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鴻海の自殺問題で浮き彫りになった中国の若い労働者たちの気質の変化

2010-05-29 23:04:00 | 海外ものづくり事情
 低賃金の労働者を長時間にわたって過酷な環境で働かせる工場のことを、英語で「sweatshop(スウェットショップ)」といいます。日本語には建設労働者を搾取する「タコ部屋」という言葉がありますが、イメージとしてはこの「タコ部屋」の製造業版です。アメリカは「スウェットショップ」について敏感であり、かつてナイキが東南アジアのスウェットショップに外注していたことがわかり問題になったことがあります。現在では、メーカーにとって製品の外注先における労働環境は十分注意すべきチェック項目であるといえます。
 さて、広東省にある鴻海(Foxconn、中国では「富士康」)龍華工場で若い従業員たちの自殺が相次いでいます。従業員30万人という巨大なこの工場は、アップルのiPhone、任天堂のWii、ソニーのPSPなど、様々な有名ブランドのIT機器の生産を請け負っているのですが、今年に入ってから半年間で10人以上もの自殺者を出しています。こんなに多くの自殺者を出す工場に生産を委託している、となると「スウェットショップ」への発注が疑われかねないことから、アップルなどは龍華工場に調査に入っているようです(こちら)。

 確かに鴻海の工場は軍隊的な管理で有名であって労働者にとっては厳しい職場ですが、中国のローカル系資本の工場に比べれば労働環境は整備されており、決して「スウェットショップ」ではないと思います。鴻海での自殺者の多発の背景には、厳しい労働管理もありますが、それ以上に出稼ぎ労働者たちの意識がこの10年間ほどで大きく変わったことがあるようです。かつて農村からやってくる出稼ぎ労働者たちは1元でも多くの現金を稼ぐため、過酷な長時間労働を厭わなかったものですが、甘やかされて育った現代の若い出稼ぎ労働者たちはひ弱な半面、高望みする傾向があり、理想と現実の落差が絶望を生んでいるのではないかという指摘が見られます(こちら)。
 また、鴻海の自殺問題についての中国中央電視台(CCTV)の特集番組の動画を見てみましたが(投稿者によって英語字幕が付けられています)、自殺した労働者にはプロの歌手を目指していた青年やモデルになることを夢見ていた女性もいたそうです。


 そのような個人的な夢を抱いて出稼ぎに訪れること自体、かつての「とにかく稼いで故郷の家族を豊かにさせたい」という思いを抱く中国の出稼ぎ労働者のイメージからは大きくかけ離れているように思います。中国の若い労働者たちの気質が大きく変化していることは、中国を単なる「安価な大量生産の場所」と捉えている企業に対して考え方の転換を迫るのではないでしょうか。

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