〈70日間(49営業日)の延長国会も、1週間も本会議・委員会無しの空転状態〉
70日間の延長となった第177通常国会ですが、延長国会になってからの1週間、衆参とも本会議も委員会も開かれない「空転国会」が続いています。6月22日(水)の会期末では、直前まで「首相vs民自公3党幹事長合意」という異例の構図の攻防があったので、23日(木)、24日(金)に委員会を立てる(審議を設定する)ことが各党国対委員長や、各委員会の与野党筆頭理事ができなかったのは、やむを得ないと思います。しかし、週明けの6月27日(月)~6月29日(水)に審議が一つもないというのは国会の怠慢ともいえそうです。
まず、衆参の各委員会審議では、衆・財務金融委員会の「特例公債法案(平成23年度の赤字国債の発行法案)177国会閣法1号」のように、いいところまで審議が行っているのに、ストップしているものがあります。また、内閣が4月に提出している「再生可能エネルギーの全量固定価格買い取り法案(閣51号)」のように、いまだに経済産業大臣の提案理由説明すらされていないものもあります。
延長国会は、70日間ですから、要するに、10週間ということになります。この間、7月18日の月曜日が海の日で祝日になります。このほか、7月中は土曜日が5日、日曜日が5日、8月中は土曜日が4日、日曜日が4日あります。
ですから、営業日で言うと、延長の時点では49営業日の審議日数を確保しましたが、そのうち、6月29日時点で5営業日が空転のまま過ぎてしまったわけです。つまり既に1割以上が消えました。仮に国会が第1次産業の農業なら、畑を耕さずに1週間過ぎれば、いいものはできません。第2次産業の「法律工場」だとすれば、大きな法律、付加価値の高い製品をこの後納品すれば、リカバーできますが、第3次産業のサービス業だとすれば、5営業日も休業したら、これはもう、まるまる1割の売り上げ減少でリカバーは不能です。
〈反故になりかけた3党幹事長・政調会長合意に向けて、岡田・玄葉・安住奔走〉
こうなってしまったのは、やはり菅直人首相の不可解と思われる人事があったからです。参院自民党から浜田和幸議員を一本釣りして総務政務官に起用しましたが、これはやるなら、6人以上でなければ意味がなく、1人では、かえって参院自民党が硬化するだけですから、せっかくの3党「4・29」政調会長合意(子ども手当見直し→特例公債法案成立→年金財源安定化の議論)、3党幹事長の幻の「6・22」合意(2次補正予算の成立、特例公債法案の成立、再生可能エネルギー法の採決、そして新首相(新体制)の下での3次補正予算)が反故になりかねない事態です。ただ、日曜日のテレビでは、3党幹事長の間には、6・22合意は首相のヒトコトで却下されたことにより白紙になったものの、その内容は、3人の心の中で生きているという状態でした。まさに“岡田勧進帳”ということで、この“岡田勧進帳”が第177通常国会の最終盤まで持続するかどうかがカギとなりそうです。「政務官引き抜き人事」があったので風前の灯火かと思いましたが、6月28日、安住淳・民主党国対委員長は逢沢一郎・自民党国対委員長に謝罪し、玄葉光一郎・民主党政調会長も閣議後記者会見で3党協議の再開に自信を示し、岡田幹事長は、両院議員総会で「国会正常化のための、自民党と公明党をはじめとする各党と話し合っている」ことを明らかにしました。なんとか“岡田勧進帳”で、“安宅の関”で義経(菅首相)”を向こうに渡らせちゃいましょう。秋になれば青い空も高く、澄んで見えるようになるでしょう。
〈総理退陣の3条件「再生可能エネルギー法案の“成立”」へ国会のハードル上がり、「一定のめど」→「一つのめど」に菅さんのハードル下がる〉
6月2日の菅直人・民主党代表(首相)の「震災対応と原子力災害に一定のめどが立った段階で若い世代に責任を引き継ぎたい」は、6月22日の“岡田勧進帳”では「2次補正成立、特例公債法成立、再生エネ法案採決」となりましたが、6月27日の総理記者会見・28日の両院議員総会では「3つの条件の成立」となりハードルが上がりました。これは「エネルギー解散」を総理が模索しているという観測もありますが、参院の採決では、与党だけでなく社民党などからも賛成を得られるでしょうから、「郵政の再来」はないと思われます。
それとは別に、菅さんは「一定のめど」を「一つのめど」と言い換えており、これは両院議員総会で川内博史さんが指摘しており、今後の課題となりそうです。
〈菅首相vs執行部、菅首相vs民自公の異常事態に〉
いずれにしろ「首相vs執行部」「首相vs与野党幹事長」という構図ができており、当分の間は、岡田さんが最後まで総理を支えながら、いかにして、弁慶のように、富樫(民主党政府外議員、自公、国民)から暗黙の了解を得ながら、義経(菅さん)を安宅の関を渡らせて、花道へと導くかということになりそうです。
何とか、週明けの7月5日(火)には、正常化してほしいと願います。そうすると、延長国会は41営業日ということになります。会期末に政府が提出した「原子力賠償スキーム法案」(177国会閣法84号)、野党5党が参議院先議で提出した「原子力災害被害者への国費による仮払い法案」(177参法9号)の審議はできるでしょう。議員立法への取り組みが進んでいる「公的機関の債権買取による二重ローン債務棚上げの法案」、「協働を支援する労働者協同組合の推進法案」なども審議日程にのぼるかもしれません。
〈6月6日の決算委員会で、参院自民党に“刺されていた”蓮舫行政刷新相だが、閣外に出ることは恥ずかしいことではない〉
ところで、菅直人第2次改造内閣は、追加人事で、細野豪志さんが、「原子力事故の収束と再発防止」担当大臣、節電啓発担当大臣、内閣府特命担当(消費者および食品安全)大臣の3職に任命しました。復興基本法施行に伴い、松本龍さんが東日本復興対策担当大臣(復興相)と内閣府特命担当大臣(防災担当)となり、環境大臣から外れました。環境大臣は、江田五月さんが法相(兼)環境相になりました。そして、枝野幸男さんが内閣官房長官(兼)内閣府特命担当大臣が「沖縄および北方対策」に加えて「行政刷新担当」に復帰しました。閣僚17人枠を橋本行革前の「20人枠」に戻す内閣法改正案(177閣法71号)は衆・復興特別委員会で採決されておらず、廃案になると見られます。このため、蓮舫さんが閣外に出ました。
蓮舫大臣は6月6日の参・決算委員会で、自民党の山谷えり子さんに「3・11」以降、内閣府の行政刷新会議事務局はどうなっているのか?と質問されています。
これに対し、蓮舫さんは次のように答弁しています。
「済みません、通告来ておりませんでしたが、今、行政刷新事務局の人数なんですが、発災以降様々な会議等がありまして事務局併任掛けておりますので若干の減員がありますが、五十人弱、四十七、八人だったと承知をしております」「発災以降、全ての事業は一旦停止をしておりましたが、6月1日に行政刷新会議を開きまして、」「失礼をしました。行政刷新事務局本体で今四十人でございます。」「当然優先されるべきは東日本大震災からの復旧復興だというのは大前提であります」。
とかなり苦しい答弁をしています。橋本行革以降、内閣府にいろいろなタスクフォースができて、構造改革特区や、郵政改革など、各府省の寄せ集めとはいえ、なかなか面白い仕事ができるようになりました。行政刷新会議もその一つですが、蓮舫さんが自分の権力源である刷新会議について、「3・11」以降も継続している、いわば手勢はたっぷりあると啖呵を切っているようで、少し痛々しい答弁でした。もちろん「仕分けられた人・組織」はこの6月6日の答弁と6月27日に閣外に出たことについて、「今度は蓮舫さんが仕分けられたね」との軽口を叩くかもしれません。しかし、それは本人の答弁にあるとおり、「当然優先されるべきは復旧復興だという大前提」の下、プライオリティ、タイムスケジュールとして行政刷新会議の作業が後回しになるだけであって、民主党政権における蓮舫さん(や枝野さん、仙谷さん)らと事業仕分けの功績は大です。まあ、蓮舫さんも勤続7年ですから、首相補佐官になるということですが、場合によっては無役で、参院の委員会に戻ってもいいのでは。実は、逆転の夏の後、簗瀬進・参院国対委員長の指揮による「法案の嵐」作戦での参院可決第1号「年金流用禁止法案」の筆頭発議者は蓮舫さんだったんですね。菅さんや蓮舫さんの自らの権力に執着する姿勢というのは政治家として当然の姿であり、それを嫉妬したり、「鼻につく」などというのは、違うと考えます。とはいえ、時間ができた、蓮舫さんは参議院警務部にスイカでも差し入れしたらいいんじゃないでしょうか。
〈民主党両院議員総会はさながら1922年委員会(英保守党)の様相?〉
きょうの両院議員総会でもベテラン参院議員が「過去2年間に政務三役を務めた人は反省して欲しい。だれが正しいか、ではなく、何が正しいか。総理の言う、『世代交代』とは、年齢のことではない」と言っていました。これはこの人が政務三役入りを狙っているからだと考えます。政治家として何も恥ずかしいことではありません。ただし、「紙に書いてきましたので読み上げます」ではなく、台本なしで演じられないのが蓮舫さん菅さんとの違いなわけですが・・・とはいえ、政党政治はチームプレーですから、適材適所というものがあります。
それと、政権交代後の両院議員総会で、政務官が発言したのは、山井和則・厚労政務官(当時)について、2人目になると思いますが、吉田公一・農水政務官が「衆議院議員の吉田です」と言って、マイクを持ちました。ヨシコーさんは「政治主導というが、全然なっていない。役人から政務官へのレクチャーなんか、1日5~6本になる日もある。だから、私は自分で日程からレクチャーなんて削っちゃう。それも政治主導の一つだ」と発言しました。場内は笑い声に包まれていましたが、どれだけの人がヨシコーさんの発言の意味を骨に肉に染みこませることができるでしょうか。その中で、衆院1期生の橘秀徳さんの「自民党参院議員1人を引き抜いても、かえって野党が硬化するだけなので意味がない。安住淳国対委員長の本音を聞きたい」との発言が良かったと思います。安住さんは「率直に言って、自民党と公明党も、きのうからは(菅の顔だけでなく)安住の顔も見たくない、と言っている。だが、男は黙って与えられた仕事をしていきたい」と答えたのも印象に残りました。
私の場合は、なかなか、1人でやっているフリーランスの政治ジャーナリストなもんで、ちなみに国会ジャーナリストと名乗ろうかとも最近は考えていますが、「なぜ審議が開かれないのか?」を取材することの難しさを痛感します。衆参与野党国対委員長に聞いたり、各委員会の与野党筆頭理事に聞いて回るのは、体が一つではムリ。取材を積み重ねた上でも、さらに想像力を働かせないと「しない」「できない」ことの真相というのは分かりようがないのが実態です。だからまあ、あすもまた新聞を読むわけです。
弁慶の岡田幹事長は「私たちの選んだ総理大臣です。しっかり後押しをしていきたい。国会も正常化させていきたい」と述べましたので、ぜひ、6首脳(岡田克也幹事長、輿石東参院議員会長、安住淳国対委員長、玄葉光一郎政調会長、仙谷由人代表代行(兼)内閣官房副長官、枝野幸男・内閣官房長官)が頑張ってほしい。
そして、井上義久公明党幹事長が26日放送のフジ「新報道2001」で名付けた「代表取締役専務3人組」(岡田幹事長・石原伸晃自民党幹事長・井上幹事長)にも頑張ってほしい。菅首相にも見苦しいほどに権力に執着して欲しい。
歴史の変動期ですから、これくらいの不安定さに驚いてはいけません。戦国時代の農民の日記にも「今は戦国の世にて・・・」という記述があるそうです。まあ、何とかなります。国民にとっては訓政期。国会議員にとってはまさに正念場(性根場)です。