大野芳氏が亡くなられて1か月と20日余りが過ぎてしまった。後を託された高橋氏のご意向もあって、小日向白朗学会が諸資料をお預かりして、研究者の意向があれば公開していくという「大野芳文庫」を構築することになった。言葉で言ってしまうと簡単だが、長い取材、執筆、研究生活の裏付けとなっている諸資料は膨大である。それは「量」としてよりも「質」として膨大であると感じる。
1年ほど前になるだろうか。大野芳氏より白朗学会にカセットテープが2枚贈呈された。埃がこびりついている古いものであった。私は業者に頼んでCD化してもらった。これは若き(たぶん30代頃の)大野芳氏が小平市の白朗宅を訪れてお話をしていたのを録音したものである。二人だけのお話なら、それはそれで極めてクリアなものになったと思うが、そのテープには5人の声が入っていた。小日向白朗本人、芳子夫人、大野芳氏、そしてI.Rこと石井麟氏、もうひとりたぶん生前の白朗と密接に交流していたF.M氏と思われるが極めて紳士風の方の声が入っていた。ただ、白朗がみなを接待しているという感じで、みなお酒がだいぶ入っているものであったと推察された。なので話があちこちへ飛びに飛んでしまい、ロジックとしては一本に立てにくいものであった。
しかし、白朗の本音が時折飛び込んできたような気がする。朝鮮戦争の時のお話になるとやや神がかっている感じもあるが、それなりに「白朗という方法論」をうかがわせるものでもあると感じた。自民党の大物政治家や経済人、暴力団など名前が次々と出てきた。
白朗という方法を追求すること、そしてその取材者でもあった大野芳氏の取材の足跡をたどってみること・・・・近現代史を見透すには意外と近道かもしれない。(文責:吉田)・・・写真は2022年6月末日で閉鎖されてしまった府中市の大野芳オフィスが入居していた建物。