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クニの部屋 -北武蔵の風土記-

郷土作家の歴史ハックツ部屋。

「フラガール」の季節はなぜ“冬”なのか?

2007年10月07日 | レビュー部屋
南国の踊りのイメージの強いフラダンス。
それを題材にした映画「フラガール」は日本アカデミー賞最優秀作品賞などを受賞し、
大きな話題を集めました。

この映画の舞台は東北の炭坑町(福島県いわき市)。
ストーリーの中で流れている時間は冬であり、
吐く息の白さが目立ちます。
南国と北ではちぐはぐな感は否めません。

なぜ南国の踊りを題材にしているのに冬の設定なのか?
これは舞台となっている炭坑町そのものが冬の時代を迎えているからでしょう。
炭坑はもはや新しいエネルギーに取って代わり、
労働の規模縮小を余儀なくされています。
そこで暮らす人々の表情は重く、誰も笑顔を見せません。
「フラガール」は実在の人物をモデルにしているので、
実際に“平山まどか”(松雪泰子役)が町へ来たのが冬だったのかもしれませんが、
映画の中では「冬=炭坑町」と表現されています。

そんな中、町にもたらされるフラダンスと、それを踊る女たち。
吐く息の白さのごとく町の反応は冷たく、最初は理解されません。
そして、どんなに辛くとも笑って踊らなければならない厳しさ……。
“谷川紀美子”(蒼井優)や“熊野小百合”(しずちゃん)らフラガールたちは、
それぞれの想いを抱えて踊ります。
踊りは喜怒哀楽を表現するもの。
やがて彼女たちの踊りは人々に認められ、
冬から夏の季節へと変わっていくのでした。

ところで、日本史上あまりにも有名な踊り手は“アメノウズメ”でしょう。
周知のように、アメノウズメは日本の神話に登場する女神。
太陽神アマテラスが“天の石屋戸(いはやと)”にこもってしまったため、
世界は闇に包まれてしまいます。
困った神々はなんとかアマテラスを呼び戻そうと相談。
そこで神々が採った対策は踊りでした。
その踊り手に選ばれたのが芸能の女神アメノウズメです。

 アメノウズメは天の香具山の聖なる日陰葛を襷にしてかけ、
 聖なる真折の葛を髪飾りにして、天の香具山の笹の葉を束ねて手に持ち、
 天の岩屋戸の前に桶を伏して踏み鳴らし、神がかりして乳房を露わにし、
 裳の紐をほとに垂らした。(『古事記』より)

特異な衣裳を身につけ、桶の上で踊るアメノウズメに神々は大爆笑。
その声を聞いたアマテラスは外の様子が気になります。
そして石屋戸を開け少し身を乗り出すと、
そこに待ちかまえていた剛力の神に引っぱり出されるのです。
かくして、世界は再び太陽の光で輝いたと神話は伝えています。

神代の時代から親しまれてきた踊り。
人の喜怒哀楽を表し、見る者に楽しさを与えてきました。
フラガールたちもまた人々に希望を与えます。
それぞれが悲しみを乗り越え、誰かのためあるいは自分のために踊ったとき、
人の心を打つ表現になるのかもしれません。
石屋戸から少しずつ射す光のごとく、
フラガールたちの踊りは冬の時代に春の訪れを予感させています。


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