key is to make an eye, first.
If you make an eye, White can’t fill
the inside common (shared) liberty
(17-3 point).

Because if White at 6 tries filling the
liberty, white obviously gets captured.

Therefore, White can’t fill the inside liberty…
On the other hand, Black can fill
the inside liberty to capture
the white stones.
In this position,
after the move 5, White actually
has already been captured
and wins this capturing race!

Why it happened?
If Black makes an eye, the inside
common (shared) liberty goes to
and is added to Black’s liberties
so in the end White needs to fill up
all inside common liberties,
which is really not favorable for
White in the capturing race.

Like this, if you make an eye in the
capturing race,
you can have a clear advantage
over your opponent who has no eye
because your opponent has to fill
the inside liberty and you have a chance
to win a capturing race.
This is the useful technique (theory)
of “Meari-Menashi” which you should
remember!

<ポイント>
・眼あり眼なしの攻め合いの場合、眼のある石のほうが攻め合いはひじょうに有利であるが、かならずしも勝てるとはかぎらない。ダメの数、すなわち活路の多少によって負けるときもある、ということ。
(高川秀格『碁の学び方』金園社、1985年、120頁)

大ナカ小ナカについて 13:17~15:44あたり
【囲碁】
Techniques of Capturing Race 
by Tsuruyama Atsushi 8P
(2021/09/02)

大ナカ小ナカの問題



 The next topic is Ohnaka-Konaka
(i.e. Big Eye vs Smaller Eye)

This is also a useful technique
to win a capturing race.

In Ohnaka-Konaka,
both group have one eye.

White has only one point eye
and Black has also an eye
but it’s 4 point (space) eye shape
which means bigger Nakade.

Ohnaka-Konaka means a bigger Nakade
has an advantage in the capturing race.

Let’s see if it is true.

Let me fill the liberties…

I’d like to tell you an important point here.
Black can capture the white stones
but if you immediately capture them, …
It becomes Seki.

Let me go back.
In last variation, I showed you
Black captured the white three stones
but it is important not to capture them
immediately.

Instead of capturing three stones, Black
should fill the outside white liberty, first.

And if you do, White can’t win the race.
If White does Tenuki (i.e. play away),
Black also can Tenuki.

This is because White can’t fill
the inside common liberty.

If White fills up the liberty, Black just
fills the outside White liberty and
White can’t do anything and the White
has already been captured.

In the Ohnaka-Konaka sitiuation[sic],
Black can fill the inside common
liberty to win the race.

I’d also like to tell you the point of
Ohnaka-Konaka.
Only if there is a common (shared)
liberty, you can use this technique
of Ohnaka-Konaka.
Like the same manner of Meari-Menashi,
without an inside common liberty,
it means nothing.

Please remember this important point.

15:38
まとめとして、26分~28分あたりで、
In this video, I talked about the
Meari-Menashi (One eye vs No eye) and
Ohnaka-Konaka (Big eye vs Smaller eye).

If you have an eye and your opponent has
no eye with more inside shared liberties or
if you have a bigger eye with more inside
shared liberties, you have a clear advantage
of winning a capturing race.

The most important point on both
Meari-Menashi and Ohnaka-Konaka is to
have inside shared liberty.
Please remember this key point.

I hope you can master and use
the techniques that I taught
in your actual game.

See you next time!

Nihon Kiin Go Channel for overseas
Sponsored by
Iwamoto North America Foundation for Go
Produced by
Nihon Kiin
Cooperated by
American Go Association

22分 タヌキの腹つづみ Tanukino Harazutumi[sic]:Belly Drum Tesuji
恩田烈彦九段も、腹ヅツミ
山下、手筋、182頁
藤沢、手筋下、第2部セメアイの手筋「手を縮める手筋」ナラビ、150頁

タヌキの腹つづみの問題



Tanukino Harazutumi[sic]:Belly Drum Tesuji

Let’s move on to the next problem!

It looks like Black can win if Black blocks.
However, if White make another Hane,
White can win this capturing race
because it is not 2 liberties but 3.

Let me fill the liberties to check
if White can win.

This shape of both side Hanes (right and left)
increases one liberty of White so it becomes
three from two liberties for White.
That’s how White can win it.

But, Black could find a brilliant move.
In this case, the 14-1 is the vital point.

If White connects, Black blocks and
White Hanes.

Black can give Atari and then
Black is able to win this capturing race.

However, you should be careful with
the White another Hane move.

If Black blocks immediately,
in the end black is captured and
can’t win the race.

In this case, another placement of
the move 3 (15-1) is the Tesuji which is
hardly noticeable.


If White connects, Black blocks at 5 and
just fill the white liberties step by step.

And Black is able to win.

Even if White fills the outside Black liberty,
Black captures the White stones.

Only if Black plays the 1st line placements
against each White Hanes, Black is able to
win this capturing race.

This Tesuji move is named as
“Tanuki-no-Harazutsumi”[sic] in Japanese.

If you have not seen it, you may hardly
find and play this Tesuji.

In one of my games, I actually forget
this Tesuji move and my opponent played
it and lost the game.

So I would highly recommend
you remember this Tesuji.

25:20

【補足】タヌキの腹つづみの問題~山下敬吾『基本手筋事典』より


・タヌキの腹つづみの問題は、次の『基本手筋事典』にも解説がある。
①藤沢秀行『基本手筋事典 下巻』第2部セメアイの手筋「手を縮める手筋」ナラビ、150頁
②山下敬吾『基本手筋事典』182頁
ここでは、山下敬吾『基本手筋事典』にあるタヌキの腹つづみの問題を紹介しておこう。

手数を縮める:第15型


【第15型】(黒番)
・黒は三手ではっきりしているが、白の方は何手なのか、わかりにくい。
・とにかく三手以内で、取る工夫をしなければならない。

【1図】(失敗)
・黒1のオサエは白2のハネが利くと、手数が一手延びる。
・格言の「両バネ一手延び」のとおり、三手になり、白4とダメをつめられて、黒の一手負けになる。
※黒1ではもう少し踏み込みがほしいところ。

【2図】(失敗)
・黒1のアテから白2のツギに、黒3と二段バネする手がある。
・白は4と切るしかなく、黒5と弾けばコウになる。
※しかし、無条件で取る手があるのだから、コウでは失敗。
※なお黒1ではaでもコウ。

【3図】(正解)
・黒1のオキが手数を縮める手筋である。
・白2のハネには黒3のナラビが関連する手筋で、白はどうしても手が延びない。
➡黒一手勝ち。
※この黒1、3は「タヌキの腹つづみ」と呼ばれる手筋である。

(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、182頁)

You TubeチャンネルNYIG-Go~Stephanie Yin


Stephanie Yin

You Tubeチャンネル
NYIG-Go
Introduction to Go ―Rules Part 2
(2019/10/19)(約7分)

Stephanie Yin brings you part 2 of the
essential rules of go during the game,
including the objective, liberty, and
atari and capture.

3分~5分あたり
LIBERTY: AN EMPTY POINT ADJACENT TO
A SINGLE STONE OR A GROUP OF STONES

5分~7分あたり
ATARI: A STONE OR A GROUP OF STONES
THAT ONLY HAS ONE LIBERTY

ダメ:liberty
ダメヅマリ:shortage of liberties

Takemiya video :Best Selection of
Cosmic (v.s. Cho Chikun 9p)
(2022/11/25)



Takemiya vs Cho Chikun, 1988

Takemiya 9p gives you commentary of his game
which was played in 1988 with Cho Chikun,
Judan title holders (as of 1988).
It’s one of the best of three games to decide
the challenger of the 13th Kisei title match.

You played Sanrensei (3 star-points)!
Intentionally, I played it.
So in the game, Black played Kakari to the bottom right corner.
Then, White played Kakari to the upper right corner.
It’s one of most popular joseki.(※右上隅のツケヒキ定石)
In stead of Sanrensei, playing Kakari to the upper right
corner is more common opening.
At that time, in my feeling, this exchange would be
slightly better for White.
If White played Kakari to the upper right instead of Sanrensei,
Black would play in bottom side.
At that time, I thought this exchange was slightly profitable for White.
Of course, it has an advantage and disadvantage, though.
Then, Black played 3-3.
Here, White has two options.
In this situation, this direction must be correct, because …

白の三連星(白6で三連星)

白の宇宙流(白68まで)

藤沢秀行先生のコメント(黒37について)8:42~9:20
This variation was one of examples from the commentary
of Fujisawa Shuko (Honorary Kisei).
He commented it should be better for black to play like this.
I agree that it’s also playable.
(武宮正樹九段もこれも一局という。)

中央に白の模様
≪棋譜≫ 白86まで(18:03)


Now looks like White gets huge center moyo which becomes territory
while Black gets territory in corners and sides.
After that, complicated end game would start soon…
I believe you were satisfied with this cosmic game?
Yes, I was quite happy with it.

Simple Baduk, Sensei Slaying! Kitani Minoru Massacres Go Seigen’s Dragon!


〇Simple Baduk
Sensei Slaying! Kitani Minoru
Massacres Go Seigen’s Dragon!
(2023/09/08)
・木谷実vs呉清源の棋譜を、Simple BadukさんがYou Tubeで英語で解説している。

【英文内容の補足】
※木谷実(1909-1975)
・鈴木為次郎に入門。大正13年(1924)入段。
 昭和8年(1933)呉清源とともに「新布石」を打ち始める。
 最高位2期(1957、58)ほか。本因坊に3度挑戦し敗れる。
弟子を多数育成。木谷一門の総段位は500段位を超える。
・現代の布石は星に打つ碁が多いが、江戸時代から昭和初期までの布石は、小目が主であった。その固定観念を打破したのが、木谷実と呉清源であった。
 新布石は一世を風靡し、『新布石』(1934年)がベストセラーになった。
(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、27頁、30頁~31頁)

This is a Kifu-Spread of a go game
between Minoru Kitani and Seigen Go.

Go Seigen and his best friend Kitani
Minoru revolutionized Go in the 1930s
by pioneering the radical “Shin Fuseki”
together. Their daring new fuseki
theories upened tradition with
provocative openings.

Despite their contrasting legacies,
with Kitani as a master teacher and
Go as an innovator, the two shared a
bond. When Go faced controversies
and nationalism in Japan, Kitani
supported him.

While Kitani nurtured individual talents
through teaching, Go Seigen’s
groundbreaking innovations
fundamentally transformed modern
Go globally. Together, the two friends
and rivals left enduring marks on Go’s
future.

≪棋譜≫黒147手まで

〇Simple Baduk Takemiya’s CRAZY Generosity


〇Simple Baduk
Takemiya’s CRAZY Generosity
Backfires! Gives All Territories,
Annihilates Iwata With “Cosmic
Style”
(2023/09/30) 約13分

・武宮正樹vs岩田達明の棋譜を、Simple BadukさんがYou Tubeで英語で解説している。

Takemiya Masaki vs. Iwata Tatsuaki –
Go legends face off in an unbelievable
match. Takemiya shockingly gives
Iwata every territory, but still crushes
him with signature “Cosmic Style”. See
how Takemiya’s insane generosity
backfires as he annihilates his
opponent. Masterful Go moves let
Takemiya effortlessly outplay Iwata
despite gifting him huge areas of the
board. An unforgettable match that
shows why Takemiya is considered a
genius of the “Cosmic Style”. Don’t
miss this jaw-dropping Go match
between two Hall of Fame players at
the top of their game. Epic creativity,
strategy, and generosity are on full
display.

<注意>
(cf.)
3分、4分、5分、8分 tiger’s mouth=カケツギ

とくに9分あたり “Cosmic Style”.
左上 コウ 10~11分 settle Ko fights
岩田達明
≪棋譜≫黒129手まで

【補足】モンキージャンプについて


・モンキージャンプとは、用語欄にもあったように、ヨセのサルスベリのことである。
 この英語のことに言及した本としては、次のものがある。
〇久保秀行『新・早わかり ヨセ小事典』日本棋院、1999年[2015年版]

・また、英語のYou Tubeサイトとしては、次のものが有用であろう。
〇Go Magic,
The Monkey Jump: Endgame Technique, 2023-12-29. (約13分)
※興味のある方は、ご覧いただきたい。

〇久保秀行『新・早わかり ヨセ小事典』日本棋院、1999年[2015年版]の問題を紹介しておく。
<第3章 ●ヨセの基本的手筋>
【第53型】損なく、味良く
●サルスベリ(1)
・「百日紅」と書くサルスベリは、碁では一線の大ゲイマスベリのこと。
・その止め方は形によって変化。
【参考図】
・黒1では止まらず損。
【1図】(正解手筋その1)
・黒1のコスミツケは最も簡明な手筋。
・白2の戻りに黒3のオサエ以下、黒7までが双方の正しい応酬。
【2図】(正解手筋その2)
・黒1もお勧めの捨て石手筋。
・白2以下、黒9までの進行は、1図と損得なし。
※又黒1で3から打っても同じ。
※白6で7と打てば、数目の得であるが後手。
【3図】(弱気)
・黒1は良く見かける応手であるが、弱気。
・白2と進まれ、正解より悪い結果に。
・ただ、黒9の手抜きの可能性あり、白2は保留。
(久保秀行『新・早わかり ヨセ小事典』日本棋院、1999年[2015年版]、203頁~204頁)

<第3章 ●ヨセの基本的手筋>
【第54型】捨て石一子で
●サルスベリ(2)
・英語でモンキージャンプと呼ぶこの形、なるほど猿もすべる?
・前型とは配石に違いあり。

【参考図】
・前型正解に似た黒1は損。
【1図】(正解手筋その1)
・止め方は3通りあるが、お勧めは黒1のコスミ。
・白2に黒3の捨て石のオサエが連係の手筋で、黒9まで味良く止めることができる。
【2図】(正解手筋その2)
・黒1でも、1図と同理の手筋。
・ただ、白2で隅に化けられるような配石の場合も考えられ、1図の方が心配なし。
【3図】(要注意)
・黒1でも条件が良ければ、前2図と同じ結果になるが、場合によっては、白2以下と変化され、大事件に発展する可能性もあり、要注意。
(久保秀行『新・早わかり ヨセ小事典』日本棋院、1999年[2015年版]、205頁~206頁)
 
【補足】英訳囲碁用語について、次のブログが参考となる。
〇いごすけや(囲碁インストラクターの佐藤洋佑氏)
「【囲碁を英語で言うと?】実戦で役立つ英訳囲碁用語も紹介!」(2024年)
・「英語圏に囲碁を広めよう」と思った日本棋院が、代表的な囲碁用語を英語にしたという。
・囲碁普及に熱心に活動なさっている白江治彦(しらえはるひこ)先生などが中心になって、英訳を決めていったようだ。
例えば、布石は「Opening」、ゲタは「Net」、欠け眼は「False eye」(偽物の眼)、
 観音開きは「Butterfly formation」、サルスベリは「Monkey jump」

〇このサルスベリについて、いごすけや(佐藤洋佑氏)は次のような興味深いことを記している。
・サル「スベリ」なのに、「slide」ではなく「jump」だそうです。
 理由は分かりませんと、いごすけやさんはいう。
・そもそも、囲碁のサルスベリはサルが滑っているのではなく、「百日紅(サルスベリ)の木」からきています。
(ただ、百日紅は、樹木がツルツルでサルも滑り落ちることから「サルスベリ」と言われているので同じことかもしれません)
・一線に大ゲイマにスベった形が、百日紅の木の形に似ているような気がすることから、サルスベリとなったらしいです。
(百日紅の木は曲がって成長していく傾向がある)と、いごすけやさんはコメントしている。
・また、犬の顔は「Face of dog」!?
 「犬の顔」とは、一間トビにケイマでトライアングルを作っている形、つながりの良い好形のことをさす。
➡「犬の顔」には英訳が無いようだという。全部の囲碁用語を英語にしたわけではなく、特に代表的なものだけを英訳したようだ。
 ということで、「犬の顔」は普通に「Face of dog」でしょうかという。
(そもそも「犬の顔」は正式な囲碁用語なのでしょうかと、コメントしている)

☆そのほか、次のようなYou Tubeなどを参考のこと。
〇三村囲碁ちゃんねる(三村智保九段)
「囲碁用語マスター Lv4「イヌの顔」」(2019年12月9日付)
※4つの動物の顔 ネコの顔、イヌの顔、ウマの顔、キリンの顔について説明
〇ネット藤澤塾
「【囲碁講座#36】動物手筋[竹下凌矢初段]」(2021年5月15日付)
※馬の顔、亀の甲、鶴の巣ごもり、イタチの腹ヅケ、狸の腹鼓などを解説。

【補足】駄目(ダメ)について


【補足】駄目(ダメ)について
①日刊新周南のコラム・エッセイ:小野慎吾「囲碁由来の用語①」(2021年03月10日付)
②いごまとめ「囲碁用語 駄目(だめ)」(2017年02月25日付)
③Amebaブログ:政光順二「ダメ(駄目)の意味・用法」(2009年10月20日付)

①「日刊新周南」のコラム・エッセイの小野慎吾「囲碁由来の用語①」にて、駄目(ダメ)について、次のように述べている。
・実は囲碁から来ている日常用語が多くある。
 日常でも頻繁によく聞く「駄目(ダメ)」は囲碁から来ている。
・囲碁は黒石、白石を交互に打ち、「陣地」を作っていき、どちらがより多く「陣地」を作れるかで、勝敗が決まるゲームである。
・「駄目(ダメ)」の意味は、石を打っても陣地が増えない地点を言う。
➡日常用語としては、「効果がない・役に立たない」といった意味である。

②いごまとめ(初段を目指す人向けの囲碁サイト)
・囲碁用語の駄目(だめ)について、次のようにまとめている。
〇駄目の意味:その1
・まず、「手数」と似たような意味で使われる。
 例えば、図で黒2子は白に囲まれていて、あと少しでとられる。
 この状況は「駄目が2つ空いている」とか「黒を殺すまでの手数は2つ」のように表現される。
 
〇駄目の意味:その24
・次に、盤面上どちらの陣地にもならない箇所という意味もある。
・双方に利益がない地点なので対局中は打たないが、終局を確認しあってから、互いに「駄目をつめる」という作業が行われる。
・例えば、図。
 このような形で終局をむかえたが、(7, 六)G4の地点は白黒どちらの陣地にもならなかった地点。
 ➡これを「駄目」という。

〇駄目の元々の意味
・「駄目」は本来「役に立たない」というような意味。
 役に立たない➡価値がない➡無意味なこと➡してはいけない、だめだ
※結局、禁止の意味で広く一般的に使われるようになったと考えられる。
 
③Amebaブログ:政光順二「ダメ(駄目)の意味・用法」
・囲碁におけるダメについて、次のような意味・用法があるという。
〇石の呼吸点
・英語では、liberty
 黒4子のダメは×の9個
 
〇黒も白も地にならない地点
 英語では、neutral point

〇ほとんど価値のない地点
・下図のような局面で×あたりに打つと、「ダメを打ちましたね」と言われます。
 
・これは、前図のダメの親戚ですね。
・英語だと、point(地点)やmove(着手)の前に、useless とかinvalidとかineffectiveとか付けるんですかね?

と、いくつかの意味、使い方があります。
「ダメをつめちゃダメ」ですが、英語混じりにすると、「libertyをつめるのはbad」ですね。
・囲碁用語としてのダメには直接badという意味はなく、「無価値」➡「悪い」という転用でしょうね。
(そんなことをしてもダメ➡そんなことをしたらダメ)

高川秀格・名誉本因坊の説明~ダメ=活路


〇石の取り方と逃げ方
・碁は、対局者(白と黒)は盤上のいかなる点へ着手してもよいが、活路のない点へ打つことはできない。
 しかし相手の石を打ちあげるときは、活路のない点へ打つことができる。
 これが碁のルールの根本原則。
・活路とは石の隣接点のことである。
 これは石の上下左右、たてとよこ、の点であって、ななめの点は関係ない。
 このことは、とくに注意を要する。

【1図】

・たてよこの方向に対して生命力を持っていると見てよいだろう。
 この生命力は、味方の石と接触すれば同化してひとつの石になる。これが石の成長である。
 しかし、この生命力が敵に全部奪われたとき、石は死ぬ。
 そして盤上からただちに取りのぞかれてしまう。
・碁盤のいちばん隅と、いちばん端と、それ以外の点にある石の活路はどうだろうか。
 隅の石の活路は2個、盤端は3個、それ以外はどの点にあっても活路は4個である。
 活路の多い石ほど強く、活路の少ない石ほど弱い。
・【1図】で見たように、一子の石の活路は4個である。
 活路が4個あるということは、一子の石を取るのに4手かかる、4個の石が必要だということである。
 
〇ダメとは活路のこと
【13図】
・白が黒の外側の活路を奪う(このことを白が周りを囲む、または外側のダメを詰める、ともいう。ダメとは活路のことである)と、次に白aと打って黒三子を取れる。
(高川秀格『碁の学び方』金園社、1985年、42頁~43頁、67頁)

〇攻め合い セキ
・「攻め合い」とは、生きていない石同士が取るか取られるか戦うことである。
・いままでの例から見ると、手数の多いほうが勝ち、手数の少ないほうが負ける、手数が同じなら、さきに打ったほうが勝つ、という結論がでた。
・もちろん、これはほんとうの手数のことをいっている。
【35図】
・この白も黒も、手数はともに四手であるから、この攻め合いは先着したほうが勝ち。
【36図】
〇このような形を考えてみよう。
※外がわの白と黒はべつにして、内がわの白と黒はどちらも生きていない石同士で、どちらも外がわの味方に連絡できない。
・これは明らかに、白五子と黒五子が攻め合っている状態。
【37図】

・この白と黒は手数はどちらも六手で同じだから、いままでの例から想像すれば、さきに打ったほうが勝つはず。
・そこで、まず黒1から打ってダメを詰めて行く。
・白も2とダメを詰める。
・黒3白4、黒5白6、黒7白8と、ここまでダメを詰め合って、さてこのあとはどうなるのか。
【38図】
・この形は、白も黒もどちらもダメは二つしかない。
・白も黒も活路は二個。
※しかし、いままでの例と違うところは、どちらも二つのダメを共有していること。
※白の二つのダメは同時に黒の二つの活路であり、
 黒の二つのダメは同時に白の二つの活路である。
・こういう場合、どちらも手を出しにくい。
 手を出したほうが、ひどいめにあうからである。
・黒が一つ白のダメを詰めることは、同時に自分のダメを詰めて、アタリにすることになる。白のがわも、同じ。
・どちらも相手を取りにいけない。どちらも取られる心配はない。
➡この状態が「セキ」である。

〇囲碁規約はセキを次のように規定している。
第三十二条 対局者双方の一連の石がともに眼がなく、又は眼一個であって双方いずれから着手しても、相手方の石を取り上げることができない形となっているものを「セキ」という。
2 「セキ」となっている石は、双方とも活とみなす。
【41図】
・これは白黒ともに眼が一個あるが、どちらからも手が出せない状態。
・aの点が白と黒の共有の活路で、この点へ打てば、打ったほうが相手に打ちあげられてしまう。
・この白と黒は終局のとき双方生きている石と見なされるが、このセキの眼は、どちらも地としては認められない。
・白も黒も地としてはゼロ、一目の地ではない。
(高川秀格『碁の学び方』金園社、1985年、111頁~114頁)




≪囲碁の攻め~瀬越憲作『作戦辞典』より≫

2024-10-13 18:00:09 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~瀬越憲作『作戦辞典』より≫
(2024年10月13日投稿)

【はじめに】


 今回も引き続き、囲碁の攻めについて、次の事典(辞典)を参考にして、考えてみたい。
〇瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]

<注意>
・搦み(からみ)(137頁)

【瀬越憲作名誉九段のプロフィール】
※瀬越憲作(1889-77)
・広島県能美島。戦後に日本棋院理事長。
 囲碁文化の普及に貢献し、『御城碁譜』(1952年)、『明治碁譜』(1959年)を編纂。
 30年(1955)引退、名誉九段。
(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、38頁)

〇秀哉と瀬越憲作
・明治7年(1874年)6月24日生まれで、昭和15年(1940年)の1月18日に亡くなっているから、数えどしの67歳。
 満65年半の栄光に満ちた生涯だったようだ。
 しかしながら、その少年時代は辛苦そのものの日常だった。
 社会のどん底から這い上がって第一人者となり、それを維持したまま生を終えるまでの道のりは、文字通り一生を貫いた闘争史であった。

・二十一世本因坊秀哉。本名は田村保寿、徳川幕府の旗本だった父、田村保永の長男として生まれた。この親父殿は大局を見損じて、佐幕派の陣に走り、彰義隊に参加したりしたので、官員になったものの将来性は全くなく、失意の日常を好きな碁でまぎらわしていた。保寿は父の碁を眺めているうちに自然と碁を覚える。ときに数えの8歳だったという。
・10歳、近所の碁会所の席亭が勧めるままに方円社を訪ね、村瀬秀甫八段に十三子置いて一局教わり、直ちに入塾を許される。
・11歳で母を亡くし、17歳で父を失う。
 孤高の名人と言われる秀哉は、一人で社会に放り出されて、少年時代から孤独だった。
 頼りになるのは自分だけなのである。

・17歳のとき、方円社から二段格を許されたが、もちろんそれで一家を構えられるわけがなく、方円社の最底辺に在って心はあせるばかりだった。実業界に進出しようとしたが、失敗した。方円社にも顔を出さなかったこともあり、追放処分にされてしまう。ときに田村保寿二段、数えの18歳。
・房州の東福院というお寺さんの和尚に拾われ、自分には碁しかないのだということがわかる。保寿は麻布六本木に教室を開く。そこに、たまたま朝鮮から日本に亡命していた金玉均が入ってきた。金と本因坊秀栄七段は親友であり、時の第一人者秀栄に紹介されたのが開運の端緒になったそうだ。秀栄は保寿に四段を免許し、秀栄の門下生になった。
・ここからの保寿の奮闘ぶり、精進のさまがものすごかったとされる。
 師匠の秀栄には定先で何とかしがみついている程度だったが、競争相手の石井千治をついに先二まで打込み、雁金準一を撃退し、秀栄の歿後に本因坊秀哉を名乗って第一人者となる。

・晩年には鈴木為次郎、瀬越憲作の猛追に苦しみ、最晩年には超新星、木谷実、呉清源の出現を見たが、ともかくも明治晩年から昭和初年に渉る巨匠秀哉だった。 
 亡くなる寸前まで、第一線で活躍した現役の名人本因坊秀哉だった。
(中山典之『昭和囲碁風雲録 上』岩波書店、2003年、192頁~195頁)

〇原爆下の対局と瀬越憲作
●原爆下の対局
・第11期棋聖戦第3局は広島で打たれ、立会人が岩本薫九段、解説は橋本宇太郎九段だった。
 このときの碁盤と碁石は、歴史に残る「原爆下の対局」で両九段が使用した盤石である。

・第3期本因坊戦は昭和20年(1945)に行なわれた。
 物資が窮乏して前年に新聞から囲碁欄が消え、「碁など打っている時局か」といわれるなかで、広島に疎開していた瀬越憲作(せごえけんさく)八段が本因坊戦の実現に奔走した。
 やがて戦争は終わる。
 囲碁復興のためには本因坊戦の灯を絶やしてはならないと、瀬越は考えたのであった。
・20年5月の空襲で溜池(ためいけ)の日本棋院が焼失。
 焼野原の東京を離れ、広島市で7月23日に七番勝負第1局が開始された。
 第6局までコミなしで3日制。
 日本棋院広島支部長の藤井順一宅で打たれ、屋根に米軍機の機銃掃射を浴びながら、防空壕に入らず打ち終えたという。
 挑戦者岩本薫七段の白番5目勝だった。
(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、36頁~38頁、250頁)



【瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社はこちらから】



〇瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]

【目次】
序 瀬越憲作
父を想う 瀬越寿美子  1973年夏

第一部 置碁必勝作戦
第1局 8子局・黒の作戦
第2局 8子局・黒の作戦
第3局 8子局・黒の作戦
第4局 6子局・黒の作戦
第5局 6子局・黒の作戦
第6局 6子局・黒の作戦
第7局 6子局・黒の作戦
第8局 6子局・黒の作戦
第9局 4子局・黒の作戦
第10局 4子局・黒の作戦
第11局 4子局・黒の作戦
第12局 4子局・黒の作戦
第13局 4子局・黒の作戦
第14局 4子局・黒の作戦
第15局 4子局・白の作戦
第16局 4子局・黒の作戦
第17局 4子局・黒の作戦
第18局 4子局・黒の作戦
第19局 4子局・黒の作戦
第20局 4子局・黒の作戦
第21局 4子局・黒の作戦
第22局 4子局・黒の作戦
第23局 4子局・黒の作戦
第24局 4子局・黒の作戦
第25局 4子局・黒の作戦
第26局 互先局・白の作戦
第27局 互先局・黒の作戦
第28局 互先局・黒の作戦
第29局 互先局・双方の作戦

第二部 定石問答
 問題と解答
第三部 打ち込みの破壊力
 問題と解答
第四部 捨て石の怪
 問題と解答
第五部 タネ石の取り方
 問題と解答




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・瀬越憲作『作戦辞典』の序文
・父を想う 瀬越寿美子
〇第一部 置碁必勝作戦
〇第二部 定石問答
〇第三部 打ち込みの破壊力
〇第四部 捨て石の怪
〇第五部 タネ石の取り方






瀬越憲作『作戦辞典』の序文


序 瀬越憲作


・碁は布石、定石からはじまり、戦いに移り、ヨセに及んで終局するが、その過程でいちばん有利な点を打つことができれば、勝てる道理である。
・「作戦辞典」の編集にあたっては、次の両面に主眼をおいたという。
①戦術の面で、局面の焦点を適確にとらえる鋭い眼力の養成・戦略の面
②局面構成を理想形にみちびく広い視野の養成をと戦術、戦略の面
➡それが、各過程でいちばん有利な点を打つ道に適う、と考えたそうだ。

<本書の内容>
・著者が永い間、多くの人に教えた経験を生かしたけいこ碁とか、プロの打碁譜に現われたものを教材にとりいれた。
〇第1部「置碁必勝作戦」
・黒の立場でいうと、白の欠陥(ウス味)を衝く手段に気づかずに、しばしばチャンスをのがしてしまうケースが多いので、その弱点を改めてもらうよう、配慮した。
・つまり、白がここに打たれては困る、という“上手泣かせの戦術”を解いてある。

〇第2部「定石問答」
・盤上に描かれる定石が“生きているか死んでいるか”によって、布石戦略が決まる。
・そのポイントは、局面構成に応じた正しい定石の選び方とその運用にあることを解いてある。

〇第3部「打ち込みの破壊力」
・中盤戦のダイゴ味ともいえる華やかな打ち込み作戦で、ドカンと急所の一発が決まると、勝敗を左右する可能性をもつ恐さと、敵をギャフンといわせる壮快さを解いてある。

〇第4部「捨て石の怪」
・なるべく少ないギセイでもって、最大の効果をあげるのを理想とする高等戦術と上達するにともなって、その捨て石を巧妙に使いこなせる楽しさを解いてある。

〇第5部「タネ石の取り方」
・中盤戦で勝機をとらえる決め手は、敵のタネ石を取ることにあるので、第一感の急所はどの点か、推理と思考を働かすヨミの力が、問題解決に一番大切なことを解いてある。

※この「作戦辞典」によって、定石から布石、中盤にかけての攻防の要領を理解し、いつの間にか強くなっていることを感じられると、著者は信じている。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、i頁~ii頁)

父を想う 瀬越寿美子  1973年夏


・亡父が他界して、はや一年の歳月が過ぎた。
 この一周忌にあたり、誠文堂新光社から「作戦辞典」が出版されることになった。
 
・思えば、亡父の若き日の処女出版「囲碁讀本」も当社の刊行にかかって、碁書のベストセラーとなり、多くの同好者の座右におかれているときいている。
 また亡父の長い著作生活中思いもよらず、絶筆となったこの「作戦辞典」も、当社から出版されることに、奇しきご縁を感じる。
・さきに出版された「手筋辞典」は、長い年月をかけての労作であったが、年老いての久々の刊行の故か、文章、筆力など懸念していたが、予想外のファンから激励と絶賛の便りなどに、目を通しつつ、活力を顔に溢れさしたことは、終生忘れることはできない。
・いつも寸暇を惜しむように「碁」だけに明けくれた父の生活だったが、自己の一生を徹頭徹尾、心身共に一つの道に打ちこみ、生きぬき得たことの栄光、また苦難の日々をしみじみと想い返す。

・亡父は功成り名とげて、多くの栄誉に浴し、幸福にすごしながらも自らの生涯を自断の道を選んだことは、自分にきびしく生きて来た人故に、ただ暦の上に日を重ね盤面の黒白の識別もうすれ人の語らいにも次第に耳遠く、徒らに老醜をさらすようになることに、屈辱に感じたのではありますまいか、という。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、iii頁~iv頁)

第一部 置碁必勝作戦


・置碁は、碁の上達法に欠かすことのできないものである。
・著者の教えた経験によると、2子・3子の置碁は白が無理をしないで正しく打って位(くらい)でおしていけるが、4子からそれ以上の置碁では、布石時代に全局のバランスを保って、大勢に遅れないようにしなければならない。
 たとえば、黒が五手も六手もかけて打っているところを、白は三手か四手で間に合わせていく、といったぐあいにボカシて打つ、そうすると自然のなりゆきで随所に欠陥(ウス味)が生じてくるのはやむを得ない。
➡このウス味を衝かれたら困るが、と思っていると、相手はそれに気がつかずに見のがして助かった、と思うことがしばしばある。
 その白のウス味を衝いてくるようになれば、もうその手合は卒業した、といえる。

・「上手泣かせの戦術」とは、黒からここに打たれたら困るという題材である。

・置碁必勝作戦には、8子局を三局、6子局を五局、4子局を十七局、それに互先局を四局、収録した。
 8子局は白の欠陥が多すぎるので少なくしたが、この作戦は9子局にそのまま応用できる。
 互先局は、高級で有段者の研究資料に供するために、掲げた。
※4子局を中心にしたのは、この戦法をものにするのが、いちばん力の養成に効果的なるがゆえであるという。
➡すなわち、4子局を卒業すれば、もうアマチュアでは一人前として通用する。
 専門棋士に4子で打てれば、アマチュアの有段者だからである。
※ここでは、碁譜を多くして、解説をなるべく簡易化したという。
 この方が、頭に入りやすいと思うからであるとする。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、2頁~3頁)

第一部 置碁必勝作戦

第一部 置碁必勝作戦 第19局 4子局・黒の作戦~カラミ


【第19局 4子局・黒の作戦(A級)】
【第1図】
・左辺の六子の白を攻めて、上辺の白地を荒らそうというカラミの作戦である。
・黒が1とツケて攻めかかると、白6と進出する。
・そこで黒7、白8、黒9以下、13となるが、わずかに白二子を取り、これでは黒はさっぱり、つまらない。

【第2図】
≪棋譜≫第19局第2図、106頁

・黒は、まず白を攻める前提として、1とキッて、白の応手を探るのが手順である。
※黒1はaの打ち込みでもよろしい。
・白が2、4と受けると、黒は、5、7、9とキカしておいてから、11とツケ、以下15まで封鎖してあざやかに白を取ることができる。
※白は黒1のとき、この結果を読まなくてはならない。
 そして、13にトンで、白を逃げる処である。

【第3図】
・白は下の六子にさわらぬようにと、2以下8までと受けたところ。
・黒はこれだけキカしておけばと、9とツケて取りかけに行った。
・白16のとき黒17がよい手で、以下黒23となって、白は窒息してしまった。
※さかのぼって、黒1とキッたとき、白は11にトンで、上の二子を捨てて、大石の安全をはからねばならない。

【第4図】
・黒1とオス手は、下の白六子を狙った手だが、実は1はaにキルか、15に打ち込む方がカラミの作戦としては、いっそうきびしい手である。
※白2は5にトンでいる方が、損害が少なくてすむ。
・黒3、5以下14までは必然で、黒15とトンで、上方の白地を荒らして、黒地とすることができる。

【第5図】
※前項までの説明によって、左辺の白六子は黒から攻められると、どのぐらいイジメられるかということが、おおよそわかったであろう。
・そこで、黒1ときたときに、白は関せずえん、と2とトンで逃げているのが上策で、黒3のとき、白4と軽く受け流していれば、白は損害を最少限度に止めることができる。

【第6図】
・この図は、黒の巧妙な搦み(カラミ)作戦を示した実戦譜であるが、黒は1と打ち込んで、白の応手をみるのがよろしい。
※或は1で3にキルのもよろしい。
※白は黒1に抵抗するほど、問題が大きくなるから、中央を2とトンで、黒3を許すことになる。
※搦みの巧妙な作戦の一例である。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、106頁~3頁)

第21局 4子局・黒の作戦


【第21局 4子局・黒の作戦(B級)】
【第1図】
・白1に黒2とツケて、以下白11となるのは、ツケノビの基本定石である。
・次に、黒の打つ手はaとbと二つあり、aは堅実で消極的、bは攻勢で積極的の手である。
※以下、この二つの黒の作戦を示す。

【第2図】
・黒12とオサエるのは、隅を完全に活きておいてから、次に左右の白に向かって、攻勢に出ようという狙いをもっている手である。
・白左辺を13と守れば、黒14と下辺の白を攻めている。
・白15、17と逃げると、以下26までとなって、黒は右方に勢力を作ることができる。

【第3図】
・黒24のハネに対し、白25とキッてくるのは、無理である。
・黒26から白29までは必然だけど、黒はひとまず屈したあと、30からの反撃に移る。
・勢いのおもむくところ、以下42までとなって、黒攻め合い勝となる。
※手順中、黒34は白の手数をちぢめる筋である。
※このあとは各自で確かめて欲しいという。

【第4図】
・第2図では、白15でaにツケる変化を示したが、白15を決めて、17とコスムとどうなるか。
・黒18にトビツケて、せっていく作戦が有力になる。
・白19のハネから以下黒24となったあと、bのキリが残るから、白はあと一手備えを要する。
※黒の方は▲印とあいまって、下辺が地域化してくる。

【第5図】
・白11のとき、黒12と打つのがきびしい筋。
・黒16がよい手で、自己を堅めながら左右の白を狙っている。
・白21と攻めてきたとき、黒22のハネが要領である。
・白23の方を受けると、黒24とハネて、以下黒30となるが、白21の手は失敗に帰した。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、111頁~113頁)

第27局 互先局・黒の作戦


第27局 互先局・黒の作戦(A級)
【第1図】
・実戦にできた形をそのまま採用した。
・上と下の白の一団は、まだ連絡していない。
・黒は白を分離して、搦みの作戦にかけようとするには、何処から手を着けたらよいか、黒の打ち方いかんでは、一挙に勝形にみちびくことができる。

【第2図】
・黒1が上下の白に搦む攻めの狙い。
・白2は7の方にトブ手もある。
・黒3がきびしい狙いの筋になる。
・白4なら黒5、白6、黒7と手順を運んで、9と攻めていくと、白10以下黒17までのコウとなって、白は窮地に陥る。
※黒3のツケはうまい筋で、一気に大勢を決することになった。

【第3図】前図白4よりの変化 黒19ツグ
・白4と受けると、黒5、白6と交換して、黒7とコスムのがうまい手である。
・白8に黒9と受けて、白10には黒11、白12には黒13と平易に受ける。
・白14のとき黒15とキッて、黒21までは勢いで、黒はダンゴにシボられたけど、大石の白はちっ息して、活きが困難である。

【第4図】
・黒1に対して白2と一方の白を補えば、黒3、白4、黒5、白6とキカしておいて、黒7とトブ調子がよい。
・白8とワタリを打つよりない。
・そこで、黒9、白10、黒11とオサエて、白12とキッたとき、黒13とトベば、以下黒21となって、黒11と白12の交換があるために、白は外部に脱出することができない。

【第6図】
・黒1に対して白2とくれば、黒はどう打つのがよいかを考える。
・黒3、白4、黒5と打てば、白6と逃げる。
・黒9が攻めの急所である。
・白10以下18とこの大石は治まったが、黒19と打たれては、上の白がもたない。
※黒1と打ち込まれては、どう変化しても両方を凌ぐことはできない。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、137頁~139頁)

第28局 互先局・黒の作戦


第28局 互先局・黒の作戦(A級)
【第1図】
・黒の方はどの石も治まっているが、白の方は一見して薄い形をしている。
・黒は上下の白を分離して、何れか一方をカラミ取ろうという作戦である。

【第2図】
・黒1が上下の白をカラミで攻める急所になる。
・白2、黒3、白4と切りむすべば、黒は5以下9まで手順を運んで、白を分離する作戦である。
・白10のとき、黒11、13が手順で、白の形をくずす呼吸。
・白14をまって、黒15と形につくのが冷静で、左右の白を狙ったきびしい手である。
・白16の方を用心すれば、黒17とカケる要領である。

【第3図】
・黒1のカケから前図の延長である。
・白2には黒3とユルめるのはヨミ筋で、白4のとき、黒5、7と切断を図る。
・白8はこの一手であるが、黒9のトビでうまくいかない。
・白10、12の出切りに対しては、黒13、15とダメをつめて、黒勝ちである。
※この形は、黒1のカケをくっては、白つぶれである。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、140頁~141頁)

第29局 互先局・双方の作戦


・黒の作戦(C級)搦み(カラミ)
【第1図】
・白は上下に両分されているが、黒は三石とも治まっている局面である。
・黒は存分な攻めをかける立場にあるが、優位を決めるには、どのような作戦が適切かを考える。

【第2図】
・黒1と急所にノゾキ、白2、黒3、白4、黒5の運びがカラミの作戦である。
・白6をまって、黒7のトビが調子よく、次に9と8を狙った手である。
・白が8と逃げると、黒9、白10、黒11で、下方の白を取ることができる。
※下の白を取られては損が大きいから、白8では9と助け、黒8の封鎖を許すよりなかろう。

【第3図】前図黒9よりの変化
・黒9ときびしく封じこめようという発想は、白10のキリ筋が生じて、問題が生じる。
・黒は11とヒクよりないところで、白12、黒13、白14、黒15、白16というネバリがあって、コウになる。
※黒13が肝要で、単に15は白13で、白活きである。

【第4図】前図黒11よりの変化
・白△のキリに対して、黒1とかかえるのは第一感の手だが、これは白2から平凡なはこびで、白8までと、脱出する。
※いずれにしても、白△にキリが入っては、この白を無条件で取るわけにいかないから、失敗である。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、149頁~150頁)

第二部 定石問答


・「定石を知らぬ奴には敵わない」というのがある。
 たいへんな皮肉な表現であるが、碁のもつ真理の一面を現わしているといえる。
 定石を正しく理解せずに、中途はんぱに形だけで覚えていると、相手が定石はずれを打ってきたとき、それをとがめる力が伴なわないために、崩れてしまうのである。
・定石とは、広く浅く「形を記憶する」のではダメで、学ぶ心得は、少ない数でよいから、「一手一手」なぜこの黒と白の石は共によい手に当たるかを、徹底的に究明することである。

・次に、種々ある定石をその局面構成に応じて、正しく選択することが問題になる。
 つまり、盤上に描かれた定石が、血の通った「生きている定石」であるか、形骸化した「死んでいる定石」であるかが、その一局の優劣を決める重要な意味をもってくる。
※布石戦略は、定石の運用によって、大きく変わってくる。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、152頁)

【定石問答:第5題 黒先】


・両ガカリされた黒一子を動こうという訳である。
・この配置で、どの両ガカリ定石を選ぶのが適切であるかを考える。
・両ガカリもいろいろな組合わせがあり、本題では両方小ゲイマになっている。

【失敗図】
・黒1、3にツケノビても、周囲に白石が迫っていては、発展できない。
・白4、6と実利を占められ、黒は一方的に攻められる恐れがある。
※黒1でaも白bの3三で、同様である。

【正解図】
・敵の勢力範囲では、早く治まる定石を選ぶのが正しい作戦である。
・白は三間でそれ程広い間合いではないから、黒1、3のツケオサエが適切で、黒7まで隅で早く治まる。

【参考図1】
・黒5までとなったとき、白6のコスミなら、黒7、9と早く治まる要領。
※白6で9にすれば、黒7、白8、黒a、白bとなって、白からきびしい攻めは考えられない形である。

【参考図2】
・白6でサガリの場合は、黒7のキリが急所になる。
※次に白aは黒bがある。
※なお、白2で5にハネコムのは、黒a、白3の時、黒bまたはcと応じて、サバクことになる。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、157頁、159頁)

【定石問答:第26題 黒先】


・実戦によくできる形。
・下辺の白の構えに対して、どういう作戦に出れば効果的であろうか。
・打ち込むべきか、消すべきか、その判断は周囲の配置から容易な筈である。
・余裕のある方は、白の手番も考えて欲しい。

【正解図】
・黒1のカケで惜しまず決めて、白地の拡大を制限する作戦が適切である。
※黒1で6に打ち込むのは、白の構えが堅いこの際は、白aにツケられて、攻撃目標になるから失敗である。

【参考図1】黒13劫トル
※黒3で6は、白14、黒3、白10の時、11の点が後手とはいえ、双方の好点になる。
・黒3のトビは軽いので、心おきなく先手がとれる。
・白4、6の手段も、図の進行となるから、恐れない。

【参考図2】
・黒1のカケに白2のトビで受けるのは、一見してウスイ手である。
※後に黒aから様子を見る手や、黒b、白c、黒dと手厚く打つ手段が残るから、白2のトビで打つ所ではない。

【参考図3】
・前図黒1のカケは、左辺に発展できない形では理想的ではないが、捨ておくと白1のケイマで下辺の地を盛りあげられる。
・で、打ち込む所でなければ、消しに先べんする要領。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、185頁、187頁)

第三部 打ち込みの破壊力


・打ち込みは、相手が地を囲い切ってしまう形になる、最後の一瞬をとらえるのが最も効果的で、ドカンと急所の一発を決めて、敵の構えを攪乱してしまうのは、まことに痛快な戦法である。
・しかし、その囲い切る最後の瞬間ということになると、実際の局面で正確に判断するのは、至難といえる。
 つまり、打ち込みの成否は、時機の選択によって決まるわけであって、それは実戦の経験と鋭い眼力を養うよりないのである。

・華やかな「打ち込み戦法」は中盤作戦のダイゴ味であって、急所の打ち込みは、真剣勝負で一気に敵のノド笛をつく威力をもって、勝負の決定打になる。
 で、当然打ち込まなければならないところを、打ち込まないことが敗因になることは少なくないのである。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、222頁)

【中盤心得①】
・二カ所以上の弱石は、左右搦みとなって凌ぎ難いと知らねばならない。

【打ち込みの破壊力:第1題 白先】


・置碁によくできる型である。
・白1のボーシに黒2とケイマに受けたが、「ボーシにケイマ」の格言もこの際は疑問の形である。
・白3で“この一手”ともいうべき絶好の打ち込みを誘うことになる。

【正解図】
・白1の三々打ち込みが、この一手といえる急所。
・黒2と三間幅のある広い方からオサエるのが正しく、白3以下黒12までの進行は勢いだが、白△、黒▲の交換が白の利かした形である。

【参考図】
・白1の打ち込みに対し、黒2と狭い方からオサエるのは、逆方向になる。
※白7で10は、黒7が好手になる配置なので、図の分れが相場。
※やはり「ボーシにケイマ」が白の働き。

【失敗図】
・「ボーシにケイマ」の交換がある形では、白1のツケは、黒2と隅からオサエられて、苦しい戦いとなる。
※白1でaの打ち込みは、黒1または黒bと応じられて、適切でない。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、223頁~224頁)

<中盤心得④>
・堅い所は強く打ち、薄い所は戦いを避けるのが、中盤戦の条件

【打ち込みの破壊力:第12題 黒先】


・黒は、下辺の白に対してどこに打ち込むのが急所であるかを考える。
・下辺の白は粗末な形で、黒から打ち込まれては、一局終りとなるかも知れぬ。
・白aの備えがあって、はじめて一局の碁になる。

【正解図】
・黒1の打ち込みが急所。
※この意味は白のサバキを封じながら、カラミの作戦になっている点がきびしい。
・白2とコスメば、黒3とカタをツキ、白を分離して攻める要領。

【変化図】
・黒1の打ち込みに対して、白2のツケは、黒3のハネから必然黒11までとなる。
※黒は手厚い形になったのに反し、白は分離されたうえ、両方とも不安定である。
 で、黒の優勢は明らか。

【参考図】
・黒1の打ち込みは、白2、4のツケギリ、または白6のサバキを与えるので、一路下の2の方がきびしい。
※黒5でaは白bで、黒bなら白aで黒悪い。
・黒5とアテてaまたはbが手順。

【失敗図】
・黒1の打ち込みに白2は図の進行で黒好調となる。
・黒11までとなった姿では、白は両ガラミになって、一方はもちそうにない。
※前図のサバキの中から選ぶより他ない。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、235頁、238頁)

<中盤心得⑥>
・成算のない場合に、石は決してどんづめまで攻めてしまうのは悪い。

【打ち込みの破壊力:第17題 黒先】


・下辺の白は大きく構えているが、弱点が残っている。
・黒からドカンと急所に打ち込まれると、白は裸同然になってしまう。
・で、この場合、黒aでは物が小さい。
※打ち込みの条件は自陣が堅いことにある。

【正解図】
・黒aのツケ味を見て、黒1とドカンと打ち込むのが急所である。
・白2なら黒3のハサミツケが手筋。
・黒7までとなれば、黒bからからcの利きがあり、黒は楽に治まり形になる。

【変化図】
・黒1、3に対し、白4と下ツギに変化した図である。
・黒5から9とトビだすことになれば、白は地を破られた上に、左右が弱くて守勢一方になる。
※黒成功の作戦である。

【参考図1】
・黒1、3に白4に下ハネで変化するのは無理。
・黒5のキリから勢い黒11までとなった時、白aのシチョウ関係が悪いから、下辺の白四子が落ちる。
※白4はシチョウ関係がポイント。

【参考図2】
・白2でワタリを止めるのは、黒3で次に黒a、b、cの味を見て、捕らえられることはない。
・白4なら黒5にコスミ、次に白a、黒dと中央へ進出する形が好調である。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、243頁、245頁)

>第四部 捨て石の怪

【捨て石の怪:第1題 黒先】
【第1題 黒先】
・直接助からぬ石は、捨て石にして活用する工夫が、生きた碁の真価である。
・隅に囲まれた黒四子を助けるのは、無理な相談。
・で、取られた石を捨て石にして得を図る工夫はないか、と考えるのが順序である。

【正解図】
・黒1と石を大きくして捨て石にするのがポイント。
・白2のオサエを待って、黒3のキリが狙いである。
・後は一本道で、白18まで、黒は巧みに外勢を張る要領。
※白地は減り、黒は厚い。

【参考図】
・正解図の捨て石作戦によるシメツケを嫌って、白2とユルメる手段は、黒3、5で隅に手が生じる。
・次に白a、黒b、白c、黒d、白eで部分的には、劫の形だけど、前図より白が劣る。

【失敗図1】
・正解図の黒1、3に対して、白が黒の捨て石作戦を嫌って、4からアテるのは無理である。
・黒7、9で追い落しが成立する。
※黒1に対しては、正解図が一筋道である。

【失敗図2】
・黒四子を捨て石にする手で、黒1の打ち込みにするのは、白2とオサエられて、次の手がない。
※周囲の堅い所へ打ち込むよりは、捨て石で外勢を築くのが理である。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、285頁~286頁)

【捨て石の効用②】
・布石における場合の捨て石
・白石をしのぐための捨て石

【捨て石の怪:第5題 黒先】


【第5題 黒先】
・黒a、白b、黒c、白dとキメるのは、無造作過ぎて、妙味が生じない。
※そこで黒は、白の不備を衝く捨て石の手法によって、局面をひらいて欲しい。
※碁は常に捨て石にすることを惜しんではならない。

【正解図】
・黒1のツケ、白2のハネは当然として、黒3のキリが捨て石作戦になる眼目の筋である。
・止むなく白4にカカエた時、黒5のアテで決まる形である。

【参考図1】
・黒1以下5までとなった時、白6と△の要石を助けるのは、黒7、9で星下の一子を先手で分断される。
※白のたまらない姿であるが、それというのも黒3の効果によるものである。

【参考図2】
・黒1、3に対し、白4と応じるのは無理である。
・黒5以下の手順で21まで、白が落ちてしまう。
※白4で9は黒6。
※白4で7は、黒4があるから正解図の分れが相場である。

【例題図】
・黒1、3の筋で形をキメるのは実戦でもしばしば現われる。
※黒1でaはゆるみ。白2で3は利かされである。
※黒3は捨て石にして整形するポイントの一着。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、289頁、291頁)

【捨て石の効用⑤】
・先手を取るための捨て石
・ヨセにおける捨て石

【捨て石の怪:第15題 白先】


【第15題 白先】
・右下隅ではげしい攻防戦が展開されている。
・で、白は包囲された六子を捨て石にして外勢を張る狙いを採るが、黒も安易な応手を考えると、逆に取られる恐れがある。
※捨て石作戦の醍醐味は。

【正解図】黒20ツグ
・白1のオサエが急所。
・黒2が最善の応手で黒の手数が延びる。
・白3で5を先にしてもほぼ同結果。
※白は捨て石を最大限に働かして、目のさめるような外勢を張っては成功である。

【失敗図1】
・白1に、黒2とハネるのは軽率である。
・白3のサガリを利かしてから、5、7とダメヅマリにみちびく。
・黒8の時、白9のカケが手筋で、ピタリとシチョウが成立する。

【失敗図2】
・前図の変化である。
・白1、3に黒4と応じるのは、白5以下の手順で黒が落ちる。
・経過中、白7、9がポイントの手筋である。
※黒10で12に出るのは、白aから簡単に落ちる。

【失敗図3】
・白1のハネで攻めるのは失敗する。
・黒2、4と首を出されて、白から封鎖する形がない。
※正解図に示された捨て石の醍醐味を実戦で味わいたいものである。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、301頁、304頁)

第五部 タネ石の取り方


・よく人から、先生は何十手ぐらい先きが読めますか、と聞かれるが、実はこれには返答に困る。
・布石時代はもちろん中盤の戦いになってからでも、一手先がわからない場合もあるし、戦略の方針の岐路に立ったときなどは、どちらを採ったものかと、迷うことはしばしばある。
・ところが、シチョウとか或はこれに類する推理してゆける死活の問題においては、何十手先までも、心眼で読んでいけるのが、専門家の思考力である。
・心眼というのは、碁盤に並べて、置いたりハイだりして検討することなく、その盤上に並んでいる形をジッと見詰めて、頭の中で一手ずつ推理していくことをいうので、実戦ではすべてどんなむつかしいところでも、心眼で読むよりないから、この心眼で読む練習が実は絶対に必要なのである。
・戦いの筋を見つける勘の養成と推理力を養成されたい。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、306頁)

囲碁の狂歌① 作 本因坊算砂
石立は、相手によりて打ちかえよ さて劫つもり時の見合わせ

【タネ石の取り方:第1題 白先】


【第1題 白先】
・白石を切断している▲印の黒二子はタネ石である。
・白は当然黒のタネ石をねらうことになる。
・タネ石とは、石数の多少に関係なく、要(かなめ)の石に当り、その石を取られることは、勝敗に影響するほど大きい。

【第1題 白先】
【正解図】
・白1のキリから打つのが鋭い。
・止むなく黒2とツゲば、白3のアテが手筋で、手段が生じる。
※黒4で5にすれば、白4で黒五子が落ちるため、図の劫になる。
※白aから劫材は白豊富。

【参考図1】白7劫トル・白9ツグ
・黒は劫材が足りないので、黒8のアテから劫を避けるのは、下辺の損失が大きい。
・白11で確実にイキと見ても、中央の白に対する攻めがかなり緩和された形であり、白の成功である。

【参考図2】黒6ツグ
・正解図白5のアテまでとなった時、黒6にツグのは、白7のツギで黒一手負けになるから、黒は劫を争うよりない。
※白1のキリに黒2で4なら、白2で有難くタネ石を取ってよい。

【失敗図】
・白1にキルのは、黒2のサガリで、手にならない。
※白1で2とハサミツケるのも、黒aにツギがあり、失敗である。
※単にaとキル急所に注目されたい。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、307頁~308頁)

囲碁の狂歌④
・囲碁はただ下手と打つとも大事なり。小事と思う道のあしさよ。

【第10題 黒先】


・下辺中央で切り結んだ攻防が焦点である。
・黒は白の欠陥をとらえて、▲印の手数を延ばせば、タネ石の白四子を取れる。
・攻め合いの手法として実戦に多く生じるから、この機会にものにして欲しい。

【正解図】
・黒1のサガリはこの一手で、白2の時、黒3と出て、5のサガリがポイント。
・白6はつらいがしかたない。
※aとツメるのは、黒6、白b、黒c、白6、黒dが成立。
・黒7で一手勝となる。

【失敗図】
・黒1以下、白4までなった時、手拍子で黒5と当てるのは失敗である。
・黒7、白8で逆転する。
※なお、白2で3のツギは、黒7で攻め合い勝になる。
※正解図黒5に注目。

【例題図】
・問題図と類似の筋で黒のタネ石を取ることになる。
・白1のハネから3のツギが先手に利くのがポイントである。
※黒4でaは、白b、黒c、白dで黒四子が落ちる。

【参考図】
・白1に対し、黒2と応じれば、やはり白3のツギが正しい。
・次にaと5の点を見合いにして、黒のタネ石を取る要領である。
※初学者にも理解できる形なので、実戦応用が広い。
(瀬越憲作『作戦辞典』誠文堂新光社、1973年[1986年版]、319頁~320頁)


≪囲碁の攻め~山下敬吾『基本手筋事典』より≫

2024-10-06 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁の攻め~山下敬吾『基本手筋事典』より≫
(2024年10月6日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでは、引き続き、囲碁の攻めについて、次の事典を参考に考えてみたい。
〇山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年 
 
 著者の山下敬吾九段は、先日(9月29日)の第72回NHK杯2回戦で、福岡航太朗五段との対局で、奇抜な布石を打たれていた。
 解説の河野臨九段は、山下九段を“囲碁界随一の力戦家”と紹介されていた。
 山下九段といえば、かつては初手天元、5の五など、大胆な布石で知られていた。この日の布石は、黒番の山下九段が5手目に、天元一路左横に打たれ、奇抜な布石を打たれた。
 こうした布石が打てるのも、深い読みに裏打ちされた手筋を熟知されているからであろう。
 さて、その山下敬吾九段の経歴であるが、高校の数学教師で囲碁愛好家の父より、兄と共に囲碁を習ったのがきっかけであるようだ。
 1986年、旭川市立東栄小学校2年の時に、少年少女囲碁大会小学生の部で、歴代最年少記録で優勝し、小学生名人となる(決勝の相手はのちにプロでタイトル争いをすることとなる高尾紳路氏)。
 翌年、1987年に上京して、アマチュア強豪菊池康郎先生の主宰する緑星囲碁学園に入園する。その後、プロとなり、張栩、羽根直樹、高尾紳路とともに「平成四天王」と称された。

 山下敬吾九段の“神童ぶり”は、平本弥星氏もその著作で、高尾紳路氏の棋譜とともに、紹介されている(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、57頁~58頁)。

 ところで、折しも、本日のNHK杯の放送にかわって、少年少女囲碁大会(8月6日、7日)の決勝戦の模様を、鶴山淳志八段が解説されていた。
 小川蓮君(小4)vs横手悠生君(小6)
 二人とも東京代表で、藤澤一就八段の主宰する囲碁教室で勉強しているライバル同士の決勝戦となった。小川君が左辺の白の勢力圏に打ち込み、戦いを仕掛けてゆき、劣勢になったものの、中盤で挽回し、小学4年生にして、見事に前年度の覇者の横手君を打ち破り、全国1位に輝いた。
 藤澤一就氏といえば、前回のブログで紹介した『基本手筋事典』の藤沢秀行名誉棋聖の息子さんである。そして、一就氏の長女が、女流四冠などを達成した藤沢里菜七段である。
 秀行名誉棋聖の息子さんの囲碁教室から、全国小学生のトップを輩出させるとは、その指導力にも敬服した。



【山下敬吾(やました けいご)氏のプロフィール】
・昭和53年生まれ。旭川市出身。
・菊池康郎氏に師事。
・平成5年入段、9年五段、15年九段。
・平成12年25期碁聖。15年27期棋聖。18年棋聖を奪回4連覇。22年65期本因坊。
 他に天元、新人王など多数のタイトルを獲得。



【山下敬吾『基本手筋事典』(日本棋院)はこちらから】



山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年
【目次】
第1部 攻めの手筋(全て黒番)
1 切断する 第5型
2 石を取る 第8型
3 封鎖する 第7型
4 形を崩す 第7型
5 重くして攻める 第8型
6 手数を縮める 第1型
7 両にらみの筋 第1型
8 根拠を奪う 第5型
9 地を荒らす 第6型
10 いじめる 第6型
11 コウの攻防Ⅰ 第6型
12 眼を奪う 第1型
第2部 守りの手筋(全て黒番)
13 連絡する 第7型
14 シノぐ 第7型
15 進出する 第5型
16 形を整える 第3型
17 サバく 第2型
18 手数を延ばす 第4型
19 様子を聞く 第1型
20 コウの攻防Ⅱ 第1型
21 生きる 第4型
22 その他の手筋 第4型
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、6頁~11頁)




第1部 攻めの手筋の序文


1切断する


・石の連絡を断ち切る手筋である。
 石や地を切り離すことによって、石を弱体化させる効果が大きい。
・切断によって別々に生きなければならなくなるからである。
 場合によっては、切断がそのまま石の取り込みにつながることもある。
 攻めの第一に挙げた由縁である。
・ここでは切断の基本的な形をいくつか採り上げた。
 個々の手筋を見ていく前の、準備知識としていただきたい。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、14頁)

2石を取る


・囲碁とは本来<石を囲む>こと、つまり<石を取る>ことを意味する。
 石を取るのは原初からの碁の基本行為である。
・石を取るのは相手の戦闘能力を削ぎ、有利になることはいうまでもない。
 とくに石を切り離している<かなめ石>を取ることができれば、あとを安心して強く戦うことができる。
・石を取る手段はいろいろある。
 本編に入るまえに、基本的な石の取り方を説明しておこう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、44頁)

3封鎖する


・封鎖にはふたつの目的がある。
①ひとつは相手の進出を止め、攻めに活用することである。
 とくに眼のない石に対しては、進出を止めることにより、きびしい攻めがねらえる。
②もうひとつは封鎖により、自分の地を広げること。
 模様を構築するときなどは、とくに封鎖が効果的である。
・ここでは、封鎖の基本について、頻繁に現われる形を例として簡単に説明しておこう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、80頁)

4形を崩す


・形を崩すというのは、多くの場合、相手の形の急所に一撃して、働き、効率の悪い愚形にさせることを意味する。
・愚形は、アキ三角や陣笠、ダンゴ石などさまざまな形があるが、要は石の働きの悪い重複形のことである。
・碁は一面では、石の効率性を争うゲームだから、相手を愚形に追い込めばそれだけ有利になるともいえる。
☆代表的な例をあげて、説明しておこう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、110頁)

5重くして攻める


・石が重い、石が軽いという表現がある。
 囲碁用語でもあるが、抽象的でわかりにくい。
 ごく簡単にいえば、石数の多少で決まるといってもよい。
・重い石というのは、石のかたまりが大きく、捨てにくい石。  
 逆に軽い石は、石数が少なく、捨てても影響がない石である。
・攻めようというときには、相手を重くして、フリカワリを許さない形にするのが、効果的である。
☆ここでは代表例を挙げて説明しておこう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、140頁)

6手数を縮める


・手数を縮める、あるいは手数を延ばすのは、攻め合いに勝つための必須の手筋である。
・手数というのは、石を取るまでのダメの数のことである。
 相手の手数は縮め、自分の手数は延ばすのが、石の取り合い、つまり攻め合いの基本である。
・それでは、手数を縮めるには、どうすればいいか。
 一言でいえば、相手をダメヅマリに導くこと。
 そのためには、①形の急所を衝く筋、②捨て石の筋、これら、ふたつの手段がある。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、164頁)
図も既に入力済

7両にらみの筋


・両にらみの筋とは、その名のとおり、一つの着手で二つのねらいを持つ手筋のことである。
 相手が片方を防げば、もう一方のねらいを実現する可能性が高い。
・見合いという術語があるが、考え方としては相通じるものがある。
 両ガラミ、モタレなどの作戦も両にらみの筋の一つの変形ともみられよう。
・碁の一手一手が両にらみの要素を含んでいる、といってもいいかもしれない。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、188頁)

8根拠を奪う


・根拠を奪うとは、文字どおり相手の眼形を奪うことである。
・封鎖が相手の進路を止めて小さく生かす攻めとすれば、根拠を奪うのはそれとは反対に追い出す攻めといえる。
・根拠を奪うには、外からじりじり相手の領域を狭めるのと、内部から撹乱するのと、ふた通りある。
 いずれにしろ、自分の地を固めながら、相手の根拠を脅かし、それが攻めにつながれば理想的である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、222頁)

9地を荒らす


・地を荒らす手筋には、派手さはないが、その巧拙によってすぐ数目は違ってしまう。
 地味な分野ではあるけれど、勝敗に直結するだけにおそろそかにはできない。
・地を荒らすには、まず相手の地の欠陥、弱点を見つけることが必要だ。
 それによって、ヨセの具体的な手段を考えることが大切である。
☆本章では、欠陥を衝くヨセを多く収録した。
 手筋を知って実戦で使いこなしてほしい。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、246頁)

10いじめる


・囲碁でいじめの筋といえば、石の生死を脅かすことによって、何らかの得を図る手段のことである。
 たとえば、攻めて地を削減したり、石をもぎ取ったりするのが、いじめの筋の目的である。
・死活の筋とも関連するが、死活はあくまで石の生き死にだけを問題にする。
 地の多寡を考えるいじめとは、異なるところである。
☆本編に入るまえに、少々例を挙げて、いじめの筋をみていただこう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、270頁)

11コウの攻防Ⅰ


・コウは序盤から終盤まで、あらゆる局面があらわれる。
 コウというルールがあるからこそ、局面が複雑化し、囲碁の深みが増すともいえる。
・攻防という観点から考えれば、攻めのコウもあれば、守りのコウもある。
 一概に判別できないものも多いが、ここでは攻めの要素を含んだコウを採り上げた。
 守りのコウについては、第2部の「コウの攻防Ⅱ」をご覧いただこう。
☆まず攻めのコウの手筋をいくつか例示しよう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、294頁)

12眼を奪う


・攻めの部最終章は、死活のうち「眼を奪う」手筋を採り上げた。
〇石を殺すには、大きく二つの方法に分けられる。
①ひとつはフトコロをせばめる攻め。
 眼形を作る<広さ>を攻めるもので、ほとんどの場合、外からせばめて眼形を奪う。
②もうひとつが急所の攻めである。
 形によって急所は変わるから、その見極めが大事になる。
 眼形の急所に直撃するその性格上、内部から攻めることが多い。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、324頁)

第1章 切断するの例題


切断する
【1図】(直截の切り)
・単独の石を切り離す切りの原点。
・本図では、黒1によって、白はどちらかの石が助からない。
・白2は上辺の石を大切にするもの。
・黒3で三角印の白は動けず、攻めを防いで白4の二間ビラキも省けない。
※切りの威力である。

【2図】(出切り)
・黒1、3は、手筋以前のもっとも素直な切り。
※形からみて切断への力強い迫力といったものが感じられる。
※切り離された白は両方とも見捨てるわけにはいかず、ここから激しい戦いが予想される。

【3図】(ツケコシ)
※格言に「ケイマにツケコシあり」という。
・黒1がそのツケコシで、切断の手筋として多用される。
※本図ではシチョウが悪いので、白はaないしbとノビて戦うことになる。
 いずれにしても、むずかしい戦い。

【4図】(ワリ込み)
・黒1がワリ込み。
・一間トビに割って入る形に意外性、飛躍といったものが強く感じられる。
➡決まれば恐ろしい手筋。
・黒1で白はつながらない。
※上辺の白には眼形を作る余地がなく、あきらめざるを得ない。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、14頁~15頁)

切断する:第5型


【第5型】
・切断の形はさまざまあっても、もっとも効果の大きい手段を選ぶのが常識。
・形に明るいことも手筋発見の力になる。
【1図】(失敗)
・黒1のハネ出しは白2とオサえられて、切断できない。
※隅にはもともと一眼はあり、なんら事情は変わっていない。
※周囲の黒の石の形をもう少し考えれば、どこが急所の点になるか、わかるだろう。

【2図】(失敗)
・黒1はつい打ちたくなる手だが、都合よく白3とはツイでくれない。
・正しく白2と応じられると、黒はアキ三角の愚形になっている。
※黒3と切断はできても、白4でぴったりと生き。
 これでは効果半減だ。

【3図】(正解)
・黒1のツケが手筋。
・白2と受けても、黒3のアテ込みが好手で、白は切断されている。
※隅の白にも生きはない。
※黒1、3は上辺の黒の形(▲の二子)をいっぱいに働かせた切断といえるだろう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、20頁)

第1章 切断する:ツケ【参考譜1】孔傑vs張栩


【ツケ】
・単に生きを求めるだけでは、相手は痛痒を感じない。
 相手の弱点を衝きながら、シノぐのが要諦。

【参考譜1】
第3期トヨタ&デンソー杯準々決勝
 白 張栩
 黒 孔傑

【参考譜1】
・白1のツケが黒の切断をにらんだ手筋。
※ただ生きるだけでなく、場合によっては黒を切り離して、攻めに転じようという強い手でもある。

【1図】(実戦)
・黒2は中央の厚みで勝負しようとしたものであろう。
・白3のアテには、黒4から6の切り返しが手筋。
※黒8で9は、白aからbと切られて、うまくいかない。
・白11まで切り離しては実利が大きく、白成功であろう。
 
【2図】(変化)
・白1に黒2と受けると、白3から5と取り、前図のように、黒6と封鎖するのは、白7の両アタリがあって、破綻する。
・したがって、白3のアテに黒は7とノビる相場で、白6のノビキリになれば、白は悪くない。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、34頁)

【参考譜2】37頁 2024年9月6日

第1章 切断する:ワリ込み【参考譜2】古力vs依田紀基


【ワリ込み】
「一間トビにワリ込みあり」というが、ワリ込みは相手の形に節をつけ、切断をねらうのがいちばんの目的。

【参考譜2】
第17期テレビアジア選手権
 白 依田紀基
 黒 古力

・白1はシノギと反撃を含んだきびしいワリ込みである。
※黒がどちらにツイでも、切る気迫。
・黒4のツギなら、当然白5の切りである。

【1図】(実戦)
・白の切りに対して、黒1のアテから、3のカケはサバキの手段。
※強く戦うなら、黒4のツギだが、白aとマゲられて、無理と判断したものだろう。
・白4から6の取りに、黒7の後退は自重したものか。
※黒8にツイでシボリをねらえないのでは、つらい。
・白は8から10と切って厚くなった。
※はじめの形からみれば、予想以上の成果とみていいだろう。
※本局は中国の北京で行われ、依田九段が中押し勝ち。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、37頁)

第2章 石を取る:第14型


第2章 第14型 黒番
【テーマ図】
・オイオトシで石を取るには、相手をダメヅマリに追い込むことが条件となる。
 そのためには細心の手順が必要。
 初手で成否がわかる。

【1図】(失敗)
・黒1のトビは、白をダメヅマリにする工夫が感じられない。
・白2のトビが好手で、左方に連絡してしまう。
※なお、黒1でaのアテを決めてしまうのも、白bと換わって、そのあとがうまくいかない。

【2図】(正解)
・黒1の押しが手筋。
※なんの変哲もない普通の手にみえるが、これが白のダメヅマリに追い込む急所の一手になる。
・白2に黒3のカケが好手。
・白4なら、黒5のホウリ込みが手順となり、オイオトシ。

【3図】(変化)
・前図黒3のカケに、白1のトビなら、黒2から4と詰める手順。
 ⇒やはりオイオトシが成立。
※前図の黒1の押しは普通すぎて、ことさら手筋というほどのものでもないが、理にかなった急所の一着である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、59頁)

石を取る:ツケ【参考譜4】張栩vs王銘琬


【ツケ】
・実戦ではいうまでもなく、石を取る状況にはいろいろなケースがある。
 相手の出方次第で、石を取る手が生じてきたりする。

【参考譜4】
第56期本因坊戦 挑戦手合第1局 
 白 王銘琬
 黒 張栩
【参考譜4】
・中央の黒大石が危機に瀕しているが、黒1のツケが白の応手をみた妙手だった。
※白の出方によってはダメがつまり、白が取られるはめになる。
【1図】(実戦)
・黒1のツケを食らってはほかの打ちようもなく、実戦は白2とツイだ。
・黒は3から5と白三子を取り込み、白は4から6と切って、あくまで黒全体をねらう。
・黒7から9と出切る手が強烈な反撃。
・黒11から13とハワれては、左辺の白が持たない。
※実戦の白2で、3にツイで助けるのは、黒aと眼を持たれる。
 そこで白bとあくまで大石をねらうのは、黒7、白8、黒10、白9、黒2の切りがきびしく、白が破綻する。

(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、67頁)

第2章 石を取る:鼻ヅケ【参考譜6】朴永訓vs山下敬吾


第2章石を取る:鼻ヅケ
【鼻ヅケ】
・シノぐときには、相手のかなめ石を取るのが、もっとも効果的である。
・それには、急所を見極め、直撃する。

【参考譜6】
〇第1期トヨタ&デンソー杯1回戦 
 黒 朴永訓
 白 山下敬吾
・白1の鼻ヅケがこの一手の手筋。
※黒二子のダメヅマリを直接衝いて、黒の動きを封じる、形の急所である。
 黒は動きが不自由となった。
【1図】(実戦)
・白1に黒は2と出るくらいのもの。
・そこで、白3の利きを行使して、黒4に白5と形を整える。
※攻め合いの形となったが、すでに白は読み切りである。
※なお、黒2で5のハネ出しは、白2と出て心配はない。

【2図】(実戦・続)
・黒は1、3とツケヒいて、手数を延ばそうとするが、白2、4で大丈夫。
・黒5とダメをつけても、白10までぴったり白の一手勝ち。
※平成14年、朴三段はこのとき16歳。韓国の天元だった。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、75頁)

第2章石を取る:第28型


第2章 第28型 黒番
【テーマ図】
・黒八子の救出が問題。
 そのためには、切り離している白一団を取り込まなければならない。
 白のダメヅマリに注目。
 シチョウは黒有利。
※原図は「官子譜」所載。

【1図】(失敗)
・一見すると、黒1がバランスのよい封鎖の手筋にみえるかもしれない。
・しかし、白2のコスミツケから6と打たれて困る。
※生きと脱出が見合いになっている。
※白のダメヅマリを衝いた攻めが必要。

【2図】(正解)白10ツグ
・黒1のカドが急所。
・白2のコスミには黒3、白4を交換し、黒5から7のホウリ込みで白をダメヅマリに追い込むのがうまい。
・最後は黒13のホウリ込みが決め手となり、白はシチョウ。

【3図】(変化)
・黒1に白2の押しから4のマゲも考えられる。
・それに対しては、黒5のホウリ込みから7のカケが読みの入った一手。
・白8以下、脱出を試みても、黒13が決め手で白の大きなかなめ石は助からない。
※次に白aなら黒b。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、76頁)

第2章 第30型


第1部 第2章 第30型
・ねらいは白のダメヅマリ。
 初手さえ発見できれば、かなめ石はわりあいすんなり取れるかもしれない。
※原図は「発陽論」所載。
【1図】(正解)
・単に黒1とハネ込むのが、白のダメヅマリをねらった手筋。
・白2のアテには黒3が妙着で、白が参っている。
・白4なら黒5でかなめの白五子がオイオトシ。
※白はダメヅマリに泣いている。

【2図】(変化)
・黒1に白2と内側からアテれば、黒3と突っ込む手順。
・白6までとダメヅマリにさせて、黒7のツギから9のカケが決め手になる。
・白10から12ともがいても無駄な抵抗で、黒13までシチョウ。

【3図】(失敗)
・前図黒9で、黒1の押しから7まで攻めるのもありそうだが、これは失敗に終わる。
・白8のツケから12までとなって、ぴったり攻め合いは白の一手勝ち。
 ゲームセット寸前の逆転では泣くに泣けない。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、78頁)

封鎖する:第1型


【封鎖する:第1型】(黒番)
・切断の手筋として、有効な働きを持つ手段で、ここではそれを封鎖に活用する。
・一子を犠牲打とする代表的な封鎖の形。
【テーマ図】
【1図】(失敗)
・黒1のツケは白2とノビられて、相当味悪の形。
・黒3とツグしかないが、白a、b、cの出切りを含みにして、dのハネ出しがきびしくなる。
※すぐさま決行されても、黒は持ちこたえられないだろう。
【2図】(正解)
・黒1のツケコシが封鎖の手筋。
・白2、4は仕方なく、黒5から7まで味のよい封鎖形である。
※なお、白4でaのアテを利かすか、あとにbやcの味を残すかは、どちらともいえない。
 黒からは白へのいじめが楽しみ。
【3図】(変化)
・黒3のとき、白4とノビて戦うのは、無理としたものだろう。
・黒5から7が整形の形。
・白は8と生きるくらいの相場となり、黒9に先行できる。
※なお、白4でaは、黒b、白c、黒8となって、やはり黒有利な戦い。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、82頁)

封鎖する:コスミツケ【参考譜7】小林覚vs安斎伸彰


【参考譜7】
第14期竜星戦決勝トーナメント
 白小林覚 vs黒安斎伸彰

<コスミツケ>
・封鎖は相手の出足を止め、自身は安定する。
 しかも外に厚みができて、一局の主導権を握ることができる。
【参考譜7】
・白1のコスミツケが封鎖の手筋。
※黒のタケフの形の急所にあたっている。
 ここを封鎖できるか、黒に突破されるかは大変な違いである。
【1図】(実戦)
・黒2のマゲは仕方がない。
・白は3と封鎖して手厚い。
・白5から9と暴れて、白が打ちやすい。
※なお、白3でaは、黒3と突破されて悪い。

【2図】(変化)
・黒2と出るのは、白3のハネ込みから、5のオサエがきびしい。
・黒6から8とダンゴになってはつらい。
※白にとっては格好の攻撃目標だ。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、91頁)

第3章 封鎖する:第10型


第10型
【テーマ図】
・ダメヅマリをねらった封鎖の形を考える。
 白の反発により、思わぬ結果になることも考慮に入れておきたい。
【1図】(失敗)
・黒1のツケもときに考えられる筋だが、この場合はちょっと凝り過ぎだろう。
・白2、4のワリツギが適切で、黒5なら白6とはみ出される。
※なお、黒1で3のコスミは、白1とナラばれてつまらない。
【2図】(正解)
・黒1から3のハネを一発利かして、5にカケるのが、ダメヅマリをねらった封鎖の筋。
・白6から8の出切りには、黒11まで先手になる。
※あと黒aが白の右辺進出を妨げる好点。
 黒の手厚い封鎖形であろう。
【3図】(変化)
・黒3のハネに、白4と押して反発することも考えられる。
・それには黒5のハイを利かし、7とトンで不満はない。
※封鎖は逃したが、黒aとトベば白は眼がなくなる。
 といって白は一手入れていると後手。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、92頁)

封鎖する:第14型


第14型
【テーマ図】
・格言に「ケイマにツケコシあり」という。
 本型はまさにその一手が焦点である。
 白の応手によっては、黒から隅に手段の余地が残る。
【1図】
・黒1がツケコシの手筋。
・白は2とさえぎり、黒3の切りに白4とカカえるくらいのもの。
・黒9まで完封して黒厚い。
※これは白がつらいので、あらかじめ9に備えが必要。
 なお白8を省くと、黒8でトン死する。
【2図】
・前図のように完封されるのはひどいから、白4、6とサガった形。
・しかし、これには黒7のコスミが筋で、隅に手が生じる。
・白8のアテはやむなく、黒13までのエグリは大きい。
※白は根拠を失った。
【3図】
・黒1のツケコシに、白2と下から受けるのもひとつの手筋である。
・白8まで辺に展開するのが白の作戦だが、黒も7まで大きく稼いで不満はない。
※途中、白4でaとカカえるのは、黒4で1図に戻る。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、97頁)

封鎖する:第16型


第16型
【テーマ図】
〇小目の一間バサミ定石からの変化形。
 封鎖は相手の進出の急所を直撃するところか始まる。
 それがダメヅマリを衝いていれば効果が大きい。
【1図】(失敗)
・黒1、3の二段バネはきびしそうにみえるが、白4の単バネが黒の勢いを削ぐいい手。
・黒5のツギはやむを得ず、白6にノビキられては息が切れている。
※これでは白のダメヅマリを衝いてはいない。
【2図】(正解)
・黒1の点が白の進出とダメヅマリの両方を見据えた急所。
・白2のツケなら黒3とワリ込んで切る。
・黒9まで手厚い。
※黒aは先手、逆に白aなら黒bとノビてよし。
なお、左辺重視なら白2に黒c、白5、黒d。
【3図】(変化)
・黒1に白2は堅実な受け。
・黒は3と戻るくらいのものだから白先手。
※白2でaは黒bと打たれ、ここは進出しづらい。
 なお、白2を省くと、黒2のマクリから、白c、黒d、白e、黒fがきびしい手段となる。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、99頁)

封鎖する:第26型


第26型
【テーマ図】
・上辺の黒を助けるのがテーマ。
 そのためには中央の白を封鎖して取り込まないといけない。

【1図】(失敗)
・黒1のアテから3とシボるのが、まず目につく筋だろう。
・白4に黒5とアテても、シチョウにはならない。
・黒7から9は、白14まで黒破綻する。
※また、黒7で12のカケは、白14の切りで黒無理。

【2図】(正解)
・黒1のハサミツケが封鎖の手筋。
・白2の取りなら、黒3とオサえてよい。
・白4には黒5から7まで、オイオトシでかなめ石が落ちる。
※なお、白2で5のブツカリには、黒aのヒキで白は打つ手がない。
【3図】
・白の最強のがんばりは前図白4で、白1のツケである。
・しかし、これには黒2のハネ出しが強手。
・白3から5のアテに、黒6から8とアテて、天下コウ。
※白のツブレといっていいだろう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、109頁)

第4章 形を崩すの例題


第1部第4章 形を崩す
・形を崩すというのは、多くの場合、相手の形の急所に一撃して、働き、効率の悪い愚形にさせることを意味する。
・愚形は、アキ三角や陣笠、ダンゴ石などさまざまな形があるが、要は石の働きの悪い重複形のことである。
・碁は一面では、石の効率性を争うゲームだから、相手を愚形に追い込めばそれだけ有利になるともいえる。
☆代表的な例をあげて、説明しておこう。

【1図】(ノゾキ)
・黒1が白の形を崩す急所のノゾキである。
※切りを防いでaと打てば、アキ三角の愚形で最悪の形。
・それを避けて白2と断点を守っても、白は愚形に変わりはない。
※黒1の一発で、白は眼形が失われた形。

【2図】(急所の守り)
・白番なら1と急所を守るところ。
※これで白は一気に強い石になり、急な攻めはなくなる。
反対に上辺の黒は弱くなり、白aなどの攻めが脅威になる。
一手の差で完全に攻守交替したということである。
【3図】(急所の一撃)
・黒1が白の根拠を取る急所。
・封鎖を避けて白2と押すが、黒3とハネられて困った。
・進出するには白4しかない。
※アキ三角の愚形になるが、仕方がない。
・白の形にくらべ、黒は5と守って好形。
【4図】(切り)
・前図、白4のアキ三角はつらいから、白1とツケて進出を図る。
※しかしこれはもっと悪い結果になる。
・黒2が強手で、白は5、7から生きるしかない。黒厚い。
※白1で4のハネも、黒2と切られて悪い。
【5図】(コスミ)
・黒1に白2とコスむのは、黒3の押しに白4とノビるしかない。
・黒a、白bの先手利きからみれば、白4はアキ三角であり、この進出もすでに形が崩れている。
※白は眼がなく、一方的に攻められる。
【6図】(俗筋)
・シチョウが悪いからといって、黒1とアテ、白2に黒3とアテてしまうのは味気ない。
・黒5は手厚いが、白に右辺に先着されて、黒は棒石になりかねない。
※黒5でaのヒラキなら、白5のマゲが手厚い。
【7図】(カケ)
・黒1のカケが手筋。
・白2とアテれば、黒3から5のシボリが気持ちいい。
※白はダンゴ石となり、形が崩れる。
※ちなみに、隅の白三子は、黒aには白bでよく、他の手もうまくいかない。
 黒からのちにcが狙い。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、110頁~111頁)

形を崩す:第2型


【形を崩す:第2型】(黒番)
・相手をダンゴ石にさせる常用の手筋である。
・本型の場合、相手をダメヅマリにして重くさせる効果もある。
・原図は「活碁新評」所載。

【原図】
【1図】(失敗)
・黒1と打って、逃げ出せないことはない。
※しかし、白に左右を固められて、黒は得にならない。
 はっきりした根拠を持つまで、黒が負担になるであろう。
※すぐの逃げ出しでなく、柔軟な発想も必要。

【2図】(失敗)
・黒1のツケもひとつの筋ではあるが、この場合は白2と取られて、つまらない。
※次図の気持ちいいシボリを逃しただけでなく、黒三子を一手で取られたため、あと何も利かなくなっている。
【3図】(正解)白4ツグ
・黒1のホウリ込みから、3、5とシボるのが、形を崩す手筋。
※白をダメヅマリにし、重くしている効果もある。
・ここで黒7と動き出すなら、1図と違い十分考えらえられる。
※互角以上の競り合いであろう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、113頁)

第4章 形を崩す 第5型

 
【第4章 形を崩す 第5型(黒番)】
・形を崩すのと形を整えることは、表裏の関係にある。
 黒が急所を衝くか、白が守るか。
 一手の差で石の強弱が入れ替わる。
※原図は「活碁新評」所載

≪棋譜≫117頁、問題図


≪棋譜≫117頁、1図

【1図】(正解)
・黒1のノゾキが、白の断点をねらった、形を崩す手筋。
・白2と守れば、黒3とトンで、攻めの態勢が整う。
※白は眼形を失い、弱い石になる。
※白番なら、1と守るのが、相場。
 一手の価値があり、強い石となる。

≪棋譜≫117頁、2図

【2図】(変化)
・黒1に白2が手強い抵抗手段だが、この場合は黒3のサガリが強手。
※黒aの躍り出しとbのツケが見合い。
黒bのツケに白cのツギなら、黒dの切りが成立。
 攻め合いは白が勝てない。

≪棋譜≫117頁、3図

【3図】
・白が1図のように攻められるのを嫌うなら、白2のツケも考えられる。
・黒は3のハネ出しから、手順に9まで手厚く封鎖して十分の形。
※なお、黒3で6の下ハネは、白5とノビられて、生きても大損。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、117頁)

形を崩す:ハサミツケ【参考譜11】宮沢吾朗vs小山靖男


【ハサミツケ】
・相手が打ちたいところを先回りして打つのが筋になることがある。
・封鎖の筋とも関連のある手段である。

【参考譜11】
〇第35回NHK杯戦1回戦
 黒 宮沢吾朗
 白 小山靖男
・黒1のハサミツケが強烈な手筋。
※通常は、黒aとハネ、白1とノビるところ。
黒1は白bなら黒aだが、白はbにツグわけがない。
【1図】(実戦)
・黒1のハサミツケには白2と出るしかない。
・黒3の切断も勢いであり、白は4のアテから6とシノギを図る。
・黒7に筋よく白8とハネたのが悪かった。
・ここは愚直に俗っぽく白9とアテて出ていくのが、よかったようだ。
・白14に黒15とハネ出されては、白が苦しい。
※白はいろいろもがいたが、結局最後は白の大石が召し捕られた。
※豪快な武闘派、宮沢七段(当時)の気合あふれる一気の攻めが奏功した。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、133頁)

形を崩す:第21型


【形を崩す:第21型】(黒番)
・互いに切り結んで一手も揺るがせにできない局面。
・白の弱点を衝いて、形を崩す手筋を発見してほしい。
【原図】
【1図】(失敗)
・黒1のアテから、3、5のハネツギは無策というしかない。
※隅は生きたが、外はすっかり白が厚くなってしまった。
・黒7から9と動き出してみても、白十分の戦い。
※これでは、白の弱点にまったく迫っていない。

【2図】(正解)
・黒1のハネが白の弱点を衝いた手筋。
・白2のオサエなら、黒3、5と出るのが手順。
・白は6、8と取り、黒は9と取り合うフリカワリである。
※白2の一子が無駄石になっている分、黒有利とみられる。

【3図】(変化)
・前図を避けて、白2のアテから4のツギなら、黒5の躍り出しが手筋。
・白8と取られても、黒は7とワタって、まずまずの結果だろう。
※なお、白4でa、黒5、白6、黒b、白8の変化もある。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、135頁)

形を崩す:第22型


【形を崩す:第22型】(黒番)
・白の形を崩す絶対の急所がある。
・実戦でもよくお目にかかる形なので、この際しっかり頭に入れていただきたいもの。
・原図は「活碁新評」所載。

【1図】(失敗)
・黒1のトビは、白2と逃げられて、白の形を崩しているとはいえない。
・黒3と攻めようとしても、白4と進出されて、はっきりしない戦いだろう。
※なお、黒1でaは、白bと受けられて、白が好形になる。

【2図】(正解)
・黒1のツケが白のタケフの急所であり、また弱点ともいえる。
・愚形でも白2とツグよりなく、黒3、5から7とノビて、十分戦える。
※なお、白2でaのオサエは、黒2の切りがきびしく、白苦しい。

【3図】(変化)
・黒1には白2とフクラみたくなるが、これはよくない。
・黒3のハネが緩みのないきびしい手。
・白4には黒5と二段バネされ、白6では黒7、9を利かされて、白重苦しい。
※白は前図にしたがうほかないところ。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、136頁)

重くして攻める:第12型


第12型
・白△とツケたところ。
・形になじんで打つとチャンスを逸する。
・白の連絡具合に注目して、傷を発見することが肝要。

【1図】(失敗)
・考えずに打つと、手拍子で黒1とハネてしまいそう。
・すると、白2を利かされて、4の攻めがきびしくなる。
※白が強化されただけに、黒の苦戦が予想される。
※黒1では、もっときびしい手がある。

【2図】(正解)
・黒1の出がきびしい。
・白2と隅を受ければ、黒3の両ノゾキがあって、白は分断される。
・白4はやむを得ず、隅は大きく生きるが、白四子は重い石となってしまう。
※なお、黒3で4は、白aとかわされる。

【3図】(変化)
・黒1には、白2とツケる変化もある。
・黒はいきおい、3、5と隅を取り切るくらいのもの。
・白は4から6と形を作り、前図の浮き石となることはない。
※しかし、黒も隅を地にして不満はない。白はaがねらい。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、153頁)

重くして攻める:ハネ込み【参考譜12】張栩vs小山竜吾


【ハネ込み】
・形は違うが、ハネ込みも形を崩し、重くする手段として有力である。
・白が断点の守り方に迷うように打つのがよい。

【参考譜12】張栩vs小山竜吾
第10期竜星戦本戦
 黒 張栩 
 白 小山竜吾

・黒1が断点をねらったハネ込みである。
・白aと切るのは黒bで苦しいから、白bと受けるしかないが、このとき断点の守り方が悩ましい。
【1図】(実戦)
・黒1に白2のアテから4のカケツギは、黒5が気持ちのよい利かしとなって、つらい。
・白8までの形は、石が重複して重くなっている。
※といって、白4で5は、黒4、白6。
 この形も、白やる気がしない。

【2図】(実戦・続)
・続いて、白1から3のツケ切りがサバキの手筋だが、黒4のヒキが冷静な手だった。
・白5のヒキには、黒6から8の二段バネがきびしい。
※白は上下を連絡する手がなく、結局上方の白が取られてしまった。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、155頁)

重くして攻める:鼻ヅケ【参考譜13】羽根直樹vs小林覚


【参考譜13】羽根直樹vs小林覚
第31期棋聖戦挑戦者決定戦
 黒 羽根直樹 
 白 小林覚

・白1の鼻ヅケが黒の形の急所である。
※かなめの黒二子をねらって、ここから局面を動かして、白の形を整えるのがいい。
 黒はシノギに追われる。
【1図】(実戦)
・白1の場所は攻防の急所である。
※黒の出足を鈍らせ、重くして攻める拠点となっている。
・黒2には白3と出て、黒を分断する。
・黒は4のハネから6と、シノギに専念するほかはない。
・逆に、白は7から9と堂々の進軍で、完全に攻守が入れ替わった。
・白11から13の二段バネが切断の筋。
・白23と眼形の急所を直撃しては、勝負はあった。ここで黒投了。
※小林覚九段が10年ぶりに棋聖挑戦を決めた一局である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、159頁)

重くして攻める:第18型


【第18型】
・一団の白石をどう重くして攻めるか。
・ふた通りほどの手段が考えられるが、どちらも実戦で多用される手筋である。
・原図は「活碁新評」所載。

【1図】(失敗)
・黒1と出るのは、白の形に節をつける意味でも逃せない。
・しかし、白2のオサエに、黒3が生ノゾキと呼ばれる筋悪の手。
・白4のツギのあと、白aのハネが残っている。
※黒bも同様の生ノゾキ。悪手の見本である。

【2図】(正解)
・黒1のハサミツケが常用の手筋。
・白2のツギなら、黒3のトビで断点をねらうのが気持ちのいいところ。
※白aとツグほかなく、黒bと改めて絶好調である。
※白2でaなら、黒の切りで分断する。

【3図】(別解)
・もうひとつの手段は黒1の切り。
・白2のノビに黒3のノゾキが急所。
※白aと断点を守っても、白の姿は重く、攻めが期待できる。
※黒1で単に3とノゾくと、白aのカケツギが好形になってしまう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、161頁)

第6章 手数を縮めるの例題


第1部第6章 手数を縮める

【1図】(ホウリ込み)
・黒1のホウリ込みがダメヅマリにする捨て石の筋。
・白2と取らせて黒3とアテれば、白の手数は三手。黒の一手勝ち。
※黒1で3のアテは失敗。
 白1にツガれて手数は四手。逆に黒が一手負けになってしまう。

【2図】(ワリ込み)
・黒1のワリ込み。
※これも捨て石の活用による、手数を縮める手筋である。
・白2に黒3のアテから5のサガリまで、黒の一手勝ち。
※このあと、白aなら黒b。
※黒1で5は白1にツガれて黒負け。

【3図】(切り)
・黒1の切りが出発点。
・白2のアテに、黒3と二目にして捨てる石塔シボリの筋である。
・黒7のホウリ込みもダメヅマリにする手筋で、黒9のツギまで黒一手勝ち。
※切りから捨て石を利用する筋は数多い。

【4図】(ハネ)
・黒1のハネから、緩まずつめるのが手筋。
・白4の切りには、黒5で一手勝ちだ。
※黒1で2は、白1とアテられて失敗。
※攻め合っている本体を攻めるのが、攻め合いの基本型。
 枝葉を攻めても、仕方がない。

【5図】(オキ)
・黒1は白の形の急所を衝いて、手数を縮める手筋。
・白2と黒3のところが見合いで、黒の一手勝ちである。
※なお、黒1でaは、白1と眼を持たれて、セキとなり、失敗。
※眼持ちが手数を延ばしている。

【6図】(ハサミツケ)
・黒1のハサミツケが白の急所を衝いた手筋。
・白2には黒3とワタって、黒一手勝ち。
※なお、黒1で3のハネは、白1、黒a、白bで、黒一手負け。
※正解の黒1は、2と3を見合いにした急所。

【7図】(ツケ)
・黒1は白の急所を衝いた手数を縮める手筋。
・白2、4に対しては、黒5のアテで、黒が一手勝っている。
※なお、黒1で5のアテは、白aとコウにする筋がある。
※黒1で2は、白1でやはり手になる。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、164頁~165頁)

手数を縮める:第2型


【第2型】
・黒の手数は三手。白の手数はわかりにくいが、△の白四子が攻め合う本体だから、やはり三手。
・しかし初手を誤ると、白の手数を増やしてしまう。

【1図】(失敗)
・黒1、3のハネツギは白2と受けられて失敗。
※白の手数は三手あり、一手もつめていない。
・白4とつめられて、黒は一手負け。
※この黒1のハネは、枝葉の白二子を攻めてしまった理屈となる。

【2図】(失敗)
・黒1のサガリも白2と受けられて、黒一手負け。
※aのところは「内ダメ」といって、眼のある白が有利。
 黒がaとつめなければならず、白だけの手数になる。
 白4の時点で、黒は外ダメの二手、白は三手。

【3図】(正解)
・黒1が手数を縮める手筋。
※白がどう受けようと、白の手数は延びない。
・白2には黒3が筋で、黒の一手勝ち。
※本図は眼あり眼なしも時によるケースで、眼があっても、必ずしも有利でない例である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、167頁)

手数を縮める:オキ【参考譜14】依田紀基vs結城聡


【オキ】
・相手の手数を縮めるには、形の急所を直撃しなければならない。
・急所は眼形の急所と重なることも多い。

【参考譜14】依田紀基vs結城聡
第30期碁聖戦挑戦手合第1局
 黒 依田紀基
 白 結城聡

・黒1のオキが白の手数を縮める手筋。
※黒はダメヅマリだが、白との攻め合いに関係するのは、本体だけで、枝葉は捨ててもかまわない。

【1図】(実戦)
・白2のハネは紛れを求めたものだが、黒3とツイで、手数が延びる。
・いきおい白4のアテに、黒5と中央の白を取り込んで、ゲームセット。
【2図】(変化)
・黒1に白2とさえぎれば、普通の応酬。
・黒3には白4から6と黒を取りながら、ダメをつめる。
※しかし、本体はぴったり黒の一手勝ち。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、168頁)

手数を縮める:第15型


【第15型】
・黒は三手ではっきりしているが、白の方は何手なのか、わかりにくい。
・とにかく三手以内で、取る工夫をしなければならない。

【1図】(失敗)
・黒1のオサエは白2のハネが利くと、手数が一手延びる。
・格言の「両バネ一手延び」のとおり、三手になり、白4とダメをつめられて、黒の一手負けになる。
※黒1ではもう少し踏み込みがほしいところ。

【2図】(失敗)
・黒1のアテから白2のツギに、黒3と二段バネする手がある。
・白は4と切るしかなく、黒5と弾けばコウになる。
※しかし、無条件で取る手があるのだから、コウでは失敗。
※なお黒1ではaでもコウ。

【3図】(正解)
・黒1のオキが手数を縮める手筋である。
・白2のハネには黒3のナラビが関連する手筋で、白はどうしても手が延びない。
➡黒一手勝ち。
※この黒1、3は「タヌキの腹つづみ」と呼ばれる手筋である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、182頁)

両にらみの筋:ツケコシ【参考譜16】瀬戸大樹vs山下敬吾


【ツケコシ】
・両にらみは相手の応手によって実利に就くこともあるし、厚みを築くこともある。
・そして、その後の作戦も変わってくる。
【参考譜16】瀬戸大樹vs山下敬吾
・第26期新人王戦3回戦
 黒 瀬戸大樹
 白 山下敬吾
・白1のツケコシは相手の様子をうかがった手である。
※実利を稼ぐか、じっくり辛抱するか。
 いまがそれを聞くタイミングとみたのである。
【1図】(実戦)
・白1に黒2から4とサガって辛抱したのは、やむを得ないと判断したのだろう。
・黒は6から右辺の白を攻める構想だが、白の実利も大きい。
【2図】(変化)
・黒1の反発には、白2から6のアテがある。
・黒7に白8と黒二子を取り込んでは厚い。
※左辺の黒の一団が薄く、全局的に白が打ちやすい。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、196頁)

両にらみの筋:第30型


【第30型】
・隅は生かしても左方の大石を仕留めるには、どうすればいいか。
・鮮やかな手筋が秘められている。
・原図は「玄玄碁経」「官子譜」所載。

【テーマ図】
【1図】(失敗)
・黒1のツケコシは切断の手筋だが、大石を生かしてしまうのが難。
・白2には黒3のアテ込みが筋で、黒5、7と隅は取れる。
・黒5、7と隅は取れる。
・その反動で白6と一眼を作らせてしまう。
※切断して、さらに眼を取る工夫が必要。

【2図】(失敗)
・黒1の切りはひとつの筋、応手には注意を要する。
・白2からアテなければいけない。
※白aのアテは黒bが利き筋となって、黒6で切られる。
・黒3からねばっても、白6まで生き。
・コウではなく、白8で生き。

【3図】(正解)
・黒1のアテツケがすばらしい筋である。
・白2には黒3のツケコシが手順で切断できる。
※白2で4のオサエには黒2に切り、白は眼ができない。
※また白2で5のツギには、黒a、白4、黒3。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、221頁)

根拠を奪う:第6型


【第6型】
・白の形の急所に直撃する筋である。
・本型は根拠を奪う代表的な例といえるだろう。
・一連の変化をよく心得ておくことが大切。
【テーマ図】

【1図】(正解)
・黒1のノゾキが、2の切りと5のワタリを両にらみにした、根拠を奪う手筋である。
※白は隅に半眼あるだけの形となり、今後も攻めの余得を期待できる。
※なお、白2でaは間に合わず、黒2の切り。

【2図】(変化)
・白2のコスミツケには黒3の切り。
・白4が手数を延ばす手筋だが、黒5から7の反撃があって、白がうまくいかない。
※黒11までaまたはbのシチョウと黒cのツギが見合い。
 この変化手順をよく知るべし。

【3図】(変化)
・白の無理な抵抗手段をもうひとつ挙げておく。
・白2から4を利かして、6が紛らわしい。
・これには黒7の切りから9の鼻ヅケが好手である。
※ただし、周囲の状況が変われば、2図、3図が成立しない場合もある。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、229頁)

根拠を奪う:ケイマ【参考譜19】張栩vs馬暁春


【ケイマ】
・相手の根拠を脅かしながら、自分の根拠を守ることができれば、一石二鳥の働きがある。
 攻防兼備の手である。

【参考譜19】張栩vs馬暁春
第13回富士通杯本戦2回戦
 黒 張栩
 白 馬暁春

・黒1のケイマから3のコスミツケが攻防兼備の好手である。
・白aなら生きているが、それではつらすぎるから、白は外へ出ざるを得ない。

【1図】(実戦)
・白は1と進出するくらいのもの。
・黒は2と補強を兼ねて右上の白の攻めをうかがう。
・黒4から白5に、調子で黒6とノゾいたのがきびしい。
・黒10から12と改めて、黒ペースの進行であろう。

【2図】(大きい白2)
・黒1の封鎖も考えられるが、白2の守りが大きい。
※白aと分断するねらいも残って、黒が薄い。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、236頁)

根拠を奪う:第17型


【第17型】
・白のダメヅマリを衝くエグリの手筋である。
・急所を一撃すれば、白は打ち方に困るだろう。
・白は被害を最小限に食い止めたい。

【テーマ図】
【1図】(失敗)
・黒1は打ち込みの急所だが、この場合は白2と受けられて、後続手段がない。
※このあといくら動いても相手を固めるだけだろう。
※なお、黒1でaのひとつの筋だが、白bで持ち込みになる。

【2図】(正解)
・黒1のツケが急所である。
・白2なら黒3から7まで隅を生きる。
※白4でaのサガリは、黒6、白5、黒bから白cには、黒dの石塔シボリがあって、白まずい。
※なお、白4で5は黒aのハネでサバキ形。

【3図】(変化)
・黒1のツケに白2なら黒3のノビ。
・そこで白4なら黒5のハネが機敏。
※白aなら黒bがぴったりだ。白cなら黒a。
※白4でcなら、黒4のハネで生き。
※また白4でaなら黒cの進出となるだろう。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、242頁)

地を荒らす:第4型


【第4型】
・白のダメヅマリを利用して、ヨセる形がある。
・内側からワタリをうかがう常用の手筋でもある。

【1図】(失敗)
・黒1のハネツギは小さくはないが、物足りない。
・白4の守りが正着。
※これを手抜きすると、黒aのコスミで大きくヨセる手筋が残ってしまう。
※黒1は白3のハネツギとくらべると、先手9目のヨセ。

【2図】(正解)
・黒1のカドが白のダメヅマリをとがめるヨセの手筋である。
・白2に黒3とオサえるのがよく、白4の取りに、黒5、7を利かす手順。
※白がこれを嫌うなら、早めにaのハネ一本を利かすのが大きい。

【3図】(失敗)
・黒1はいいとして、3のハネはやや損なヨセである。
・これに対しては白4が正着。
・黒5を打たざるを得ず、後手を引いてはおもしろくない。
※白4で5は、黒4、白a、黒b、白c、黒dで、コウダテ次第では有力。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、251頁)

地を荒らす:第6型


【第6型】黒番
・ヨセではどちらから打っても先手になる「両先手」が最優先される。
・しかしたとえ後手でも、大きなヨセになれば、優先順位は高くなる。
【1図】(正解)
・黒1のコスミが白のダメヅマリをねらう鮮やかな手筋である。
・白2のアテに、黒3コスミが筋で、黒はワタっている。
※白4で5は黒4。
※黒1は後手のヨセにはなるが、白地を大幅に減らした。
【2図】(先手ヨセ)
・黒1、3のハネツギは白4と守らなければならず、先手ヨセである。
※前図とは6目の差があり、選択は全局から判断するしかないだろう。
※なお、黒1で2のオキは、白4と打たれ、1図とくらべて、1目ほど損。

【3図】(白から)
・白から打てば、1、3のハネツギ。
※1図とくらべると、後手9目強のヨセで大きい。
※▲がなく、白1、3が先手になる状況なら、それを防ぐ1図のヨセは「逆ヨセ」となり、価値が高まる。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、253頁)

地を荒らす:第8型


【第8型】黒番
・シボリの筋を利用して先手でヨセる常用の筋である。
・白は被害を最小にする受け方を工夫しなければならない。

【1図】(失敗)
・黒1のハネは、白2のコスミがぴったりした受けで、たいしたヨセではない。
※このあと、黒aは白bと受けて、黒cなら手抜きもできる。
※なお、黒1で2は、白dと受けて持ち込み。

【2図】(正解)
・黒1から3の二段バネが筋である。
・白4の切りには、黒5から7とシボリ、9のコスミが筋。
・白14まで先手で、白地を大幅に減らした。
※この進行は理想的。これだけ荒らせば、いうことはない。

【3図】(変化)
・黒1に白は2の受けが工夫した手である。
※aの点はどちらが打っても大きいが、後手になる。
※黒aなら前図にくらべ、5目ほどの得でしかない。
※前図の黒の先手ヨセを阻止した白の抵抗手段である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、255頁)

地を荒らす:第10型


【第10型】黒番
・明治4年、村瀬秀甫が本因坊秀和との対局で見損じた有名な形。
・白の弱点を衝いて得を図る手がある。

【1図】(失敗)
・黒1は俗手。
・白2と受けられて、手がない。
※後年、秀甫は著書「方円新法」で「黒たちまち見損じて不意の負けを取りたり。――結了して碁子を碁笥に収むるまではすこしも気を疎放すべからず」と書いた。

【2図】(正解)
・黒1にアテ込む手が妙着である。
・白2のアテには黒3とサガリ、これでどうしても白四子が助からない。
※秀和・秀甫戦は秀甫の先相先先番。本型とは白黒逆だが、秀甫の3目負けだった。

【3図】(変化)黒11取る(1)
・黒1、3に白4とアテても、事情は変わらない。
・黒5から7と切り、黒9と単にアテるのが大切な一着。
・白10と取るしかなく、黒11と抜いてやはり白は助からない。
※黒9で1にホウリ込むと失敗。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、257頁)

地を荒らす:ツケ【参考譜20】趙善津vs山下敬吾


【ツケ】
・「サバキはツケから」というが、この局面では左右を関連づける手筋である。
・相手がどう受けても手になっている。

【参考譜20】趙善津vs山下敬吾
・第22期NECカップ1回戦
 黒 趙善津
白 山下敬吾
 
・白1のノゾキを利かして、3のツケが黒地を荒らす手筋である。
※白からaあるいはbが切断をみて利いていて、黒は動きが不自由。
【1図】(実戦)
・白1に黒2と受けたのが実戦。
・白3を利かして、さらに白5のツケが第二弾の荒らしの筋。
・黒6はやむを得ず、白15まで生きては勝負あった。

【2図】(変化)
・白1に黒2の受けは白3の切りから、9にツイで攻め合い。
・黒10から12は手数を縮める筋だが、白19までコウになっては、黒いけない。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、261頁)

いじめる:第1型


【第1型】
・形の急所ははっきりしているが、問題は白の応手。
・受け方を間違えると、死にまであるので、細心の注意を払ってほしい。
【1図】(正解)
・黒1が「三目の真ん中」が二つ重なった大急所。
・白2のツギは気が利かないが、この場合最善である。
・黒3にはコウに備えて、白4までセキ。
※黒1は先手9目のヨセ。
※なお、白2でaは、黒2に切られて、トン死。
【2図】(変化)
・黒1に白2のブツカリも、前図と同じく正解である。
・黒3には白4とアテていい。
・コウを避けて、白6までセキ。
※なお、黒5のツギで6とホウリ込むのはいけない。 
 白5に取られて、白は生き。
【3図】(変化)
・黒1に白2の受けは、黒3から5のホウリ込みがきびしい。
・白6の取りに、さらに黒7とホウリ込んでコウ。
※セキは地はゼロだが、無条件の生き。
※それをむざむざコウにしては、白失敗である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、272頁)

いじめる:第5型


【第5型】
・ダメヅマリに追い込む常用の筋がある。
・いじめの筋を活用して、白を眼ふたつにしたい。
・自身のダメヅマリにも注意を要する。
・原図は「玄玄碁経」所載。
【1図】(失敗)
・黒1のハネは典型的な俗筋。
・黒3のアテから5とコウにねばる手がないわけではないが、正解の筋には及ばない。
※白はまずはコウを取って、様子をみることになるだろう。
 黒が謝れば、手抜きできる。
【2図】(失敗)
・黒1のコスミから3のトビは手筋だが、隅の特殊性がからんで、この局面では失敗。
・白4のアテに5とツグと、白6から8でオイオトシ。
・黒5のツギでは、前図のようにコウにするよりない形。

【3図】(正解)
・黒1から3のヒキがこの場合の手筋。
・白4には5で、白6に黒7のサガリがオイオトシを避ける好手。
※白6で7のハネは、黒6がある。
※白は8と眼ふたつで生きるほかない。いじめ成功である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、276頁)

いじめる:ハネ【参考譜22】山田規三生vs山下敬吾


【ハネ】
・ハネにはふところをせばめて、眼形を脅かす効果がある。
・相手ががんばれば、全体の眼形が怪しくなる。

【参考譜22】山田規三生vs山下敬吾
第30期名人戦リーグ
 黒 山田規三生
 白 山下敬吾

・△のオサエに、地合いで足りない黒はあえて、手を抜いてほかにまわり、投げ場を求めた場面。
・白1のハネから3のアテで、黒は投了した。
【1図】(オキ)
・黒二子を助けたいところだが、もし黒1とツグとどうなるか。
・白2のオキが鋭い。
・黒3に白4とアテる捨て石作戦が常用の筋。
【2図】(花見コウ)
・前図に続いて、白1のホウリ込みが決め手。
・黒2に白3とアテて、黒の大石はコウ。
※これは白の花見コウで、投了もやむを得なかった。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、283頁)

コウの攻防Ⅰ:【第1型】


【第1型】
・白三子を取られたあとに、コウの仕掛けが残るという常用の筋である。
・基本手筋なので、しっかり自家薬籠中のものにしていただきたい。
・原図は「碁経衆妙」所載。

【1図】(正解)
・黒1のハイが出発点である。
・白2のハネに黒3と切り、5のアテを利かすのがポイント。
・白6とポン抜くのが正しく、黒7とハネる。
※これで一応白を取ったようにみえるが、白からの反撃が残っている。

【2図】(正解・続)
・前図に続いて、白1のホウリ込みから3と再度ホウリ込むのが手筋である。
※黒はアタリとなっているため、コウを争うよりない。
※しかし、白もコウに負けると損が大きい。仕掛ける時機が問題。

【3図】(類型)
☆同じ筋のコウをあげておく。
・黒1とハネ、白2のアテに黒3でコウ。
※コウに勝って、aにツゲば、白三子が取れる。
※この黒3は、白が「1の一」にすぐに入れない隅の特殊性を利用した手筋である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、296頁)

第11章 コウの攻防Ⅰ~ハネ【参考譜26】高尾紳路vs橋本昌二


【ハネ】
「ツケにはハネよ」でハネは接触戦の基本だが、一線のハネには、フトコロをせばめ、ダメをつめる作用もある。
【参考譜26】
第51回NHK杯戦1回戦
 白 橋本昌二
 黒 高尾紳路

【参考譜26】
・三角印の黒のツメに、白が三角印の白と反発したところ。
・白1と打っていれば安全なのだが、利かされの気分もあり、実戦心理としても打ちにくいもの。

【1図】(実戦)
・黒1のハネが手数を縮める手筋。
・黒3から5と固め、一手ヨセコウ。
・このあと、右下を二手連打するフリカワリとなったが、黒満足のワカレ。

【2図】(変化)白6ツグ
・黒1に手拍子で白2とオサえるのは、いけない。
・黒3のホウリ込みが手数を縮める手筋。
・黒5、7とつめて、本コウになっては、実戦とは大差。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、317頁)

第12章 眼を奪うの例題


第12章 眼を奪う

【1図】(ハネ)
・黒1がフトコロをせばめる攻め。
※ハネて殺すから「ハネ殺し」と呼ばれる。白はどう受けても生きがない。
・白2には、黒3が急所で、7まで白死。
※また、白2で7は、黒6。
 白2で4には、黒5。

【2図】(打ち欠き)
・黒1の打ち欠きもフトコロをせばめる攻め。
・白2の取りに黒3で、五目ナカ手の白死。
※フトコロをせばめて急所にオク、いちばん多い死活の例である。
※黒1で3の攻めは、白a、黒b、白1、黒cでセキ。

【3図】(ツケ)
・黒1のツケもフトコロをせばめる攻め。
・白2から4と取っても、生きる広さはなく、黒5でナカ手の白死である。
※黒1で3は、せばめたことにならず、白1と広げて生き。
 また、内部からの攻めも白生き。

【4図】(オキ)
・黒1のオキが4の切りからウッテガエシをねらう急所。
※内部から攻めである。
・白2と切りを防げば、黒3を利かして7まで隅のマガリ四目の白死である。
※なお、黒1で3は、白1と守られて生き。

【5図】(オキ)
・黒1も眼形の急所を直撃する攻めである。
・白2なら、そこで黒3とフトコロをせばめる手順。
※黒1で3はフトコロをせばめる攻めだが、白aと取られて失敗。
 1と三角印の黒のところが見合いで白生きている。

【6図】(ツケ)
・黒1のツケが急所の攻め。
・白2のハネには黒3とサガり、白死。
※なお、黒1では3でも白死。
※白2で3のツケも筋だが、黒2、白5、黒aでやはり白死。
 なお、黒1で4とせばめる攻めは、白3のトビで生き。
【7図】(ホウリ込み)
・黒1のホウリ込みはフトコロをせばめる攻めか急所の攻めか、判断のわかれるところ。
・それはともかく、黒1に白aのツギなら黒bのハネだし、白cの取りなら黒dで、左方は欠け眼である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、324頁~325頁)

眼を奪う:【第1型】



【第1型】(黒番)
・フトコロをせばめる攻めか、それとも急所を攻めるか。
 ダメヅマリに注意してじっくり読んでいただきたい。
【1図】(失敗)
・黒1の切りは白2のアテが好手。
※黒aと打っても、白bでオイオトシ。
※なお、白2でbのアテは、黒2にノビられて白死。
※黒1でaも、白bでオイオトシ。
※黒1で2も白1で生き。
※内部からの攻めはすべて失敗。
【2図】(失敗)
・黒1の元ツギは、局面によっては成立するひとつの筋だが、この場合は白2とツガれて何ごともなし。
※ほとんどの手は検討したが、まだひとつ残っている。
 それが盲点の一着なのである。
【3図】(正解)
・黒1がフトコロをせばめる手筋である。
・頭をぶつけるイメージと、白2でアタリとなる姿から、盲点になりやすい。
・冷静になってみると、白2には黒3のアテから5が先手。
※ダメヅマリのため、白死である。
(山下敬吾『新版 基本手筋事典』日本棋院、2011年、326頁)

山下敬吾九段の実戦譜~高尾紳路vs山下敬吾(平本弥星『囲碁の知・入門編』より)


 冒頭に述べたように、 山下敬吾九段の“神童ぶり”は、平本弥星氏もその著作で、高尾紳路氏の棋譜とともに、紹介されている(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、57頁~58頁)。
・少年少女の頂点は、平成12年に第21回を迎えた「少年少女囲碁大会」である。
 中学生の部と小学生の部に約100名(男女区別なし)ずつ、各県で代表となった少年少女たちが全国から集まり、8月に日本棋院で盛大な大会が開かれる。
・最年少の小学生名人は、2年生で優勝した山下敬吾(昭和61年、北海道・旭川東栄小、平成5年入段、12年七段・碁聖)と井山裕太(9年、大阪・孔舎衛東小)。井山くんは院生になり、第二の山下敬吾を目指している。
・21世紀の囲碁界期待の星、山下敬吾と高尾紳路(3年入段、12年七段)の初対局(昭和61年小学生決勝)と、それから14年後の二人の対局の棋譜を掲載しておく、と平本氏は記している。
(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、57頁)

 その二人の棋譜を紹介しておきたい。

<少年少女の囲碁>
〇昭和61年(1986)8月5日 NHK
第7回少年少女囲碁大会・小学生の部決勝
  黒 高尾紳路(千葉・桜木小4年)
  10目半勝ち 白 山下敬吾(北海道・旭川東栄小2年)

高尾VS山下(1986年)
【棋譜】(50手、以下略) 黒47コウ取る(39)、白50同(38)


〇平成12年(2000)10月26日 日本棋院
第26期名人戦三次予選
 中押し勝ち 黒 高尾紳路
  白 山下敬吾

【棋譜】(77手、以下略)

(平本弥星『囲碁の知・入門編』集英社新書、2001年、58頁)