最 終 景 真実の群唱
会場にとぼとぼと風呂敷包みに荷物を背負って、山を去る獣神たちがやってくる。
オオカミ 奴らの策略だったとは。
イノシシ 親方、仕方ありませんよ。
イタチ 身を呈(てい)して我が子たちの未来を守るとは。
オオカミ 俺たちの未来は消え去ったがな。
タヌキ 母の愛は強しですね。
海神たちが、海から顔を出す。
ナカツ おおい。
ソコツ どこ行くんだ。
オオカミ これで、一族の再興は潰(つい)えた。我らが生き延びる土地を探して旅
に出るよ。
アジガミ 行くあてはあるのか?
オオカミ 劇団四季のオーディションを受けて、ライオンキングへの出演をねらう
よ。
イタチ 動物の動きをさせたら、リアリティは半端ないですからね。
ソコツ アフリカにはタヌキやイノシシはいないよ。
イノシシ あちゃぁ。
タヌキ 親方、劇団作って日本の動物のミュージカルやるってのはどうですか、タ
イトルは、えっと『タヌキング』!
イノシシ タヌキが主役かい!
タヌキ 良いと思うんだけどな。
オオカミ あんたらはどうする。
アジガミ 来年オープンする『もぐらんぴあ』で使ってもらうかな。
ナカツ ぬめりすぎる海女なんてどうですかね。
ソコツ 良いですね。
オオカミ …せいぜいがんばってくれよな。
アジカミ お互いにな。
獣神たち、会場から去る。海神たち、海の中に消える。
浜にウミネコの声が響く。波の音も聞こえ始める。
日差しは、水平線すれすれの低い位置から当り始める。次第に浜の市日の風景になり始める。
三々五々、市の人々や浜の人々が集まり、店を出し始めたり、網を直したりし始める。
今日も、彼らの日常が始まろうとしている。
チカ さかないらんかぁ。今日は、ニシンが入ってるよ。
ハマギク 花、いらんかぁ。仏壇の花は枯れてないかぁ。
海女たちが現れる。
波 ちかさぁん!
浜子 ウニ捕って来たよ。
そこに、海治郎が現れる。
海治郎 おう、俺が買ってやるから、直接俺に売れ。
磯愛 いくらで買ってくれるんですか。
海治郎 もちろん
浪子 もちろん
海治郎 これくれぇ。
海治郎、指を立てて金額を示す。
凪沙 おっ。良いねぇ
海治郎 この金額には、俺とちょっと遊んでくれるっていう分も入ってだけど…。
磯、裏のある笑顔で現れる。
磯 何をして遊ぶつもりなんだい。
海治郎 えっ。な、何も。
海治郎小さくなる。
海尊と、浜の男たちが話し始める。
礁三郎 長老、次の漁はどんな感じと出ている。
海尊 豊漁と出ておる。心配はいらん。
洋太郎 俺の船も修理できたし、今度の漁では、がんがん捕るぞ。
漁夫 俺の船が、俺の船がって泣いていたくせに。
礁三郎 船がほとんど無傷だったら、元気になりやがった。
碇 それは、それで良いじゃねぇか。
銛之助 活気が有って、元気な事は何よりだ。
磯愛、突然何かに気がつく。
磯愛 あれ、誰かいないよ。
波 誰かって誰よ。
礁三郎 そう、誰かが居ない。
洋太郎 誰たちかが居ない。
磯 大切な、誰かのような気がする。
碇 大切な何か?
海尊 大切なものは、全て山や海の自然の中に溶けている。お前たちの周りは、大
切な何かで満ち溢れているのだ。
漁夫 そう、大切なものは誰も忘れない。
海治郎 ちゃんと、そこにあるから。
浜の人たちは、微かにほほ笑みながら、また日常の生活に戻り始める。
物語の終演の様相を醸し出し始めた時、彼らは突然に自分の偽りの仮面を脱ぎ払い、自分を嘲笑する真実の顔をさらけ出し、語り始める。
《群唱》
正しいものとは一体何だ。
自分が信じてるものが正しいのか。
真実とは何だ。
お前は
上辺だけの真実で塗り固められた抜け殻にしがみついて生きてはいないか
へどが出る
ウソで塗り固められて
愛想笑いをする
あいつ
おまえ
あんた
そして
俺
私
そんな奴らもにも
朝は来る
空と海との境から、そんな俺たちにも新しいおひさんが祝福を与えてくれる。
嘘つきでも
偽善者でも
盗人でも
詐欺師でも
とりあえず
おはよう
どんな奴らにでも
朝は来る
嘘で塗り固められた
重い天の岩戸を開け放ち
みんな同じに朝が来る
どんな俺たちにも
天照らせ!
水平線の奥から一筋の光明が放たれる。
シルエットで浜の人々が浮かび上がる。
その中に、オジョウコと磯治の影は無い。
このブログでご覧の皆さんには、面白いと思っていただけるような気がしますが、一般の皆さんはどれだけ受け入れてくださるかの実験作です。
演出は岩手が誇るアングラ劇団の代表大森健一氏ですので、おいしく料理してくださると信じ、描き切りました。
どんな舞台になるか、11月23日は乞うご期待です。