-、環境省マイク切り事件
二、環境省大臣出身選挙区と統一教会
三、水道民営化を進めた宮城、浜松と統一教会
1.宮城県と統一教会
2.浜松市と統一教会
3.広島県と統一教会
4.長野県小諸市と統一教会
四、インフラ整備に必要な資金と建設国債
五、統一教会による選挙支援を失った自由民主党の国政選挙
六、国富簒奪政治からの脱却
四、インフラ整備とPFI法
1.水民営化とPFI法
水民営化に付いてその概要について要領よく纏められているものとしてPresident Online『最重要インフラ「水道」の民営化は本当に必要なのか』 (2022年07月1日)[1]がある。この記事に沿って水民営化の問題点を挙げてみる。それによれば水道民営化が話題になったのは、2013年4 月、麻生太郎氏のアメリカのCSIS(米戦略国際問題研究所)での発言である。
『……
「水道というものは、世界中ほとんどの国ではプライベートの会社が水道を運営しておられますが、日本では自治省(自治体)以外ではこの水道を扱うことはできません」「(日本では)水道はすべて国営もしくは市営・町営でできていて、こういったものをすべて民営化します」
……』
この麻生発言から5年後、平成30(2018)年に「改正水道法」案が国会で議論されることとなった。ところが公共事業の民営化を担当する「民間資金等活用事業推進室」(別名「PPP/PFI推進室」)の政策調査員とし水メジャー・ヴェオリア社(Veolia)社員が2017年から在籍していたことが判明した。これは、2018年11月29日、参議院の厚生労働委員会で福島みずほ参院議員が明らかにしたものである。そもそも政府は、公共インフラの在り方について利害関係を有する業者の協力で水民営化法制化を進めるという利害相反を行っていたのである。
ここで水民営化の問題点をさらに進める前に、しばしば登場する専門用語を説明しておくことにする。
「PPP」とは「官民連携」(Public Private Partnership)の略語で、公共サービスの運営に民間を参画させその事業を独占させる手法である。ついで「PFI」(Private Finance Initiative)とは、「公共施設等の建設、維持管理、運営等を民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用して行う新しい手法」である。(参考1「PFI(Private Finance Initiative)とは」)。
さらにもう一つ重要な手法が「コンセッション方式」である。この「コンセッション」というのは施設の所有権を自治体に残したまま、民間事業者に運営権を包括的に委託するやり方だ。これは、東日本大震災が発生した2011年にPFI法が改正され、「公共施設等運営権方式」(コンセッション方式)が初めて登場した。この改正によって、議会の議決で公共施設等の「運営権」を民間企業に売却し、その維持管理や運営を包括的にさせることが可能となった。この点について『民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律』(PFI法)ではつぎの様に定めている。
『……
目的
第一条 この法律は、民間の資金、経営能力及び技術的能力を活用した公共施設等の整備等の促進を図るための措置を講ずること等により、効率的かつ効果的に社会資本を整備するとともに、国民に対する低廉かつ良好なサービスの提供を確保し、もって国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。
……』
PFI法の目的は「国民に対する低廉かつ良好なサービスの提供を確保」なのである。次いで同法で最も特徴的な「運営権」の規定がある。「運営権」は単なる契約上の地位ではない。法によって設定された物権(財産権)を指す。そのため、「運営権」を取得した企業はこの権利を別の企業に売りわたすことができる。また、担保権としても機能するため「運営権」を担保として金融機関に差し出せば融資を受けることもできる。
そのうえPFI法では「株式会社民間資金等活用事業推進機構による特定選定事業等の支援等」という金融に関する条項がある。これを根拠に「民間資金等活用事業推進機構」を準備していて「コンセッション方式」で実施するために必要な事業資金を政府が保証をつけて提供までしている。これは「コンセッション方式」で民間資本の活用を謳いながら、その実、政府が民間資本に資本を融資するというもので、政府は事業を民間でやるようにしながら、その実、事業体に政府が資金を提供するという実に大きな矛盾を含んだものである。
また、「運営権」であるが、最初に同権利を取得した企業は、より高い価値を提示する業者に「運営権」を販売しても問題がないだけではなく、水道料金の設定は「運営権」を取得した会社の都合だけで決定することができる。極端な話、「運営権」を中国の会社に売ることも可能なもので、その裁量は最初に運営権を獲得した事業体に任されることとなる。したがって最初に運営権を獲得したところは、最初の契約金に契約期間内に得べかりし利益を加えたうえで他の事業体に売却した場合、次の事業体が残りの期間で投下資本を回収しようとすると必然的に水道料金は上昇することになる。そのため「国民に対する低廉かつ良好なサービスの提供を確保」という趣旨とは程遠いものとなる。それもこれも政府が、日本国憲法第25条第1項にある「すべての国民が健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」である生存権に影響を及ぼす公共インフラ水事業に私有権に近い権利を付与したことに起因する。極端な話、水メジャーが日本国民の生存権を所有してしまうという話でもあるのだ。しかし同法には本質的な問題があることは国会で論議とならなかった。それは、水民営化については法整備が進められた当時の与党だけではなく野党も同法に賛成していたからである。
それだけではない。PFI法には公共インフラを民営化した後に低廉なサービスを担保する条項はない。したがって『民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律』(PFI法)は、実は憲法違反の可能性もある欠陥法なのである。
本質的な問題を抱えるPFI法であるが、PRESIDENT Online『最重要インフラ「水道」の民営化は本当に必要なのか』[2]では同法に付いて次のようにまとめている
『……
たとえば水道事業では、民営化で料金が安くなるという水メジャーのセールストークに反して、逆に料金の高騰するケースが各国で続出している。
なかには企業側が四倍もの水道料金を通告してきた事例もある。ポルトガルの人口五万人のパソス・デ・フェレイラ市だ。
二〇〇〇年に市は民営化の契約を結んだ。前市長は、実際よりも多い水需要計画にもとづいて企業に収益を約束していたが、人口が減少する町で水需要が拡大するはずもなく、企業側は予想した収益が得られないとわかると、水道料金を四倍に値上げした。そのうえ、企業側は、約束された収益を補てんするため市に一億ユーロ(約一二〇億円※)の補償請求書まで送りつけてきた。
小さな町が企業を誘致するために現実にそぐわない楽観的な予測を立て、企業はそれを知りながら料金収入でまかなえなかった分の収益を自治体に請求する。企業にとってはなんのリスクもなく、結局このようなずさんな契約のツケを払うのは住民である。
……』
上記記事の結びで述べていることは、単なる脅し文句ではではない。すでに外国では危惧されることが行われていて、日本でも同様の問題が発生することは確実である。というのも「民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律」(いわゆるPFI法)には次のような規定がある。
『……
(公共施設等運営権者に対する補償)
第三十条 公共施設等の管理者等は、前条第一項(第二号に係る部分に限る。以下この条において同じ。)の規定による公共施設等運営権の取消し若しくはその行使の停止又は前条第四項の規定による公共施設等運営権の消滅(公共施設等の管理者等の責めに帰すべき事由がある場合に限る。)によって損失を受けた公共施設等運営権者又は公共施設等運営権者であった者(以下この条において単に「公共施設等運営権者」という。)に対して、通常生ずべき損失を補償しなければならない。
……』
つまり「コンセッション方式」で民営化した水事業は「運営権」を取得した企業が、如何に悪辣な運営を行っても、そのことを理由に契約を解除することはできないのだ。さすがに日本政府も、同法に不備があることに気が付いて「契約不適合責任」という考えを織り込んだ改定を行っている。しかし「運営権」を取上げて賠償請求するところまでは踏み込んでいない。したがって事業者を排除したい場合は、同法三十条にある「運営権」を事業者から買い戻す以外に方法がない。つまり「泥棒に追い銭」なのである。
上記の結びで述べている通り、民営化で料金が安くなるというのは真実ではない。それも各市町村が持つ水道事業をうりとばすために、県知事や県会議員そして市長を選ぶ選挙に反社集団「統一教会」を利用した選挙で民意を捏造して「民営化という聞こえの良いようにした売却」を実行していたのだ。つまり、政府自由民主党がいう水民営化とは『国富』である「公共インフラ」を合法的に売却するための手法のことなのだ。
2.改正PFI法と民主党政権
ここで全て公共インフラ民営化の責任を自由民主党が負うかといえば、それも違う。実は「改定PFI法」を成立させたのは民主党政権なのである。そのことを、平成23年3月11日、つまり「三陸沖地震」当日、内閣府広報に「蓮舫内閣府特命担当大臣記者会見要旨 平成23年3月11日」[3]で確認することができる。
『……
2点御報告があります。
……
また、今日はPFI法改正法案が閣議決定をされました。
これは昨年6月の閣議決定の新成長戦略において、2020年までの11年間で、従来の事業規模の2倍以上の拡大を目指すと決められておりましたので、それを受けて作業をこれまで進めてまいりました。「コンセッション方式」として、公共施設等運営権、運営権制度の創設です。あと対象施設を拡大する。総理を会長とする民間資金等活用事業推進会議の設置を行うものとなっています。
この改正によりまして、効率的で質の高い公共サービスを提供するとともに、新成長戦略の実現を推進、我が国の成長をしっかりと後押しするものになると確信をしております。
……』
と蓮舫大臣は、コンセッション方式で公共インフラ民営化が可能となることを高らかに宣言しているのだ。したがって水の民営化は平成23年以前から公共インフラの民営化のための法制化は進んでいたのだ。その証左として、やはり内閣府広報に『前原内閣府特命担当大臣記者会見要旨 平成22年3月12日』でも確認することができる。
『……
私の方から2点まずお話をいたします。まず、駐車場整備推進機構、財団法人でございますけれども、道路特定財源の議論のときに私もこの問題について取り上げてまいりまして見直しをということでありましたけれども、なかなか方向性が固まっていなかったということで、これにつきましては一年以内に解散をするということで今日皆さん方に発表させていただきます。この駐車場整備推進機構というのは全国で14箇所の駐車場を持っておりますけれども、こういった駐車場管理というのは民間で十分出来ますし、むしろ民間でやってもらった方が上手く経営出来るかもしれないということでありまして、民間にやってもらうことになります。方針と言いますかその方法といたしましては、国が民間会社に委託をすると、コンセッション方式というものを取らせていただくということになります。つまりは営業権を譲渡して、そしてPPPである一定期間自由に営業してもらうということでその営業権の譲渡を国がもらうということで負債の返還もしていきたいと思いますし、返済が終われば利益が国に入ってくるということになろうかと思っております。
……』
前原誠司氏は「コンセッション方式」で多くの公共インフラを民営化する準備を平成22年にはすすめていたのだ。その後の同氏は、小池百合子東京都知事と組んで民主党を解体したうえに、防衛外交問題では「防衛三文書」作成に積極的に協力するという野党にいながら与党を補完するという最も危険な政治家となっていった。
ところで「コンセッション方式」をすすめたのは蓮舫氏や前原誠司氏よりももっと危険な大物民主党政治家が存在する。それは野田佳彦元内閣総理大臣である。その様子は「民間資金等活用事業推進会議(第3回)議事要旨」[4]に余すところなく見ることができる。
『……
民間資金等活用事業推進会議(第3回)議事要旨
日時:平成24年8月1日(水)(15:15~15:25) 場所:官邸2階小ホール
出席者: 内閣総理大臣 野田佳彦
内閣官房長官 藤村修
内閣府特命担当大臣 中川正春
その他全閣僚(代理出席含)
内閣府大臣政務官 園田康博
〔議事の経過〕
1 冒頭、野田総理から挨拶
○ PFIについては、昨年、公共施設等運営権や民間提案制度の導入等の法改正を行い、また、現在、官民連携インフラファンドの創設を内容とするPFI法 改正法案を国会に提出し、制度面の整備を着実に進めているところ。こうした 中、昨日閣議決定した「日本再生戦略」の中でも、PFIの具体的な案件形成 等を促進することとしたところ。
○ それぞれの所管分野で一つでも多く目に見える形でPFI事業を進捗させることが重要であり、各大臣におかれては、政府一体となってPFIを推進するため、本日ご議論いただく取組方針も踏まえ、引き続きリーダーシップを発揮していただきたい。
2 政府一体となったPFI事業の一層の推進に向けた取組方針(案)について
○ 中川大臣から趣旨の説明 ・ 極めて厳しい財政状況の下、財政負担の大幅な縮減や自由度の高い民間の事業機会の創出につながる独立採算型事業の拡大など、新たな方向性について、全 閣僚間で認識を共有し、PFI事業を一層推進するというのが本取組方針の趣旨
○ 園田政務官から取組方針案の要点を説明
・ PFI事業の一層の活用と普及促進の必要性、
・ コンセッションやインフラファンドを活用した独立採算型等のPFI事業の具体化、新たな分野でのPFIの活用等に関する政府横断的な取組の必要性、
・ PFI事業の掘り起しのため、事業モデルの具体化・提示等を通じた案件形成 の積極的な推進に努めること、
・ 防災や再生エネルギーなど特に政策ニーズが高い新たな分野における事業化促進への重点的取り組み、PFI法改正法案成立後、官民連携インフラファンドの金融面における支援等による案件形成の促進、
・ 副大臣レベルでの連携・調整の場を設け、具体的な取組を進めること
・ 通常の公共事業とのイコールフッティングや関係各省におけるPFI推進体制の充実等への取組を図ることや、 公共施設整備を行う際にまずはPFIの実施の可否を検討する制度につき、内閣府と関係省庁が連携・協力して検討を進めること。
・ これらの取組により、インフラ事業への民間投資の促進を通じてモノへの需要を顕在化させ、デフレ脱却と経済活性化の実現を目指すこと等につき記述。
→推進会議決定とすることにつき了承
中川大臣から
○ 取組方針に従って各々PFI事業の案件形成促進のために必要な取組を協力に推進すること。
○ 今後とも推進会議の場を通じ、PFI事業の一層の推進に政府を挙げて取り組むこと。
について、閣僚各位に協力要請
3 民間資金等活用事業推進会議幹事会の設置について
○ 概要につき、園田政務官から説明 ・関係行政機関相互の緊密な連携の下、PFI施策の実施の推進等に資すること等を目的として、内閣府審議官を議長とし、関係各省の官房長等を構成員に設置すること
→幹事会を設置することにつき了承
……』
ところで、この議事録から野田内閣とPFI法との関係が見て取れるだけでなく、これまで問題としてきた統一教会の関係も併せて浮かび上がってくる。それは会議に出席していた中川正春元内閣府特命担当大臣である。中川氏と統一教会の関係であるが、立憲民主党泉健太代表が2022年07月22日の記者会見で、同党の篠原孝(衆院比例北陸信越)、小宮山泰子、中川正春の3衆院議員が世界平和統一家庭連合(旧統一教会)もしくは関連団体が開いた会合に祝電を送っていたと明らかにしている[5]。民主党も自民党と同様に公共インフラ民営化には統一教会が結びついていたのだ。
もう一つの民主党政権には水事業に関して深刻な問題を抱えている。それは当時の全日本水道労働組合が強く反発していたにもかかわらず強行した経緯があった[6]。2019年1月16日、全日本水道労働組合が書記長名義で出した文章が次のものである。
『……
週刊ダイヤモンド2019年1月19日号掲載の記事について(談話)
1.表記雑誌は第197回臨時国会で成立した、改正水道法に盛り込まれた公共施設等運営権方式の導入を中心にしながら、人口減少社会の中で水道料金の値上げが危惧されるとして危機を煽り、あたかも公共施設等運営権方式がコスト削減に寄与し、財政難に苦しむ水道事業体の救いになるかのような印象を与えるものである。
あわせて、我々全水道が「組合員の仕事が奪われる」と危機感なるものを募らせ、立憲民主党とタッグを組んで反対運動を行ったなどと、一方的に全水道を「反対派」などとして、わが組織の役員の個人名まで列挙して賛成派と反対派の対立構造を印象付けようとする卑劣な内容となっている。
……
3.記事では水道事業について「水道事業の案件は行政から高く受注できる甘い汁」などという具体的根拠に基づかない誤った表現がされているが、現在では工事案件などでも入札または落札に至らない「入札不調」案件が増えており、耐震化工事などが進まない一つの要因となるなど、水道事業に係る案件は決して「甘い汁」などではない。
また、「水道事業体で働く公務員の数は業務量や収入額に対して多過ぎる」などとする表現に至っては、何らの学術的あるいは統計的根拠に基づいたものでなく、もはや使い古された公務員バッシングのための陳腐な語句でしかない。さらには全水道が既得権益を守ろうとして法案に反対した旨の表現があるが、事実と相違がある。全水道は健全な水循環と、それをもって安全な水を安定的に供給・処理することを求めており、そのために市民の水道を支える職員の処遇改善を訴えてきた。そもそも公務員に既得権益なるものは存在せず、むしろ公共施設等運営権方式の導入により既得権益を得る者がこの方式を推進しているのは明白である。
4.改正水道法の国会審議では、先の通常国会で成立した改正PFI法とともに改正法案の立て付けに重大な疑惑が存在している。内閣府民間資金活用事業推進室には、公共施設等運営権方式の導入によってそのビジネスチャンスが増加するとみられる巨大水企業・ヴェオリア社日本法人からの出向職員が在籍していることや、内閣府大臣補佐官の突然の辞任と、その補佐官を中心とした欧州出張における利害関係者からの便宜供与など、多くの疑惑にまみれている。こうした既得権者による水の商品化から市民の水を守るため、持続可能な水道事業・下水道事業を追求していく。
なお、全水道は考え方の違いで二極対立を煽り、一方を敵視する旧態依然とした古き手法に与しない。すべての人々に関わる『水』の問題について異なる意見を排除せず、常に対話を望むものであることを申し添える。
……』
民主党政権は、政党の支持基盤である労組が反対するにも関わらず改正PFI法を強行してしまったのである。つまり公共インフラを民営化するということに関して、与党と野党という区分けは全く意味をなさない。公共インフラの民営化に関して対立軸は「小さな政府」vs「大きな政府」ということであり、経済体制でいうならば「新自由主義経済」vs「ケインズ政策」、経済思想でいうならば「グローバリズム」vs「反グローバリズム」、という根本的な違いなのである。
更に問題を複雑にしているのは、日本の選挙制度が小選挙区制である。そのため与党と野党が公共インフラを民営化することで一致していると、選挙民は「民営化反対」であるということを投票に反映させることができない。その結果、投票しても無意味であるという意識が芽生え投票率は下がってくことになる。
これと同様なことが「消費税」についてもいえる。与党も野党も増税に賛成している候補者の場合、増税反対の意思を表すことができなくなってしまう。そのため二大政党制とは、単なる「政権転がし」であり、茶番となってしまうのである。
現代日本の閉塞感と民営化が急速に進んだ原因に、小選挙区制度だといっても過言ではない。また日本の小選挙区制と同じ問題が各種の政治動向調査でも生じていて、政治動向調査母体は恣意的な動向を作り上げるため、反対の立場が選択できない質問項目の設定となっていることが往々にして起きているなど、同様の問題が起きている。
3.公共インフラ民営化と国家財政
日本の水事業を買い取る側である水メジャーの市場性について検討してみる。世界各国で上下水道ビジネスを160年以上まえから繰り広げてきたのがVeolia、Suez、GE、Siemens等の水メジャーである。
ヴェオリアの2019年の年間売り上げは約271億ユーロ(約3兆3200億円)、スエズは同約180億ユーロ(約2兆2100億円)である。この2社はフランス国内の水道経営を160年以上続けてきた経営ノウハウ・技術を持って、世界の水ビジネス市場を席巻してきた。近年、テムズ・ウオーターが英国内ビジネスに専念する方向性を打ち出したことで、ヴェオリアとスエズが国際的な水メジャーとなったが、2022年、2社が合併したことで売上高5兆円を超える「スーパー水メジャー」が誕生することになった。
この水メジャーから日本の水市場を見るとどうなるかかと云えば「宝の山」なのである。
その理由は、
(1)水道料金収入が日本全体で年間2兆3000億円と巨大であること
(2)漏水率が全国平均7%以下(東南アジアでは漏水率30~40%)、東京都に至っては3%以下で今後の「漏水対策費」が他国に比べ非常に少額で済む
(3)“請求書が来たらキチンと払う日本人の国民性”が反映され、水道料金の回収率99・9%と他国では見られない高い数値という世界的に珍しい理想的な市場だかである。
また汚水処理として支払われる下水道使用料総額は年間約1兆5000億円である。したがって上下水道事業を一貫して行うとすれば、日本の上下水道の市場規模は約3兆8000億円(毎日100億円以上)ということになる。これだけの金額であるということは、日本が滅びない限り永遠に継続するビジネスであるということなのである。
ところで、長期に渡り安定して利益を確保できる公共インフラである水事業を民営化することについて行政が住民を説得する際のキーワードが「老朽化」である。しかし水道事業は、水道法第6条第2項により市町村が経営することが原則となっている。また、地方財政法第6条により独立採算が原則となっている。
そして、水事業収入は、事業収入の約9割を占める水道料金収入であって、節水機器の普及や使用水量の減少などにより減少傾向にある。一方で、高度経済成長期に建設した水道施設が耐用年数に達し、今後それら施設の更新や耐震化が急務となっていて、それら事業の実施に必要な資金、人員の確保が必要となっている。つまり公共インフラが劣化し更新する場合の費用が問題となっているのだ。それまでは各自治体が更新費用を工面して実施してきたが、それにより自治体の負債はふえるが資産も増える。したがって「老朽化」した公共インフラに再投資すれば済む話なのである。しか現在の日本では、再投資が出来ない、もしくは、再投資をしたくない、の何方かの理由があるはずでる。つまり、この話は資金の問題なのだ。
水道事業費を実施するために必要な資金は、国庫補助金、公営企業債、一般会計出資金から構成されている。その中の公営企業債という地方債は、地方公共団体が財政上必要とする資金を外部から調達することによって負担する債務で、その履行が一会計年度を超えて行われるものをいう。
その性格として次のような側面を有している。
- 地方公共団体が負担する債務であること
- 資金調達によって負担する債務であること
- 証書借入又は証券発行の形式を有すること
- 地方公共団体の課税権を実質的な担保とした債務であること
- 債務の履行が一会計年度を超えて行われるものであること
であった。
つまり市町村が水事業実施をするにあたって政府が多額の財政投融資をしていたのである。したがって設備が老朽化した場合は、既に償還が終わった部分の公営企業債を再度発行できるようにして残債部分の利息が問題とならないように留意するだけで大部分の問題が解決する。さもなければ公共インフラ整備と維持のため国庫補助金を投入する方法もある。残債部分の利息に付いては二重払いという問題があるため水道事業民営化の際にも残債利息を政府が補填する方法は行われていることから公営のままでも同じことをしても問題は起こらない。
その結果、財政投融資は、郵便貯金や厚生年金の積立金、簡易保険などの調達部門を通じて、598兆円の資金を調達していた(2000年3月末現在)。
そしてこれら資金は資金運用部の仲介等を経て、運用部門へ提供されていた(同535兆円)。
財政投融資の資金は大きく分けて、(1)国債の引受けや地方公共団体への貸付および財投対象機関の累積損失に対するファイナンス相当分(全体の約36%)、(2)政府系金融機関が行う民間部門向け貸付のファイナンス(同28%)、(3)公的企業が行う公共投資向けファイナンス(同15%)、(4)調達部門による自主運用(同19%)、の4つの分野に配分されていた。
順調にすすんでいた公共インフラに対する政府の投資は順調に推移していた。
ところが平成13年度に財政投融資改革で財政投融資の資金調達のあり方を大きく変更してしまった。
それまで財政投融資に必要な資金を調達していた郵便貯金、年金積立金を全額義務預託することで成り立っていたが、それらをすべて廃止して、財投債(国債)の発行中心に大転換すること等を柱としにしたのであった[7]。具体的には、平成13年度の資金運用部資金法等の改正で次のようになった。
- 郵便貯金、年金積立金の資金運用部資金への預託義務を廃止
- 特殊法人等が行う財政投融資対象事業については、民業補完の観点から事業を見直し
- 資金調達については、真に必要な資金を財投債(国債)または財投機関債によって市場から調達することとする
それを図示したのが参考2(「財政投融資の概要2022」[8]から抜粋)である。その結果、平成13年度の財政投融資改革は国債発行価額が以上の伸び率を示すことになるのだ(参考3「普通国債残高の累増」)。
つまり、財政投融資改革の経緯は平成12年4月5日に始まった第1次森内閣のころであり、それを実行に移したのは、第二次小泉内閣の時なのである。
その時、小泉が行った財政投融資改革の最も重要な財政投融資の資金源である郵便貯金を廃止するために行ったのが「郵政民営化」なのである。
具体的には、平成16年9月10日に閣議決定した「郵政民営化の基本方針」で、以下の3つの目的を掲げている[9]。
『……
郵政民営化の基本方針
平成16年9月10日
閣 議 決 定
明治以来の大改革である郵政民営化は、国民に大きな利益をもたらす。
- 郵政公社の4機能(窓口サービス、郵便、郵便貯金、簡易保険)が有する潜在力が十分に発揮され、市場における経営の自由度の拡大を通じて良質で多様なサービスが安い料金で提供が可能になり、国民の利便性を最大限に向上させる
- 郵政公社に対する「見えない国民負担」が最小化され、それによって利用可能となる資源を国民経済的な観点から活用することが可能になる。
- 公的部門に流れていた資金を民間部門に流し、国民の貯蓄を経済の活性化につなげることが可能になる。
こうした国民の利益を実現するため、民営化を進める上での5つの基本原則(活性化原則、整合性原則、利便性原則、資源活用原則、配慮原則)を踏まえ、以下の基本方針に従って、2007年に日本郵政公社を民営化し、移行期を経て、最終的な民営化を実現する。
……』
そして郵政公社の4機能(窓口サービス、郵便、郵便貯金、簡易保険)が分割された。それと共に財政投融資の財源が絶ち切られて戦後日本の経済発展をささえた投資と財源として郵便貯金と年金を組み合わせた「建設国債」方式は放棄されることになった。
そして2007年10月1日に日本郵政株式会社と4つの事業会社として再出発することになった。
4.公共インフラ民営化の先進国であるイギリスの現状
PFIの現状については難波悠『イギリスはなぜ、PFIを止めたのか』[10]が詳しい。同氏によれば、イギリスが90年代にPFIを始めた時代背景や目的は大きく3つあった。
- サッチャー政権下、小さな政府を目指していたこと。
- EUの仲間入りをする前提として、借金が認められなかったことだ。そこで、民間資金で公共インフラを整備し、そこから提供される公共サービスを購入するという手法を発明した。これがPFIだ。あくまでも官側はサービスを購入しているだけなので、施設はオフバランス化でき、借金ではないというロジックである。
- 公共工事の遅延と予算オーバーが顕著であったこと。発注者側の能力不足と、工事業界の体質が背景にある。PFIで民間に借金をさせれば返済しないといけないというプレッシャーが民間側に生まれ、きちんと工事を終わらせるだろうと期待された。
しかしPFIを始めた90年代の動きは鈍かったものの2000年代になるとPFIは急速に拡大した。ところが、PFIを実際に動き始めると民間が儲けすぎとか民間は何をやっているのか分からないという声があがった。また、公共インフラ施設は資本と資産部分から外されてしまったことから、つまりオフバランス化したことから、公共事業体は民間会社からサービスを購入しているだけという形になったが、長期間にわたってサービス代金の支払を続けるということは、やはり長期借金と同じではないかという見方が出るようになった。自己資産であれば設備保守のことを含めて考えることが常識であるが、運営権が民間に移っていることから設備保守につい公共事業体が介入することはできない。そのため民間の設備保守の考え方は、利益を出すために設備保守を切り詰めるか、もしくは料金を値上げする以外にないなどの問題が発生した。
イギリスで水民営化した結果に付いては『「民間に任せても万事うまくいくわけではない」を証明したイギリスの民営水道テムズ・ウォーター』[11]がある。
『……
民営化後10年の実績を見ると、技術面などの改善で上水道で18%、下水道で9%の経費が削減され、そのほかに人員削減などによって人件費が17%削減されました。
2002年、テムズ・ウォーター社のピーター・スポイレット環境技術・環境品質マネージャー(当時)は新聞インタビュー(「京都新聞」2002年12月25日)に「われわれは民営化に成功した」と以下のように答えています。
(水道料金について)「公社時代から水料金は60%値上がりになったが、アップは抑える努力をしているし、施設への投資で水質は向上した。毎年、施設や家庭から200万サンプルの水を採取し、検査を実施している。それに、ヨーロッパ諸国の水道料金を比較して、ロンドンの水は安い」
(施設老朽化について)「漏水が悩みの種だ。パイプが老朽化しているのが大きな原因で、粘土質の柔らかい土質のところではパイプが折れやすい。工事が難しく、工事をすれば水道料金に跳ね返る。漏水率は30%前後で、改善していないのが現状だが、徐々に対策を打っている」
「民営化に成功した」とはいうものの、実態はさまざまな合理化策が行われたものの、水道料金は上昇し、水質は低下し、漏水件数も減少することはありませんでした。その一方で、株主配当や役員報酬は多額な金額が支払われたことが指摘されています。
……』
水民営化の結果、水道料金は上昇したうえに、設備は老朽化が進み、水質は低下していたのである。
(第三回終了)(寄稿:近藤雄三)
参考1「PFI(Private Finance Initiative)とは」
出所:「民間資金等活用事業推進機構」HP
[6] 「週刊ダイヤモンド2019年1月19日号掲載の記事について」http://zensuido.or.jp/wordpress/press-release/%E9%80%B1%E5%88%8A%E3%83%80%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%A2%E3%83%B3%E3%83%892019%E5%B9%B4%EF%BC%91%E6%9C%8819%E6%97%A5%E5%8F%B7%E6%8E%B2%E8%BC%89%E3%81%AE%E8%A8%98%E4%BA%8B%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84/
[8] 「財政投融資の概要2022」www.mof.go.jp/policy/filp/publication/filp_overview/FILP_overview2022.pdf