小日向白朗学会 HP準備室BLOG

小日向白朗氏の功績が、未だ歴史上隠されている”真の事実”を広く知ってもらう為の小日向白朗学会公式HP開設準備室 情報など

日本の安全保障に関する情報戦(プロパガンダ)(第三回 4) -日本政府の隠蔽と虚言-

2023-02-27 | 小日向白朗学会 情報

【もくじ】
はじめに                                                               (2023.02.06 掲載)
一、     NATOとは何か                                         (2023.02.06 掲載)
1.   NATOの沿革                                                   (2023.02.06 掲載)
2.   東西ドイツ統一と核問題                                     (2023.02.06 掲載)
3.   NATOの核とウクライナ問題                              (2023.02.13 掲載)
4.    核共有というNATOの核管理方式
二、     日本の国防費増大はトランプの提言という虚言        (2023.02.23 掲載)
1.   トランプ大統領とNATO                                    (2023.02.23 掲載)
2.   張り子のトラNATOの装備                                 (2023.02.23 掲載)
・2016年アメリカ大統領選挙                              (2023.02.23 掲載)
・NATOとトランプの対決                                 (2023.02.23 掲載)
3.   自民党政権崩壊の危機                                         (今回掲載)
・米朝共同声明の衝撃                                         (今回掲載)
・朝鮮戦争と国連軍地位協定                                (今回掲載)
・国連軍地位協定と日米安全保障条約の関係            (今回掲載)
・うろたえる政府自民と外務省                              (今回掲載)
三、       五年以内という期限を限定した意味
1.核共有を日本に導入する
2.日本国内の政治動向
まとめ

二、日本の国防費増大はトランプ元大統領の提言とする虚言
 3、自民党政権崩壊の危機
米朝共同声明の衝撃
 トランプは大統領以来、NATO加盟国に分担金の増額を要求しながら解体を目指していることとほぼ同時に進行していたのが朝鮮戦争を終結させることであった。トランプが大統領に就任する直前の年、2016年、アメリカ予算によれば、在日米軍に対する支出は55億ドル(6000億円程度(当時))となっていた[1]。トランプ大統領は、日本に対して駐留費の大幅増額を要求してくることは明らかであった。そのような中で、2018年になると日本政府が予想すらしない方向に事態が急展開していった。
 2018年6月12日、アメリカのドナルド・トランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長及び国務委員会委員長との、史上初の首脳会談がシンガポールで行われた。これだけでも十分に衝撃的な話であるが、会談後出に共同声明がだされ、その内容に日本政府はさらに強烈な衝撃を受けることになった。
『……
共同声明
アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプと朝鮮民主主義人民共和国の金正恩国務委員長は、史上初の首脳会談を2018年6月12日、シンガポールで開催した。
トランプ大統領と金正恩委員長は新たな米朝関係や朝鮮半島での恒久的で安定的な平和体制を構築するため、包括的かつ誠実な意見交換を行った。トランプ大統領は朝鮮民主主義人民共和国に安全の保証を与えると約束し、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化に向けた断固とした揺るぎない決意を確認した
新たな米朝関係の構築は朝鮮半島と世界の平和と繁栄に寄与すると信じると共に、相互の信頼醸成によって朝鮮半島の非核化を促進すると認識し、トランプ大統領と金正恩委員長は次のように宣言する。
アメリカ合衆国と朝鮮民主主義人民共和国は、平和と繁栄を求める両国国民の希望に基づき、新たな米朝関係の構築に取り組む。
アメリカ合衆国と朝鮮民主主義人民共和国は、朝鮮半島での恒久的で安定的な平和体制の構築に向け、協力する。
2018年4月27日の「板門店宣言」を再確認し、朝鮮民主主義人民共和国は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む。
アメリカ合衆国と朝鮮民主主義人民共和国は朝鮮戦争の捕虜・行方不明兵の遺骨回収、既に身元が判明している遺体の帰還に取り組む。
トランプ大統領と金正恩委員長は「史上初の米朝首脳会談が、両国の数十年にわたる緊張と敵対を乗り越える新たな未来を築く重要な出来事であった」と認識し、この共同声明の内容を「完全かつ迅速に履行すること」を約束した。
アメリカ合衆国と朝鮮民主主義人民共和国は米朝首脳会談の成果を履行するため、「マイク・ポンペオ国務長官と朝鮮民主主義人民共和国の高官の交渉を続けて可能な限り迅速に履行する」と約束した。
トランプ大統領と金正恩委員長は「新たな米朝関係の発展と、朝鮮半島と世界の平和、繁栄、安全のために協力すること」を約束した。
……』
 このアメリカと北朝鮮の共同声明では、朝鮮戦争を終結させることで合意したというのである。その後も両国は積極的な接触を行っている。
 2019年2月27日、ベトナムの首都ハノイでドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による2回の会談が行われ、朝鮮半島の核兵器廃絶に向けた取組についても協議した。金正恩が最も問題としたのは、核を廃棄した場合に、カダフィ大佐と同様に体制を崩壊させられるのではないかというアメリやNATOの対する不信感であった。とくに北朝鮮と交渉にあたっていたのが強硬なボルトン( John Robert Bolton)であった。ボルトンであるが、トランプが大統領に就任する直前に、沖縄駐留アメリカ軍を台湾移転することで「台湾は地理的に沖縄やグアムよりも東アジアの国や南シナ海に近い。この地域への迅速な米軍配備をより柔軟にする」と主張していたことは注目に値する[2]。
 2019年6月30日、ドナルド・トランプ米大統領は、韓国と北朝鮮を隔てる軍事境界線を挟み、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長と握手した。軍事境界線を挟んでトランプ氏が「また会えて嬉しいです」と声をかけると、金委員長はトランプ氏を招き入れるような仕草を見せ、これに応えてトランプ氏が境界線をまたいで北朝鮮側に入った。両首脳は10歩ほど進み、北朝鮮側で再び握手した。
 その後、現職のアメリカ大統領として初めて、境界線を歩いて越え、北朝鮮側に入った。これに続き、金氏がトランプ氏と並んで境界線を越え南側に入った。
 満面の笑みの金委員長は「またお会いできて何よりです。まさかこの場所でお会いできるとは思っていませんでした」と、通訳を介してトランプ氏に言い、トランプ氏は「大変な瞬間です」「素晴らしい前進だ」と答えた。両首脳は続いて、にこやかに談笑しながら共に境界線を南側へ越え、そのまま記者団の質問に応じた。金氏もその場に立ったまま、記者団の質問に答えるという異例の展開となった。金氏は、トランプ大統領が初めて米大統領として初めて軍事境界線を越えたことを強調した。トランプ氏は境界線を越えたのは「本当に歴史的」で、「素晴らしい名誉なことだ」と述べ、2人はあらためて握手を交わした。
 朝鮮戦争終結がいよいよ現実のものとなった瞬間であった。それと共に、日本政府及び外務省を非常に慌てさせることとなった。

朝鮮戦争と国連軍地位協定
 そもそも日本の安全保障の考え方は、日米安全保障条約及び国内法ともに、すべて朝鮮戦争を基に整備されてきた。つまり朝鮮戦争が終戦になるということは、少なからず条約や国内法にも影響を及ぼすことになる。朝鮮戦争の終戦の影響について、朝鮮戦争に派遣された朝鮮国連軍の結成と、サン・フランシスコ講和条約まで遡って検証してみる。
朝鮮国連軍に付いては、外務省公式ページ『朝鮮国連軍と我が国の関係について』に次のようにある。
『……
朝鮮国連軍は,1950年6月25日の朝鮮戦争の勃発に伴い,同月27日の国連安保理決議第83号及び7月7日の同決議第84号に基づき,「武力攻撃を撃退し,かつ,この地域における国際の平和と安全を回復する」ことを目的として7月に創設された。また,同月,朝鮮国連軍司令部が東京に設立された。
……』
この時、朝鮮国連軍司令部は東京の連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)におかれ、ダグラス・マッカーサー(Douglas MacArthur)が司令官に任命された。そして、占領アメリカ軍が今度は朝鮮国連軍となって朝鮮半島に向かった。
その後、朝鮮戦争が膠着状態となった1951(昭和26)年9月になると、日本はサン・フランシスコ市で講和条約を締結することになった。サン・フランシスコ講和条約発効後の占領アメリカ軍および朝鮮国連軍の関係を規定している条項がある。
『……
   日本国との平和条約
昭和二六年九月八日サン・フランシスコ市で著名
昭和二六年一一月一八日批 准
昭和二六年一一月二八日批准書寄託
昭和二七年 四月二八日効力発生
昭和二七年 四月二八日公布(条約第五号)
……
第六条
連合国のすべての占領軍は,この条約の効力発生の後なるべくすみやかに、且つ、いかなる場合にもその後九十日以内に、日本国から撤退しなければならない。但し、この規定は、一又は二以上の連合国を一方とし、日本国を他方として双方の間に締結された若しくは締結される二国間若しくは多数国閻の協定に基く、叉はその結果としての外国軍隊の日本国の領域における駐とん又は駐留を妨げるものではない
……』
 すなわちサン・フランシスコ講和が効力を発すると、昭和27年4月28日から90日以内に占領軍は日本から撤退することになっていた。この条文通りに占領アメリカ軍を撤収すると、朝鮮戦争で戦闘が継続中にもかかわらず、戦争を継続することが困難となってしまう。併せてマッカーサーも日本を去らなければならず、朝鮮国連軍の司令官が不在となる。そこでアメリカは一計を案じ、講和条約締結の当日、吉田茂とアメリカの国務長官ディーン・アチソンとの間で占領軍が引き続き駐留することを認めるという交換公文が取り交わした。
『……
吉田・アチソン交換公文(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約の署名に際し吉田内閣総理大臣とアチソン国務長官との間に交換された公文)

合衆国国務長官から内閣総理大臣にあてた書簡
 書簡をもつて啓上いたします。本日署名された平和条約の効力発生と同時に、日本国は、「国際連合がこの憲章に従つてとるいかなる行動についてもあらゆる援助」を国際連合に与えることを要求する国際連合憲章第二条に掲げる義務を引き受けることになります。
 われわれの知るとおり、武力侵略が朝鮮に起りました。これに対して、国際連合及びその加盟国は、行動をとつています。千九百五十年七月七日の安全保障理事会決議に従つて、合衆国の下に国際連合統一司令部が設置され、総会は、千九百五十一年二月一日の決議によつて、すべての国及び当局に対して、国際連合の行動にあらゆる援助を与えるよう、且つ、侵略者にいかなる援助を与えることも慎むように要請しました。連合国最高司令官の承認を得て、日本国は、施設及び役務を国際連合加盟国でその軍隊が国際連合の行動に参加しているものの用に供することによつて、国際連合の行動に重要な援助を従来与えてきましたし、また、現に与えています。
 将来は定まつておらず、不幸にして、国際連合の行動を支持するための日本国における施設及び役務の必要が継続し、又は再び生ずるかもしれませんので、本長官は、平和条約の効力発生の後に一又は二以上の国際連合加盟国の軍隊が極東における国際連合の行動に従事する場合には、当該一又は二以上の加盟国がこのような国際連合の行動に従事する軍隊を日本国内及びその附近において支持することを日本国が許し且つ容易にすること、また、日本の施設及び役務の使用に伴う費用が現在どおりに又は日本国と当該国際連合加盟国との間で別に合意されるとおりに負担されることを、貴国政府に代つて確認されれば幸であります。合衆国に関する限りは、合衆国と日本国との間の安全保障条約の実施細目を定める行政協定に従つて合衆国に供与されるところをこえる施設及び役務の使用は、現在どおりに、合衆国の負担においてなされるものであります。
 本長官は貴大臣に敬意を表します。
千九百五十一年九月八日
ディーン・アチソン
……』
とある。つまり、日本は、国際連合が派遣した軍隊、占領アメリカ軍がそのまま駐留を継続することに合意していたのだ。この交換公文をもとに取決めたのが、昭和29(1954)年2月19日、朝鮮国連軍が我が国に滞在する間の権利と義務その他の地位及び待遇を規定する「日本国における国連連合の軍隊の地位に関する協定」(国連軍地位協定)となった。この協定の中で、国連軍が撤収する条項を確認すると次のとおりである。
日本国における国連連合の軍隊の地位に関する協定

昭和二九年二月一九日東京で署名
昭和二九年五月二一日受諾について内閣決定
昭和二九年六月一日受諾書寄託
昭和二九年六月一日公布(条約第一二号)
昭和二九年六月一一日効力発生
……
 千九百五十一年九月八日に日本国内閣総理大臣吉田茂とアメリカ合衆国国務長官ディーン・アチソンとの間に交換された公文において,同日サン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約の効力発生と同時に,日本国は,国際連合が国際連合憲章に従つてとるいかなる行動についてもあらゆる援助を国際連合に与えることを要求する同憲章第二条に掲げる義務を引き受けることになると述べられているので,
 前記の公文において,日本国政府は,平和条約の効力発生の後に一又は二以上の国際連合加盟国の軍隊が極東における国際連合の行動に従事する場合には,当該一又は二以上の加盟国がこのような国際連合の行動に従事する軍隊を日本国内及びその附近において支持することを日本国が許し且つ容赦することを確認したので,
 国際連合の軍隊は,すべての国及び当局に対して国際連合の行動にあらゆる援助を与えるよう要請した,千九百五十年六月二十五日,六月二十七日及び七月七日の安全保障理事会決議並びに千九百五十一年二月一日の総会決議に従う行動に今なお引き続き従事しているので,また,
 日本国は,朝鮮における国際連合の行動に参加している軍隊に対し施設及び役務の形で重要な援助を従来与えてきており,且つ,現に与えているので,
 よつて,これらの軍隊が日本国の領域から撤退するまでの間日本国におけるこれらの軍隊の地位及び日本国においてこれらの軍隊に与えられるべき待遇を定めるため,この協定の当事者は,次のとおり協定した。
   第一条
この協定に別段の定がある場合を除く外、この協定の適用上次の定義を採択する。
(a)「国際連合の諸決議」とは、で九百五十年六月二十五日、六月二十七日及び七月七日の国際連合安全保障理事会決礒並びに千九百五十一年二月一日の国際連合総会決議をいう。
(b)「この協定の当事者」とは、日本国政府.統一司令部として行動するアメリカ合衆国政府及び、「国際連合の諸決議に従って朝鮮に軍隊を派遣している国の政府」として、この協定に受諾を条件としないで署名し、「受諾を条件として」署名の上これを受諾し、又はこれに加入するすべての政府をいう。
(c)「派遺国」とは、国際連合の諧決議に従って朝鮮に軍隊を派遣しており又は将来派遣する国で、その政府が、「国際連合の路決議に従って朝鮮に軍隊を派遣している国の政府」としてこの協定の当事者であるものをいう。
(d)「国際連合の軍隊」とは、派遣国の陸軍、海軍又は空軍で国際連合の諸決議に従う行動に従事するために派遣されているものをいう。
……
    第二十四条
 すべての国際連合の軍隊は、すべての国際連合の軍隊か朝鮮から撤退していなければならない日の後九十日以内に日本国から撤退しなければならない。この協定の当事者は、すべての国際連合の軍隊の日本国からの撤退期限として前記の期日前のいずれかの日を合意することができる。
……
……』
同協定第24条には、すべての国連派遣軍が朝鮮半島から徹底していなければならない日から90日以内に日本からも徹底しなければならないと定められている。要するに朝鮮半島から国連派遣軍が徹底すべき日とは、朝鮮半島が終戦となって派遣軍が駐留する根拠がなくなり朝鮮半島から完全に撤退する日なのである。
 尚、同協定の締結国は、アメリカ、カナダ、ニュー・ジーランド、イギリス、南アフリカ連邦、オーストラリア、フィリピン、フランス、イタリアの9カ国であった。この締結国の中心は、イギリスとイギリス連邦(Commonwealth of Nations)に加盟するカナダ、ニュー・ジーランド、南アフリカ連邦、オーストラリアなのだ。ちなみにイギリス連邦には、イギリスの旧植民地であった56国が加盟していて国際連合(United Nations)内で最大の派閥を形成している。国連で安全保障の問題を多数決で決定してはならないのは、最大派閥の意見に左右されることが多いためである。ウクライナ問題はその好例である。常任理事会に、国際連合憲章第27条による拒否権があるのは合理的な方法なのだ。
 また、イギリス連邦と日本の安全保障に関連する出来事を考えるうえで「日本国における国連連合の軍隊の地位に関する協定」(国連軍地位協定)は非常に重要な意味を持っている。
 例えば、令和4(2022)年10月25日に、防衛省は、警察予備隊創設70年を記念し、同年11月6日に相模湾で国際観艦式を開催することを決めた。参加国はアメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、インドネシア(オーストラリアと安全保障に関する協定を締結)、マレーシア、ニュー・ジーランド、シンガポール、タイ(朝鮮戦争参戦国)、インド、パキスタン、ブルネイ、韓国(当事国)の13か国であった。この参加国を見て直ちに思いつくことは、太字の参加国がイギリス連邦諸国であることと、そして朝鮮戦争参戦国なのである。日本はアメリカ以外に安全保障条約を締結した国はない。しかし、朝鮮戦争に参戦した国、若しくは将来参戦する国の地位を定めた「国連軍地位協定」では、朝鮮国連軍統一司令部、つまりアメリカ軍の下で、『……平和条約の効力発生の後に一又は二以上の国際連合加盟国の軍隊が極東における国際連合の行動に従事する場合には,当該一又は二以上の加盟国がこのような国際連合の行動に従事する軍隊を日本国内及びその附近において支持することを日本国が許し且つ容赦する……』という定めがある。この条項を利用したからこそイギリス連邦諸国が観艦式に参加することができたのだ。そればかりか、イギリス連邦諸国はアメリカ軍の指揮のものと自衛隊と日常的に戦闘訓練を行うことも可能となっている。近年、自衛隊はイギリス連邦諸国と頻繁に戦闘訓練を行うようになったのは昭和29(1954)年に締結した古色蒼然とした「日本国における国連連合の軍隊の地位に関する協定」(国連軍地位協定)があったからこそ可能だったのだ。

国連軍地位協定と日米安全保障条約の関係
 ところで「国連軍地位協定」と日米安全保障条約は別物であるという意見もあろうことから、それが間違いであることを示しておく。
昭和35(1960)年1月19日にワシントンで「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」を締結しているが、同時に付属文書も取り交わされていた。
『……
アメリカ合衆国国務長官
クリスチャン・A・ハーター
日本国総理大臣 岸信介閣下

書簡をもつて啓上いたします。本長官は、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名されたアメリカ合衆国と日本国との間の安全保障条約、同日日本国内閣総理大臣吉田茂とアメリカ合衆国国務長官ディーン・アチソンとの間に行なわれた交換公文、千九百五十四年二月十九日に東京で署名された日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定及び本日署名されたアメリカ合衆国と日本国との間の相互協力及び安全保障条約に言及する光栄を有します。次のことが、本国政府の了解であります。
1 前記の交換公文は、日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定が効力を有する間、引き続き効力を有する。
……
本長官は、閣下が、前各号に述べられた本国政府の了解が貴国政府の了解でもあること及びこの了解が千九百六十年一月十九日にワシントンで署名された相互協力及び安全保障条約の効力の発生の日から実施されるものであることを貴国政府に代わつて確認されれば幸いであります。
本長官は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。
千九百六十年一月十九日
アメリカ合衆国国務長官
クリスチャン・A・ハーター
……』
 これは日米安全保障条約がサン・フランシスコ講和会議において締結された安全保障条約、吉田茂アチソン交換公文及び「日本国における国連連合の軍隊の地位に関する協定」(国連軍地位協定)を引続き効力を有することの確認を求めたものである。
 日米安全保障条約を締結したものの、アメリカ軍が駐留する根拠は吉田・アチソン交換公文であり、駐留アメリカ軍の地位を定めているのは「国連軍地位協定」なのだ。
 此の確認文書からもわかる通り、日米安保条約を破棄するには1年前に通告する必要がある。しかし、日米安全保障条約のもととなる交換公文や「国連軍地位協定」では朝鮮戦争が終戦となり撤退が完了すれば90日以内に駐留アメリカ軍は撤収してしまうのだ。

狼狽える政府自由民主党と外務省
 くどいようであるが、2018年6月1日、シンガポールでのドナルド・トランプ大統領と金正恩朝鮮労働党委員長との会談後に出された共同声明により、駐留アメリカ軍の撤退日が具体化することになった。それは日本の安全保障に関する法体系は、朝鮮戦争が継続することを前提として組み立てられていた根拠が消滅することになるのだ。
 日本政府は、日米安全保障条約によりアメリカ軍が日本に駐留することが抑止力であると説明し、安全保障上必要であるという理由で屈辱的な行政協定を認め、自衛隊の指揮権をアメリカに売渡し、航空管制権を売渡し、アメリカの本土防衛のために日本の電波権を売渡すなど、国民に多大な犠牲を強いてきた。それが、朝鮮戦争終戦とともに、駐留アメリカ軍は、もぬけの殻となってしまうのだ。そのときに、国民は自民党政権に騙されていたことを目の当たりにすることになる。それとともに、日米安全保障条約は、たんなる治外法権の象徴となるのだ。そして自民党は結党以来、日本の主権をアメリカに売渡すことを既得権益として国内政治を牛耳ってきたが、それは「自由民主党=売国政党」であったことが戦後史で確定する。併せて「アメリカに防衛権を移譲し続けることが仕事であった」外務省がいかに無能であるかが明らかになる日なのだ。したがって外務省及び自由民主党の既得権行は全て消滅してしまうのだ。その衝撃がいかに強烈であったのかは想像に余りある。
 そのため、急遽、自由民主党と外務省とはRUSI( Royal United Services Institute for Defence and Security Studies、イギリス王立防衛安全保障研究所)の安全保障案を丸呑みすることにして「イギリスのヨーロッパ防衛戦線組織」であるNATOに擦寄って出来上がったのが「令和4年日本国国防方針」だったのだ。だから「令和4年日本国国防方針」は日本とは無関係のNATO標準の防衛費対GNP比2%であり、仮想敵国ロシアなのだ。
 かねてからイギリスは、自国の戦力不足を解消するため自衛隊をイギリスの戦略の中に組み込むことを目指していた。それが、トランプが進める朝鮮戦争終結というデタントにより、NATOと同様に存在意義が問われることになった自由民主党政権が頼ったのがイギリスであった。イギリスに取って日本政府と外務省の無能さは「勿怪の幸い」「棚から牡丹餅」「鴨が葱を背負って来る」だったのだ。イギリスは、100年前の日英同盟と同じように、自国戦略上で手薄な地域に日本の戦力を自由にかつ無償で配置する権利を獲得するつもりなのだ。その見返りが、これまで通りに治外法権を容認する自由民主党に日本国の統治を任せることにしているのだ。そして自由民主党政権が、国民をだます方法として利用しているプロパガンダが排除の論理「共通の価値」と国家間の不平等を容認する「法の支配」という言い訳なのだ。

 本政府自由民主党が国民に隠蔽し虚言を弄してきたのは、日本が主権国家ではなく治外法権の国だということに尽きる
 唯一の救いは、日本が治外法権国に甘んじているのは、たんに自由民主党が政権を握っているだけであって、政権を交代して「行政協定」を破棄してゆく努力で日本の主権を回復することは可能である。
 事実、トランプ大統領は、日本政府に朝鮮戦争を終結させるので、それにともない日本に強いてきた駐留軍の地位を定めた「行政協定」が撤退により不要になることを日本政府に示したではないか。
 トランプが2%の防衛費まで引き上げるように求めたのは、主権国であるなら自主防衛をすべきではないかといっているのであって、自衛隊の指揮権をアメリカに売飛ばしたまま、GNP比2%まで軍拡して、さらにアメリカにとって使い勝手のよい自衛隊にして提供しろとは言っていないのだ。ここまで自虐的な政府自民党、外務省、与党に協賛する野党や「連合」は、すべて解体し下野すべきなのだ。
 売国政党である自由民主党を支持してきたのも日本国民である。ならば国民は、昭和20年8月15日に「八紘一宇」や「東亜共栄圏」そして「愛国」などというイデオロギーやプロパガンダは跡形もなくなり、荒廃した日本があったというリアリズムに立ち戻って考え直す必要があるだろう。これ以上、虚言を弄する政府自由民主党を支持するというのは、もはや、愚かなことなのだ。日本の宿痾は、自由民主党の存在なのだ。
(つづく)

[1] Wedge(2016年12月21日)「在日米軍の駐留経費は日本が負担すべきか?」

https://wedge.ismedia.jp/articles/-/8370 (2023.02.02閲覧)。

[2] 琉球新報(2017年1月19日)「在沖米軍 台湾移転を」 米国務副長官候補が提言」

https://ryukyushimpo.jp/news/entry-429626.html (2023.02.25 閲覧)。

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オハイオで列車事故、環境破壊、人命危機か?

2023-02-24 | 小日向白朗学会 情報
 CNNが2023.2.17にこんなタイトル「危険物積載の列車脱線事故、バイデン政権が支援提供 米オハイオ州」で記事を配信している。この事故は、2月3日にアメリカ合衆国オハイオ州でノーフォーク・サザン鉄道の貨物列車150両(空車9両+積載車141両)のうち50両の車両が脱線したというもの。同列車には相当の危険化学物質(クロロエチレンやアクリル酸ブチルetc.)が積載されていた。なかでもノーフォーク・サザン社がプラスチック製品製造向けに使用していた高濃度の塩化ビニルが注目される。これは燃焼すると塩化水素とホスゲンに分解されるが、このホスゲンは第一次世界大戦時に窒息ガス兵器として使用されたものである。17日時点では健康被害報告はないが、州当局では3500匹の死魚が見つかったと発表している。つまり、相当の環境破壊と人命への危険が予測されるのだ。
 一昨日2月22日幸福実現党の及川幸久氏はユーチューブで次のような指摘をしている。バイデンさんはポーランドでウクライナ応援アピール、これに対してトランプさんはさっそく事故地現地入りしているのだが、「バイデンはAmerica-Last、トランプはAmerica-First」だと。その証拠に政権関係者はバイデン指示がないのかだーれも現地入りしていないのだ、22日時点で。どちらが愛国者かは一目瞭然、ということか。及川氏はさらに、バイデン方式と似ているいるのが岸田政権だ、と指摘する。さて、岸田氏は愛国者なのか?  そういえばNATOヨイショ節を謳い続けているのが岸田政権のような気もする。私としてはJapan-Firstにしてほしいと思うのだが。
 ところでわが国ではほとんど報道がないのが不思議だが、日経紙が23日に「米オハイオ州列車脱線 トランプ氏が訪問」という記事を配信した。また、Huffpostでは2月16日次のような指摘をしている。アメリカ鉄道協会AARが安全装置強化の規制を外すように強力なロビー活動を展開、トランプ政権は2018年これを受け入れて緩和した。その結果かどうかは不明だが、今般事故を起こした列車はECPブレーキを搭載していなかったということだ。まっ、これは結果論でしかないが。(文責:吉田)

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日本の安全保障に関する情報戦(プロパガンダ)(第三回 3) -日本政府の隠蔽と虚言-

2023-02-22 | 小日向白朗学会 情報

【もくじ】
はじめに                                                              (2023.02.06 掲載)
一、     NATOとは何か                                          (2023.02.06 掲載)
1.   NATOの沿革                                                   (2023.02.06 掲載)
2.   東西ドイツ統一と核問題                                  (2023.02.06 掲載)
3.   NATOの核とウクライナ問題                            (2023.02.13 掲載)
4.    核共有というNATOの核管理方式
二、     日本の国防費増大はトランプの提言という虚言   (今回掲載)
1.   トランプ大統領とNATO                                       (今回掲載)
2.   張り子のトラNATOの装備                                   (今回掲載)
3.    自民党政権崩壊の危機
三、       五年以内という期限を限定した意味
1.核共有を日本に導入する
2.日本国内の政治動向
まとめ


  二、日本の国防費増大はトランプ元大統領の提言とする虚言
  1、トランプ大統領とNATO
・2016年アメリカ大統領選挙
 2016年11月8日に行われてアメリカ大統領選挙は、共和党は大統領候補ドナルド・トランプ(Donald John Trump)と副大統領候補マイクペンス(Michael Richard Pence)、民主党は大統領候補ヒラリー・クリントン(Hillary Diane Rodham Clinton)と副大統領候補ティム・ケイン(Timothy Michael "Tim" Kaine)で行われた。結果はトランプの勝利となった。2016年の大統領選挙は、同年5月4日に行われた共和党候補を選ぶ予備選挙の時にトランプがNATO批判をしたことから大混乱が予想されていた。その様子を『『フォーリン・アフェアーズ』(2016年5月号)『『大西洋同盟の未来 トランプが投げかけた波紋」[1]が伝えている。
『……
(筆者追記:トランプ)「われわれは(NATOメンバー国を)守っている。彼ら(ヨーロッパ)はあらゆる軍事的保護を受けているが、アメリカ、そして納税者であるあなたたち(アメリカ市民)に、法外な資金を負担させている。これは問題がある。過去の分を含めて、(ヨーロッパのメンバー国は)資金を完済するか、同盟から出て行くべきだ。それがNATOの解体を意味するのなら、それはそれでかまわない」。予備選挙の共和党大統領候補、ドナルド・トランプはNATO批判を強めている。NATO事務総長、ヤンス・ストルテンベルグは、これに対する直接的なコメントは避けつつも、ヨーロッパ側が防衛予算を増やす必要があることを認めた上で、「より危険な世界に対処していく答は、これまで大きな成功を収めた強靱な同盟関係(NATO)をダウングレイドすることではなく、同盟関係をもっと強化することだ」と主張する
……』
 トランプは、NATO加盟国には相応の軍事費を負担しない国が存在すのは不公平である。それらの国はアメリカ国民に法外な資金を負担させ続けるならば、同盟を離脱するべきであると主張した。そして、それらの国がNATOを離脱することでNATOが解体となっても構わないと、NATO解体まで持ち出したのだ。
 そのため2016年7月18日に大統領候補を選ぶ共和党全国大会が行われたが、ジョージ・H・W・ブッシュ、ジョージ・W・ブッシュ両元大統領、ジョン・マケイン上院議員、ミット・ロムニー元マサチューセッツ州知事といった過去の大統領候補者は、本選では民主党候補ヒラリー・クリントンに投票すると表明して欠席してしまった。それもそのはずである。ブッシュ元大統領は、2001年にテロとの戦いと称して、当時アフガニスタンの支配勢力であったターリバーンに、オサマ・ビンラディンの身元引き渡しを求めてNATO加盟国を含む40カ国以上の連合国を編成し開始した戦争であった。その後もアメリカ軍のアフガン駐留は続いたが、撤退を決めたのはトランプ大統領であった。トランプ大統領はアフガニスタン政府を加えずにターリバーンと直接交渉を開始したことで解決への糸口をつかみ、政権が変わった2021年の撤退へとつながった。ブッシュは、共和党大会でトランプ大統領候補がNATOを批判したことから、やがて自身の批判に及ぶことを懸念してクリントン支持を言い出したのだった。
 また、同大会では、それまで共和党大会に協賛してきたアップル、フォード・モーター、JPモルガン・チェースなどの大企業もスポンサーを降りるなどしたことから大混乱となった。しかし、トランプが過半数を制したことで、正式に大統領候補となった。その時の受諾演説があるので、注目すべき箇所を見ておく[2]。
『……
皆さんの大統領として、私は、①憎しみに満ちた外国のイデオロギーの暴力や抑圧から、アメリカのLGBTQ(筆者注:性的少数者(セクシュアルマイノリティ))の市民を守るために全力を尽くします。
……
②ヒラリー・クリントンが、イラクやリビア、エジプト、シリアで推し進めて失敗に終わった国家建設や体制変革の政策を捨てなくてはなりません。
……
先日、私は、③NATO=北大西洋条約機構はテロに適切に対応しておらず、加盟国の多くが相応の負担を支払っていないため、時代遅れだと言いました。いつものように、アメリカがその「つけ」を支払っています。私の発言のすぐあとに、NATOはテロと戦う新しいプログラムを策定すると発表しました。正しい方向への真の一歩です。
……』
 受諾演説にある注目点は「イデオロギーからの解放」「人権政策の転換」「NATO解体」の三点である。これらのどこが注目点であるか見ておく。
①イデオロギーからの解放
 トランプは、演説の中で性的少数者の文脈の中でイデオロギー(Ideology)つまり「社会に支配的な集団によって提示される観念」という用語を使っている。ところで、この用語を、安全保障や政治に持ち込むと「かたより」(Bias)が生じ、収拾が難しくなる。この点をトランプは正確に把握していたものと思われる。
トランプの外交は、「元ビジネスマンだったことから計算高い」と云われることが多い。しかし、実は安全保障や政治にイデオロギーを介在させないために採用した非常に洗練させた手法であったと考えられる。イデオロギーの典型が「鉄のカーテン」から始まった東西冷戦対立(アメリカ対ソビエト連邦)及びNATO(北大西洋条約機構)対WTO(ワルシャワ条約機構)である。しかし、ソビエト連邦が解体したことでワルシャワ条約機構も消滅して、仮想敵国がNATO加盟国に攻撃をくわえるという状況は存在せずNATOに存在する理由がなくなっていた。そのため加盟国の努力目標となっていた防衛費対GDP比2%を満足する国は僅かであった。つまりイデオロギーから導き出された仮想敵国に対処する目的で防衛費を出費する国はなくなっていたのである。それでトランプ大統領候補は、NATOは時代遅れであり解体まで言い出した。つまり、トランプは、イデオロギー問題から始めると「正義の戦い」や「愛国」など諸説紛紛となるため、「それが国民にとって得か損か」と費用問題に絞って話を進めることにしたのだ。この考え方は、日本が終戦で国も人も甚大な被害をうけた衝撃を基本として日本国憲法が成立したことにも通じるものでる。
 ちなみにトランプ大統領のイデオロギーを排して軍事を考えるという方針が出来上がった背景として、トランプ大統領の長年のアドバイザーを務めていたロジャー・ストーン(Roger Stone)というニクソンの崇拝者の存在があったと考えられる。ニクソンと云えばウオーターゲイト事件がつとに有名であるが、其れよりも重要な米中接近及びベトナム撤退に取り組んだデタントの先駆者であったことが重要である。そんなストーンがトランプのアドバイザーとなっていたことから、ニクソンの理想を受け継いだのがトランプであったとみてよいであろう。つまりトランプ大統領は、存在意義がなくなったNATOを費用の面から解体することを目指していたと考えられる。
 2016年7月22日、トランプは大統領選挙指名受諾後に新聞社のインタビューに応じた。それが「トランプ氏、NATO共同防衛体制の見直し提言」[3]である。
『……
米共和党の大統領候補ドナルド・トランプ氏は20日付の米ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューで、北大西洋条約機構(NATO)の共同防衛に条件を付けるべきだとの考えを示した。
トランプ氏は、NATO加盟国であるバルト3国にロシアが侵攻したら防衛するかとの質問に対して、米国は、加盟国が義務を果たしている場合のみ防衛する、と答えた。
……
安全保障当局者や一部の共和党員からは、NATOの共同防衛体制を否定することは、過去66年間の米外交政策を放棄し、NATOの基本理念を脅かすことになるとの批判があがっている。
トランプ氏はこれまでにも、同盟国に対して防衛費の負担拡大を求める考えを示している。
……』
 NATOに新規加盟したバルト三国は、経済はEUに依存し、防衛はNATOの抑止力でロシアに対抗していたからである。
トランプが大統領候補となった2016年11月にNATO加盟国で目標のGDP比2%を超えたのは、NATOが公表するデータによれば、米国を除けば、ギリシャ、英国、エストニア、クロアチア、ポーランドの5カ国であった[4]。そもそも防衛費GDP比2%が再燃したのは、2014年にロシアがクリミア半島を併合した際に、ロシアがウクライナに30億ドルを融資した条件がEUとNATO及びIMFにとって不利なものであったことから、対ロシアに対する制裁や抑止力行使を見送る代わりに、NATO加盟国、特にポーランドに対して、NATO加盟国が兵力を整備することで「臥薪嘗胆」するという妥協の産物であった[5]。
実際は、2014年から3年が経過してもほとんどの国は防衛費を増額するまでには至っていなかった。

 2017年5月26日、トランプは就任後初めてNATO首脳会議に出席した。その時の様子は「トランプ氏「NATOは応分の財政負担を」、初の首脳会議に出席」[6]とする記事が詳しい。
『……
トランプ米大統領は25日、就任後初めて出席した北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で、加盟国に応分の財政負担をあらためて求め、過激派を阻止しなければ、英中部マンチェスターで発生した爆破事件のような攻撃が再び起こると訴えた。
トランプ大統領は「テロリズム打倒と永続的な安全保障や繁栄、平和実現への決意は揺るがない」とし、「テロを阻止しなければ、マンチェスターのような恐ろしい事件が永遠と続く」と述べた。
トランプ大統領はNATOを「時代遅れ」などと批判していた経緯があり、他の首脳はトランプ大統領がNATOへの支持を公言することを期待していた。
だがトランプ大統領はNATO条約第5条の集団的自衛権へのコミットメントを明言しなかった。また「加盟28カ国のうち二三カ国はいまだに求められている国防費を負担していない」と指摘、「米国の納税者にとり不公平だ。これらの国の多くが過去数年にわたり多額の借金を負っている」とした。
……』
 このトランプの主張に、ストルテンベルグ事務総長はNATO加盟国に国防費の増額を求めてゆくことには同意していたものの、内心はNATO解体の話が出ることを恐れていた。
それはNATOの盟主アメリカと仮想敵国ロシアが接近する可能性が高かったからであった。2017年7月7日、ドイツ・ハンブルクで主要20カ国・地域首脳会議(G20サミット)が開催された際に、ドナルド・トランプ米大統領とウラジーミル・プーチン・ロシア大統領による初めての会談が行われた[7]。この会談をNATOはどのように見ていたかといえば、NATOの抑止力を行使すべ対象国であるロシアの大統領プーチンと、NATO盟主であるとともにNATO解体を目指すアメリカの大統領トランプが会談することは、それだけで十分に危険なことであった。

②ヒラリー・クリントンの人権政策の失政
次に大統領受諾演説の中でトランプ大統領候補が、ヒラリークリントンがリビア等の体制変革を指導したことは失政であるとしたことは、その後の大統領となったトランプと北朝鮮の関係とも関連することなので、リビアが如何なる方法で体制崩壊に至ったのかを補足しておく[8]。
『……
リビアの最高指導者、カダフィ大佐は2003年12月、大量破壊兵器計画の放棄を約束し、無条件査察を受け入れた。米英との秘密交渉の末、方針転換を決断した。
核兵器開発用の遠心分離機の部品は、米国テネシー州オークリッジの施設に搬送された。査察と資機材搬送は(20)04年3月には完了した。
これを受けて米国はテロ支援国家の指定を解除。06年にはリビアとの国交を正常化した。09年7月には主要国首脳会議(ラクイラ・サミット)にアフリカ連合(AU)議長として参加したカダフィ大佐がオバマ米大統領と握手した。
カダフィ大佐は(20)11年8月、欧米の空爆支援を受けた反体制派の蜂起で政権を追われる。同年10月、出身地のシルト近郊で殺害される。
2カ月後、北朝鮮ではカダフィ大佐と同世代だった金正日(キム・ジョンイル)総書記が死去。父から政権を引き継いだ正恩氏はリビアを反面教師とし、核・ミサイル開発に突き進む。
トランプ米大統領は北朝鮮が非核化に応じた場合、体制保証の用意があるとし、リビアのケースとは異なるとの認識を示す。ただリビア方式を提唱してきたボルトン大統領補佐官はシンガポールに同行している。
……』
 つまり民主化とは、最初に核を放棄させ、次いで民衆による反体制運動にNATOやアメリ軍が介入して政権を転覆させてしまうという手法である。そしてNATOがリビアで・カダフィ大佐の追い落としを狙って如何なる関与をしたのかについては、2015年4月号、フォーリン・アフェアーズ「人道的介入で破綻国家と化したリビア」に詳しい[9]。
『……
2011年3月17日、国連安保理はオバマ大統領が主導した決議1973号を採択し、リビアへの軍事介入を承認した。(オバマ)大統領は「リビアの独裁者、ムアンマル・カダフィによって弾圧の対象とされている民主化を求める平和的デモ参加者の命を救うことが介入の目的だ」と説明した。「カダフィは、チュニジアやエジプトで権威主義政権を倒したアラブの春のリビアにおける流れを粉砕し、いまや民衆蜂起が最初に起きた都市を血の海に沈めようとしている」。オバマは後に次のように語っている。「あと1日、軍事介入を見合わせていれば、(ノースカロライナ州)シャーロットと同規模の都市ベンガジで、世界の良心を傷つけ、地域的な余波を伴う大量殺戮が起きることは分かっていた」
安保理決議から2日後、アメリカとNATO(北大西洋条約機構)の同盟国はリビア上空に飛行禁止空域を設定し、リビア軍に対する空爆を開始した。7カ月後の2011年10月、欧米の支援を受けた反政府武装勢力がリビアを制圧し、カダフィは殺害される。
  軍事的勝利を収めた直後、米政府関係者は目的を達成できたことに満足していた。2012年にフォーリン・アフェアーズ誌に寄せた論文で、当時のNATO米大使アイボ・ダールダーと欧州連合軍最高司令官ジェームズ・スタブリディスは「NATOのリビアにおける軍事行動は、理想的な介入モデルとみなせる」とさえ主張した。カダフィがこの世を去った後、オバマはホワイトハウス・ローズガーデンにおける記者会見で「米地上軍を1人も投入せずに、われわれは目的を達成した」と宣言した。
……』
 NATOは、ソビエト崩壊で、軍事的に対立するはずのワルシャワ条約機構(WTO)も崩壊したため、その存在する根拠を失っていた。しかし、NATOは自らを解体する道を選ばずに、近隣諸国に人道的介入することで、自らの存続を図ることにした。そのモデルケースとなったのがNATOによるリビア介入だった。そのため欧州連合軍最高司令官ジェームズ・スタブリディスは「NATOのリビアにおける軍事行動は、理想的な介入モデルとみなせる」と豪語していたのだ。トランプは、存在理由のなくなったNATOが地域紛争に介入して組織を温存させていることは、莫大な費用をアメリカが負担するという愚かしさと危うさを問題にしていた。
 その後のNATOは、リビアの成功例に酔いしれ、次に手をだしたのが2013年末からのウクライナであった。この企てはプーチンに見透かされ大失敗となってしまった。この件に付いては「3.NATOの核とウクライナ問題」で詳しく述べたのでここでは詳細を省くが、アラブの春がクリントンによる失政であると見抜いたトランプが2020年の大統領選で勝利していたならば2022年ロシアによるウクライナ侵攻は起こりえない戦争であった。

・NATOとトランプの対決
トランプは、軍事同盟を締結してきた国々にも防衛費負担の増額をもとめるという手法を使いながらアメリカが関与する紛争地域から撤退するため様々な準備を開始した。
 2018年6月12日にシンガポールでアメリカのドナルド・トランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長及び国務委員会委員長による史上初の首脳会談が行われ共同声明が出された。この共同声明では、アメリカと北朝鮮が朝鮮戦争を終結させることで合意したという歴史的な出来事である。その後も両国による接触が続くことになるが、この共同声明は、NATO関係者に大きな衝撃をあたえることになった。
2018年7月12日、「トランプ氏、NATO加盟国の防衛支出増を要求 ドイツを名指し批判」[10]にトランプがNATOの中でも最も懸念している国がドイツであることが明らかになった。
 トランプ大統領は、ドイツがGDPに対して「1%ちょっと」しか防衛費を支出していないと批判した。それに対してアメリカは「実際の値で」4.2%を投じているとしている。
 NATOの統計によると、ドイツの防衛支出はGDP比1.24%、米国は3.5%であった。また、ドイツは、ロシアから天然ガスを輸入しドイツ国内で必要とする50~75%を担っていて、さらに新しいガスパイプライン(Nord Stream2)ができると、そのうちの60から70%をドイツが利用することになっていた。ドイツは、軍事同盟の費用はアメリカが負担し、ドイツの経済発展はNATOの仮想敵国ロシアから購入して出来上がった製品をアメリカへ輸出することで大きな貿易黒字を出すという大きな矛盾を抱えていた。
『……
ドナルド・トランプ米大統領は……北大西洋条約機構(NATO)加盟国に対し防衛費支出を、目標の倍に当たる対国内総生産(GDP)比4%に引き上げるよう求めた。
……」
とまで言い出した。
 その2018年7月16日、トランプ大統領とプーチン大統領が首脳会談後の記者会見で、ロシア産天然ガスを新たなパイプライン経由でのドイツに輸出していることに関して、新たにできる「ノルドストリーム2」経由でドイツがガスをロシアから輸入する分について「それがドイツの最善の利益かどうか必ずしも確信が持てないが、彼らが行った決定だ」と対応を軟化させていた[11]。つまりドイツがNATOから離脱するならばそれも構わないという考えであったと考えられる。
 そもそも、ノルドストリーム2(Nord Stream2)は毎年550億㎥のガスを直接ドイツへ送り込むことができる約1200kmの海底ガスパイプラインである。その総工費は95億ユーロ(1兆2350億円)にのぼる。このパイプラインが完成すると、ロシアはウクライナやポーランドを迂回して、大消費国ドイツに直接ガスを送り込むことができるというものであった[12]。
 これに対してウクライナやポーランドがノルドストリーム2の建設に反対していた。それにもかわらずドイツとロシアが、海底パイプライン建設に踏み切ったのは、2005~2006年にウクライナがガス抜き取りを行ったことからロシアからヨーロッパへのガス輸送が一時滞ったことがあった。
 ロシアのプーチン大統領とドイツのシュレーダー首相(当時)は2005年4月にノルドストリームの建設について合意し建設を開始して2011年に、1本目が稼働することになった。また2本目の海底パイプラインは2018年に着工している。その結果、2本目のガスパイプラインが出来上がると、ガスは年間総ガス容量550億m3から1100億m3に倍増する予定であった。2本のガスパイプラインが稼働することに経済的危機感を抱いていた国があった。それはウクライナである。ウクライナは、ロシアからパイプラインの通過料として年間30憶ドル、国家歳入の7%程度を受取っていたが、ガスパイプラインの本格稼働で重要な歳入が絶たれる可能性があった[13]。そのため海底ガスパイプラインには否定的であった。
 ロシアがウクライナに侵攻を決断する要因としてウクライナを通過するパイプラインの存在と、ロシア産天然ガスに纏わるウクライナ国内の汚職と腐敗も見過ごすことができない点である。

 2020年6月、トランプ大統領は、就任以来、NATO加盟国が防衛費を増額させるように求めていたが、事態がなかなか改善しないことに強い不満を述べていた。そしてついにドイツから駐留アメリカ軍を撤退せることを発表した。NATOの存在意義が問われることから加盟国は大混乱となった[14]。
『……
トランプ米大統領がドイツ駐留米軍の規模を9500人減らす計画だと伝えられ、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の心をかき乱す新たな要素となっている。
……
欧州全域には引き続き約5万人の米国兵士が存在し、米政府はなお多額の欧州関連防衛予算を出しているからだ。
……
他のNATO加盟国の拠出額が増加したおかげで、米国としてドイツに大規模な緊急展開部隊を置いておく重要性が薄れたこともある。
……
そもそもトランプ氏が11月の大統領選挙で敗北すれば、計画自体が撤回されてもおかしくない。
……
トランプ氏がNATOの存在価値に疑問を呈し、防衛費の負担が少ない国を「怠慢」と決めつける振る舞いは、今に始まったことでもない。
……
NATO加盟国は、トランプ氏が同盟相手への不平不満を口にすることで、NATO自体に対する大衆の支持が損なわれるのを心配している。
……
それでもトランプ氏はNATO批判を口にしながら、欧州関連の防衛予算を2018年度の47億ドル(約5000億円)から19年度は65億ドルに拡大した。20年度は59億ドルを議会に要請している。
……』
 そもそもNATOとは、初代事務総長イスメイ(Hastings Lionel "Pug" Ismay)によれば「ソ連を締め出し、米国を引き込み、ドイツを抑え込むことだ」で「自由世界全体が1つの傘の下に収まるまで成長しなければならない」と述べていたことからもわかるように、仮想敵国を決めてそれに対して戦うことが自由主義陣営の繁栄の源であるという、非常に偏った考え方であった。そのためNATOは、アメリカの人権擁護と云う政策に連携して協力することで組織の存続を図ろうとした。
 これに対してトランプの政策は、第二次世界大戦後のドイツを抑えておくために駐留していたアメリカ軍を撤退することで、NATOが存続する理由をすべて消滅させることだったのだ。
 トランプ大統領の発表に、驚愕したNATO関係者は「11月の大統領選挙で敗北すれば、計画自体が撤回されてもおかしくない」と何やら2020年11月の大統領選挙の混乱を予想させるようなコメントまで飛び出すほどであった。
そのような周囲からの反対意見にも関わらず、同年7月29日、ドイツ駐留アメリカ軍撤退の詳細が明らかとなった[15]。
『……
アメリカは29日、ドイツに駐留している米軍を約1万2000人削減する計画を発表した。ヨーロッパにおける「戦略的な」再配置としている。
削減する米兵のうち、約6400人はアメリカに帰国。その他は、イタリアやベルギーなど北大西洋条約機構(NATO)加盟国に移される。
ドナルド・トランプ米大統領はこの動きについて、NATOの防衛支出目標をドイツが達成していないことを受けたものだと述べた。
……
加盟各国は防衛費について、2024年までに国内総生産(GDP)の2%にすることで合意している。しかし、ドイツなど多くの国がこの目標をまだ達成していない。
……
この削減でドイツ駐留米兵は現在の4分の1以上が減ることになる。
エスパー氏によると、戦闘機の部隊はイタリアに移す。他の部隊の一部はポーランドに配置するという。
……』
 その後、政権はトランプ大統領からバイデン大統領に代わったものの、ドイツ駐留アメリカ軍は、3万6000人から約1万2000人削減して2万4000人となった。削減した約1万2000人の内6400人は米国に帰還し、5600人はNATO内の別の国に再配置となった。また、シュツットガルトにあった米欧州軍司令部もベルギーに移転している[16]。ただし、ドイツのビューヒェル飛行場にはアメリカ軍が保有する核兵器があるとされていている。しかし、この核兵器はアメリカ空軍の管理下にあって、その運用権限はアメリカ大統領が掌握している。以上の経緯で、トランプ大統領が道筋をつけたドイツ駐留軍削減問題はバイデン政権になって結実したのだ。

 この節の終わりに、トランプの政治方針に付いてまとめておく。トランプ大統領はデタントを進める際にはイデオロギーを排除し、軍隊より外交の方が国益にかなう、つまり、アメリカ国民の税金が無駄に使われないことが世界平和に貢献することを十分に理解していて、それを実践していた。それに比べ日本の総理大臣は未だもって「共通の価値を共有する」などとし、依然として「イデオロギー」を対立軸として自衛隊を整備強化して海外派兵する心算でいる。そのため日本は、外交をないがしろにして、軍備拡充に突き進んでいる。
ところで日本国憲法前文には次のように書かれている。
『…………
われらは、いづれの国家も、自国のことのみに専念して他国を無視してはならないのであつて、政治道徳の法則は、普遍的なものであり、この法則に従ふことは、自国の主権を維持し、他国と対等関係に立とうとする各国の責務であると信ずる。
……』
 憲法前文には「いずれの国家も」とあるように、西側の国、東側の国という対立概念をもって外交をおこなってはいけないとしているではないか。それをわざわざ対立を求める政策に舵をきる自民党政権は非常に危険であり危うい。さらに問題を深刻化させている原因として、与党の暴走を抑えるための野党、それも党首までが依然としてイデオロギーの壁から抜け出すことができず、個人のイデオロギーが国益だと勘違いするものまで出現している。「馬鹿もここに極まれり」である。その結果、自由民主党による野党分断工作にまんまと載せられて、ついには国会全体が大政翼賛会となってしまった。さらに輪をかけて問題なのは「連合」会長である。連合会長は、70年もの長きにわたり、日本が主権国でないにもかかわらず主権国であると国民を騙し続けてきた自民党という売国政党にすり寄って野党の分断工作に協力している。その結果、日本国民である自衛隊を死地に向かわせることになることに気が付くべきである。日本国内ではイデオロギー論争があっても構わないが、国際政治にイデオロギーを持ち込むと国家の輿論を分断し、ひいては他国に分割統治される可能性が高くなることを自覚すべきである。それが朝鮮半島、ドイツ、ウクライナではないか。

 現在日本政府は防衛費対GDP比率2%を目標に掲げている。しかし、NATO標準の国防費対GNP比2%とは、NATOが加盟各国に提示しているが金看板の抑止力に疑問を抱いたことから加盟国の引き締めを図るためとられた合意事項であって、日本の防衛費とは何ら関係はない。つまり相関関係にあっても因果関係ではない。日本政府による防衛費対GNP比2%は、悪質なごまかしの論理であって、ウクライナ問題にかこつけて防衛費を増やしたい防衛族の私利私欲を満足させるためだけである。
速やかに撤回すべきである。

   2、張り子のトラNATOの装備
 トランプ大統領が痛烈にNATOを批判しているころ、NATO加盟国の装備が予想以上に貧弱であることが明るみにでた。
2018年5月22日付、Spiegel誌に「ドイツ空軍大ピンチ 使える戦闘機は4機だけ? 背景に「財政健全化」と「大連立」」[17]とする記事が掲載された。
『……
ドイツ空軍(ルフトヴァッフェ)の主力戦闘機「ユーロ・ファイター」のほぼ全機に深刻な問題が発生し、戦闘任務に投入できない事態となっている。現地メディアによれば全128機のうち戦闘行動が可能なのはわずか4機とも云われている。原因は絶望的な予算不足にあり、独メルケル政権は防衛費の増額を約束したが、その有効性は疑問視されるばかり。ロシアやイランの脅威がちらつくなかで欧州の盟主は内憂外患である。
……
空軍だけではなくドイツ陸軍においても244輌あるレオパルト2戦車のうち、戦闘行動可能なのは95輌などと予算不足の実情をあげているのだ。
……』
 さらに、2019年02月11日、月刊PANZER「ドイツ「戦車王国」の黄昏 稼働するのは全盛期のわずか3%、どうしてそうなった?」では、レオパルト2の稼働率が公表されている。
『……
ドイツ陸軍「レオパルト2」戦車の稼働数、68両――これは2017年12月に、ドイツ国防省から公表された「主要兵器システムの重要な運用準備に関する報告書」に記載された数です。桁(けた)が間違っているのではないかと、目を疑ってしまいます。この報告書によれば、ドイツ陸軍が保有するレオパルト2は244両ですが、うち176両は保管状態(その約70%は訓練なら使用可能)で、稼働状態にあるのは差し引き68両とのことです。
……』
 そのように貧弱なドイツ空軍が2022年にわざわざ日本まで飛来しきている。その様子を、2022月8月15日、産経新聞「ドイツ空軍、戦闘機などインド太平洋に派遣 日米韓などと多国籍演習」から見てみる。
『……
ドイツ連邦空軍は15日から、主力戦闘機ユーロ・ファイターを中心とする軍用機群をインド太平洋地域に派遣する。独軍の発表によると、オーストラリアで多国籍空軍演習に参加するほか、日本や韓国、シンガポールを訪れる予定。安全保障で民主主義圏の連携に加わり、中国の軍事的威嚇に対抗する狙いがある。
ドイツ軍が、戦闘機をインド太平洋地域に派遣するのは初めてとなる。軍用機群はユーロ・ファイターが6機、輸送機A400Mが4機、多用途空中給油・輸送機A330MRTTが3機の計13機で構成する。今月19日から3週間、豪州で行われる多国籍空軍演習「ピッチブラック」に日米韓やシンガポール、英仏などと共に参加し、その後、日本を訪れる予定。独軍の発表では、日韓とは「価値を共有するパートナー」として、関係を深める意欲を強調している。
……』
 貧弱なドイツ空軍がわざわざ日本まで飛来した理由は、日本の自衛隊と組んでNATOの戦力を底上げしたいことは明らかである。NATOが張り子の虎であって抑止力に問題があるため、日本が関係国であり続けて欲しいためのデモンストレーションなのだ。
 ちなみに2021年IISS(The International Institute for Strategic Studies、国際戦略研究所)のデータによれば、ドイツの戦車台数は46位238台まで回復しているとされている。ちなみに1位はロシアで12850台、2位アメリカ6332台、3位中国5800台、日本は19位667台で、ウクライナは34位340台にすぎないのだ。また、昨今では、ドイツからウクライナに戦車が供給されることになっているというが、保有台数の実稼働数は良くて70%程度と考えると、その中から14台をウクライナに供与するとなると自国防衛用に残された戦車台数は明らかに不足することになる。例え、ウクライナに供与されても、メンテナンスや燃料、弾薬の補給を考えると、第一線に投入することは難しく、重要都市の防衛用に温存されるのが関の山だと考えられる。したがって、いかに優秀な戦車を投入しても、ウクライナの戦況をかえることは難しいであろう。
 ところで、NATOからウクライナに戦車を投入することに関して悲観的な結果を導き出す戦争の法則がある。それは、ランチェスター理論(Lanchester's laws)第2法則である、同法則によれば、ロシアの戦車台数は開戦当初2927台から1800台に減ったとされているが、ウクライナが要求する300台の戦車がすべて揃ったとしても戦車に関する限りウクライナの戦局は変わることはなく、ウクライナが確実に敗北すると見るより致し方がない。大体において、デフォルト国家ウクライナは、300台もの主力戦車を購入するだけの資金はないことから、そろえることすら難しいのだ。
 ゼレンスキーの様な国際条約を平気で破棄するような無頼漢には、ランチェスター理論などまるで無縁の素人だからこそ主力戦車300両と言い出したのだ。ロシアとウクライナが主翼戦車同士で対峙した場合に、単純計算では残数は1774台対0台にしかならない。つまり完敗なのだ。
 ウクライナが不利な状況にあることを一番知っているのは、実はイギリスとアメリカである。イギリスとアメリカは、ランチェスター理論を駆使してウクライナの敗北を想定済みであると考えられる。そもそも、同理論を使い始めたのは大正10(1921)年11月11日に開催したワシントン海軍軍縮条約で戦艦比率をイギリス:アメリカ:日=5:5:3とすること強行したのはイギリス、アメリカであった。それから100年後、ウクライナ支援に奔走するアメリカとイギリスの司令部が、よもや、忘れる訳はないのだ。両国が無駄だとわかっていながらウクライナを支援する理由は他にある。それはMATOが売り物にしてきた加盟国に対する攻撃は許さないという抑止力が、単なる飾り物であることが明らかになり、組織が崩壊するからと考えられる。
 このことを見越したのか、ポーランドは、2022年7月27日に韓国とのあいだにK-2戦車180両、K-9自走砲48門、FA50軽戦闘攻撃機48機の導入契約を締結したと発表した。さらに2026年からはK-2のポーランド仕様であるK-2PLをポーランド国内で820両生産する計画で、計画達成時にはポーランドの主力戦車は合計1000両となる[18]。ポーランドは、ロシアと接していることから、ロシアと対抗するためには1000両の主力戦車が必要だとはじき出している。おそらく、この数字が正しい。したがって、ポーランドは、NATOの抑止力に見切りをつけて自国だけでロシアと対峙することを決意した表れでもある。いずれこの流れは、他の加盟国にも波及し、ついにはNATO解体に行き着くと思われる。
 つまりウクライナが不利であるにも関わらず右往左往するだけのNATOU本部と、まともな戦力を持たない加盟国の実態が明らかにならないためのプロパガンダなのだ。それも、逐次投入という最も愚劣な戦力投入であることからウクライナの東部戦線に戦車を投入しても制空権のない戦場まで行き着くのかも怪しいのだ。

 この節の終わりに恰もウクライナが善戦しているようなニュースを提供している集団がいる。それはウクライナが世界の平和にとって危険な国であるにも拘らず、「ウクライナ可哀そう」を演出してきたRUSI(イギリス王立防衛安全保障研究所)とその配下で活動する防衛研究所およびその関係者である。ウクライナは、このままでは確実に敗北し、国は廃墟となる。速やかに、停戦協定を締結できるように助力することが真のウクライナに対する親善である。それをウクライナに断固としてロシアを国境まで押し戻せというような発言を繰り返すことは言語道断である。RUSIも防衛研究所も、悪質なプロパガンダを、即刻、停止せよ。
 また、日本政府は、解体寸前のNATOを手本にした無意味な防衛三文書を廃棄するとともに予算処置は停止すべきである。それよりも早期に日本の国権を回復する事こそ重要で、そのためには自由民主党は責任を取って解体すべきである。
(つづく)



[1] https://www.foreignaffairsj.co.jp/articles/201605_stoltenberg/ (2023.02.14 閲覧)。

[2] 2016年7月23日「トランプ氏受諾演説(日本語訳全文)」

https://www3.nhk.or.jp/news/special/2016-presidential-election/republic3.html (2023.02.14 閲覧)。

[3] ロイター(2016年7月22日)「トランプ氏、NATO共同防衛体制の見直し提言」

https://jp.reuters.com/article/usa-election-nato-idJPKCN1020A8 (2023.02.14 閲覧)。

[4]毎日新聞(2016年11月24 日)「国防費増額へ英が主導 トランプ氏主張に配慮も」https://mainichi.jp/articles/20161125/k00/00m/030/086000c (2023.02.14 閲覧)。

[5] 日経新聞(2017年4月13日)「米、NATO支持確約 トランプ大統領、事務総長と会談」

https://www.nikkei.com/article/DGXKASGM13H24_T10C17A4EAF000/ (2023.02.16 閲覧)。

[6] ロイター(2017年5月26日)https://jp.reuters.com/article/usa-trump-europe-idJPKBN18L2U4 

[7] BBC(2017年7月8日)「トランプ、プーチン両大統領が初会談 米選挙ハッキングも話題に」https://www.bbc.com/japanese/40534361 (2023.02.16 閲覧)。

[8] 日経新聞(2018年6月12日)『北朝鮮が恐れる「悲惨な末路」リビア』

https://www.nikkei.com/article/DGXMZO31220280R30C18A5000000/ (2023.2.08閲覧)。

[9]フォーリン・アフェアーズ(2015年4月号、)「人道的介入で破綻国家と化したリビア」

https://www.foreignaffairsj.co.jp/articles/201504_kuperman/ (2023.02.15閲覧)

[10] BBC(2018年7月12日)「トランプ氏、NATO加盟国の防衛支出増を要求 ドイツを名指し批判」

https://www.bbc.com/japanese/44803150 (2023.2.15閲覧)。

[11] Bloomberg(2018年7月17日)「トランプ氏:ドイツ向けロシア産ガス輸出で姿勢軟化-LNGで競争」

https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-07-16/PBZDCG6JIJUW01 (2023.2.15閲覧)。

[12] ドイツニュースダイジェスト(2019年5月1日)「露からのガスパイプライン - ノルドストリーム2をめぐる激論」

http://www.newsdigest.de/newsde/column/dokudan/9929-1093/ (2023.2.15閲覧)。

[13] 原子力産業新聞「日本が学ぶべきウクライナの教訓」

https://www.jaif.or.jp/journal/study/shiseitsuten/11687.html (2023.2.15閲覧)。

[14] https://jp.reuters.com/article/us-nato-troop-idJPKBN23G0DE (2023.2.15閲覧)。

[15] https://www.bbc.com/japanese/53590087 (2023.2.15閲覧)。

[16] 読売新聞(2020/07/29)「独駐留米軍、1万2000人削減…米長官「NATO強化し露への抑止力高める」

https://www.yomiuri.co.jp/world/20200729-OYT1T50343/ (2023.02.02閲覧)。

[17] 「Luftwaffe hat nur vier kampfbereite "Eurofighte」

https://www.spiegel.de/politik/deutschland/bundeswehr-luftwaffe-hat-nur-vier-kampfbereite-eurofighter-a-1205641.html (2023.02.02閲覧)。

[18] のりものニュース「ポーランドなぜいま韓国戦車を爆買い? その数実に1000両 大型契約締結の背景に何が」https://trafficnews.jp/post/121104 (2023.2.15閲覧)。

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上皇ご夫妻、平和祈念展示資料館(新宿)を訪れる

2023-02-20 | 小日向白朗学会 情報
 TBS NEWS DIGの配信によると、今日2月20日午前、上皇ご夫妻が新宿の「平和祈念展示資料館」をご訪問されたという。同報道によると、「この資料館は先の大戦の兵士の軍服や召集令状のほか、戦後、シベリアなどでラーゲリと呼ばれる収容所に抑留された兵士の生活ぶりを再現したジオラマ、海外からの引き揚げ船の中の様子など様々な資料を展示しています。」と説明されている。
 私も10年以上前になるけれど、この資料館を数回訪問している。私の家族が昭和15年ころに渡満しおそらく昭和21年ころに引揚げてきた経緯があること、さらに、それより以前のことであるが、私の父が昭和13年には徐州会戦に参陣していたことなどで、満洲に関心が高かったことによると思う。そう、最近行ってないので展示が変わったかもしれないけれど、「満州」がいっぱいの資料館なのだ。
 なぜ、今この資料館なのか。上皇ご夫妻が何を思われて行かれたのか。戦争が何をもたらすものなのか、防衛三文書などを顕示して欧米核国(各国?)に防衛力強化姿勢をアピールしている岸田政権を見るとき…ちょっとだけ過去を振り返るとはっきりと見えてくるものがあるということではないのだろうか。『8月15日』という惨劇を繰り返してはならいという決意なのかもしれない。
 NATOのお偉方、バイデンさん、もちろんプーチンさんもだけど、少しは上皇の心を慮ってみられてはどうであろうか。(文責:吉田)
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暗殺に見る近現代史の闇・・・伊藤博文、ジョン・F・ケネディ、安倍晋三

2023-02-19 | 小日向白朗学会 情報
 日刊ゲンダイデジタルで元木昌彦氏は重要な指摘をされているように思う。(安倍元首相銃撃は日本版「ケネディ事件」なのか…週刊文春が投げかけた“疑惑の銃弾”2023.2.19配信)同記事によれば(ちょっと引用が長いが)…『文春によれば、昨年9月30日、奈良県議会の総務警察委員会で、自民党県議の質問に対して、奈良県警の安枝亮本部長が、司法解剖の結果、安倍元首相の体に当たった弾のうちの1発について、こう明かしたという。「右前頚部、首の付け根の右前あたりになるんですけれども、そこから入って右上腕部に至っているという状況でございます」』、さらに『銃器評論家の高倉総一郎は、「被害者の体勢では、首の右側に弾が当たるとは考えられない」と言っている。』ということだ。加えて、『自民党の高鳥修一元農水副大臣も、「結局、警察庁幹部から右前頚部の銃創について納得のいく説明はありませんでした。彼らは1度目には、私の疑問に対し『(山上は、安倍氏の真後ろよりも)もっと左から撃った』と、その場を取り繕う言い方をした。2度目の説明の場ではそうした発言はなく、ただ『大きく振り返ったからだ』と」     警察庁幹部ですら合理的な説明ができない。』…と言っている。続けて『そこで文春は専門家の助言のもとに実証実験を行った。』というが、こうした動きは極めて高く評価されてよいだろう。そのなかで、『安倍元首相とほぼ同じ身長の記者が、当日と同じ高さの台の上に乗る。3発の銃弾が当たっているから、致命傷となった左上腕部、問題の右前頚部、喉仏のやや下にできた擦過傷のところにシールを貼り、真後ろ5.3メートルから撮影して、右前頚部のシールが見えるかどうかを検証したという。その結果『・・・山上の位置からでは、安倍元首相の右前頚部に弾が当たる可能性は極めて低いという結論に達した。』『体を貫通した際にできる「射出口」が確認できないことから、体内にとどまっていると思われるのに、「致命傷となった左上腕部の銃弾が消えているのです」(警察庁関係者)。』
   1909年10月26日の伊藤博文暗殺、1963年11月22日のJFK暗殺、2022年7月8日の安倍晋三暗殺…50数余年の時を隔てながら続いてく要人暗殺事件なのか。奇しくもこの3事件に共通なことがある。それは、すべて銃を使っているということのほか、安重根、オズワルド、山上という犯人が簡単に特定されていることであり、さらに言えば、それらすべてがほぼ複数犯というか、絶命をきたした銃弾は別の犯人から発せられた…という疑念が根深く付きまとっていることだ。(文責:吉田)

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ワクチンの死亡は殺人?…読んでみたいけれど…

2023-02-16 | 小日向白朗学会 情報
 元 FBI 捜査官M氏は次のようにコメントしている。
 「・・・・・ファウチに対する慎重かつ徹底的な犯罪捜査が行われるべきだと思いました。・・・・・・Covidの臨床試験は、規定された規制に従っていませんでした。ニューヨーク市で組織犯罪によって行われた犯罪談合計画の記憶がよみがえりました。調査で意図的な横行する詐欺が特定された場合、ワクチンの死亡は殺人と見なされる可能性があり、連邦政府の没収は数十億ドルになる.・・・・・」だって。The Real Anthony Fauci ;Bill Gates, Big Pharma, and the Global War on Democracy and Public Health(ロバート・ケネディ・ジュニア著)の感想文からでした。このファウチさん82歳は、昨年末までアメリカの国立アレルギー感染症研究所の所長だったらしいです。
  私は前々から厚労省の不作為は未必の故意による殺人だと思っていました。放っておいて何らワクチン死亡対策をとっていなければさらに死亡者は増えるだろう、ということは容易に推認できるはずでしょう。厚労省の役人さんは極めて優秀なので「知らない」なんてはずはあり得ませんよね。福島教授(京都大学)も村上教授(東京理科大学)もあれだけはっきりと言っていることですし。
(文責:吉田)
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自由民主党と統一教会の関係

2023-02-15 | 小日向白朗学会 情報

 2023年02月09日、週刊プレNEWSから「旧統一教会との関係が国会に! 昭和の未解決連続テロ「赤報隊事件」って何?」とする記事が配信された[i]。その内容は2023年2月2日に宮本岳志が谷光一国家公安委員長に「赤報隊事件」を質問したことが詳細に報じられている。今日、現在(2023.02.15)においても国会議事録は登録されていないため正確な内容は確認できない。ところで「赤報隊」をキーワードに国会議事録を検索すると興味ある内容が情報を見つけ出すことができる。
 『第108回国会 衆議院 法務委員会 第3号 昭和62年5月15日』で安藤巖は、赤報隊を追及する中で統一教会との関連を追及しているが、その統一教会はといえば政府が進める重要法案の一つであるスパイ防止法が深く関係していることが明らかになっている。
『……
187 安藤巖
……
例えばスパイ防止法三多摩会議というスパイ防止法推進の方と勝共連合とが同一のところにあった、事務局長も一緒だというようなことで、中央段階でも勝共連合が国家秘密法制定のスポンサーになっていることがはっきりしたばかりであるにもかかわらず、これは事務担当も同一人だ、こういうような報道もやっているわけ。それで、その一面、これも評論といえば評論ですが、「世界日報」、これは国際勝共連合の機関誌です。ここに、朝日新聞がスパイ防止法反対の大キャンペーンをやっているのはけしからぬ、こういう論評があるわけ。
……』
 この安藤の質問は、統一教会問題がテロ事件や霊感商法だけではなく、自民党政策とも深く関係していることを浮き彫りにしている。現在の日本で問題となっている統一教会が、いかなる犯罪者集団であることを克明に調査した記録がある。それがフレイザー委員会報告書である。
1978年11月1日、フレイザー委員会(国際関係委員会国際機構小委員会)(Subcommittee on International Organizations of the Committee on International Relations)は「韓国の対米関係に関する調査」を公表している。
『……
文(文鮮明)組織についての当小委員会(フレイザー委員会)の調査結果は以下のように要約され
  1. 文組織(注:「文鮮明機関」(Moon Organization))が主催する統一教会その他多数の宗教・非宗教団体は、実質的にひとつ国際組織を形成している。この組織は、その関連団体を相互に交流させることができること、および人的・財政資産を国境をこえて、また営利事業と非営利団体の間で、自由に移動することができることに大きく依拠している。
  2. 文組織は文鮮明によって描かれた目標の達成を企図しており、文鮮明は、それらの目標追求のために文組織が企てる経済的、政治的、宗教的諸活動にたいして実質的な統制力を握っている。
  3. 文組織の目標の中には、教会と国家の分離が廃止され、文鮮明とその信徒によって統治される世界政府の樹立が含まれている。
  4. これらの目標追求のために文組織は、成功の度合いはまちまちだが、米国や他国の企業および他の非宗教的諸機関に対する運営権の獲得ないし確立を企てるとともに、米国において政治活動を展開してきた。これらの活動の中には、韓国政府を利すため、あるいは米国の外交政策に影響を与えるために企てられたものもある。
  5. 文組織は、独自の目標を追求しながら、同時に韓国政府の利益を促進し、時には韓国の政府諸機関や要人と協力して、あるいはその指示を受けてこれを行った。文組織は、いく人かの韓国政府要人と互恵的結びつきを保持していた。
  6. 文組織は、表向きは韓米関係推進のための非営利財団としてKCFF(韓国文化自由財団)を設立したが、組織自体と韓国政府の政治的・経済的利益を助長するためにKCFFを利用した。
  7. 文組織は、米国の上院議員や下院議員、大統領、その他の著名人の名前を広範に利用して募金活動を行い、文組織自体と韓国政府のための政治的影響力を醸成した。
  8. 組織の一企業は、韓国における主要な防衛契約業者であり、M-16型ライフル、対空砲その他の兵器の生産に関与している。
  9. 文組織の代理人は、米企業から韓国製のM-16の輸出許可を取りつけようとした。M-16は、米国政府認可の共同生産協定にもとづいて製造されており、米国政府はM-16の生産を韓国政府の独占管理下に置いている。それにもかかわらず文組織の代表が一明らかに韓国政府の代理として一協定延長交渉に現れた。
  10. 組織は、教会員の名前で株式を買うのに使う資金の出所と見せかけて、ディプロマット・ナショナル・バンクの過半数の株式を手に入れようと企てた。
  11. 文組織は、自らの政治・経済活動を支えるために教会その他の免税団体を利用した。
  12. 文組織の目標や活動の多くは合法的、適法的ではあったものの、文組織が米国の税、移民、金融、通貨関係の各法規、外国人代理人登録法、ならびに慈善事業を装った詐欺行為に関する州や地方の法律を計画的に犯していたこと、またこれらの法律違反が俗世界の権力の獲得という文組織の全目標と関係があることを示す証拠があった。
……』
 おそらく日本の場合は、フレイザー委員会が報告書をまとめたから45年も経過していることから更に醜いことになっているのは想像に難くない。つまり、日本政府は犯罪者集団統一教会を放置してきたのだ。そればかりか自民党の主要政策を支援してきているのだ。その理由が、日本の警察能力が低くて犯罪者集団を摘発できなかったことであるとは考えられない。むしろ日本政府つまり自由民主党は、犯罪者集団統一教会を摘発する気はなかった。これしか理由は見当たらない。
 統一教会と自由民主党を繋ぐ重要なキーパーソンは岸信介である。政治家としての岸信介は昭和32(1957)年2月25日に内閣総理大臣となって昭和35(1960)年1月19日に日米安保条約の締結している。ところで自民党の党是は憲法を改定することと断言している。そのため、昭和30(1955)年11月15日、自由民主党結党時に次のような党要綱を定めている[ii]。
『……
六、 独立体制の整備
平和主義、民主主義及び基本的人権尊重の原則を堅持しつつ、現行憲法の自主的改正をはかり、また占領諸法制を再検討し、国情に即してこれが改廃を行う。
 世界の平和と国家の独立及び国民の自由を保護するため、集団安全保障体制の下、国力と国情に相応した自衛軍備を整え、駐留外国軍隊の撤退に備える。
……』
 この要綱をみて直ぐ気が付くことであるが、日本は昭和27年に旧日米安保と行政協定を締結していることから、既に、日本の主権である、自衛隊の指揮権、電波権、航空管制権はアメリカに移譲され治外法権の国となっていた。にもかかわらず、恰も日本は主権国家であるという虚言をのべている。つまり自由民主党は結党以来、国民を騙していたのだ。国民を騙した理由は、アメリカの意向に沿って憲法を改正し、自衛隊を海外派兵ができるようにするためであった。岸信介自身も、このことを認めている。
 では、岸信介はアメリカの意向に沿うような政治活動をしてきたのかと云うと『CIA秘録』[iii]がある。中でも「第12章 「別のやり方でやった」自民党への秘密資金」で、特に詳しく述べているなかに岸信介は頻繁に登場する。
『……
一九五八年から六八年までの間、「アメリカ政府は、日本の政治の方向性に彫響を与えようとする四件の秘密計画を承記した。①左翼政治勢力による選挙を通じての成功が、日本の中立主義を強化し最終的には日本に左翼政罹が誕生することを懸念したのである。アイゼンハワー政権は②一九五八年五月の衆院議員選挙の前に。少数の重要な親米保守政冶家に対しCIAが一定限度の秘密資金援助と選挙に関するアドバイスを提供することを承認した。援肋を受けた日本側の候補者は、これらの援助がアメリカの実業家からの援助だと伝えられた」。
 「重要政治家に対する控え目な資金援助計画は、その後一九六〇年代の選挙でも継続された」と国務省声明は述べている。
 「もう一つのアメリカによる秘密工作は、極端に左翼的な政治家が選挙で選ばれる可能性を減らすことを狙ったものだった。一九五九年にアイゼンハワー政権は、より親米的な『責任ある』野党が出現することを希望して、③穏健派の左翼勢力を野党勢力から切り離すことを目指した秘密工作の実施をCIAに認証した。この計画での資金援助はかぎられていて一九六〇年には‐七万五千ドル-、一九六〇年代初期を通じて基本的に同じ水準で続けられた。一九六四年までには、リンドン・ジョンソン政権の要人も、日本の政治か落ら付きを増し日本の政治家に対する秘密の資金援助の必要がなくなったと確信するようになっていた。さらに、資金援助計画は、それか暴露された時のリスクか人きいというのか多数意見になっていた。➃日本の政党に対する資金援助計画は一九六四年の初期に段階的に廃止された」
……』
 自由民主党は、保守合同を行う前からCIAから資金援助を受けていて、日米安保条約を締結する下準備として、支持基盤を安定させるために昭和33年(1958)年5月22日に行われて第28回衆議院議員総選挙に勝利するため「CIAが一定限度の秘密資金を援助することと選挙に関するアドバイスをおこなった」と書かれている。その結果、467議席中287議席を獲得したことで政権は安定することになった。残る課題は、革新勢力の分断することであり、継続してCIAの工作は続くことになった。おそらくこれが社会党から分離して誕生した民社党の結党工作のことであろう。
 結党前から続いていたCIAから自民党に対する資金援助は、1964年初頭に暴露された時の危険性を考慮して廃止された。ここに出て来る1964年は如何なる年かといえば、昭和39(1964)年7月15日に統一教会が宗教法人となった年である。つまり、統一教会と自民党の関係であるが、空気散弾銃を輸入して武装する危険団体(さすがに現在はこの方針は放棄しているようであるが)を黙認し、政府自民党が進める重要法案を支援する支援団体であり、極めつけは自民党が改憲を行うための国会議員の三分の二を抑えるための裏選挙対策本部なのだ。

 統一教会問題を追及することは、自由民主党が結党以来の闇部分を追及することなのだ。
以上(近藤雄三)

[i] https://wpb.shueisha.co.jp/news/politics/2023/02/09/118482/ (2023.02.05 閲覧)。

[ii] https://www.jimin.jp/aboutus/declaration/ (2023.02.05 閲覧)。

[iii] ティム・ワイナー『CIA秘録 上巻』文芸春秋(2008年11月20日)182頁。

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ウクライナとロシア~NATOと〇〇~逃れられない二項対立~期待される山川草木悉皆成仏のこころ

2023-02-14 | 小日向白朗学会 情報
 2014年クーデターで当時の大統領を追い出して以降、南部オデッサや東部でやや組織的な親ロシア派住民の虐殺などがおこり、キーフ政権vs親ロシア派住民の内戦とも言える状態にあったウクライナに、親ロシア派から頼まれてもかかわりを拒否し続けていたロシアが去年2月に侵攻を始めた。
   NATOという軍事同盟が1949年にスタートしている。これを懸念した当時のソ連が1955年にWTOという軍事同盟を組織して対抗した。けれど、ソ連崩壊によりWTOもなくなってしまった。軍事バランスは大きく崩れ、本来ならNATO解散だろう、と思っていたら、2023年の現在もなお活発に動いているようだ。この間は事務総長が我が国に来て何かを頼んでいたようだ。お金を出して、と言われたか、兵器を出してといわれたか、自衛隊を出してといわれたか…まさか。。。。でも、NATOのグローバルパートナー国でもあるわが国、あり得るのではないのかな。「憲法?」・・・・そんなものはあとでどうにでも言い含めることができるし…ということかな。いずれにしてもNATOとしては、ウクライナ紛争について自らのレーゾンデートルを示す絶好のチャンスとしているに違いない。
 という具合だ。ロシア&ウクライナ。NATO&〇〇。ゼレンスキー&プーチン。探せばいくらでもある二項対立構造。この構造が続く限り、人が死んでいくかもしれないけれど仕事にあぶれることがなく、儲かり続ける人たちがいて、絶対になくならない二項対立構造。
 これを哲学では弁証法という。テーゼ⇒アンチテーゼ⇒ジンテーゼ、というプロセスを経ていく。ジンテーゼの段階に上がることをアウフヘーベンという。日本語では止揚,棄揚という訳のわからない訳語を付けている。実は世界の戦争はほぼこのロジックで展開してきている。ウクライナには必然的に対立項目としてのロシアが必要なのだ。このロジックで行けば、次に来るのはカタスロフ以外のものではないだろう。それをアウフヘーベンというらしい。かのカール・マルクスも、そして実存主義のプリンスジャンポール・サルトルも弁証法の陥穽に嵌ってしまっていた。それにはおそらく理由がある。キリスト教のドグマから抜け出すことの困難な西欧精神性の限界ともいえる。ドイツ観念論の巨峰ゲオルク・ヴィルヘルム・フリードリヒ・ヘーゲル の作りあげた絶対精神という名の天守をいただく城郭からの脱走はおそらく至難の業なのだろう。
 ところで、本覚思想という仏教言葉がある。山川草木悉皆成仏の論理である。そこにはあらゆる存在に対する静かな観想のこころがある。多様性などという言葉では言い表せない豊穣なる自然への畏敬の念ともいえる。「君と私は違っていい」どころではなく、「あなたも、あなたも、そしてあなたも、みーーんな、違っていい」ということだ。自己と他者の対立ではなくて、自己の自然への溶解というか、あるがままでの存在了解というか、こうした境地、絶対精神に拘ったヘーゲルの不幸は天台の思想に巡り合わなかったことかもしれない。
 ・・・・西洋は、いい加減に、弁証法から脱却しなければならないだろう。でないと、永久に戦禍に見舞われ続けることになるだろう。
 (文責:吉田)
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日本の安全保障に関する情報戦(プロパガンダ)(第三回 2-2) -日本政府の隠蔽と虚言-

2023-02-13 | 小日向白朗学会 情報
前記事から続く
 その後のウクライナであるが、現ウクライナ大統領はウォロディミル・ゼレンスキーである。ゼレンスキーが国民に注目されるようになったのは、2015年、ゼレンスキーが主演する政治風刺ドラマ『国民の僕(しもべ)』(Servant of the People、SN)が放映され大ヒットとなったことによる。筋書きは、ゼレンスキーが演じる一介の歴史教師が、ふとしたことから大統領に当選し、権謀術数が渦巻く政界と対決するさまを、ユーモアを交えながら描いたものであった。
 2018年3月にゼレンスキー主演のドラマ『国民の僕(しもべ)』と同名の政党を設立し、同党を基盤に翌年行われる大統領選に出馬を宣言した。
 2019年5月20日、ゼレンスキーは大統領就任した。大統領選挙の余勢を駆って同年7月21日に行われた最高議会選挙では、自身の新党「国民の僕」が過半数の議席を獲得するという圧倒的な勝利であった。ゼレンスキーは大統領になったものの、ウクライナが抱える経済、汚職、紛争といった難問を解決できないまま、7割以上あった支持率は急激に落ち込んで行った。この時、ゼレンスキーを大統領にするための支援していたのが「天然ガス会社プリスマ」を経営する政商イーホル・コロモイスキーであった。この「天然ガス会社プリスマ」の重役となっていたのが、現アメリカ大統領バイデンの長男ハンター・バイデン(Hobert Hunter Biden)であることは夙に知られていることである。また、コロモイスキーは、2014年5月2日に起きたオデッサ大虐殺を監督し、多数のクーデター反対派を抹殺したともいわれている。そのためか、コロモイスキーとその家族は、2021年3月5日、アメリカ国務省から知事時代の不正蓄財容疑で入国禁止処分を受けている。
 ところで、支持率が急落したゼレンスキーは、起死回生の策として、ウクライナのEUとNATO加盟を再び掲げるとともに、「ミンスク合意」の破棄を言い出した。その背景には、ミンスク合意を認めない民族派の猛反発に直面していたことがあった。
 2021年9月、ゼレンスキーはアメリカを訪れている。アメリカからウクライナのNATO加盟について回答を得たいと考えていた。しかしアメリカからは明確な回答は得られなかった。これについてホワイトハウスのサキ報道官は、記者会見で「米国はウクライナのNATO加盟願望を支持しているが、そのためにウクライナにはしなければならない行動がある、ウクライナはそれが何であるかを知っている。その行動とは法の支配の前進努力、防衛産業の近代化、経済成長の拡大である」と指摘し、「(加盟希望国が)加盟国の義務を履行できるようになり、欧州大西洋地域の安全に貢献できる時のためにNATO参加の扉を開いたままにしておくことを支持している」と述べた[20]。
 一方、ロシアはゼレンスキーの動きに警戒感をあらわにした。そして、2021年10月にロシア軍がウクライナ国境付近に展開を開始した[21]。ゼレンスキーの一連の行動は、1935年3月16日にヒトラーが、ヴェルサイユ条約の軍事制限条項を破棄して、ドイツの再軍備を宣言したことを思い出させるものであった。
 プーチンは、2021年12月10日、ウクライナに対して警告を発した[22]。他方で、自国の国境近くに NATO 部隊(特に米軍)の基地ができることを安全保障上の脅威とするロシアの安全保障観にも変化はない。フィンランドとスウェー デンのNATO加盟問題に関して、ロシアのプーチン(Vladimir Putin)大統領は、それら 諸国にNATOの基地ができない限り、直接的脅威ではないと表明している[13]。これも、NATOの基地が自らの国境に接近することを阻止すること、これを何よりも重視している証であろう[23]。
『……
ロシアは10日、旧ソ連のウクライナとジョージアの将来的な北大西洋条約機構(NATO)加盟を巡る2008年の確約を撤回するよう要請した。同時に、NATOに対しロシアと国境を共有する国に兵器を配備しないと確約するよう求めた。
こうした中、欧州連合(EU)はこの日、ロシアがウクライナを侵攻すれば代償を払うことになると改めて警告した。
ロシア外務省が発表した声明によると、ロシアは定期的な防衛協議開始のほか、ウクライナのNATO加盟に対しロシアに実質的な拒否権を与えることなどを提案した。
NATOはウクライナを加盟させ、ロシアを標的とするミサイルシステムを同国に配備する方向に動いているとし、「こうした無責任な行動は、ロシアに対する容認不可能な安全保障上の脅威となり、欧州における大規模な紛争に至る、深刻な軍事上のリスクが誘発される」と警告。「欧州安全保障の根本的な利益のために、『ウクライナとジョージアは将来的にNATOに加盟する』とした08年の確約は、正式に撤回される必要がある」とした。
これに対し、NATOのストルテンベルグ事務総長は、NATOの姿勢は変わらないと強調。「どのような安全保障体制に属したいのかを含め、あらゆる国が自国の道を選択する権利を有することは基本原則だ。NATOとウクライナの関係を決定するのはNATO加盟30カ国とウクライナであり、他の国ではない。大国が影響力を持ち、他の加盟国の行動をコントロールできるようなシステムをロシアが再構築しようとしていることは容認できない」と述べた。
また、EUの執行機関である欧州委員会のフォンデアライエン委員長はドイツのショルツ新首相との共同記者会見で「侵攻には代償を払う必要がある」と指摘。ただ、ロシアが侵攻に踏み切った際に他のパートナー国と共に導入する可能性のある対ロシア追加経済制裁について、公の場で協議しないとし、「ロシアの行動次第だが、EUはロシアとの良好な関係を望んでいる」と語った。
ウクライナのゼレンスキー大統領は、紛争が続いているウクライナ東部とクリミアの将来を巡る住民投票の実施を否定しないと表明。実施の方法や時期については明らかにしなかったものの、和平プロセスの進展とロシアとの対立解消に向けた選択肢の一つになるとの考えを示した。
……』
 2022年2月10日にロシア、ウクライナ、フランス、ドイツのノルマンディー・フォーマット参加国外相はドイツの首都ベルリンでミンスク合意などをめぐり高官協議を開くも、ロシアは完全履行を、ウクライナは項目の修正などを求め、合意に至らなかった[15][16]。
 2022年2月11日、ロイターには「ロシアとウクライナ、紛争終結「打開に至らず」 4カ国高官が協議」とその時の様子が記事になっている[24]。
『……
[モスクワ/キエフ 11日 ロイター]
ロシア、ウクライナ、フランス、ドイツの4カ国は10日、8年間続くウクライナ東部の紛争終結に向けてベルリンで高官級協議を開いた。ロシアとウクライナの溝は埋まらず、両国は協議で打開策を見いだせなかったと表明した。
ロシア政府代表として協議に参加したドミトリー・コザク氏は協議後、ウクライナ政府軍と親ロシア派の紛争終結を目的とした2015年の合意について、解釈の相違を解決できなかったと説明した。
ウクライナ政府代表のアンドリー・エルマク氏は突破口は見つからなかったとした上で、双方が協議を継続することで合意したと明らかにした。
……』
 21日にロシアのプーチン大統領が「(履行されないのであればミンスク合意は)もはや存在していない」として、合意の破棄を明言した[25]。
『……
 ロシアのプーチン大統領は21日にウクライナ東部ドネツク、ルガンスク両州の親露派武装勢力が名乗る二つの「人民共和国」の独立を承認、22日には2014年から続く東部紛争の和平条件を定めた「ミンスク合意」について「もはや存在しない」と言い切った。紛争の経緯や合意の問題点、予想される展開についてまとめた
……』


 同年2月24日にはウクライナの非軍事化を目的とした特別軍事活動を承認し、ロシア軍によるウクライナへの全面侵攻が開始した。
 ゼレンスキーは、明らかに大きなミスを犯した。ミンスク合意は、ロシア、ウクライナ、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国、4か国の条約である。条約破棄とは、締結前の状態、つまり、再び戦争を開始するという意味である。
 何故、ゼレンスキーに、条約を破棄すると再びロシアと戦争になることを進言するスタッフがいなかったのか。やはり、ゼレンスキーはコメディアンであって、政治家ではなかったということに行き着くことになる。
 その行く末を暗示するように、ウクライナの債務不履行問題が再び大きな問題となってきた。2022年7月21日、ロイター「ウクライナ「デフォルト状態」、S&Pとフィッチが格下げ」にウクライナの財務状況はデフォルトであるとする記事がある。
『……
格付け会社のS&Pとフィッチは12日、ウクライナの外貨建て格付けについて、部分的なデフォルト(債務不履行)を示す「選択的デフォルト(SD)」、「制限的デフォルト(RD)」にそれぞれ引き下げた。債務再編は困難と判断した。
ウクライナ国債を保有する海外債権者は今週、約200億ドルの国債について、2年間の支払い凍結で合意。ウクライナのシュミハリ首相は「約60億ドルの支払いを節約できる」としていた。
S&Pは「CC/C」から「SD/SD」に引き下げ「発表された債務再編条件を踏まえ、デフォルトに等しいと見なしている」とした。
フィッチは長期の外貨建て格付けを「C」から「RD」に引き下げた。
S&Pはまた、ロシアによる侵攻を受けたマクロ経済、財政面の困難により、ウクライナの自国通貨建て債務も予定通りの返済が厳しくなる可能性があるとして、自国通貨建て格付けを「Bマイナス/B」から「CCCプラス/C」に引き下げた。
ウクライナ経済は2022年、35─45%のマイナス成長に陥ると予想されており、月次の財政赤字が50億ドルに膨らんでいる。
……』
 ウクライナは、2013年末にロシアと債務不履行に関して協議していた額は200億ドルであった。しかし、それから9年後の2022年も残高は変わっていない。すなわちウクライナ国債の残高は200億ドルのままなのである。2019年当時は、最大の債権国はロシアであったが、そのロシア債権分は全て無くなり、代わりに米国、カナダ、フランス、ドイツ、日本、イギリス等に置き換わっている。ウクライナとNATOはロシアを敵としているが、ことウクライナの債務不履行問題に関しては、ロシアは無傷なのである。加えてウクライナを支援する国は、SWIFTを利用した決済からロシアを締め出したため、ロシアから新規資金が入ることはない。つまりウクライナの不良債権は、支援国だけで解決する以外に方法はなくなってしまった。ウクライナに万一のことがあった場合にNATO関係国が全てを被ることになる。それもウクライナ現政権を存続させる以外にめどがたたないのだ。
 翻って日本の現状はどうかといえば、いまだNATO加盟国でもない日本を引き入れてウクライナ負債の一部でも肩代わりさせることが最重要課題なのだ。ウクライナ現政府が崩壊すとウクライナ支援国が出資した資金は、すべて回収不能となることから、できるだけその傷口を小さくすることを模索している最中に「飛んで火にいる夏の虫」、それが日本なのだ。すでにウクライナは国債を発行することもできないことから手持ちの金(Gold)を売却すること以外に方法はなくなっている。
 その様子は、2022年7月26日、日本経済新聞「有事の金「売り」ウクライナ 巨額の売却金額、深まる謎」[26]にその片鱗を見せている。
『……
ウクライナの中央銀行が有事の金「売り」に動いている。危機に迫った国家が保有する金売却に動くのは珍しくないが、ロシアは欧米に金売却を事実上封じられており対照的だ。ただ、ウクライナが保有する金の市場価値の7倍ほどの売却額が伝わり一部には驚きも広がっている。
「輸入業者が国に必要な商品を購入できるように、私たちは(金を)売却している」。ウクライナ国立銀行(中銀)副総裁は7月中旬、保有する金準備資産の売却を進めていると明らかにした。2月下旬のロシアのウクライナ侵攻以降、124億ドルの金を売却したという。ロイター通信が伝えた。
……
戦火の中にあるウクライナは有事の金「売り」に動き、資金の確保に動いたもよう。14年のクリミア危機時にもウクライナは約20トンの金を売却している。
金の国際調査機関ワールド・ゴールド・カウンシル(WGC)によると、ロシアによる侵攻前時点のウクライナの金準備資産は27.1トン。外貨準備全体の6.4%ほどを占めており、このほとんどが今回売却されたとみる声が多い。
一方、ロシアの金取引は欧米による経済制裁対象となっており、事実上国際市場では売却できなくなっている。ロシアは2298.5トン(同21.4%)と世界有数の金保有国家だが「宝の持ち腐れ」状態だ。
……』
 とウクライナが2014年の時にも20トンを売却し、2022年ロシアの侵攻後もすでに124億ドルに相当する金を売却していたことが明らかとなっている。この意味するところは、ウクライナは2013年末からすでに債務不履行になっていて、その状態は2023年になっても変化はない。そのためあらたにウクライナ国債を発行して資金調達はできないため、武器弾薬等必要物資や資材を手に入れるために手持ちの金(Gold)を売却する以外に方法はない。ウクライナは既に継続して戦争を続けられる状態にはない。
 ゼレンスキーが国民の関心を引くために欧州安全保障協力機構(OSCE)の援助下で締結した条約「ミンスク合意」を破棄すると宣言したことは、1935年3月16日、ヒトラー政権がヴェルサイユ条約の軍事制限条項を破棄してドイツの再軍備を宣言して国際間の緊張を高めたこととどこが違うのであろうか。

 この節の終わりに、NATOとウクライナに関する日本政府の問題点を指摘しておく。
 2022年末に日本政府は防衛三文書を改定し、あらたな国防方針を決定した。新国防方針の戦略では仮想敵国を北朝鮮、中国、ロシアとした。その仮想敵国とした根拠は「力を背景にした一方的な現状変更は許さない」というものであった。つまり、ロシアは、力を背景に一方的に現状変更をおこなったと言いたいのだ。それは、おそらく2014年のクリミア併合及び2022年のウクライナ侵攻を指しているのであろう。あろうと言ったのは、どちらを指しているのかわからない書き方になっている。言い方を変えるならば「わかるだろう。あれだよ。あれ。」と云っているだけなのだ。
 これは単なるイメージ操作なのだ。このような曖昧な戦略で、莫大な国家予算を永久につぎ込んでよいのだろうか。よいわけはない。更に言うならば、2014年のクリミア併合は、EU、NATO、IMFが企んだ悪ふざけであったが、プーチンに見破られたうえに、西側の常套手段である民主化勢力を支援するという名目で政府転覆をはかる方法の逆をつかれクリミアを併合されてしまった。それに対して、NATOは有効な解決方法もなく、泣き寝入りをする以外になかった。そのためNATOに新規加盟した諸国からはNATOの抑止力に疑問を投げかけられているではないか。
 このロシアによるクリミア併合を日本政府は「力を背景にした一方的な現状変更」というならば、それは大違いである。これは、日本政府による悪質な情報操作だ。
 また、2022年にロシアがウクライナに侵攻した件は、明らかにゼレンスキーと云う無法者による国際法違反の何物でもない。それを、よりによって日本の国会でゼレンスキーの演説を聞かされスタンディングオベーションまで行う日本国会議員は、自らの無能を世間に公表したようなものだというのが何故にわからないか。その後、マスコミで繰り広げられた「(ロシアが侵攻した)ウクライナは可哀そう」という、大キャンペーンが繰り広げられた。確かに「ウクライナ可哀そう」であるが、その真実は「(ゼレンスキーと云う、ならず者が大統領を続ける)ウクライナは可哀そう」なのだ。早く戦争を止めなければウクライナは、第二次世界大戦直後の日本やドイツのように荒廃してしまうのだ。既に、ウクライナは戦費として備蓄していた金(Gold)を全量売却したと云われている。したがって戦後は、悪性のインフレとなる。その際に、ゼレンスキーが目標としてきたEU加盟問題については、悪性インフレの国をEUが迎え入れるわけはなく、捨てられるだけなのだ。
 ところで日本政府は、日本国防方針の基本である戦略の根拠を「力を背景にした一方的な現状変更を許さない」と説明してきた。ところが、その意味するところは不正確で、国民には正確に説明する義務があるはずだ。正確に説明できない根拠で日本の国防方針が決められているなら、即刻、破棄すべきである。抽象的な用語を並べ立てただけで何ら具体性のない2022年12月末に閣議決定した「令和4年日本国国防方針」(防衛三文書)であることから、その戦略は間違いなのだ。したがって間違った戦略から導き出した戦術も間違いなのだ。間違った戦術に合わせて準備する装備品は、これも間違いであることから国家予算で支払うべきものではないのだ。更に言うならば、「令和4年日本国国防方針」(防衛三文書)では「反撃能力としての敵地攻撃能力」を獲得すると豪語しているが、そもそも、敵地を攻撃する命令は、いったい誰が発令するのか。昭和27年から現代にいたるまで日本には「自衛隊の指揮権」はない。自由民主党がアメリカに売り飛ばしていたからだ。したがって自衛隊の指揮権は、アメリカ軍が握っているのだ。その結果、日本の友好国であっても、アメリカが敵だと決定したら、否応なく自衛隊は攻撃に出かける以外にないのだ。これほど馬鹿げた話を、自主防衛であるかのように国民を言い含めるのは、日本政府の悪質なプロパガンダ以外の何物でもなく、即刻、止めるのが筋であろう。併せて政府が行うプロパガンダの中心にいる防衛省防衛研究所関係者とイギリス王立防衛安全保障研究所(RUSI)日本特別代表部関係者はウクライナに関するプロパガンダから手を引くべきだ。加えて日本国民を70年間もだまし続けてきた自由民主党は責任をとって解党すべきなのだ。
(つづく)
P.S.
筆者は長らく小日向白朗を研究してきたものとして、白朗が警鐘を鳴らし続けてきた「日本に主権がない」ということを重く受け止めるとともに、その意思を継続していき、売国政党である自由民主党および同党にすり寄る野党を強く批判し続けたいと考えている。

[1] 1997年5月27日、NATO「NATOとロシア連邦との間の相互関係、協力および安全保障に関する設立法」

https://www.nato.int/cps/en/natohq/official_texts_25470.htm?selectedLocale=en#:~:text=The%20%22Founding%20Act%20on%20Mutual,and%20Russian%20Foreign%20Minister%20Primakov.  (2023.02.02閲覧)。

[2] 永綱憲悟「第三章ロシアの対欧州外交:プーチンと拡大欧州」24頁。

[3] 永綱憲悟「第三章ロシアの対欧州外交:プーチンと拡大欧州」24頁

[4] 永綱憲悟「第三章ロシアの対欧州外交:プーチンと拡大欧州」32頁。

[5] ロイター「ウクライナがEUとの協定締結準備を停止、ロシアは歓迎」

https://jp.rEUters.com/article/l4n0j70rh-ukraine-EU-russia-idJPTYE9AL03L20131122 (2023.02.02閲覧)。

[6] 「ウクライナの経済危機とビジネス環境」https://iti.or.jp/flash/223 (2023.02.05閲覧)

[7] 産経新聞(2013/12/18)「ロシア、ウクライナに1・5兆円財政支援、ガス価格も値下げ 首脳会談」

https://www.sankei.com/article/20131218-UGJGXR5KQJLKZG6ATXAXHL6KDU/ (2023.02.08閲覧)。

[8] 産経新聞(2013/12/18)「ロシア、ウクライナに1・5兆円財政支援、ガス価格も値下げ 首脳会談」

https://www.sankei.com/article/20131218-UGJGXR5KQJLKZG6ATXAXHL6KDU/ (2023.02.08閲覧)。

[9] 「ロシア、ウクライナに150億ドルの緊急援助へ」『ロイター』(2013年12月25日)

https://jp.rEUters.com/article/l3n0k40wy-ukraine-russia-bailout-idJPTYE9BO05S20131225 (2023.02.08閲覧)。

[10] AFP(2014年2月27日)「ロシア大統領、ウクライナ国境付近での軍事演習を指示」

https://www.afpbb.com/articles/-/3009378 (2023.02.08閲覧)。

[11] テレビ朝日(2014/03/02)「緊迫のウクライナ ロシア上院が軍投入を承認」

https://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000022409.html (2023.02.08閲覧)。

[12] AFP(2014年3月21)「ロシア、クリミア半島を自国編入へ 上院が条約批准」

https://www.afpbb.com/articles/-/3010765 (2023.02.08閲覧)。

[13] ロイター(2014年6月6日)「ウクライナ、さらに領土失えばデフォルトの公算=S&P」

https://www.rEUters.com/articlEUkraine-default-sp-idJPKBN0DL0WL20140505 (2023.02.08閲覧)

[14] (2011年8月9日)「ティモシェンコの裁判がキエフで再開されると抗議者が集まる」

https://www.bbc.com/news/world-europe-14419216 2023.02.10閲覧)。

[15] JETRO(2014年5月23)「IMFの金融支援で当面のデフォルト危機を回避」

https://www.jetro.go.jp/biznews/2014/05/537c16f2088b8.html (2023.02.08閲覧)

[16] (2014年9月25日)「焦点:ウクライナに債務不履行懸念、ロシア向け債権めぐる憶測で」

https://www.rEUters.com/article/analysis-ukraine-default-possibility-idJPKCN0HK0CN20140925 (2023.02.08閲覧)。

[17] https://www.mofa.go.jp/mofaj/erp/ep/page22_001428.html (2023.02.08閲覧)。

[18] 「ルシャワから見た欧州の安全保障」

https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=1951 (2023.02.08閲覧)。

[19] 「ルシャワから見た欧州の安全保障」

https://www.tkfd.or.jp/research/detail.php?id=1951 (2023.02.08閲覧)。

[20] 「米露関係の焦点となるウクライナ」https://wedge.ismedia.jp/articles/-/24305。 (2023.02.08閲覧)。

[21] 毎日新聞(2021年11月7日)「ロシア軍9万人、ウクライナ国境に集結か 軍事的緊張、再燃の恐」

https://mainichi.jp/articles/20211107/k00/00m/030/029000c 

[22] ロイター(2021年12月11日)『ロシア、ウクライナNATO加盟確約撤回を要請 EUは侵攻なら代償と警告』

https://jp.rEUters.com/article/russia-ukraine-nato-idJPKBN2IP1X0 

[23] 「NATO・ロシア基本議定書の亡霊」。

[24] ロイター(2022年2月11日)「ロシアとウクライナ、紛争終結「打開に至らず」 4カ国高官が協議」

https://jp.reuters.com/article/ukraine-crisis-talks-russia-idJPKBN2KG05O (2023.02.12 閲覧)。

[25] 毎日新聞(2022年2月23日)「プーチン氏、ミンスク合意を「破棄」 経緯と今後の展開」https://mainichi.jp/articles/20220223/k00/00m/030/010000c (2023.02.12 閲覧)。

[26] 日本経済新聞(2022年7月26日)「有事の金「売り」ウクライナ 巨額の売却金額、深まる謎」

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUB22CO10S2A720C2000000/ (2023年2月11日 閲覧)。

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日本の安全保障に関する情報戦(プロパガンダ)(第三回 2-1) -日本政府の隠蔽と虚言-

2023-02-13 | 小日向白朗学会 情報

【もくじ】
はじめに                                                         (2023.02.06 掲載)
一、       NATOとは何か                                    (2023.02.06 掲載)
1.    NATOの沿革                                            (2023.02.06 掲載)
2.    東西ドイツ統一と核問題                             (2023.02.06 掲載)
3.   NATOの核とウクライナ問題    (今回掲載分)
4.    核共有というNATOの核管理方式
二、       国防費増大はトランプの提言というデマ
1.    トランプ大統領とNATO
2.    張り子のトラNATOの装備
3.    恐慌をきたしたNATO
4.    自民党崩壊の危機
5.    NATO事務総長来日の意味
三、       五年以内という期限を限定した意味
1.核共有を日本に導入する
2.日本国内の政治動向
まとめ

  3、NATOの核とウクライナ問題
次に、ウクライナとロシアの戦争についてもNATOと核問題から考えてみることにする。まずNATO(北大西洋条約機構、North Atlantic Treaty Organization)の目的と役割について、「北大西洋条約」前文に次のように書かれている。
1)国連憲章の目的及び諸原則に従い、
2)自由主義体制を擁護し、
3)北大西洋地域の安定と福祉(well-being)を助長し、
4)集団的防衛並びに平和及び安定の維持のためにその努力を維持すること
とされている。(「北大西洋条約」前文)。そして第5条に、次のようになっている。
『……
第五条
 締約国は、ヨーロッパ又は北アメリカにおける一又は二以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなすことに同意する。したがつて、締約国は、そのような武力攻撃が行われたときは、各締約国が、国際連合憲章第五十一条の規定によつて認められている個別的又は集団的自衛権を行使して、北大西洋地域の安全を回復し及び維持するためにその必要と認める行動(兵力の使用を含む。)を個別的に及び他の締約国と共同して直ちに執ることにより、その攻撃を受けた締約国を援助することに同意する。
 前記の武力攻撃及びその結果として執つたすべての措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。その措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全を回復し及び維持するために必要な措置を執つたときは、終止しなければならない。
……』
つまり第5条で言っていることは「NATO締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみになして、国際連合憲章第51条の規定によって個別的又は集団的自衛権を行使して、北大西洋地域の安全を回復し及び維持する」ことなのである。NATOがウクライナを支援するのはこの条項があるからである。では第5条にある国連憲章第51条とはなにか。
『……
第51条
この憲章のいかなる規定も、国際連合加盟国に対して武力攻撃が発生した場合には、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持に必要な措置をとるまでの間、個別的又は集団的自衛の固有の権利を害するものではない。この自衛権の行使に当って加盟国がとった措置は、直ちに安全保障理事会に報告しなければならない。また、この措置は、安全保障理事会が国際の平和及び安全の維持又は回復のために必要と認める行動をいつでもとるこの憲章に基く権能及び責任に対しては、いかなる影響も及ぼすものではない。
……』
 これらを総合するとウクライナとロシアの戦争は、安全保障理事会で平和及び安全の維持又は回復のため行う行動とは無関係だとしている。つまり、安全保障の問題については最終判断および行動は安保理事会が決定すると云っている。したがってロシアとウクライナは地域紛争中だということになるが、かといって、ロシアがウクライナに侵略したということにはならない。この点は重要である。
もう一つNATOとロシアの関係を規定した重要な協定がある。それは、1997年5月に署名された「NATO・ロシア基本議定書」(NATO-Russia Founding Act)[1]である。同議定書では、NATOの新規加盟国にはNATOの「実質的な戦闘部隊」を「常駐(permanent stationing)」させないという規定がある。このような議定書を締結した背景には、1991年にソビエト連邦崩壊とワルシャワ軍事機構(Warsaw Treaty Organization、略称WTO)解体が起こりNATOはWTOに対抗する軍事力を配備する必要がなくなってしまったという現実があった。この状況を地域の安全保障に積極的に活用しようとしたのが第10代NATO事務総長ジョージ・ロバートソン(George Islay MacNeill Robertson)であった[2]。
 2000年2月、プーチンはロバートソンをモスクワに招いた。会談後、ロシアとNATOは「NATO・ロシア基本議定書」を基礎とし、「常設合同委員会」を設置して「欧州大西洋地域における安全保障強化を促進する」という共同声明を発表している[3]。この後ロバートソンは、他のどの国よりもロシアを頻繁に訪れることになった。
 プーチンにとって、NATO 拡大は好ましいものではないが、それが不可避であれば、協調することで損傷を小さくしようとした。また、民主主義や人権の建前は放棄しないが、国家秩序と国家主権を脅かすような要請は拒否した[4]。
 以上のような約束事があることを踏まえたうえでウクライナの核問題を考える場合の開始点はといえば、やはりブダペスト覚書(Budapest Memorandum on Security Assurances)である。この覚書は、1994年12月5日にハンガリーの首都ブダペストで開催されたOSCE(欧州安全保障協力機構)会議でアメリカ、イギリス、ロシアの核保有3ヶ国が署名したものである。
 三カ国が覚書を取り交わすことになったのはウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの三国はソビエト連邦解体前のロシア製核を保持していたことが問題となった。そこでウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンに残された核をロシアに集め、核撤去後の三国の安全保障を如何に担保するのかということで協定署名国(つまりアメリカ・イギリス・ロシア)間が交わした。
  1. ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナの独立と主権と既存の国境を尊重する
  2. ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナに対する脅威や武力行使を控える
  3. ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナに政治的影響を与える目的で、経済的圧力をかけることは控える
  4. 「仮にベラルーシ/カザフスタン/ウクライナが侵略の犠牲者、または核兵器が使用される侵略脅威の対象になってしまう」場合、ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナに支援を差し伸べるため即座に国連安全保障理事会の行動を依頼する
  5. ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナに対する核兵器の使用を控える
これらの誓約事に関して疑義が生じた場合は、互いに協議を行う
 この覚書は、ソビエト連邦に参加していたベラルーシ、カザフスタン、ウクライナが核武装を放棄してもNATOから核攻撃を受けないためのものであった。
 2008年4月4日、ルーマニアの首都ブカレストで開催かれたNATO首脳会議でアメリカ大統領ブッシュ(George Walker Bush)は旧ソビエト連邦のウクライナとジョージア(旧グルジア)をNATOに加盟させることを提案した。このブッシュの提案にたいして両国とも積極的にNATOに加盟することを目指すようになった。つまりウクライナとジョージア両国は、共にNATOの核の傘に入ることを希望したことになる。これに対してプーチンは、冷戦への逆行は否定したものの、NATOが旧ソ連圏へ拡大することには強い警戒感を示した。特にプーチンが反発を募らせたのは、ロシアと国境を接するグルジアとウクライナの両国に対して、NATOが将来は加盟することを認めたということであった。
この会議でプーチンが強い反発を見せたのは、ロシアは広大な領土を抱えてはいるものの海洋にでることができるのはバルト海、黒海、そして日本海の三か所に限られるという潜在的な問題を抱えていたことがある。ところが同会議では、この事情を知りながら、ウクライナにNATO加盟を呼びかけたということは、ウクライナ南部に位置し黒海に面したクリミアにあるロシア海軍基地セバストポリスがNATO基地になるということに他ならない。これはロシアが海洋に出る数少ない港湾が一つ減ることを意味していただけではなく、ロシアの腹部にNATOの核が仕掛けられることで、ロシアの安全保障にとってきわめて危険な状況が生まれることを意味していた。
 ところが、ロシアの抱く危機感とは裏腹に、ウクライナはEUとNATOに接近し、EUと経済や政治などで関係を強化する「連合協定」を締結するまで進んで行った。その日は2013年11月27日であった。ところが2013年11月21日、ウクライナ政府は、突然、その準備を停止することと、ロシアと関係を強化する道を選択したことを発表した[5]。
 このころのウクライナ経済は2009年の経済危機からの回復が遅れていて、欧州復興開発銀行(EBRD)によれば12年の実質国内総生産(GDP)成長率は2%と低迷し、13年にはマイナス0.5%の景気後退となっていた[6]。13年の景気後退は、干ばつによる農産物生産の不振、対外経済環境の悪化による輸出の低迷、12年の議会選挙後の国内需要の停滞、欧州サッカー選手権(12年に開催)後の投資の大幅な減少などによるものであった。それに財政難のウクライナ政府は巨額の債務返済期限が迫っていて「いずれかの形での資金援助を受けなければ、経済的な安定を維持できない状況にあった」[7]。ウクライナ・アザロフ首相によれば200億ユーロ(270億米ドル)の融資及び援助を必要としていた。そのためウクライナは、EUとロシアの両方に経済支援を打診していた。これに対してEUは6億1000万ユーロ(8億3800万米ドル)とロシアに比べると少額の融資を提供すると表明したものの、資金提供の見返りとしてウクライナに法律の改正及び改革を要求していた。このような条件を付加したEUの真意は、ウクライナが債務不履行後にIMF管理に移行することを想定していたと考えられる。
 対するロシアは150億ドルの提供と、ガス価格を千立方メートルあたり約400ドルから同268.5ドルに値下げすることを提案した。さらにロシアは、EUと違い融資に付帯条件を付けることはなかった[8]。ロシアが提示した金額には、ウクライナの天然ガス代金未払50億ドルが含まれていないことから実質は総額200億ドルとなるウクライナにとって非常に有利な提案であった。
 2013年12月25日、ウクライナ・アザロフ首相は、ロシアがユーロ建ウクライナ国債を購入することにより総額150億ドルと、天然ガス輸出価格の値下げすることことに合意した。また、アザロフは同月24日に既に初回分として30億ドルを受領済みであることも公表した。これら一連の動きに付いてアザロフ首相は「ロシアからの援助は、わが国の財政と経済を安定化させる重大な要因だ」と述べている[9]。このヤヌコヴィチ内閣の決断は、ウクライナがEU加盟手続きを進めても加盟となるのは長期の年月を要することから、当面の寒厳期をロシアの援助で乗り切ることを優先した結果であった。しかし、このヤヌコヴィチの発表に欧州統合支持者や政権汚職に反対する市民は納得せず大規模な反政府デモが発生することになった。特に2014年2月18日から20日にかけては100名以上の死者を出す大規模衝突に発展し、2014年2月22日にはヤヌコヴィチがロシアへ亡命することになった。
 2014年2月26日、プーチンはウクライナとの国境付近を含むロシア西部と中部での緊急軍事演習を命じた[10]。
 2014年3月1日、プーチン大統領はロシア系住民の保護を理由に、ウクライナへのロシア軍投入の承認を上院に求め、上院はこれを全会一致で承認した[11]。
 3月18日にロシアのプーチン大統領は、クリミアを独立国家として認める大統領令に署名している。
 3月20日にはロシア下院が同条約を批准した。反対票を投じた議員は1人だけだった。次いでロシア上院は、同月21日、ウクライナ南部のクリミア半島を自国に編入する条約を満場一致で批准した。同条約により、ロシア内にはクリミアおよびロシア黒海艦隊の基地があるセバストポリの2地方行政区が誕生した[12]。

 これに対するウクライナの動きであるが、本来ならば2015年3月29日に行われる予定であったウクライナ大統領選挙を2014年5月25日に実施してポロシェンコが過半数を制し大統領に選出された。同年6月6日に大統領に就任することになった[13]。ちなみに同大統領選挙で2位となったのは、あの2004年のオレンジ革命の中心人物であり、ロシアから天然ガスを輸入する際に中間利益を加えたことからウクライナのガス価格が高騰しウクライナ経済に壊滅的な被害を与えた[14]、ティモシェンコ元首相であった。どちらの候補が勝利してもEUとNATO加盟を推進する立場であることから、政変後の大政翼賛選挙であったことは間違いない。
 同年4月30日、同大統領選挙に先立ち、IMF理事会はウクライナへの約171億ドルの金融支援を正式に承認している。同年5月7日にウクライナ政府は第1回目の融資を受けとっている[15]。つまり大統領が就任前にIMFが融資しなければウクライナ経済は立ち至らなかったのだ。IMFがこれだけ柔軟かつ迅速に動いたということは、新政府はEU及びIMFと事前に審査を行うとともに何らかの協議をおこなっていない限り、あり得ない話なのである。やはりウクライナ新政権は、旧政府を崩壊させ政治的な継続性を遮断したうえでEUとNATOに加盟するために起こしたクーデターであったと考えられる。そのうえ2014年5月2日には、ウクライナ・オデッサ市で親ロシア勢力48名を生きたまま燃やしたことや、分離独立を主張した州ではやはり怒れる民衆により分離反対運動が展開しているなどなど、クリミアを併合したロシアに対する民衆の怒りは爆発寸前で、これら怒れるひ弱な民衆をリビアのようにNATOからの支援を受けて、最後はクリミアをロシアから奪還するだけとなった。
 つづいて、2014年6月27日、ウクライナ、グルジア、モルドバの旧ソ連3カ国は欧州連合(EU)と「深化した包括的自由貿易協定(Deep and Comprehensive Free Trade Area、DCFTA)を含む連合協定(Association Agreement)」に署名することになり、ウクライナは、同年5月25日に大統領に就任したポロシェンコが調印に臨んだ。ロシアは、この協定調印に強く反発したもののウクライナに対する影響力はなくなっていた。これでウクライナは、EUとNATOに加盟することが順調に進み、NATOの核抑止力でロシアの影響力から脱して安定を取り戻すだけとなった。
めでたし、めでたし。

 ところが、である。
 同年9月頃になるとプーチンは、ウクライナに対するEUとIMFの行動を十分に予測して対応策を講じていたことが判明した。それは2013年末にロシアがヤヌコビッチ政権に融資した30億ドルのユーロ債にあった。ロシアの融資条件に、ウクライナの財政悪化に歯止めが掛からない場合、ロシア政府が即時返済を要求できる条項が盛り込まれていた[16]。しかも、ウクライナが発行したユーロ債は、イギリスの法準拠とし、イギリスの裁判所が法的強制力を持てるような仕組みになっていた。そのため、たとえウクライナが債務不履行となっても全債務の約5分の1を保有するロシアは債権者として強い影響力を保持したままであることが判明した。この事実は重要である。2013年にロシアが行った融資に関する記事をのせる。
『……
[ロンドン 24日 ロイター] - ウクライナのドル建て債が売られたことで、ロシアが旧ヤヌコビッチ政権時代のウクライナから支援の一環として引き受けた30億ドルのユーロ債に関心が集まっている。投資家の間では、プーチン大統領がこの債務を利用してウクライナ政府の発行したユーロ債の幅広い銘柄に債務不履行を引き起こすのではないかと懸念が高まっている。
このユーロ債は昨年末に発行された。ウクライナの財政悪化に歯止めが掛からない場合、ロシア政府が即時返済を要求できる条項が盛り込まれている。
つまり西側諸国の貸し手はウクライナ向け融資の拡大を余儀なくされる可能性がある。またその可能性は低いとは言え最悪のケースでは、ロシア向け返済が期日を守れず、ほとんどのユーロ債に付随する「クロスデフォルト条項」(デフォルト発生時には債務者が抱える返済期日が来ていない残りの借り入れも不履行とみなす取り決め)が発効してウクライナが他のドル建て債についても返済を迫られることもあり得る。
プーチン大統領は経済的な影響力を最大限に駆使し、西側寄りのポロシェンコ・ウクライナ大統領が欧州連合(EU)と自由貿易協定を結ぶのを阻止する構えだ。
このユーロ債の問題の核心は、ウクライナの国債と政府保証債の対国内総生産(GDP)比率が一時たりとも60%を超えてはならないという、めったにない条項が付帯している点にある。
ウクライナは経済の悪化と通貨フリブナの下落が続き、債務の対GDP比率は既にこの上限を上回っているかもしれない。そうでなくとも、国際通貨基金(IMF)が見込む今年末の債務比率は67%だ。
スタンダード・バンクのアナリストのティム・アッシュ氏は「債務比率が限度を超えるのは間違いない。ロシアはこのユーロ債を使ってウクライナを苦しめる公算が大きい」と話す。
もっともロシアとしては即時返済を求めずともウクライナに対する立場を強める手段が他にもある。
<ロシアの影響力>
抜け目ないロシア政府は問題のユーロ債を英国法準拠とし、英国の裁判所が法的強制力を持てるような仕組みにした。だから返済要求をせずとも、ウクライナが債務再編に追い込まれた場合にロシア政府は全体の約5分の1を保有する債権者として強い影響力を持つ。
他に債権者は少なく、ロシア抜きなら債務再編は比較的簡単になるだろう。つまりウクライナにとってはロシア向けのユーロ債が償還期限を迎える2015年12月まで債務再編を遅らせて、ロシアが再編交渉のテーブルに着けないようにするのが得策だ。しかし今のところウクライナがそれまで持ちこたえられるようにはみえない。
一方、プーチン大統領のウクライナへの影響力行使はロシア政府にとってもリスクを伴う。
ロシアの銀行は既に一部が西側の経済制裁の影響にさらされているが、ウクライナが債務不履行に陥れば打撃を受ける。ズベルバンク、VTB、アルファの大手3行はウクライナでも大手の立場にある。ムーディーズの昨年の推計によると、ガスプロムバンク、VEB、ズベルバンク、VTBのウクライナ向けのエクスポージャーは合計で最大300億ドルに達する。
<不愉快な債務>
ウクライナの財政悪化にともない、債券市場は債務再編を織り込み始めた。
オックスフォード・エコノミクスのグローバル・マクロ・ヘッドのガブリエル・スターン氏は、ギリシャは2012年を期限とする債務120億ユーロの返済が大き過ぎて不履行に陥ったと指摘した。ウクライナにとっては50億ドル程度の天然ガス代金を除けばロシア向けユーロ債が最大の支払い案件だ。
スターン氏は「ウクライナはある時点で返済ができないと認めざるを得ないし、私のみるところ30億ドルの返済がそのときだ」と話す。
これまでのところウクライナがこの債務返済を拒否する兆しはみえないが、そうすべきだとの見方もある。
ジョージタウン大のアン・ゲルパーン教授はこうした主張を強く展開している1人。ウクライナはこの債務は「不愉快な債務(odious debt)」だとして支払いを拒否すべきだと主張し、英国の議会と裁判所もこのユーロ債の契約履行を拒否すべきだとしている。不愉快な債務とは、前体制が借りたもので、不適切、あるいは国民の利益に適わない債務を指す言葉だ。
一方、BNPパリバの新興国市場戦略部門ヘッドのデービッド・シュピーゲル氏は、裁判所が「不愉快な債務」という主張を認めたことはほとんどないと指摘。「ヤヌコビッチ氏が借りた債務なのは事実だし、同氏は公的な利益で動いていなかったという主張は存在する。しかしヤヌコビッチ氏が民主的な選挙で選ばれたという事実は変わらず、不愉快な債務という主張は裁判では通用しないだろう」と述べた。
……』
 EU及びIMFは、ウクライナの債務を整理する方法として債権者及び債務国が債務放棄をする程度で済むものと考えていた節がある。ところが、単純に債権者であるロシアに債務放棄を迫った場合に、EU内のユーロ建て債にも大きな影響を及ぼすことが判明した。これに付いて債券市場では(実際はIMFではなかったかと思われる)、ウクライナは、ロシア債務を「不愉快な債務(odious debt)」(前体制が借りたもので、不適切、あるいは国民の利益に適わない債務を指す)だとして支払いを拒否すべきだと主張し、イギリスの議会と裁判所もこのユーロ債の契約履行を拒否すべきだという強硬な意見もあった。しかし、それでは自らがクーデターだということを認めることになることから、不愉快な債務という主張はせずにロシア向けのユーロ債が償還期限を迎える2015年12月まで債務整理を遅らせて、ロシアが債務交渉のテーブルに着けないようにすることにした。つまりEUとNATOは、2014年にウクライナをたきつけて実施したクーデターであったが、逆にクリミアをロシアに併合されてしまうという大失敗をしてしまった。
 さらにEUとNATOにとって都合の悪いことが起きてしまった。それはNATOの看板である抑止力が問われるという大問題に発展してしまった。EUは、債券市場の混乱を避けるためウクライナのデフォルトを回避することができたものの、今度はNATO 加盟国および加盟申請国にNATOは、有事に何等の軍事行動もとれないNATOの抑止力に疑念を抱かせることになってしまった。つまりNATOや日本政府の安全保障関係文書にしばしば登場する「力による一方的な現状変更は許さない」という警告メッセージは、加盟国や加盟申請国に対してNATOの抑止力に不安を抱かせないようにするためのプロパガンダに過ぎなかったのだ。
 2014年9月5日、ウクライナ、ロシア連邦、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国、ドンバス地域における戦闘停止について合意して文書にしたものがある。いわゆる「ミンスク合意」である。この合意文書の特徴は、欧州安全保障協力機構(Organization for Security and Co-operation in Europe、OSCE)が関与してまとめたものであり国際法にのっとっていることなのである。
  1. 双方即時停戦を保証すること。
  2. OSCEによる停戦の確認と監視を保証すること。
  3. ウクライナ法「ドネツク州及びルガンスク州の特定地域の自治についての臨時令」の導入に伴う地方分権。
  4. ウクライナとロシアの国境地帯にセキュリティゾーンを設置し、ロシア・ウクライナ国境の恒久的監視とOSCEによる検証を確実にすること。
  5. 全ての捕虜及び違法に拘留されている人物の解放。
  6. ドネツク州及びルガンスク州の一部地域で発生した出来事に関連する人物の刑事訴追と刑罰を妨げる法律。
  7. 包括的な国内での対話を続けること。
  8. ドンバスにおける人道状況を改善させる手段を講じること。
  9. ウクライナ法「ドネツク州及びルガンスク州の特定地域の自治についての臨時令」に従い、早期に選挙を行うこと。
  10. 違法な武装集団及び軍事装備、並びに兵士及び傭兵をウクライナの領域から撤退させること。
  11. ドンバス地域に経済回復と復興のプログラムを適用すること。
  12. 協議への参加者に対して個人の安全を提供すること。
 ロシアによるクリミア併合は、NATOに加盟申請をする旧東側諸国にとって1968年8月20日のソビエト連邦主導によるワルシャワ条約機構(WTO)軍(ブルガリア、ハンガリー、東ドイツ、ポーランド)がチェコスロバキアへの軍事介入したことを彷彿させたのであろうことは予想に難くない。ところが、ロシアのクリミア併合は、ウクライナにNATOの核が配備されるという安全保障上の大問題を解決するため、西側がしばしば使う「反政府運動をおこなう民衆を支援するという口実で介入して政府を転覆させ新政権を樹立するという手口を、ロシアが逆手にとって実行してしまったのだ。このミンスク合意によりウクライナ東部の騒乱は落ち着くはずであった。その後、2015年2月11日にベラルーシのミンスクで、東部ウクライナ・ドンバスでの停戦協定、ミンスク合意2を合意している。欧州安全保障協力機構(OSCE)が調整役となり、フランスとドイツが仲介して、ウクライナとロシアが署名した国際法なのだ。

 ベラルーシの首都ミンスクで、ウクライナ、ロシア、ドネツク人民共和国、ルガンスク人民共和国が、ドンバス地域における戦闘停止を協議している、まさに、同じ時期(同年9月4日、5日)に、NATO首脳はイギリス・ウエールズ州ニューポート(Newport)に集合し、ウクライナを中心に事後の対策を検討した。同会議で決定した事項は外務省「NATOウェールズ首脳会合概要」(平成26年9月8日)に記載がある[17]。
『……
  1. NATO軍の即応性・防衛能力の強化
  2. ロシアによるウクライナ攻撃,中東の過激派台頭,北アフリカの不安定化を受け,NATOが全方位的な任務を引き受け,加盟国を全方位的な脅威から守れるよう,NATOの集団防衛を強化する即応性行動計画(RAP)に合意。これは,NATO即応部隊(NRF)内の初動対処部隊(VJTF/極めて短時間で展開可能な部隊)の創設,迅速な増派のための東方加盟国内への司令部の常時配置,受入施設の整備,装備・物資の事前配置,更に集団防衛に焦点を当てた演習計画の強化を含むもの。バルト諸国,ポーランド,ルーマニアが施設提供の意思を表明。
  3. 防衛能力を強化するサイバー防衛等の優先分野のパッケージに合意。枠組国概念(FNC)を承認し,独英伊等を中心に有志加盟国による能力開発・部隊編成を実施。
  4. 大西洋間の絆と責任の分担の再確認
  5. 「大西洋間の絆に関するウェールズ宣言」を採択し,ロシアによる違法なクリミア併合・継続的攻撃,北アフリカと中東の暴力・過激派の拡大に備えるため,北米及び欧州の全加盟国の国民,領土,主権及び共通の価値を防衛する継続不変のコミットメントを再確認。
  6. 防衛予算の反転,効果的使用と負担・責任の均衡達成のため,NATO指標の対GDP比2%未達成国は10年以内に同水準に向けて引き上げるよう目指し,防衛予算の研究開発を含む主要装備品支出充当率も20%に増額するよう目指すことに合意。
  7. ウクライナ危機とNATOロシア関係
  8. NATOウクライナ委員会は共同宣言を採択し,ロシアに対し,クリミア「併合」撤回,東部ウクライナ武装勢力支援停止,部隊撤収等を要求。また,ウクライナに対し,指揮統制通信,兵站・標準化,サイバー防衛等の新規支援を表明し,ウクライナとNATO間の相互運用性向上のための高次の機会への参加を期待。
  9. ロシアはNATOロシア基本文書・ローマ宣言に違反したが,NATOの今次首脳会合での諸決定はルールに基づく欧州安全保障枠組を尊重するもの。実務協力の停止と政治対話の維持は継続。今後のNATOロシア関係はロシアの行動の変化による。
……』
 この会議で問題になったのはNATOの抑止力の在り方であった。
 NATOがウクライナを支援してロシアを攻撃した場合に問題になるのは、1997年に合意した「MATOロシア議定書」の存在であった。そのためウェールズ首脳会合を前にして、特にポーランドとドイツの間で激しい対立となり、同首脳会合宣言の一部にポーランドが拒否権を行使する寸前の事態にまで至った[18]。最終的には、同議定書の見直しは見送られたものの、他方で、同議定書の有効性を確認するような言い回しも全くされないことになった。
 ポーランドが問題にしたのは、「即応性行動計画」(Readiness Action Plan、RAP)」の中身の問題であった。NATOは、1997年議定書により、NATO即応部隊(NATO Response Force、NRF)を折角に創設しても、東方加盟国内に配備することはできない。そのため東方加盟国内にはNATO即応部隊の司令部を常時配置することと、集団防衛に焦点を当てたアメリカ及びNATO加盟国部隊がポーランド等の東方加盟国内へ展開することで、加盟国に対する安心供与(reassurance)と、ロシアに対する抑止を目的とする演習を強化するということであった。そうした措置は「変化する安全保障環境に応じて柔軟で規模が可変的(flexible and scalable)」とされ、また「必要な間のみ(as long as necessary)」ということになった[19]。
 つまり、この会議では、NATO即応部隊(NRF)内の初動対処部隊(Very High Readiness Joint Task Force、VJTF)を創設することで、NATO全加盟国の国民,領土,主権及び共通の価値を防衛するという目的を確認したことと、ロシアとは政治対話の維持を継続することが決まっただけであった。NATO加盟国の動揺を抑えるために開催したもののNATOの抑止力に対する疑念を払拭するにはいたらなかった。NATOは「虻蜂取らず」だったのだ。
次記事へ続く

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