筆者は、2023年11月20 日、『
米ロはパレスチナ国家創設について同意!!』で米ロがパレスチナ国家創設に同意したものの、その際、イスラエルが保有する核が問題解決の大きな障害になるだろうことを述べてきた。米ロの同意に合わせるようにBRICS諸国もパレスチナ問題解決に動き出すことになった。
2023年11月21日、タス通信は、パレスチナ問題について非常に重要なBRICS首脳会議がオンラインで開催されたことを『BRICS首脳、中東に関する最終声明を採択』として伝えている。
『……
中東情勢、特にガザ地区の情勢に特化したBRICS諸国首脳による臨時オンラインサミットが11月21日、議長国である南アフリカ共和国の首都プレトリアで開催された。今年のグループ。サミットにはブラジル、ロシア、インド、中国だけでなく、2024年1月1日から協会の正式加盟国となるアルゼンチン、エジプト、イラン、アラブ首長国連邦、サウジアラビア、エチオピアの代表も参加した。アントニオ・グテーレス国連事務総長も会議に参加した。
首脳会談後、共同声明が採択され、その内容は以下の通り。
・BRICS指導者らは、2023年10月7日のパレスチナ過激派ハマスのイスラエル攻撃後の激化と、特にガザとその他のパレスチナ占領地域における悲惨な人道状況といった地域情勢の深刻な悪化について東エルサレムだけでなく、イスラエル自体も含めて懸念を表明した。
・BRICS指導者らは、戦争犯罪、無差別攻撃、民間インフラへの標的を含む、パレスチナとイスラエルの民間人を標的とした暴力行為を非難した。彼らはまた、民間人を保護し、犯罪に対する責任を確立する必要性を強調した。
・BRICS指導者らは、個人としても集団としても、パレスチナ人の自国からの強制移住や国外追放に反対した。多くの指導者は、ガザ内であろうと近隣諸国であろうと、パレスチナ人の強制退去と国外追放はジュネーブ諸条約の重大な違反であり、戦争犯罪であると繰り返した。
・BRICS首脳は、パレスチナ占領地における悲惨な人道状況について懸念を表明し、国際人道法の完全遵守の必要性、並びに即時、安全かつ妨げられない人道アクセスと支援の必要性を再確認した。
・BRICS首脳は、対話と包括的協議を通じて意見の相違と紛争を平和的に解決するというコミットメントを再確認し、危機の平和的解決を促進するためのあらゆる努力を支持する。
・BRICS指導者らは、ガザ地区での敵対行為の終結につながる即時かつ持続可能な人道停戦を求めた。
・BRICS首脳は、パレスチナ飛び地における戦闘行為の即時停止を達成し、民間人の保護を確保し、人道支援を提供することを目的とした地域的および国際的な取り組みへの支持を再確認した。
・BRICS諸国の首脳は、国際レベルでの平和と安全の維持における国連安全保障理事会の主要な役割を再確認した。
・BRICS諸国の首脳は、ガザ地区の状況を解決し、中東の平和への脅威を排除する上で、イスラム協力機構(OIC)とアラブ連盟(LAS)の重要な役割を認識した。
・BRICS首脳は、中東における紛争の激化を防ぐ必要性を強調し、すべての当事者に対し最大限の自制を行使するとともに、当事者に影響力を持つすべての者がこの目標の達成に向けて取り組むよう求めた。
・BRICS諸国の首脳は、パレスチナ・イスラエル紛争は平和的手段によってのみ解決できることを確認した。彼らは締約国に対し、国際法に基づいて直接交渉を行うよう求めた。
……』
というものであった。いよいよBRICSもパレスチナ解決に動き出したのだ。
ところで、パレスチナ問題の根本解決には、パレスチナ国家を承認することもさることながら、イスラエルが保有する核の扱いについても具体的な検討が進められなければならない。これに付いては、2023年11月21日配信のConsortium News『南アフリカはイスラエルに圧力をかけるために核の立場を利用できる』[i]が参考となる。この記事は、南アフリカ生まれの民間原子力技術者であるHügo KRÜGER により書かれたものである。
尚、記事に出て来るペリンダバ条約(アフリカ非核兵器地帯条約:African Nuclear Weapons Free Zone Treaty)とは、アフリカ大陸の非核化を定めた非核地帯条約である。また、アブラハム和平協定(合意:アラブ首長国連邦とイスラエル国間における平和条約及び国交正常化 :Abraham Accords Peace Agreement: Treaty of Peace, Diplomatic Relations and Full Normalization Between the United Arab Emirates and the State of Israel)とは2020年8月13日にトランプ大統領の仲介でアラブ首長国連邦とイスラエルの間で締結された外交合意である。尚、アブラハム合意」とは、アブラハムの宗教(ユダヤ教、キリスト教、イスラム教)の始祖でかつユダヤ民族(イサク)とアラブ民族(イシュマエル)の共通の父祖であるアブラハムの名に因んだものである。
また、シミントン・グレン修正条項は、トランプ政権が2018年8月、「2019年度国防授権法」の一部として「2018年輸出管理改革法(ECRA)」を制定し、武器輸出管理に関する基本方針を明らかにするとともに、従来の輸出管理規則(EAR)の内容を一部更新したことを指している。
『……
ハマスによる10月7日のテロ攻撃に対するイスラエルの対応は不釣り合いなだけでなく、国際法、特にジュネーブ条約の基本的限界を明らかに超えている。
ガザへの攻撃では1万人以上の民間人が死亡し、その半数近くが子どもであり、戦争の武器としての食料の使用、集団懲罰、民族浄化も含まれており、ガザ人のほぼ半数がそのまま自宅を破壊された。彼らはイスラエル兵とともに飛び地の北から南まで行進した。
ハマスが国民を「人間の盾」として利用しているという言い訳(この主張は独立した情報筋によって検証されたことはない)のもと、イスラエルは大学、病院、国連難民キャンプを爆撃し、さらに違法な建造物を建設することでヨルダン川西岸(1967 年の国境の外にある入植地。)の併合を続けている。
南アフリカのナレディ・パンドール外相は、ベンヤミン・ネタニヤフ政権がガザ攻撃とアパルトヘイト政策を続ければ国際的にますます孤立するというメッセージを送ることを期待して、大使のイスラエルからの撤退を要請した。
大量虐殺条約の発動に加えて、アメリカ科学者連盟が90発以上の核兵器で構成されていると推定されているイスラエルの核兵器庫を暴露することで、南アフリカがイスラエルに外交圧力をかけるために利用できる別のアプローチがある。
1990年代初頭に南アフリカが多数派支配に移行すると、南アフリカは自発的に核兵器を廃棄した最初の国となり、核不拡散に関する国際法の多くの議定書の確立に貢献した。
南アフリカはペリンダバ条約を通じてアフリカ非核兵器地帯を設立し、その姿勢をさらに拡大した。現在、アフリカのすべての国がこの条約に署名していますが、すべての国、特にエジプトが批准しているわけではありません。
さらに、米国はディエゴ・ガルシアに核兵器を配備することでこの条約を積極的に侵害し、先住民族チャゴス人の祖国への帰還の権利を妨げることで基本的人権を侵害している。
ペリンダバ条約と不拡散に対する立場により、南アフリカにはベンヤミン・ネタニヤフ政権に対する圧力を主張するための以下の外交的選択肢が与えられる。
- アフリカ連合を通じて、エジプトにペリンダバ条約を批准するよう外交的に圧力をかけることができ、その結果エジプトは核武装した隣国との取引を思いとどまることができる。
- 負荷制限を軽減するために、南アフリカがそのベンダーは不拡散条約を尊重しイスラエルに核兵器を売らない国であると主張して、核の新規製造に関する情報要請(RFI)を開始することができる。このような政策は、条約を遵守しないベンダー(米国、インド、中国、ロシア、フランス)を締め出し、遵守するベンダー(韓国とカナダ)を囲い込むことになる。世界のネットゼロ気候目標の達成には民生用原子力が不可欠であるため、大国を締め出すことで民生用原子力産業は米国政府に不拡散に向けて圧力をかける動機となるだろう。この政策は中国に対し、東南アジア非核兵器地帯を拡大するよう圧力をかける可能性もあるし、グローバル・サウスの他の国が南アフリカの先例に追随すれば民間産業が消滅の危険にさらされるため、潜在的にはフランスに対し軍縮への取り組みを継続するよう圧力をかける可能性がある。
- 南アフリカとアフリカ連合はIAEAに直接働きかけ、ネゲブ核研究炉などイスラエルの核施設の査察を要請することができる。ネゲブ核研究炉は、今もイスラエルで軟禁されている反体制派イスラエル人科学者モゴチャイ・バヌヌによって初めて明らかにされた。可能性としては、ベンヤミン・ネタニヤフ首相と核密輸マフィアとのつながりや、イスラエル人がアパルトヘイト政府に核兵器入手への支援を求めていることを示すシモン・ペレス氏とPWボタ氏との間の外交文書と同様に、事件の立証に利用できる可能性がある。
- 最後の選択肢は、BRICSフォーラムを利用して、アブラハム協定の前提条件としてパレスチナ国家の樹立と中東非核地帯の署名を含めるようサウジアラビアと他のアラブ諸国を奨励することである。イスラエルは外交上の承認が保証されるため、そのような政策を支持する動機になるだろう。
- ペリンダバ条約と同じ原則に基づいて中東非核地帯を設立することは、イランの核兵器とイラン合意に関する議論も解決することになる。
- イスラエルが不拡散条約に違反したことが判明した場合、シミントン・グレン修正条項などの現行の米国連邦法に基づき、米国のあらゆる援助、外交、軍事が疑問視され、イスラエル政府に圧倒的な外交圧力がかかることになる。
南アフリカの最大の外交資産は不拡散への取り組みであり、この政策を賢く利用することでイスラエルに条約の遵守を強制することができる。
外交的アプローチはパレスチナ人の解放への道を開くのに役立つ可能性がある。
……』
此の記事の冒頭に「……ハマスによる10月7日のテロ攻撃に対するイスラエルの対応は不釣り合いなだけでなく、国際法、特にジュネーブ条約の基本的限界を明らかに超えている……」としていることから、非常に中立な立場で書かれていることが見て取れる。そのうえでBRICS議長国である南アフリカが過去に保有する核を廃棄した事例があることから、イスラエルが保有する核を廃棄させることが不可能でないことを説明している。そのパレスチナとイスラエルの紛争解決のプロセスは、ペリンダバ条約とアブラハム和平協定の枠組みを利用することでパレスチナ国家設立とイスラエルの共存そして地域の非核化を同時に実現しようというものになるはずであるという見通しを示している。そして、その時のBRICSは、アブラハム協定にパレスチナ国家の樹立と中東非核地帯をも含めるようサウジアラビアと他のアラブ諸国を奨励することであるという結論となっている。
そのアラブ諸国の動きであるが、11月21日、タス通信『アラブ連盟とOIC諸国の外相がガザ情勢について話し合うためモスクワに到着』[ii]がその様子を伝えている。
『……
モスクワ、11月21日。/タス/。サウジアラビア、ヨルダン、エジプト、インドネシア、パレスチナのファイサル・ビン・ファルハン・アル・サウド外相、アイマン・フセイン・アブドラ・アルサファディ氏、サメ・シュクリ氏、レトノ・マルスディ氏、リヤド・アルマリキ氏、およびイスラム協力機構事務総長(OIC) ヒセイン・ブラヒム・タハ氏はロシアのセルゲイ・ラブロフ外相とガザ地区周辺の状況について話し合うためモスクワに到着した。外交筋がタス通信に伝えた。
「到着しました。間もなく会議が始まります」と当局の対話者は対応する質問に答えながら言った。彼は会議の参加者の構成を確認した。
これに先立ち、ロシア外務省の公式代表マリア・ザハロワ氏はタス通信に対し、ラブロフ氏が11月21日にモスクワでアラブ連盟(LAS)およびイスラム協力機構加盟国(Organisation of Islamic Cooperation)の多数の外交局長らと会談する予定であると語った。ガザ地区周辺の状況について話し合うためだ。
……』
つまり、モスクワに集まったアラブ連盟(LAS)およびイスラム協力機構加盟国は、BRICSとともにアブラハム協定を基本としてパレスチナ問題とイスラエル核問題を根本的に解決することで動き出しているということになる。ところで、アブラハム協定を仲介したのはトランプ大統領であるが、2023年10月7日に事件が起こると中東に向かおうとしたとされている。その理由は、トランプ大統領がアブラハム協定を中心に紛争解決に乗り出そうとしていたのだということが理解できる話である。
これまでアメリカはイスラエルに強い影響力を保持していたが、今次のパレスチナ問題でアメリカは、安易にイスラエル支持を表明したことから、ロシアから核攻撃を受ける可能性もある安全保障上の大問題になってしまった。その結果、アメリカは中東問題に関して何ら成す術を持たないだけではなく単なる傍観者にしかすぎないという致命的な失敗を犯してしまった。その理由は、バイデン大統領が自らのビジネスに大統領と云う地位を利用してNATOと共にウクライナ問題に介入したことから、中国をロシアに接近させたことで米ロの核バランスが崩れようとした。この事態に危機感を抱いたキッシンジャーはアメリカ政府の外交に介入して「一つの中国」政策を再度受け入れさせることにした。ところが同じ時期にハマスとイスラエルが両国民を犠牲にした紛争を開始してしまった。しかもイスラエルはパレスチナに対して核の使用をちらつかせるという愚劣な戦法をとってしまった。これによって、イスラエルが自国の安全保障を理由にパレスチナに対して核を使用すると、アメリカは、ロシア、中国、北朝鮮などから核の脅威を受けるということになってしまった。アメリカは第二のキューバ危機といってよい事態に追い込まれた。この事態を解決するためには、イスラエルが反対しているパレスチナ国家創設に同意することと、アメリカが制御不能な同盟国イスラエルの核を処分する以外の選択肢はなかった。
その結果、アメリカやイギリスを抜きにして、BRICS、アフリカ会議、アラブ連合、イスラム協力機構はイスラエルの核廃棄プロセスを起動させることにしたのである。アメリカはこの動きに同調する以外に方法はなかった。
ところでパレスチナ独立とイスラエルの核廃絶を進める基礎となったアブラハム協定は、トランプ大統領が仲介してできたものであることはすでに述べたとおりである。そのトランプ大統領の現状は、アメリカ民主党による苛烈な選挙妨害で「収監」される可能性も囁かれている程である。もしも、パレスチナ問題がアブラハム協定を基礎として開始されたときに、トランプ大統領が収監されていたら、アメリカは世界中の笑いものになるだけでなく、その無能ぶりを世界にさらす結果となる。アメリカ国民は、そのような国恥をなんととらえるであろうか。恐らく、アメリカの恥さらしを行ったバイデン大統領が、再選することはあり得ないと考えるのが普通であろう。
トランプ大統領が仲介したアブラハム協定であるが、そのコンセプトは、中国と台湾、北朝鮮と韓国にも当てはまるものである。すなわち、国内紛争に他国やイデオロギーを介入させないで二国間で協議することにある。そして双方の存在を容認して共存させることである。
従って、パレスチナ問題がアブラハム協定を基盤に解決することができれば、中国と台湾、北朝鮮と韓国も同様の方式で解決が可能であることの証明となることであろう。
翻って、岸田政権が決定した安全保障政策は、私利私欲で国際政治をもてあそんだバイデン大統領に「金魚の糞」のごとく追随したことから完全に破綻して世界の笑いものとなっている。この屈辱的外交政策を実行してきた中心人物は、岸田文雄首相、「ツボ」議員である麻生太郎元財務大臣、秋葉国家安全保障局長、日本国際問題研究所理事長佐々江賢一郎なのだ。その結果として無理な軍事費を調達するため行った増税は、国民の強い反発を買い政権としての命脈は尽きている。
既に、あの計算高いゼレンスキーは、ウクライナ敗北を予想し、トランプの安全保障政策が“共存”であることに着目し「……もし本当に計画があるのであれば、ドナルド・トランプ前米大統領と会談し、ウクライナ戦争終結に向けた計画をよく理解する用意がある。……」と意味深長なラブコールを送っているといわれている。虫の良い話である。
尚、パレスチナ問題については下記スレッドでまとめてきた。
以上(寄稿:近藤雄三)