電影フリークス ~映画のブログ~

電影とは、映画のこと。その映画を一緒に楽しみましょう。

黒帯仇

2009-11-12 23:56:42 | 七十年代作品【1973】

今回は73年の協利電影公司作品『黒帯仇』についての感想などを書いてみたいと思います。

 バックが黒帯になってます

いまファンの間で一番旬な話題となるとやはり協利作品になりますか。しかし私の場合、今までは一本を最初から最後まで通して見たことはありませんでした(苦笑。
ちら見したのは後期のものばかりでしたが、最近書いた記事の自然な流れで行くとどうしても72、3年頃の作品がターゲットになる。興味を持てるのはこの時期だとほかに『賊殺賊』や73年製作の噂のあった『冲天炮』(陳鴻烈の初監督作で実際に73年に製作)ぐらいであろうか。今回はそんなこんなで一応のところ、協利作品を取り上げてみました。

オープニングはいかにもヨーロピアンな音楽でテンポのよい低音の旋律が耳に残るフランス映画「華麗なる大泥棒」(71)のテーマ曲に乗って始まり、これは十分過ぎる程のインパクトがあった。空手のデモンストレーションの樣に進行し、組手や板割り、ヌンチャクの演舞などで構成されている。

ちなみに曲の方は香港映画では頻繁に流用されていたモリコーネの作曲によるもので(演奏は「シバの女王」で有名なレイモン・ルフェーヴル)仕事が終わった後のリラックスしたい時などには持ってこいのイージーリスニング的なもの。私はこの曲がとても気に入っていて何度も聴いていました。なかなかいい曲ですので是非聴いてみてください。(youtubeで‘Le Casse intro’と検索すれば仏語Verのオープニングが出てくると思います)現在もこの映画のサントラ人気はかなりのものでオークションサイトではLPレコードが約4万円で落札されるなんてこともあったりしてます。

この映画は民初功夫片ではなく時装片でありますが、このオープニングの方野がとても格好良くみえるのだ。表情も本編ではジジくさいのだが冴えた表情をしている。このオープニングを見て方野を見直してしまった位だ。風貌から時装片が丁度よく似合う俳優ではないのかな思う。キザな役が本当にお似合いで『黒人物』なんてどんなのだろうかと期待してしまう。

オープニングがとても良かったので本編も期待させられるのだが。

黒帯の腕前を持つ曽威(方野)は空手の大会に出場し入賞を果たす。
仲間の瘤子(山怪)と小呉(解元)は曽威から食事に誘われるが、足の悪い瘤子は曽威を待たせていた。テーブルについて瘤子が新聞の記事を見せようと夕刊を広げると驚くべきニュースが曽威の目に飛び込んだ。それは海外で開催された東南アジア選手権で曽威の親友・楊倉盛が袁鷹(白鷹)に敗れ負傷したとの記事だった。なぜ彼を支持しているのか不思議に思う二人に曽威は1年前に起きた話を打ち明ける。

1年前、曽威は女の恨みを買い暗闇で数人から殴る蹴るの暴行を受けていたが、近くに居合わせた楊倉盛(張力)に運良く助けられた。彼は格闘家でシンガポールから香港に移住して来ていたのだった。楊に助けられた曽威はそれ以来親交を深め親友となっていた。

対戦相手の袁鷹は元警官で曽威たちとは過去に因縁があった。楊が負ける理由は考えられない。試合で袁鷹が不正をしたに違いないと瘤子が吹き込むと曽威は頷き、袁鷹打倒を決意する。曽威は胴着を着て黒帯を締め袁鷹の家に向かった。

家に乗り込むとまだ袁鷹は帰国しておらず留守だった。家には就寝中の母親と袁鷹の妹、袁小紅(歐陽佩珊)が家にいたが、袁鷹不在で娘の様子から彼女が盲目と分かると曽威は小紅に暴行し、騒ぎに目を覚ました母親は黒帯で絞殺されてしまった。

翌日帰国した袁鷹が自宅へ戻ってみると母親は既に亡く、妹がただ一人待っていた。母親の遺影の前で崩れる袁鷹であった。警察に捜査を依頼するが、被害者は盲目故に捜査は困難を極め簡単には犯人を捕まえられない。袁鷹は自分で探すと言い放つと警部の陳志遠(高遠)に問題を起こすなと警告された。

袁鷹は友人の刑事(秦沛)に相談し情報を聞き出す。手がかりは犯人が現場に残したコートで、住所らしき文字の一部が書かれた紙の断片がポケットに入っていたのだった。これを頼りに袁鷹は捜索を開始、車を走らせ必死の捜索で住所らしき場所を発見する。その近くにはとある住居があった。実は若い女性を匿っている別荘で曽威がマネージャー(李香琴、孫嵐)に任せている隠れ家だった。袁鷹が門番(元奎)を破って家の中に入ると、監禁された女性の中に一際気の強い賀珍珍(馬海倫)も混じっていた。彼女は連行される女性を目撃、後を追う際に一緒に捕まっていたのだった。そこへ陳警部らが到着。監禁者は無事解放された。

一方、コートを置き忘れたり、別荘が警察に発見され曽威の身の危険を心配する瘤子達だったが、曽威は袁鷹の母親殺害も娘の小紅が盲目だったから捕まるはずなどないと言う。

ある日、賀珍珍が有名な鍼灸師の父祥平(馮毅)を連れて袁鷹の家にやってきた。救出のお礼のためであった。妹の小紅が盲目と知って驚く珍珍だったが、小紅の純真無垢な人柄から安心して打ち解けるのだった。珍珍と小紅の二人はレストランへ食事に出かけた。丁度その頃楊倉盛が香港へ帰国し、曽威が食事に招待するところだった。

小紅たちがレストランで食事をしていると、後から入ってきた客の声が衝立を隔てた隣から聞こえてくる。小紅はその中の一人の声に過敏に反応した。忘れもしない犯人の声。それは紛れもなく曽威の声だった。声を聞いただけで曽威を察知したのだ。珍珍に事情を話し、兄に連絡を取る小紅。袁鷹が現場へ急行すると近くに不審な人物瘤子を発見、追跡する。瘤子は必死に逃げ回り道路で事故に遭い死亡した。

事態を知った曽威は袁鷹を倉庫へ連れ出し呉と対決させるが、袁鷹が留守の間に小紅は誘拐されてしまう。曽威は誘拐した小紅を楊に合わせることに。しかし楊は本人から事情を聴き、小紅を家へ帰すからと曽威とケンカになるが家に帰すことを許した。楊は肩の治療のため賀祥平鍼灸院へ向かう。治療が終わると珍珍が現れ小紅はどこにいるのか問い詰めるが、曽威の部下(陳嶺威)が突如拳銃で襲って来た。楊は咄嗟に鍼を投げ、部下の後を追って倒すと、車で曽威の居場所へ向かった。既に呉を倒した袁鷹も曽威を追って来ていた。袁鷹と曽威に楊倉盛が加わり三つ巴の争いになるが、さて結末は・・?


ストーリーはやや暗く退屈させられるが(「華麗なる大泥棒」のプロットをそのままいただいちゃった方が良かったりして・・。)当時の珍しいコラボ作品としてなかなか楽しめたと思う。明星から悲劇のヒロインを演じた歐陽佩珊に馬海倫と高遠、張力をはじめ富國、開發公司のメンバーたち、そして黒いサングラスの似合う白鷹だ。(元奎、元華なんかも混じっています)
この映画のポイントはハンディーキャップ。盲目の女性や足の不自由な男、鍼治療が必要な格闘家にあると思う。それをどうやって映画に組み込んでいるかだ。例えば母親殺しの犯人が方野の犯行であることを声で察知したのは盲目である分、彼女の聴覚能力は人一倍高かったという訳であり、足を引きずる山怪は白鷹にやられた後遺症だったという訳だ。この辺りは監督張森の力量で上手く表現出来ている。
途中、車に乗ったハゲのおじさん(何柏光)が登場してアップになる場面では一人爆笑してしまった。やっぱり香港映画はこうでなくっちゃね(笑)。
もう一つ。ラストシーンが面白いというか最後の最後、シメの部分が何とも言えない場面で終わるのだ。(これは実際に見るとちょっと笑えるかも)

そして出演者の一人、解元のフィルモグラフィーを見ていたら不思議なことに気付かされた。それは73年の殆どが開發公司の作品ばかりなのだがなぜかこの『黒帯仇』一つだけが協利なのだ。
『黒帯仇』出演者は殆ど富國にいた人間ばかりでかなり不自然に見えてしまう。とても協利とは思えないメンバーであった。異質なのは張森監督と主演の白鷹であり白鷹は一人浮いた形にさえ見える。これについて資料を調べていたら協利という会社は当初、自社の作品を製作する傍ら他会社の映画も代理で製作していたらしいことが分かった。なので当時は富國や明星など独立プロの代理で製作を受け持ったと思われます。(これなら上記の疑問も納得できます)

また、この映画の殺陣師は袁和平で時装片だがこれも彼が殺陣をつけていた。
倉庫での白鷹VS解元や張力VS陳嶺威などの対決シーンがなかなか良い。
この頃各社で殺陣師グループが存在していたが、これをグループで分類していけば当時の状況が整理できようというもの。これはとても一人では手に負えないレベルではあるが、うまく整理できれば面白い資料が出来上がるかも・・。

結局のところタイトルが表している通り、黒帯の使い手が仇(=方野)のシンプルなストーリーなのである。大変分かりやすいのであるが、映画の持つタイトルの意味について・・となるとやはり淀川長治先生のこの2つのお言葉を思い出します。

”タイトルを楽しもう。”・・・映画はタイトルから始まる。
”映画の原名をさぐること。”・・・原名がその映画の狙いを示している。

単純明快。今回は黒帯が仇という映画でした。

次回はまたまた倉田さんの作品を書いてみたいと思います。終

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