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歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪囲碁の死活~張栩『基本死活事典』より≫

2025-08-03 18:00:08 | 囲碁の話
≪囲碁の死活~張栩『基本死活事典』より≫
(2025年8月3日投稿)

【はじめに】


 今回のブログでも、引き続き、囲碁の死活について次の事典を参考にして考えてみたい。
〇張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]
 張栩九段は、林海峰名誉天元門下である。
 張栩九段は、詰碁作りを趣味としており、扇子の揮毫にもお気に入りの自作の詰碁を用いるほどであるそうだ。読みの速さ、深さ、正確さで知られており、特に局所的な死活の判断に強い棋士である。またコウの名手としても知られる。
 林漢傑八段も同じく林海峰名誉天元門下で、張栩九段が兄弟子であり、同様に詰碁や古典詰碁についての著作で知られている。林海峰名誉天元自身、詰碁や死活の有名な著作があることを思えば、師匠の囲碁観を引き続いで、弟子のお二人は死活に明るい詰碁作家として活躍されていることになる。
 「はしがき」にもあるように、『基本死活事典』が、30年ぶりに全面改訂されることになり、改訂にあたり、旧版を整理しなおし、筆を加えたとある。趙治勲二十五世本因坊の死活事典が上下二巻であったのを、一巻にまとめた死活事典である。
 目次の項目内容を見てもわかるように、旧版には見られない工夫がある。また、旧版の下巻に集めてあった古典詰碁も、随所にちりばめられて編集してある。
 詰碁や死活に明るいだけあって、例えば、「第6章 筋<攻めの部>ホウリ込み 第1型」では、問題文に「死活のいろはといえる手筋」(549頁)と加えたり、また、「第6章 筋<攻めの部>二子捨て 第3型」は(張栩作)と断っているように自らの詰碁作家としての作品を盛り込んだりしてある。
 『玄玄碁経』や『官子譜』や『碁経衆妙』などの古典詰碁は、初級者には解くのが難しいことに変わりはない。ただ初級者向けにも、気の利いた配慮が見られる。例えば、序章の「生き形一覧」(13頁)「ナカ手一覧」(14頁)などはその一例だろう。
 「はしがき」に「本著に書かれていることは、実戦に通じるものばかりです。死活が苦手な方は、問題を解くというよりは、全部暗記するつもりで取り組まれてはどうでしょうか。」とある。この言葉は、著者の自信作のあらわれであろう。



【張栩『新版 基本死活事典』(日本棋院)はこちらから】



〇張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]
【目次】
序章
 二眼 本眼と欠け眼 眼と欠け眼の仕組み 生き形一覧 ナカ手一覧
第1章 生きと死に
 生き形 死に形 中間形
第2章 隅の死活
 二線型 六目カギ型 八目型(肩あり) 八目型(肩欠け) 八目型(肩空き)
 クシ型 一合マス 一合マス変形
第3章 辺の死活
 二線型 三線型 四線型
第4章 実戦
 三々入り1~8 ツケ1~3 地中に手あり?
第5章 一眼をめぐる攻防
 
第6章 筋
<攻めの部>
 ナカ手 ホウリ込み 中から 欠け眼 ハネ ツケ オキ トビ、下アテ 
 元ツギ 粘り封じ 二子捨て 石の下
<守りの部>
 ナカ手防ぎ ホウリ込み トビ カケツギ オシツブシ 2の一 アテ込み
 隅の特性 石の下 外から様子見 両睨み まとめ取り 欠け眼生き





さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・張栩『新版 基本死活事典』のはしがき
・序章 本眼と欠け眼
・序章 生き形一覧
・序章 ナカ手一覧
・第2章・隅の死活 六目カギ型 第27型
・第2章・隅の死活 八目型(肩あり) 第8型
・第2章・隅の死活 八目型(肩欠け) 第10型
・第2章・隅の死活 八目型(肩空き) 第7型
・第2章・隅の死活 一合マス
・第4章 実戦 星に三々入り
・第4章 実戦 星に三々入り 第3型
・第4章 地中に手あり? 第3型
・第5章 一眼をめぐる攻防 第1型
・第5章 一眼をめぐる攻防 第7型
・第5章 一眼をめぐる攻防 第35型
・第6章 筋<攻めの部>ナカ手 第1型
・第6章 筋<攻めの部>ナカ手 第7型
・第6章 筋<攻めの部>ホウリ込み 第1型
・第6章 筋<攻めの部>中から 第1型
・第6章 筋<攻めの部>欠け眼 第1型
・第6章 筋<攻めの部>ハネ 第3型
・第6章 筋<攻めの部>ツケ 第3型
・第6章 筋<攻めの部>オキ 第1型
・第6章 筋<攻めの部>トビ、下アテ 第1型
・第6章 筋<攻めの部>元ツギ 第1型
・第6章 筋<攻めの部>粘り封じ 第1型
・第6章 筋<攻めの部>二子捨て 第1型
・第6章 筋<攻めの部>二子捨て 第3型
・第6章 筋<攻めの部>石の下 第1型
・第6章 筋<守りの部>ナカ手防ぎ 第1型
・第6章 筋<守りの部>ナカ手防ぎ 第6型
・第6章 筋<守りの部>ホウリ込み 第1型
・第6章 筋<守りの部>トビ 第1型
・第6章 筋<守りの部>カケツギ 第1型
・第6章 筋<守りの部>オシツブシ 第1型
・第6章 筋<守りの部>オシツブシ 第3型
・第6章 筋<守りの部>アテ込み 第1型
・第6章 筋<守りの部>外から様子見 第1型
・第6章 筋<守りの部>両睨み 第1型
・第6章 筋<守りの部>まとめ取り 第1型
・第6章 筋<守りの部>欠け眼生き 特別型






張栩『新版 基本死活事典』のはしがき


・死活とは、囲碁の大事なルールである石の生き死に。
 それにまつわる知識やテクニックは、初心者から高段者そしてプロに至るまで、誰にとっても大事な要素。
なかでも基本死活は、勝負を競ううえで、誰もが知っておくべき事柄。

・このたび、『基本死活事典』が、30年ぶりに全面改訂されることになった。
 改訂にあたり、旧版を整理しなおし、筆を加えたという。
・まず、序章では眼と欠け眼の仕組みについての解説をした。
・第一章「生きと死に」では生き形、死に形、中間形(コウなど)という死活における三つの結論についての解説をした。
・第五章「一眼をめぐる攻防」では、一眼を作れるかどうかに特化したテーマを、さまざまな筋を分類して、解説した。
・第六章「筋」では、死活にまつわる基本手筋から古典詰碁に見られる有名な筋まで、さまざまな筋を分類して、解説した。

・本著に書かれていることは、実戦に通じるものばかりである。
 死活が苦手な方は、問題を解くというよりは、全部暗記するつもりで取り組まれてはどうだろうか。
・「基本死活」=「実戦死活」とするならば、ここで得た知識は読みの力を持つことと同等のものである。それはそのまま棋力につながるものである。

【凡例】
・詰碁ではなく、実戦を想定しているため、正解は複数ある。
・正解は代表的なものを示した。失敗、変化なども同様。
・「白生きなし」とは、黒先でも生きがないということ。
・「白死になし」とは、黒先でも死なないということ。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、3頁~4頁、6頁)

序章 本眼と欠け眼


・眼には完全な眼と不完全な眼がある。
 「本眼」(ほんがん)、「欠け眼」(かけめ)と呼ぶ。
・Aは本眼、Bは欠け眼。
 攻め手は相手を欠け眼に、守り手は本眼をつくるように打つ。
 (張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、9頁)

序章 生き形一覧


・1図は四目の生き形。
 この形で取れれば(または空間を作れれば)生き。
・ここから△に一つ加わると、五目の生き形。
・2~7図は、この形を利用したセキ生き。
(16~20頁で詳細解説)

【1図】マガリ四目と直四
【2図】セキ
【3図】セキ
【4図】セキ
【5図】セキ
【6図】セキ
【7図】セキ
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、13頁)

序章 ナカ手一覧


・1、2図はナカ手形。
 この形で取らされる(または空間しか作れない)と、△の急所で死に。
・3~7図は白死に形。
 黒aから(6図はa、bの手順で)取りにいける。
(22~29頁で詳細解説)

【1図】三目ナカ手と四目ナカ手
【2図】五目ナカ手と六目ナカ手
【3図】三目ナカ手
【4図】四目ナカ手
【5図】五目ナカ手
【6図】五目ナカ手
【7図】六目ナカ手
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、14頁)

第2章・隅の死活 六目カギ型 第27型


第2章・隅の死活 六目カギ型 第27型 隅の六目の形 
黒先白死
・隅の六目の形は、ダメが二つ以上空いていれば「生き」
  一つならば「一手ヨセコウ」
  すべて詰まっていたら「無条件死」

【1図】(正解)白死
・黒1のツケ。
・白2のツケ返しには黒3と出ておいてよい。
※白はダメヅマリのためaに打つことができない。
※白2で3は、黒2で四目ナカ手。

【2図】(失敗)コウ
・今回は黒1のオキはよくない。
・白2のブツカリから4とホウリ込まれる。
・黒5と取って本コウだが、無条件で殺せるものをコウにしては失敗である。

【3図】(参考)白生き
・白番なら、1と手を入れれば五目の地をもって生きている。
※白1ではaのマガリでもよい。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、125頁)

第2章・隅の死活 八目型(肩あり) 第8型


白死になし
・白の外壁に欠陥はない。
・問題はダメヅマリの影響であるが、黒先で白に死にはなく、最善に攻めてもセキになるぐらいである。

【1図】(証明1)セキ
・黒1のツケが急所。
・白は2とトンで受けるのが手堅い。
・黒3に白4と受ければ、黒5、6でセキになる。
※白4で5は、黒4で万年コウになる。

【2図】(失敗)一手ヨセコウ
・黒1に対し、白2とオサえるのは危険な受け。
・黒3、白4のとき、黒aとツイでくれれば白bでセキになるが、黒bとホウリ込む手があって一手ヨセコウになってしまう。

【3図】(証明2)後手ゼキ
・黒1のオキも急所の一つ。
・白2から黒5までセキになる。
※ただし、黒後手のセキである。
 黒は1図の方が優る。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、150頁)

第2章・隅の死活 八目型(肩欠け) 第10型


黒先コウ
・右辺は一線まで決まりがついた形。
・上辺のツギ方が問題になっている。
・この姿はウィークポイントを残しており、このままでは生きていない。

【1図】(正解)黒取り番コウ
・黒1が急所。
・白2のツケに黒3とアテ、白4に黒5と取ってコウ。
※白はダメヅマリでaとアタリできない。
※黒がコウを解消するときは、黒2のツギが正着で五目ナカ手の死となる。

【2図】(正解変化1)白取り番コウ
・黒1、3のとき、白4から6でもコウになる。
※この形は白取り番のコウで、白は前図より利点があるが、黒7のオサエを打たれるマイナスもある。
 どちらを選択するかは状況による。

【3図】(正解変化2)黒取り番コウ
・黒1のオキに白2のブツカリはよくない。
・黒3のノビから5とオサえられ、結局、白a、黒bのコウになる。
※取り番を黒に渡したうえに黒5のオサエも打たれては、踏んだり蹴ったりである。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、170頁)

第2章・隅の死活 八目型(肩空き) 第7型


白死になし
・Aのダメが空いているかわりに、黒▲がきている。
・気味のわるい形ではあるが、Aのダメ空きは大きなプラス。
 このまま手抜きで死なない。

【1図】(証明1)白生き
・黒1とオイてみよう。
・やはり白2のツケがよく、黒3から5のとき、今度はaのダメが空いているので白6とアテることができ、白生きである。

【2図】(証明2)セキ
・黒から打つとき、1のダメヅメが最善の攻めとなる。
・白は2のトビが最善の受けで、黒3の切りから5、7でセキとなる。
※白は3の一子のアゲハマがあり一目の地。

【3図】(証明2変化)セキ
・黒1のとき、白2の受けなら黒3のオキ。
・白4に黒5でやはりセキになる。
※白aには黒bとホウリ込み、白c、黒dとなる形は損得なし。
 ということは、白は前図より一目損である。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、180頁)

第4章 実戦 星に三々入り


【星に三々入り】
・星の構えに対し、白1と三々に侵入した場合にできる基本的な定石。
・ヨセに入ってから死活が問題になることがある。
 そこのところを研究してみる。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、420頁)

【三々入り1】
【第1型】白先生き
・定石後、黒▲オサエから黒■とハネられた場合の受け方を問う。
 常識的には、白AかBである。

【1図】(正解)白生き
・白1のツギ。
※この部分だけをみれば、最も得な受け方である。
・黒2のハネに対しては白3のマガリが手堅い受け。
※このあと、黒aには白bと受けて、隅と上辺に別々に眼を持つことができる。

【2図】(失敗)コウ
・黒2とハネられたとき、白3とオサえるのは危険。
・黒4とツケられて、ただ事ではない。
※白a、黒b、白c、黒dまで、コウにするよりない。
 1図の形が基本である。

【3図】(正解変化)白生き
・白1のとき黒2とツケてきたら、白3のハネから5のコスミツケ。
※黒aなら白b、黒bなら白aで生きている。
※黒2で5にオク手も多少紛らわしいが、白3とコスんで生きている。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、421頁)

第2章・隅の死活 一合マス


【第1型―Ⅰ】白先コウ(黒取り番)
・俗に一合マスと呼ばれる形。
・基本形とされているが、そのわりに変化が多く難解な型である。

【1図】ツケ(正解)
・黒▲は左右同形の急所。
・これに対して、白は1のツケ(aでも同じ)が最善の応手。
※このあと、黒は四通りの攻め方があり、いずれも黒取り番のコウとなる。

【2図】コウ(正解続き1)
・一つ目は、黒1のハネ。
・これに対する白の最善手は白2のブツカリとなり、黒3のハイに白4とホウリ込んで、コウになる。

【3図】白死(失敗1)
・黒1のハネに対して白2とオサえるのは、黒3のブツカリから5と切られて、困る。
・黒7と打たれた形は、五目ナカ手。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、224頁~228頁)

第4章 実戦 星に三々入り 第3型


・張栩九段は、『新版 基本死活事典』「第4章 実戦」において、星に三々入りの定石についての死活を解説している。
【星に三々入り】
・星の構えに対し、白1と三々に侵入した場合にできる基本的な定石。
・ヨセに入ってから死活が問題になることがある。
 そこのところを研究してみる。
≪棋譜≫星に三々入り定石、420頁


【第3型】黒先二段コウ
・白△と固ツギした場合、黒▲が利き筋になる意味がある。
≪棋譜≫第4章三々入り第3型、423頁


【1図】白死(正解変化)
・黒1のツケから3とコスむのが、うるさい手。
・白4から6と無条件生きを目指すと、黒7とハワれてしびれる。
※白はダメヅマリでaに入ることができない。
※これが黒▲の効果である。

≪棋譜≫第4章三々入り第3型1図、423頁


【2図】二段コウ(正解)
・黒1、3に対しては、白4とオサえるのが最善となる。
・そこで、黒5とホウリ込み、白6と取ってコウになる。
※このコウは、普通のコウではない。
 白は次にaと取れば解消だが―

【3図】二段コウ(正解続き) 白2、4手抜き
・黒からは1、3と二つのコウを勝っていかなければならない。
・さらに、黒は△とツグことはできず、黒5に△でまだコウ(ただし、白不利な二段コウ)。
※死ぬまでは大変だが、白も負担ではある。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、423頁)

大ゲイマジマリに三々入り 426頁~
【大ゲイマジマリに三々入り】
・星から大ゲイマに構えたところに、白1と三々に入った定石。
・基本中の基本といえる形だが、意外と知られていない変化が潜んでいる。
 そこのところを掘り下げて研究してみる。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、426頁)

一間受けに三々入り 434頁~
【一間受けに三々入り】
・星の黒に白1とカカり、黒2の一間受けに白3と三々に入る型。
 黒12までがひとまずの定石形である。
・この死活の周辺を研究する。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、434頁)

コスミツケから一間に三々入り 447頁~
【コスミツケから一間に三々入り】
・星へのケイマガカリに対して、コスミツケから一間に受けた形。
 そこから白1と三々に入る型は置碁でもよく現れる。
・互いの応手によって変化してくる死活について検証する。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、447頁)

一間ジマリに三々入り 456頁~
【一間ジマリに三々入り】
・星から一間に構えているところへ、白1と三々に入る定石。
 白9までで一段落とされている。
・だが、この白は完全な生き形とはいえない。
 果たして黒から取りかけにいくとどうなるか、研究してみる。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、456頁)

小ゲイマジマリに三々入り 460頁~
【小ゲイマジマリに三々入り】
・星からケイマにシマっているところへ白1と三々に入った形。
・小ゲイマジマリは一間ジマリよりも隅の守りに関して堅い意味があり、入る方もそれなりの覚悟が必要となる。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、460頁)

両小ゲイマジマリに三々入り 464頁~
【両小ゲイマジマリに三々入り】
・両方にケイマにシマった形。
 さらに周囲にも黒石が配置されている。
 こういった形での白1は、様子見の意味合いを持つことが多い。
・黒としてはこれだけ援軍があるのだから、そうやすやすと手にされてはたまらない。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、464頁)

観音ビラキに三々入り 467頁~ 
三々入り8
【観音ビラキに三々入り】
・星から左右に大ゲイマに構えた形。
 俗に「観音ビラキ」などと呼ばれ、三手もかけながら隅が不完全な、まずい形の代表とされている。
・白1の三々入りで、簡単に手になる。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、467頁)

大ゲイマジマリにツケ 470頁~ 
ツケ1
【大ゲイマジマリにツケ】
・星から大ゲイマにシマっているところへ、白1のツケから荒らしにいくのは常套手段である。
・これに対して、模様を大切にしたいときは黒2の外オサエとなる。
 黒10まで定石形だが、このあとの死活を研究してみたい。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、470頁)

一間ジマリにツケ 473頁~ 
ツケ2
【一間ジマリにツケ】
・星から一間にシマっているところに、白1と下ツケした変化である。
・白11とツイだ姿は生き形なのだが、黒からの手段に正しく対応する必要がある。
 それを研究しておこう。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、473頁)

小ゲイマジマリにツケ 476頁~ 
ツケ2
【小ゲイマジマリにツケ】
・星からケイマにシマっているところに、白1と下ツケしてできる定石である。
・この変化で生じる死活を研究してみる。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、476頁)

地中に手あり? 484頁~ 
【地中に手あり?】
・手のない地中に手をつけられることほど腹立たしいことはない。
 また、手のある相手の地中に手をつけられないのも悲しいことだ。
・隅の地に対する手段を研究してみる。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、484頁)

第4章 地中に手あり?第3型


白先コウ(白取り番)
・実戦でのヨセは死活に直結していることが多い。
・白1に対して黒2のオサエはちょっとした隙である。
※白はこの黒陣を荒らす手段がある。

【1図】白生き(正解変化)
・出発点は白1の切り。
・黒2の取りに、白3のノビから5とオサえていく。
・黒6とツイでくれば白7のカケツギが急所となり、黒8からの攻めにも白9以下13まで生きることができる。

【2図】コウ(正解)
・前図黒8では、本図黒6とオサえればコウになる。
※死活としては1図の無条件生きよりも本図のコウの方が黒はよい。
 しかし実戦では、コウ材の具合など様々なことを考えて判断することになる。

【3図】無難な受け(参考)
・白1とハネられたとき黒2と引いておけば無難。
※白a、黒b、白c、黒dとなるのは、黒2でa、白c、黒2となるより二目損だが、二目得するためにもっと損をすることもある。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、487頁)

第5章 一眼をめぐる攻防 第1型


白眼なし
・白先で上辺に眼ができるかどうかという問題。
・この状況ではスペースが足りず、眼はできない。

【1図】白死(証明)
・活路を見出すには白1とツケるよりないだろう。
・しかし、黒2とオサえられ、白3に黒4のオキで眼はできない。
※黒4では、aからdのいずれかでも眼を奪うことができる。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、490頁)

第5章 一眼をめぐる攻防 第7型


第5章 一眼をめぐる攻防 第7型
白先眼あり
・上辺に白先で一眼をつくれるかという問題。
・辺の基本的な攻防のひとつである。

【1図】(正解)両バネからカケツギ
・白1とハネ、黒2のオサエにさらに白3とハネる。
・黒4のオサエに、白5のカケツギが好手。
※なお、白1と3の手順はどちらでもよい。
 また、白5はaにカケツいでもよい。

【2図】(正解続き1)白生き
・前図につづいて、黒1のアタリならば白2とツギ、以下白6まで一眼確保に成功した。
※黒1で単に3なら、白1とサガればよい。

【3図】(正解続き2)白生き
・通常ならば黒1の切りが成立する。
・しかし、白△にカケツギがあれば白2とサガる手がある。
※黒aと入れないのが白△の働き。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、495頁)

第5章 一眼をめぐる攻防 第13型


第5章 一眼をめぐる攻防 第13型
白先眼あり
・白△のハネが利いた形。
・これは強力な援軍で、白先ならば確実に一眼をつくる常用の筋がある。

【1図】(正解)白生き
・白1と一線にトブのが筋である。
・黒2の出には白3と受ければよい。
※白△がちょうどよいところにあって一眼を確保している。

【2図】(失敗1)コウ
・白1のカケツギは、黒2とオサえられて無条件とはいかない。
・白3に黒4のハネから6のホウリ込みが好手順で、本コウになる。

【3図】(失敗2)白死
・白1とオサえるのは、黒2のオキから4と切られて無条件で眼がなくなる。
・黒2ですぐ4と切るのは白aでコウにされる。
※白1でbのマガリなら、黒aのオキで眼がない。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、501頁)

第5章 一眼をめぐる攻防 第35型


第5章 一眼をめぐる攻防 第35型
白眼あり
・実戦にありそうな形である。
・黒から上辺の眼を奪う手はないものか、研究してみる。

【1図】(証明1)白生き
・まずは黒1、3のハネツギ。
・これに対しては白4のサガリや、a、b、c、でも眼ができる。
※白bと打った場合は、黒4とハネられたときに、白aと受けなければいけない。

【2図】(証明2)白生き
・黒1のサガリには、白2とオサえてよい。
・黒3のハネから5のアテに白6の抜き。
※黒aと出られても白bと切ればよい。
※また、黒3で4のオキは、白3、黒c、白a、黒d、白bで生き。

【3図】(証明2変化)白生き
・黒1に対して、白2のトビでも眼はできる。
・黒3から5のワリ込みがなかなかの攻め筋だが、白6と広げて受ければよい。
※白6でaは、黒bで眼を奪われるので注意。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、524頁)

第6章 筋<攻めの部>ナカ手 第1型

 
【ナカ手(攻め)第1型】
黒先白死
・包囲されている白はまだ完全に死んではいない。
・黒先でトドメとなる一着はどこになるだろうか。

【1図】白死(正解)
・黒1のコスミツケが急所。
※この手で、隅の白は五目ナカ手の死となるのである。
※このままで死形だが、もし黒から取りにいくときはa、bと詰めていけばよい。

【2図】セキ(失敗)
・前図黒1を打たないと、白1とマガられてしまう。
・黒aとツイでもセキにしかならない。
※1の点が互いにとっての急所なのである。

【3図】白死(参考)
・仮にこのような形からなら、黒1が急所となる。
※手順こそ違うが、1図と同じ形になっていることがわかるだろう。
 白から打つときも、やはり1の点が急所。
 セキで生きることができる。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、540頁)

第6章 筋<攻めの部>ナカ手 第7型

 
【ナカ手(攻め)第7型】

黒先白死
・手順よく攻めていけば、ナカ手にもっていくことができる。
※最後まで抜け目のないように。(『発陽論』から)

【1図】白死(正解)
・黒1、白2を決めてから黒3とハネる。
・白4のオサエに黒5とツイで五目ナカ手である。
※黒1で3から打つと、白1でコウにされる。
 また、黒5を手抜きは白aと打たれ、オシツブシ。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、546頁)

第6章 筋<攻めの部>ホウリ込み 第1型

 
【ホウリ込み(攻め)第1型】
黒先白死
・中の眼をつぶすことができれば白を取ることができるのだが……。
・死活のいろはといえる手筋。

【1図】白死(正解)
・黒1のホウリ込み。
・白2の抜きに黒3とアタリして、白は欠け眼である。
※ダメヅマリのため、白2で3とツグことはできない。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、549頁)

第6章 筋<攻めの部>ホウリ込み 第7型

 
【ホウリ込み(攻め)第7型】
黒先白死
・まず、どこまで入り込むか。
・白の二手目を見てからホウリ込みの筋が出てくる。
(『玄玄碁経』から)

【1図】トビからホウリ込み(正解)
・黒1と控え目にトブのがよい。
・白2のコスミツケは当然のところ。
・そこで、黒3のホウリ込みが手筋である。
・つづいて―

【2図】白死(正解続き)
・白1の取りならば黒2のブツカリでよい。
・白aなら黒b、白bなら黒aと、この二点が見合いとなり白死となるのだ。
※白1でaのツギなら黒bとハネて、上辺に眼ができない。

【3図】白生き(失敗)
・黒1、白2につづいて単に黒3のハネでは、白4とアテられて生きられてしまう。
※黒3で4なら白3のサガリ。
※1図黒3が巧い手筋であるとわかるだろう。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、554頁)

第6章 筋<攻めの部>中から 第1型

 
【中から(攻め)第1型】
黒先白死
・本項と次項の「欠け眼」の筋は、親戚のような関係。
・大きな括りとしては同類となるのだろう。

【1図】白死(正解)
・黒1のツケからもっていく。
・白2とオサえさせてから黒3と逃げ出す。
※白aと取られても黒▲の打ち欠きで眼はできない。
※白2で3なら、黒2でよい。

【2図】白生き(失敗)
・黒1の逃げ出しから打つのは手順前後。
・白2と取られると、aと黒▲が見合いとなり、生きてしまう。

【3図】白死(参考)
・このような形でも、黒1と中から打つ手順である。
・白2のオサエのとき、黒3とオイて左方を欠け眼にすれば殺すことができる。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、557頁)

第6章 筋<攻めの部>欠け眼 第1型

 
【欠け眼(攻め)第7型】
黒先白死
・外から黒Aアテ、白Bツギでは何もならない。
・左側のダメヅマリを衝いて、欠け眼にもちこむ。

【1図】白死(正解)
・まずは黒1とツケる。
・白2のオサエに対して黒3とホウリ込めば、白4の取りに黒5とアタリして欠け眼。
 白死である。

【2図】白死(正解変化) 黒7(3)
・黒1のときに白2と広げてくれば、黒3のハイ込み。
・ダメヅマリのため白は5と打てない。
・黒7まで3目ナカ手。
※なお、黒3では5、白6、黒3の手順でもよい。

【3図】コウ(失敗)  黒5(1)
・黒1のホウリ込みから3のアテを急ぐと、白4という粘りを与えてしまう。
・本図はコウとなり失敗である。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、559頁)

第6章 筋<攻めの部>ハネ 第3型

 
【ハネ(攻め)第3型】
黒先白死
・本問もハネの筋だが、どのタイミングでハネるのかがポイントとなる。
(『玄玄碁経』から)

【1図】逃げ出しからハネ(正解)
・黒1と逃げ出し白2の切りのとき、黒3とハネる手順である。
・白aでは黒bで眼ができないので―

【2図】白死(正解続き)   黒6(A)
・白1とオサえるよりないが、黒2の逃げ出しから4とアテ、白5の取りに黒6とナカ手
して白死である。

【3図】白生き(失敗)
・1図黒3で本図黒1の逃げ出しから3のアテでは、白4と取られてaと黒▲が見合いとなり、生きられる。
※黒1の前にa、白bの交換が大切である。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、563頁)

第6章 筋<攻めの部>ツケ 第3型

 
【ツケ(攻め)第3型】
黒先白死
・急所はひと目だろうが、単純にオイていいものか。
・駄目だとしたら、ひと工夫必要である。
(『碁経衆妙』から)

【1図】白死(正解)
・黒1とツケるのが手筋である。
・白2に黒3とノビ込み、白4のツギならば黒5から7とナカ手をのばして、三目ナカ手の白死となる。
※黒1では5、白6、黒1の手順でもよい。

【2図】白死(正解変化)
・黒1から3のとき白4とオサえてくれば、黒5の切り込み。
・白6の取りに黒7とホウリ込んで、欠け眼となり白死である。

【3図】白生き(失敗)
・黒1のオキが第一感ではないだろうか。
・しかし、白2のオサエから4のブツカリが巧い受けで生きられてしまう。
・黒5、白6につづいて黒aのツギは、白bと出られて黒ツブレである。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、567頁)

第6章 筋<攻めの部>オキ 第1型

 
【オキ(攻め)第1型】
黒先白死
・「三子の真ん中」といわれる急所がある。
・本型は、まさにその格言がぴったりとはまる形。

【1図】白死(正解)
・黒1のオキが急所の一撃。
・白2のツギには、黒3のハイから5の切り込み。
※ダメヅマリの白はaとアタリすることができない。

【2図】白死(正解変化)
・黒オキに対して白2のカケツギなら、黒3と切ればよい。
※これも白はダメヅマリで手の出しようがない。
・白2でaの方へのカケツギなら、黒bの下アテがスマートな手。

【3図】白生き(失敗)
・黒1の方へオクのは筋違い。
・2の点が受ける方にとっても急所になる。
・黒3の下アテは筋だが、白4から8まで綺麗に生きられてしまう。
※黒3で4とハッても、白3でやはり生き。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、575頁)

第6章 筋<攻めの部>トビ、下アテ 第1型

 
【トビ、下アテ(攻め)第1型】
黒先白死
・つい先を急ぎたくなるが、足を止めて次を見た方がよいことがある。
(関連図、六目カギ型第23型)

【1図】白死(正解)
・黒1のトビが落ち着いた好手。
・白2の眼持ちには黒3とつづけてトブ。
・白4に黒5とハネて白は二眼できない。
※黒1でaとハネるのは白4に黒bと戻らねばならず、白2とヘコまれて生きられる。

【2図】白死(正解変化)
・黒トビに対して白2のマガリならば、黒3とオケばよい。
・白4のヘコミに黒5とサガり、aとbが見合いである。

【3図】白死(参考)
・仮に、白△と黒▲の交換がある場合なら、黒1の下アテが筋となる。
・白2に黒3で1図と同じ状況だとわかるだろう。
※また、白2でaのツギなら、黒bとオイて前図と同じである。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、578頁)

第6章 筋<攻めの部>元ツギ 第1型

 
【元ツギ(攻め)第1型】
黒先白死
・先に進んでもだめなときは、慌てず騒がず、じっと手を戻すのが好手になるときもある。

【1図】白死(正解)
・黒1と一線にツグのが好手。
・白2のとき、黒3とホウリ込むのがさらに手筋で、白a、黒bと欠け眼にして白死である。

【2図】白死(正解変化)
・黒1のとき白2とツイでくれば、黒3のアテから5のツギまで。
※三目ナカ手の死に形である。
※黒1、白2の交換なしで黒3と打つのは、白5と切られてしまう。

【3図】白生き(失敗)
・焦って黒1などと切ってはいけない。
・白2で隅はウッテ返し。
・いまさら黒3とツイでも、白4でこちらも眼になってしまう。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、582頁)

第6章 筋<攻めの部>粘り封じ 第1型

 
【粘り封じ(攻め)第1型】
黒先白死
・隅の黒二子▲をどう連れ戻すか。
・これもじっと足を止めるイメージである。
(『碁経衆妙』から)

【1図】白死(正解)
・慌てず騒がず、黒1とサガるのが正解となる。
※この一着で、白は何の粘りもなく死んでいる。

【2図】コウ(失敗)
・何も考えずに黒1とワタるのは軽率。
・白2のホウリ込みから4とアタリする手がある。
※aの切りがあるため黒はこれ以上後退できず、bのところのコウ争いとなってしまう。

【3図】白死(参考)
・原題はこの状態から。
・黒1、3の連続サガリが正解となる。
※落ち着いた黒3が白の粘りを封じているのがわかるだろう。
※なお、白2でaの出なら、黒3、白b、黒cで、ナカ手となる。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、585頁)

第6章 筋<攻めの部>二子捨て 第1型

 
【二子捨て(攻め)第1型】
黒先白死
・二子で取られても取り返せる状況がある。
・それを利用して相手のスペースを狭めていく筋がある。

【1図】白死(正解)
・一見筋の悪そうな黒1のブツカリからいく。
・白2から4とアタリされたときがポイント。
・黒5のハネが好手である。
・白6と二子を取られても、黒7と取り返して白死なのだ。

【2図】白死(正解変化)
・前図白6で本図白6とサガってオイオトシを睨んできても、黒7と平然とツゲばよい。
・白8、黒9のあと白aが形だが、黒bが両アタリになるため、白は生きることができない。

【3図】コウ(失敗)
・地道に黒1と取るのは平凡な着想。
・白2から6とされ、無条件で取ることはできなくなっている。
※黒aとツケてコウに持ち込むのが精一杯(クシ型第6型参照)。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、589頁)

第6章 筋<攻めの部>二子捨て 第3型

 
【二子捨て(攻め)第3型】
黒先白死
・真っ先に目につく急所があるが、それでは粘りを与えることになる。
・ダメヅマリを衝いた厳しい着手は?
(張栩作)

【1図】白死(正解)
・黒1と腹にツケるのが面白い。
・白2のハサミツケには、黒3と一つ出てから5とワタる。
・白6のツギに黒7が「二子を捨てる筋」。
・白8の二子取りに、黒9と取り返して白死である。

【2図】白死(正解変化)
・前図白6で本図白6とサガってくれば、黒7とワリ込む手がある。
※ダメヅマリのため白はaに入れない。
※黒7でaなどと取るのでは、白7とツガれて生きられるので注意。

【3図】コウ(失敗)
・黒1のオキが第一感ではないだろうか。
・しかし、白2とツケられるとこの白は粘りを発揮する。
・黒3から5で三子は取れるが、白6から10のホウリ込みでコウにする手段があるのだ。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、591頁)

第6章 筋<攻めの部>石の下 第1型

 
【石の下(攻め)第1型】
黒先白死
・攻め、守りともに、石の下は存在する。
・取られたあとの形を想像することが大切である。

【1図】ツケ(正解)
・単刀直入に黒1とツケていくのがよい。
・白2とハネてワタリを防げるのは当然の抵抗。
・黒3から5のとき、白6と詰められて攻め合いは一手負け。
※黒の失敗かと思えるのだが―

【2図】白死(正解続き)
・黒1と四子にして捨てる妙手がある。
・白2の取りに黒3と切れば白五子が取れている。
※石の下の筋で、白死となるのだ。

【3図】白生き(失敗)
・黒1などと上品にオイてみても手にならない。
・白2とマガられて、ワタることも攻め合いに勝つこともできない。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、592頁)

第6章 筋<守りの部>ナカ手防ぎ 第1型

 
【ナカ手防ぎ(守り)第1型】
白先生き
・隅の白は、このままでは生きていない。
・こういった形での急所がある。

【1図】セキ(正解)
・ぐいっと白1のマガリが急所になる。
・黒2とツガれても、手抜きでセキ形である。
※ダメが詰まってから黒a、b、どちらに打たれても普通に取れば、マガリ四目の生き形。

【2図】白死(失敗1)
・白1のアテは急所を外した。
・黒2とツガれると死に形。
※ダメが詰まってから黒aと打たれて、四目ナカ手である。

【3図】白死(失敗2)
・筋を知っている人なら、白1とホウリ込みたくなるかもしれない。
・しかし、黒2と取られると、その時点で五目ナカ手の死に形となってしまう。
※正解図との違いをよく理解すること。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、595頁)

第6章 筋<守りの部>ナカ手防ぎ 第6型

 
【ナカ手防ぎ(守り)第6型】
白先生き
・ただ黒四子を取ればよいというものではない。
・どのような形で取るか、それが重要である。
(『碁経衆妙』から)

【1図】白生き(正解)
・白1とホウリ込むのが急所となる。
・黒2と取られても、白3から5でまとめて取ることができる。
 白生きである。

【2図】白生き(正解変化)
・白1のとき黒2から4と切ってきたら、白5とお尻からアテるのが好手。
※黒aとツグことはできないし、白aとマガリ四目の形で取れば生き。
※白5でaは、黒2、白a、黒1で五目ナカ手。

【3図】白死(失敗)
・白1のハネでは、黒2と打たれて五目ナカ手。
※また白1でaのオサエも黒2で死んでしまう。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、599頁)

第6章 筋<守りの部>ホウリ込み 第1型

 
【ホウリ込み(守り)第1型】
白先生き
・白Aのオサエは黒Bとツガれて生きられない。
・利き筋を増やす基本的な手筋である。

【1図】白生き(正解)
・白1のホウリ込みが手筋。
・黒2と取らせることで、白3、5と二つの利きを作ることができる。
・白7で生きである。
※白7はaまたはbでもよい。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、601頁)

第6章 筋<守りの部>トビ 第1型

 
【トビ
(守り)第1型】
白先生き
・右上黒▲一子の取り方を問われている。
・左方を攻められたとき、どこに白石があればよいだろうか。

【1図】白生き(正解)
・白1のトビで取るのがよい。
・黒2のハネには強く白3とオサえ、黒4の切りに白5から7とすればオイオトシで生きることができる。
※黒2で4、白5、黒2なら、白3、黒6、白7。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、605頁)

第6章 筋<守りの部>カケツギ 第1型

 
【カケツギ(守り)第1型】
白先生き
・単純にスペースを広げればよいというものではない。
・眼形の急所はどこになるだろうか。

【1図】白生き(正解)
・白1とカケツぐのが急所。
・黒2と隅をハネてきたら、白3と一眼を持てばよい。
※上辺の眼を奪うことはできず、白は生きているのである。

【2図】白死(失敗1)
・白1とスペースを広げると、黒2とハネられて死んでしまう。
・白3には黒4のオキでナカ手形。
※白3で4としても、黒3のハネでやはり白死である。

【3図】白死(失敗2)
・白1と隅を広げるのは、黒2の大ザルスベリで一巻の終わり。
※ここまで入り込まれては生きるスペースが足りない。
※また、白1でaのトビは、黒b、白c、黒1でやはり白死。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、608頁)

第6章 筋<守りの部>オシツブシ 第1型

 
【オシツブシ(守り)第1型】
白先生き
・コウのような形をしているが、そうではない。
・五目ナカ手にされないようにするには?

【1図】白生き(正解)
・白1とアテ、黒2の取りに、白3と外からアタリする。
※黒は白△とツグことができないので、いずれ白△と取る形になり生きである。
※白1、3はどちらから打ってもよい。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、610頁)

第6章 筋<守りの部>オシツブシ 第3型

 
【オシツブシ(守り)第3型】
白先生き
・決まり手はオシツブシ。
・そこにもっていくための準備が必要である。
(張栩作)

【1図】白生き(正解)
・白1とグズむのがオシツブシへの準備。
・黒2のとき、白3とホウリ込み、黒4に白5と外からアタリして無条件生きとなる。

【2図】白生き(正解変化)
・白1のとき、黒2とオシツブシを回避してきた場合は、白3のツギがよい。
・黒4に白5とオサえて白生き。
※白1で単に3は、黒4、白5、黒aでコウにされてしまう。

【3図】白死(失敗)
・白1と「1の一」から打つのは、黒2という抵抗がある。
・白3と広げても、黒4のオキから6と取られて、白aと入ることができない。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、611頁)

第6章 筋<守りの部>アテ込み 第1型

 
【アテ込み(守り)第1型】
白先生き
・この白はスペースが足りないが、アテ込みの手筋を使うことで、生きることができるのだ。

【1図】サガリからアテ込み(正解)
・まず白1とサガる。
・黒2のハネから4のツケで部分的には五目ナカ手の形だが、そこで白5とアテ込む手筋がある。
・黒6でだめそうに見えるが―

【2図】白生き(正解続き)
・白1とサガる手がある。
※黒はaに入ることができない。
bとcの切りが見合いとなっており、白はここに一眼ある。
隅の一眼とあわせて生きである。

【3図】白死(失敗)
・白1とこちらをサガるのは、黒2のハネから4とオカれて失敗。
・正解と同じように白5とアテ込んでみても、黒6から8と打たれて眼をつくることができない。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、614頁)

第6章 筋<守りの部>外から様子見 第1型

 
【外から様子見(守り)第1型】
白先生き
・白Aなら黒B、白Bなら黒A。
・視点を変えると光明が見えてくる。
(『玄玄碁経』『官子譜』から)

【1図】白生き(正解) 黒6(A)
・白1とハネるのが絶妙手。
・黒2の取りなら白3とアテ込む。
・黒4のブツカリに白5の切り込みが入ることで、白7と9二つの利きができた。
・白11まで見事な生きである。

【2図】白生き(正解変化)
・白1に黒2のグズミなら、白3とブツカる。
・今度は黒4のとき、白5が利きとなる。
・黒6に白7とサガって生きである。
※なお黒2で3は、白2とアテられたとき黒6と取るよりなく前図に戻る。

【3図】白死(失敗)
・白1のブツカリでは黒2とグズまれ、白3のダメ詰めに黒4と取りにこられる。
・白5とサガっても、黒6のオサエで手はない。
※1図の白1は小気味よい手筋であった。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、627頁)

第6章 筋<守りの部>両睨み 第1型

 
【両睨み(守り)第1型】
白先生き
・Aの切りが残っている。
・いろいろな利きを残した守り方が必要である。
(『玄玄碁経』から)
≪棋譜≫第6章 両睨み 第1型、632頁


【1図】ダメ詰め(正解)
・白1とアタリでもないところにダメを詰めるのが唯一のシノギ筋である。
※a、b二つの利きを有しているのが利点だ。

【2図】白生き(正解続き1)
・黒1とこちらの眼を奪ってくれば、白2のアテから4の眼持ち。
※わかりやすく生き形である。
※また、黒1でaの切りは、白2、黒b、白cでこれも楽生き。

【3図】白生き(正解続き2)
・白aのアタリがくる前に黒1のアテを決めるのはどうか。
・それに対しては白4のサガリで利かすことができる。
・黒5の取りに白6の二眼の生き。
※黒5で6は、白5のサガリが成立する。

【4図】白生き(正解続き3)
・黒1と抜いて利きを封じるなら、白2とツゲばよい。
・黒3に白4とコスミツけ、aとbが見合いで生きている。
※アタリでもないところを黒1と抜かせたことに白の働きがある。

【5図】白死(失敗1)
・白1のツギは平凡な着想。
・黒2とアテられ、白3のとき黒4と眼をつぶされる。
※また、白1でaも、黒1、白3、黒4で生きる手はない。

【6図】白死(失敗2)
・白1のツギから3と打つのも妙味がない。
・黒4とハネられ眼ができない。
※態度を決めない正解手の深遠さを理解できるだろう。

【7図】白死(失敗3)
・白1のコスミは発想としては悪くない。
・しかし、ゆるんでいるため、黒に三子を捨てられてしまう。
・黒6と眼をつぶされた形は三目ナカ手の死に。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、632頁~633頁)

第6章 筋<守りの部>まとめ取り 第1型

 
【まとめ取り(守り)第1型】
白先生き
・単純に白Aの取りでは、黒▲のナカ手で死んでしまう。
・ある工夫で生きることができる。

【1図】アテ(正解)
・取れるところをいったん我慢して白1とアテるのが正解となる。
・黒2のアテを待ってから白3と取るのだ。

【2図】白生き(正解続き)
・前図の取った姿がこれである。
・黒aと打ち欠いてくれば白b、黒bとナカ手してくれば白aで生きることができる。
※いっぺんに取ることで二つを見合いにした。

【3図】白死(失敗)
・単純に白1と取るのは無策。
・黒2とナカ手され、白3の取りにも黒4のホウリ込みで白死はあきらかである。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、636頁)

第6章 筋<守りの部>欠け眼生き 特別型

 
【欠け眼生き (守り)特別型】
・白の二眼はいずれも欠け眼だが、全体がツナがっているため黒は白を取ることができない。
・このような形を「欠け眼生き」という。

【1図】全体が握手(解説)
・仮に白△のところが黒石だと想像していただこう。
・そうなるとaもbも欠け眼である。
・だが、全体がツナがっていることで、黒からa、bの欠け眼を衝くことができない。

【2図】黒先生き(参考)
・本図は江戸時代の名作詰碁集『発陽論』の問題。
・黒先で生きることができるかという問いである。

【3図】正解は欠け眼生き(参考続き)
・まずは黒1から3で中央をツナがり、それから黒7と上辺の連絡に向かう。
・以下は必然の手順で、白が22と上辺の眼を奪ったとき、黒23と隅に眼を持って見事な欠け眼生きの完成である。
(張栩『新版 基本死活事典』日本棋院、2014年[2021年版]、638頁)


≪囲碁の死活~趙治勲『基本死活事典(下)』より≫

2025-07-27 18:00:06 | 囲碁の話
≪囲碁の死活~趙治勲『基本死活事典(下)』より≫
(2025年7月27日投稿)

【はじめに】


 今回も引き続き、囲碁の死活について、次の基本事典を参考に考えてみたい。
〇趙治勲『基本死活事典(下 古典死活)』日本棋院、増補改訂版1996年
 『基本死活事典』の下巻の方は、副題にあるように、古典死活の部である。
 目次から分かるように、詰物の三大古典ともいうべき玄玄碁経、官子譜、碁経衆妙から、秀れた作品を抜粋した事典である。
 本事典の特徴は、「はしがき」にもあるように、これらの三大古典を、「攻めの部」「シノギの部」に分けた点にあるだろう(「死の部」「生きの部」と同じ意味である)。
 これによって、実戦的に攻めとシノギについて調べたり、勉強したりする際に有用な事典になっている。
 代表的な問題のみを紹介しておこう。

【趙治勲氏のプロフィール】
・1956年生まれ。韓国釜山市出身。
・1962年来日、故木谷実九段に入門。
・1968年、11歳で入段。1971年、五段。1981年、九段。
・1975年、第12期プロ十傑戦で初のビッグタイトルを獲得、その後、各種棋戦で活躍し、1980年名人位に就く。以後1984年まで5連覇。名誉名人の資格を得る。
・1981年、本因坊と併せ持ち、タイトル戦史上4人目の名人・本因坊となる。
・1982年、名人、本因坊、十段、鶴聖の4冠制す。
・1983年、棋聖位を獲得、3大タイトルを独占。棋聖戦3連覇。
・1987年、天元位を獲得し、史上初のグランド・スラム(7大タイトル制覇)達成。
・1989年、本因坊奪取、以降10連覇で二十五世本因坊の称号を受ける。
・1996年、11年ぶりに名人奪取、2度目の大3冠を達成。
・1998年、3巡目の大3冠。
・2002年、タイトル獲得65となり、二十三世本因坊坂田栄男の記録を抜く。
・2014年、第4回マスターズカップ優勝。
※2014年9月現在、タイトル獲得数73。平成24年、通算1400勝達成。



【趙治勲『基本死活事典(下)』はこちらから】







〇趙治勲『基本死活事典(下 古典死活)』日本棋院、増補改訂版1996年
【目次】
第1部 玄玄碁経
 (1)攻めの部
 (2)シノギの部
第2部 官子譜
 (1)攻めの部
 (2)シノギの部
第3部 碁経衆妙
 (1)攻めの部
 (2)シノギの部





さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・趙治勲『基本死活事典(下)古典死活』のはしがき

・第1部 玄玄碁経
・玄玄碁経・攻めの部【第1題】
・玄玄碁経・攻めの部【第61題】
・玄玄碁経・シノギの部【第1題】
・玄玄碁経・シノギの部【第2題】
・玄玄碁経・シノギの部【第30題】

・第2部 官子譜
・官子譜・攻めの部【第1題】
・官子譜・攻めの部【第2題】
・官子譜・攻めの部【第16題】
・官子譜・シノギの部【第1題】
・官子譜・シノギの部【第2題】
・官子譜・シノギの部【第26題】

・第3部 碁経衆妙
・碁経衆妙 攻めの部【第1題】
・碁経衆妙 攻めの部【第3題】
・碁経衆妙 攻めの部【第12題】
・碁経衆妙 攻めの部【第29題】
・碁経衆妙 攻めの部【第41題】
・碁経衆妙 シノギの部【第1題】
・碁経衆妙 シノギの部【第10題】
・碁経衆妙 シノギの部【第31題】
・碁経衆妙 シノギの部【第41題】







趙治勲『基本死活事典(下)古典死活』のはしがき


〇趙治勲『基本死活事典(下)古典死活』日本棋院、増補改訂版1996年
その「はしがき」において、趙治勲氏は次のようなことを述べている。

・この巻は、詰物の三大古典ともいうべき玄玄碁経、官子譜、碁経衆妙から、秀れた作品を抜粋した。
・一口に秀れたといってもその基準がむずかしいが、基本死活事典の性質上、まずやさしいものを優先し、それから筋のすっきりしたもの、奇抜な内容のものを選び、手数が長く、ただむずかしいものは除外することにした。
・構成は一応、第1部「玄玄碁経」、第2部「官子譜」、第3部「碁経衆妙」と三つに分けたが、あくまで作品を鑑賞していただくのが目的であり、文献を厳密に紹介しようというものではない。
 したがって、たとえば玄玄碁経には長い序文がついていたり、問題に一つ一つ名前がついていたりするのだが、そういったものは省かせていただいた。
・また、問題に不備のあるものは修正し、むずかしいものは少しやさしくするとか、多少手直ししたものがあることもお断りしておきたい。
・各部をそれぞれ「攻めの部」「シノギの部」に分けたが、これは「死の部」「生きの部」と同じ意味である。
 ただ、「死」と「生き」に分けると「コウ」や「攻合い」の問題を独立させなければならなくなるので、本書の分類でそのわずらわしさを避けることにした。

・雑誌や新聞紙上などで数々の詰碁に出食わすが、それらの作品が実は玄玄碁経や官子譜や碁経衆妙のものだったり、あるいはその焼き直しだったりすることがなんと多いことか、いまさらながら驚かされると同時に、三大古典の優秀性が改めて知らされるのである。
・本書をまとめるに当り、平凡社刊「玄玄碁経」「官子譜」および山海堂刊「玄玄碁経」「官子譜」「碁経衆妙」を参考にさせていただいたので、お礼の意をこめてお断りしておく。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、3頁~4頁)

※このように、趙治勲『基本死活事典(下)古典死活』(日本棋院、増補改訂版1996年)は、「詰物の三大古典ともいうべき玄玄碁経、官子譜、碁経衆妙から、秀れた作品を抜粋した」ことをまず述べている。
 また、編集にあたって、「基本死活事典の性質上、まずやさしいものを優先し、それから筋のすっきりしたもの、奇抜な内容のものを選び、手数が長く、ただむずかしいものは除外することにした」という。
 つまり、手数が長く、ただむずかしいものは除外することにしたと断っておられるように、「明皇遊月宮勢」の問題のような、「手数が長く、ただむずかしいもの」は除外してある。
 さらに、「玄玄碁経には長い序文がついていたり、問題に一つ一つ名前がついていたりするのだが、そういったものは省かせていただいた」とあるように、『玄玄碁経』の問題の名前はすべて省略してある点にも注意が必要である。
(この点が、私には、編集上の非常に残念な点であった。藤沢秀行『基本手筋事典』や山下敬吾『基本手筋事典』は基本的にはその『玄玄碁経』の問題の名前(題名)が明記してある)。

なお、趙治勲氏は「玄玄碁経」について、次のような解説を付記している。
・玄玄碁経(げんげんごきょう)は中国盧陵(江西省)の名手、晏天章と厳徳甫の共編によるもので、序文の日付は至正7年、すなわち1347年となっており、いまからざっと六百年余前に完成された本である。
・内容は史論、碁経十三篇、囲碁十訣、術語三十二字などにつづいて定石、実戦譜、それに詰碁376題が収められているが、もっとも価値の高いのはなんといっても詰碁であろう。
 のちの官子譜、わが国の碁経衆妙にも、玄玄碁経の詰碁がそのまま、あるいは手直ししたものが、数多く収められている。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、36頁)

※このように、趙治勲氏は、『玄玄碁経』が官子譜や日本の碁経衆妙に影響を与えた重要な文献であることに注目し、とりわけ、詰碁376題の価値の高さを強調している。

第1部 玄玄碁経


・玄玄碁経(げんげんごきょう)は中国盧陵(江西省)の名手、晏天章と厳徳甫の共編によるもので、序文の日付は至正7年、すなわち1347年となっており、いまからざっと六百年余前に完成された本である。
・内容は史論、碁経十三篇、囲碁十訣、術語三十二字などにつづいて定石、実戦譜、それに詰碁376題が収められているが、もっとも価値の高いのはなんといっても詰碁であろう。
 のちの官子譜、わが国の碁経衆妙にも、玄玄碁経の詰碁がそのまま、あるいは手直ししたものが、数多く収められている。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、36頁)

玄玄碁経・攻めの部【第1題】


玄玄碁経・攻めの部【第1題】
〇白先黒死
・第一手は眼形の急所へ。
・第三手で工夫を要するが、ねらいは黒のダメヅマリである。

【正解1】下ヅケ
・まずは白1のオキ。
・黒2のとき、白3の下ヅケがダメヅマリを衝く筋である。
・黒4に白5とオサえ、黒6のとき白7で両アタリになる。

【正解2】出てから
・白のオサエに対し黒1と中から受けるなら、一本白2で眼をつぶし、黒3のとき白4である。
※黒aと取ってもウチカキがあるので眼にならない。

【失敗】平凡
・白1、黒2のあと、白3とオサえるのでは工夫がない。
・黒4とサガられ、生かしてしまう。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、38頁)

玄玄碁経・攻めの部【第61題】


玄玄碁経・攻めの部【第61題】
〇白先黒死
・第一手で黒の急所を衝くが、黒にもネバリがあるので最後まで油断のならない形である。

【正解1】コスミ
・白1のコスミが急所である。
・黒2とアテられたとき注意が必要で、じっと白3と引いていなければならない。
・つづいて――

【正解2】ハネダシ
・黒1とハネて抵抗してくるが、白2とオサえていてよい。
・黒3なら白4とアテていてそれまで。

【正解3】全滅
・黒1、白2のとき、黒3とハネられるのが白にとってうるさいところ。
・これに対しては白4のツギが最強で、黒5にも白6とサガり、全滅をはかることができる。
※白4で――

【失敗1】オイオトシ
・うっかり白1と切ると落とし穴にハマることになる。
・すなわち黒2から4とアテられ、白三子がオイオトシにかかってしまうのだ。

【失敗2】欠陥
・白1、黒2のとき、白3のトビは筋がよさそうに見えてこのばあいは欠陥を生じる。
・黒4、白5のあと、黒6から8のホウリコミがあり、前図とおなじオイオトシが待ち受けているのである。

【正解4】ダメヅメ
・最初、白1のコスミに黒2とマガるなら、白3、5と外のダメをつめていてよい。
※白1の急所たるゆえんがおわかりいただけよう。

【失敗3】楽生き
・白1のサガリは、黒2とオサえられてあとがない。
※また、1でaのサガリは黒bとカカえられてそれまでである。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、120頁~121頁)

玄玄碁経・シノギの部【第1題】


玄玄碁経・シノギの部【第1題】
〇黒先生き
・白のウチカキの石にどう相手をするか。
・コウになりやすい形なので注意しなければならない。

【正解】トビ
・白一子には直接相手をせず、黒1の守りがよい。
・白2のとき黒3。
・次に黒aと取れば眼になるので白4はしかたなく、黒5と生きることができる。

【失敗1】コウ
・黒1は白の思うツボ。
・白2のオキが急所となり、黒3に白4とアテられ、黒5とコウに受けるしかない。
※黒3で4は白3とハワれて死。

【失敗2】マガリ
・黒1のマガリでは白2と急所に置かれる。
・つづいて黒aは白b、また黒cは白dで死。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、146頁)

玄玄碁経・シノギの部【第2題】


玄玄碁経・シノギの部【第2題】
〇白先生き
・単独で生きがないことはおわかりだろう。
・右方へのワタリをうかがって生きる形を作るのである。

【正解1】ワリコミ
・白1のサガリ。
・次に白aで生きだから、取ろうとするなら黒2のハネである。
・そこで白4のワリコミがうまい。
・つづいて―

【正解2】ワタリ
・黒1なら白2。
・黒3に白4とツイでいて、文句なしに渡っているのである。
※1で3のアテなら白4。
 それも渡っていることを確かめていただきたい。

【正解3】下アテ
・黒1と下からのアテなら白2とノビている。
・黒3に白4と切って、これも問題ない形。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、147頁)

玄玄碁経・シノギの部【第30題】


玄玄碁経・シノギの部【第30題】
〇白先コウ
・白はAの一眼だけ。
 黒の弱点を衝いて手段を求めるしかない。

【正解1】オキ
・白1は最初に利かしておいて無駄はない。
・つづいて白3のオキが好手である。

【正解2】切りが成立  黒7ツグ(4)
・黒1とツグなら、白2から4、6でダメをつめたあと、8、10でコウにすることができる。
※黒9で10とツグなら、白aでやはりコウ。

【変化1】両アタリ 黒8ツグ(5)
・白1に黒2のブツカリで応じるなら、やはり白3からダメをつめたあと、白9のサガリが好手になる。
・黒10に白11で両アタリだ。

【変化2】おなじ要領 黒8ツグ(5)
・おなじく白1に黒2のカケツギでも、白3からおなじ要領。
・白9のとき、黒はaと打てない。

【変化3】左の切り 黒10ツグ(7)
・白1に黒2のツギはどうか。
・こんどは白3と切り、黒4なら白5以下11で、「押す手なし」にすることができる。

【正解3】コウ
・白1から3のとき、黒4とこちらに備えるしかない。
・それなら5とハネ、黒6に白7でやはりコウにすることができる。

【失敗】切りでは
・白1の切りからいくのは、黒2とツガれ、白3から5とツイでも、黒6とハネられて、攻合い負けである。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、182頁~183頁)

第2部 官子譜


・官子譜(かんずふ)は、最初中国明代の過伯齢がまとめ、その後清代の陶式玉が修正、加筆するなどして編集し直した。
 それが出たのが1690年頃である。
・官子とは本来ヨセの意味であるが、官子譜という題名は死活も含めて使ってある。
 その問題数およそ1500。
 石の死に生きとヨセに関する手筋がほとんど網羅されている、といっても過言ではない。
・むろん本書ではヨセの問題は省き、死活に関するものだけを選んだ。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、202頁)

官子譜・攻めの部【第1題】


官子譜・攻めの部【第1題】
〇白先黒死

【第1題】
・黒「2ノ一」にコスミがあるので、もう一つの急所ははっきりしているだろう。

【正解1】~2ノ一
・急所は白1。
※黒がここへ打たれたらいっぺんに生きられてしまう。
・黒2は両アタリを避けたもの。
・だが、白3のホウリコミがあってカケ眼になる。

【正解2】~堅ツギ
・白1に黒2と堅くツグなら白3。
・黒4で眼を持ったとき白5と切る。
※黒はダメヅマリのためaと打つことができない。

【失敗】
・白1のキリは衝動的で無責任な手。
・黒2とツガれて後続手段がない。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、204頁)

官子譜・攻めの部【第2題】


官子譜・攻めの部【第2題】
〇白先黒死
・前題とよく似ており、急所ははっきりしている。
・黒はダメヅマリが命取りになる形。

【正解1】ダメヅマリ
・白1のツケ。
※やはり「2ノ一」の急所である。
・黒2なら白3のハネコミ。
※黒はダメヅマリに泣かされた。

【正解2】簡単
・白1に黒2のツギなら、白3と出て簡単。
※また黒2でaなら白bと眼をつぶすまでである。

【失敗】あっさり
・白1のハネコミからいくのはあわてすぎ。
・黒2と受けられ、あっさり生かしてしまう。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、205頁)

官子譜・攻めの部【第16題】


官子譜・攻めの部【第16題】
〇白先勝ち
・三子対三子の攻合い。
・ふつうの着想は白Aのハネだが、はたしてそれで勝てるだろうか。

【正解1】フトコロ
・白1とフトコロに入るのである。
・黒2には白3のサガリ。
・黒4のとき、白5と裏口から攻合いをはかる。
・黒6のあと―

【正解2】ホウリコミ
・白1のダメヅメ。
・黒2のとき白3とホウリ込み、このあと黒aには白bと取る要領である。
※白1は3から打ってもよい。

【失敗】常識だが
・常識的に白1とハネるのは、黒2、白3のとき黒4のダメをつめられる。
※白a、黒bのあと、白押す手なしになって負け。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、220頁)

官子譜・シノギの部【第1題】


官子譜・シノギの部【第1題】
〇白先生き
・コウにせず、セキにして生きをはかる。
【第1題】

【正解】取り返し 白5取り返し
・白1とハッてから3。
・黒4と二子を取らせて一子取り返す。
※黒2を打たせた関係でセキになった。

【失敗1】万年コウ
・単に白1は黒2とオサえられ、コウはまぬがれない。
※なお、このコウは万年コウといわれるものである。

【失敗2】本コウ
・白1と出るのは大悪手。
・白3、黒4でおなじくコウだが、これは本コウであり、前図の万年コウよりも白の条件はわるい。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、276頁)

官子譜・シノギの部【第2題】


官子譜・シノギの部【第2題】
〇白先生き
・むろんこれ以上眼を作るのは無理で、左方へ渡ってしのげばいいのである。
・中級の手筋といっていいだろう。
【第2題】

【正解】一間トビ
・白1の一間トビで渡っている。
・黒2とハネ込まれても、白3から5で無事。

【失敗1】サガリ
・白1のサガリでは、隅との連係がわるい。
・黒2とトバれ、白3に黒4でストップを食う。

【失敗2】よさそう
・白1はよさそうな手に見える。
・しかし黒2から4とハネられ、白aと切っても黒bとノビられていけない。
※黒4に白bなら黒c。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、277頁)

官子譜・シノギの部【第26題】


官子譜・シノギの部【第26題】
〇白先生き
・隅の黒に手をつけ、そのアヤで中の八子をしのぐのである。
・どういう形のシノギになるかがおもしろいところ。

【正解1】攻め取らせる
・白1から3とマガったのは、この三子を攻め取らせながら隅の黒をダメヅマリにしようという作戦である。
・黒4のとき白5のツケが好手。
・つづいて―

【正解2】サシコミ
・黒1と三子をアテたとき白2とサシ込む。
・黒3と二子を取らせて―

【正解3】ツケ
・白1のウチカキ。
・こんどは黒2と三子を取るしかない。
・つづいて白3のツケで黒のワタリを封じるのが巧妙だ。
・このあと―

【正解4】渡る
・黒1と生きをはからねばならず、そこで白2とオサえれば中の八子はみごとに左方へ渡っているのである。
・ここまでが正解の道筋。

【変化1】取れる
・正解1図のあと、すなわち白△にツケた時点であるが、黒1とツグなら白2とオサえる。
・黒3と切るしかないが、白4とサガって上の黒五子を取ることができる。

【変化2】押せない
・おなじく、黒1と引くなら白2のサシコミでダメヅマリに導く。
・黒3に白4とホウリ込み、黒が一子取ったとき白aとサガればやはり五子が取れる。

【失敗】お手上げ
・最初、白1とオサえるのでは黒2とカカえられ、まったく手がかりが摑めなくなる。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、302頁~303頁)

第3部 碁経衆妙


・碁経衆妙(ごきょうしゅうみょう)は林家十一世元美の著。
・元美は本姓舟橋、1778年生まれは、本因坊元丈、中野知得とほぼ同年代である。
・本が完成されたのは1811年。

・内容は全部詰碁であるが、全般的にやさしいのが特徴。
 玄玄碁経、官子譜の問題も、やさしく作り直して収めてある。
 それに「発陽論」の問題もいくつか入っている。

・「発陽論」は1713年に名人四世井上因碩が著わしたもので詰碁の本として有名だが、難解なため独立して一章を設けるのは不適当と考え、衆妙に収録されているものをいくつか紹介するにとどめた。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、309頁)

碁経衆妙 攻めの部【第1題】


碁経衆妙 攻めの部【第1題】
〇黒先白死
・外からせばめればよいのだが、せばめるにも、ぬるい手ときびしい手と二通りある。

【正解1】ツケ
・黒1のツケまで進むことが可能
・白2のとき黒3と引いていて、白は生きる広さがない。

【正解2】切れる
・黒1は白2とハネ出されそうな気がしてこわいが、黒3と切る手が成立することは簡単に読める。

【失敗】ぬるい
・黒1のコスミはふつうの手だがぬるい。
・白2とオサえられ、黒3、5とハネツイでも白は生きる広さがある。
・白6が大切。
※白6でaは黒b、白c、黒6の手段が残る。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、312頁)

碁経衆妙 攻めの部【第3題】


碁経衆妙 攻めの部【第3題】
〇白先黒死
・こういう形には常用の筋があり、一連の手順がすぐに浮かぶようになればしめたものである。

【正解】ハサミツケ
・白1のハサミツケが常用手段。
・黒2のとき、白3と切って7までとシボるのが一連の運びである。
・黒ツギのとき白9とコスミツけて死に。

【失敗1】ハネ
・白1のハネは、黒3とノビてくれればもう一つ2とハッて死ぬのだが、黒2とがんばる手がある。
・白3から5のとき黒6と切ってコウ。

【失敗2】ソッポ
・白1は冷静な手段だが急所を逸した。
・この形は黒2が眼形の急所で、白3は黒4のツギでちょうと生きられている。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、314頁)

碁経衆妙 攻めの部【第12題】


碁経衆妙 攻めの部【第12題】
〇白先勝ち
・隅の攻合いで「2ノ一」が絡むときは、一つの常識がある。
・本題はその代表的な例。

【正解】単に
・単に白1とサガっているが攻合いの常識。
・どういうことかというと、白7のとき、黒の押す手なしになるのである。

【失敗1】コウ
・攻合いをあせると白1とハネたくなる。
・しかし黒2とウチ欠かれ、無条件勝ちとはいかない。
・黒4のあと白aと攻合ってもコウである。

【失敗2】無為
・白1のハネではまるで工夫がない。
・黒2と急所をハネられ、これはコウにもならず白の負けである。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、323頁)

碁経衆妙 攻めの部【第29題】


碁経衆妙 攻めの部【第29題】
〇黒先コウ
・かなりの難問である。
・第一手で急所を衝くが、白も巧みに防戦して結果はコウになる。

【正解】オキ
・黒1のオキがなかなか鋭い着想。
・これに対して白2のツケが最善で、以下黒7と渡ってコウを残すことになる。

【変化】両ニラミ
・黒1に対し、白2は受け損った。
・黒3とノビ、a、bを両ニラミにして白死である。
・白cのコスミツケには黒dのアテ。

【失敗】ままならぬ
・最初、黒1から眼を取ろうとしても、白4までとなって思うようにいかない。
・次に黒aとオサえても白b。
※また第一手黒cは、白d、黒3、白bで生き。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、340頁)

碁経衆妙 攻めの部【第41題】


碁経衆妙 攻めの部【第41題】
〇黒先白死
・発陽論に収められているもの。
・最後は五目ナカデになるが、そこに至る過程がおもしろい。

【正解1】眼の中
・黒1から3のキリはこういきたくなるところ。
・白4のとき、いったん黒5と打つのがおもしろく、白6のとき黒7と自分の眼の中に入るのである。
・白8と取らせて―

【正解2】五目ナカデ
・黒1のホウリコミ。
・五目ナカデになっていることはおわかりであろう。

【失敗】コウ
・黒1から白4のとき、黒5と手をこまねいていてはいけない。
・白6の余地があり、白8となってはコウ。
※正解1図、黒5はこのコウを消したものである。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、352頁)

碁経衆妙 シノギの部【第1題】


碁経衆妙 シノギの部【第1題】
〇白先生き
・フトコロを広げるのがいいか、眼形につくのがいいか、という問題はつねにあるところだ。

【正解】眼形
・まず白1のハネは当然。
・黒2のとき、白3と眼形を得ておく。
・白5まででピッタリ生き。
※白1のハネがよく利いている。

【失敗1】フトコロ
・白1、黒2のとき、白3はフトコロを広げたものだが、少し怪しい形である。
※黒からどんな手段があるだろうか。

【失敗2】コウ
・黒1のウチカキ。
・白2のとき黒3とオサえて、この白に無条件生きはない。
・白4とカケツいでコウにするしかない形である。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、360頁)

碁経衆妙 シノギの部【第10題】


碁経衆妙 シノギの部【第10題】
〇黒先生き
・よく死活の題材に使われる詰碁。
・黒二子をツグ前に、ある手続きが必要である。

【正解】利かす
・黒1から3のハネを利かしておくのがポイント。
・白4のとき黒5とカケツぎ、白6に黒7とゆるめる手がよく、無条件生きである。
・このあと白aは黒b。

【失敗1】単に
・単に黒1とカケツいだばあいはどう違ってくるか。
・白2のハネに直接黒3とオサえるしかないが、そうすると白4に置かれて死ぬのである。

【失敗2】手遅れ
・前図のあと、黒1から3と一子を取ってももう遅い。
※黒▲とオサえたことにより死が決定づけられたのである。
・このあと黒aやbには白c。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、369頁)

碁経衆妙 シノギの部【第31題】


碁経衆妙 シノギの部【第31題】
〇白先コウ
・いかにも実戦的な形。
・第一感は三々だが、はたしてそれでいいのかどうか。

【正解1】根をおろす
・白1まで、根をおろさなければいけない。
・黒2から6と眼を取りにこられるが、白7のツケから9でコウにすることができる。
・もっとも白7は手筋張らなくても―

【正解2】ハネでも
・白1のハネでもよい。
・黒2には白3、5が好手であり、つづいて黒aとつめておなじくコウである。
※白5に対して黒3のツギは、白bと抜いたあとcにツケる手があるので死なない。

【失敗】三々
・白1は第一感の手だが、黒2から4とハサミツけられ、黒8までとなって白に生きなし。
※本題は正解1図、白1まで足をのばすのがポイントである。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、390頁)

碁経衆妙 シノギの部【第39題】


碁経衆妙 シノギの部【第39題】
〇黒先生き
・官子譜にあるものを、衆妙で簡略化した。
・みごとに盲点を衝く詰碁である。

【正解1】見せかけ
・黒1とオサえ、二子を取るかに見せかけるが、白2のとき転じて黒3とオサえる。
・白4と取るしかないので、黒5と眼を持つことができる。

【正解2】オイオトシ
・黒1のとき、白2のアテなら黒3と取り、そのあと黒5からのオイオトシが生じるので黒生きである。

【変化】もう一眼
・単に白1とノビるなら、黒2、4でこちらに一眼できるから簡単に生き。

【失敗1】ノビコミ
・第一手、単に黒1とオサえるのは白2のアテから4とノビ込まれる。
※正解の黒a、白bは、この白2を封じたものにほかならない。

【失敗2】ノビ
・黒1と右からオサえるのは、白2とノビられていて左方にもう一眼作ることができない。
・黒a、白b、黒c、白d。
・白も2のノビで―

【失敗3】白のミス
・1とアテてしまうのは失策。
・黒2と抜かれ、次に黒aの一眼とbのホウリコミが見合いとなる。

【参考】官子譜
・官子譜の出題図。
・正解手順は白a、黒b、白c、黒d、白e。
※このほうが手数が長い。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、398頁~399頁)

碁経衆妙 シノギの部【第41題】


碁経衆妙 シノギの部【第41題】
〇白先生き
・発陽論のものをやさしくしてある。
 隅に細工をするのだが、いかにも玄妙な筋である。

【正解1】二子にして
・白1とキリを入れ、黒2に一本白3とノビるのが、重要なところ。
・黒4のとき、白5から7とサガって、様子を聞くのだが、白a、b、c、dなど、いろいろな味を見ているところが自慢。

【正解2】オイオトシ
・つづいて黒1のハネなら、白2のサガリ。
・黒3から5と眼を奪ってくるなら、白6とアテて、オイオトシが成立している。

【正解3】
・正解1図のあと、黒1のハネなら、白2のキリ。
・黒3のツギに白4で一眼できるところが巧みである。
※このほか、黒1で2のツギは、白aのアテが利いて生き。

【参考3】発陽論
・『発陽論』の出題図である。
・白a、黒b以下、符号順に黒fまでの手順を進行させたのが、『碁経衆妙』の図。
(趙治勲『基本死活事典(下)』日本棋院、1996年、402頁~403頁)



≪囲碁の死活~趙治勲『基本死活事典(上)』より≫

2025-07-20 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁の死活~趙治勲『基本死活事典(上)』より≫
(2025年7月20日投稿)

【はじめに】


 本日の「囲碁フォーカス」では、「知っておきたい!「整地」ワザ」と題して、水間俊文八段が整地の手順について解説しておられた。最近はパソコンで対局する人が多く、ボタンをクリックするだけで勝敗が分かってしまい、整地までする必要がなくなってしまったことも、整地ができない原因の一つであるようだ。
 水間八段によれば、整地の手順としては、次の点がポイントとなるそうだ。
①死に石を取り上げてアゲハマに
②細かい陣地から埋める
③数えやすいように四角形をつくる
(おすすめのテクニックとして、ホシを目安に四角形を作る。ホシや旗を立てて10の単位にする)
 整地をつかった形勢判断の仕方についても説明しておられた。

 そして、今日のNHK杯は、呉柏毅六段vs林漢傑八段の対局であった。
 解説は、定石解説書や9路盤攻略本で知られる安斎伸彰八段が担当しておられた。
 中盤に「二手ヨセコウ」が生じて、攻め合いがらみの複雑な碁をうまく解説しておられた。アマチュアはコウが苦手である。ただのコウでさえそうなのだから、一手ヨセコウ、二手ヨセコウ、両コウ、二段コウなどとなってくると、言葉の意味もさることながら、実戦譜の中でそれを見分けて、次のコウダテを探すとなると、ふつうの棋力のアマチュアはお手上げであろう。
 結果的にみて、中盤戦で上辺にできた「二手ヨセコウ」が生じて、それが勝敗を分ける展開となった。
 ことほどさように、囲碁の死活の大切さを思い知らされる対局であった。

 さて、今回も引き続き、囲碁の死活について、次の基本死活事典を参考にして考えてみたい。
〇趙治勲『基本死活事典(上 基本死活の部)』日本棋院、増補改訂版1996年[2006年版]
 趙治勲先生の執筆だけあって、死活の変化図を丁寧に多数掲載されている。ヨセコウや万年コウ、両コウなどについても解説されている。

【趙治勲氏のプロフィール】
・1956年生まれ。韓国釜山市出身。
・1962年来日、故木谷実九段に入門。
・1968年、11歳で入段。1971年、五段。1981年、九段。
・1975年、第12期プロ十傑戦で初のビッグタイトルを獲得、その後、各種棋戦で活躍し、1980年名人位に就く。以後1984年まで5連覇。名誉名人の資格を得る。
・1981年、本因坊と併せ持ち、タイトル戦史上4人目の名人・本因坊となる。
・1982年、名人、本因坊、十段、鶴聖の4冠制す。
・1983年、棋聖位を獲得、3大タイトルを独占。棋聖戦3連覇。
・1987年、天元位を獲得し、史上初のグランド・スラム(7大タイトル制覇)達成。
・1989年、本因坊奪取、以降10連覇で二十五世本因坊の称号を受ける。
・1996年、11年ぶりに名人奪取、2度目の大3冠を達成。
・1998年、3巡目の大3冠。
・2002年、タイトル獲得65となり、二十三世本因坊坂田栄男の記録を抜く。
・2014年、第4回マスターズカップ優勝。
※2014年9月現在、タイトル獲得数73。平成24年、通算1400勝達成。



【趙治勲『基本死活事典(上)』はこちらから】




〇趙治勲『基本死活事典(上 基本死活の部)』日本棋院、増補改訂版1996年[2006年版]
【目次】
第1部 隅の死活
 (1)二線型
 (2)六目型
 (3)八目型
 (4)クシ型
 (5)一合マス型

第2部 辺の死活
 (1)二線型
 (2)三線型
 (3)四線型

第3部 応用死活
 (1)星と三々
 (2)荒らし方のいろいろ




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・趙治勲『基本死活事典(上)』のはしがき
<第1部> 
・隅の死活・六目型【第1型】
・隅の死活・六目型【第3型】
・隅の死活・八目型【第1型】
・隅の死活・八目型【第2型】
・隅の死活・八目型【第17型】
・隅の死活・クシ型【第1型】
・隅の死活・クシ型【第17型】
・隅の死活・クシ型【第19型】
・隅の死活・一合マス型【第2型】

<第2部> 
・辺の死活 (1)二線型 【第7型】
・辺の死活 (2)三線型 【第1型】
・辺の死活 (2)三線型 【第20型】
・辺の死活 (3)四線型 【第1型】
・辺の死活 (3)四線型 【第10型】

<第3部>
・応用死活 (1)星と三々【第1型】
・応用死活 (2)荒らし方のいろいろ 【第1型】
・応用死活 (2)荒らし方のいろいろ 【第9型】






趙治勲『基本死活事典(上)』のはしがき


・この巻は、死活の問われる形を基本型から応用型へ、事典としてまとめたものである。
 一応問題形式にしてあるが、詰碁のように一題一題解答を伏せて取り組む必要はさらさらなく、むしろ気ままに読んでいただくほうが、本書の内容にふさわしい。
 ページをめくって興味のある形だけに目を通すのもいいし、考えるのが面倒ならすぐ正解図を見るのも結構。
 枕元に置いておき、一、二ページぼんやり眺めているうちに眠りにつく、といった利用法など、私(著者)のもっとも望むところだ。
・石の死活に関する基本的な考え方を、自然に会得していただこうというのが、本書の目的なのである。

・何事によらず、基本は大切である。
 たとえば、本文の冒頭に三目ナカデの形があるが、すべての死活問題は煎じ詰めれば一眼か二眼かということなのだから、三目ナカデは基本中の基本といわねばならない。
 ある形について、どうすれば三目ナカデにできるかを考えるようになれば、それを考えなかったときにくらべてたいへんな進歩といえるだろう。
 基本を軽んじては応用も利かなくなるのである。
(趙治勲『基本死活事典(上)』日本棋院、1996年[2006年版]、1頁)

隅の死活・六目型【第1型】


隅の死活・六目型
【第1型】
白先黒死
・キッカリした六目型である。
・外ダメが全部つまっていることに注意。
※白先黒死だが、うっかりしやすい要素がないでもない。

【正解】ダメヅマリ
・白1のツケ。
・黒2とツケ返すしかないが、白3とオサえていてよい。
※ダメヅマリのため黒aとオサえるわけにいかず、死となる。
 このダメヅマリはちょっとした盲点ではないだろうか。

【失敗】コウ
・白1も急所の一つである。
・黒2と応じるしかなく、白3に黒4と入れてコウ。
※黒4とコウにしなければ、白4とノビられて、隅の曲り四目となる。
 いずれにせよ、コウにしては白の失敗。

【参考1】黒生き
☆外ダメを一つ空けた。白先でどうなるか。
・白1のツケは黒2。
・白3のとき、こんどは黒4とつめることができ、無条件生きとなる。
※したがって、このばあいの白1のツケは失敗である。

【参考2】コウが正解
・この形では白1のほうが正解だ。
・黒2から白5までの形は一手ヨセコウである。
※ただ、この形のばあい、外のダメアキが一つであることに注意を要する。
 次図を参照。

【参考3】ダメ二つ
☆外のダメが二つ空いている。
・白1と置いてみるが、以下白5のとき、黒6でオシツブシが成立する。
※ダメが二つ以上空いていれば、黒無条件生きということである。

〇ヨセコウ
【1図】
・1図は、<参考2>を再掲したものだが、白は1とコウを取ったあと、もう一手aとダメをつめなければ本コウにならない。
・白1と取った時点では「一手ヨセコウ」といい、性質としては、本コウにくらべて、黒の負担がかなり軽いといえる。

【2図】
・2図は、白1とコウを争っているが、白はこのあと、a、bをつめて本コウになるから、
「二手ヨセコウ」であり、黒はほとんど痛痒(つうよう)を感じない。
(趙治勲『基本死活事典(上)』日本棋院、1996年[2006年版]、68頁~69頁)

隅の死活・六目型【第3型】


隅の死活・六目型【第3型】黒生きなし
・実戦にもよく現れる、カギ型である。
・この形は、黒先でも生きがない。
※これをおぼえておくと、いろいろな応用形も、理解しやすくなる。

【変化1】(マガリ)
・黒先でいろいろやってみよう。
・まず黒1のマガリであるが、白2のオキが急所となり、以下白6まで、ナカデとなる。
※白2は4のハネを先にしてもよい。

【変化2】(トビ)
・つぎは黒1のトビ。
・これが一番生きそうな手であるが、白2ともう一方の急所に置かれ、以下白6まで、やはり一眼しかできない。

【変化3】(コスミ)
・こんどは黒1とコスんでみる。
・しかし白2のオキが急所で、二眼を作る余地はない。
※白aなら黒b。
・白2が絶対の急所で、これをcにハネるのは、黒2で生きられてしまう。

【変化4】(サガリ1)
・黒1とサガって形を広げてみよう。
・しかしこれもむずかしい形ではなく、白2とハネれば五目ナカデの形に結びつく。
・白4のオキで死。
※白2、4はほかの手もあるが、検討無用だろう。

【変化5】(サガリ2)
・つづいては黒1とこちらのサガリ。
・これも白2のハネ殺しだ。
・黒3とオサえれば五目ナカデの形になるから簡単である。

【参考1】(ハネても)
・かりに、黒1、3のハネが利いたとして、このあと黒先で生きる余地はないだろうか。
・ないのである。だから白も、あわてず2、4と応じていてよい。

【参考2】(おなじ結果)
・前図のあと、黒1とトンでみよう。
・やはり白2のオキが急所。
・黒3のとき、白4とホウリ込んでいて、黒に生きはない。
※黒1でaのマガリも白bで死。
 その他の手も各自検討していただきたい。
(趙治勲『基本死活事典(上)』日本棋院、1996年[2006年版]、72頁~73頁)

隅の死活・八目型【第1型】


隅の死活・八目型
【第1型】
白先万年コウ
・カギ型の一つ長い形。
・外ダメがつまっているとき、白から打って「万年コウ」になることを知っておく。
・むろん「万年コウ」とはどういうものかも。

【正解】腹ヅケ
・白1と腹にツケるしかない。
・黒2のとき白3のソイ。
・黒4のハネは急所で、白5のとき黒6とサガって、これが「万年コウ」と呼ばれる形である。
※ところで、この万年コウの性質であるが――

【参考1】自殺行為
・この形、黒から手が出しにくいのが大きな特色である。
・もし黒1とつめたりしたら、白2と取られ、死を招く本コウになってしまうから。
※黒1はコウダテ有利を確かめないと打てない手である。

【参考2】選択権
・黒が手を出さなければ、いずれ白1、3とダメがつまり、白aとコウを取ることになる。
※そのあとコウをツイでセキにするか、またはbと中ダメをつめて本コウにするか、白に選択権がある。

【変化】五目ナカデ
・白1から3のとき、黒4のサガリは失着となる。
・白5のマガリが急所で、五目ナカデになっていることを確かめていただきたい。

【失敗】ハネ
・最初、白1とハネるのは失敗。
・黒2のとき白3が急所になるが、以下黒8までとなり、白aとツイでもセキである。
※白3で4とツケ、黒6、白3は黒7とハネて生き。

【万年コウ】
【1図】
・1図が「万年コウ」の煮詰まった形である。
・黒a、白bのコウ争いは、コウに勝てる保証がない限り、命を縮める手になる。
※白から取りかけにいくときは白b と取り、さらにa とつめてから本コウであるが、コウにするかしないかは自由だ。
※もし双方ともコウダテに成算がなく、コウにする意志がないときは、2図。

【2図】
・白1と取り、さらに取り跡に白がツイでセキにする。
(趙治勲『基本死活事典(上)』日本棋院、1996年[2006年版]、122頁~123頁)

隅の死活・八目型【第2型】


隅の死活・八目型
【第2型】
黒死になし
・黒の外ダメが一つ空いている。
・このため、白先手で万年コウにもならない。
・実戦でよく生じ、ダメヅマリとダメアキの違いを頭に入れておく。

【正解1】ダメアキ
・手段があるとしても、やはり白1しかない。
・おなじく黒2とハネたとき白3のソイ。
※ここで、黒の次の一手が肝要である。

【正解2】白先手ゼキ
・黒1の下ヅケが好手。
・白2のとき黒3と引き、セキの形である。
※厳密にいえば、白先で白の先手ゼキということ。
 もし実戦でこの原型ができたら、あらかじめ黒地はゼロと計算しておく。

【変化1】妙着
・黒1とツケたとき、白2とこちらをオサえたらどうなるか。
※この変化が本型の見ものである。
・黒3が妙着。
・白4と二子を取らせたあと―

【変化2】オイオトシ
・黒5の取り返し。
・白6と渡ったとき、黒7のアテでオイオトシになっており、黒が生きる。
※本来はセキになるところだが、この変化はいうまでもなく白失敗である。
・なお白6で―

【変化3】手なし
・白1とアテても手にはならない。
・黒2とオサえ、白3のとき黒4とツグことができる。
※外ダメが空いているため、白aとつめても黒bでオシツブシ。

【失敗】万年コウ
・白1から3のとき、前型のように黒4、6と運ぶのはどうか。
・ダメが空いている黒の少し楽な万年コウとはいえ、コウにするよりはセキで生きるほうが一般論としてまさっている。

【参考】ダメヅマリ 黒8取り返す(6)
・もう一度、ダメヅマリとの比較をしておこう。
・白1から3のとき、黒4とツケても成功しない。
・白9と渡られたとき、ダメヅマリのため黒aとアテられないからである。
(趙治勲『基本死活事典(上)』日本棋院、1996年[2006年版]、124頁~125頁)

隅の死活・八目型【第17型】


隅の死活・八目型【第17型】
※あらかじめ黒にハネのある形
・このハネ一本は大きな助けになり、白先でも手にならない。
・ただし、黒も受け方に注意しないと頓死の筋がある。

【変化1】(沈着)
・白の有力手の一つは1のホウリコミ。
・これに対して黒2のマガリが沈着である。
・つづいて白aとナカデをしても黒b。
 また白cとサガっても黒bで生き。
※いずれにせよ、三角印の黒がモノをいっている。

【失敗】(手拍子)
・白1に対し、黒2の抜きは手拍子の軽率。
・白3と置かれ、こんどはすでに、146頁の図例【第16型】にある死形である。
※黒2と抜いたのでは、三角印の黒を働かせたことにはならないのだ。

【変化2】(ヒヤリ)
・白1のオキも有力手の一つであろう。
・黒2がおなじく急所。
・白3には黒4とオサえている。
・白5とホウリ込まれ、一瞬死にかと思わせるが、単に黒6と抜いていて、白aに黒bで生きている。
(趙治勲『基本死活事典(上)』日本棋院、1996年[2006年版]、148頁)

隅の死活・クシ型【第1型】


隅の死活・クシ型【第1型】
・簡単に隅からハネたのでは生かしてしまう。
・隅の特殊性を利用し、いろいろな手段があることを確かめてほしい。

【正解1】(ツケ)
・急所は白1のツケ。
・黒2のとき、白3のトビも急所である。
・黒4と突き当たるしかなく、白5を利かしてから7のホウリコミでコウになる。
※白5ですぐ7でもコウだが、5を利かしたほうが得。

【正解2】(切り)
・白1、黒2のとき、白3と切るのもある。
・黒はダメヅマリのため、黒4のとき白5とハネる余地があるから。
・黒6と取ってのコウ。
※この形は白3で5とトビ、黒4、白3のコウとおなじである。

【正解3】(すぐにコウ)
・白1のツケに対し、黒2のオサエなら白3とアテ、そのまま隅のコウ争いである。
※白3でa、黒bもコウ。
※黒2でなくcと堅くツグのは、白3と渡られて無条件死。

【失敗1】(正真正銘)
・白1のハネはまったく策がない。
・黒2とサガり、正真正銘の「クシ型」となって生きである。
※このあとナカデをはかろうとしても、白aは黒b、白bは黒aで生き。

【失敗2】(二段コウ)
・白1のキリコミからいくのはどうか。
・一応手筋ではあるが、少しひねりすぎである。
・黒2のとき白3からアテる筋はあるが、白5、黒6のコウ争いは本コウではなく二段コウ。
 本コウより劣る。

【コウの取り番】
【1図】
・1図で白先の問題だとしよう。結論はむろんコウである。
・その手順は、白1、黒2でよいだろうか。
・確かにコウにはなっているが、実は問題がある。

【2図】
・厳密には2図、白1から3でなければならない。
・お気づきのとおり、コウの取り番が違うからである。
※1図の答案を正解にするかどうか、詰碁のルールに定かではないが、正解だとしても2図より劣ることは知っておくべきだろう。
(趙治勲『基本死活事典(上)』日本棋院、1996年[2006年版]、180頁~181頁)

隅の死活・クシ型【第17型】


隅の死活・クシ型
【第17型】黒死になし
・最初のクシ型とくらべて形が少し小さくなった。
・実戦にはよく現れる形であるが、黒は手抜きで生きている。

【変化1】(ハネ)
・白から取りかけにいくとすれば1のハネだが、黒2とツイでよい。
・白3のオキには黒4が肝要。
・つづいて白5とハワれて一瞬ヒヤリとする形だが、黒6とツイでいて、白3の石は取れている。

【変化2】(意地悪)
・白1には黒2とカケツギでも生き。
・白3の元ツギは意地のわるい手で、黒も気をつけなくてはいけない。
・黒4の眼持ちかaが冷静である。
※黒4でbは、aのホウリ込まれて死ぬ。

【変化3】(オキ)
・白1のオキは紛らわしい手であるが、黒2とカケツいでいて心配はない。
※1で2の点のオキも、黒1のカケツギで手なし。
(趙治勲『基本死活事典(上)』日本棋院、1996年[2006年版]、202頁)

隅の死活・クシ型【第19型】


【第19型】白先黒死
・見るからに薄い形だが、あまり簡単に考えると生かしてしまう。
 第一手をどこから持っていくかだが、急所は一つしかない。

【正解1】(オキ)
・白1のオキがこの形の急所である。
・黒2とワタリを止めるしかないところだが、白3のハネから5とダメヅマリを衝くのがうまい。

【正解2】(ワタリ)
・白1に対して黒2のカケツギなら、白3と渡っていてそれまで。
※黒2でほかにaのツギも白3。
 おなじく2で3のサガリは白aと出られて死。
※とにかく白1はすばらしい急所である。

【失敗1】(ハネ)
・白1のハネからいってはいけないのか。
・黒2のマガリなら、白3と置いて、<正解1>に戻るはず。
※しかし、白1は手順がわるい。
 ということは、黒側にもっといい受け方があるということだ。

【失敗2】(急所)
・白1のハネには黒2のトビが好手。
 やはりここが急所なのである。
※さてこの形、黒は生きているのかどうか。
 もう少し追求してみなければならない。

【失敗3】(生き)
・何か手があるとすれば白1のツケ。
・黒2のとき白3とアテるのが、黒は4とツイでよい。
・白5に黒6と抜き、ピッタリ二眼である。
※白3で5とアテても黒6でおなじ。
 つまりこの形は黒生き。

【失敗4】(俗手)
・白1の腹ヅケは俗手。
・黒2、白3のとき、黒4のトビが大切な手。
※このあと、白a、黒b、白c、黒dまでの生きとなる。
※黒4でbのアテは、白4のハネでコウにされるから注意。

【失敗5】(悪手)
・白1とここを出るのはさらに俗手。
・黒2と受けた形はちょうど<第17型>とおなじで、黒死になしの形である。
・白3のハネなら黒4のツギ。
(趙治勲『基本死活事典(上)』日本棋院、1996年[2006年版]、204頁~205頁)

隅の死活・一合マス型【第2型】


隅の死活・一合マス型
【第2型】白先コウ
・これがふつうにいわれる一合マスである。
・ただし外のダメがつまっているかどうかで変化が違ってくる。
・まずはダメヅマリ一合マスを見てみよう。

【正解1】(ツケ)
・白からの攻めは1のオキが正着。
・このほかにも手があるが、それについては改めて触れる。
・黒の応手は2のツケ(aでも同じ)が最善。
※やはり「2ノ一」の働きが一合マスでも生きてくる。

【正解2】(ハネ)
・つづいては白1のハネが好手。
※黒がツケてきた反対側をハネる要領だ。
・黒2なら白3とハイ込む。
・黒4とホウリ込み、コウにするしかない。
※本図は正解の代表的な手順である。

【変化1】(五目ナカデ)
・前図の変化、白1のとき、黒2とオサえるのは受けの失敗。
・白3、黒4を交換したのち白5のキリが好手となり、白7とオサえて黒無条件死である。
※5の点が五目ナカデの急所に当たっている。

【失敗1】(早まる)
・白1に黒2のオサエは受け方を間違えているが、白も3のあと5とオサえては失敗となる。
・黒6と応じられ、結果はコウ。
※白5で6、黒a、白5なら死。

【正解3】(おなじコウ)
・最初に戻って、黒の下ヅケに白1と突き当たる。
・黒2のとき白3とハネればやはり黒4しかなく、白5、黒6でコウ。
※<正解2>にくらべ、白1、黒2を交換しただけで、大筋、違いはない。

【正解4】(第二のコウ)
・黒の下ヅケに、こんどは白1と逆の方へ突き当たってみる。
・黒2のとき白3のハネ。
・黒4には白5のオサエが肝要で、黒6、白7のコウになる。
※これが第二のコウで、やはり正解手順である。

【変化2】(悪手)
・前図の変化。
・白1のとき黒2のハネは悪手となる。
・白3、黒4ののち、白5のツキアタリが急所。
・つづいて黒aと受けても、そのまま五目ナカデの死である。

【失敗2】(ハネが逆)
・黒が下にツケたとき、白1とこちら側をハネるのはよくない。
・黒2のとき白3と突き当たるしかなく、黒4とハネられて白5、黒6まで、この形はセキである。

【変化3】(俗手)
・白1に対し、一合マスの知識がなければ、ほとんどの人が黒2と受けてしまうのではないか。
※しかしこれは俗手といってよく、とくにダメヅマリ一合マスのばあい、無条件死となるのである。

【変化4】(黒負け)
・つづいて白1の突き当たり。
・黒2のサガリなら、白も3とサガっているのが冷静。
・黒4とツケてセキの形を求めるが、白5とオサえて、この形は一種の攻合い。
※しかし眼あり眼なしで黒負け。

【変化5】(頓死)
・白1のとき、黒2のハネなら白3とオサえてから5の眼持ち。
※やはり攻合い黒負けでもあるし、攻合いに関係なく、ナカデの形でもある。
(趙治勲『基本死活事典(上)』日本棋院、1996年[2006年版]、227頁~229頁)

第2部 辺の死活 (1)二線型 【第7型】


【第7型】黒生きなし
・黒石が七本なら黒先で生き。
・しかしこの形は七本といえず、Aの点が欠けている分、生きるには足りない形である。

【変化1】(サガリ)
・生きるのに有力と思われれるのは黒1のサガリ。
・これに対しては白2が眼形の急所。
・黒3とサガるなら白4のホウリコミ。
・白6まで黒死となった。
※白4で単に6は、黒4とツガれて生き。

【変化2】(無駄石)
・黒1、白2のとき、黒3とツグのは白4のハネで死。
※黒3とツグ手自体、黒▲の存在をまったく無視した手といえる。

【変化3】(オキ)
・白2に対し、黒3とオサえるのはどうか。
・こんどは白4のオキが好手となる。
・つづいて黒aなら白bとサシ込んでカケ眼になることはおわかりであろう。

【失敗1】(コウ)
・黒1のとき、白2のアテは手拍子。
・黒aとツイでくれれば白3とハッて死ぬが、黒3のオサエでコウになってしまう。
※別の見方をすれば、白2のハネは黒▲を働かせる手ともいえる。

【失敗2】(オキから)
・黒1のとき、白2も急所には違いないが、手順を誤った。
・黒3に白4とサシ込んでカケ眼にしても、黒5のあとaが残っては死なない。

【変化4】(ホウリコミ)
・最初に戻って、こんどは黒1とこちらをサガってみよう。
・白2が黒の形をせばめる手になる。
・黒3のとき白4とハネて死。
※白2は4のハネから打ってもよい。

【参考】(ハネつき)
・黒▲のハネを加えてみたが、これでもまだ、黒に生きはない。
・1のサガリなら、やはり白2のツケだ。
・黒aには白bのオキである。
※黒1でbとヘコんでみても白1のハネで死。
(趙治勲『基本死活事典(上)』日本棋院、1996年[2006年版]、280頁~281頁)

第2部 辺の死活 (2)三線型 【第1型】


【第1型】黒死になし
・正味六目の形。
・地の形が一枚の板のようで、「板六(いたろく)」とも呼ばれている。
※これも生きの基本形の一つといってよい。

【変化1】(ツケ)
・白からナカデをはかるとすれば、中央の上下どちらかに置くしかない。
・白1には黒2のツケ。
・つづいて白aなら黒b、白bなら黒aである。
※黒の背中のダメには関係ない。

【変化2】(ブツカリ)
・白1と下に置くなら黒2のブツカリ。
※黒の生きは明らかであろう。
※念のためであるが、黒2を手抜きしては、白2と打たれ五目ナカデの死形となる。

【参考】(欠けても)
・aの点に黒石が欠けているが、これでも黒の生きに変りはない。
・白bなら黒c、白cなら黒b。
・いずれも黒も支障はないはず。
(趙治勲『基本死活事典(上)』日本棋院、1996年[2006年版]、304頁)

第2部 辺の死活 (2)三線型 【第20型】


【第20型】白先黒死
・クシ型よりも広い形だが、広ければよいというものではない。
 クシ型にくらべて弱点がある。
・屋根の黒三子のダメヅマリにも注意。

【正解1】(オキ)
・白1が「三目の真中」の急所である。
・黒2のブツカリなら白3のノビ。
・黒はaとオサえてbに眼を持つことができないのでどうしようもない。

【正解2】(ダメヅマリ)
・白1に対し、黒2のコスミツケなら白3と切ってしまう。
※黒三子がダメヅマリのため、この手段が生じている。

【失敗】(クシ型)
・白1のハネには黒2のオサエ。
・これはクシ型になり、生きである。
・つづいて白aと置いても黒b。白cに対して黒dとオサえることができる。
※ほかに白1でbは、黒a、白c、黒eでコウ。

【参考1】(ダメアキ)
・黒三子の背中のダメを空けてみた。
・こんどは白先黒死とはいかないはずである。
 どこが違うのだろうか。

【参考2】(コウ)
・この形では白1のツケが正解となる。
・黒は2とツケる一手。
・白3に黒4と受けて、毎度出てくるコウである。

【参考3】(死形)
・念のための変化図。
・白1に黒2のツギなら白3のサガリ。
・黒aに白bとマガって死である。
※黒2でcとツイでも白3。

【参考4】(オシツブシ)
・さて、白1のオキではなぜいけないか。
・こんどは黒2のコスミツケに対し、白6と切っても黒3とアテられる。
・したがって白3だが、黒4と眼を持たれ、白5に黒6のアテでオシツブシだ。
(趙治勲『基本死活事典(上)』日本棋院、1996年[2006年版]、328頁~329頁)

第2部 辺の死活 (3)四線型 【第1型】


【第1型】黒生きなし
・辺での一合マス形である。
・第一線のサガリがないため、黒先で六目型にならない。
・眼形の急所もはっきりしたものがなく、生きのない形である。

【変化1】(サガリ)
・とりあえず、黒1とサガってみる。
・これに対して白はむずかしい手を考える必要はなく、2とハネれば死形に導くことができる。
・黒3のとき、ちょうど五目ナカデの形だ。

【変化2】(マガリ)
・黒1のマガリはどうか。
・これも白2のハネがよい。
・黒3なら白4のハネ。
※3で4のサガリなら白3とハッても、aとナカデをしても死である。
※また黒3でaと上に眼を持つなら白bのオキ。

【失敗】(あわてる)
・黒1のとき、白2のナカデはあわてた。
・黒3とサガられたとき白4と置くしかなく、黒5、白6はセキである。
(趙治勲『基本死活事典(上)』日本棋院、1996年[2006年版]、338頁)

第2部 辺の死活 (3)四線型 【第10型】


【第10型】黒死になし
・ふたたび四線型であるが、こんどは横に広がっている。
・広さがあるので死にはない形だが、受け損じて死ぬ可能性は少なくない。

【変化1】(オキ)
・白1のオキは一応の急所である。
・これに対しては黒2のブツカリでよい。
・白3にはむろん黒4のサガリ。
・白5にも黒6とサガるが、これではまだハッキリせず、もう少し追求する必要があろう。

【変化2】(セキ)
・前図につづき、白1には黒2とツイでおく。
・これで五目ナカデにはならず、セキである。
・ただしこのあと、白aと打たれたら黒bと中へ入れることを忘れないように。

【変化3】(ハネ)
・最初に戻り、白1のハネなら黒2と急所に守っているのが堅い。
・といってもまだ油断はならず、白3のノビには黒4とここをツイでおくのが大切。
・白5とナカデをしても、黒6とサガって生き。

【変化4】(不用意)
・前図黒4の変化。
・黒1とオサえるのは不用意で、白2とハネられて窮する。
・黒3とオサえても白二子はツイでもらえず、4とナカデをされて死に。

【参考1】(薄い)
・aのダメが空いている形で、さすがに黒は手薄くなった。
・白先黒死。手広いようでも、それほどむずかしくはない。

【参考2】(ワタリ)
・やはり白1のオキが急所である。
・黒2には白3とサガっているのが手っ取りばやい。
・黒4には白5と渡って、黒6を許しても二眼にはなっていない。
・いうまでもなくa、bが見合いである。

【参考3】(サガリで死)
・白1に黒2と横からブツカってきても、白3とサガっていてよい。
・黒4とワタリを止めたとき、白5から7とつめる。
・黒8に白9と眼をつぶし、セキではなくナカデになる形。
(趙治勲『基本死活事典(上)』日本棋院、1996年[2006年版]、350頁~351頁)

第3部 応用死活 (1)星と三々【第1型】


【第1型】大ゲイマ(1)
・白の小ゲイマガカリに黒大ゲイマ受け。
・次に黒aのシマリが大きいので、すぐにも白1と入りたいところである。

【1図】(先手生き)
・白1に対して、通常は黒2のオサエ。
・白3とハッたあと、5、7のハネツギが先手で生きはたやすい。
・白9、黒10までで白の先手生き。
※このあと白a、黒b、白c、黒dなどが定石の延長。

【2図】(黒の権利)
・隅の後始末であるが、いずれ時期を見て、黒1、3のハネツギは黒側の権利。
・白の形は「隅の死活」の部で現れたもの(74頁)であり、部分的には4のトビで生きるところである。

【3図】(生きる前に)
・しかし、実戦では黒1、3のとき、生きる前に白4を逆に利かす余地が生じることもある。
※この結果は白の働きとなるから、黒1、3のハネツギも無雑作に打つべきではない。

【4図】(カケツギ)
・黒の利かし方であるが、1、3のハネカケツギでも先手になる。
・aのツギよりも3のほうが左方に働くケースもあるので、この利かし方があることも知っておいたほうがよい。

【5図】(一線のトビ)
・左方にも働きのある黒1のトビが好手になるばあいもあり得る。
・かりに白△で左方に地を囲っているとすれば、黒1から次にaの侵略をねらうことができる。
・黒1の隅へのねらいは次図に―

【6図】(横トビ)
・黒のトビに対して、白が白△へ守ったとしよう。
・すると、黒1の横トビが白にとってうるさい手となる。
・白2のツケに黒3のオキが好手。
・白4、黒5につづいて―

【7図】(コウ)
・白1とサガってがんばるところ。
・黒2のホウリコミから4とサシ込んで、結果はコウになる。
※黒2で単に4は、白2、黒a、白bでセキにしかならない。
(趙治勲『基本死活事典(上)』日本棋院、1996年[2006年版]、364頁~365頁)

第3部 応用死活 (2)荒らし方のいろいろ 【第1型】


【第1型】大ゲイマへ
・三々でなく白1とツケるのは、隅よりもやや左方寄りの黒模様を荒らすためである。
・ここからどんな変化が生じるだろうか。

【1図】(外オサエ)
・白1に対して、黒の応手は二通り。
・黒aの内オサエか、2の外オサエかである。
・黒2には、左方黒▲のヒラキを地に生かそうという打ち方で、ここから変化は多岐にわたる。

【2図】(俗手)
・黒の外オサエに、白1のハネがサバキの形である。
・黒2のアテから4とノビるのはやや俗。
・白5に黒6とオサえるしかないが、白7から9とハイ、次に黒a、白bとなっては白がさばいている。

【3図】(生きない)
・前図白5のキリがよい手で、これを平易に1とマガるのは、黒2とサガられて生きるのが苦しくなる。
・白3以下とモガいても、黒8まで全部がんばられ、この長さでは白に生きがない。

【4図】(単ツギ)
・白1のハネに、じっと黒2とツグのが本手である。
・白の動きは制限され、3とツグぐらいなもの。
・黒4とオサえ、白5、7と生きをはかる。
・黒8は堅い手。
・このあと、黒a、白bは決めない。

【5図】(味残り)
・黒1と置く味があることは、すでに本文中(266頁)に触れた。
・念のためもう一度復習しておくと、白2以下黒13までで一手ヨセコウである。

【6図】(カケツギ)
・白1、黒2のとき、白3のカケツギもある。
・しかし黒4に白5、7なら4図とあまり変らない。
※この形もいずれ、黒a、白b、黒c、白d、黒eで5図とおなじになる。

【7図】(がんばり)
・白△とカケツぐからには、前図の白7でこの1とハネる手がないとおもしろくない。
・ただし、シチョウ有利が条件。
・黒2、4のとき、白5、そして7と切る。
・黒10につづいて次図へ―

【8図】(シチョウ)
・白1のオシが強手。
・黒2のとき、白3からアテていって7とマガる。
・次に白aのシチョウとbのキリが見合いだ。
※白シチョウ有利なら、黒大損することになる。

【9図】(外勢)
・白がシチョウ有利を見越して1とハネたばあい、黒は2以下白9のとき、10と上からアテて外勢を築くことになるだろう。
・あるいは黒4の手で、aと譲歩することも考えられる。

【10図】(隅へヒキ)
・黒外オサエのとき、隅へ白1と引くのは簡明な手。
・黒2のサガリに白3とケイマし、黒4のとき白5のヘコミで生きている。
※黒は2のサガリが地に辛く、外オサエの目的は十分達した。

【11図】(隅オサエ)
・最初に戻って、白1に黒2のオサエは隅の地を大切にしたもの。
・白は3と引き、黒4のサガリに白5と軽くケイマして、この一帯を消す要領である。
(趙治勲『基本死活事典(上)』日本棋院、1996年[2006年版]、388頁~390頁)

第3部 応用死活 (2)荒らし方のいろいろ 【第9型】


荒らし方のいろいろ
小目・一間ジマリから星下へ四間ビラキへウチコミ
【第9型】四間ビラキへ
・こんどは辺のウチコミを題材にしよう。
・一間ジマリから星下へヒラいている黒陣に、白1と打込んだあとの攻防。

【1図】(コスミ)
・白1に対し、善悪は別として、黒2のコスミは最強手。
※これでaの一間トビでは、白bでワタリの余地を与えてしまう。
・このあとの白のサバキが課題となるが、白3のケイマが好手である。

【2図】(ツケコシ)
・白のケイマに対し、さらに攻めを追求をしたのが黒1のツケコシ。
・白4のカカエに黒5とアテ返し、7と封鎖をはかる。
※なお黒5で6では、白a、黒b、白c、黒d、白5となって黒がわるい。

【3図】(必然)
・つづいて、白1のハネは当然。
・黒は2の取りを利かしてから、4とオサえる。
・白5のキリは無駄のないキカシ。
※ここまでくれば、白の生きは見えてきただろう。

【4図】(大威張り)
・白が生きるだけの話なら、1、3のツケヒキから5、7まで、大威張りだ。
※しかし実戦では、もっと積極的に白1でaと切り、黒bとツガせてから生きをはんかることも十分考えられる。

【5図】(小さく)
・白△にさわらないように生きたいのなら、1のコスミでもいい。
・黒2のオサエなら白3、5のハネカケツギでちょうど生きている。

【6図】(押しても)
・黒1に白2と押したばあいも、黒がその気になればこれまでと同じ形に導くことができる。
・3とハネ、白4に黒5のキリ。
・つづいて白a、黒b。

【7図】(別法)
・黒1のとき、白2を利かして4なら楽に進出できる。
※ただし白2、黒3の交換で隅を固めてしまったのはやむをえない。
※また黒があくまで外勢を得たいのなら、3でaのオサエが考えられる。
(趙治勲『基本死活事典(上)』日本棋院、1996年[2006年版]、406頁~407頁)



≪囲碁の死活~坂田栄男氏の場合≫

2025-07-13 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁の死活~坂田栄男氏の場合≫


【はじめに】


 以前の「囲碁フォーカス」(2025年4月27日、6月29日再放送)では、昭和の名局を振り返って、「シリーズ昭和100年 私の愛するあの一局~石田芳夫二十四世本因坊~」と題して、影響を与えた一局を石田芳夫氏が紹介しておられた。
 その名局とは、坂田栄男氏の旧名人戦での一局であった。
〇昭和38年 第2期旧名人戦第7局
 名人  藤沢秀行      38歳(当時)
 挑戦者 坂田栄男 本因坊  43歳(当時)

 当時15歳の石田氏にとって、この名局は憧れの二人の対局であったそうだ。
(この二人は、盤上以外でも、同じ列車で対局場に行くのはいやだというほど、仲が悪かったそうだ)
 第2期旧名人戦第7局は、最終局の“坂田の逆ノゾキ”という妙手で知られる対局である。この勝負に勝って、坂田栄男氏は史上初めて名人本因坊になった。黄金期幕開けの第一歩となった。
 
 さて、今回のブログでも、引き続き、囲碁の死活について、この坂田栄男先生の次の著作を参考にして、考えてみたい。
〇坂田栄男『やさしい死活』棋苑図書、1978年
 書かれた時の年代が多少古いが、やはり中には箴言が随所に見られる。
・例えば、石の死活を適確に判断する思考力をいかにして養われるかという問いに対して、
 それはすでにあなたが定石や布石においてまなんだと同様に、まず実戦にもっとも現れやすい形を選んで反復研究し、完全に理解し、そして記憶することである。
・一旦暗記してしまえば、応用形は随時実戦に現れるから、自然に推理が働いて棋力を向上させることができる。
・死活は碁の基本であり、キイ・ポイントであるがゆえに、これに関する格言は非常に多い。(1頁) 
 このように答えている。

「第三章 死活の理論と実際」においては、二つの生き方について述べ、「眼の生き」と「地の生き」に分類し、次のように記しておられる。

※死活の問題を考える場合、とくに死活のみに焦点を合わせたいわゆる詰物(詰碁)の場合には、眼の生きによる例が地の生きによるよりも圧倒的に多い。
・その理由は、眼の生きの問題の方が地の生きの問題よりも手筋の面白味が多いからで、妙手、鬼手のたぐいは詰物としての興味を増すからにもよるものである。
・しかし実戦に当っては妙手、鬼手のみが一局の勝利をもたらすわけではない。
 むしろ平凡ながらも正確な着手の連続、そして綿密な得失の計算など、不断の努力の積みかさねが勝局をささえるいちばん大きな力となる。
 その意味からは「地の生き」という技法も、たんに死活だけでなく、これに得失を加味して考えるときには欠くべからざるものとなる。(80頁)

 囲碁のカンについても、鋭い考察が見られる。例えば、「第四章 死活の筋と形」において、
・無数にある変化の中から正解の筋をカンによって発見することは、かなり才能という要素も働くのであるが、しかしその思考の基礎となるものは基本的な形における手筋の理解と記憶であって、その知識が無意識に他の類似形の解決に働くとき、それを称してカンというのである。筋や形に対するカンの養成にも不断の地道な努力が必要である。
・筋と形をよく呑み込んでおくと、実戦に当たって死活を考える際にムダな時間がはぶける。(115頁~116頁)

また、手筋についても、「第四章 死活の筋と形」において、ヘコミの筋についても解説し、詰碁の妙味を感じさせるとしている。(124頁)

【坂田栄男氏のプロフィール】
・二十三世本因坊栄寿、1920年~2010年。東京出身、増渕辰子八段門下、九段。
・本因坊戦で7連覇他、選手権制初の名人・本因坊、7大タイトル制覇、タイトル獲得64回など数々の記録を持つ。呉清源と並び称される昭和最強棋士の一人。
・切れ味の鋭いシノギを特徴として「シノギの坂田」「カミソリ坂田」の異名を持ち、数々の妙手、鬼手と呼ばれる手を残している。また棋風の柔軟性から「なまくら坂田」というあだ名もあった。
・また布石での三々を多用した。
・1940年頃、藤沢庫之助、高川格とともに日本棋院三羽烏と呼ばれた。
・1961年に、本因坊戦では同率決戦で木谷實に勝って、9連覇中の高川格に挑戦。
 4勝1敗で勝って本因坊となり、本因坊栄寿と号す。以後7連覇し、名誉本因坊の資格を得る。
・1961年は、高川から本因坊、王座、日本棋院第一位の3タイトルを奪った他、最高位・最強位・日本棋院選手権・NHK杯を合わせて7タイトル制覇の記録を作る。
・1963年の第2期名人戦は、リーグ最終戦で呉清源を破り6勝1敗で挑戦権獲得、藤沢秀行との挑戦手合を4-3で制し、名人本因坊を併せ持って棋界の第一人者となる。
・1964年にも名人・本因坊・日本棋院選手権・プロ十傑戦・王座・日本棋院第一位・NHK杯と、再度の7大タイトル制覇。
・1964年から1966年の本因坊戦では、挑戦者の高川格、山部俊郎、藤沢秀行を4-0で退け、その前期の高川戦、次期の林海峰戦を合わせ17連勝と圧倒的な強さを見せた。
・1975年、本因坊戦に5年ぶりに登場。
 4連覇中の石田芳夫に挑戦し、3勝1敗とした第5局でも投了寸前まで追い詰めるが、攻め合いのミスで敗れ、結局3-4で本因坊復位はならなかった。
・2000年、体力と視力の衰えにより、80歳の誕生日をもって引退。

<エピソード>
・高川格は坂田を苦手として多くのタイトルを奪われ、タイトル戦での対戦成績は坂田の14勝1敗になっている。また趙治勲は六段時に、日本棋院選手権で坂田への挑戦で2連勝後に3連敗して以降、坂田に12連敗し、大いに苦手とした。
・坂田が名人本因坊となったのは43歳の時であり、名人戦で23歳の林海峰八段の挑戦を受けた際には「20代の名人などあり得ない」と語ったが、2勝4敗で名人を奪われている。
 続いて林海峰に本因坊他のタイトルも次々と奪われ、投了目前の局面で「名人も取られた。何もかも取られてしまった」とうめいたとされる。
・林海峰は坂田について、大きなタイトルに的を絞る藤沢秀行と比較し、「あらゆる棋戦に全力投球、『ぜんぶ勝つ』というすごみがありました」と語っている。

<代表局~名人獲得の逆ノゾキ>
 先番藤沢秀行名人-本因坊栄寿(坂田栄男)
・1963年、坂田が藤沢秀行に挑戦する第2期名人戦の挑戦手合7局で、白番坂田の120手目が妙手として後世にまで語り継がれている。
 ここまで互角の形勢で、ここからの終盤で中央の力関係で地の付き方が問題となりそうなところ、一間トビを逆ノゾキする。
(逆側からノゾくのが普通の発想であるため「逆ノゾキ」と呼ばれる)
 解説を務めていた呉清源はこの手を「天来の妙手」と激賞し、藤沢はしばらく考えた後に「そんな馬鹿な」と呻いたという。



【坂田栄男『やさしい死活』はこちらから】





〇坂田栄男『やさしい死活』棋苑図書、1978年
本書の目次は次のようになっている。
【目次】
第一章 死活の考え方
第二章 隅の基本形
    隅の6目
    隅の7目 第一型~第四型
    隅の8目

第三章 死活の理論と実際
    二つの生き方
    眼の生き
    地の生き
    練習問題
    眼の取り方
    練習問題

第四章 死活の筋と形
    眼欠きの筋
    ヘコミの筋
    コウの種々相
    一線の下がり
    ツギと眼形
    一合マス
    石の下
    捨石




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・氏のプロフィール
・「著者のことば」より
・第一章 死活の考え方―六死八活(その一)

・第二章 隅の基本形―六死八活(その二)
・第二章 隅の基本形 隅の6目

・第三章 死活の理論と実際―生き方と殺し方―
・第三章 死活の理論と実際【二つの生き方】
・第三章 死活の理論と実際【眼の生き】
・第三章 死活の理論と実際【地の生き】
・第三章 死活の理論と実際 眼の取り方

・第四章 死活の筋と形 ―「この一手」の発見―
・第四章 死活の筋と形 眼欠きの筋
・第四章 死活の筋と形 ヘコミの筋
・第四章 死活の筋と形 コウの種々相
・第四章 死活の筋と形 一線の下がり
・第四章 死活の筋と形 ツギと眼形
・第四章 死活の筋と形 一合マス
・第四章 死活の筋と形 石の下
・第四章 死活の筋と形 捨石

【補足】坂田栄男vs藤沢秀行の棋譜







「著者のことば」より


・やさしいシリーズ全六巻の最終に、この「やさしい死活」を送る。
 1955年の春に第1巻「やさしい碁の打ち方」を手がけてから、ここに満6年をけみして、ようやく当初の計画をなしとげることができ、一息ついた感じである。
・黄金の60年代にちなんでか、昨今の囲碁ブームはまことにすばらしいものがある。
 その質においては、専門棋士の最高クラスに二子で対等に勝負するアマチュアの強豪連を頂点として、量においては500万を越える大ピラミッドをなしており、しかも女流囲碁人さえ次第に全国的規模でその数を増しているにいたっては、まさに空前の盛況と言って過言ではあるまい。
 さらに対外的普及のため国際囲碁協会が設立され、本年初頭から英文月刊誌を発行する運びとなり、囲碁は柔道と並んで世界的にわが国技として進出する地歩をきずきつつある。

・本シリーズ発行の当初においては、いかにして未知の初心者に囲碁することを教えるかと、少なからぬ悩みさえいだいたものであり、わずかに日本棋院囲碁規約だけがレッスンを企画してゆくよすがであった。
 2巻、3巻とシリーズを進めるにつれ、熱心な読者からの御叱正によって幾度か構想を是正されたものであるが、いま書肆の店頭に初心者向き類書のオン・パレードを見て、うたた隔世の感にたえぬ次第である。
 1961年 聖ヴァレンタインの日に
(坂田栄男『やさしい死活』棋苑図書、1978年、i頁)

第一章 死活の考え方―六死八活(その一)―


第一章 死活の考え方―六死八活(その一)―
・石の死活を知ることは、碁を強くなるための根本の資格である。
 もちろん一眼なら死、二眼あれば生きということは誰でもルールとして知っているわけであるから、ある石の集団が終局において一眼になるか二眼になるかをあらかじめ読みきる力、それが「死活を知る」要素になる。
・この思考力を欠いては、どんなに布石や中盤をたくみに打っても、最後の勝を得ることはおぼつかない、と断言できる。

・しからば石の死活を適確に判断する思考力をいかにして養われるか。
 それはすでにあなたが定石や布石においてまなんだと同様に、まず実戦にもっとも現れやすい形を選んで反復研究し、完全に理解し、そして記憶することである。
・一旦暗記してしまえば、応用形は随時実戦に現れるから、自然に推理が働いて棋力を向上させることができる。

・死活は碁の基本であり、キイ・ポイントであるがゆえに、これに関する格言は非常に多い。
 したがって格言とともに形や技法を記憶しておけば、興味もわくし、実戦への応用も容易である。
 まずその代表的なもの“六死八活”からやってみよう。
(坂田栄男『やさしい死活』棋苑図書、1978年、1頁)

第二章 隅の基本形―六死八活(その二)―


第二章 隅の基本形―六死八活(その二)―
・第二線に並んだ石は、一列の地を持つにすぎないので、死活の問題は割合に簡単である。
 すなわちその一列の地を二つに区切れるかどうかで一眼か二眼かが決まるから。

・しかしここに実戦例を一つ出すと、例えば第1図の3三打込みであるが、白1に対して黒a、白b、黒cといったごく普通の応接を仮定してみても、すでに白の石は第三線にあり、白地は当然二列になっている。
【第1図】
・一列の地が二列になると、変化は二倍でなくて二乗にふえ、ぐっと複雑化する。
 しかも第1図は星の定石における基本的な問題で、ここから発展する死活の問題を完全に解決しないことには置碁は卒業できないのであるから、本章においては3三打込みに端を発する代表的な隅の形を取り上げて、徹底的に研究してみたいと思う。
・死活の判定とともに、死活の技法をもよくまなんでほしい。

【第2図】

〇右上隅
 前ページの第1図において白1の打込みから黒a、白b、黒cまでとなった形から、白がもっとも少なく隅を囲った形が本図といえる。
・かりに白の境界線をa、bとして、その内側の白地が6目であるから、これを「隅の6目」と称しよう。
〇左下隅
・隅の6目の両端に白石が一つずつ着いた形。
前述の場合と同じように白の境界線をc、dと仮定すれば、中味は8目あるから、これを「隅の8目」と呼ぶ。

・これらの両図について死活の結論を申すと、隅の6目は死、隅の8目は生き。
 そこでここにも六死八活の格言が前とは違った意味で適用される。

・ついでながら、第2図右下隅および左上隅の白地は、隅の6目の片側だけに出っ張りを持った、いわば「隅の7目」といえるが、これらは白が先に手を入れれば生きるし、また黒から先に打たれると死んでしまう。
 つまり2ページの本来の六死八活の場合と同様の関係にある。

〇さて、死活の本題に入る前に、第2図に示した隅の6目と8目の形の成立について、少し述べてみたい。
・6目の方は死の形であるから、定石には存在しないことは当然にすぎないが、左下隅の8目は隅の生きの基本形として必ずその諸変化を記憶すべき重要なものである。

【参考図1】
・黒が星から一間飛びに備えた所へ白が3三打込みを行ったのであるが、つづく3、5,7がいずれも悪いために、隅の6目になっての無条件死である。

【参考図2】
・黒が星から大桂馬に備えた所へ白から3三打込み。
・隅の8目で生きとなる星の定石の代表的な一形である。
(やさしい定石77ページ以下参照)
(坂田栄男『やさしい死活』棋苑図書、1978年、7頁~9頁)

第二章 隅の基本形 隅の6目


【第3図】
・白が先手で、どうやってみても生きない、死の基本形である。
・一つ一つ、全部やってみよう。

【第4図】
・白1と下がってフトコロを大きくして生きようとすれば、黒からこれを殺す手段はいろいろあるが、2とはねっ放して4と急所に置けば、五目中手の死となる。

【第5図】
・白1の方を下がっても、黒2から4と眼を取る要領は前図とまったく同じ。
※この形、外側の始末は、白aなら黒b、白cなら黒dと応じる。(第17図以下参照)

【第6図】
・この白1は前二図と違って、フトコロを広くする代りに中へ眼形を作ろうとする意図である。
・次に白が眼を持つとすればaであるから、黒はまずその点を奪って取りに行く着想が必要である。

【第7図】
・黒2、白3を交換すると、あとは黒4のハネで白の地域をせばめておいて、6と眼を取る。
・この手法と考え方は5ページ左上の三目中手の場合とまったく同じといってよろしい。

【第8図】
・黒4と中から打っても、白5、黒6となって、いわゆる「隅の曲がり四目」で、囲碁規約上は白死であるが、周囲の関係で後日に問題を残すおそれがある。

【第9図】
・黒2と外からはねる手を先にしても、白を取ることができる。
※白3を4に押さえれば、黒は3の点に置いて11ページの7図にもどる。
(坂田栄男『やさしい死活』棋苑図書、1978年、10頁~13頁)

第三章 死活の理論と実際―生き方と殺し方―


・死活の研究方法は、まず実戦的な形を選んでその変化を検討し、完全に理解し、そして記憶すべきであるという立場から、前章においては「隅の基本形」6目・7目・8目の型を選んで、徹底的に追及してみた。
 その間には、この一手というような正解の筋だけでなく、あきらかな失敗に終るような俗手をも含めて、あらゆる変化を網羅したため、結論にいたるまでの間にかなりの思考と労力をついやした。
基本形であるがゆえに繁雑をいとわず、正攻法に終始して検討を尽くしたわけである。
 実戦の勝負所にあっては、このような慎重な読み切りが必要とされる。

・本章においては、一歩を進めて、直接的に生きと死との問題を、それに関する基本的な技法とともに研究してみたい。
 死活に関する石の形も、またそれらを生かしたり殺したりするテクニックも、多種多様のものがあるが、まず単純な形における基礎的技法を理解し、記憶することによって、より複雑な問題への進歩が期待できる。
(坂田栄男『やさしい死活』棋苑図書、1978年、75頁)

第三章 死活の理論と実際【二つの生き方】


【二つの生き方】
・石を生きようとする場合、つまり眼を二つ作ろうとする場合には、自分の地の中へ手を入れて直接眼形を作る方法と、もう一つ、自分の地の外側を広くして、地を取りながら間接に眼形に資する方法がある。
・例えば第1図の高目定石において次は黒の手番であるが、まず21までの一団を生きに行くことが必要である。

【第1図】

【第2図】
・黒1と押さえるのは、白2の急所に置かれて黒の眼形がない。
(黒aなら白b、また白bなら黒a)
・そして攻合いの手数は白aを起手として4手しかないので、黒の負け。
・そこで黒はまず自分の方を生きに行くとして、

【第3図】
・この黒1は直接眼形を作る手。
・前図白2と同点の急所で、敵の急所は我が急所という格言に当てはまる。
※このように自分の地中に手を入れて眼形そのものを作る手段を「眼の生き」と呼ぶことにしよう。
※しかし生き方はこの一つではない。

【第4図】
・黒1の下がりもまた有力な一法。
・次に白aと置いても黒bに受けて眼形に不安はないし、のちに黒cと出て行くねらいも残る。
※このように自分の地のフトコロを広げて、その広さの中に二眼を見込む手段を「地の生き」と呼ぶことにしよう。
※前図と本図にはそれぞれ一長一短があるが、ここでは第4図を定石とする。
(坂田栄男『やさしい死活』棋苑図書、1978年、76頁~77頁)

第三章 死活の理論と実際【眼の生き】


【眼の生き】
・眼の生きと地の生きとの両者を比較した場合、実戦に当ってどちらが大切で、どちらが大切でない、などとは決して言えないが、局部的な死活を考える際には「眼の生き」によるものが多く、前項第1図以下のようにどちらでも生きる例は少ないようだ。

【第5図】
・この形で白が隅を生きようとする場合に、まず考えられる手はa、b、cの三通りがあるが……

【第6図】
・白1と外側の境界線を広げる手、つまり「地の生き」を図るのは、黒2と2ノ一へ中手されていけない。
・次に白aなら黒b、白bなら黒aで、いずれも一眼しかできない。
・黒2が眼形の急所。

【第7図】
・白1もまた境界線設定の意味で「地の生き」を図ったものであるが、今度は黒2の置きが急所で、白aなら黒b、また白bなら黒aでどうしても一眼しかできず白死となる。
・そこでもう一つの方法は―

【第8図】
・白1と自分の地の中へ手を入れる。
・これで生きている。
・次に黒aでも白bと受けていてよい。
・この白1は一見異様な感じであるが、初めに黒a、白bの交換があれば―

【第9図】
・白1と眼を作る手の発見はそれほどむずかしくはない。
※何と申そうか、第8図白1のような手は一種の感覚の盲点とも言ってよいようだ。
※またこの手は「眼の生き」の典型のようなもので、“2ノ一は隅の急所”というのは、二手で一眼ができるこの点が、眼の生きにおける代表的存在であることを、経験上から教えた格言にほかならない。
※さらに格言の応用を示すと第6図において白が1と「地の生き」に行った際、黒2の置きはすばらしい急所の一着。
※そこでこの手の裏を考えて……
 敵の急所は我が急所
 という格言を思い起せば、第8図白1の妙着に想到することができる。
(坂田栄男『やさしい死活』棋苑図書、1978年、78頁~79頁)

第三章 死活の理論と実際【地の生き】


【地の生き】
・死活の問題を考える場合、とくに死活のみに焦点を合わせたいわゆる詰物(詰碁)の場合には、眼の生きによる例が地の生きによるよりも圧倒的に多い、ということは前項にも述べた。
・その理由は、眼の生きの問題の方が地の生きの問題よりも手筋の面白味が多いからで、妙手、鬼手のたぐいは詰物としての興味を増すからにもよるものである。
・しかし実戦に当っては妙手、鬼手のみが一局の勝利をもたらすわけではない。
 むしろ平凡ながらも正確な着手の連続、そして綿密な得失の計算など、不断の努力の積みかさねが勝局をささえるいちばん大きな力となる。
 その意味からは「地の生き」という技法も、たんに死活だけでなく、これに得失を加味して考えるときには欠くべからざるものとなる。
 少なくとも、外を打って生きる“地の生き”は、中へ手を入れる“眼の生き”よりトクな事は確かで、第1図以下を例に引くまでもない。

【第10図】
・白1と下がった形を櫛型、あるいは櫛六(クシ型の六目の意)と称し、地の生きの典型とされている。
・櫛型の名あるゆえんは―

【第11図】
・黒1から白4までを想定すれば、白の形がクシのようになっているからである。
※この図の黒1を4に置いても(三子の真ん中)、白に2へ受けられて手にならない。
 また黒1を2の点へつけても、黒は4に応じて生きている。
 左右(上下)同形は中央に手あり
といった格言を思い起してほしい。
※なお、この形はクシ六にしないと域内ことを次図に示す。

【第12図】
・白1と「眼の生き」にしようとしても黒2とはねられてはコウ。
・また白1を3にかけつぐのは黒1と置かれて五目中手の死。

※「地の生き」が実戦的に重要であることの証左として、第二章でやった隅の6・7・8目がすべて地の広さと眼形との相関関係の考察であったことを再思してほしい。
(坂田栄男『やさしい死活』棋苑図書、1978年、80頁~81頁)

第三章 死活の理論と実際 眼の取り方


眼の取り方―ハネ殺し―
・石の生き方をやったから、次には石の殺し方を研究する。
 石を殺すことは眼を取ることにほかならないが、この場合の技法としては、前節の生き方でやった事を逆用すればよい。
【第79図】
・白地は相当の広さを持っているが、黒先なら取ることができる。
・まず死はハネで―

【第80図】
・黒1、3にはねて、敵のフトコロをせばめ、5と眼形の急所に中手して、五目中手の白死。
※死はハネにありという格言の典型的な応用例であるが、この経過を再考すると、
①黒1、3のハネによって敵の地域をせばめ、まず「地の生き」を封じた。
②黒5の中手は、白がこの点へ打てば「眼の生き」となる所であるから、敵の急所はわが急所、でその点を奪って「眼の生き」を拒否した。
③そしていちばん大切なことは、ハネと中手が緊密に連繋を保った、いわば一挙動としてなされるという点である。
※「死はハネにあり」のハネは、次に敵の眼形を奪う中手を用意して初めて有効な打撃を敵に与え得るのである。

【第81図】
・白4とここで眼を持とうとしても、黒5でやはり一眼にしかならない。

【第82図】
・同じハネでも黒1の方を先にすると、白4までスルリと生きられてしまうから注意。
※手順が大切。

【第83図】
・黒1の中手を急ぐと、白2、4とフトコロを広げられてセキにしかならない。
(坂田栄男『やさしい死活』棋苑図書、1978年、104頁~105頁)

第四章 死活の筋と形 ―「この一手」の発見―


・棋力の向上には、死活に関するカンを養うことが大切であるとされている。
 石の形を見て、これは生きている、あるいは死んでいる、ということを直感的に知るには、なかなかの修練がいる。

・例えば、
【第1図】

・この白の形は危ない。
・黒先なら殺す筋があるということは、ある程度の技倆になればすぐにわかる。
 つまり黒aとくっつける筋によって一発で死んでいる。
・しかしこの一手の発見には、前章までにやった基礎知識の集積が軽視できない。
・例えば黒aとつけたあとの白は、いわゆる「隅の6目」形であって、二眼のできる余地はない、ということも死活判定上の必須の要素となっている。
・無数にある変化の中から正解の筋をカンによって発見することは、かなり才能という要素も働くのであるが、しかしその思考の基礎となるものは基本的な形における手筋の理解と記憶であって、その知識が無意識に他の類似形の解決に働くとき、それを称してカンというのである。筋や形に対するカンの養成にも不断の地道な努力が必要である。

・筋と形をよく呑み込んでおくと、実戦に当たって死活を考える際にムダな時間がはぶける。
 例えばある一隅の死活に関して10の着手があるとき、そのうちで筋に及第する着手が2あるとすれば、他の8通りの着手を考える手間はおのずから省略できる。
 どの着手が筋に当たり、どの着手が筋違いであるか、という判定そのものはかなりむずかしいが、正しい方法で練習をしているうちに、次第に活眼が開けてくるものである。
・死活に関する格言は、筋と形に関するもっとも重要なエッセンスを手短かにわかりやすく表現したものであるから、記憶しておくと有効である。

【第2図】
・白先で生きる手段があるか、という問題。
・誰でもがまず考えるのは、白aと押さえて隅に地を作って生きようとする手と、白bと敵の一モクを噛んで眼形を作る手である。

【第3図】
・まず第一案の白1と押さえて地を作る手は、黒2とつがれて簡単にいけない。
・隅の6目に生きはない、と第二章でくわしくやった。

【第4図】
・白1と黒一子を取って眼形を作っても、黒2のスベリがうまい手で、あとの一眼がどうしてもできない。
・念のために結果を示すと、

【第5図】
・白3、5などとやってみても黒6で連絡され、次に白aなら黒b、白bなら黒a、どう打っても一眼しかない。
・ではこの白に生きる手はないかというとさにあらず、まず第4図の黒2がすばらしい急所であることに思いをいたし、「敵の急所はわが急所」という格言を実践して―

【第6図】
・白1、これはまた「2ノ一は隅の急所」という格言にも一致している。
・黒2とつげば、白3ともう一つの2ノ一を打って二眼ができるし―

【第7図】
・黒2なら白3と黒一子を噛んで、今度は黒から隅の眼を取る手がない。
(坂田栄男『やさしい死活』棋苑図書、1978年、115頁~117頁)

第四章 死活の筋と形 眼欠きの筋


【第8図】
・白1の押さえは地の生きを図った常識的な着手であるが、黒から一発必中の急所を残す。

【第9図】
・黒2、眼欠きの急所で、この一手に白の死命を制した。
・白3とさえぎるよりないが、黒4に切って、ダメ詰まりで白は両方から押せない。
・簡単な白死。

【第10図】
・白1と第一線に飛ぶのが正着で、これで生きている。
・黒aのツケが油断のならぬ手であるが白bと受けていてよい。
※この白1はいわゆる三子の真ん中、また前図黒2と同点の急所。

【第11図】
・第8図よりも少し横幅が広い形。
 黒先でこの石を取る手があるか。
 何だかハネ殺しで行きたい気もするが…

【第12図】
・死はハネにあり、とばかりに黒1とはねてみたが、白2の飛びが好手で生きている。
・次に黒aなら白bで曲がり四目であるが、その白bをcについでも生きているのでは論外。

【第13図】
・黒1、前図白2と同一点で、敵の急所は我が急所。
・白がこれを左方に渡らすまいとすれば2よりないが、黒3と追いかけて白aなら黒bと当て、白はつぐことができない。
(坂田栄男『やさしい死活』棋苑図書、1978年、118頁~119頁)

第四章 死活の筋と形 ヘコミの筋


【第26図】
・白先で生きる手を考えてほしい。
・普通の着想ではどうにもいけそうにない。

【第27図】
・白1と棒につぐのは、黒2とはねられて「六死」の形、生きるには本数が足りない。
・といって、白1を2の方へ下がるのは黒1でこれもだめ、しかし手というものはあるもので……

【第28図】
・白1とはちょっとしゃれた手。
・以下、黒a、白b、黒c、白dでどちらにも一眼ずつできる。
※これをかりにヘコミの筋と名づけよう。
 詰碁の妙味を感じさせる。

【第29図】
・白先で生きるとして、白aについだのでは黒b、白c、黒dまでとなって、長さが六本しかないので見込みがない。
・そこで……

【第30図】
・白1とへこむ手筋を知ってさえいれば、以下3、5と二眼を作ることができるというもの。

【第31図】
・黒2の方を押さえても、白3に下がれば直四の形で生きている。
(坂田栄男『やさしい死活』棋苑図書、1978年、124頁~125頁)

第四章 死活の筋と形 コウの種々相


【第32図】
・黒の一間締まりの地を内側から荒らす有力な一手段として、白1のノゾキから行くのがある。

【第33図】
・白1、3とはねついでフトコロを広げてみても、広さが足りない。
・黒4、白5となった形は前々章でやった「隅の7目」で、黒6以下は説明する必要もないだろう。白死。

【第34図】
・白1、3とハネカケツグ手段によってのみ、隅に活路がある。
・黒4、白5としてこれは議論の余地もない、コウである。
・一間締まりへ侵入する常用の手筋の一つで、実戦によく現れる。

【第35図】
・前図は双方とも鋭意コウを争う以外にないのであるが、黒がコウを避けて(あるいはコウに負けて)6とついだらどうだろう。
・白7、9とはねついで広げ今度は生きがある。

【第36図】
・黒10とコウを取り返しても、白は譲歩して11につぎ、もはや死形がない。
・黒12と置いても、白13で隅に眼を持ち、黒aなら白b。
※また黒12をaにはねれば白12と眼を持つ。

【第37図】
・黒はコウに勝てないと見れば、4、6の方をはねついで白を小さく生かす方が得策。
(坂田栄男『やさしい死活』棋苑図書、1978年、126頁~127頁)

第四章 死活の筋と形 一線の下がり


【第56図】
・この形は、黒がもう一手aに取るか、あるいはbにはねるかしておかないと、白かた取りにくる手がある。

【第57図】
・白1とズバリ下がられてそれまで。
・黒2でも白3にはねられて、ダメ詰まりで黒aと眼を持つわけには行かない。
※敵の急所は我が急所
※1の点が眼形の急所だった。

【第58図】
・白1のハネから先に行くと、黒2とポン抜かれて無条件で行かなくなる。
・6までとなったあとを、白aとコウを仕掛けなくてはならない。
※2の急所を打たれた罪である。

【第59図】
・星の定石から生ずる形。
・白1とはねたのが大変な悪手で黒に乗り手を生ずる。
※1はaに取っておかなければならない。

【第60図】
・黒2と強硬に押さえ、白3に黒4と下がったのは攻合いの手数をつめる常用手段。
※ただしこういう思いきった事を行くからには白7と取られたあとまで読みきっておく必要がある。

【第61図】
・黒8と打ち欠いて10とつぐ、これで攻合いに勝っている。
※次に白aなら黒bであるし、また白cなら黒aに当てて抜けてしまう。
(坂田栄男『やさしい死活』棋苑図書、1978年、134頁~135頁)

第四章 死活の筋と形 ツギと眼形


【第68図】
・黒1とはねられて、白は白△の石をつがねばならないが、aと堅くついだのでは白(ママ)bと置かれて眼がない。

【第69図】
・白1と下がるのは黒2と置かれて、6までの結果は三目中手でこれもいけない。
・ところで本図の2、また前図のbがそれぞれ眼形の急所に当ることからヒントを得て―

【第70図】
・白1とこんなツギ方に気がついてほしい。
・黒aに切っても白bと下がって取られはしない。
※そしてこの石自体の二眼も確保された。
 眼の生きをツギの観点から見た手筋である。

【第71図】
・高目定石から出発してこんな形になることがある。
・隅の白を生きるにはどう打ったらよいか?
・まず白aと堅くついだのでは黒bと置かれて簡単に死。

【第72図】
・白1とかけつぐとかなり眼がありそうだが、黒2のツケから6と急所に置かれていけない。
※なお白3を7なら黒a、白3、黒4でコウになる。

【第73図】
・白1でも白△の石がつげていることに気がつけば正解。
・黒aなら白bでよいし、1の右側の所にある一眼を黒はどうしても取るわけに行かない。
(坂田栄男『やさしい死活』棋苑図書、1978年、138頁~139頁)

第四章 死活の筋と形 一合マス


【第80図】
・隅の正方形の9目を俗に一合マスと称し、変化が実に多い。
・この形は白aに手入れを要し、それで完全である。

【第81図】
・黒からこの隅に手段するとしても、1の点は急所。
※敵の急所はわが急所、また同形の中央にも当る。
・白2のツケが最善の応手で、この結果はコウと出る。

【第82図】
・白4と押さえたい感じだが、これは悪手で、黒5、7、9と運ばれて、3の所のコウにかかわらず五目中手の白死となる。

【第83図】
・黒3に突き当る手もあり、10までの結果は前々図と同じくコウであるが、かりに黒がこのコウに負けたとするろ、本図の方が外側に及ぼす被害が少ないだけにいくらかよいだろう。

【第84図】
・黒3とはね出すのは悪手で、9までの結果は黒がコウに勝っても2の点にすぐつぐわけには行かないので、外側から詰めてまたコウを争う寄せコウの意味があり、前図より黒損。

【第85図】
・白2は決定的に悪い。
・黒3、5に白は窮する。
・次に黒に6の点を打たれては、白からこれを取っても四目中手なので、白6につけてみたが、眼あり眼なしで負となる。
(坂田栄男『やさしい死活』棋苑図書、1978年、142頁~143頁)

第四章 死活の筋と形 石の下


【第98図】
・石の下は実戦に出る例こそ少ないが、詰物としては興味のある存在である。
・本図は白aに取ると黒b、白c、黒打欠き(aの一路下)、白取り、黒dの絞りとなって眼形が失われる―そのbが急所だから

【第99図】
・白1と皮肉にも曲がって一応取らせるフリをし、白3、黒4と打ち抜いたあとを―

【第100図】
・白5と切って逆に黒の三モクを捕かくする。
※石の下には二種類の代表的な型があり、本題のようにZ型の四モクを捨ててあとを切るのがそのうちの一つである。

【第101図】
・石の下のもう一つの型を導く母体となる問題である。
・この白を生きてみよと言ったら、一時間も考えたあげく絶対に生きない、と答えた人がいた。

【第102図】
・白1と一杯に押さえて地の生きを策す。
・黒2、4とさし込んで打欠きの筋をねらったが、白5と取って、そこの所が角型の四モクになったのが、石の下のタネである。

【第103図】
・黒6の打欠きにかまわず、白7と肩をつぎ、角型の四モクは取らせる―そして次の白の手は6の一路左の切りである。
・石の下は一名「跡切り」ともいう。
(坂田栄男『やさしい死活』棋苑図書、1978年、148頁~149頁)

第四章 死活の筋と形 捨石


【第104図】
・黒先で隅の二モクを生きる手を発見してほしい。
・こんなせまい所にすら手段の余地はあるものである。

【第105図】
・黒1と出て3と捨石を放つ。
※これが眼形を作るタネとなる。
※3を単にaと当てて白3とつがれては、もうすでに生きる余地がない。
・白4の取りはこれよりないが―

【第106図】
・黒5、7と当てて、一つの2ノ一を先手に打ち、9ともう一つの2ノ一を占めて眼を持つ。
※最小限の生きであり、眼の生きの極致といえよう。

【第107図】
・星の定石に生ずるヨセの問題である。
・白1とはねたときは黒2とゆるめることになっているが、これはさらに白aのヨセを残して損。どうして2をaに押さえないのだろう。

【第108図】
・黒2と押さえてわずかの損失を惜しむと、白3と切りちがってくる鬼手を生ずる。
・黒4と一モクを取らして、これが前題と同じ意味で隅に眼形を作るタネになる……

【第109図】
・白5を利かして、7、9と2ノ一を二つとも打ち、眼形をこしらえた。
※黒8で7の一路下を切ってコウにするのは成算のもてない形である。

【第110図】
・黒先で白を取る手は?
・黒aなら白b、また黒bなら白aで、どうしても死にそうもない形であるが、捨石を投ずることによって問題は簡単に解決する。

【第111図】
・黒1といきなり一モクを食わして、白2と取れば黒3、それまでである。

【第112図】
・白2とつげば黒3で欠け眼にする―これも白の死。
(坂田栄男『やさしい死活』棋苑図書、1978年、150頁~152頁)

【補足】坂田栄男vs藤沢秀行の棋譜


高川秀格と坂田栄男


〇林裕『現代囲碁体系 別巻 現代囲碁史概説・現代囲碁史年表』(講談社、1984年)において、著者の林裕は、「終章 その後の三十年」の「四、高川の本因坊戦九連覇と坂田の六十四タイトル」(73頁~75頁)において、坂田栄男について、次のように述べている。

終章 その後の三十年
 一、関西棋院の独立
 二、日本棋院序列の変更
 三、呉・藤沢の決戦と最強戦・名人戦
 四、高川の本因坊戦九連覇と坂田の六十四タイトル
 五、林、石田、大竹の活躍
 六、秀行の快記録と加藤、趙

・こうして本因坊秀格となった高川が翌年から35年の第15期まで、木谷、杉内、島村、各2回、両藤沢との1回ずつ、合せて九連覇するとは誰が予測しただろう。39年日本棋院の創立40周年記念大会で、改めてこの偉業が評価され直して、現役のまま「名誉本因坊」を名乗る資格を与えられた。
 
・その途中、他の棋戦で活躍しながら、本因坊戦になると、妙に挑戦者になれなかった坂田は冗談半分「こうなったら、高川さんに九連覇してもらって十期目に僕が出ていく。それまで負けないでいてもらいたい」と語っていた。
 それが本当に実現する形になったのが36年の第16期である。
 高川が若い時分から坂田を苦手にしていたが、坂田の勝負に対する執念に負かされてしまうことが多かった。このときも結果的には1勝4敗と脆敗の形になったが、そのうちの2敗が半目、1敗が1目半だったことは、その脆敗ぶりが見かけほど単純でなかったことを物語っている。

・坂田の活躍は本因坊戦だけでなく、読売の最強戦でも第1期の呉清源に続いて第2期に優勝し、第3期は呉と優勝を分け、通算3期の実績は呉と轡を並べている。
 36年にスタートした読売の名人戦でも、第2期に藤沢秀行からタイトルを奪い、タイトル制初の「本因坊名人」になった。
 39年3月には「坂田本因坊名人の会」が行われている。
・呉清源は、明治35年に生まれた岩本を頂点に、橋本、木谷など明治の先輩から、大正の同輩、後輩までを広く相手とした。6歳下の坂田は呉に台湾で見出されて日本に渡って来た林海峰に晩年苦しめられるという皮肉な運命になった。

・坂田が第16期本因坊戦で高川を降したとき、ちょうど通算20のタイトルを獲得した。
 このときから名実ともに彼は碁界の頂点に立ったが、一つだけ十段戦は、かつての本因坊戦のようにツイていなかった。
 しかし41年の第5期に、ようやくチャンスが回ってきた。そのときのタイトル保持者は高川格十段で、高川が冗談まじりに「坂田は天敵」といっていたほどで、その言葉を裏付けるように、坂田は本因坊名人から本因坊十段に変わった。

・こうして第22期日本棋院選手権戦に通算12回の優勝を飾り、「名誉日本棋院選手権者」の称号を贈られた。
 その機会に日本棋院は坂田の56タイトルを集めた『炎の譜』(上下2巻)を出版した。
 その最終の相手はまだ18歳、六段の趙治勲であった。
 その後も坂田はタイトルの記録を更新し、現在64に達している。
 これは58年まで、坂田の年齢を越えていた。
(林裕『現代囲碁体系 別巻 現代囲碁史概説・現代囲碁史年表』講談社、1984年、74頁~75頁)

第2期名人戦挑戦手合七番勝負第1局


〇坂田栄男『炎の勝負師 坂田栄男①怒涛の時代』(日本棋院、1991年)において、第2期名人戦挑戦手合七番勝負第1局(昭和38年)の棋譜が載っているので、紹介しておきたい。

第33局 頂点を目指す戦い
第2期名人戦挑戦手合七番勝負第1局
昭和38年8月4、5日
東京・四谷「福田家」
先番5目コミ出し、持ち時間各10時間

 名人   藤沢秀行
 先番九段 本因坊栄寿

・7月5、6日、最終戦を呉清源に完勝した坂田は7勝1敗の断トツで挑戦権を握った。
 呉は二期連続して2位に泣いたことになる。
 36年の交通事故がさしもの呉を見えないところでむしばんでいたのかもしれなかった。
・なお、木谷は39年に二度目の高血圧症に倒れ、そのまま引退する。時代は移っていた。
・今、碁界の頂点を極めようとする坂田にとっての当面の敵は藤沢秀行だった。
 打ち盛りの両者の激突はこのあとも続けられるが、最もファンを湧かせたのはこの期の七番勝負。
 昭和全期を通じての最大の争碁と言えよう。

【第1譜】(1-32)秀行感覚
・白8では1図、白1、3のツケ引きが普通。
・黒8までが予想される。
・白10では11、白14ではAが普通。
・そして、白14までの厚みは左辺へのヒラキに働かせるのが常識なのに、白16から18と押す。
※呉清源が「理屈の合わない方から押していって、それでも碁になっている」と変な感心をしたところだ。
≪棋譜≫第2期名人戦第1局第1譜(1-32)

【1図】

【第2譜】(33-63)カミソリ一閃
・白40を打てて藤沢はおもしろいと思ったらしいが、坂田も悪いとは思っていなかった。
・白58に黒59、61が鮮やか。
※2図、白1なら黒2から三子を取ってよし。
※途中白5で3図、白1なら黒2および6まで両方を打って満足だ。
≪棋譜≫第2期名人戦第1局第2譜(33-63)

【2図】
【3図】
(坂田栄男『炎の勝負師 坂田栄男①怒涛の時代』日本棋院、1991年、245頁~247頁)





≪囲碁の死活~高川秀格氏の場合≫

2025-07-06 18:00:02 | 囲碁の話
≪囲碁の死活~高川秀格氏の場合≫
(2025年7月6日投稿)

【はじめに】


 今年2025年は、昭和100年にあたる。
 それにちなんで、本日の「囲碁フォーカス」では、昭和の名局を振り返って、「シリーズ昭和100年 私の愛するあの一局~高川格 平明流~」と題して、片岡聡九段(昭和33年生まれ、2024年テイケイグループ杯レジェンド戦優勝)が、平明流の棋士として知られる高川秀格(高川格)名誉本因坊の名局を紹介しておられた。
 その名局とは、高川秀格氏の本因坊戦での一局であった。
〇昭和27年 第7期本因坊戦第2局
 本因坊 橋本宇太郎 関西棋院総帥 45歳(当時)
 挑戦者 高川格 七段       36歳(当時)
(この本因坊戦は、日本棋院vs.関西棋院といった、所属団体の威信をかけた戦いでもあったようだ)

 片岡九段は、当時の院生時代を振り返って、内弟子ではなかったので、勉強方法は棋譜並べが主だったという。高川先生の棋風は、平明流すなわち「流水不争先(りゅうすい さきを あらそわず)」で、着手が自然な感じの流れに見え、平明に見えたという。その点に憧れたそうだ。(なお、現代では、大竹優七段が「令和の平明流」として知られている)
 高川先生は戦い抜いていくのではなく、全体のバランスをとる碁であった。
 片岡九段は、「この一手」を選ぶのにけっこう悩んだそうだ。なぜなら、戦いの好きな棋士の碁なら絶妙手がわかりやすいのだが、平明流の棋風では、見た目は平凡に見える一手が多いからだという。その中で、選んだ「次の一手」、全局をみてバランスをとった一着として、先の「昭和27年 第7期本因坊戦第2局」の一手であったようだ。

 さて、今回のブログでも、引き続き、囲碁の死活について、この高川秀格(高川格)先生の次の著作を参考にして、考えてみたい。
〇高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年
 書かれた時の年代が多少古いが、やはり中には箴言が随所に見られる。
例えば、
「石が治まり、活きようとする場合、コスミは直接にその形でなく、間接に、或いは第二段の筋として行使されることがある。たとえば普通のカケツギもコスミの一種とみられるのがそれである。とにかくコスミは眼形の基本であることを忘れないでほしい。」
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、10頁)

【高川秀格氏のプロフィール】
・二十二世本因坊秀格、1915年~1986年。和歌山県出身、光原伊太郎名誉八段門下。
・高川格(たかがわ かく)は、本因坊戦9連覇(1952年~1960年)の功績により名誉本因坊として高川秀格(たかがわ しゅうかく)と号し、後に二十二世本因坊秀格を贈られる。
※10期目(1961年第16期本因坊戦)に坂田栄男九段に敗れた。
 本因坊戦では1964年、65年にも坂田に挑戦したが、いずれも敗れた。
※タイトル戦9連覇の記録は、その後趙治勲の本因坊10連覇まで永く破られることがなく、「不滅の金字塔」と呼ばれた。

・本因坊位の他にも、名人、十段などタイトル多数の、昭和を代表する名棋士の一人。
・「流水不争先」を信条とし、平明流とも言われる、合理的で大局観に明るい棋風。
・藤沢庫之助、坂田栄男とともに日本棋院若手三羽烏と呼ばれた(1940年頃)。
・1968年に53歳で林海峰に挑戦して名人位に就いた時は不死鳥と呼ばれ、呉清源からは「二枚腰の林さんに勝ったのだから、高川さんは三枚腰だ」などと言われた。

※<棋風>
・低段時代は本因坊秀栄の影響を受け、それが「流水不争先」の元となった。
 「秀格烏鷺うろばなし」では「秀栄名人の碁は石運びに無理がなく、いざとなれば相手をねじ伏せる力を内に秘めながら、明るい大局観でサラサラと勝ってしまう。それはまるで水が高きから低きに流れ落ちる自然さに満ちている。」と述べている。秀格の号も、秀栄を意識して付けた。

・新布石の流行にも大いに影響され、この時期の大手合でも初手天元などを打っている。
 新布石流行の後も星打ちを愛用し、特に黒番第1着はほとんどが星だった。

・橋本との本因坊戦では、白番の碁でコミにかけるようゆっくりとした打ち方をし、橋本から「まるでぬるま湯につかっているみたいだ」と言われたが、コミ碁を意識した現代的な感覚でもあった。全局を見た厚い手を好み、「ボウシの高川」「一間の高川」などとも言われた。

・本因坊位に就いた頃は非力と言われ、「高川のパンチではハエも殺せない」などとも言われたが、後に14期本因坊戦の対局中に、飛んでいた蠅を扇子で叩いて「僕だってハエぐらいは殺せる」と言ったというユーモアも持ち合わせていた。

・坂田栄男とは多くのタイトル戦を戦ったが、その結果は坂田の14勝1敗と大差であり、天敵であったと言われるが、坂田からしても最も多くタイトルを争った棋士であり、その実力を高く評価している。

【高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院はこちらから】



〇高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年
【目次】
まえがき
第1章 “コスミ”の筋 1号より13号まで
第2章 隅の“曲がり四目”の筋 1号より7号まで
第3章 “ホーリコミ”の筋 1号より16号まで
第4章 “ツケ”の筋 1号より6号まで
第5章 “オキ”の筋 1号より11号まで
第6章 “ダメヅマリ”の筋 1号より14号まで
第7章 “2ノ一”の筋 1号より5号まで
第8章 “ウッテガエ”および“石の下”の筋 1号より5号まで
第9章 隅のさまざまな形 1号より5号まで
第10章 辺の類似形 1号より5号まで



さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・まえがき
・第1章 “コスミ”の筋
・第1章 “コスミ”の筋 第1号
・第2章 隅の“曲がり四目”
・第2章 隅の“曲がり四目” 第1号
・第2章 隅の“曲がり四目” 第5号
・第3章 “ホーリコミ”の筋
・第3章 “ホーリコミ”の筋 第1号
・第3章 “ホーリコミ”の筋 第2号
・第3章 “ホーリコミ”の筋 第5号
・第3章 “ホーリコミ”の筋 第6号
・第3章 “ホーリコミ”の筋 第13号
・第3章 “ホーリコミ”の筋 第14号
・第3章 “ホーリコミ”の筋 第16号
・第4章 “ツケ”の筋
・第4章 “ツケ”の筋 第1号
・第4章 “ツケ”の筋 第6号
・第5章 “オキ”の筋
・第5章 “オキ”の筋 第3号
・第6章 “ダメヅマリ”を利する筋
・第6章 “ダメヅマリ”を利する筋 第1号
・第6章 “ダメヅマリ”を利する筋 第9号
・第7章 「2ノ一」の筋
・第7章 「2ノ一」の筋 第1号
・第8章 “ウッテガエ”および“石の下”の筋 第1号
・第8章 “ウッテガエ”および“石の下”の筋 第4号
・第8章 “ウッテガエ”および“石の下”の筋 第5号
・第9章 隅のさまざまな形 第1号
・第10章 辺の類似形 第1号
・第10章 辺の類似形 第3号

【補足】橋本宇太郎vs高川秀格 第7期本因坊戦第2局~高川秀格『わが本因坊戦の分析』より







まえがき


・正続“碁を始める人のために”で碁の道に入られた人々のために、“基本定石”と“中盤の定石”に次いで、今この“死活に関する10章”をおくることとなった。
・定石も中盤の打ち方もその知識は上達のうえにもとより欠くことのできないものであるが、石の死活こそはすべての碁のテクニックの根底をなすものであって、これをひと通り把握していないことには、定石も布石も、なにもかもが空しくなってしまう。
・死活の正確な心得があってこそ、はじめて定石も中盤戦も意味をもって来る。
 そのしっかりした裏づけがありさえすれば、相手の定石はずれをとがめることもできるし、自分の模様のなかに打込んで来た石の処理にあたっても不安をいだくことはないはずである。
・碁の勝敗は大たい中盤の戦いで決するものであるが、死活のただしい知識をもっていない人はつねに不安の感にさらされ、自信のない手ばかり打つこととなるから、すこし手ごわい相手にぶつかるとどうすることもできない。
・自分の石の死活がはっきりしたいため、必要のないところにむだ手をくだしたり、反対に取れている石を活かしたりする。
 そのようなことを始終くり返しているのでは上達が望まれないばかりでなく、これは本当の碁からは遠いものとなってしまう。
・じつにあらゆる意味からいって、死活のただしい理解の必要さ、これはもうどんなに強調してもしすぎることはないと信じる。

・本書は、旧著“基本死活”に取材し、それを“形”もしくは“筋”のうえから10章に分類してわかり易く説いたものである。
 基本的な知識としてはまずこれだけを本当に心得ておかれたら充分と確信する。
そのためいわゆる“詰碁”式のものは極力さけた。
(殊に専門家のあいだで重視されまた迎えられるような詰碁の傑作とか逸品とかいわれる類はすべて採用してない。それよりも実際によくできる形、つねに接する隅の変化、そういうものの中から基礎となる筋だけをえらんで系統的にしめすことにつとめたという。)
 図形は煩をいとわず、どんな人にも盤石なしでわかるよう、配列と編集には特に苦心したつもりである。
 どうか本書によって安心感をもち自信を深くして局に対せられるよう切望する。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、1頁~3頁)

・本書は大たいおなじ筋をあつめて10章に類別してあるので、各章のはじめの解説をよみ、例題もすこし進んでゆけば、あとは要求される手筋が自然にわかるようになるかとおもう。
 そうしてやがてひと目で急所が指摘できるようになる、その習練をつむことが大切である。
 ある程度は諳記(ママ)のかたちでもすこしもかまわない。
・なおひとつの筋が、たとえば“2ノ一”であると同時に、“オキ”であり、また“ダメヅマリ”であるというような場合が多いのであるが、そのような筋の分類は編集の便宜にしたがった。
 必ずしも絶対的のものではないことを念のためにおことわりしておく。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、8頁)

第1章 “コスミ”の筋


第1章 “コスミ”の筋
・“コスミに悪手なし”とか“秀策のコスミ”などといわれるのは布石における場合であって、すなわち下図の黒1、がそれであるが、ここで取扱うのは勿論そのようなコスミではない。
 死活の根本、殊に眼形の基礎となる意味でのコスミである。
・形から見てもわかるように、コスミはつねに眼形の元である。
 したがってコスミの筋が利用されるのは、死活のうちでも石が眼をもって活きようとする場合が多い。
 敵の石を攻めるにあたって行使される例も、決してすくなくない。
 手筋としてはもっとも簡単なものなので、これを最初においた。
【第1図】

〇石が治まり、活きようとする場合、コスミは直接にその形でなく、間接に、或いは第二段の筋として行使されることがある。
 たとえば普通のカケツギもコスミの一種とみられるのがそれである。
 とにかくコスミは眼形の基本であることを忘れないでほしい。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、9頁~10頁)

第1章 “コスミ”の筋 第1号


【第1号】
・“黒先”で活きることを要求する。
・もちろん簡単な問題であるが、しかしこのように平易な形の急所、もしくは筋というものが第一感で直ぐにピンと来るように、そうした訓練を積むところからすべては出発しなければならない。

【参考図】
・眼形の範囲をひろくする(術語でいわゆる「ふところをひろげる」)という考え方は大切であるが、その意味で1、とさがると、ここでは白2、4で死に帰するのに注意。

【正解図】
・黒1が眼形の急所。
・参考図の4と同じ点であるのに注目し、死活の急所が共通する例が多いことを記憶してほしい。

【第1図】
・この黒1は白2、とハネられて死。
・つぎに黒が2の一路右、をオサエれば白は2の三路右すなわち急所をついてよろしい。

【第2図】
・黒1とこのほうをサガレば白2、である。
・2はまた第3図のごとく急所を突いてもよろしい。

【第3図】
・白はさらにこの2でなく、二路右のハネから打っても、黒に活路のないことをたしかめてほしい。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、11頁~12頁)

第2章 隅の“曲がり四目”


・下の図、また次ページの図のような形ができた場合、読者はこれを何と判断するか。
 一見“セキ”のようであるが、なにか普通のセキとは違ったところもあるように思われる。
・碁の強弱を問わず、この類型にはどんな人でも必ず遭遇しているはず。
 日本棋院制定の囲碁規約によるまでもなく、この形はむかしから、隅の曲がり四目とよばれ、無条件死(下の図の場合は黒の)とされてきたものである。

・無条件死については現今でもいろいろな説があるが、特に奇を立てなければ、事実その証明もできるのである。(つぎに簡単にしめす)
・大切なのは、しかしその証明などではなくて、隅の曲がり四目は無条件死、という公理をみとめたうえで、この原理を実践(ママ)にあてはめて自在に駆使し応用することだとおもう。
 この形は実際にはそれほど多くあらわれないように考えられるかも知れないが、そうではない。
 形ができてしまっては問題にならないので、この形にならないように避ける工風(ママ)をするから現れないというにすぎない。
・著者はここに碁を学ぶ人、上達をのぞむ人の盲点ありと信じ、敢て一章を設けてまず原理を明らかにした上、この形をふくんだ図例を比較的に多く採用して、読者が本当に正確な知識をつかまれるようにした次第である。
【第1図】
【第2図】
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、37頁~38頁)

第2章 隅の“曲がり四目” 第1号


【第1号】
・順序としてまずこの一ばん根本的な形から入って行こう。
・黒から手の出しようがないことだけはたしかである。
 そのかぎりではセキに似ているが、反対に白のほうからは打ち様がある。
 したがってセキに似てセキではない。
・本図、理解と説明との便宜のために、外側のダメはみなツマっているものとした。
 実際はしかし外側のダメの有無もしくは多少は、関係ない。
 そのことも自然に明らかなはずである。

【正解A】
・正解というのもじつはおかしなものであるがセキだとがんばる黒のために、白が文句なしにこの黒の一団を屠ってみせるわけである。
・白1、そして黒が2の手で四子をトッたとき、そのトリ跡に―

【正解B】
・白3と、ツケる。
・つづいて黒は極隅、3の一路右、に打つほかなくそれを白がトッて、一応は劫の形。
※ところでA図にもどって、同図は、黒のほうからは絶対に手が出せないという点が大切。
※黒がどこまでもセキだといってがんばれば、白も黒も互いに全局の劫ダテを無くし合ってから、いよいよ最後に、もうよしと白が見たところでA図からB図に導けばよいので、黒はそのとき劫を争うわけに行かず、屈服せざるを得ない。
 その経過については、これだけでは説明が足りないかも知れないが、要するに黒からは手の出しようがないに反し、白のほうからは取りかけに行く余地がある。
 つまり白には打ちようがあるという差なのである。

【第1図】
・本図は外側のダメがあいている。
 それも一手や二手ではない。しかし隅の曲がり四目の形もしくは原理それ自体については変りないので本図をもって、ダメがどれほどあいていようと論なく、隅の曲がり四目を代表するもの、すなわちモデルとする。
※この形、黒のほうからは打ち様が全然ないに反し、白からは打ち様がある。
 すなわちまず外側のダメを全部ツメ、全局の劫ダテを無くしたうえで、正解図A、Bのごとく取りかけに行って、実際に取ってみせることができるのだった。

・それゆえ、この形ができたときは、その形の大小や外側のダメの如何にかかわらず、無条件死(この図例ではもちろん黒の)とする。
 これが古来の通則であり、また囲碁規約のしめす所でもある。

【第2図】
・この場合はそれならどうか?
 黒先ならば問題なく、白先のとき、第3図1として、単純な劫である。
※曲がり四目ではない。

【第3図】
【第4図】
・前図との違いは、外側のダメがひとつ多くアイているだけであるが、これは白から先に打っても、黒は無条件で活きている。すなわちこの形、黒は手をぬいていて、活きである―

【第5図】
・白から打つにはこの1、以外にない。
・それを黒が1の一路右、に受け、その極隅の黒を白がトッたとき、

【第6図】
・第6図1、としてオシツブシの形に導くことができる。

※外側のダメがひとつだけしかアイていない第3図には、このオシツブシとする余地がなかった。
 以上、隅の曲がり四目と、それに似て非なるものを対照的にかかげたわけである。
 隅の曲がり四目の原理は上述のごとく、とくに難解なものではない。
 しかしそれがはっきりつかめていると否とでは、いろいろな場合に思いがけない差を生ずることとなるのはいうまでもない。
 つぎに実戦によくあらわれる例を採って、さらに具体的に研究をすすみてみよう。
 最初にもいった通り隅の曲がり四目は決してそれだけの問題ではない。
 その重要性をもう一度強調したいとおもう。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、39頁~42頁)

隅の“曲がり四目” 第5号


【第5号】
・参考図Aのように、星に対する小ゲイマのカカリ、そして黒が一間にトンダ姿(または一間トビにかわりに、10、の小ゲイマ)から導かれるこの形は、互先、置碁を通じて実戦にかなり多くあらわれるものである。
・本来A図のままでは白が不完全なので、次ページ参考図Bの1、3と補ってはじめて安定するところであるが、それを白が手をぬいて放置したとき黒からどのように打つかの問題―結論を先にいうと、黒先、白無条件死である。
 もっとも二子のほうをすてて小さく活きることはできるけれど、それでは不利が大きすぎるので、それは考慮の外におく。

【参考図A】
【参考図B】
・白1、3につづいて黒は2の一路左を堅くツギ或いはその一路左下にケイマツギして一段落―定石のようになっているものである。

【正解図A】
・黒1のハネ、絶対である。
※ふところをひろげるのと、逆の意味である。第9章、第2号参照。
・白2、最大の抵抗―第6章、第14号参照。

【正解図B】
・A図につづいて黒3、白4、そして5と2ノ一の急所にオキ。
・これに対し白は5の一路下にツキアタルほかなく、ツキアタったところから―

【正解図C】
・黒9まで解決である。
・7の一路下のダメがアイているけれど、そのダメは結局白がツグかツメるかする以外にないのでしたがってこのまま隅の曲四に帰する。
・もし白がそのダメをツメても、黒は放置してよく、そして白が二子をトッたところで一子をトリ返せば、正解D図となることが知られるであろう。

【正解図D】
【第1図】
・正解C図白8の手で、この1、とホーリコンダときがむずかしい。
・この1をトルと、

【第2図】
第2図白3、で劫。

【第3図】
・前図で、黒が劫をきらって極隅をツギ、曲四の形に導こうとすると、その形にはなるけれど、白が四子をトッた跡に本図1とツケても、これは白に極隅に打たれオシツブシとされる余地のあることを思わなくてはならない。
 まちがい易い点だから注意してほしい。

【第4図】
・白1に対しては黒2、という巧妙な筋が用意されている。
・2の一路下を白が遮り、白1を黒がトリ、白が二子をトリ返し、そこでさらに黒が一子をトリ返して、第5図となるのをたしかめてほしい。

【第5図】
・これはまさに正解C図に外ならない。

【第6図】
・正解A、Bにおける1、3の順序を前後してこの1、を先にすると白2、4で無条件活き。
・白も4の手で一路左にオサエれば黒は4の一路右、にオイて正解に帰する。

【第7図】
・はじめにこの1のハサミツケを打つ。
・白2、黒3、につづいて白は1の一路右、からオサエても、或いは1の一路上にホーリコンでも(第10、14図参照)活きる。

【第8図】
・正解Aの白2の手でこの2、とトンで受けた。
・これには黒3、とツケて白に眼形の余地のないことをたしかめてほしい。

【第9図】
・正解Aの白2の手でもうひとつ、この2とはずして打つのはどうか?
・2は“2ノ一”の筋にあたり、さすがに有力で、こう打たれると黒は全部を屠るわけには行かない。
 しかし黒は1の一路右、にノビても二子を先手で取込むことができる(それをたしかめてほしい)から、そうなれば白は活きたといっても名ばかりである。

【第10図】
・正解Bの黒3でこのようにキル。
・これは白4、黒5、とトッても白に活路のあることは、次ページ第14図とまったくかわりない。

【第11図】
・第5号と似た形であるが、このほうは黒から先に打っても白が悠々活きてしまう。
 したがって問題をなさない。念のためにしかし一応研究してみよう。

【第12図】
・黒1、3、5、を第5号の正解にならって試みる。
・但し3の手で4、をキリ白3、につづいて2をトッても、白が無条件に活きることは第14図に明らかである。
・第12図は5につづいて黒3を白がトリ、その一路下を黒がオサエた所から、次図。

【第13図】
・白1、3で、これは曲四ではない。
 すなわち3のつぎに黒が1の一路右、にハネても、白は劫をツイでセキ(のちの第7号附図参照)であるし、また劫などをツガずに、2の一路下からツメて、結局オシツブシの形にして活きればさらによろしい。

【第14図】
・白1、3は常用の筋。
・白1を黒がトッたとき、白はまず劫をトッて争うことができるし、いよいよとなれば2の一路右下、にサガッてオイオトシの理により無条件に活きる。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、49頁~54頁)

第3章 “ホーリコミ”の筋


第3章 “ホーリコミ”の筋
・ホーリコミはまたウチカキ、或いはウチコミなどとも一般にいわれている。
 ただしこのウチコミは、相手の模様や地の中に打込んで行く手段とは勿論ちがう。
・ホーリコミもウチカキも、自分からアタリとなって相手に取らせることにより、攻合いの場合には相手の石の手数をちぢめ、また死活の問題のときは、相手の眼形の余地を縮小する。
 そのような効果をもつ点で、目的をひとしくするものである。

【第1図】
【第2図】
・第1図の白は、第2図1とホーリコミの手筋により(隅の黒の手数をちぢめて次にはトル形)3とサガって活路に就くことができた。

※厳密にいうとホーリコミ、ウチカキ、ウチコミ、この三者は形のうえではっきりした差があるのだが、今はそのようなこまかい点は無視してよろしい。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、59頁~60頁)

第3章 “ホーリコミ”の筋 第1号


第3章 “ホーリコミ”の筋 第1号
・黒先、で白六子と黒二子との間になにか手段の余地がないか?、である。
【第1号】

【参考図A】
・黒1、白2、は必然として、普通では明らかに攻合いは黒が足りない。
・しかしそこになにか工風(ママ)はないか、というのである。

【正解図】
・黒先、で劫。
・それは無論黒3をトリつづいて3の二路左を黒がオサエての劫である。
 なんだ、劫か。劫ではつまらない。劫はイヤだ、劫はごめんだな。などといってはならない。
 こんなところで劫がもち上がれば、どのような代償でも黒としてはただ儲けになるわけである。
・問題は、1、2の交換を先にして3、ホーリコむのと、その交換なしに単にホーリコムのと、その差はどうか、というのである。
 つぎにそれをしらべてみよう。

【参考図B】
・今いった交換なしに劫にした形。
・白が黒三子をツメ、黒が劫をトル。
※しかしその劫をトッたときの形が、正解ほどにはっきりしていないことに気づくだろう。
 黒が劫をに勝とうとしても、その後にもうひとつ劫が待っている。
 正解のほうは、黒が劫に勝つに際しては七子を一手でウチヌイてしまうので、B図はそれだけ黒にとって好ましくないもの、白としては歓迎すべきものとなっている。
 正解の1、2を先にするのがただしい手順である。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、61頁~62頁)

第3章 “ホーリコミ”の筋 第2号


第3章 “ホーリコミ”の筋 第2号
【第2号】
・白先、白五子と黒四子との攻合いの問題。
・この形も普通に外からツメていったのでは白が二手もたりない。
 一見、争う余地がないようであるが、ホーリコミもしくはウチカキの筋を応用することにより、逆に白のほうが攻合いに勝つことになる。
・それではどうしてその手筋が利用できるような形にもって行くか、その最初の着点の発見が大切である。
 そしてそれには相手の弱点ないし欠陥に眼をつけるほかない。
 このような場合、そのもって行き方はほとんどきまったものなのである。

【正解図A】
・黒の欠陥をついて、まず1、とキル。
・黒2、白3、とサガリ二子にしてすてるのが、このような形における共通した要領である。
・黒は3の一路下、からオサエるほかなく、そこで白が2の一路左をキレば黒はもちろん二子をトッて、B図である。

【正解図B】
・白1とここでウチカク。
・あとは示さない。
※A図の1、とキル弱点を見いだすのと、3とサガッて二子にしてトラせる。
 このふたつが根本である。
 せっかく1のキリは打っても、3とサガルことを知らず、3の手で2の一路左のキリを急いで打ったりしては何もならない。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、63頁~64頁)

第3章 “ホーリコミ”の筋 第5号


第3章 “ホーリコミ”の筋 第5号
【第5号】
・黒先、でやはり隅になにか手段はないか、の問題。
・この形は無理にこしらえたように思われるかもしれないが決してそうでなく、互先の碁に始終あらわれる参考図Aから、つづいてB図にうつり、それに同図a、の点にあとで黒石が加わったものとすれば、きわめて自然である。
・白は本来、手がぬけない形であるが、それを放置していたとき、黒からどのような手段があるか、と考える。

【参考図A】
【参考図B】

【正解図A】
・黒1、3と動きだすよりほかにない。
・白も4とオサエるのが絶対。
※この手で、5、の点にサガるのでは、4の点を黒にオサエられて、そのまま白の挫折におわることが下の参考図Cに明らかである。
・黒5、白の欠陥をついたキリであって、第2号および第3号で学んだ手筋とまったく同巧である。
・つづいて白が5の一路左にハネコミ、黒はもちろん5の一路上にサガッて二子にしてすてる。すなわち次に白が4の一路上にオサエ、黒が2の一路左をキッて白が黒二子をトッたとき―
 
【正解図B】
・黒1とホーリコンで解決する。
・あとはもう簡単だろう。

【参考図C】
・この白4では問題にならないが、4で5の点にオサエて一見黒のほうが手数がたりないようなのを、A、B図のごとくその4の点をキッて手数を縮めるとは、巧みな手筋ではないか。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、69頁~70頁)

第3章 “ホーリコミ”の筋 第6号


第3章 “ホーリコミ”の筋 第6号
【第6号】
・黒先、この白陣に対しなにか手段の余地はないかという問題。
 隅の一子だけをキリ取るのでなく、それ以上に大きな狙いである。
・やはりホーリコミの手筋の応用であるが、直接でないから、すこしむずかしいかもしれない。
 しかし実戦にはしばしばあらわれるものである。
 つぎにホーリコムぞと、いわば間接の狙いをもった問題であると解釈する。
・いくつもある白の断点、それに着眼するのがむろん第一である。
 白のダメヅマリの形も利用しなければならない。

【正解図A】
・断点をねらうのにこの1、3それ自体は前後してもよろしいが、しかしこれは関連し、切り放せない組合わせである。
・白2がかく受ける以外にないことは、勿論である。
・黒3につづいて白が3の一路右をツギ、そこで黒が2の二路右をキリ、そして白が3とトッたところから、B図に入る。

【正解図B】
・黒7とコスム筋(第1章)により次に二路右へのホーリコミによる筋と、二路左にサガル手段とを見合いとした。

【参考図】
・A図の黒3を、白がB図のようにトラずに、本図1とサガッたりすると、この黒2、4が成立する。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、71頁~72頁)

第3章 “ホーリコミ”の筋 第13号


第3章 “ホーリコミ”の筋 第13号
【第13号】
・黒先、ホーリコミもしくはウチカキの手段とくり返すことによって無条件で白を屠ることを要す。

【参考図】
・このように平凡なことを打ったのでは白の眼形は動揺しない。
・白のダメがツマっているのに着目し、そこに工風(ママ)がなければならない。

【正解図A】
・黒1、3につづいてB図5、とホーリコム筋。
・ただしこれらの1、3、5に対し白がそれぞれ2以下のごとく受けざるを得ない(その点もたしかめてほしい)かぎり、1、3、5は絶対の手順でないこともたしか。

【正解図B】
・もちろんA図の黒3をトッたところから、この5、とホーリコンだのである。
・この5に対し、A図の黒を白がトッてもそれが外部に影響しないような形となっていることに注意する。

【正解図C】
・A図の3で、この3を先にしてもいい理である。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、85頁~86頁)

第3章 “ホーリコミ”の筋 第14号


第3章 “ホーリコミ”の筋 第14号
【第14号】
・白先、で黒を屠るのにホーリコミの筋が巧みに応用される。
※それも直接ではないので、この限られたせまい範囲でありながら相当の難問である。
 白の第一着は、ともかくも黒の眼形の範囲をせばめるものでなくてはならない。

【正解図】
・白1そして3、が巧みな筋。

【第1図】
・つづいて第1図黒4、白5として、黒が6の手で一子をトッたとき、

【第2図】
・第2図7、とツイで解決する。
※正解の3が直接ではないけれど恰もホーリコミの筋にあたっているのを思ってほしい。

【第3図】
・正解の黒2につづいてこの3、5でもよさそうであるが、これは5のつぎに3を黒がトッて、白の失敗におわる。

【第4図】
・はじめ白1のコスミに、この黒2ならば白3。
・この場合、1で3を先にすると黒に3の一路上に受けられ、つぎに白1のとき、黒は1の一路下である。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、87頁~88頁)

第3章 “ホーリコミ”の筋 第15号


第3章 “ホーリコミ”の筋 第15号
【第15号】
・つぎの16号とともに、これも実戦には応用の機会の多い形である。

【参考図】
・黒1から打つと、白2と外され、黒が1の一路上にサシコンでそこの眼をうばっても、白は二子をツガずに2の二路右、にサガッて活路を保有する。
※黒としては、そこになにか工風(ママ)がなければならない。

【正解図】
・黒1、異様にみえるだろうが、これが唯一の急所。
・白は一路左から受けるほかなく、つづいて1の一路下を黒がキッて二子にして、この二子を白にトレよ、と命じる。
 白はトルほかない。
・そのトッた跡に、ふたたび第1図1、とすればその1は正にホーリコミの筋である!

【第1図】
・黒1が白a、を妨げている点に注意してほしい。
・この1を白がトレば、そこで黒a。
※トラずに白b、ならば黒はaの一路上、にホーリコミ。
 これは正に二重のホーリコミもしくはウチカキといえるだろう。

【第2図】
・参考図で触れたが、はじめ黒1のとき白2、は黒3で死。
※この3、正解の1、参考図の白2、どれもが共通した急所である。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、89頁~90頁)

第3章 “ホーリコミ”の筋 第16号


第3章 “ホーリコミ”の筋 第16号
【第16号】
・もちろん黒先、であるが無条件とは行かず、劫。
※しかし、劫になれば黒の成功はいうまでもない。
・黒が隅の一子を助ければ白a、で活きられるしまた黒がa、のほうを打てば一子をキリ取られるので、その間に黒の工風(ママ)が要るわけである。第15号と似た形である。

【正解図A】
・黒1のオキは第15号とまったくひとしい。
・白2のキリに黒は一子を一たんサガッて二子にしてすてるのが、れいの要領で、つづいてB図白4、黒5、からその二子を白がトッた跡に、C図黒7、とホーリコンで劫。
・ホーリコンだ7を白がトッたとき、D図黒9、で解決する。

【正解図B】
【正解図C】
【正解図D】

【第1図】
・B図白4の手でこの4、ならば、黒5、とキッてやはり劫。

【第2図】
・B図もしくは第1図の白4の手でこの4、とツゲば黒5、で無条件死に帰する。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、91頁~92頁)

第4章 “ツケ”の筋


第4章 “ツケ”の筋
・ツケには単純なツケのほかにハサミツケ、アテツケ、トビツケなどある。
・それらはいずれも部分的の形によることで、そのような述語が本当に理解されていれば、もうそれだけでツケの筋そのものも半ばつかめているといえるくらいである。

【第1図】
・この1はトビツケである。

【第2図】
・この白1はハサミツケの例である。

・術語の正確な知識は非常に大切なことである。
 著者は機会あるごとにその点を力説しているものであるが、このツケにかぎらず、読者はつねに術語とその形をすぐに結びつけることができるよう、平素から練習をつんでおかなくてはならない。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、93頁~94頁)

第4章 “ツケ”の筋 第1号


【第1号】
・まずやさしいものから入る。
・黒先、でこの白を屠ることを要する。
・このように大きな形で、ゆうに活路のありそうな石でもツケの手段により眼形の範囲が一時に縮小され、死に帰するのである。

【正解図】
・黒1、これはハサミツケ。
・白2とサガって抵抗するのを3、とキルのがハサミツケにふくまれる常用の手段。
※つづいて白は3の一路下をキルほかなく、そこで黒が2の一路上下からアテて、白が3をトッた跡をツガせ、そして1の一路下に打てば、もやは白に眼形の余地はない。

【参考図A】
・上述の結果を念のためにしめした。
・白3、黒4、で五目ナカデの死。

【参考図B】
・黒1のハサミツケに白2、は黒3で眼ができないことをたしかめてほしい。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、95頁~96頁)

第4章 “ツケ”の筋 第6号


【第6号】
・直接に死活に関する問題ではない。
しかし現在絶縁の姿をなしている黒三子に、連絡の途はないか、ということである。
※そこにツケの筋が行使される。
・もちろん黒先、である。
※上下に黒が三子も連立している形であるから、その勢力を利用すれば、渡りの筋くらいはあるはずだと考えて工風(ママ)してほしい。

【正解図】
・黒1、アテツケの筋がある。
・白2、黒3、で簡単に渡ってしまう。
※白2でもし1の一路左上、に打っても、黒はやはり3とツケてよろしい。

【第1図】
・黒1のアテツケに白2、は無理。
・黒3で白自身が遮断され、この三子は攻合いに勝てず、取られてしまうことは容易にたしかめられるだろう。

【第2図】
・はじめに黒1と、このツケから先に打つと白2、とハネ出される。
 そのあと、どう打っても無事は望まれない。
・後から3のアテツケを打っても、白に3の一路右上、をツイで抵抗され、これはうまく行かない形である。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、105頁~106頁)

第5章 “オキ”の筋


第5章 “オキ”の筋
・オキとは、筋もしくは急所にオク意味である。
・この一手という要点、これ以外の手はすべて無効で、これにかぎるという解釈からすれば、正しい着点はみな急所のはずであるが、そのなかでもオキの筋は、急所という感じが一ばん切実でぴったりと来る。
・オキはそれゆえ相手をつかまえ、その死命を制する場合が、より多い。
 しかし反面、その筋がはっきりすれば、自分がまもるときにも、どの点に打ってそなえたらいいかが、自然に把握できるわけである。

【第1図】
・黒1、と急所にオイて、

【第2図】
・白2ないし黒5、から

【第3図】
・白6ないし黒11、で白死に帰している。

【A図】
・A図は術語で“一合桝”とよばれるもので、白から打つオキの急所はもちろんAの点である。
・しかし黒からaおよびbのハネが利いているか(打ってあるか)どうか、外側のダメがアイているかツマッているか、それらの関係が錯綜し、簡単に取扱うわけには行かない。
・研究しだしたらこの形だけで数十ページに達するので、勢い研究のための研究ということになる一方、実際的価値はあまりないとも考えられ、本書ではわざと省略した。
・要点だけをいうと、白Aに対し、黒aのハネがあるときは、ハネのないほうからB図2、とツケて劫である。
・またハネがなく、ダメがツマっているときはC図の劫となる。
(この程度にとどめる)

【B図】
【C図】
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、111頁~112頁)

第5章 “オキ”の筋 第3号


【第3号】
・白先、で無条件の黒死にみちびかなくてはならない。

【参考図】
・この1のハサミツケが第4章第2号あたりから類推されるかもしれないけれど、黒2と受けられ、これは問題なく無条件の活きである。

【正解図】
・白1のオキ、これが急所。
・念のためにいうと、1に対し黒が一路左、から打てば白はもちろん1の一路下、に渡るまで。
・また1に対し黒が一路下に遮れば白は1の一路左、に打って、黒に眼形のできないことは疑う余地がない。

【第1図】
・はじめに1、とハネてみる。
・これは黒2、とオサエる。
・この2を誤って一路左にユルメたりすると、白に2の点に出られ、そのまま黒死に帰するのは明白。
・2とオサエたのを、白が2の一路左をキッても黒は1をトッて、前ページの参考図と同理により活きてしまう。

【第2図】
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、117頁~118頁)


第6章 “ダメヅマリ”を利する筋


・ダメのツマった形が一般に不利とされることはひとつの動かない定則である。
・ダメヅマリはさまざまの形となってあらわれるが、死活にはこのダメがツマっているかどうかが物をいう場合が非常に多い。
・その点、これまでの図例でもたびたび触れてきた通りである。
・現在ダメの有無が関しないようにみえても、ダメヅマリの形にもって行って成功する例がすくなくない。
 ダメがたったひとつアイているかいないか、それだけの差で死活のわかれることが多いので、ダメヅマリの関係は詰碁ではつねに第一に見さだめることを要する点である。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、135頁)

第6章 “ダメヅマリ”を利する筋 第1号


【第1号】
・白先、極隅の関係を利し、ダメヅマリの形にもっていって活きることができる。

【正解図】
・白1とまず一眼を保有し、黒2を強要して白3、で解決する。
※もしつぎに黒が2の一路右にツナガれば、白は2の三路右にホーリコンで(もしくはその点をウチカイて)いわゆる“オイオトシ”の形に導くことができる。
 それは黒が損をますだけであるから、本題は白1でとどめ、そのまま活きとすることになる。

【参考図】
・この1はダメヅマリの関係を利するところにもって行っていないから、失敗のわけである。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、135頁~136頁)

第6章 “ダメヅマリ”を利する筋 第9号


【第9号】
・黒先、で五子を助ける手段をもとめる。
・白の欠陥をつき、そこにダメヅマリの関係をつくるように工風(ママ)する。
・第10号とともに、ダメヅマリの理を応用する問題としてはきわめてわかり易いものである。

【正解A】
・黒1のウチカキから、さらにもうひとつの白の弱点である3の点をキッて、これをトラせるのがダメヅマリに導く要領である。
※ただし、1、3は手順というものでなく、これを前後してもさしつかない。その理をたしかめてほしい。
・3のキリに対し、白は一路左に出る。
・黒はその一路上(2の二路左)に打つ、そして黒3を白がトッたとき、B図7、とツイで解決に達する。

【正解B】
・白三子が完全にオイオトシである。
・そして三子が落ちれば、黒五子は勿論生還である。
※このように、ホーリコミもしくはウチカキの手段により、或いはそれをくり返すことによってダメヅマリの形に導くのはきわめて当然のことであって、すでに第3章にもこの理はしめされたのである。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、151頁~152頁)

第7章 「2ノ一」の筋


・2ノ一はまた1ノ二といってもおなじで、第1図の1、および第2図の5、の点にあたる。
・ひとつの隅に2ノ一に相当する点はふたつずつあるので、盤中には8個あるわけであるが、それらがいつでも急所にあたり或いは筋だというわけではない。
・2ノ一が隅の要点としての効果をあらわすのは死活もしくはヨセの問題となったときにかぎる。

【第1図】
・白1とツケると、黒は第2図のごとく2、とツグほかない。
・ツガずに1の一路右に打つことはできるけれど、それはトラれて劫となるにすぎない。

【第2図】
・黒2ないし白5、でしかしやはり劫となった。
・本図では2ノ一を白がふたつとも独占しているが、これは必ずしも両方を打たなければ2ノ一の効果があらわれないというのでなく、この図例は、2ノ一というものをはっきり印象づけるために、特にこのような形をえらんだだけである。

・隅の場合、なにはおいても2ノ一を一応考えてまちがいない、といってもいいくらいの急所であり要点だと心得ておいてほしい。
・いきなり2ノ一を眼ざしていい時と、間接に第2段のねらいとして2ノ一をふくむ場合とがある。
・また2ノ一は相手の石をほふるときの急所にあたるばかりでなく、わが石が活きる際にも唯一の筋にあたることが多い。
 そのほかに、ヨセの手段としても応用される場合が非常に多いのであるが、本書ではそれには勿論ふれない。

・2ノ一の筋は本章以外の各章でも随時にあらわれており、そのたびに指摘したが、とにかく双方の石が接触して隅に問題を生じたときは、まず2ノ一ということを想起してそこに手段はないかと考えるのが賢明であり、むだがないといってよいほどなのである。

・ただし2ノ一はつねにふたつあるので、どちらの2ノ一がその場合の筋にあたるかは、個々の問題について判断するほかない。これを誤ると却って相手に急所をつかまれることともなるから注意を要する。
 前ページの例図のように両方の2ノ一がものをいうこともある。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、161頁~162頁)

第7章 「2ノ一」の筋 第1号


【第1号】
・白先、の問題。
・直接に2ノ一を打っても仕方がないことは明らかであるが、そこに工風(ママ)の余地はないかと考え直してほしい。
・一手々々、順にツメて行くのでは攻合いの手数は、どうやってみても白が足りないようである。

【正解図】
・白1、黒2、は疑問がない。
・白3とハサミツケたのは巧みである。
※2ノ一の効果がこれほど端的にあらわれる例もあまりないと思われるくらい、これを本章の第1においたゆえんである。
・3のつぎに黒が2の一路右、もしくは1の一路右、どう打っても、白は2の一路左にホーリコンで、それまでである。

【参考図】
・正解の3の手で、この1を先にすると、そのトタンにもう白の敗けときまってしまう。
・黒4につづいて白が3の一路下をツイでもそのときは黒が3の三路下からハネるばかりである。
※白1で3のハネから打っても、黒は4の点にサガっておなじ。
 これはこの形の急所である4のほうの2ノ一を、逆に黒に打たれたからであると解する。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、163頁~164頁)

第8章 “ウッテガエ”および“石の下”の筋 第1号


【第1号】
・黒先、で無条件に活きることが要求されている。
・黒のダメがツマっているため、参考図Aの1は白2、とハネられ、そのまま死。

【参考図A】
【正解図A】
・黒1のサガリはこの場合ふところをひろげたというべきだろうか。
・これでりっぱに活き。
・つぎに白が一路左、をオサエたとき、一手補って白二子を取っていればよろしい。

【正解図B】
・もし1につづいて白が1の二路右にハネてくれば、そのとき黒は1の三路右にホーリコンで(もしくはウチカイて)よく、それを白がトッても、ウッテガエ或いはトリ返しの理により白三子をトレば、当然B図の形となって活き。

【参考図B】
・外のダメがアイているかぎり、前ページ参考図の1、と打っても活きであるが、それよりは正解図Aのごとくやはりサガるのが正しい。
・ただしサガっても、最後には黒がもう一手入るのはいうまでもない。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、163頁~164頁)

第8章 “ウッテガエ”および“石の下”の筋 第4号


【第4号】
・黒先。一見手段の余地がないようなこの形で、“石の下”の筋により黒が活きてしまう。

【参考図A】
・黒1とこのほうからアテるのだけは、白2とサガラれて、これはもうこれ以上どうすることもできない。
・よって黒1は2、のほうからアテ、それからの工風(ママ)である。
 1も2も“2ノ一”であるが、ここにもおなじ2ノ一の選択の問題がある理。

【正解図A】
・黒1とこのほうからアテ白2、黒3とツイで犠牲をまし、4子にして取らせる。
・すなわち3のつぎに白は3の一路左、からツメるほかなく、そのとき黒が2の一路下、からオサエ、白が4子をトッたとき―

【正解図B】
・そのトッた跡を1、とキル。
※まことに明快。
 石の下はこのように、石をよけいにしてすてるのがコツ。

【参考図B】
・正解Aの3の手をこの3、とする。
・これは白4、で眼形のないことは、どなたにもおわかりだろう。

【参考図C】
・白はまた4の手で一路左から打ち、黒が二子をトッたとき、C図1、とホーリコンでもいいわけである。
※興味だけを主とすれば石の下にはもっと複雑な形がいろいろあるが、今は単に例示するだけにとどめた。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、170頁~171頁)

第8章 “ウッテガエ”および“石の下”の筋 第5号


【第5号】
・これもまた石の下の筋によって解決する。
・白先、で活きることを要する。
・一見、眼形のなさそうなこの石が、石の下によってみごとに活きるのだから手筋というのは恐ろしいものである。
・犠牲をましてトラせる、といっておいたが、その秘密はどこにあるのだろうか。

【正解図A】
・石数をふやして取らせるといえば、この1とサガるほかに考えられない。そしてこれでいいのである。
・つぎに黒が1の一路左からツメ、白は1の一路右、に打ってわざわざ4子にして黒にトレよ、と命じる。
・黒がトルのを待って、そのトリ跡にを―

【正解図B】
・1とキルまでである。

【参考図A】
・余白をもって追加する。
・白先、石の下の筋でこの黒をほふる問題。

【参考図B】
・白1とハサミツケて5、までとなったとき、黒は1の一路下、からツメるほかないので、つぎに白が3の一路右に打って4子にしてトラせ、石の下にもって行く。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、181頁~182頁)

第9章 隅のさまざまな形 第1号


【第1号】
・誰でも知っているように碁では隅がもっとも重んぜられるだけに、もっとも複雑なのもまた隅の変化であるが、普通によくできる形だけは、ひと目で死活がはっきりするようになっていたいもの。
 その意味で根本的な型を数例かかげて追究してみよう。
・この原図は、これがもし詰碁とすれば、問題として成立しない。
 すなわち黒先はもとより白から先に打っても、なんの手段もない形であるが、このような形でもちょっと変っていると、すぐに惑わされることが多いものである。
 慎重に考えてほしい。

【第1図】
・白から先に1とサガってみる。
・黒2とハネれば、白がその一路上をオサエてもそのオサエた形自身“5モクナカデ”であるから、黒は1の二路右にオイてそのまま無条件の白死。

【第2図】
・はじめに“2ノ一”の筋に1、と打っても、黒2とオイて、眼形の余地はない。
 すなわち白が2の一路下に遮っても、黒は1の二路左からハネるばかりである。
・ところがこの簡単な形が―

【第3図】
・これになると、もう混乱する。
・本図は黒先ならば第4図で死、白先ならば第5図で活き。
・第6図は第1号の原図同様、白先でも活きない。

【第4図】
【第5図】
【第6図】
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、183頁~184頁)

第10章 辺の類似形 第1号


・側辺にしばしばあらわれる形で非常によく似た第1号以下に、ダメひとつの有無、そのほかちょっとした条件で、死活のわかれる例がある。
 これを最後の研究課題としてみよう。
【第1号】
・白先、ではもとより問題にならない。しかし黒先ならばどうだろう?
・答えをさきに言うと、黒先でどう打ってみてもこの形には活路はない。
 黒からさきに打って黒に活きがない。せめて劫にする余地もないというのでは、詰碁としては本来意味をなさないわけであるが、前にものべたごとく、本書は詰碁の問題集ではない。
 死活の基本を考えるのが主であるから、そのような詰碁の常識をはなれて研究してほしい。

【第1図】
・黒1のカケツギは眼形の基本であったが、白2とキラれて死。
・左右同形であるから、この1を一路右、に移せば白2も一路左、に移動するのみ。

【第2図】
・この1に対しては白は二路右、にオイてよいほかに―

【第3図】
・2とハネてもよろしい。
・そのとき黒3、とカケツイで活きのように錯覚しがちであるが、これは白4、とツケて眼形がない。
・つぎに黒が4の一路下、ならば白は2の一路右、をツグ。

【第4図】
・隅に黒1、のハネが利くこの形だと、黒3とカケツイで今度は活き。
・その理由は後の第3号に明らかで、それと全くひとしいのであるが、今たしかめられるか。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、193頁~194頁)

第10章 辺の類似形 第3号


【第3号】
・第1号とおなじ形であるが、全体が一路右に移動しているため、そこに極隅の関係が加わってきて、本題は黒先、活きである。
・まことに微妙なところで、或いはウンざりする人があるかもしれないが、そこがまた碁のスリルのある所である。

【第1図】
・黒1のカケツギには白2、があることはすでに学んだ。
 これでは活きられない。

【第2図】
・黒1とこのほうにカケツグのが正解。
・白2のキリが物をいうようでは勿論いけないが―

【第3図】
・ここで黒3とサガる余裕があるところに注目する。
・つづいて白が3の二路左にサガっても、黒はそれにかまわず一方に一眼をもって活きてしまう。

【第4図】
・黒1、白2のハネならば黒3、と眼をもって活きる。
※この3の手でうっかり2の一路左をオサエたりすると―

【第5図】
・白4とキラれて、劫をまぬかれない。
※前に注意しておいた第1号第4図の宿題が、本図にならって今や解決できると思う。
(高川秀格『死活に関する10章』梧桐書院、1971年、197頁~198頁)

【補足】橋本宇太郎vs高川秀格 第7期本因坊戦第2局~高川秀格『わが本因坊戦の分析』より


 高川秀格先生の著作に、次のものがある。
〇高川秀格『わが本因坊戦の分析』創元社、1959年
 片岡聡九段の選んだ一手は、白48である。

第7期 本因坊昭宇に挑戦 第2局


第7期 本因坊昭宇に挑戦 第2局
【第1譜】(1-50)黒45ツぐ
〇本局については、“布石と定石の総合研究”のうち布石篇、第4局において中盤、勝敗の決する前後まで詳説したので、今は簡略にとどめます。

・黒7まで、昔からかなり多く打たれている構成である。
・白8の高いハサミから、今の碁だという感じがはっきりする。
・黒19、この対局者らしい着想である。
・これに対して、白が単純にコスめば(6の右上)、黒は50の走りを第一とし、そのほかにも23の一路上のケイマ、また転じて39のカカリに向かうなど、種々の打ち方を生じたであろう。
・白20は新しい手法であった。
・黒21では3三にツケて打つのが白20の異常をとがめる意味において唯一のきびしい手段だったといわれる。
・黒29、31、そして33と打ち込む調子である。
・白38の二段バネは勢いの当然にすぎない。
・黒45のツギまで、互いに必然であった。
・白48は怠れば黒に一路上あたりに打たれるのと、その差である。

(高川秀格『わが本因坊戦の分析』創元社、1959年、16頁)