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総務系サラリーマンの世に出ない言葉

「ある奴隷少女に起こった出来事」

2013-08-24 23:34:00 | 書籍の紹介
小説はめったに読まないのですが、
「歴史」+「ノンフィクション」のふたつのキーワードで手に取りました。

「ある奴隷少女に起こった出来事」
ハリエット・アン・ジェイコブズ 著 / 堀越ゆき 訳 / 大和書房 刊

この本は、150年前のアメリカの黒人女性によって書かれた自伝小説です。
発刊当時は、その優れた文章力とあまりにもショッキングな内容から、
白人著者によるフィクション・ノベルだと考えられていたそうで、
話題になることもなく、出版から一世紀以上の間、人々から忘れられていました。

そして120年後、ある歴史学者によって偶然発見され、
その後の研究によって、本書に登場する人物はすべて実在した人物であり、
事実に忠実な自伝であることが証明されたそうです。

物語は1820年代のアメリカ、ノースカロライナ州。
主人公のリンダ・ブレント(著者の筆名)は、自分が奴隷とは知らず、
優しい女主人のもとで幼年時代を過ごしますが、やがて彼女の死去により、
医師であるフリント家の奴隷となります(相続されます)。

15歳になったリンダは、
35歳年上のフリント医師の性的興味の対象となり、
性的暴行を受け続けるようになります。
誰にも相談できずに苦悩するリンダは、フリント医師の虐待から逃れるため、
別の白人紳士で弁護士のサンズの愛人になることを決心します。

やがてリンダはサンズとの間に二人の子供を産みますが、
フリント医師は、リンダを自分の思い通りにあやつれない嫉妬から、
彼女に対して筆舌に尽くしがたい陰険な嫌がらせを続けます。
そこでリンダは、奴隷制のない北部への逃亡を決断します。

逃亡したリンダは、
自由黒人となっていた祖母マーサの家の屋根裏に潜伏します。
発見されればマーサだけでなく、子供たちの命にも危害が及ぶなか、
リンダは七年間そこに潜伏し続け、北部への逃亡の機会を待ちます。

そしてリンダはとうとう北部への脱出を果たし、
その先でブルース家の保母として雇われることになりますが、
逃亡奴隷法を根拠に、フリント医師の執拗な追手が迫り・・・

「事実は小説より奇なり」という言葉が陳腐に思えるほど、
リンダの壮絶な人生が展開されます。

奴隷制のもとでは、奴隷は白人の「所有財産=モノ」でした。
奴隷は売買が可能な商品であり、夫婦であろうが親子であろうが、
所有者の都合によって引き離され、売られていきました。
もちろんどこに売られたかわからない永遠の別れです。

しかも奴隷少女は白人男性から性的対象とされることが多かったらしく、
わざわざ法律で「子供の身分は母親の身分を継承する」とまで定めていたそうです。
奴隷を所有する白人にしてみれば、奴隷に子供が生まれるということは、
父親が誰であっても、自分の財産が増えるということになるわけです。

そんな社会が、アメリカでは150年ほど前まで、実際に続いていたのです。

奴隷制は法律によって支えられていました。
当時、人びとの良心の拠り所であったはずのキリスト教精神も、
人権や道徳、あるいは良識と言った人道的な観念も、
すべて奴隷制という法律に打ち負かされていたのです。

法律が常に「善」であり「正義」であるとは限りません。
「人間の欲望を満たし」、「支配者の権力を護る」ために作られた法律が、
いかに恐ろしいもので、善良な人間を狂気に走らせるものであるかということを、
この本は、奴隷制という史実を通じてまざまざと感じさせます。
それは決して奴隷制だけでの出来事ではなく、
現代にも通じる問題だとも言えます。



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