歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

《仏花の選び方と育て方》

2019-12-29 18:29:04 | ガーデニング
《仏花の選び方と育て方》




執筆項目は次のようになる。


仏花の選び方と育て方


目次
・【はじめに】
・【仏花について】
・【仏花の選び方】
・【仏花の育て方】
・【実際の栽培】
  ・8月咲き中大輪菊ミックス  
  ・シキミ             
  ・スピードリオン         
  ・ききょう三色ミックス     
  ・西洋ミソハギ    
・【花と木の文化史 中尾佐助氏の著作より】
・【むすび】







【はじめに】


 先祖供養に欠かせないのが、仏花である。
今年5月に父親を亡くし、葬儀・法要の際には、親戚をはじめ周囲の人々に支えられ、豪華な切り花を頂いた。だが四十九日法要が終わってみると、何も残らず、虚しさだけが募るばかりだった。加えて、仏様および仏壇を自分一人で守らねばならず、一時期あんなに華やかに飾られていた仏花に事欠く有り様であった。花屋で切り花を買うにしても、それなりの値段で一週間ぐらいしか花持ちせず、今後、何十年も買い足すのは費用的に限界がある。
 そこで、もう一度、園芸に取り組んで、仏花を育ててみたいと思った。一年草の花より、多年草ないし宿根草の方がよく、草花よりも樹木の方が負担や手間が省けると考えた。インターネットを閲覧し、仏花のおすすめを参考にしながら、現在、自分で育ててみたい仏花の候補を列挙した。とりあえず、予算的に1万円位を予定して、注文することにした。

次のようなリストになった。
① 8月咲き中大輪菊ミックス(8 ポット)  
② シキミ(3 株)             
③ スピードリオン(6 株)         
④ ききょう三色ミックス(10 株)     
⑤ 西洋ミソハギ(2 株)          
               



【仏花を選ぶに際して留意した点】
・花持ちがよい
・一年草より多年草(宿根草)ないし樹木




【仏花を長持ちさせる方法と、日持ちする花の種類】


仏花を長持ちさせる方法としては、毎日の水替えをこまめにすること。また10円玉の銅イオンにより、長持ちするそうだ。
仏壇にお供えする花の代表は、やはり菊が第一に挙げられる。茎が太い菊が枯れにくい。
ユリも切り花としは、日持ちする花である。ただ、雄しべの花粉は服につくと落ちにくいし、花びらを汚してしまうので、摘み取ることが大切である。
スターキスやセンニチソウも、ドライフラワーになるものなので、仏花として長持ちするという。
それでは、仏花の栽培におすすめは何か。
春のお彼岸、お盆、秋のお彼岸に分けて、考えてみる必要があるようだ。
お盆の頃、仏花に向く夏に咲く花は、アスター、菊、ニャクニチソウ、ミソハギ、スターチス、キキョウ、ユリなどが挙げられる。
また、秋のお彼岸には、菊、ガーベラ、キキョウ、シュウメイギクがある。




<しきみ(樒、梻)>
しきみ(樒、梻)は、シキミ科で独特の芳香があり、秋には実を結ぶが、有害成分があり、食用できない。しきみは、昔からお墓や仏壇の花立てに供えられてきた香木の一種で、その独特の匂いはお墓を荒らす野獣が嫌い近づけないため、厄除けとしての意味合いもあったようだ。
しきみは、墓地や仏壇に供えると、他の生花より長持ちするため、重宝されている。
しきみの語源としては、四季を通して美しいから「しきみ」「しきび」、また実の形から「敷き実」、有毒なので「悪しき実」とする諸説があるそうだ。一説にしきみは鑑真がもたらしたともいわれている。空海が青蓮華の代用として密教の修法に使ったとも伝えられる。

<さかき、しぶき>
ところで、しきみに似たものに、さかき(榊)や、しぶきがある。
さかきはツバキ科で日陰でもよく育つ。神の宿る木、神が降臨する木として知られている。家庭の神棚にも供えられ、毎月の月初めと中日の15日に入れ替えるのがよいとされる。
一方、しぶきは、東日本、北日本を中心に榊の代わりとして使用されるが、お墓に供える木としても使用される。昔から日本各地で、神仏共に使用されるようだ。




【花木の育て方と実際の栽培】



 商品が到着し、ポットから植木鉢に移植するために

<ホームセンターで用意したもの>
・プランター
・植木鉢
・鉢底石
・園芸土(赤玉土[小]、赤玉土[大]、腐葉土)





「多年草(宿根草)の栽培方法」という手引が同封されていたので、紹介しておく。

・8月咲き中大輪菊ミックス(8ポット)  
・シキミ(3株)             
・スピードリオン(6株)         
・ききょう三色ミックス(10株)     
・西洋ミソハギ(2株)          



【切り花菊(キク科)】


8月咲き中大輪菊ミックス
 切り花菊は5月~8月に咲く夏菊と、9月~11月に咲く秋菊、12月以降に咲く寒菊に大別される
 一般的な菊(秋菊)は日長が短くなるにつれて花芽が作られる。寒菊はその性質が強いため、秋遅くから冬に開花する。一方、夏菊は、日の長さに影響されず、苗が一定以上の大きさであり、かつ気温が10~15度以上であれば開花する性質を持っている。夏菊のうち二度咲き菊は特に早くから咲く菊をいい、切り戻しにより秋にまた開花を楽しむことが可能である。

<8月咲の切り花菊の年間作業>
3月~さし芽 4月~定植 5月-6月~摘心 7月~摘蕾

秋にお届けする苗や、さし芽、摘心の時期までまだ期間のある場合には、そのまま1本ずつ4号~5号鉢に仮り植えすること(複数本を8号鉢などに植えてもよい)。小苗は寒さに弱いので、寒冷地は鉢植えにしてフレーム、軒下などで管理する。平暖地でも露地植えする時は防寒すること。

秋のお届け苗は、挿し芽した苗をお届けしている。新芽が発生するので、その芽を育てること。まず、下から出た芽を伸ばす。次に茎の途中から出ている新芽を伸ばす。そして茎の途中から出ている新芽を伸ばす。

【到着した菊の苗と移植した菊】





【シキミ(シキミ科)】


<自生地>日本、中国、北米
<鑑賞期>3~5月
<樹高> 低木~中木
<日照> 半日陰~日陰
<冬季の状態>常葉
<耐寒性>中~強
<耐暑性>強
<用土> 水もちのよい土壌(配合例 赤玉土7:腐葉土3)
<水やり> やや多湿
<病気> 特になし
<害虫> シキミグンバイムシ、カイガラムシ

<栽培管理暦>
       植え付け 2月~4月中旬、9月中旬~12月中旬
       開化期  3月~5月 
       結実期  9月~10月
       施肥   12月~2月
  ※特徴・栽培のポイント
       半日陰の少し湿り気のある腐植質に富んだ肥沃な土壌を好み、鉢植えでも栽培可能である。強い直射日光に当たると葉が焼けて黒く変色するので、注意したい。露地植えは関東地方以南ならば可能である。生育は緩やかで、移植はやや嫌う。12月~翌年2月に堆肥と緩効性肥料を寒肥として施す。病害虫の発生も少なく、剪定はひこばえの整理と枯れ枝の除去程度とし、放任え育てても自然な樹形になる。


【到着した苗木と移植したシキミ】




【スピードリオン(ゴマノハグサ科)】


<自生地>北アメリカ
<開花期>7~9月
<草丈> 60~90cm
<株間> 25~30cm
<日照> 日なた、または半日陰
<冬季の状態>落葉
<耐寒性>強
<耐暑性>中
<用土> 乾きが遅い用土(配合例 赤玉土6:腐葉土4)
<土壌> 適潤
<栽培管理暦>
       植え付け 3月中旬~4月、10月中旬~11月
       開化期  7月~9月
       施肥   4月~7月
  ※注意点 日なたを好むが、夏は半日陰となる場所で、湿り気の十分ある土壌を好む
       地下茎により繁殖するので、大株にしたくない場合は間引くとよい
       耐寒性は強く、防寒の必要はない

【到着したスピードリオンの苗と移植したスピードリオン】




【ききょう(キキョウ科)】


<自生地>日本
<開花期>7~9月
<草丈> 30~80cm
<株間> 20~30cm
<日照> 日なた~半日陰
<冬季の状態>落葉
<耐寒性>強
<耐暑性>強
<用土> 選ばない(配合例 赤玉土6:腐葉土3:砂1)
<土壌> 適潤
<栽培管理暦>
       植え付け 3月、10月中旬~11月
       開化期  7月~9月
       施肥   6月~9月(2週間に1回液肥)
※ 注意点 日当たりと水はけのよい場所を好む。花茎が伸びすぎて姿が悪くなるようであれば、晩春に下の葉を1~2枚残して上部を切り取ると、花茎が増えて短く咲き草姿がよくなる。夏季は乾燥しないように注意する。鉢植えでは6号鉢で3本植えが目安。切り花にする時は、切ったらすぐに水につけて切り口から出る白い液を洗い流す。アポイギキョウの株を植える時は球根を立てて芽が隠れる程度に植える。株間は10~20cmとする。
※ 絞り咲き種は開花する年により花模様が変化する。

【到着したききょうの宿根と移植したききょう】




【西洋ミソハギ(ミソハギ科)】


<自生地>日本、ユーラシア大陸
<開花期>7~9月
<草丈> 60~100cm
<株間> 30~50cm
<日照> 日なた~半日陰
<冬季の状態>落葉
<耐寒性>強
<耐暑性>強
<用土> 乾きが遅い用土(配合例 赤玉土6:腐葉土4)
<土壌> 多湿
<栽培管理暦>
       植え付け 2月中旬~4月、10月~11月
       開化期  7月~9月
       施肥   4月~9月
   ※注意点 水もちのよい多湿地を好む水辺の植物。
だから、鉢植えでは土が湿った状態にする。

【到着したミソハギの苗と移植したミソハギ】






【花と木の文化史 中尾佐助氏の著作より】


中尾佐助氏の『花と木の文化史』(岩波新書、1986年[1991年版])を参考にしつつ、花と木の文化史について付記しておきたい。
植物学者の中尾佐助氏(1916-1993)は、「照葉樹林文化論」を提唱したことで知られる学者である。ネパール・ヒマラヤの照葉樹林帯における植生や生態系を調査する中で、その地域の人々の文化要素に日本との共通点が多いことを発見し、後に佐々木高明氏らと共に、「照葉樹林文化論」を提唱した。
『花と木の文化史』(岩波新書、1986年[1991年版])は、1987年に毎日新聞社出版文化賞を受賞した名著である。

≪中尾佐助氏の本≫


中尾佐助『花と木の文化史』 (岩波新書)はこちらから

キクについて


中尾氏は、「平安朝の花――キク」と題して、次のように述べている。
「キクは万葉集の頃にはすでに日本に渡来していたが、万葉集にはキクの歌は一首もない。その後、キクの地位は向上し、平安朝の頃には宮中で「菊合せ」の公事(くじ)が行なわれた。これは唐風にならったもので、九月九日の重陽の日に、清涼殿の前に一対の菊花壇をつくり、文武百官がその花を賞し、歌を詠み、終わって菊酒を飲むものである。このようにキクは上流階級で重要度があがり、鎌倉時代になると後鳥羽上皇がキクを好んで、その紋様を衣服などにつけ、皇室の菊紋章の起源となった。」
(中尾佐助『花と木の文化史』岩波新書、1986年[1991年版]、111頁)

『万葉集』に登場する花の特徴


上記引用の冒頭でも指摘しているように、キクは『万葉集』の頃には渡来していたが、キクの歌は一首もないという。
令和の改元で今年は話題を呼んだ『万葉集』であるが、奈良朝の末期頃には編集されていた。その『万葉集』には約166種の植物が登場するそうだ。この数は、『聖書』やインドの『ベーダ』、中国の『詩経』より多く、『万葉集』は世界の古典の中でいちばん多くの植物名が登場するという。
また、『万葉集』と『聖書』に登場する植物を頻度順に並べて比較すると、そこには性格のちがいが浮かび上がってくるらしい。つまり、『聖書』では、ブドウ、コムギ、イチジクがトップ3で、上位10位までのうち、9つまでは実用植物である。一方、『万葉集』では、ハギ、ウメ、マツがトップ3で、上位10位までは全部実用植物ではない。
新元号「令和」の典拠は、『万葉集』に記された「梅花の宴」の序文であったが、ウメは2番目に多いようだ(ハギは138回、ウメは118回、マツは81回とある)。

『万葉集』の植物は当時の植物への美的評価がその中心となって登場している。つまり、『万葉集』でうたわれた植物は頻度10位までは、ことごとく実用性よりも花や姿の美学的評価のゆえに選ばれたものである。奈良朝の頃の日本の上流社会には、植物を美学的に評価する文化が成立していたとみる。

話は横道に逸れたが、平安朝の頃になると、キクの地位は向上し、宮中で唐風にならって、9月9日の重陽の日に、「菊合せ」の公事が行なわれるようになった。この「菊の節句」は、清涼殿の前に菊花壇をつくり、その花を賞し、歌を詠み、菊酒を飲む朝廷の儀式であった。そして鎌倉時代では、後鳥羽上皇がキクを好んで、自らの印として愛用し、皇室の菊紋章の起源となったと解説している。

続いて室町時代になると、日本の花卉園芸は大転換期をむかえ、日本独自の創造的分野をひらき、「室町ルネッサンス」と中尾氏は称している。
(中尾佐助『花と木の文化史』岩波新書、1986年[1991年版]、108頁~112頁)


シキミについて


中尾氏はシキミについて、次のように述べている。
「特定の植物が宗教、信仰、儀礼などに結合する例は、世界各地にかなり普遍的にみられる。クリスマス・ツリーとモミの木、ヤドリギ、セイヨウヒイラギは西ヨーロッパで強く結びついている。日本ではサカキは神道に結びつき、シキミは仏教に結びついている。日本では常緑の照葉樹(マツのときもある)の枝が儀礼に用いられ、古代のサカキは多種の木が使われたが、その中のシキミは平安朝の頃から、どうしたわけか仏事専用になってしまった。」
(中尾佐助『花と木の文化史』岩波新書、1986年[1991年版]、119頁)

植物が宗教と結びつくことは普遍的にみられるが、日本ではサカキは神道に結びつき、シキミは仏教に結びついている。そのシキミは平安朝の頃から、仏事専用になったようだ。

ちなみに、インドの代表的花はアソッカである。次のように記している。
「たしかな花として、ベーダ、ラーマーヤナ時代から知られるものとしては、第一にアソッカ(仏教の無憂樹、マメ科、小高木)であろう。釈迦はこの木の花の下で生まれたことになっている。また仏教史、インド史に登場するアショカ大王の名はこの花の名をとっている。花は黄赤色で集合花となり美しく、仏教とともに東南アジアに伝播している。日本の花の代表がサクラとすれば、インドの花の代表は歴史的重要性からみても、アソッカといっていい。」
(中尾佐助『花と木の文化史』岩波新書、1986年[1991年版]、55頁)




【むすび】


植物と人について、次のような名言がある。
「一年の計は穀を樹(う)うるに如くは莫く、十年の計は木を樹うるに如くは莫く、終身の計は人を樹うるに如くは莫し」
(大島晃編『中国名言名句辞典』三省堂、1998年、25頁)
意味は、「一年の計画であれば、穀物を植えて育てるのがよく、十年の計画であれば、木を植えて育てるのがよく、一生の計画であれば人物を育てる以上のことはない」ということである。
また「一樹に一たび獲する者は穀なり。一樹に十たび獲する者は木なり。一樹に百たび獲する者は人なり」ともいわれる。
穀物や樹木では一生の収穫は望めないが、今回植えた仏花を大切に育ててゆきたい。先祖供養のためにも。









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