歴史だより

東洋と西洋の歴史についてのエッセイ

≪死活格言集~坂田栄男『囲碁名言集』≫

2021-10-31 17:00:24 | 囲碁の話
≪死活格言集~坂田栄男『囲碁名言集』≫
(2021年10月31日投稿)
 カテゴリ  :囲碁の話
 ハッシュタグ:#坂田栄男 #囲碁の格言 #死活 #ハネ #コウ #一合マス #眼あり眼なし





【はじめに】


最近のブログでは、坂田栄男『囲碁名言集』(有紀書房、1988年[1992年版])の内容を紹介してきた。 
 今回は、その目次の最後にある「付 死活格言集」の内容を紹介してみたい。
 坂田栄男氏は、死活に関連する代表的な格言を10個取り上げている。
 そのうちのいくつかを紹介してみる。
 たとえば、「死はハネにあり」「一合マスはコウと知れ」「ハネ一本が物をいう」「眼あり眼なしはカラの攻合い」などである。



【坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房はこちらから】

囲碁名言集




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はじめに
・死はハネにあり
・一合マスはコウと知れ
・ハネ一本が物をいう
・眼あり眼なしはカラの攻合い
・攻合いのコウは最後に取れ
・両バネ利けば一手ノビ






死はハネにあり


碁の格言は数十もあって、それぞれ有益なヒントを与えてくれる。
その中から、死活と攻合いに関するもっとも実戦的なものを、坂田栄男氏は十句だけ選んで解説している。
その十句の中から、いくつかを紹介しておく。

相手の石を殺す場合、次の二つが基本となる。
①外からハネる手
②中へ置く手

ハネは相手の石のフトコロをせばめ、活きる範囲を小さくする意味で、きわめて有効な筋である。

【1図:ハネて死】
≪棋譜≫(242頁の1図)
棋譜再生
・黒1とハネて、白は簡単に死に。
(黒1はイ(19, 八)でも同じ)

【2図:失敗~置き】
≪棋譜≫(242頁の2図)
棋譜再生
・中に黒1と置くと、白2と受けられ、活かしてやるお手つだいになる。

〇まず、「ハネ」てフトコロをせばめ、次に急所に「置いて」眼形を奪う。
この例はよくある。

【3図:ハネて置く】
≪棋譜≫(243頁の3図)
棋譜再生
・これも黒1とハネる。
・白2と受けさせてから、3と置く。
※ハネて受けさせると、眼形の急所がはっきりすることが多い。

【4図:失敗~ハネずに置く】
≪棋譜≫(243頁の4図)
棋譜再生
・ハネずに黒1の置きを先にすると、白2と受けられて取れない。
※今からハネてみても手遅れだし、1の左に打欠いても、取られて半眼(後手一眼)が二つでき、失敗。

【5図:冷静にハネたい形】
≪棋譜≫(243頁の5図)
棋譜再生
・中にツケたり切ったりしたい形であるが、そこをぐっとこらえて、冷静に黒1とハネてやる。
・白がイ(18, 六)と受ければ、そこで初めて黒ロ(17, 五)と切り、白ツギのときまた黒ハ(19, 三)とハネてやる。
※ハネて眼を取る手段を「ハネ殺し」という。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、242頁~243頁)

一合マスはコウと知れ


一合マスとはうまく名づけたものである。
昔は、この変化がわかると、初段はあるといわれたようだ。
(今では、アマ三、四段クラスの人でも、本当に知っている人は少ないのではないかという。)
外ダメのぐあい、ハネの有無などで、少しずつ手順は違うけれど、基礎的なものだけでものみこんでおけば、実戦でウロたえずにすむ。

【1図:一合マスの形】
≪棋譜≫(248頁の1図)※スペースの関係上、便宜的に6路盤で表示する
棋譜再生
・この黒の形が「一合マス」
・白は1と置いて攻めてくるが、結果はコウになるのが正解である。
※ただし、同じコウでも、黒の受け方、白の攻め方で得失が生じるから、注意しなくてはならない。

【2図:双方とも正しい手順】
≪棋譜≫(248頁の2図)
棋譜再生
・黒2とツケ、以下10までが、双方とも正しい手順。
※黒がコウに勝てば三子を打ちぬいて活き、白が勝てばコウをツイで、五目ナカデにして黒を屠る。
⇒この手順を、しっかり頭に入れること

【3図:変化図~白が損】
≪棋譜≫(249頁の3図)
棋譜再生
・黒にとっては、2のツケが大切な手。
・ここで白3のハネなら黒4とゆるめ、白5、黒6のコウとなる。
※この形は、コウに負けたときの形が、白は前図より損になるので、黒の歓迎するところ。
※白5で6では黒5で、セキにしかできない。

【4図:黒はダメづまりで死】
≪棋譜≫(249頁の4図)
棋譜再生
・黒2の受けは俗手。
・白3、5と平易に運ばれ、黒はダメづまりで死んでしまう。

【5図:白のハメ手の一種】
≪棋譜≫(249頁の5図)
棋譜再生
・白1と置くのは、ハメ手の一種。
・コウでなくタダ取りにしようというのだが、そうはいかない。
・黒イ(18, 三)などと受けると、白ロ(17, 二)とツケられてハマる。

【6図:黒の手筋】
≪棋譜≫(249頁の6図)
棋譜再生
・黒は2とサガリ、白3のツケに4と置くのが手筋。
・白5は絶対、そこで6、8と二子を取らせ、だまって黒10とアテるのが巧妙。
※白はタダ取りのつもりがタダ活きされることになる。
※なお、黒4で5の左は白4で黒死、白5で6は黒5でセキ。

(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、248頁~249頁)

ハネ一本が物をいう


☆盤端にハネが一本利くと、死ぬ石が活きることがある。
死活でも攻め合いでも、ハネはまことに微妙な存在である。利用の仕方によっては、どんな働きをするか知れない。

【辺の一合マスの例】
≪棋譜≫(250頁の1図)
棋譜再生

※これは、「辺の一合マス」と呼ばれる形。
普通では活きがない。
⇒黒1と眼をつくりに出ても、白2でハネ殺しにされる。
 1で2とサガっても白に上方からハネられ、やはり五目ナカデのハネ殺しをまぬがれない。
※しかし、次図のように、もうハネが一本あれば、たちまち息を吹き返し、きれいに活きてしまう。

【ハネ一本で活きの例】
≪棋譜≫(250頁の2図)
棋譜再生

・ハネがあれば黒1と、「ハネのあるほう」から、マガって活きになる。
・白2の打欠きには、黒3と眼を持ち、白4には5とオサエて、白はツグ手がない。
⇒ここにハネの効果が現われる。
※変化として、白2で3は、黒2とツイでセキの活き。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、250頁~251頁)

なお、工藤紀夫『新・早わかり格言小事典 役に立つ囲碁の法則』(日本棋院、1994年[2007年版]、197頁)でも「ハネ一本が生死のカギ」とある。
【『新・早わかり格言小事典 役に立つ囲碁の法則』日本棋院はこちらから】

新 早わかり格言小事典―役に立つ囲碁の法則

眼あり眼なしはカラの攻合い


「カラの攻合い」とは、カラッポ、つまりダメだという意味と、中国古代の名称である唐とをひっかけたのだそうだ。
眼は二つないと活きないが、たとえ一つでも、攻合いでは大きなプラスになる。

【1図:攻合いの例外】
≪棋譜≫(254頁の1図)
棋譜再生
・この攻合い、黒1と外からつめたのでは、白2でセキにしかならない。
※普通、攻合いでは、外ダメからつめるのが原則だけれど、ここでは例外。

【2図:眼をつくれば眼あり眼なし】
≪棋譜≫(254頁の2図)
棋譜再生
・黒1と眼をつくれば、眼あり眼なしで黒勝ち。
※このように内ダメのある攻合いは、「内ダメは眼のある石に占有される」のである。
・黒1と眼を持って、黒のダメは三つ。
・白はダメが四つあっても、内ダメはないのと等しいので、二手しかない理屈になる。
※内ダメのない攻合いでは、眼あり眼なしは関係ない。

【3図:眼を持って勝ち】
≪棋譜≫(255頁の3図)
棋譜再生
・黒1と眼を持って、この攻合いは黒の勝ちである。
※白がダメをつめるには隅のツギに手間がかかり、その間に黒は外ダメをつめて、眼あり眼なしとなる。

【4図:ちょっと難しい問題】
≪棋譜≫(255頁の4図)
棋譜再生
☆黒先でどう打つか? これはちょっと難しい問題。
 イ(18, 一)のサガリでは白ロ(19, 四)で活きがなく、攻合いにも勝てない。
※そこで、黒は「敵の急所はわが急所」という格言を利用し、あわせて眼あり眼なしに導く。

【解答:コスミが手筋~眼あり眼なし】
≪棋譜≫(255頁の5図)

棋譜再生

・敵に打たれて困る点に、黒1とコスむのが手筋。
・白2に3と眼を持てば、白4とハネる一手であるから、あとは黒5とダメをつめる。
これも眼あり眼なしの黒勝ち。
※白2で3の切り、または4のツケでは、黒2とサガって活きてしまう。

(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、254頁~255頁)

攻合いのコウは最後に取れ


「攻合いのコウは最後に取れ」と題して、外ダメからつめる場合の例を掲げている。(「攻合い」の送り仮名はママ。以下同じ)

攻合いはただでさえややっこしいのに、それにコウがついているとなると、さぞ頭の痛いことである。
しかし、原理さえ知っていれば、さして苦しまずにすむようだ。
コウのついた攻合いの原則は、「攻合いのコウは最後に取れ」ということである。あわててコウを取らず、必要になったら、そのときに取るのである。

次のようなテーマ図で考えてみよう。
【攻合いのテーマ図】(黒の手番)
≪棋譜≫(256頁の1図)
棋譜再生
☆白のダメは四つ、黒は三つだから、黒が不利のように見えるが、そうではない。
「攻合いのコウは最後に取る」というコツを知っていれば、かえって黒の有利な攻合いだとわかる。

【正解:外ダメからツメよ】
≪棋譜≫(256頁の2図)
棋譜再生
・コウにはかまわずに、黒は1、3と外ダメをつめる。
・白4で黒はアタリになった。
・必要が生じたら、ここで初めて黒5とコウを取る。
※同時に白がアタリとなり、白はコウをタテなくてはならない。

【失敗:黒があわててコウを取った場合】
≪棋譜≫(257頁の3図)
棋譜再生
・これは黒があわててコウを取った図である。
・白はもちろん1とつめて、あとを順々につめ合うと、結果は前図とまったく逆になることがわかるはずである。
⇒白がコウを取って黒がアタリとなり、黒がコウダテを求めるのである。

※このように、コウを先に取るか最後に取るかでは、重大な差が出る。
 攻合いが大きければ大きいほど、コウの取り番は大きな問題で、勝敗に直結する。
 たった一つのコウ材がないばかりに、無念の涙をのんだという例はいくらでもあるようだ。
 「攻合いのコウは最後に取る」――この原則は、眼のある石の攻合いでもまったく同じである。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、256頁~257頁)

両バネ利けば一手ノビ


ともかく次の図を見てもらおう。
【テーマ図:両バネ利けば一手ノビ】
≪棋譜≫(258頁の1図)
棋譜再生
①上辺に黒が三つ並んでいる。この黒を取るのに、白は何手かかるか。
⇒いうまでもなく三手である(これなら問題ない)

②では次に、右辺の黒は、黒の三子に上下のハネが加わっている。
 黒の三子を取るには、何手かかるか。
⇒よく考えてみると、四手かかることがわかるはず。
※この例から知られるように、ハネが両方に利くと、攻合いの手数が一手ふえるのである。
この理屈をいったのが、「両バネ利けば一手ノビ」という格言である。

③同様に、下辺の黒四子は、白から四手では取られない。
 両バネが利いて一手ノビており、白が取ろうとすると、五手を要する。
 (確かめてほしい)

それでは、この格言を利用した次のような問題を考えてみよう。
【問題:格言「両バネ利けば一手ノビ」の例】(白先)
≪棋譜≫(259頁の2図)
棋譜再生
☆中央の黒三子と、切られている白五子の攻合いである。
 黒は四手、白は三手で、白が一手負けのようだが、この格言を知っていれば、白先ならラクに勝つことができる。

【解答:両バネを利かして手数をのばす】
≪棋譜≫(259頁の3図)
棋譜再生
・白から1、3と「両バネ」が利き、これで白は四手。
・一足お先に5とつめて、簡単に白の勝ちとなる。
※黒がイ(19, 六)とツケても、またはイ(19, 六)の上下に打欠いても、白は相手にならないのが秘訣。
 かまわず敵のダメをつめればいいのである。
 ツイだり取ったりして、つきあっていると、かえって自分の手をちぢめる。
※念のためにいうと、「両バネ一手ノビ」は、眼のない石が二線に三つ以上並んだときに適用される。
 二つしか並んでいない形では、両バネが利いても手数はノビない。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、258頁~259頁)


≪ヨセの練習問題≫

2021-10-29 18:15:22 | 囲碁の話
≪ヨセの練習問題≫
(2021年10月29日投稿)

【はじめに】


前回のブログでは、坂田栄男『囲碁名言集』(有紀書房、1988年[1992年版])の終盤のヨセといったテーマを扱った。
 今回は、ブログの読者の棋力向上をめざして、ヨセに関連した練習問題を掲載したい。
 手元にある次のような著作を参照にした。
〇小林泉美『NHK囲碁シリーズ 小林泉美のやさしい基礎』日本放送出版協会、2000年[2003年版]
〇桑本晋平『新ポケット ヨセ200』日本棋院、2008年[2009年版]
〇片岡聡『これだけできれば囲碁初段』成美堂出版、1993年
〇趙治勲『ヨセの手筋』土屋書店、1990年[1993年版]

あわせて、趙治勲氏が江戸時代の秀和の「ヨセの妙手」を紹介しておられたので、参照にしていただきたい。



【坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房はこちらから】

囲碁名言集




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はじめに
・ヨセに関連した問題~小林泉美氏の著作より
・もったいないアテ~『新ポケット ヨセ200』より
・ヨセ問題~『新ポケット ヨセ200』より
・“イタチの腹ツケ”という手筋にも注意せよ~『新ポケット ヨセ200』より
・ヨセに関連した囲碁格言~片岡聡氏の著作より
・逆ヨセに関連した問題~片岡聡氏の著作より
・サルスベリに関連した問題~片岡聡氏の著作より
・ヨセの順序~趙治勲氏の著作より
・秀和のヨセの妙手~趙治勲氏の著作より






ヨセに関連した問題~小林泉美氏の著作より


小林泉美『NHK囲碁シリーズ 小林泉美のやさしい基礎』(日本放送出版協会、2000年[2003年版])の「5章 ヨセに強くなろう=ヨセ編=」に、ヨセについて述べている。
最後まで打てば、ヨセは必ず出てくる。
ヨセも大切で、上手に打てば、10目や20目はすぐ違ってくる。
実戦では決まったパターンがよく出てくるので、身につけてしまえば必ず勝率はアップする。
ヨセでは先手を取ることも大事であるが、何よりも大きいところから順番に打つことが大切であると、小林泉美氏はいう。
また捨て石を使って、相手の欲張りをとがめること。
(小林泉美『小林泉美のやさしい基礎』日本放送出版協会、2000年[2003年版]、154頁)

【 2 Question】(黒番)<問題のレベル=ふつう(初段を目指すレベル)>
≪棋譜≫(157頁の問題図)
棋譜再生
☆白1とハネたところである。黒の受け方を考えよ。

【正解:ゆるめること】
≪棋譜≫(158頁の正解図)
棋譜再生
・黒1とゆるめる。
・白2で黒3とオサえてアタリにできる。
・黒5とツグのも忘れずに。

【失敗:オサえると切られる】
≪棋譜≫(158頁の失敗図)
棋譜再生
・黒1とオサえると、白2と切られ困る。
・黒3と取っても、白4と切られ、黒5でコウになってしまう。

【ポイント】~2ヶ所の切りに注意
〇失敗図において、黒1(1, 十七)とオサえると、2ヶ所切り(黒1の右とその斜め右上、つまり白2と白4)があるときは、緩めることも考えよ。
(小林泉美『小林泉美のやさしい基礎』日本放送出版協会、2000年[2003年版]、157頁~158頁)

【 3 Question】(黒番)<問題のレベル=むずかしい(有段者の素質あり)>
≪棋譜≫(159頁の問題図)
棋譜再生
☆前図2 Questionと似ているが、違いがわかればしめたもの。
【正解:オサエて可】
≪棋譜≫(160頁の正解図)
棋譜再生
・黒1とオサえていい。
・黒3のツギは省けない。

【参考:オサエに切ってきたら】
≪棋譜≫(160頁の参考図)
棋譜再生
☆黒1のオサエに白が2と切ってきたら、どうなるか?
・黒は3と抜けばいい。取ると白(2, 十五)がアタリになっている。
・白は4とツギ。黒も5とツゲば、何事もない。
(小林泉美『小林泉美のやさしい基礎』日本放送出版協会、2000年[2003年版]、159頁~160頁)

【 4 Question】(黒番)<問題のレベル=かんたん(初級レベル)>
≪棋譜≫(161頁の問題図)
棋譜再生
☆黒はオサえられるか。それとも緩めるか。(先のポイントがヒント)

【正解:オサエて可】
≪棋譜≫(162頁の正解図)
棋譜再生
・黒1はオサえて大丈夫。

【参考:オサエに切ってきても抜く】
≪棋譜≫(162頁の参考図)
棋譜再生
・黒1のオサエに白2と切ってきても、黒は3と抜く。
※白はa(3, 十六)に入れないので、手が出ない。

【ポイント】~切りが1つしかない
≪棋譜≫(162頁のポイント図)
棋譜再生
☆黒1とオサえたとき、a(2, 十七)には切りがあるが、b(3, 十六)には切りがない。
⇒切りが1つなので、オサえていい。
(小林泉美『小林泉美のやさしい基礎』日本放送出版協会、2000年[2003年版]、161頁~162頁)

【 5 Question】(黒番)<問題のレベル=ふつう>
≪棋譜≫(163頁の問題図)
棋譜再生
☆白の形をよく見ること。オサえて大丈夫だろうか?

【正解:緩める】
≪棋譜≫(164頁の正解図)
棋譜再生
・黒1と緩めなくてはいけない。
・黒5までになる。

【失敗1:切られてコウ】
≪棋譜≫(164頁の失敗図1)
棋譜再生
・黒1とオサえると、白2と切られる。
・黒3と取ってコウになって失敗。

【失敗2:逃げても取られる】
≪棋譜≫(164頁の失敗図2)
棋譜再生
・黒1と逃げても向かう先は盤の隅。
・白6まで取られてしまう。
(小林泉美『小林泉美のやさしい基礎』日本放送出版協会、2000年[2003年版]、163頁~164頁

【 6 Question】(黒番)<問題のレベル=ふつう>
≪棋譜≫(165頁の問題図)
棋譜再生
☆黒の受け方が問題であるが、黒の間違えたときの白も難しいかもしれないという。

【正解:緩めるところ】
≪棋譜≫(166頁の正解図)
棋譜再生
・黒は1と緩めるところ。
・1回緩めたら、黒3とオサえる。
・黒5ツギまでとなる。

【変化:切ってきても抜けばよい】
≪棋譜≫(166頁の変化図)
棋譜再生
・正解図白4で、白1と切ってきても、黒2と抜けば、何でもない。

【失敗1:オサえると切れらて逃げられない】
≪棋譜≫(167頁の失敗図1)
棋譜再生
・黒1とオサえると、白2と切られる。
・黒3と取っても、白4と切られてだめ。
・白6まで黒は取られてしまう。
※隅に向かうので、黒が逃げられない。

【失敗2:ツイでも取られて荒らされる】
≪棋譜≫(168頁の失敗図2)
棋譜再生
・切った白石(2, 十五)に、黒1とツイでも、白2と取られてしまう。
・抜かれて、黒地は荒れてしまう。

【ポイント】~断点を数えてみること
≪棋譜≫(168頁のポイント図)
棋譜再生
※黒1とオサえたときの黒の断点を数えてみること
⇒断点が2つある。 a(2, 十五、つまり黒1の右)、b(3, 十五、つまりaの右)
 オサえてはいけない形
(小林泉美『小林泉美のやさしい基礎』日本放送出版協会、2000年[2003年版]、165頁~168頁)


【小林泉美『小林泉美のやさしい基礎』日本放送出版協会はこちらから】

小林泉美のやさしい基礎 (NHK囲碁シリーズ)




もったいないアテ~『新ポケット ヨセ200』より


坂田栄男九段は、中盤において「アテるな切るな」と警告していた。
このことは、終盤のヨセにも気をつけておかなければならない。
たとえば、桑本晋平『新ポケット ヨセ200』(日本棋院、2008年[2009年版])において、「俗筋④もったいないアテ」と題して、次のような局面を紹介している。

【1図:アテてしまうのは、もったいない】
≪棋譜≫(140頁)
棋譜再生
☆黒1とアテてしまうのは、もったいない。
・この後は、白a(16, 一)から、黒b(15, 二)、白c(15, 一)、黒d(14, 一)、白e(17, 一)、黒f(14, 二)までが白の権利。

【2図:シャレた筋】
≪棋譜≫(140頁)
棋譜再生
〇黒1というシャレた筋がある。
・白2なら黒先手である。
・白が手抜きなら、黒2のサガリが残る。
(桑本晋平『新ポケット ヨセ200』日本棋院、2008年[2009年版]、140頁)

同様に、「俗筋⑤余計なアテ」と題して、次のような局面を紹介している。
【1図:アテが余計】
≪棋譜≫(182頁)
棋譜再生
☆白(11, 三)の出に対し、黒1は当然として、黒3のアテが余計だった。
・喜んで白6のツギ。

もし黒3を決めなければ、次のようになる。
【2図:白の全滅コース】
≪棋譜≫(182頁)   白6(黒3の所)
棋譜再生
〇黒1の切りから3とホウリ込む手が残されている。
・白6(14, 一、つまり黒3の所)とツゲば、黒7から全滅コース。
(桑本晋平『新ポケット ヨセ200』日本棋院、2008年[2009年版]、182頁)

ヨセ問題~『新ポケット ヨセ200』より


また、第3章に、問題36(黒番)として、次のようなヨセ問題がある。
【問題36】(黒番)
≪棋譜≫(133頁の問題図)
棋譜再生
☆この白地が十二目に見えるようでは修行が足りない。
 先手で九目に値切るには?

【問題36の解答:ワリコミ】
≪棋譜≫(134頁の正解図)
棋譜再生
・黒1のワリコミを打つには、読みの裏付けが必要。
・白2と受けるのはやむを得ず、黒3、5、7が決まって、白地は九目となる。

【変化:ツケ】
≪棋譜≫(134頁の変化図) 
棋譜再生
・白2の反発には、黒3のツケが用意されている。
・a(14, 三、つまり黒1の右)とb(16, 三)が見合い。
(桑本晋平『新ポケット ヨセ200』日本棋院、2008年[2009年版]、133頁~134頁)

“イタチの腹ツケ”という手筋にも注意せよ~『新ポケット ヨセ200』より


桑本晋平『新ポケット ヨセ200』(日本棋院、2008年[2009年版]、98頁)には、「俗筋③ハサミツケは後手」と題して、次のようなヨセの問題をだしている。

【1図:“イタチの腹ツケ”は後手】
≪棋譜≫(98頁)
棋譜再生
☆黒1のハサミツケは、“イタチの腹ツケ”とも呼ばれるカッコイイ手筋である。
 しかし、黒1から7まで、黒が後手となる。

【2図:ハネが正着】
≪棋譜≫(98頁)
棋譜再生
〇黒1のハネが正着。
・白6まで黒が先手。
※1図の黒1はこの場合、俗手であった。

(桑本晋平『新ポケット ヨセ200』日本棋院、2008年[2009年版]、98頁)

【『新ポケット ヨセ200』日本棋院はこちらから】

終盤の底力!新ポケットヨセ200



ヨセに関連した囲碁格言~片岡聡氏の著作より


片岡聡氏は、ヨセに関連した囲碁格言として、次の4つを紹介している。
①サルスベリ9目
②二線のコスミ先手6目
③両先手逃すべからず
④地中に手にあり

それぞれ、次のような棋譜をあげて、説明している。
①サルスベリ9目
【サルスベリ9目】
≪棋譜≫(414頁のA図)
棋譜再生
・この黒1のサルスベリは先手、9目の大きなヨセになる。

②二線のコスミ先手6目
【二線のコスミ先手6目】
≪棋譜≫(414頁のB図)
棋譜再生
・黒1以下白6までは白1の場合の出入りで先手6目である。

③両先手逃すべからず
【両先手逃すべからず】
≪棋譜≫(414頁のC図)
棋譜再生
・黒1とハネるか白3とハネるかでは、4目の差がある。

④地中に手にあり
【地中に手にあり】
≪棋譜≫(414頁のD図)

棋譜再生

・黒1で手。黒3で地を荒らした。
※白2で白a(1, 十五)と取れない。
(片岡聡『これだけできれば囲碁初段』成美堂出版、1993年、414頁)

逆ヨセに関連した問題~片岡聡氏の著作より


「3終盤(ヨセ)」の「ヨセの手筋」(第1問~第20問)、「第11問 2目得の決め方」に、次のような問題がある。

【第11問 2目得の決め方】[黒先]
≪棋譜≫(377頁の問題図)
棋譜再生
<ヒント>
☆これはよくあるヨセの手筋である。
 白にハネツがれる前に、なんとか損をしないようにしたい。

【正解図:早いもの勝ちで決める】
≪棋譜≫(378頁の正解図)
棋譜再生
・黒1から5と決めるのが、じょうずなヨセ方。
※放置して白5ハネから黒a(3, 十九)、白4、黒b(3, 十八)となる図よりも、2目の得である。

【失敗図:後手1目】
≪棋譜≫(378頁の失敗図)
棋譜再生
・普通に黒1、3とハネれば、上図よりも白地は1目減っている。
⇒これでは黒後手1目のいわゆる逆ヨセである。
(片岡聡『これだけできれば囲碁初段』成美堂出版、1993年、377頁~378頁)

サルスベリに関連した問題~片岡聡氏の著作より


「3終盤(ヨセ)」の「ヨセの手筋」(第1問~第20問)、「第17問 サルスベリ対策」に、次のような問題がある。

【第17問 サルスベリ対策】[黒先]
≪棋譜≫(389頁の問題図)
棋譜再生
<ヒント>
☆黒地の広いところに、白が(6, 十九)へサルスベリしてきた。
 こんなときには、黒はどう対応したらよいか?

【正解図:味良く決める~侵入を止める】
≪棋譜≫(390頁の正解図) 白10ツグ(5)
棋譜再生
・こう広いところでは、黒1と応ずるより仕方がない。
・黒3、5が好手順。
・黒11まで白の侵略を止めた。

【失敗図:荒らされる】
≪棋譜≫(390頁の失敗図)
棋譜再生
・黒1とツケるのはかなり危険。
・白2に黒3のとき、白4と反発されて弱る。
・白10までと生きられてしまう。
(片岡聡『これだけできれば囲碁初段』成美堂出版、1993年、389頁~390頁)

【片岡聡『これだけできれば囲碁初段』成美堂出版はこちらから】

これだけできれば囲碁初段―初段・1・2級の問題



ヨセの順序~趙治勲氏の著作より


趙治勲『ヨセの手筋』(土屋書店、1990年[1993年版])の「第3章 実戦のヨセ」の「第2問 ハネツギの順序」として、次のような問題がある。

【第2問】<黒番>
≪棋譜≫(205頁の問題図)
棋譜再生
☆ヨセる場所は、三カ所。
 焦点は上辺と右辺のハネツギである。 
 どちらを先にしても同じかどうか。
 黒番で、その結果を考えよ。

【正解:黒1目勝ち】
≪棋譜≫(206頁の1図)
棋譜再生
※黒1と5、どちらを共にハネツぐかによって結果が違ってくる。
・黒1とこちらのハネツギから決めていく。
・黒5、7に白8、そして黒9が手止まりである。
〇結果は、黒16目、白15目、黒1目勝ちが正解。

【失敗:ハネツギの順序違い】
≪棋譜≫(206頁の2図)
棋譜再生
・黒1、3と、こちらのハネツギを先にするのは失敗。
・黒7のとき、白8とオサえられ、黒1目負けとなる。

【証明:切りは不成立】
≪棋譜≫(206頁の3図)
棋譜再生
・前図のあと、黒1の切りは成立しない。
・黒1、3から5としても、白6で、この白はつかまらない。
(趙治勲『ヨセの手筋』土屋書店、1990年[1993年版]、205頁~206頁)

秀和のヨセの妙手~趙治勲氏の著作より


趙治勲『ヨセの手筋』(土屋書店、1990年[1993年版])には、江戸時代の古碁より、ヨセの妙手を紹介している。
その碁譜は、江戸時代(1839年)の本因坊丈和と土屋秀和の対局である。
終盤、秀和にヨセの妙手が出て、先番・3目勝ちした碁である。

【本因坊丈和と土屋秀和の対局:ヨセの妙手】
≪棋譜≫(202頁の「実戦の妙手」)
棋譜再生
・妙手とは、黒1のノゾキから3のコスミである。
・黒3で単に7とサガると、白5のハネツギを先手で打たれてしまう。
・白4に黒5で、白のハネツギを防いだことになる。
※この図を見れば、それほどむずかしい手筋とは思えないでしょうと、趙治勲氏はいう。
 好手といわれるものは、ちょっとした工夫で発見できるものであるようだ。
(趙治勲『ヨセの手筋』土屋書店、1990年[1993年版]、202頁)

【趙治勲『ヨセの手筋』土屋書店はこちらから】

ヨセの手筋―終盤の逆転力をつける (有段者シリーズ)


≪終盤のヨセについて~坂田栄男『囲碁名言集』≫

2021-10-20 18:00:20 | 囲碁の話
≪終盤のヨセについて~坂田栄男『囲碁名言集』≫
(2021年10月20日投稿)
 

【はじめに】


前回に引き続き、坂田栄男『囲碁名言集』(有紀書房、1988年[1992年版])の内容を紹介してみたい。 
 今回は、その終盤のヨセといったテーマを扱う。
ヨセは一局の総仕上げである。序盤で苦心の設計を凝らし、中盤で力いっぱい戦って、その努力を正確なヨセによって結実させる。
「序盤の十目は惜しむな、ヨセの一目は惜しめ」といわれる。
布石は一局の骨格を形成する時期であるから、部分にこだわらず、どんどん大場をめざす。しかし、ヨセはキメのこまかい仕上げの段階であるから、一目、半目もおろそかにしない緻密な神経が要求される。
だからであろうか、アマチュアはヨセが嫌いであり、不得手であることが多い。
 だが、坂田栄男氏は主張している。ヨセの手はちゃんと大きさが計算できるから、大きいところから順に打てばいいので、合理的である。たとえば布石などで、強い人に「こう打つほうがいい」と教えられても、ピンとこないことがあるだろう。それは感覚が違い、力量に大きな差があるからである。
 しかし、ヨセでは、強い人も弱い人も変わりはない。強い人が打っても、弱い人が打っても、十目の手は十目、五目の手は五目である。こう考えてみると、ヨセこそアマチュアにもっとも適した分野ともいえるというのである。
 この言葉を頼りにすると、坂田栄男氏がどのようにヨセについて考えているのか、興味深いことであろう。
 とりわけ、ヨセの順序、先手をとるくふう、逆ヨセといった点に絞って紹介してみることにする。



【坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房はこちらから】

囲碁名言集




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はじめに
・ヨセの順序
・理由のない損をするな
・先手をとるくふう
・逆ヨセをねらえ
・小ヨセの大場






ヨセの順序


「4 終盤編」に次のような名言を坂田栄男九段は載せている。
・ヨセの順序はまず「両先手」、次に「片先手」、最後に「両後手」。先手後手は形によって決まるのではなく、手の大きさによって決まる

ヨセについて、まとめてみる。
ヨセは一局の総仕上げである。
序盤で苦心の設計を凝らし、中盤で力いっぱい戦って、その努力を正確なヨセによって結実させる。
アマチュアはヨセが嫌いであり、不得手であることが多い。
(計算が地味で興味を持てないのも一因であろう)
しかし、みんなが嫌いで、不得手なのだったら、好きで得意になったらどうかと、坂田九段は提案している。
これはすごい戦力になるはずだという。劣勢な碁を、けんめいなヨセでじりじりと追いこみ、やがて抜き去る。地味でしんどい仕事だけれど、そこにはまたいうにいわれぬダイゴ味もあるという。

さて、ヨセの基礎知識の第一は、三つのタイプのヨセがあり、その順序にしたがって打つ、ということである。
①両先手
②片先手
③両後手

①両先手の場合
【1図:両先手のヨセ】
≪棋譜≫(217頁の1図)

棋譜再生

〇これが「両先手」のヨセ
・黒が1、3とハネツゲば白4が省けず、黒の先手である。
・逆に、白が3とハネるのも先手ヨセである。
※どちらが打っても先手だから、「両先手」

②片先手の場合
【2図:片先手のヨセ】
≪棋譜≫(217頁の2図)

棋譜再生

・白1、3のハネツギは先手
・しかし、黒が3とハネるのは後手になる。
※これが「片先手」である。
黒としては、白からヨセられることを、覚悟しておかねばならない。

③両後手の場合
【3図:両後手の場合】
≪棋譜≫(217頁の3図)

棋譜再生

※これは「両後手」
 どちらがハネツイでも後手ヨセで、最後の段階で打つヨセである。

これらのうち、両先手はヨセの最高の大場だから、終盤では一番先に打つ。
(しばしば中盤、ときには序盤のうちで打ってしまうことさえある。それほどいそぐ)

ところで、「先手」とは何であろうか?
一般的には、「受けないと損をするという手」、それが先手であるといわれる。
しかし、その損は承知で、あえて受けないこともありうる。同じ先手でも、必然性の強いものとそうでないもの、いいかえれば、利きの強いところと小さいところがある。

たとえば、次のヨセは絶対の先手である。
【4図:絶対の先手】
≪棋譜≫(218頁の4図)

棋譜再生

※この形では、白1以下のヨセは絶対の先手である。
・黒が2、4、6のどの手を省いても、白6と打たれて死ぬからである。

【5図:利きが弱い】
≪棋譜≫(218頁の5図)

棋譜再生

・この白1も先手には違いない。
※しかし、「利きの強さ」という点では、前図よりやや劣る。
 黒はおそらく手をぬかないけれども、絶対に受ける、とは限らない。
・手ぬきして、白イ(18, 三)とトビこまれても、黒ロ(18, 二)、白ハ(19, 二)、黒ニ(16, 一)で、かろうじて活きだけは、あるからである。
 もし受けるより大きい手がほかにあれば、そっちへ向うこともできる。
⇒それだけ白1の利きが弱いわけである。

※先手といい後手といっても、それは形だけでは決まらない。
 ことに先手は、その手の価値の大きさによって決まる。
 4図と5図と、白1と打つ「形」はおなじでも、価値には違いがある。
⇒4図のほうが大きく、5図のほうが小さい。 
 だから、おなじ局面にこの二つの形があるとしたら、白はまず4図を打ち、それから5図に向うのが正しい順序になる。



出入り計算


次に、ヨセの手の大きさはどうやって計算するかについて、記しておこう。
ヨセはどんな手でも、かならず「何目」と計算できるのが特徴である。そして計算方法は「出入り計算」が用いられるのが普通である。

出入り計算をするためには、おなじ形を黒が打った場合、白が打った場合、それぞれの正しいヨセの手順を想定し、その得失を比べて数値を出すのである。

【6図:出入り計算~黒からヨセる場合と白からヨセる場合】
≪棋譜≫(219頁の6図)

棋譜再生

・この形では、黒からヨセるには、1、3とハネツグほかない。
⇒この結果、黒地は七目、白地は三目。
・一方、白からヨセるには、白3、黒イ(17, 一、つまり3の右)、白1と、やなりハネツギ。
⇒結果は、黒地六目、白地四目となる。
☆二つの結果を比べると、それぞれ一目ずつ地の増減があるから、出入りでは二目ということになる。
※黒1、3は「後手二目」と表現する。



やさしいヨセ計算を練習してみよう。
【7図:出入り計算~得失に関するところが四つある】
≪棋譜≫(220頁の7図)

棋譜再生

☆得失に関するところが四つある。
 イ(15, 一)、ロ(15, 三)、ハ(15, 五)、ニ(15, 七)
 これらはそれぞれ何目のヨセだろうか?
 白から打ったとき、黒から打ったときの結果を比較して、出入り何目になるか計算せよ。

【8図:出入り計算】
≪棋譜≫(220頁の8図)

棋譜再生

〇白1は一目の手。
黒1と打てば一目できるが、白1でゼロとなるから、出入り一目である。
〇黒は三目。
 黒2で二目の黒地ができ(取り石は倍にしてかぞえる)、白地がゼロになる。逆に、白2と打つと白に一目でき、黒地はゼロになる。出入り三目。
〇白3は四目の手。(説明不要)
〇黒4の三子取りは、ちょっとややこしい。
 黒4、6と取って、六目の地、白地は一目。逆に白4とツグと黒はゼロになり、白地は九目。
⇒白から打つと黒地が六目減り、白地が八目ふえるわけで、差引き十四目というのが正しい計算。

以上のように、ヨセの手はちゃんと大きさが計算できるから、大きいところから順に打てばいいので、合理的である。
たとえば布石などで、強い人に「こう打つほうがいい」と教えられても、ピンとこないことがあるだろう。それは感覚が違い、力量に大きな差があるからである。
しかし、ヨセでは、強い人も弱い人も変りはない。強い人が打っても、弱い人が打っても、十目の手は十目、五目の手は五目である。
こう考えてみると、ヨセこそアマチュアにもっとも適した分野ともいえる。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、216頁~221頁)



ヨセの計算がどのようにして行なわれ、いかに正確な数値が出るものか、実戦的な例でみてみよう。
【9図】
≪棋譜≫(221頁の9図)

棋譜再生

☆白1から5までと一子を取る手は、次に白イ(19, 五)、黒ロ(19, 六)、白ハ(19, 四)、黒ニ(18, 六)の先手ヨセまで計算を含めて、二十二目の手である。

【10図】
≪棋譜≫(221頁の10図)

棋譜再生

・白イ(13, 九)と取るのは、あきらかに二十二目の手。
・したがって、白がイと十一子取るのも、ロ(17, 四)と一子を切り取るのも、価値が等しくなければならない。

☆盤面をこの部分だけに限って、結果がどうなるかを実験してみよう。
【11図】
≪棋譜≫(222頁の11図)

棋譜再生

・先に白1と切るほうから。
・黒は2、4と決めて、6とツギ。
・続いて白が7、9とハネツギ、黒10までとなって終局する。
※この結果、黒地十七目、白地十八目、白が一目勝ち。

【12図】
≪棋譜≫(222頁の12図)

棋譜再生

・次に白1と取るほう。
・黒は2とオサエ、以下6までで終局する。
※白地の三十目に対し黒地は二十九目と、白の一目勝ちに変りはない。
⇒したがって、前図の白1も本図の白1も、大きさはおなじという結論になる。
(10図を黒から打つということになると、話は違ってくる。黒は10図ではイ(13, 九)とツグほうが大きい。またヨセのテクニックからいえば、11図の白5では、6と取るほうが優る。11図と12図は、あくまでも「計算」のための模型図である)
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、216頁~222頁)

理由のない損をするな


「序盤の十目は惜しむな、ヨセの一目は惜しめ」といわれる。
布石は一局の骨格を形成する時期であるから、部分にこだわらず、どんどん大場をめざす。しかし、ヨセはキメのこまかい仕上げの段階であるから、一目、半目もおろそかにしない緻密な神経が要求される。
ベニスの商人顔負けのドン欲さで、わずかな利害にも目を光らせなくてはいけないと、坂田栄男氏は強調している。

たとえば、次のような例をあげている。
【1図】
≪棋譜≫(223頁の1図)

棋譜再生

・白1と打たれて、アジが悪い。
・「まあ用心しておけ」と黒2とつなぐ。
※こういう荒っぽい神経では、とても総仕上げはできない。
 すこし考えれば、ここにはなんの手段もなく、手入れなど不要なことがわかる。
⇒黒2はあきらかに一目の損をした上、貴重な先手を白に提供し、二重のマイナスになっている。
 こんな「理由のない損」を続けていけば、いくらいい碁でも、しまいにはひっくり返されるだろう。序盤、中盤の苦労をフイにしないためにも、ヨセではこまかい神経を働かせたい。

理由のない損を、どうしてするのだろうか?
「理由のない損をする理由」を考えてみると、「まあいいや」というズサンな神経のほかに、ヨミの不足ということがいえると、坂田氏はいう。

力がなくてヨメないのか、めんどうだからヨマないのか。もし後者だったら、これは論外であるが、前者の場合、「損をすまい」「儲けてやろう」と、いつでも神経をピリピリさせていれば、失点はかなりくい止めることができるようだ。



さて、次のような形で、白からどうヨセるか?
取られた三子を利用して、どんな手順でヨセたらいいか?
正確に運ぶのとそうでないのとでは、すぐに一、二目の違いが出てくる。

【2図:白からどうヨセるか?】
≪棋譜≫(224頁の2図)

棋譜再生


【3図:拙劣な打ち方】
≪棋譜≫(224頁の3図)

棋譜再生

・白1とつめて、黒2、そして白3、黒4まで、としたらどうか。
☆この手順を見て、あなたはどう感じるか?
⇒この3図は、白も黒も、拙劣な打ち方である。
(もしこれを見てなんにも感じないようだと、ヨセ神経失調症だという)
つまり、白1は理由のない損をしようとする悪手である。そして、黒2はその非をトガめず、はっきり理由のない損をした悪手である。

それでは、どう打てばよかったか?
【4図:結果はおなじでも、内容には大きな差がある】
≪棋譜≫(225頁の4図)

棋譜再生

・白は1と、ここにツケなくてはならない。
・これなら、黒も2と受けるよりなく、白3、黒4となる。
※黒2で、イ(13, 一、つまり白1の左)は白ロ(15, 一、つまり白1の右)でつぶれである。

黒2で、ロ(15, 一)とオサエるのも白イ(13, 一)と引かれ、得失には関しない。
4図は結果において、3図とおなじになったが、その内容には大きな差がある。

【5図:黒のコスむ手筋】
≪棋譜≫(225頁の5図)

棋譜再生

・白が平易に1とつめたときは、黒には2とコスむ手筋があった。
・白3には4と受けて、三子はこのままで取れている。
※二つのダメがそのまま黒地となり、前図よりあきらかに二目トクである。
 白は前図のようにツケるのが正しく、黒2があることを知っていると、前図の1という着想が生まれてくるという。
まんぜんと3図のような打ち方をしていたのでは、おもしろみもわからず、上達もしないと、注意を促している。



おなじような例を、もう一つあげている。
白からどうヨセて、黒地は何目になるか、という問題である。
ヒントをいうと、黒地は十二目になるのが正しいそうだ。
やってみて、そうならなかったとしたら、あなたはどこかで、理由のない損をしているという。

【6図:問題図】
≪棋譜≫(226頁の6図)

棋譜再生


【7図:白のハネ出し】
≪棋譜≫(226頁の7図)

棋譜再生

・白1とハネ出し、これを捨て石にする考え方は、たいへんいい。
・しかし、黒2と切られたあと、白3とアテてしまってはいけない。
・次いで黒8までとなる。

※しかし、3の一子がツグことができず、黒地は十四目になっている。
 これは白3のアテが、理由のない損をしたからである。

【8図:白3と置くのが手筋】
≪棋譜≫(226頁の8図)

棋譜再生

・白1、黒2、そこで白3と置くのが手筋。
・黒4のツギが余儀ないのは、容易にたしかめられるはずである。
・これなら一本道で黒8まで。

※前図とは二目の差ができて、黒地は十二目に減ってしまった。
※なお、1で5とハネるのは、黒3と眼を持たれてつまらない。
また、はじめ白2、黒1と打ってしまうのは、一番の俗筋である。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、223頁~227頁)

先手をとるくふう


つまるところ、ヨセは先手の争いである。
先手の意味を拡大して、先手すなわち主導権という解釈すれば、序盤から終盤に至るまで、碁はすべて先手をめぐる争いだということができるらしい。
とくにヨセの段階では、打つ個所がある程度限定されてきており、その限られた点を一つでも多く打とうとすると、先手がなににもまして貴重なものとなってくる。
後手で五のところを一つ打つよりも、先手で二のところを三つ打ち、きわどくプラス一を得るといった技術が要求されるという。
なんとかして先手をとるように、細心の注意をはらわなくてはならない。

たとえば、次のような形でのヨセを考えてみよう。
【1図:ハネツギで先手】
≪棋譜≫(227頁の1図)

棋譜再生

・この形では、黒1、3のハネツギは、まず問題のない先手である。
・次に2の左を切られてはかなわないから、白は4と受けてくれる。
⇒こんなときは問題ない。

【2図:ハネツギが後手に】
≪棋譜≫(228頁の2図)

棋譜再生

・前図と違って、この形ではそうはいかない。
・黒が1、3とハネツぐのは、完全な後手。
・後手とはいっても、白に3とハネられ、黒イ(18, 七)、白1となると、あとは白ロ(18, 八)のハサミツケが残って、黒地はだいぶ減ってくる。
※それを思えば、大きい手で、後手でも打っておく値打ちはあるが、もしここを先手に打つことができれば、それにこしたことはない。
⇒そこで、黒は先手をとるくふうをする。

【3図:先手をとるくふう~ハネずにサガリ】
≪棋譜≫(228頁の3図)

棋譜再生

・ハネずに黒1とサガリを打つ。
・白に2と受けさせ、それから3、5とハネツギ。
・これなら白6のツギが省けず、黒は先手にきりあげることができた。
※2図に比べると、白地は変らず、黒地が一目すくないだけである。
 たった一目のことで先手がとれるなら、いうことはないだろう。

ところが、である。白としても、黒のいいなりになってはいられない。
黒の注文の裏をかいて、先手をとるくふうをする。
3図の白2は、絶対でない。
【4図:白の受ける筋】
≪棋譜≫(229頁の4図)

棋譜再生

・黒1のサガリに、白2と受ける筋がある。
・黒が3、5とくれば、白は手ぬきして先手をとる。
※だから、黒5はおそらく打たず、黒は他に転じるだろうが、それなら白から5とハウ手が、先手ヨセとして残される。
⇒わずかなことだけれども、このへんがヨセのおもしろさであるそうだ。
(こまかい神経の比べっこというゆえんである)
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、227頁~229頁)

逆ヨセをねらえ


一方が打てば先手だが、他方からは後手になる。そんなところを片先手と呼んだ。その片先手を、後手から打ってやるのが、「逆ヨセ」である。

【1図:黒のサガリが逆ヨセ】
≪棋譜≫(233頁の1図)

棋譜再生

・黒1のサガリが逆ヨセの一例。
・ここは白からは、いつでもハネツギが先手に打てるが、それを黒1と後手でサガってやる。
※現実にも大きい上に、相手に「しまった」と思わせる、心理的な効果もある。
⇒やがて黒は1の左に出、白オサエとなるのだから、白にハネツギを打たれた場合に比べると、黒地が二目ふえ、白地が一目減っている。
⇒黒1は「三目の逆ヨセ」である。普通の後手三目の手よりもずっと優っている。
※なんとかチャンスをつかんで、逆ヨセを打つよう心がけよう。
・白2も逆ヨセであるが、わずか一目、これは小さい手である。



さて、次の図の黒のサガリも、かなり大きい逆ヨセである。
チャンスがあれば、早期に打つ必要がある。
何目の手か計算してみよう。
【2図:黒1のサガリ】
≪棋譜≫(234頁の2図)

棋譜再生

☆黒1のサガリも大きい逆ヨセであるが、何目か?

【3図:白から打った場合】
≪棋譜≫(234頁の3図)

棋譜再生

・白から打つには1のハネ。
・黒2から6まで、たしかに白の先手である。
・黒地は十五目。白地は、白(17, 十一)からサガリを入れた線の中側だけかぞえて十二目ある。

【4図:黒がサガリの逆ヨセを打った場合】
≪棋譜≫(234頁の4図)

棋譜再生

・黒がサガリの逆ヨセを打つと、次に1とツケる手筋が生じている。
・むろん白3は打てず、白2、4の受けとなって、黒地は十九目、白地は九目。
※前図より、黒地は四目増、白地は三目減。
 2図の1は「七目の逆ヨセ」となる。
※白としては、こんな逆ヨセを食ってはたまらないから、せめて3図の1、2だけでも決めておくべきである。
(あまり早く3、5まで打つと、黒6は手ぬきされるかもしれない)



また、逆ヨセを、しかも先手で打とうという、高度のテクニックもあるという。
【5図:白から打った場合】
≪棋譜≫(235頁の5図)

棋譜再生

・白が「二十二目の切り取り」を打った形で、1、3のハネツギは、いつでも先手で打てると考えていい。
※しかし、安心してあまり打たずにいると、黒に逆ヨセを喫する。

【6図:逆ヨセの黒のサガリ】
≪棋譜≫(235頁の6図)

棋譜再生

・黒1のサガリが逆ヨセ。
※これは単に白のハネツギを封じたばかりでなく、次に黒イ(18, 二)、白ロ(17, 二)、黒ハ(19, 三)の手段を見ている。
・それを嫌って、白が2と受ければ、黒は先手で逆ヨセを打てたことになり、こんなうまい話はない。だから、おそらく白2は手ぬきするだろう。
・そして黒イ(18, 二)以下を打ってきたら、また先手をとって他に向う。
・黒は1の手が後手、黒イ(18, 二)、白ロ(17, 二)、黒ハ(19, 三)でまた後手。
※いかに大きい手でも、こう後手ばかりではおもしろくない。
 なにか先手をとれる方法はないかと考える。

【7図:マクリという手筋】
≪棋譜≫(236頁の7図)

棋譜再生

・サガリを打たず、黒1のマクリから行くのが手筋である。
・白2と取らせ、3、5と決める。
・白6のぬきまで、黒の先手。
※この結果、黒は6図の1に白2と受けさせたのと、まったくおなじ理屈で、しかも一目の損もしていない。
※7図の一連の手順は、逆ヨセであると同時に、先手をとるくふうにもなっている。
(考えてみると、思いがけぬ手があるものである)
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、233頁~236頁)

小ヨセの大場


「小ヨセでは、二線のハネツギ、切り取りをいそげ。最低でも六目の手になる」について
説明しておこう。
大ヨセは中盤のあとしまつの意味があり、着手の範囲もひろいので、苦心が必要であるようだ。
(ときによると、大ヨセのいざこざから、また中盤へ逆戻り、ということもあるほどだという)
大ヨセが終って小ヨセに入ると、焦点は第二線に移る。
めぼしい大場がなくなったら、二線のハネツギか、切り取りか、これを打っておくのがよく、間違いもない。
最低でも六目、大きいときは十数目にもなるから。

【1図:黒からハネツグ場合】
≪棋譜≫(237頁の1図)

棋譜再生

・黒から1、3とハネツグと、
⇒白イ(19, 五)、黒ロ(19, 六)と見て、白地十二目、黒地七目。

【2図:白からハネツグ場合】
≪棋譜≫(237頁の2図)

棋譜再生

・おなじ形を白から1、3とハネツグと、
⇒黒イ(19, 八)、白ロ(19, 七)と見て、黒地四目、白地十五目。
※それぞれ三目ずつの増減があるから、六目の手である。
 これが二線のハネツギの一番小さいものである。
 ハネツイだあとの状態によっては、もっと大きい場合がいくらもある。

【3図:第二線の配石が少し違った場合】
≪棋譜≫(237頁の3図)

棋譜再生

・黒イ(19, 七)と取るか、白ロ(19, 六)と取るか、どちらも六目の手。
※切り取りとハネツギと両方あって、価値が等しいというときは、切り取りを選ぶ。そのほうが“厚い”。



もっと大きいハネツギの例もあげている。
【4図:黒からのハネツギ】
≪棋譜≫(238頁の4図)

棋譜再生

☆黒1、3のハネツギは何目だろうか?
・すこしヨセに関心を持ち、着手を計算する習慣がついてくると、「ざっと十目」ということが、直感でピンとくるようになるそうだ。
・このあと、黒イ(19, 三)、白ロ(19, 二)、黒ハ(19, 四)、白ニ(18, 二)まで、先手二目のヨセが約束されている。

【5図:白からのハネツギ】
≪棋譜≫(238頁の5図)

棋譜再生

☆おなじ形を白が1、3とハネツギ。
・このあと、白イ(19, 六)、黒ロ(19, 七)、白ハ(19, 五)、黒ニ(18, 七)の先手二目は、白の権利である。

そこで、4図、5図を比較してみよう。
5図は、4図より白の地が五目ふえ、黒の地が五目減っていることがわかる。
したがって、どちらのハネツギも、ちょうど十目の手ということになる。
(なお、もし白にコウ材が多ければ、5図の3では一路右にカケツグこともできる。
 すると、あとの白イ(19, 六)のハネに、黒はニ(18, 七)とゆるめなければならず、白はロ(19, 七)のハイまで先手に打てる。黒地はさらに二目減って、このヨセは十二目につくことになる)



そして、次図になると、もっと価値は増大する。
【6図:実戦でもよく見られる手順】
≪棋譜≫(239頁の6図)

棋譜再生

・黒1から7まで、実戦でもよく見られる手順である。

【7図:白からのハネツギ】
≪棋譜≫(239頁の7図)

棋譜再生

・ここを白が1、3とハネツグと、あとに白イ(19, 五)、黒ロ(18, 六)から、白ハ(19, 六)、黒ニ(19, 七)、白ホ(19, 四)、黒ヘ(18, 七)まで、先手四目のヨセが残る。

そうなった場合の7図を、6図と比べると、白地が六目ふえ、黒地が七目減ることがわかる。
したがって、6図も7図も、後手十三目のヨセと計算される。

このように、ハネツギの意外な大きさがわかる。
相手の石を五個取るより、6図または7図のほうが三目もトクなのである。
なお、7図で、白3のあと、黒がイ(19, 五)とサガって受けるのは、白が先手でヨセを打ったことになり、おのずから問題が別である。



最後に、次のような問題を出している。
【8図:黒1とサガる手】
≪棋譜≫(239頁の8図)

棋譜再生

・黒1とサガる手。
☆第一感で、これは何目につくと思うか?

【9図:黒が大ザルにスベリ】
≪棋譜≫(240頁の9図)

棋譜再生

※黒のサガリに白が受けるのは、どう打っても白が利かされであるから、手ぬきするのが普通である。
・したがって、黒1と大ザルにスベリ、白8までの先手ヨセは、黒の権利と見なければならない。

【10図:白からのハネツギ】
≪棋譜≫(240頁の10図)

棋譜再生

・逆に白が打つには、1、3のハネツギ。
※これも黒イ(17, 二)と受けるのは後手であるから、黒はたいてい手ぬきする。

そして、白の先手ヨセが残る。
【11図:白の先手ヨセ】
≪棋譜≫(240頁の11図)

棋譜再生

・あとに、白1、3の先手ヨセが残る。
(黒2で3は、白4と切られていけない)

さて、このヨセの計算であるが、黒から打った場合の9図、白から打ったときの11図を比較する。
11図は、いずれ黒イ(18, 一)、白ロ(19, 二)となるとして、9図より黒地はなんと十目も減っている。
一方、白地は七目もふえている。つまり出入りは十七目。
8図で黒1とサガるのも、10図で白が1、3とハネツグのも、十七目の手ということになる。
※「めんどうくさい」などといわずに、着手の価値をよく見きわめ、たんねんなヨセを打ちたい。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、236頁~241頁)

≪中盤の攻めと整形~坂田栄男『囲碁名言集』より≫

2021-10-10 17:09:53 | 囲碁の話
≪中盤の攻めと整形~坂田栄男『囲碁名言集』より≫
(2021年10月10日投稿)

【はじめに】



 前回に引き続き、坂田栄男『囲碁名言集』(有紀書房、1988年[1992年版])の内容を紹介してみたい。 
 今回は、その中編の攻めと整形に関したテーマを扱う。とりわけ、「欠け眼の急所」「攻める石にツケるな」「カラんで攻める」「捨て石の効用」「右を打つには左から打て」といった点に絞って紹介してみることにする。



【坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房はこちらから】

囲碁名言集




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はじめに
・ボウシにケイマ
・欠け眼の急所
・ノゾキあれこれ
・ポンぬきの威力
・格言「攻める石にツケるな」
・カラんで攻める
・一間トビの鼻ツケ
・捨て石の効用
・アテるな切るな
・右を打つには左から打て






ボウシにケイマ


「中盤編」に、「ボウシされたらケイマに受ける。多くの場合、それが正しい“形”である」というのがある。
この項目を説明しておきたい。

ボウシには、主として第三線にある相手の石に、中央からかぶせる手段である。
まれには第四線の石にかぶせることもあるが、それは特殊な局勢の場合である。普通は損な手だから打たれない。
第四線の石には中央からのぞむより、下からモグる手段をねらうほうが効果的なのである。

ボウシは第三線の石にかぶせ、ボウシされた側は、ケイマに受けるのが正しい受けになる。

【1図:白のボウシの意図】
≪棋譜≫(119頁の1図)
棋譜再生
・右辺の黒の構えに対し、白1のボウシは急所の一着。
・黒はバランスのとれた好形であるが、「これ以上は発展させないぞ」というのが、白1のボウシの意図。
※逆に黒から1とトバれた形と比較すれば、1がいかに好点かが知られるはず。

このように、ボウシは相手の模様のひろがりを制限するのが目的であり、同時に中央を制圧するねらいも持っている。
そして、ボウシされた黒のほうは、イ(16, 八)またはロ(16, 十二)と、ケイマに受けて地を固めるのがいい。
ただし、その場合、イとロとどちらを選ぶかは、よく考えて決めなくてはならない。

☆この形、どちらを選ぶか?
【2図:ケイマの正しい受け方】
≪棋譜≫(120頁の2図)
棋譜再生
☆上下どちらのケイマを選ぶかは、背後の自軍の配置によって決まる。

・黒は右上隅が一間ジマリ、対する右下隅は星からの一間トビで、構えにはあきらかに差がある。
・したがって、黒は1と、こちらにケイマして受けるのが着想としては正しい。
・続いて白は2とツケて侵略をはかり、黒3のハネには白4と切ってさばく。
※ボウシから、この2、4とツケ切る筋は、さばきにおける常用の手段である。

・その後、黒5から9まではこうなるところ。
☆抵抗しようとしても、あまりうまくいかない。
⇒たとえば、黒5でイ(16, 十一、つまり白2の左)とアテるのは、白12とノビられてもまずいし、白7とアテ返されてもおもしろくない。
・また黒7で9と打ちぬくのは、白7とアテられて黒4とツグほかなく、次に白12とノビられて、ロ(17, 八、つまり黒1の右)と出られるいやみが残る。

・黒は9までと正確に受け、これでべつにハラも立たない。
 以下白10のカケツギ、黒は11、13という運びになる。

※この結果、白は一応右辺を食い破って目的を達したが、もともと右辺は、そっくり黒地になるわけのものではないし、黒は右上に三十目近い地が固まったことで、十分に満足することができる。
⇒ここに確定地ができたのは、黒1と受けた方向が正しかったからである。

それでは、黒が2図の1と、逆に下のほうに受けたら、どうなるか?
【3図:ケイマの正しくない受け方】
≪棋譜≫(121頁の3図)
棋譜再生
・黒1のケイマを逆に下のほうから受けると、白はやはり2、4とツケ切り、黒9、白10までの運びが容易に想定される。
・次いで黒は11と、右上を守らなくくてはならない。
⇒省いて白イ(17, 四)とノゾかれては、たちまちシマリが浮きあがってしまう。
・そして、ここで後手をとれば、白12と三々に入られるのが目に見えている。
これでは、黒1とケイマした最初の囲いが、囲いの役目をフルに果たさない結果になる。

※ボウシに対するケイマは、地を囲おうという手である。
どうせ囲うからには、減らないほうを囲わなくてはつまらない。
したがって、黒の受けは2図が正しく、3図では囲う効果が小さいわけである。
おなじくケイマでも、方向によって、石の働きに差が生じるから、注意する必要がある。

【4図:ボウシに対するケイマ以外の受け方】
≪棋譜≫(122頁の4図)
棋譜再生
☆ボウシに対しては、ケイマのほかに、本図のような受け方もある。
・黒2、4とツケ引き、白5のツギに6とコスむ。
※これは白に右辺を破らせまい、みんな地にしようという手段で、よくいえばがんばった、悪くいえば欲ばった手である。
ときによると、こんな打ち方も有力であるが、こういうぐあいに態度を一方的に決めると、かえって白から手をつけやすい意味が生じてくるようだ。
⇒むろん白7の三々には入りやすくなるし、右上にしても、白イ(17, 四)のノゾキで侵略の手がかりができる。
・しかも、白5とつないだ形はいかにも手厚く、中央をにらむ一つの勢力となっている。
※こう考えると、本図のようにネチっこく打つよりも、さらっとケイマに受けるほうが、味わいが深いといえる。
なお、ボウシに手ぬきする場合もないではないが、ボウシはバク然としたいわば“虚”であり、ケイマは地をとる“実”なのだから、受けて損な理屈はない。
ボウシにはケイマに、ちゃんと受けておくことを、坂田栄男氏はすすめている。

(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、119頁~123頁)

欠け眼の急所


「中盤編」に、「相手の石を欠け眼にする点は、形をくずす急所。同様に「三子(もく)のまん中」をノゾくのも、急所中の急所である」というのがある。
この項目を説明しておきたい。

プロ棋士はもちろん、アマでもすこし強い人なら、「筋へノゾく」といえば、すぐにピンとくるほどの急所がある。俗に「欠け眼の筋」といわれるのがこれである。
図示すれば、次のようになる。
【1図:欠け眼の筋の例】
≪棋譜≫(133頁の1図)
棋譜再生

・この白の眼形は、黒が1、2と打つことによってつぶれる。
※だから、1と2と、この二つの点が白の形の急所となる。先に1の点に石があれば2の点が、2に石があれば1が、白の形をくずす一撃となる。
※白はその両方を打たれぬよう、あらかじめ守っておかなくてはならない。

もっと具体的な例をあげてみよう。
【2図:欠け眼の筋にノゾキ】
≪棋譜≫(133頁の2図)
棋譜再生

・黒1は、次に切るぞという手である。これもノゾキの一種で、まさしく急所の中の急所である。
⇒この一撃で白は完全に浮きあがる。
・白2のツギなら、黒3とトンで攻めて、白は当分逃げまわることになる。
※もし白から打つなら、やはり1の点に打って形を整備する。白1に一着加わると、これはもう眼形に富んだ弾力のある形となる。次にイ(14, 二)とコスむ筋もあって、ほとんど死活の心配はない。
※このように、欠け眼の筋にノゾくのは、相手の形をくずし、眼形を奪って攻めるという、大きな効果がある。

【欠け眼の筋】
≪棋譜≫(134頁の4図)
棋譜再生


・黒1がきわめつきの急所、欠け眼の筋にあたる。
(こういう形を一見して、ピンと石の感じがここにくるようなら、もうしめたものである)
・白2に3とつなぎ、白4となった形を見ると、黒1が急所をついていることがわかる。
※白2、黒3の交換など、切れるところをわざわざツガせる手で、白は大いにつらい。
(まさか白2で一路左にグズむわけにもいかない)
こういう損な手を白に強要するのも、黒1が急所をついたからこそである。
・黒5とトンでなおも大きく攻め、白は容易にラクのできない形である。
※逆に、白1の点にトンだら、白の形はいっぺんにととのい、ちょっと攻めの糸口がつかめなくなる。
その余裕を与えず、いきなり黒1とおびやかす呼吸をつかんでほしいという。
いわゆる「三子(もく)のまん中」の急所も、意味はまったくおなじことであると付言している。

(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、132頁~135頁)


ノゾキあれこれ


「中盤編」に、「ノゾキは相手にツガせるのが目的。その場合、多くは利かしとなるが、アジ消しの悪手になるものもあり得る。またノゾかれたときは、一応はツガぬ手を考えるのがよい。ノゾキにツガぬ例は意外に多いのである」というのがある。
この項目を説明しておきたい。

ノゾけるところはノゾかなくては損だとばかり、かたっぱしからノゾく人がいる。一方、「ノゾキにツガぬバカはなし」というので、ノゾかれると一考もせずにツグ人がいる。
これはどちらも間違っていると、坂田栄男氏はいう。
ノゾキもツギも、もう少し大切に考える習慣をつける必要がある。

ノゾキは相手にツガせるのが目的であるが、その前にまず、ノゾく必要があるかどうか、それを考えてみなくてはならない。
碁はいつでも、必要のない手は打たぬほうがいいに決まっているからである。必要があればノゾくが、次には相手のツギが絶対かどうか、それを検討する。
ノゾいても敵に反発の手段があり、ツガずに抵抗されるようでは、ノゾキがヤブヘビになるおそれがある。

ノゾキに関して、坂田栄男氏は次のような話を紹介している。
明治時代に活躍した本因坊秀甫という人が、ある対局でノゾキを打った。
ところが相手は、なかなか受けようとしない。
すっかり考えこんだのを見た秀甫は、用事を思い出して席を立ち、しばらくして戻ってきた。だが、相手はまだ考えている。とうとうゴウを煮やして、大声で一喝した。
「いったいなにを考えてるんだ。天下の秀甫のノゾキだぞ!」
つまり、ツグ一手じゃないか、というわけである。

たぶんこれはつくり話であろう。
本当に秀甫がいったとしても、冗談めかしたいい方をしたに違いない。
秀甫という人は、自他ともに許していた秀和の跡目を、素行不良を理由に秀和の未亡人から反対されたと伝えられる。それくらい、多分に横紙破りのところはあったらしい。

ところで、この秀甫のエピソードは、二つの教訓的な意味を持っているようだ。
①一つは、「天下の秀甫」ほどではないにせよ、相手の絶対ツガせるぞという自負――ノゾキはツガせるために打つ、ということである。
②もう一つは、たとえ相手が誰だろうと、無条件にハイとはツガない。なんとか反撃しおうという相手棋士の態度である。

ノゾけるからノゾく、ノゾかれたからつなぐでは、アジも妙味もない。
【1図:ノゾキが悪手の例】
≪棋譜≫(143頁の1図)
棋譜再生
・黒1とノゾけば白2とツグ一手。
☆たしかに黒は目的を達し、一本利かしたように見える。
 しかし、これはたいへんな悪手である。
 なぜだか、わかるだろうか?

・黒1、白2の交換がなければ、黒からはイ(15, 六)と切る手が成立する。
※切られた四子を捨てるならともかく、助けようとすれば、白は大いに苦しまねばならないだろう。
そのイをいつ切るかは問題としても、ここにねらいがあるのは、あきらかに黒のプラス、白のマイナスである。
それを黒1とノゾいて白2とツガせては、もう黒イとは切れない。
切っても、白ロ(14, 五)とカケられ、簡単に取られてしまうからである。白2のツギがなければ、黒イに白ロとカケても、取ることはできない。
うっかりノゾくと、こんな損をすることだってある。

ノゾキはツガせようとして打つ。
だから、素直にツイで受けるのは、相手の思い通りである。
つねに相手の裏をかき、相手の逆をとるように行くのが気合というものである。
ノゾかれたら、「なにかツギにかわる手はないか」考えてみること。
そういう態度で身構えていると、ツギに優る手を発見することがあんがい多いそうだ。

【2図:ノゾキとツギの交換が、黒の利かしとなった場合】
≪棋譜≫(144頁の2図)
棋譜再生
・黒1とノゾき、白2とツイだ調子に、3とトンで攻める。
※1と2の交換は、はっきり黒の利かし(打ちドク)になっていて、棒石の白は、次にぴったりした手がない。
もし黒がノゾかずに、1で単に3とトベば、白はイ(17, 五)とトビツケて、ラクにさばくことができた。
(この1、3という石の調子をのみこめるようなら、かなりするどい感覚といえるようだ)
しかし一方、白の立場で考えてみると、2のツギはいかにも黒の意中を行く感じである。策に乏しい。
なにかちょっとくふうがほしい。相手の調子をはずすような、ヒネリがほしい。

【3図:白のくふう~「タケフの両ノゾキ」にする形】
≪棋譜≫(145頁の3図)
棋譜再生
・白のくふうの一法として、白2の突っぱりがある。
・黒3のノビには4とタケフにツギ、黒5に6と進出する。
※このほうが前図に比べて足が早く、まともに攻められる心配は、まずないであろう。
それに2、4となると、黒は切れないタケフを1、3と両側からノゾいた形になる。この点にも白の満足がある。
⇒「タケフの両ノゾキ」という。
 タケフを両側からノゾくのは、石が働かない形とされている。
 相手の石を働かせないのは、それだけ自分の石が働いているともいえる。

【4図:白のくふう~ツケてタケフの方向をかえる】
≪棋譜≫(145頁の4図)
棋譜再生
・もう少しくふうすると、黒1に白2とツケる着想が浮かんでくる。
・黒3のハネに4とノビて、黒5、白6。
(5で6と出ても白5とゆるめるから、切られることはない)
※前図に比べ、今度はタケフの方向が、タテから横に変った。
⇒攻めをかわす、緩和する、という意味なら、この打ち方がもっとも目的にかなっている。
※白6までの形は、いつでも白イ(15, 十、つまり白4の下)のマガリが利いており、これ以上きびしい追及を受ける心配はなく、十分にさばけた形と見られる)

※黒の注文をそのままきいて、思うように打たせたのが2図。
一方、3、4図は相手の注文をはずし、少しでも石の能率を高めようという打ち方である。
「ノゾキにツガぬバカはなし」といった固定した観念からは、こうした変化は生れてこないそうだ。
文字通り臨機応変、たえず相手の逆をとろうとする態度でありたい。

もう一つ、ノゾキにツガない例をあげている。
【5図:白ノゾキは攻めの急所】
≪棋譜≫(146頁の5図)
棋譜再生
・白1のノゾキは攻めの急所。
⇒こんな痛打を見舞われては、黒はダウン寸前、どうにも処置なしの感じである。
といってノゾかれた二子をツガず、切らせてしまうのは大きすぎる。
☆このピンチをどうきりぬけるか?

【6図:ツギは白の注文通りで無策】
≪棋譜≫(147頁の6図)
棋譜再生
・平易に黒1とツグのは、それこそ白の注文通り。
・得たりと白2の突きあたりを利かされ、黒3、白4で、まずは一巻の終わり。
※こんなことになるくらいなら、1では4の点にハネて、白1と切らせるほうが、よっぽどマシ。
1のツギはあまりに無策。
窮すれば通ずで、打開の道はある。

【7図:黒のツケコシがうまい手】
≪棋譜≫(147頁の7図)
棋譜再生
・黒1とツケこすのがうまい手。
・白は2の一手、黒3と切って、白4、黒5。
・続いて白が6とぬけば、黒は先手で7のハネにまわることができる。ゆうゆう危機を脱する。
(また白6で、7のノビなら、黒はイ(19, 五)と取って即座に活きる)
※黒1の一子がたくみな捨て石となって、先手をとるか、活きるかの、貴重なしのぎを黒にもたらす。
※後手をひくか先手をとるか、これを「一手の差」という。
 6図の黒1か7図の黒1かで、結果は一手の差が生じる。
「ノゾキにツガぬバカはなし」が一面の真理なら、「ノゾキにすぐツグバカはなし」というのは、もう一面の真理といえるようだ。

(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、141頁~147頁)

ポンぬきの威力


中盤編には、「ポンぬきは石にムダがなく、威力も大きい。よほどのことがないかぎり、ポンぬきをさせてはならない」という項目がある。
この点を説明しておきたい。

よく「ポンぬき三十目」といって、ポンぬきはさせてはならないものとされる。
三十目という数字に根拠なく、「たいへん大きいのだ」ということを表現したもののようだ。
(じっさいに三十目、ときにはそれ以上の価値を持つポンぬきもあるという)

ポンぬきは、それ自体がひじょうな好形であるばかりでなく、厚みが四方に働くのが大きな特徴である。
したがって、辺や隅に片寄るよりも、中央のポンぬきほど価値がある。

【中央のポンぬきの模型図】
≪棋譜≫(149頁の1図)
棋譜再生
・白が四隅の星を占め、黒が中央でポンぬいた形。
・むろん実戦ではできるはずがなく、これは一つの模型図である。
⇒これで両者の力はつり合っている、という定説になっているそうだ。
〇「一に空き隅」といわれる重要な隅の拠点を、白は四つとも占めている。対する黒は、空中になんら実利をともなわないポンぬきがあるだけなのに、これで四隅に対抗できるという。

※坂田栄男氏は、院生(日本棋院で養成するプロ棋士のタマゴ)の時分、実験的にこの配置から打ってみたことがあるらしい。
⇒優劣はつけがたかったそうだ。
黒先なら黒がいいし、白先なら、わずかに白に分がある。
先に打ったほうが有利ということは、この配置が互角という証拠にほかならない。
〇なにしろ黒は中央に堅塁があるから、どんなにせまい白の構えにでも、平気で打ち込んで行ける。
もぐりこんで活き、白の外勢を厚くしても、それは気にかける必要がない。厚みはポンぬきが消してくれるからである。
また根拠がなくて攻め出されても、ポンぬきの声援があるから、トビ出しさえすれば、もう安全である。

隅に一手打つのは、だいたい十目の価値が持つといわれる。
かりにこの説が正しいものとし、上図の形が五分とすれば、四隅に一手ずつ打った白は四十目。それに対抗している黒のポンぬきも、おなじ四十目にあたるといえると、坂田氏は解説している。

このように中央のポンぬきは、大きな威力を持っている。
たとえ辺でも隅でも、ともかくポンぬきをさせるのは感心しない。
一個の石を取るには、タテヨコ四つのダメをつめればよく、その最小限の手数で石を取るのがポンぬきである。

ポンぬきは石にムダがなく、しかも弾力に富んでいる。相手にはポンぬきをさせぬよう、自分からはチャンスがあれば、ためらわずにポンぬいて打つべきであるという。

【悪手はどれか?】
≪棋譜≫(150頁の2図)
棋譜再生
・白1と走り、黒2とツケて以下7まで。
☆初心の人の碁を見ていると、こんな変化がよく見られるという。
どの手がおかしいのか?

⇒白1に対する黒2のツケが悪手である。
・それに対する白3も悪手である。
(3は2の非をトガめないだけ、2よりも罪の重い手といえる)
※双方が悪手を打った場合、あとから打ったほうが不利を招くのは理の当然だとする。

・白7までの結果は隅の実利が大きく、それだけ白が不利となっている。
〇黒2は4とコスんで受けるところである。
(それを2とツケてきたのだから、白は気合からいっても、反発しなくてはならない)

【白はハネ出す一手】
≪棋譜≫(151頁の3図)
棋譜再生
・ここは白1とハネ出す一手である。
・黒2の切りに3とカカエて、必然黒6までとなる。
⇒こんな隅っこでも、ポンぬきはポンぬきなりの威力があって、白はすぐ続いて7、9と黒をゆさぶることができる。
・黒10には11とサガリ。
(黒イ(18, 六、つまり黒10の右)のオサエは隅には利かない)

前図の結果を解剖してみると、次のようになる。
【手割による検討】
≪棋譜≫(151頁の4図)
棋譜再生
・はじめ白1と三々に打ち込んで、黒2に3、5と打った。
・黒はだまって6とツギ、白7から11まで。
⇒この形に黒イ(17, 二、つまり白1の上)、白ロ(17, 一)を加えたのが前図である。

※この解剖診断によって、悪手は黒の側にばかりあることが明らかになっているという。
・まず黒6は、いつでもハ(16, 一、つまり白3の上)とアテて、白イ(17, 二、つまり白1の上)とツガせるに決まったところ。
・それから6とツゲば、白11、黒ニ(18, 六)、白7、黒10、白8,黒その左オサエ、白1の下ツギ、となるのが、定石であるという。
(白は後手で活きることになる)

・さらに大悪なのは、黒イ(17, 二)と放りこんでいることで、もともとハ(16, 一)とアテるべきところを、黒イ(17, 二)、白ロ(17, 一)と取らせたのだから、お話にならないという。
⇒ポンぬかせた罪が、そのまま黒の不利、白の有利につながっている。
〇このように、手順をかえて形を調べ、着手の可否を検討するのを手割(てわり)という。
強くなるにしたがって、興味を持つようになってくるようだ。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、148頁~151頁)

格言「攻める石にツケるな」


中盤編に「攻めようとする相手の石には、ツケてはならない。逆に自分の石をさばくときは、相手の石にツケて打つのがよい」という項目がある。
これについて説明しておきたい。

ツケは相手の石にジカに接触する手である。
したがって、感じとしては、「きつい手、はげしい手」のような気がするが、たいへんな錯覚であるらしい。
 
ツケは自分の形をととのえるのが主な目的である。ツケは守りの意味のほうが大きいそうだ。
相手の石にツケて行くと、石が接触し合って変化が起こり、ある程度、形が決まってくる。
その結果、自分の石も固まり、同時に相手の石も固まる。だから、ツケは攻める手にはなりにくいという。

★例を挙げている。
【テーマ図】
≪棋譜≫(154頁の1図)
棋譜再生
黒の手番として、右上にカカっている白の一子を攻めるのに、どう打ったらいいのか。
こんな場合、攻める石にツケない、接触を起こさないということが、考え方の基本となる。

【2図:ツケが悪い例】
≪棋譜≫(155頁の2図)
棋譜再生

・黒1とツケてくる人がおどろくほど多いようだ。
こういう人は完全に錯覚している。つまり、「ツケははげしい攻めの手」だと思いこんでいる。
・ところが、白2とハネられ、黒3のノビに、白4から8までとなると、その結果はどうか。
⇒白はたちまち好形となる。これ以上は攻められる心配がないばかりか、逆に黒のほうに、打ち込まれるスキが生じている。たとえば、白イ(17, 十二)や白ロ(16, 十二)といった打ち込みである。
・つまり、黒1、3のツケノビは、ぜんぜん白への攻めになっていない。そればかりか、白を活かすお手つだいをしたようなものである。

【3図:サガリがきびしい攻め】
≪棋譜≫(155頁の3図)
棋譜再生

それでは、どのように打つのが良いのか。
この形では、黒1のサガリが一番きびしい攻めである。
⇒隅を守りながら白の動きを制限し、白2ならまた黒3とサガって、鉄柱を築くのである。
すると、白はさっぱりさばきの調子がつかず、乗ずるスキが見出せない。
・次いで白4とトビ出すくらいである。むろんまだ眼形ができたわけでもない。
※黒は先手に、1、3と固めることができて、攻めの効果は十分にあがっている。
・これで上方はひとまず打ちきり、今度は5、7と下辺の白に攻めかかる。
※こうして、次々と白を攻め出し、息つくいとまを与えないのが置碁の必勝法である。
※なお、黒5は「コスミツケ」であって、「ツケ」ではないと断っている。黒7とハサむ前に5、6と決めておくと、白の石が重くなる。
(重い石とは捨てにくい石、さばきにくい石のこと)
こうして、攻めがいっそう効果的になる。

このように、攻める石には、ツケないのが原則である。
これを裏返しにすれば、「しのぐ石はツケよ」ということである。
(相手の石にツケて接触を起こし、それに乗じて形をととのえ、眼形をつくる)
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、154頁~157頁)

カラんで攻める


「中盤編」に、「一つの石だけ専門に攻めても、成果は期待できない。攻めるには、二つ以上の石をカラんで打つのが、成功の秘訣である」というのがある。格言としては「一方石に死なし」という。

この項目を説明しておきたい。
処世の金言に「二兎を追う者は一兎も得ず」というのがある。
なにか仕事をするには、一つのことに専念するのがいいとされる。
しかし、せっかくの名言も、碁の戦略にはまったく役に立たない。それどころか、石を攻めるときの心得はこれと反対である。二兎でも三兎でも、できるだけ一度に追うのが上策になる。

「一方石に死なし」ともいう。
一方石とは、「それだけをしのげばいい」という石のことである。つあmり、他の部分への配慮をせずに、自身のしのぎさえ考えればいい石をさす。
こういう「一方石」は、かなりきゅうくつな情況の下でも、めったなことでは死なない。

【1図:白の一方石の例】
≪棋譜≫(160頁の1図)
棋譜再生
・右上の黒の構えは、隅にはシマリ、辺には一間トビを加えた強固なものだけれど、それでもまだ白1と打込む余地がある。
※白は上辺も右下隅もがったりした形だから、1と深く打込んで攻められても、周囲の自分を心配する必要がない。つまり、一方石なわけで、こういう石は容易に死なない。

【2図:白は一方石だから簡単にさばける】
≪棋譜≫(161頁の2図)
棋譜再生
・たとえば、黒1と封鎖しても、白から2のノゾキが利き、4、6のツケ引きも先手に打てて、白8のコスミまで、いとも簡単に活きてしまう。
※さんざん元手をかけた構えをすっかり荒らされ、ほとんど得るところがないのでは、踏んだり蹴ったりの結果。
・黒7のカケツギで隅の白は多少痛んだものの、黒イ(18, 十三)には白ロ(17, 十四)と引いて、いのちに別条はない。
※打込んだ石が一方石だから、白はこうも簡単にさばけたのである。

ところが、次図のように、上辺に黒(11, 四)といった黒のハサミがある形だと、事態はガラリと一変する。
【3図:上辺に黒のハサミがある場合】
≪棋譜≫(161頁の3図)
棋譜再生
・上辺の白二子は影の薄い浮き石である。
⇒自身の処理を先にしなくてはならないから、右辺に打込むなどは思いもよらない。
※黒としては、右辺はこのままで三十目の地と見ていい。

【4図:カラんで打つ戦法】
≪棋譜≫(162頁の4図)
棋譜再生
・それでも、白1と打込んでくれば、黒はサガって白を追い出し、白3のトビには黒4とツケて打つ。
※これがいわゆるカラんで打つ戦法である。これは、中盤の攻めの極意ともいうべきものである。
※上辺と右辺と、白は二つの浮き石をかかえて、さばきに困り果てることになる。
・白5のノビなら黒6と押し、8のコスミで右辺はまるのみである。
(白5でイ(13, 八)とトベば、むろん黒は5とオサエる)

カラんで攻める別の例をあげている。
【5図:白が打込んできた場合】
≪棋譜≫(163頁の5図)
棋譜再生
・白1とカカリ、黒2の一間トビに白3と打込む、もうおなじみの手段である。
・白3に対しては、黒はイ(13, 五)、またはロイ(11, 五)とコスむのがきびしく、それで白がうまくいかない。
(ただ、あとの打ち方がちょっとむずかしく、初心のうちはなかなか正確に打てないようだ)
※九子も置いていれば、黒はもっとあっさり打って十分である。
【6図:コスミツケてトビ】
≪棋譜≫(163頁の6図)
棋譜再生
・黒1とコスミツケ、白2と立たせて3とトビ。
※この黒3で白を左右に裂き、カラんで攻めようというねらいである。

【7図:変化の一例~カラんで攻める】
≪棋譜≫(163頁の7図)
棋譜再生
・前図以降の変化の一例。
⇒白は1と、大きい石のさばきを先にするのは当然であるが、黒は2、4と早いとこバリケードをつくり、白5には6とサガって、上辺の動きを封じてしまう。
・黒6では、イ(11, 五)とコスめば普通だが、この黒6でも白一子は動けない。
※こういうぐあいに、積極的にカラんで攻め、どんどん形を決めて打つのが、置碁では一番である。

(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、159頁~163頁)


一間トビの鼻ツケ


中盤編に、次の見出しがある。
・黒が星から一間トビに受け、さらに星下にヒラいている形で、白が一間トビの鼻にツケてきたときは、おだやかに打つには下からハネ、白の二段オサエに切って押し上げる。強く攻めるには中央にノビて打つ

黒が星から一間トビに受け、さらに星下にヒラいている形で、白が一間トビの鼻にツケてくるのは、よくできる形である。
置碁でも互先の碁でも、星打ちには毎局でも現れる形であるから、ぜひとも心得ておく必要がある。

【テーマ図:布石の一つの基本形】
≪棋譜≫(164頁の1図)
棋譜再生
・黒が星から一間トビに受け、星下へのヒラキを加えた形。
 この黒は布石の一つの基本形で、すっきりした構えである。
・いつでも白から1とツケて、変化を求める手段がある。
⇒これに対する応手をよく知っていないと、思わぬ混乱を招くおそれがある。 
 あとの変化はある程度定石化しており、それさえ覚えておけば安心だという。

☆白1のツケに対する黒の応手には、守りと攻めの二つがある。
①イ(17, 七、つまり白1の右)のハネ:おだやかな受けで、守りを主とした手
②ロ(15, 六、つまり白1の左斜め上)のノビ:白を攻めようという強い手

まず最初に、①守りのハネの応手の場合をみていこう。
【守りのハネの場合】
≪棋譜≫(165頁の2図)
棋譜再生
・黒1とハネると、白は2と二段にオサエてくる。
・このとき黒は3と切り、5を押し上げるのが大切な手である。つまり、黒3、5と、「切ったほうを押す」と記憶すればいいようだ。
※このことが、見出しにある「黒が星から一間トビに受け、さらに星下にヒラいている形で、白が一間トビの鼻にツケてきたときは、おだやかに打つには下からハネ、白の二段オサエに切って押し上げる」という意味である。

このことを碁盤上に図示すると、上図の【守りのハネの場合】である。
つまり、この応手は、おだやかな受けで、守りを主とした手である。
<注意>
・ここで白に黒3をポンぬかせるのはいけない。
※忘れずに黒5と、「切ったほうを押す」のがよい。

【その後の手順:黒は実利、白は厚みで定石化】
≪棋譜≫(165頁の3図)
棋譜再生
・続いて白は1と切り、黒2に3とノビるのが正着である。
・そして黒4の手入れに5とマガリ、黒8までとなって一段落。
※ここまでの手順は、すでに定石化している。
 この結果、黒は目的通り、上下が連絡して実利をおさめ、白は中央に厚みをたくわえた。
※この図は、白黒とも正々堂々の応酬で、いわばお手本ともいうべき打ち方である。

ただ、ことに置碁における白は、いつでもこうお手本通りにくるとは限らない。黒をまどわせようとして、奇策に出ることが考えられる。

【白の変化図】
≪棋譜≫(166頁の4図)
棋譜再生
・白1と切って、3と動き出してくる手がある。
※前図を表通りとすれば、これは裏街道だという。
 この変化を知っていないと、白に乗せられる。
・黒が4、6などと打つのは俗筋の標本である。
・なお、白に7、9と出切られ、どうにも収拾がつかなくなってしまうので、注意を要する。
(黒の対策としては、黒4で黒7(白3の左)のツギ)

坂田栄男九段は、白の変化図として、白の「あり得ない手」を、念のために付記している。
【白のあり得ない手】
≪棋譜≫(167頁の6図)
棋譜再生
・白が1の切りから、3、5とアテて出るような手は、「あり得ない手」と思っていいとする。
・黒6、白7となるが、黒6とぬいた「亀の甲」の厚みは、ポンぬきに倍するといわれる圧倒的なものである。
 しかも白1、黒2となっていて、俗にいう「亀の甲のシッポつき」の形であり、この型をつくらせたら、もうその碁は勝てないといわれているくらいである。
・それに白7とハネても、隅は完全ではなく、黒イ(17, 三)で簡単に手になる。

次に、②白を攻めようという強い手であるノビの場合をみておく。
【攻めのノビの場合】
≪棋譜≫(167頁の7図)
棋譜再生
・次に黒2とノビる手であるが、このほうはあまり変化はないようだ。
・白は3、5、7と黒を上下に裂き、黒も8から10と白を裂いて、もっぱら戦いの局面となる。
※この場合、黒は右下方面に自軍の配置があることが条件で、逆に右下に白があるようだと、4以下の三子が攻められる形となり、おもしろくない。

※以上、黒が下からハネて安全を期すか(①の場合)、あるいは強くノビて戦うか(②の場合)は、右下の配置によって決定されるわけである。

(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、164頁~168頁)

捨て石の効用



※形をととのえるには、捨て石が有効なことが多い。
ことに第三線の石は、一つ第二線にサガって捨てるのがよい
格言「二子(もく)にして捨てよ」

坂田氏によれば、「石を捨てる楽しさ」が碁にはあるという。
相手に石を取らせ、それをタネにいろいろと仕事をする。
捨て石がうまくいったときの楽しさは、石を取るのとはまた違った味わいがある。
この捨て石のアジがわかるようになると、もう相当な腕前になっているはずだという。

初心のうちは、相手の石は取りたい、自分の石は取られたくないの一心である。石を捨てる、わざわざ取らせるなどということは、初心者は夢にも考えない。
それがだんだん強くなると、要石と廃石の区別がつくようになる。さらに捨て石を投じて手割をうんぬんするようになると、もうアマチュアとしては、一人前の打ち手に成長している。
よく「アマは石を取ろうとする、プロは捨てようとする」というが、一面の真理であるようだ。

〇石を捨てる目的の第一は、それによって相手をしめつけ、自分の形をととのえることにある。
したがって、アタリにされた石をポンと打ちぬかせてしまっては、うまく目的を果たせない。とくに第三線の石を捨てる場合は、一つノビて取らせるのが原則になる。
⇒ノビることによって手数をふやし、その間にしめつけをはかる。

【白ツケて整形】
≪棋譜≫(182頁の1図)
棋譜再生
☆黒の堅陣の中に白三子が孤立しているが、この白はなかなかの好形であるから、すぐにおさまることができる。
というのも、白1とツケるうまい手があるから。
これを捨て石にして黒に取らせ、白はきれいに形をととのえる。

【白の働いた形】
≪棋譜≫(182頁の2図)
棋譜再生
・続いて黒2のハネ出しに白3と切り、4のアテに5とノビる。
⇒この白5が「一つサガって捨てる」手である。
・黒6のオサエで二子は取られるけれど、これをタネに白は7のアテ、そして9、11まで、ムダなくぴったり利かすことができる。
⇒こうして、白は先手に整備し、もう攻められる心配はなくなった。
※黒2とハネ出して以降、この手順は一本道である。
白の石はどれも効果的に働き、理想的な結果となっている。

【失敗図:白が捨て石を打たない場合】
≪棋譜≫(183頁の3図)
棋譜再生
☆前図の結果がいかに白の働いた形であるかを説明してみよう。つまり、白が捨て石を打たないと、どうなるのか?
〇もし白が捨て石を打たず、本図のように、白1と突きあたったとすれば、黒は2とぶつかってくる。
(また1で2と打てば、黒は1とくる)
※この形では、白が形をととのえるには、1と2の両点が急所なので、普通に打ったのでは、二つの急所を二つとも占めることはできない。
※ところが前図では、打てないはずの急所を、二つとも白が打っている。
そこに捨て石の値打ちがある。

【手割:白の働きを確認】
≪棋譜≫(184頁の4図)
棋譜再生
☆手割で解剖して、白の働きを確認してみよう。
・はじめに白1と突きあたったとき、黒は2とハネて受けた。
・白3には4とサガり、白は5のマガリを利かして7とオサエる。
・ここで黒は8と手入れをしたのである。
⇒この形に白の捨て石の二子、黒が取るのに打った二子を加えると、2番目の図【白の働いた形】となる。

☆本図の手順を見ていえることは、白の着手には一つのムダもないのに、黒の打った手は不合理だらけ、ということである。
・第一、白1に黒2と打つことはありえない。
黒2は3と打つか、すくなくともイ(17, 六、つまり黒2の右)と引くところである。
・黒4もイ(17, 六)とツグべきである。
・最後の黒8に至っては、手のないところに手を入れた、不要の一手になっている。
〇捨て石がどんなに効果のあるものか、これでわかる。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、182頁~184頁)

アテるな切るな


中盤編に、次のような見出しがある。
・アタリや切りは、必要があるまで打ってはいけない。必要のないアタリは、百パーセント悪手である

碁には、「必要のない手は打たない」という鉄則がある。
山があるから登るのではなくて、必要な手だから打つ。
ハネでもノビでもノゾキでも、それを打たねばならぬ理由があるから打つ。そういう必然の着手を追求し続けて終局するのが、碁というものの理想であるという。
強くなるためには、やはりこういったきびしい態度が望まれるようだ。

とくに、切りとアテとは、うかつに打たない心がけが大切であるらしい。というのは、必要のないアテや切りは、打てばかならず悪い結果になるから。つまり、必要なければ、アテるな切るな、というわけである。

具体例をあげている。
【必要のないアテを打たない手】
≪棋譜≫(186頁の1図)
棋譜再生
☆黒が高目から辺にヒラいているところへ、白1と三々に入る形。
・黒2なら白3から9までが定石である。
※この手順中、白7が「必要のないアテを打たない手」で、手筋になっている。
・白7で8と切る(アテる)ことはできるけれど、それは打たずに、単に7とハネるのである。
・べつに8の点を切らなくとも、黒8でイ(18, 五)と切り、白ツギ、黒9と打つことはできない。(次に白8で両アタリだから)
・とすれば、白は8の点を切る必要はなく、だまって7とハネるのが正着というわけである。

白が切ったら、どうなるか?
【白が切った場合】
≪棋譜≫(187頁の2図)
棋譜再生


・白が1と切れば、黒2とツイで、白3、5という運びになるが、黒6までの結果は、白は前図に劣る。
※黒を固めたばかりか、白は完封されている。

【白にツケられた場合】
≪棋譜≫(187頁の3図)
棋譜再生
・白1のツケに、白3はさばきの手筋。
・このとき黒は「切りもアテも打たず」に、単に4とツグのが正着である。
※黒4で5と切ったり、イ(17, 三)とアテたりしても、けっしていい結果は生まれない。

次に置碁での常出形について、言及している。
【置碁での常出形】
≪棋譜≫(187頁の4図)
棋譜再生
☆これは置碁での常出形である。
・白1とツケ、黒2に3とハネるのは、白が攻められる前に、早いとこ、おさまろうというもの。
・次いで黒4と二段にオサエるのが強手である。
※この場合も、黒は切りやアテは保留するのがよく、だまって4が一番きびしい。
(なにか危険な感じがして、4とオサエるには勇気がいるかもしれない。しかし、白からこれといった反発の手段がないのは、容易にたしかめられる)

【続き】
≪棋譜≫(188頁の5図)
棋譜再生
・続いて白は、1と打つくらいのものである。
・白に断点がなくなったから、黒は2のアテを打つ。
 つまり、白1とツガれたことで、黒2とアテる必要が生じたわけである。
・白3とツガせて、黒も4とカケツギ、黒6までとなるのが、双方とも正しい石の運びである。
※白3でコウに受ける手など、おそれてはならない。

もう一つ例をあげている。
【トブツケの筋】
≪棋譜≫(188頁の6図)
棋譜再生
・黒1と打込んで、白2のトビツケはさばきの筋。
・黒もやはり3とトビツケるのが手筋である。
・次いで白イ(16, 四)とアテこむのが普通の打ち方である。
☆このとき、もし白が4とハネこんできたら、どうするか?

【「アタリ、アタリのヘボ碁かな」の俗筋】
≪棋譜≫(189頁の7図)
棋譜再生
・つい黒1とアテたくなるところ。
・白2とツガせ、また黒3とアテて5と出る。
⇒こういう打ち方は、「アタリ、アタリのヘボ碁かな」という、ひどい俗筋である。
・黒7は省けず、白8と切って補われる。
⇒白の外勢はきわめて強大なものになっている。

【ハネこみという正しい筋:切りもアタリも打たない】
≪棋譜≫(189頁の8図)
棋譜再生
・黒はどの切りもアテも打たず、だまって1とハネこむのが正しい筋。
・白は2とツグほかない。
・そこで黒3とノビきり。
・白4、黒5となれば、ノビきり黒3の一手が、すばらしいことがわかる。
(前図とは比較にならぬほど黒が勝っている)
※白2で3とオサエるのは、むろん黒2と両アタリにし、問題なし。

(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、185頁~189頁)

右を打つには左から打て


坂田栄男氏の独自の格言として、「右を打ちたいときは、左を打て」というのがある。

一つのところ、たとえば、右なら右でなにか仕事をしようとするとき、そんな場合、直接に右を打たずに、まず左に働きかける手を考えてみることが大切だという。
左から打って相手の動きをうながし、それに乗じて右を打つ。序盤でも中盤でも、この呼吸が大いに役立つそうだ。

碁でこの方法が効果的なことを、忍者映画で見る手を例えにして、述べている。
例えば、単身、敵陣深く潜入した忍者が、物かげにかくれてじっと息を殺している。行く手には数人の警備兵。と、かたわらの小石を拾った忍者は、あらぬ方向に向ってパッと投げる。バタバタとかけ出す兵士たち。そのスキに彼はまんまと城門をくぐりぬける。

この忍者映画でよく見る手が、囲碁の名言としては、「右を打ちたいときは、左を打て」となるようだ。

【ストレートに白が右辺を打った場合】
≪棋譜≫(195頁の1図)
棋譜再生
・この形では、白はいそいで右辺を打たなくてはならない。右上隅に黒のシマリがあるので、黒からイ(17, 十一、つまり白1の下)とハサまれると、それがハサミとヒラキをかねる手となり、黒が十分の姿勢となるからである。
・そこで当然考えられるのは、白1のヒラキである。
⇒次いで黒2とコスみ、白3、黒4といった進行が予想される。

※この結果だが、白はたしかに右辺を打ち、その意味では目的を達した。だが、黒も4とヒラいたのが、なかなかの好形である。あるいは4では一路左まで進めることもできるし、右辺にも黒ロ(17, 八)とツメる大場が残っている。

☆白はもう少し何か働きのある手順がほしい。
このようなとき、「右を打ちたければ左を」という作戦が、有力になってくる。

【白がまず左を打った場合】
≪棋譜≫(195頁の2図)

棋譜再生

・白のねらいは、あくまでも右辺の先取だけれど、その前にまず白1と左を打つ。
・黒2のコスミに白3とケイマし、黒4、6は必然のコース。
・こうしておいて、白は7と、目的の右辺にヒラくことができる。

※白1はハサミであるが、この場合は隅の黒を攻めるというより、黒の動きを誘い、白3、5の姿勢を得る導火線の意味が大きい。
※しかも白7までとなったあと、黒は前図のように、下辺に自由なヒラキは打てず、白からはイ(14, 十七)とコスむ急所が、一つのねらいとして残っている。
※前図に比べ、本図のほうが白は働いている。

☆右を打ちたいとき左から、左を打ちたいとき右から、相手の動きをうながし、それに乗じて打つ戦術は、布石の段階だけでなく、一局を通じて、つねに行なわれるものである。

攻撃における「左から右へ」の例をもう一つ挙げている。
【テーマ図】
≪棋譜≫(197頁の5図)
棋譜再生
☆六子の置碁で黒の手番を想定
黒の攻撃目標は、いうまでもなく右辺の白の一団である。といっても、この白は中央に頭を出しているから、黒が単純に攻めかかっても、戦果をあげるのはむずかしい。
⇒うまくやっつけるには、上辺の白の欠陥を利用しなくてはならない。上辺の白の弱点を右辺への攻めにどう活かすか。

黒がもし単純に攻めかかったら、どうなるか?
【黒が単純に攻めかかった場合】
≪棋譜≫(198頁の6図)
棋譜再生

・黒1とノゾき、白2とツガせる。この交換にムダはなく、問題はそれからあとである。
・黒3と単純に攻めかかっても、白4、6くらいであっさり逃げ出され、いっこう攻めの効果はあがらない。

【右を攻めたければ左から打った場合】
≪棋譜≫(198頁の7図)
棋譜再生
〇右を攻めたければ左から打つ。
・黒は1のハサミツケから持って行く。こうして白の出方をうかがい、それに応じて、あとの作戦を決める。
☆白としては、2と出るか、4とハネるかの二つに一つである。
・白2と出れば、上図のようになる。
すると黒は3、5と切りサガリ、これを捨て石に大殺陣を展開する。白6まで必然である。

【その後の展開】
≪棋譜≫(199頁の8図)
棋譜再生
・その後、黒は1、3とアテを利かし、5のカケまで。
⇒これで右辺の白は全滅である。

【白がハネた場合の変化】
≪棋譜≫(199頁の9図)
棋譜再生
・黒1のハサミツケに対し、白2とハネて受ければ、黒は3、5と利かし、やはり7とカケて打つ。
・白8には9、白10には11とおそれずにオサえ、強引に封じこんで取ってしまう。

(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、194頁~199頁)



≪序盤の布石と定石~坂田栄男『囲碁名言集』序盤編より≫

2021-10-03 16:38:10 | 囲碁の話
≪序盤の布石と定石~坂田栄男『囲碁名言集』序盤編より≫
(2021年10月3日投稿)

【はじめに】


 前回に引き続き、坂田栄男『囲碁名言集』(有紀書房、1988年[1992年版])の内容を紹介してみたい。 
 今回は、その序盤編の布石と定石に関したテーマを扱う。とりわけ、「星へのカカリに対する受け方の特質」、「小目は実質、目外しは勢力」、「星打ちの性質」、「両ガカリの常識」といった点に絞って紹介してみることにする。
 あわせて、橋本宇太郎『囲碁定石集』(山海堂、1994年[2007年新装版])を参照にして、定石に関した問題を出してみたので、興味のある方は解いてみてほしい。



【坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房はこちらから】

囲碁名言集




さて、今回の執筆項目は次のようになる。


・はじめに
・星へのカカリに対する受け方の特質
・小目は実質、目外しは勢力
・星打ちの性質
・両ガカリの常識:格言「両ガカリはハサミのないほうにツケよ」
・星の定石に関する問題~橋本宇太郎『囲碁定石集』より
・目外しの定石に関する問題~橋本宇太郎『囲碁定石集』より






星へのカカリに対する受け方の特質


「2 序盤編」に、「星にカカられて一間トビに受けるのは、次に攻めるのが目的。守るつもりなら大ゲイマまたは小ゲイマに受ける」というのがある。
この項目について、説明しておきたい。

明治時代の中頃までは、星は「置碁の置石を置くところ」とされ、互先での星打ちは、ほとんど見られなかったそうだ。(だから星の定石といえば、そのまま置碁定石だった)
それが近代になって星打ちの優秀さが認められ、白黒を問わず、互先の碁でも、どんどん打たれるようになった。
定石にも、現代碁の息吹きが吹きこまれて、だいぶ考え方が変化してきている。

【星への小ゲイマガカリに対する受け方】
≪棋譜≫(59頁の1図)
棋譜再生

・星へのカカリは、白1の小ゲイマが90パーセント以上を占める。
・これに対する黒の受け方は、次の三つがある。
 イ:一間トビ(14, 四)
 ロ:大ゲイマ(13, 三)
 ハ:小ゲイマ(14, 三)
※以前は、ロの大ゲイマに決まっていた。
 イの一間トビした例はきわめて少なく、ハの小ゲイマに至っては、打ってはならない禁じ手とさえされていたという。
※ところが、最近では一間トビがもっとも多く、次いでハの小ゲイマが愛用され、ロの大ゲイマはすっかり影が薄れてしまった。
⇒それだけ碁が積極的、攻撃的になったといわれる。

まず、イの一間トビの場合からみてみよう。
【小ゲイマガカリに一間トビで受けた場合】
≪棋譜≫(59頁の2図)
棋譜再生
・黒1の一間トビで受けた場合、これは「次に白を攻めよう」という受け方である。
※がんらい攻めを目的とすれば、それだけ守備がおろそかになるのは、やむを得ない。

・高姿勢の欠陥をついて、白からも2と、逆に攻めをねらってくる手がある。
⇒こうなると、一方はイ(18, 四)、他方はロ(14, 二)と、両側から白に走る手があって、不安な感じがする。
※この白2がいやなばかりに、黒1の一間トビを打たない人がいる。しかし、ここで萎縮してしまってはダメで、黒はあくまでも積極的な態度をつらぬき、攻勢に出なくてはいけない。

【続いてハサンで攻めよ】
≪棋譜≫(59頁の3図)
棋譜再生
・続いて黒は1、またはイ(9, 三)と、白をハサンで攻めるのが大切である。
※現在、白黒とも兵力はおなじ二つずつであるが、黒が強固な一間トビなのに対し、白は一個ずつ左右に分散している。
⇒それだけ黒が優位なのであり、その優位を活かすためには、攻撃が最上の策なのである。

【失敗:作戦が混乱して一貫性なし】
≪棋譜≫(60頁の4図)
棋譜再生
・スソあきの不安定をおそれるあまり、コスミツケを打つ人がいる。つまり、黒1、3そして5などと打つ。
※早く安心したい、隅を地にしたいという気持はわかるが、これでは首尾が一貫せず、作戦が早くも混乱している。というのは、攻めるつもりの一間トビを打ちながら、一転して守りについたからである。
・その結果は白2、4と立たせて白を固め、隅は地になったといっても、まだ白イ(15, 三)とノゾかれるアジが残る。
※あとをこんなふうに打つくらいなら、はじめから一間トビはやめたほうがいい。

【隅を守るなら大ゲイマに受けよ】
≪棋譜≫(60頁の5図)
棋譜再生
※攻めるなら攻めるように、守るなら守るように、態度を一貫させることが望ましい。
・隅を守ろうとすれば、黒1と大ゲイマに受ける。
・白2なら3とサガリ、4には黒5と、しっかり囲っておく。
(黒5では一路左の一間トビもある)
※黒5は、すぐ打つとは限らないが、打たなければ、白イ(15, 三)と打込む筋が残っており、守りは完全ではない。

【隅を守るなら小ゲイマでもよい】
≪棋譜≫(61頁の6図)

棋譜再生

・この黒1の小ゲイマも守りの手である。
・白2のとき、今度は3とトンで隅を確保する。

※上図の大ゲイマと小ゲイマを比べてみると、小ゲイマのほうが手間がかからず、しかもスマートに守れることがわかる。
ことに小ゲイマの場合、黒3が単なる守りではなく、次に黒イ(17, 八)のハサミを有力にしている。
⇒こうした判断から、大ゲイマが次第にすたれ、小ゲイマが用いられるようになってきたようだ。
※いずれにせよ、受けの本質を知り、それに合った運用を心がけなくてはならない。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、58頁~62頁)

小目は実質、目外しは勢力


「2 序盤編」に、「小目は実質的な着点。目外しは勢力的な着点。目外しからはすぐ辺にヒラけるが、小目からは、いっぺん位を高くしてからでないと、ヒラくわけにいかない」というのがある。
この項目について、説明しておきたい。

小目と目外しの対峙関係は、序盤ではもっとも多く現われるものである。

【1図:小目と目外し】
≪棋譜≫(62頁の1図)
棋譜再生
・黒が小目、白が目外し。
 小目の黒が白にカカったと見てもいいし、目外しの白に黒がカカったと見てもよろしい。
☆ともかく、この関係は一番多く現われるものだけに、それぞれの立場、特色といったものを、よくのみこんでおく必要がある。

【2図:小目は実質、目外しは勢力】
≪棋譜≫(62頁の2図)
棋譜再生
・まず黒(小目)のほうからいうと、いつでも実質を占めやすい、地をとりやすい、ということができる。
・黒1、3と打てば、隅はすっかり黒地になってしまう。地に関する限り、白からこれほど効果的な手段はない。
・白イ(17, 二)と走っても、黒1、3と打つほどには、効果的とはいえないだろう。
☆このように隅の地に関しては不利であるが、白(目外し)には、ほかに小目にない有利な面がある。
それは「勢力を張りやすい」ということである。

【3図:白のカケによる圧迫】
≪棋譜≫(63頁の3図)
棋譜再生
・白1とカケて圧迫し、黒2、白3、黒4までとなる。
※白1とカケれば、いつでもまず絶対にこうなる。
 この結果は、小目と目外しの性質をもっともよく現わしたものである。
 小目の実利、目外しの勢力を、はっきり示している。

さて、以上の知識を基礎にして、考え方をもう一歩進めてみよう。
こういうことがいえる。

【4図:白のヒラキ】
≪棋譜≫(63頁の4図)
棋譜再生
・目外しからは、白1と広くヒラくことができる。
 だが、小目からは、黒イ(17, 九)、黒ロ(17, 十)などとヒラくことはできない。
ところで、二立三析はヒラキの原則である。
二つ立った石からは三間にヒラけるが、一つの石からは二間にしかヒラけない。それが安全なヒラキの限界であるといわれる。

☆それなのに、なぜ白が1とひろく四間にヒラいていいのか。
⇒理由は3図につきている。
白からはいつでも3図の1、3と圧迫できる。
これは二立どころか、三立にも四立にも匹敵する勢力である。目には見えないけれど、白は強いカベを持っているに等しい。したがって、それを背景に、ひろくヒラいてもいい、ということになる。

※白としては、3図の1、3を決めてから、4図の1とヒラくことはできるが、決めないでおくほうおが、作戦の範囲がひろい。
場合によってはカケではなく、小目の黒をハサンで打つかもしれないから。
〇必要があるまで決めない、というのは高等戦術の一つ。

※黒のほうには、そういう厚みも勢力もないので、ジカに黒イ(17, 九)、黒ロ(17, 十)とはヒラけない。

【5図:もし黒がヒラいた場合】
≪棋譜≫(64頁の5図)
棋譜再生
・もし黒が1とヒラいたとする。
・すると白は得たりとばかり、2とカケてくる。
・黒3、5と定石通りに選んでも、白6となお押されると、黒7とツガねばならない。
※そして、この黒7のツギが、いかに働きに乏しいバカみたいな手か、わかる。
⇒かりに黒1の石がないとして、白2から7までは必然である。
 そのあと黒がここを打つのに、1などと打つはずはない。結果的にそういうバカな手を打たされているのは、最初の黒1が不当だったからである。
※黒1は棋理に反した悪手、白2はそれをトガめた好手、ということになる。

【6図:黒が辺にヒラくにはコスミ】
≪棋譜≫(64頁の6図)
棋譜再生
・だから黒が辺にヒラこうと思えば、まず1とコスミ、位をとる必要がある。
・白2と受ければ、そこで初めて3とヒラくことができる。
・白2で3のほうに打てば、黒はイ(14, 四)とカケて圧迫するか、ロ(12, 三)とハサんで攻めるとか、ハバのひろい作戦でのぞむことになり、碁が変ってくる。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、62頁~65頁)

星打ちの性質


「2 序盤編」に、「星打ちは速度において優るが、三々をねらわれる弱点があって地にアマい。星からもう一手打っても、隅は地にならない」というのがある。
この項目について、説明しておきたい。

星打ちの長所は、そのまま短所と表裏をなしている。
その最大の特色は、左右どちらにも位置が偏しない、ということで、第四線の交点にあり、必要に応じて好きなヒラキが打てることである。

【1図:星にヒラキ】
≪棋譜≫(74頁の1図)
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ヒラキで辺が打ちたければ黒1、右辺が打ちたければ黒イ(17, 十)。
※どちらを打っても、隅の星との関係は変らない。
 これは小目や目外しにはない星の優秀さである。
 小目などはひとまず隅をシマリ、それから辺に展開するのが原則である。それに対して、星はシマリを打つことなく、ただちにヒラキを打てる。

※もっともシマろうとしても、星には適当なシマリ方がない。
 黒イ(14, 四)の一間、黒ロ(17, 七)の大ゲイマ、黒ハ(17, 六)の小ゲイマ、どれを選んでも、それはシマリとはいわないようだ。
⇒星にはシマる手がなく、だからこそ、ただちに辺に展開できる、ともいえる。

【2図:大ゲイマにシマリを加えた形】
≪棋譜≫(74頁の2図)
棋譜再生
・黒1と打って、これを「シマリ」と思っている人が多いらしい。
(だとしたら、間違いだという)
※シマリとは、「戸締まりをする」の意味で、隅を締めきって地にするのがたてまえであるが、黒1と打っただけでは、その目的は果たされてはいない。
・黒イ(17, 四、つまり星の右)ともう一手かけて、はじめて隅は黒地となる。したがって、黒イがシマリなのであるという。

※黒1の手は、大ゲイマに「構えた」にすぎない。黒がイ(17, 四)とシマる瞬間までは、隅は黒地となるか、白地となるか、まだ条件は五分五分である。

【3図:白の三々入り】
≪棋譜≫(75頁の3図)
棋譜再生
・黒1と構えて、黒は隅に二手かけた。
・しかし白2と三々に入られると、大いばりで活きられてしまう。
・黒3とオサエて閉じこめても、白4から14までで、すぐに活きる。
⇒いや、活きるどころではない。七目もの白地ができる。
・しかも黒は15と備えねばならず、白の先手。15を省いて、白15と動き出されてはいけない。

このように、星打ちは二手打っても(つまり二手かけても)、隅は地にできない。
では3図の結果は黒がつまらないのかというと、そんなことはない。
白を活かしたけれど、周囲をがっちりととり囲んだ黒の形は、絶大な厚みとなっている。

碁は、ただ活きればいい、地を囲えばいいという単純なものではない。だから、白としても、いつ白2と三々にもぐりこむか、時機を選ぶ必要がある。
⇒あまり早いうちに入りこむと、黒に強大な厚みをつくられるし、ためらって黒にもう一手打たれると隅には手がつかなくなる。
そのへんのかねあいが腕の見せどころというわけである。

【4図:小ゲイマにコスミを加えた形】
≪棋譜≫(75頁の4図)
棋譜再生
・黒1と小ゲイマに構えたときは、シマるには黒イ(17, 五)とコスんで打つ。
※小ゲイマは堅い形だから、それに黒イ(17, 五)で黒ロ(17, 四、つまり星の右)とサガる堅い手を加えるのは、石の働きが重複し、凝り形の感じになる。
※黒イ(17, 五)と多少は欲ばって、これでも隅を荒らされるおそれはない。

【5図:小ゲイマに大ゲイマを加えた形】
≪棋譜≫(76頁の5図)
棋譜再生
・小ゲイマに黒1と大ゲイマを加えた形。
 こんな手を打つとき、「すこし欲ばってやれ」などという人がいるが、これはお笑いであると、坂田栄男氏はいう。
⇒なぜなら、黒1とひろげて当人は欲ばったつもりでも、これではまだ白2と三々に打込む余地があり、隅は守れていない。
※裏口をあけっぱなしで、いくらおもてを大きく構えてもつまらない。
¥欲張ったように見えて、実は黒1の大ゲイマは地にアマい、欲のない手なのである。
⇒ただし、この形、白2と入っても無条件には活きず、コウになる。

【6図:三々入りでコウに】
≪棋譜≫(76頁の6図)
棋譜再生
・黒1とオサエ、白は2とハッて6まで、黒7のアテに8とがんばって、コウになる。
※すこし逆説めいたいい方になるが、コウによって死活の危機に立たされたのは白であるが、このコウの負担は、黒のほうが重い。
⇒かりにコウに負けて殺されても、白はたいしてコタエない。
 というのは、この隅は黒が先に三手も打ち、それから白が入って行ったのだから、コウに負けてもともと、勝って活きれば儲けもの。
 だが、黒のほうは、さんざ元手をかけているだけに、おいそれとは負けられない。
 ことに、コウに負けて白イ(19, 五)と打ちぬかれると、黒の形はガタガタになってしまう。それだけ負担が重いことになる。
※こんな点まで考えて、前図の5図の黒1の大ゲイマは、まずい手、損な手とされる。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、73頁~77頁)

両ガカリの常識:格言「両ガカリはハサミのないほうにツケよ」


「2 序盤編」に、「星にカカってきた石をハサみ、両ガカリされたときは、ハサミのないほうにツケる」というのがある。
この項目について、説明しておきたい。

両ガカリというのは、星打ちだけにある定石群である。
左右にカカった石のどちらかにツケる型が一般的である。

【1図:白の両ガカリ】
≪棋譜≫(96頁の1図)
棋譜再生
・白1とカカられ、黒2とハサんだのは有力な作戦である。
・白としては、黒が普通に受ければ2、またはその二路下に迫って打つつもりで、そうなっても黒が悪いということはない。
〇黒2は相手の裏をかく意味でおもしろい。
⇒黒2とハサみ、それが同時に、右下の一間トビからのヒラキになっている点に注目したい。
※このように、一つの手がハサミとヒラキの二つをかねるのは、つねに有力である。
 というわけで、黒2は置碁と互先とを問わず、しばしば用いられる。
・とすると、白3と両ガカリされることが当然考えられる。

☆黒2のハサミを打つためには、かならず両ガカリの定石を心得ていなくてはならない。
 白3と両ガカリされ、さてどうするか?
⇒両ガカリに対しては、黒はイ(16, 六、つまり白1の左)かロ(14, 四、つまり白3の下)か、どちらかにツケて打つのが定石である。
 そして、どちらを選ぶか、その判断の基礎となるのは、どうすれば黒2のハサミを活かせるか、ということである。
黒は白1の石を攻めるつもりで、黒2とハサんだのだから、次の着手は、その意図を継承するものでなくてはならない。
黒はイ(16, 六)と黒ロ(14, 四)と、あなたはどちらにツケるのか?
黒2のハサミを活かすためには、それに近い黒イ(16, 六)のほうを選ぶとしたら、それは間違いである。

【2図:「ハサミのないほう」にツケよ】
≪棋譜≫(97頁の2図)
棋譜再生
・黒は1とこちらにツケるのが正しい打ち方。
・黒1と「ハサミのないほう」にツケ、白2に黒3、白4には黒5と運ぶ。
※こういうふうに石を盛りあげて、ハサんだ石をしぜんに孤立させ、大きく攻める形に導く。
 こうなれば、はじめのハサミが活きてくる。

【3図:両ガカリの基本定石】
≪棋譜≫(97頁の3図)
棋譜再生
・続いて白は1とコスみ、黒は2とコスミツケ、以下黒10までとなるのが、基本定石である。
※手順中、黒4、8、10の三つが大切な手。
 黒4は記憶すべき手筋であるし、黒8も、これでイ(13, 五)とマガってはならない。
 黒8とコスんで黒ロ(13, 三)の切りはねらい、白9とそれに備えたとき、黒10とサガって自身を安定する。
※こうなると、白は左右を打ったというものの、どちらも弱く、ことに白1以下の一団は、最初のハサミにおびやかされて、根拠を持っていない。
⇒したがって、白ハ(17, 十二)、ニ(16, 十三)などの強襲は決行することができず、黒の作戦は、ひとまず成功をおさめたといえる。
「ハサミのないほう」にツケたのが、この結果につながった。

【4図:石の方向の誤り~ハサンだほうの白にツケた場合】
≪棋譜≫(98頁の4図)
棋譜再生
・これを逆に黒1とハサンだほうの白にツケると、白は2、4から8までと、たちまちおさまってしまう。
※攻めるつもりでハサンだのに、そのハサミがすこしも効果を発揮しない。
⇒かえって黒のほうに白イ(16, 五、つまり白6の左)と突き出される欠陥が生じる。
また、白ロ(17, 十二)のきびしい打込みなども、今度は平気でやってこられる。
※石の方向を誤ると、まずい上にもまずくなるのが碁というものである。
 ハサンで両ガカリされたら、かならず「ハサミのないほう」にツケなくてはならない。

【5図:両ガカリで高くカカってくる場合】
≪棋譜≫(99頁の5図)
棋譜再生
☆ただし、両ガカリは小ゲイマばかりではなく、白2と高くカカってくる場合もある。
⇒この場合、ハサミのないほうにツケる原則からいえば、黒はイ(14, 五)とツケるわけだが、このほうは変化がやや複雑で、まぎれを招く危険があるようだ。
※いろいろ変化を調べて、白の出方にすべて対抗できればいいけれど、そうでないと、イ(14, 五)のツケはすすめられないという。

坂田栄男氏の指導碁の経験からいうと、この形では次図のように、黒1とツケる定石にしたがっていいそうだ。
【6図:両ガカリでの対応策の例外】
≪棋譜≫(99頁の6図)
棋譜再生
・白の両ガカリで高くカカってきた、この形では、黒1とツケる定石にしたがっていい。
・黒7までとなり、この7のハネが白の一子を殺しているので、ハサんだ白を活かしても十分という考え方である。
・それに活きたといっても、4図ほどには白も堅固ではなく、多少は黒から攻めるねらいも残っている。
(坂田栄男『囲碁名言集』有紀書房、1988年[1992年版]、95頁~99頁)

星の定石に関する問題~橋本宇太郎『囲碁定石集』より


【問題70】<黒先活=三手>
≪棋譜≫(139頁の問題図)
棋譜再生
☆白1に黒イ(9, 三)とハサミ、白ロ(12, 五)、黒ハ(14, 六)は積極的な打ち方であるが、スミを取る打ち方もある。
 どうやるか?

【問題70の解答:黒のコスミツケとケイマ】
≪棋譜≫(140頁の解答図)
棋譜再生
・黒1とコスミツケ、白2に黒3とケイマして、大きく地にする打ち方もある。
(地だけなら簡単である)

【参考図:白のスベリへの対応】
≪棋譜≫(140頁の参考図)
棋譜再生
・黒のコスミツケに、白2と侵入して来たら、黒3とこちらの白石を制する。
(橋本宇太郎『囲碁定石集』山海堂、1994年[2007年新装版]、139頁~140頁)

目外しの定石に関する問題~橋本宇太郎『囲碁定石集』より


【問題181】<黒先活=五手>
≪棋譜≫(361頁の問題図)
棋譜再生
☆これよりモクハズシ定石である。
 白1の低いカカリには、上辺に黒模様を作るチャンスがある。
 どう打つか?

【問題181の解答:カケてノビてからヒラキ】
≪棋譜≫(362頁の解答図)
棋譜再生
・黒1とカケ、白2の受けに3とノビる。
・ここで白4の一間トビなら、黒5までと模様を拡げる。

【参考図:ヒラキを妨げる白の打ち方】
≪棋譜≫(362頁の参考図)
棋譜再生
・但し、白4、黒5とノビたとき、白6とヒラキを妨げる打ち方もある。
・黒は代りに7とオサエて、右辺が厚くなる。
(橋本宇太郎『囲碁定石集』山海堂、1994年[2007年新装版]、361頁~362頁)

【問題182】<黒先活=五手>
≪棋譜≫(363頁の問題図)
棋譜再生
・上辺の中央の星方面に黒石があるときは、模様を一層拡げることができるが、先ずどうやるか?

【問題182の解答】
≪棋譜≫(364頁の解答図)
棋譜再生
・黒1、3とオシ、白4のハネにも、5と盛り上げる。
※このように白をオシツケて壁を作るのが目外しの利点である。

【参考図:黒オシてもよい】
≪棋譜≫(364頁の参考図)
棋譜再生
・白4とノビれば、黒は5とオシてもよい。
・黒イ(15, 十)とハズすのもある。
(橋本宇太郎『囲碁定石集』山海堂、1994年[2007年新装版]、363頁~364頁)

【橋本宇太郎『囲碁定石集』山海堂はこちらから】

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