昨日、朝日新聞の夕刊に、うつ病に関する、興味深い記事が掲載されていた。
記事では、大学の先生、心理援助職、元NHKのディレクターで、現在は自殺対策支援センターを設立した男性の3人にインタビュー。それぞれの立場で、うつ病やうつ病にかかりやすい世代に関連した、新しい捉え方、向き合い方について聞いていた。
私がそれぞれの発言のなかで注目したのは次のようなことだった。
心理職の男性は「昔からうつ病は、『心の風邪』と称されてきたが、実際は風邪程度の軽いものではなく、『心の骨折』という表現の方が相応しい、簡単には快癒しない病であり、そのことを多くの人が認識し、理解する必要がある」と言った。
たとえば、野球選手やJリーグの選手が骨折したとき、退院後、1シーズン試合を休んで時間をかけてリハビリに励む。うつ病もそれと同じ、リハビリに1年という年単位で、復調を図っていく必要があるということなのである。
一方、大学の先生が話していたのは、一般的に言われている「うつ病のひとは認知の歪みがある」という問題についてだった。
うつ傾向にある人は、物事をネガティブに歪曲して捉えたり、何事も悪いほう悪いほうへ考えてしまうなど、認知の歪みがあるという話は、現在、定説かのように捉えられている。そのため、認知の歪みを矯正することがうつ病の改善に効き目があることがら、認知行動療法が有効とされているのだが、ここへきて「果たしてその見方は本当に正しいのか」という議論がなされているのだという。
先生によれば、実はその捉え方は必ずしも正しいとはいえず、精神的に健康とされている人のほうが、物事を歪めて解釈している。即ち認知の歪みを起こしているのだという。歪んだ考え方のパターンをもっていて、それによってうつ病を発症しないで済んでいるというのである。
それを専門用語で「ポジティブ・イリュージョン」と呼ぶのだそうだ。
前向きで、何でも都合のいいように解釈し、現実をポジティブなほうに歪めて捉えているのがそうなのだが、では、なぜそうした歪みを起こすのか。
私たちの生きている世界は、あまりにもストレスが多く、そのまま認めたり受け入れたりすることは、到底できない。ならば、ポジティブに物事を捉えなおしていけばいい、現実を受け入れやすくしていこうと、自分を誤魔化ながら生きているという。
そして、それができなくなったとき「うつ」という症状が現れてくる。そんな捉え方ができるのだそうだ。
この記事を読みながら、つい最近読んだ本に書かれていた、うつ病についての文章を思い出した。
その本の著者である精神科医によると、実はうつ病が「このままの状態(生活の仕方)では、大変なことになりますよ」と罹患したひとに教えている、警告しているのだという。
さらに、この話を三年間うつ病を患ったのち、ルームを訪れ一年半、カウンセリングに通ってきたクライエントさんにしたところ「その考え方は、今、回復してみてとてもよく言い当てていると思う」という答えが返ってきた。
こうしたことから、うつ病発症する背景には、発症するまでの生活の仕方、生き方に相当無理がかかっていたこと、単に考え方の歪みだけではない、生活や生き方が、大いに影響しているように思われる。
議論は始まったばかりかもしれないが、いずれこの問題は、うつ病のひとに対して定説となっている「認知の歪み」の捉え方や、それに付随して広まりつつある、うつ病には認知行動療法という考え方について、問い直されるほどの大きなテーマになってくる可能性があるかもしれない。
では、どうやってうつ病を改善し、回復させていくか。
この問題について、心理職の男性は、困難にぶつかったとき、「無理な我慢をしたり」、「ひとに頼ってはだめ」、「完璧にしよう」と思わず、周りの助けを借りたり、完璧を目指すことをやめたり、別の方法、別の道を探していくことが大切だと話していた。別の道とは、この場合、生き方を変えるという意味も含まれるだろう。
そして、自殺対策支援センターを設立した男性は、つらさ、苦しみ、悩みをひとりで抱え込まず、周りに話すこと。周りも「弱音を吐いてもOK」「相談してくれていい」という雰囲気を作っておくことが大事だと話していた。
この記事を読んで、強く共感し、納得したことは「うつは心の風邪ではなく、心の骨折である」という捉え方、そして「うつ傾向にあるひとにラベリングされていた、認知の歪みがある」ということが、必ずしもそうではないということ。さらに「心の骨折」には1年単位のリハビリが必要との見解であった。
実際、私のところにカウンセリングに来ている方の場合、3年間のうつ病罹患期間の後という重度だったこともあり、回復に1年半という長期の時間を必要とした。
今回の専門家の話を読んで、これだけの時間を回復に費やしたことは、決して間違ってはいなかったのだと思うことができただけでなく、逆に理にかなった回復速度であったのだと言えることに、背中を押してもらえたそんな気さえしている。
それに加え、うつ病は認知の歪みであるという捉え方が実は逆であるとの見方がされ始め、議論を呼んでいるという事実に触れたことによって、私が今まで感じてきた疑問(たとえば、パーセンテージによって不安や恐れの確率を提示し、考えすぎである=認知の歪みであると納得させる方法)が必ずしも、的を外れていないことをこの記事によって、ある程度実感できたように思う。
うつ病に対して、このような新たな捉え方がされ始めてきたことは、大変注目すべきことである。
「風邪ならば薬を飲めば治るはず、なのにどうして治らないのか」と長期の闘病に悲嘆する方も多くいらっしゃるはずである。
そうしたひとに、「うつは心の風邪ではありません。心の骨折ですよ。リハビリが必要なんです。1年という年単位で取り組んでいきましょう」と助言できれば、どれほどうつ病のひとの心をやわらげられるかわからない。同時に、そうしたひとを見守る周囲の人たちや、そうした社員を抱えている会社が認識を改めて、対応することも可能になってくるだろう。
今回の記事のような捉え方、考え方が広く一般に知られることを、大いに期待したい。
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