小日向白朗学会 HP準備室BLOG

小日向白朗氏の功績が、未だ歴史上隠されている”真の事実”を広く知ってもらう為の小日向白朗学会公式HP開設準備室 情報など

巨星逝く~鈴木邦男氏死去~合掌

2023-01-31 | 小日向白朗学会 情報
 今年に入って、1月11日のことだという。あの鈴木邦男氏が逝ってしまった。私は一度くらいは会いたかった人だ。会って話を聞きたかった人だ。いつのことだったろうか、遠くから見たことはあった。≪あっあの人が鈴木さんだ≫と思った私が道路に立っていた。場所は、いろんなイベントなどの会場となる中野ゼロホールの前の道路だ。道路なのに人がいっぱいいた。制服の警察官もいた。なんだか大きな声で映画の上映に抗議するやや与太者風の人たちも数人いたような気がする。彼らは右翼なのだろうか、いや左翼なのだろうか‥まあどっちでもよかった。
 そんな景色の中に鈴木さんがいたのだ。表現の自由(日本国憲法21条)を守る立場だったのだろうか。そう、その日は「創」編集長の篠田博之氏主催による映画「ザ・コーヴ」の上映会とシンポジウムがあったと記憶している。あれは2010年6月のことだったようだ。
 ところで当白朗学会の会員に素敵な作家が一人いる。織江耕太郎氏だ。彼がニコニコしながら「目んたまをスプーンでくりぬくんだって…」などと、いろいろな拷問のお話をされるのを、レモンサワーを酌み交わしながら聞くのが、私は大好きだ。彼の主著の一つに「キアロスクーロ」(水声社)がある。この本の帯を書いてくれたのが鈴木邦男氏だった。曰く『「標的は・・・・・根っこだな。日本という国」3.11へと至る日本の戦後を支配してきた原発利権がついにフィクションとして描かれた。この意味は大きい。━━鈴木邦男(一水会最高顧問)』・・・・と。
 昨年12月に防衛三文書が出された。明治40年の帝国国防方針に比べるといかにも品がなく見劣りがするだけでなく、表現自体にも頻繁に体言止めが出てきたりで本来持っている日本の言葉の美しさが一筋もない。「自由、人権、民主主義、法の支配」・・・などというどこぞの国の翻訳言葉をそのまま頻発させているのだから仕方ないだろう。これから経産、財務及び防衛省だけでなく海保所管の国交省や科技庁所管の文科省なども広く巻き込んで防衛利権がじわじわと俎上に上るだろう。そう、原発利権もその一つだった。さすが、織江氏だ。「利権」の呪縛から離れられない我が国の指導層を見通していた。防衛利権をネタに新たなキアロスクーロが醸成されつつあるということだ。ああ、おそろし。おそろし・・・・・・。(文責:吉田)

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日本の安全保障に関する情報戦(プロパガンダ)(第一回) -正解は、「自衛隊に指揮権がないから」-

2023-01-30 | 小日向白朗学会 情報

2023.1.26、JBpressに北村淳『南西諸島に米海兵沿岸連隊配備、日本はなぜ「自分たちで守る」と言わないのか』[1]という記事が掲載された。
典型的な政府を擁護するプロパガンダである。その問題点を指摘したいと思う。断っておくが筆者は、北村氏という方と何ら利害関係は有しない。単純に北村氏が日本の安全保障に付いて主張されていることに大きな間違いや扇動が存在していて、時節柄、問題があると考えたことから筆を執ることにした。
要点と思われる箇所には①から⑫までの番号を振っておいた。なお、内容を詳細に読む必要がないという方は、後半部分まで読み飛ばして頂いて結構である。

(前半)
『……
岸田首相とバイデン大統領による会談の直前①(1月12日)に開かれた日米外務防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(いわゆる「2プラス2」)で、アメリカ側は、沖縄に駐留している海兵隊の一部隊(第12海兵連隊)を2025年までに「海兵沿岸連隊(MLR)」に改組し再発足させる計画を発表した。
 海兵沿岸連隊は海兵隊が新たに編成しつつある戦闘部隊である。この組織構想は、②アメリカの軍事的主敵をテロリスト集団から中国・ロシアへと転換した米国防衛戦略の抜本的変更に対応して、海兵隊総司令官デイビッド・バーガー大将が打ち出した③海兵隊の新戦略指針“Force Design 2030”(「2030年に向けての戦力設計」、以下「FD-2030」)の目玉の1つとして登場した。
③2022年にハワイを本拠地にしている第3海兵連隊を海兵沿岸連隊に改編し、引き続いて沖縄の第12海兵連隊と第4海兵連隊をそれぞれ第12海兵沿岸連隊、第4海兵沿岸連隊へ転換して、2030年までに3個部隊を前方配備させる計画だ。
……
 バーガー司令官の陣頭指揮のもとで推進中の➃FD-2030は、海兵隊の存在価値を再定義しアピールすることにより「組織の存続を図る」という意図から打ち出されたものだ。
⑤海兵沿岸連隊の主たる任務を一口で言ってしまうと、地対艦攻撃力を保持した小規模戦闘部隊(海兵連隊内のさらに小さな戦闘部隊)を第一列島線上にできるだけ多く分散配置して、東シナ海や南シナ海を第一列島線に向けて接近してくる中国艦隊を地上から攻撃して侵攻を妨害するというアイデアである。
➅第2次世界大戦中の太平洋戦域における日本軍島嶼守備隊との戦闘を通して、強襲上陸作戦は海兵隊の表看板となった。しかし今や強力な接近阻止戦力(中国に太平洋方面から侵攻してくる米艦艇や航空機を海洋上で撃破する戦力)を手にしている中国軍を相手としての戦闘では、時代遅れ、ほぼ不可能となってしまっている。そこで海兵隊が先陣を切って敵領域に突入するのではなく、海兵隊が最前線で待ち構えて迫りくる敵艦隊に打撃を加える、それによって海兵隊の存在価値を維持し続けよう、という動機が、海兵沿岸連隊創設の背景にある。
➅海兵沿岸連隊の主たる任務を一口で言ってしまうと、地対艦攻撃力を保持した小規模戦闘部隊(海兵連隊内のさらに小さな戦闘部隊)を第一列島線上にできるだけ多く分散配置して、東シナ海や南シナ海を第一列島線に向けて接近してくる中国艦隊を地上から攻撃して侵攻を妨害するというアイデアである。
このような海兵沿岸連隊戦術構想に対して、少なからぬ海兵隊や米海軍関係者たちからも批判がなされている。
 たとえば、以下のような批判だ。
「海兵隊とはアメリカの国益に対する深刻な脅威に対して尖兵として投入される陸上戦闘部隊だ。そのため、⓻あらゆる種類の敵に、あらゆる地形とあらゆる気候条件のもとにおいても対処できる、極めて柔軟性に富んだ戦闘組織であることが、海兵隊を海兵隊たらしめている特質である。しかしながら、⑧地対艦ミサイルを装備させて南西諸島ラインに分散配置させ、中国艦隊を迎え撃つ戦力として位置づけるという海兵沿岸連隊のアイデアは、海兵隊の特質である『柔軟性』を自ら放棄してしまっている」
「海兵隊は攻撃するための軍隊である。海兵隊は島嶼に立て籠もっての受身の守勢作戦に失敗した過去もある。⑨海兵隊が(南西諸島の)島々に配置された場合、その島嶼守備部隊に補給を継続したり支援することはできない。シミュレーションによると、南西諸島に展開する海兵沿岸連隊に対して必要な弾薬をはじめとする補給物資は1日あたり900トンほども必要となる。(中国軍の各種ミサイル攻撃にさらされる極めて危険な戦域において)多大な犠牲を払わなければならない補給作戦を実施することは不可能と言わざるを得ない」
……
このようにアメリカ軍内外では、南西諸島の島々に海兵隊の小規模戦闘部隊を分散配備して中国軍の艦艇や航空機を撃破するという計画に対して賛否両論が戦わされている。しかしながら、➉アメリカが海兵沿岸連隊を配備しようとしている南西諸島の主権を維持する責務のある日本政府首脳や国防当局それに国会などからは、アメリカ側の作戦構想に対して何の疑義も提起されていない。その現状は極めて奇異と言わざるを得ない。
⑪アメリカ政府・軍首脳たちは、日本領内に治外法権で勝手気ままに利用できる基地や施設を確保するのみならず、日本領域内に中国艦隊を攻撃するための戦闘部隊を分散配置すると、公の場で明らかにしているのである。
……
 ⑫日本政府・国防当局の首脳が、「いくら同盟国であるとはいっても、他国の領土内に戦闘部隊を展開させて作戦行動する計画など勝手に立案するな」あるいは「地対艦ミサイル戦力による接近阻止作戦など、アメリカ軍よりも陸上自衛隊のほうが数歩も先んじており、余計なお世話だ」といったコメント(もちろん、やんわりとした表現で)を発するくらいでなければ、とても自国の防衛を最大の責務としている自覚を持っているとはみなせない。
……』

(後半)
①~➃ アメリカ海兵隊新戦略指針FD-2030策定の経緯
(要約1)
2023年1月12日に開かれた日米外務防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会(いわゆる「2プラス2」)で、アメリカ側は、沖縄に駐留している海兵隊の一部隊(第12海兵連隊)を2025年までに「海兵沿岸連隊(MLR)」に改組し再発足させる計画を発表した。
アメリカの軍事的主敵をテロリスト集団から中国・ロシアへと転換した米国防衛戦略の抜本的変更に対応して、海兵隊の新戦略指針“Force Design 2030”(FD-2030)として登場した。
2022年にハワイを本拠地にしている第3海兵連隊を海兵沿岸連隊に改編し、引き続いて沖縄の第12海兵連隊と第4海兵連隊をそれぞれ第12海兵沿岸連隊、第4海兵沿岸連隊へ転換して、2030年までに3個部隊を前方配備させる計画だ。FD-2030は、海兵隊の存在価値を再定義しアピールすることにより「組織の存続を図る」という意図から打ち出されたものだ。
その計画の一端は、計画の一部は、2022年にハワイを本拠地にしている第3海兵連隊を海兵沿岸連隊に改編し、引き続いて沖縄の第12海兵連隊と第4海兵連隊をそれぞれ第12海兵沿岸連隊、第4海兵沿岸連隊へ転換して、2030年までに3個部隊を前方配備させる計画だ。
(問題点1)
June 4, 2020、USNI News『Marines Testing Regiment at Heart of Emerging Island-Hopping Future』[2]とする記事が掲載されている。この記事によれば、FD-2030が立案されたのは2019年の夏であった。その目的は海兵隊を再定義することであった。つまり、本年1月12日に開かれた日米外務防衛担当閣僚による日米安全保障協議委員会で公表されてとしているが、岸田総理大臣とバイデン大統領との会談とは無関係な話なのである。実に恩着せがましい導入部である。むしろ、注目すべき点は、FD-2030が始動した年が2019年夏であったことである。
2019年6月30日、BBCニュースは「トランプ氏と金正恩氏、板門店で急きょ会談 現職米大統領として初めて北朝鮮側に」[3]という記事を配信している。
『……
ドナルド・トランプ米大統領は30日午後、韓国と北朝鮮を隔てる軍事境界線を挟み、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と握手した後、現職の米大統領として初めて、境界線を歩いて越え、北朝鮮側に入った。これに続き、金氏がトランプ氏と並んで境界線を越え、南側に入った。
……』
 そうなのである。海兵隊の再編は北朝鮮の動向と密接に連動していることこそが着目すべき点なのだ。
2018年6月12日にシンガポールでトランプと金正恩が史上初の首脳会談を行い、朝鮮戦争終結に向けて協議を開始することを発表してから1年後、今度は、トランプと金正恩の二人が揃って軍事境界線を超えたことで戦争終了は直ぐそこまで迫っていることを、ニュースを聞いた世界中の人々が実感した瞬間であった。
ところで、朝鮮戦争が終結するとなると、日本に駐留する海兵隊を含むアメリカ軍が取るべき行動がある。それは、日本に駐留するアメリカ陸海空軍及び海兵隊及び総司令部は本国に撤収しなければならないことが昭和29年に締結した「日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定」[4]で決められている。この一連の流れと海兵隊と云う軍事組織の行動様式から考えると「FD-2030」の本来の目的が見えてくる。つまり“Force Design 2030”(FD-2030)とはデタントを進めるトランプが、それまでも国防省内でも存在意義が問われていた海兵隊を整理縮小することを求めたことから作成されたものということになる。軍隊の計画は、すべてトップダウンであり、トランプ大統領が決断しない限り整理計画を作成するなどということはあり得ない話で当然の帰結なのだ。そして出来上がった「FD-2030」の達成目標が2030年となっているのは、急激な縮小は失業を生むという海兵隊側の事情か若しくはトランプの配慮があったものと思われる。
 ところで、日本政府は、予てから普天間基地に駐留するアメリカ海兵隊は日米同盟の抑止力を維持するためと、普天間基地が市街地に近いこと等住民の意向を汲んで辺野古に移転することが是が非でも必要であるという見解を示してきた。それを幾度も聞いてきた。
 「ところが」、である。朝鮮戦争が終了すると駐留アメリカ軍は日本から撤収することになるのだ。無論、海兵隊も同時に撤収することになる。そんな海兵隊が、普天間基地から辺野古に移転する必要はあるのかと問えば、無いという答え以外にない。少なくとも「FD-2030」が立案された2019年以降は、移転の理由はなくなっていたのだ。
 しかし、頑なに海兵隊の存在意義を強調していたのは日本政府である。国民には話せない何か他の理由があることになる。それを解くカギは、辺野古基地に設置が予定されているアングル・デッキ(Angled flight deck)であろう。本来のアングル・デッキは、航空母艦に着艦する方向を艦の進行方向から斜めにずらす方式のことである。この方式で、着艦と発艦を分離することができ、航空母艦で作業する要員の安全性が向上するだけでなく、発着艦の運用効率が飛躍的に向上したとされている。つまり、辺野古基地は、自衛隊が正規空母を保有した時の着艦訓練用だったのではないだろうか。加えて、基地を埋め立てとしたのは、安全保障の名目で巨大な資金が動く防衛利権だからではないか。おそらく両方であろう。
 自民党政権は、政権維持のため犯罪者集団統一教会を使って選挙活動をおこなってきたことから、いくつかの例外を除いて政権を維持することができた。そして、政権与党の特権である文民統制をいいことに海外派兵を行わない自衛隊に空母を持たせようと企てた。自民党政権は、アメリカの要求に諾々と応じた代償として得た防衛利権を貪ってきたのだ。

⑤~⑨ アメリカ海兵隊が採用することになった玉砕戦法の問題点
(要約2)
 第2次世界大戦中の太平洋戦域における日本軍島嶼守備隊との戦闘を通して、強襲上陸作戦は海兵隊の表看板となった。しかし今や強力な接近阻止戦力(中国に太平洋方面から侵攻してくる米艦艇や航空機を海洋上で撃破する戦力)を手にしている中国軍を相手としての戦闘では、時代遅れ、ほぼ不可能となってしまっている。
 海兵隊とは、あらゆる種類の敵に、あらゆる地形とあらゆる気候条件のもとにおいても対処できる、極めて柔軟性に富んだ戦闘組織であることが、海兵隊を海兵隊たらしめている特質である。しかしながら、地対艦ミサイルを装備させて南西諸島ラインに分散配置させ、中国艦隊を迎え撃つ戦力として位置づけるという海兵沿岸連隊のアイデアは、海兵隊の特質である『柔軟性』を自ら放棄してしまっている」
 「海兵隊は攻撃するための軍隊である。海兵隊は島嶼に立て籠もっての受身の守勢作戦に失敗した過去もある。海兵隊が(南西諸島の)島々に配置された場合、その島嶼守備部隊に補給を継続して支援することはできない。シミュレーションによると、南西諸島に展開する海兵沿岸連隊に対して必要な弾薬をはじめとする補給物資は1日あたり900トンほども必要となる。(中国軍の各種ミサイル攻撃にさらされる極めて危険な戦域において)多大な犠牲を払わなければならない補給作戦を実施することは不可能と言わざるを得ない」
(問題点2)
 北村氏が云う通り、太平洋戦争で日本軍は、点在する島々を不沈空母としてアメリカと戦う計画であったが、島は沈没を免れたものの兵員は各島で玉砕してしまった。緯度、経度まで明らかな島嶼部は、不沈空母どころかエンジンの動かない不沈空母となって格好の餌食となってしまったのだ。それよりは、同じ場所に留まる島嶼部より、自在に動き回る空母の方が数段に有利なのは当たり前の話なのだ。それが太平洋戦争の戦訓である。
ところが「FD-2030」では、太平洋戦争でアメリカを勝利に導いた海兵隊が、よりによって旧日本軍と同じ玉砕戦術を行うと言い出したのだ。おそらく島嶼部(南西諸島)に立てこもる海兵隊は確実に殲滅される。この点に付いては北村氏も、同様に考えているようだ。
 島嶼部を不沈空母にする戦術は無謀であることを理解できない軍事専門家はいない、と断言できるほど愚かなものなのだ。海兵隊が軍事専門家なら絶対に採用しない戦術を言い出したのは、国防省内部では厳しいリストラが進められようとしていたとしか考えられない。つまり海兵隊はアンダー・ドッグ(underdog)、一方的に負ける役となることで海兵隊の存続を図ることにしたのだ。また、それを認めた国防省には、もう一つの思惑があった。島嶼部に海兵隊を張り付けることで、より相手、つまり、中国との距離を詰めることで全体としての戦線を押し上げておいて、ファース・トストライク(first strike)を受けることで開戦の動機を作ることができるという思惑もある。非常に挑戦的、且つ、威嚇を前面に出した戦術なのだ。

⑩~⑫ 海兵隊の玉砕戦法に併せて自衛隊も同調すべきか
(要約3)
 アメリカが海兵沿岸連隊を配備しようとしている南西諸島の主権を維持する責務のある日本政府首脳や国防当局それに国会などからは、アメリカ側の作戦構想に対して何の疑義も提起されていない。その現状は極めて奇異と言わざるを得ない。
アメリカ政府・軍首脳たちは、日本領内に治外法権で勝手気ままに利用できる基地や施設を確保するのみならず、日本領域内に中国艦隊を攻撃するための戦闘部隊を分散配置すると、公の場で明らかにしているのである。日本政府・国防当局の首脳が、「いくら同盟国であるとはいっても、他国の領土内に戦闘部隊を展開させて作戦行動する計画など勝手に立案するな」あるいは「地対艦ミサイル戦力による接近阻止作戦など、アメリカ軍よりも陸上自衛隊のほうが数歩も先んじており、余計なお世話だ」といったコメント(もちろん、やんわりとした表現で)を発するくらいでなければ、とても自国の防衛を最大の責務としている自覚を持っているとはみなせない。
(問題点3)
北村氏は、海兵隊が日本領土内で日本のためにアンダー・ドッグ(underdog)となってファース・トストライク(first strike)を受けようとしているのに、日本の政府及び自衛隊は指をくわえてみているのかと云っているのだ。北村氏はこの部分を云いたいがために作成した記事であろう。そして、島嶼部の防衛が大きな危険をはらんでいることを論理的に理解していながら、突然、暗に自国の防衛であることから、例え無謀な戦術であっても自衛隊がやるべきだと言っているのだ。一見正しそうに思える。しかし、大きな間違いがある。
 北村氏が、戦訓からみて無謀な戦術は採用しないように政府に抗議するなら理解できるが、まるで逆の「政府は自衛隊に無謀な作戦を実施するように」進めるべきであると、政府の安全保障政策を擁護する世論作りだそうとしているのだ。北村氏は、自衛隊員も日本国民であることを考えたことがあるのだろうか。軍事専門家なら玉砕戦法は無駄だと主張すべきではないだろうか。
もう一つ北村氏には間違い、若しくは知らないことがある。それは自民党が結党以来の最高秘密があり、その秘密が政権を維持する原動力になっている密約がある。
 それは昭和27年締結の日米安全保障条約及び行政協定により「指揮権をアメリカ軍に移譲」つまり「日本国に自衛隊の指揮権はない」という密約である。これに付随して日本はアメリカを裁くことができない治外法権となっている。したがって自衛隊が自国を守りたいとしても、アメリカの都合で台湾を守ることになってしまうのだ。付け加えておくならば海兵隊を配備するのは第一列島線と云っており南西諸島だけとはいっていない。恰も南西諸島防衛に海兵隊を投入と思わせるのは非常に危険なことなのだ。
北村氏は、自衛隊の手足を縛りあげて、補給も儘ならない小さな島に置き去りにて敵国から無数に撃ちこんでくるミサイルの下でじっと祖国防衛の任に耐え忍ぶことをもとめ、万が一の場合は、靖国神社に合祀すべきであると主張するのだろうか。

いい加減なプロパガンでは止めにしてはもらえないだろうか。
(第一回終了)
(近藤雄三)

[1]https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/73678(2023.01.27 閲覧)。

[2]「USNI NEWS」https://news.usni.org/2020/06/04/marines-testing-regiment-at-heart-of-emerging-island-hopping-futur(2023.01.27 閲覧)。

[3]「BBC NEWS JAPAN」https://www.bbc.com/japanese/48816440(2023.01.27 閲覧)。

[4]「日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定」https://www.mofa.go.jp/mofaj/na/fa/page23_001541.html(2023.01.27 閲覧)。

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「令和4年日本国国防方針」批判(第六回) -国防権のない日本の危険な外交と国防-

2023-01-25 | 小日向白朗学会 情報
 8、仮想敵国ロシアと北方領土問題
平成30(2018)年6月12日、シンガポールでアメリカのトランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長及び国務委員会委員長による史上初の首脳会談が行われ共同声明が出されたことで、自民党と外務省が大混乱になったことを前回記載した。それに相応じるように三か月後の同年 9 月11日、ウラジオストクで開催された東方経済フォームではプーチン大統領が突如として「年内にいかなる前提条件も設けずに平和条約を結ぼう」と日本政府に提案した。この提案を受けて同年11月、シンガポールで日ロ首脳会談をおこなった。会談後、安倍首相は「日ソ共同宣言を基礎として平和条約交渉を加速させることでプーチン大統領と合意した」ことを明らかにしている。これで原則的に日ロ平和交条約締結が前進したことになる。日本とロシアの関係は、平成5(1993)年10月13日、総理大臣細川護煕とロシア連邦大統領エリツィンが、北方四島全てに関して帰属を確定することを「前提条件」として交渉を行うことを宣言し署名していた。いわゆる東京宣言です。これは、二国間のその後の方向性を定めた最初の包括的な文書であった。ところで東京宣言前文に「令和4年日本国国防方針」にしばしば登場する文言が存在する。
『……
日本国及びロシア連邦が、自由、民主主義、法の支配及び基本的人権の尊重という普遍的価値を共有することを宣言し、
市場経済及び自由貿易の促進が両国経済の繁栄及び世界経済全体の健全な発展に寄与するものであることを想起し、
ロシア連邦において推進されている改革の成功が、新しい世界の政治経済秩序の構築にとって決定的な重要性を有するものであることを確信し、
国連憲章の目的及び原則の尊重の上に両国関係を築くことの重奏性を確認し、
両国が、全体主義の遺産を克服し、新たな国際秩序の構築のために及び二国間関係の完全な正常化のために国際協力の精神に基づき協力していくべきことを決意して、
以下を宣言する。
……』
 その後、日本とロシアで合意したいくつかの声明や協定には「自由、民主主義、法の支配及び基本的人権の尊重という普遍的価値」という文言は再び登場することはない。日本外交に於いて、この文言が頻繁に使われるようになったのは安倍晋三が日本の防衛範囲を「インド太平洋」を言いだした頃からと記憶している。そして最近ではRUSIが主導してまとめた「令和4年日本国国防方針」の中に頻繁に登場する慣用句である。それが20年以上も前に出現しているということは「自由、民主主義、法の支配及び基本的人権の尊重という普遍的価値」という用法は、重要な意味を持っているに違いない。ならばウクライナ問題から吟味しておく必要がありそうだ。
 既に、述べたことであるが、令和4年3月17日、『朝雲』に衛研究所政策研究部長兵頭慎次がウクライナ問題の根本原因が「ブタペスト覚書」に違反したことが「自由、民主主義、法の支配及び基本的人権の尊重という普遍的価値」に相いれないのでロシアの蛮行だと非難の根拠に利用していることを吐露した。
 つまり、兵頭は、ロシアの核の下にあったウクライナを非核化したのでNATO(北大西洋条約機構:North Atlantic Treaty Organization)はウクライナに対して核を使わないということを大前提にしていたにも拘わらず、クーデターで政権を握った新政府が自由で民主的であれば、たとえロシアの安全保障上の大問題である「ロシアの腹部に核配備をするという」密約をNATOと結んでいたとしても、条文の解釈を優先する、つまり法の支配が優先するという論理であった。そしてクーデターで政権を握った政府が反撃を受けた場合に、基本的人権を守るためと称して「ウクライナ難民受け入れ」と「ウクライナかわいそうキャンペイン」を流布し、ウクライナに対する武器支援を正当化する根拠としてきた。つまり「自由、民主主義、法の支配、基本的人権」を「普遍的な価値」(絶対は神を表すことから、普遍的と表現をやわらげたのであろうが)として、ウクライナで「侵略、破壊、殺戮、略奪」という悪巧みを正当化する鍵となる言葉なのだ。ウクライナで残虐行為を積極的に行ったのが2014年にウクライナで起きたクーデターの際に、反対する親ロシア派を殲滅するため発足した「アゾフ大隊」であった。このアゾフ大隊は、日本の公安調査庁が纏めた「国際テロリズム要覧2021」に「ウクライナの国家組織「アゾフ大隊」をネオナチとし認定していたが、ロシアがウクライナに侵攻後、2022年4月8日に「アゾフ大隊」を削除してしまった。さすがに日本政府も公安調査庁がアゾフ大隊をテロ組織としたままで「ウクライナかわいそうキャンペイン」を行うことができなかったからである。
 話を戻そう。
 「自由、民主主義、法の支配、基本的人権」と「普遍的な価値」という慣用句を含んだ平成5(1993)年10月13日の東京宣言は、ブダペスト覚書と同様に何らかの悪巧みを考えていたとみる以外ない。実は、昭和27(1952)年4月15日、日米安全保障条約(旧日米安全保障条約)及び行政協定締結の時から悪巧みは始まっていて、ウクライナ侵攻の原因と同質の罠を仕掛けてあった。これに付いては昭和29(1954)年12月03日参議院「電気通信委員会」で山田節男委員の質問が参考になる[1]。少々長いが確認していただきたい。
『……
036 山田節男
……
 私は、ここで何故正力君のテレビ免許申請の経過を殊更詳しく述べるかと申しますと、只今当委員会で問題となつているマイクロ・ウエーブ中継所設置問題と非常に関係が深いと申しますか、不即不離の関係にあるからです。ユニテル社の機関誌テレ・テツクの一九五二年二月号五十七頁を見ますと、この正力氏の計画し政府へ申請したテレビの東京放送局(NTV)は、ユニテル社が企画しているグロバール・マイクロウエーブ・システムのアジアの第一ステーシヨンであることか明記してあります。換言すれば、NTVは、テレビでもつて、自由諸国家をつなぐ、即ち前述のヴオイス・オブ・アメリカと並行してヴユー・オブ・アメリカの一環であると思われるのであります。私は、NTVが何故マイクロ・ウエーブ中継施設を電電公社や防衛庁へ手を代ヘ品を変へて話を持ちかけるか、その背景を知る必要があると存じます。(地球)をテレビで巻く計画をしているのがいわゆるユニテル社であります。同社はハルステツド、クロスビーの両企画者、中継所設計者であるダシスンキー博士及び弁護士のホルシユーセンが中心であります。この連中は日本へ何遍も来ています。ユニテル社は、日本の地理的状勢を詳細に調査して、東京を中心に二十二個の山上マイクロ・ウエーブ中継所で北海道から九州南端まで結び、このマイクロ・ウエーブ中継を利用して、テレビはもとより電話、印刷電信、レーダー、航空通信、ラジオ等いろいろなものに利用する設計になつていて、五年にしてこの全工事を完成するプランを立てています。このユニテル社の計画書を見ますと、正力氏が実現せんとするマイクロ・ウエーブ中継は、その間のユニテル社との交渉を見ますと、ユニテル社計画の世界を囲むテレビ網の一環であると判ぜざるを得ないのであります。  ついでに申しますが、このユニテル社のグローバル、マイクロウエーブ・システムは、アメリカ、アジア、アフリカ、地中海、ナルコム、(北大西洋)スカンジナビヤの六つのネツト・ワークのブロツクに区分し、北大西洋はグリーンランド、アイスランドを経て英国へつなぐのであり、マイクロ・ウエーブのほかに超過電力のVHFを利用し、又はコアキシヤル・ケーブルを利用して長距離の海上中継をやるのです。この方面は技術的にも可能なことは確かですが、アメリカからマイクロ・ウエーブはアリユーシヤン群島から、千島列島がソ連領である今日、如何にして北海道の北端を中継するか、この海上距離の長大なることから、末だ結論的なものはないやうです。このユニテル社の地球を廻るママイクロ・ウエーブ継は、マウンテン・トツプ(山頂設置)式マルテ・チヤンネル・マイクロウエーブとFMタイプの超高電力のVHFの無線中継でやろうとする共通の方式を採用するようにしています、更にそれでも中継のむずかしい場合は定時に高空に飛行機を飛ばし、又は気象観測船を海上に配置して電波を中継せんと計画しています。又最近では、電波を月に反射せしめて長距離到達も可能であるといわれるようになつたので、或いはこの方面から電波の長距離中継が実現するかも知れません。時間が短いので系統的に評しく説明して、塚田郵政大臣並びに木村防衛庁長官に、マイクロ・ウエーブ問題の中核を納得して頂けるようにできないことは大変残念であります。いずれ、木村長官が御要求されるように、機を見て、資料を示してくわしくお話したいと存じます。 以上簡単に述べましたが、NTVがマイクロ・ウエーブ施設を、アメリカからの借款で建設せんとして、電電公社に貸与せんとする申入れが拒絶されるや、今度は手を変えて、防衛庁へ、そのマイクロ・ウエーブ施設の管理を一部委ねる形においてこれを建設せんとする意図を持つていることは明らかであります。
……』
山田節男は、日本のマイクロ・ウエーブ網はVOAと同様にアメリカが全世界的な軍事設備の一環として建設を進めているのではないかと質問したのだ。これに対して久保等理事は妄動と拒否している。
山田によれば、世界規模のマイクロ・ウエーブは「……アリユーシヤン群島から、千島列島がソ連領である今日、如何にして北海道の北端を中継するか……」が問題で完成の目途が立っていないと睨んでいた。つまり千島列島はソ連が占拠していて竣工の目途が立たない時期であった。しかし、莫大な費用を掛けた軍事施設であることはわかるが、その全体像はみえてこない。このことを理解するのは、いわゆる地政学では、ロシアは広大な領土を持つものの、実際に地球儀をみればわかるように、外洋に出ようとする場合に利用できる海域は3海域しかない。一つはバルト海、二つ目は黒海、三つめは日本海だけである。リムランドからすると、この三地区の港湾を抑えることでリムランドはハートランドに勝敗できると考えているのだ。軍艦の力で世界を制覇したイギリスらしいドグマである。実際は、ロシアはこれに対応するため船を利用せずに鉄道を敷設し対抗していることから、イギリスが考えるほどに海洋方面からの締め付けに効果があるとは限らない。むしろ、食料や燃料など自らの首を絞める結果になっている。
 ところで問題の千島列島部分が完成した暁には、冷戦の包囲網が完全に閉じる時であるとともに、イギリスのドグマである地政学で云うリムランドがハートランドを閉じ込めるときなのだ。その実態は、マイクロ・ウエーブの大西洋側最先端に位置するグリーンランドにチューレ空軍基地(Thule Air Base)の存在していることが好例であろう。同基地は、1953(昭和27)年からは戦略航空軍団のB-36、B-47爆撃機が配備されていたとされている。また、1961(昭和36)年には弾道ミサイル早期警戒システム(BMEWS)のレーダーが設置されていることが知られている。同基地はICBMなどの弾道ミサイル警戒任務にあたっている。したがって、北方領土が返還となったら国後、択捉両島は面積も広く航空機が発着する基地を建設できる広さもあることからチューレ空軍基地と同等のものとなったはずである。そして北方領土が返還となった場合に、そこにアメリカ軍の施設が作られるであろうことは疑うべき余地もないことを外務省が作成した日米地位協定に関する機密文書『日米地位協定の考え方』[2]で認めている。

 つまり、昭和27年に日米安全保障条約(旧日米安全保障条約)及び行政協定締結の時から、アメリカは北方領土が日本に返還された場合にアメリカ軍の基地を設置してソ連を締め上げる心算でいた。平成3(1991)年、絶好のチャンスがソビエト崩壊とともに訪れた。平成5(1993)年10月13日、「自由、民主主義、法の支配、基本的人権」と「普遍的な価値」という慣用句を含んだ東京宣言が出された。これでロシアは、日本に北方領土を主権とともに返還したならば、エリツィンの知らない日米の秘密協定により、旧北方領土にアメリカ軍基地が設置されてしまい自国の安全保障を窮地に陥らせることになったのだ。
 その後のロシアであるが、1999年12月31日, エリツィン前大統領の辞任に伴い、プーチンが大統領代行となった。 2000年3月26日, 大統領選挙でプーチンが当選し同年5月7日に大統領に就任した。プーチンは、東京宣言の「自由、民主主義、法の支配、基本的人権」と「普遍的な価値」という慣用句のレトリックに気付き、大幅な方針変更を行った。それが2000(平成12)年9月5日、プーチンと森喜朗が「……択捉島、国後島、色丹島及び歯舞群島の帰属に関する問、題を解決することにより平和条約を策定するための交渉を継続すること」に合意し署名した「平和条約問題に関する日本国総理大臣及びロシア連邦大統領の声明」であった。
 次に日本とロシアが領土問題に付いて話し合いを持つのは、冒頭で紹介した平成30(2018)年9月にプーチン大統領が平和条約締結を日本政府に提案したことを受けて同年11月14日に安倍晋三とプーチンの会談が実現した。その直後の様子は、平成30(2018)年11月15日付け朝日新聞記事に『首相「2島先行返還」軸に日ロ交渉へ』がある。
『……
安倍晋三首相は14日、訪問先のシンガポールでロシアのプーチン大統領と会談し、1956年の1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させることで合意した。56年宣言は平和上日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速させることで合意した。56年宣言は平和上約締結後に歯舞(はぼまい)群島、色丹(しこたん)島の2島を引き渡すと明記している。日本政府は従来、国後(くなしり)、択捉(えとろふ)の2島も含めた北方四島の一括返還を求めていたが、首相は今後の交渉で2島の先行返還を軸に進める方針に転換した。
……』
 つまり、アメリカ軍基地建設に最適な国後、択捉両島を含む4島返還を目標に国民運動まで行ってきた自民党の思惑は肩透かしを食らったのである。まさに柔道好きのプーチンに一本取られたのだ。
 このころプーチンは日本政府とどのように交渉を進めようとしていたのかを『ポスト・プーチンのロシアの展望』[3]とする報告書にまとめている。尚、この報告書をまとめたのは、有識者会議の座長である佐々江賢一郎が理事長であった公益財団法人日本国際問題研究所であることは注目に値する。
『……
1.日本テレビとの会見(2016 年 12 月)
  日本には(日米)同盟上の義務がある。しかし日本はどこまで自由で、どのくらいまで踏み出す用意があるのかを見極めなければならない。
2.東京における記者会見での発言(2016 年 12 月)
  ウラジオストクとその北には大規模な海軍基地があり、太平洋への出口である。日米の特別な関係と日米安保条約の枠内における条約上の義務を考慮すれば、この点について何が起こるかわからない。
3.サンクトペテルブルグにおけるマスコミ代表者との会見(2017 年 6 月)
  アラスカや韓国など、アジア太平洋地域で米国のミサイル防衛(MD)システム が強化されており、ロシアにとっての安全保障上の脅威である。
・我々は脅威を除去せねばならず、島(北方領土)はそのために好適な位置にある
・返還後の北方領土には米軍基地が設置される可能性が排除できない。これは日米間の合意の帰結であり、公開されていないが、我々はその内容を全て知っている。
4.モスクワにおけるマスコミ代表者との会見(2018 年 12 月)
  沖縄では米軍基地移設に対する反対運動が広がっているが、その声が日本の政策に反映されていない
・この問題について、日本にどこまで主権があるのかわからない
・日露が平和条約を締結した後に何が起こるかわからない。これに対する答えなくして具体的な解決策を取ることはできない
・米国の MD システムは戦略核戦力の一部であり、防衛的な性格であると理解することはできない。
……』
 等、プーチンは正直に自国の安全保障上の問題を述べるとともに日本の問題点を十分に認識していた。安倍晋三は、アメリカに日本の自衛隊を移譲した歴代内閣総理大臣の一人としては、日米安保を破棄する心算もないことから、そもそも交渉の成立はあり得なかったのである。「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の座長であった佐々江賢一郎は、安倍晋三とプーチンによる領土問題の裏には北方領土にアメリカ軍基地を設置することがあるのを見透かされて失敗したことを熟知していた。ならば、交渉による解決はできないことから「令和4年日本国国防方針」にロシアを仮想敵国とするように提言した。つまり佐々江は一貫してロシアを敵とするイギリスのドグマを信仰して活動していた中心人物ではないかと思わざるを得ない。日本の外務省は、日本の国益のために働いていないのだ。

 この回の最期に、マイクロ・ウエーブ問題の国内での動きを掻い摘んで紹介しておく。
 アメリカに譲渡した「電波権」は、アメリカからすると安全保障上の問題であるが、日本では譲渡した「電波権」の褒美が電波利権となっていた。そんなマイクロ・ウエーブ利権を握ったのはCIAエージェント正力松太郎(コードネーム:PODAM)であった。マイクロ・ウエーブがミサイル防衛網に利用されていることを国民の目に触れないようにするため昭和27年に正力が日本テレビを設立し隠蔽工作を行った。その時の資金はアメリカ国務省及びアメリカ対日協議会が橋渡しを得て、合衆国輸出入銀行より1000万米ドルもの借款の斡旋をえて実施された「PODALTON」という「正力松太郎マイクロ波通信網建設支援工作」だったとされている。
 そして、日本の電波権がアメリカのミサイル防衛網に組み込まれていることを明らかにしたのは小日向白朗であった。その端緒は、小日向白朗がキッシンジャーの招きに応じて訪米してNSCと対中国問題について会議を行う中で明らかになったものである。小日向の説明によれば、アメリカはソ連が発射したICBMを空中で要撃するためにはABM(Anti-ballistic missile)網を必要としていて、そのABM網の電波探知機の触角に相当する部分をVOAが担っていた。このころのABMは弾道ミサイルに対して迎撃ミサイルを正確に誘導して命中させることは不可能であった。そのため、アメリカが考えた迎撃方法は、空中で核爆発を行い発生するX線で相手の核弾頭を破壊する方法を採用していた。その触角はアメリカ政府が運営し宣伝放送を行っていたVOAで、その基地局は日本国内に11ケ所存在していた。そしてVOAは当時アメリカが推し進めていた「VISIONS OF AMERICA」計画と密接につながっていて、それを実現するためにはマイクロ・ウエーブ網を整備することが不可欠であった。
(第6回終了)

P.S.
令和5年1月23日、首相官邸発表、「第二百十一回国会における岸田内閣総理大臣施政方針演説」の全文を読んで驚いたことがある。
『……
わが国外交の基軸は、日米関係です。先日の日米共同声明に基づき、引き続き、日米同盟の抑止力・対処力を一層強化し、地域の平和と安定および国際社会の繁栄に貢献していきます。また、経済版「2プラス2」を含む、さまざまなチャンネルを通じ、サプライチェーンの強靱化や半導体に関する協力など、経済安全保障分野における連携にも取り組みます。
日米同盟の強化と合わせて、基地負担軽減にも引き続き取り組みます。普天間飛行場の一日も早い全面返還を目指し、辺野古への移設工事を進めます。また、強い沖縄経済をつくります。
……
日露関係は、ロシアによるウクライナ侵略により厳しい状況にありますが、わが国としては、引き続き、領土問題を解決し、平和条約を締結するとの方針を堅持します。
……』
とある。
  岸田総理大臣は、日米安保を堅持、すなわち自衛隊指揮権は移譲したままで、日露交渉についてはプーチン大統領に日米安保条約を破棄しなければ北方領土の返還には応じないと云われているにも拘らず「領土問題を解決し、平和条約を締結する」と意気込んでいる。プーチン大統領は「日本に北方領土を返還したら日米安保条約の秘密協定によりアメリカ軍基地を作るのでだめだと云っている」にも拘らず、日本国民をまだ「北方四島返還運動」程度で、だまし続けることができると思い込んでいるようだ。これくらいの腹黒さでなければ日本の総理大臣は務まらないのかもしれない。
  すなわち、日本政府がロシアと北方領土返還交渉を行ったのは、アメリカ軍基地を作るためであった、ということだ。
以上
 

[1] 『第20回国会 参議院 電気通信委員会 第2号 昭和29年12月3日』。

[2] 琉球新報社編『日米地位協定の考え方』高文研(2004年12月8日)31頁。

[3] 小泉悠「軍事面から見た日露平和条約交渉」『ポスト・プーチンのロシアの展望』日本国際問題研究所(2019年 3月)。

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アメリカの国防戦略の中で日本の立ち位置は??~2022.10.27~

2023-01-25 | 小日向白朗学会 情報
  昨年10月「国防戦略」NDSが発表されている。アメリカの国防意識というか、中国とロシアの脅威を強調し、同盟国、パートナー等との連携を強く意識していることが認められる。防衛優先事項としてこんな表現をしている。
 『安全保障環境のこれらの急速に進化する特徴は、侵略を抑止し、重要な地域で良好な勢力均衡を維持するのに役立つ米国の能力を損なう恐れがあります。中国は最も重要で体系的な課題を提示し、ロシアは海外の重要な米国の国益と本土の両方に深刻な脅威をもたらしている。・・・・・』
 さらに、アライアンスとパートナーシップとの項目の中で『・・・新しい運用コンセプトそして、世界中の統合軍を利用する私たちの能力』と述べ、インド太平洋地域について次のようにいう。
 『自由で開かれた地域秩序を維持し、力による紛争解決の試みを阻止するために、インド太平洋地域における強靭な安全保障アーキテクチャを強化および構築する。我々は、日本との同盟を近代化し、戦略的計画と優先順位をより統合された方法で調整することにより、統合された能力を強化する。態勢、相互運用性、多国間協力の拡大への投資を通じてオーストラリアとの同盟を深める。AUKUSやインド太平洋クアッドなどのパートナーシップとの高度な技術協力を通じて優位性を育む。 
 果たして、こんな防衛戦略を組むアメリカに対して、日本はと言えば、まさに当blogが連載している「令和4年国防方針批判」で指摘されるような対応をしているわけである。
 大丈夫か??  日本の防衛!!!  日本との同盟を近代化、だって。
  (文責:吉田)
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「令和4年日本国国防方針」批判(第五回) -国防権のない日本の危険な外交と国防-

2023-01-23 | 小日向白朗学会 情報

 6、2017年の衝撃
 前回まで、日本政府はRUSIが提案する危険な安全保障政策を採用したことまでを書いた。今回はその理由を纏める。そのためには、再度、RUSI Japanの沿革から考え直してみる。
 RUSI Japanは平成31(2019)年にそれまでの地域本部から日本特別代表部に格上げしたとしているが、その理由は述べられていない。RUSI Japanを特別代表部に格上げし早期の新日英同盟を締結することが急務となる何かの事情があったはずである。それも日本政府の事情による重大な変化があったということであろう。
 RUSI Japanが2019年に格上したということは、それ直前に世界規模で安全保障上の地殻変動があったからであろう。そのような変化といえば、2017年1月20日に第45代アメリカ大統領としてドナルド・ジョン・トランプ‘(Donald John Trump)が就任したこと以外にない。トランプの一般的な評価について2021年1月05日付け BISINESS INSIDER「トランプ氏は何位?…専門家による最新アメリカ大統領ランキング」から見ておく。
『……
  • 歴史学者たちは、新しい調査で、ドナルド・トランプ前大統領を過去150年間のどの大統領よりも低く評価した。
  • トランプは歴代44人の大統領中、41位にランク付けされた。
  • バラク・オバマは10位で、第1位はエイブラハム・リンカーンだった。
……」
となっている。調査に応じた歴史学者の支持政党の分布も言わず、評価項目も言わず、評価項目の配点も言わず、ただ単に歴史学者がそう主張しているというだけである。これがプロパガンダと言わずにほかに何があるというほど幼稚なものである。よほどトランプの存在を問題視する勢力がいるということであろう。日本のマスコミも、この焼き直し程度である。つまり日本国内にもトランプの登場を疎ましく思っていた勢力がいたということになる。このようなプロパガンダが世界中でまかり通るほど、トランプが実施しようとした政策、もしくは、外交が衝撃的なものであった証拠でもある。
 そのようなトランプの外交方針が如何なるものであったかを測り知るうえで貴重な情報がある。それは、トランプの長年のアドバイザーを務めるロジャー・ストーン(Roger Stone)という人物の存在があった。そのストーンはニクソンの崇拝者であったという点が重要である。ニクソンと云えばウオーターゲイト事件がつとに有名であるが、其れよりも重要な米中接近及びベトナム撤退に取り組んだ大統領であった。つまりニクソンはデタントの先駆者であった。ストーンは、デタントを進めるニクソンを崇拝していた。そんなストーンがトランプのアドバイザーとなっていた。理想を受け継いだのがトランプとみてよい。
 事実、2016(平成28)年7月21日、米共和党大統領候補となったドナルド・トランプは、アメリカを「法と秩序の国」にして「安全を取り戻す」と強調した。演説の中の「法と秩序」は、1968(昭和43)年にニクソンが大統領候補受諾演説から引用したものであった。つまり、トランプ外交の中心は世界各地に派兵しているアメリカ軍撤収が中心政策となることは大統領選挙前から十分に予想されていることであった。
そして、大方の予想を裏切りトランプは大統領選挙を制した。就任後のトランプは、ドイツ、アフガニスタン、ソマリアそして朝鮮戦争終結に向けて動き出した。
・アフガニスタン撤退
2001年10月、米中枢同時テロの報復として米英軍がアフガンを空爆し、米軍が駐留を開始した。同年12月にタリバン政権を崩壊させたが内戦は収まらず治安維持のため継続的な派兵を余儀なくされて「米史上最も長い戦争」となっていた。2020年2月にトランプがタリバンと和平合意し撤収することになった。その結果、20年間の対テロ戦の戦費は8兆ドル(約1100兆円)、米兵の犠牲者は約7000人に上った戦争は終了することになった。
・ドイツ撤退
2020年7月29日、アメリカはドイツに駐留している米軍を約1万2000人削減する計画を発表した。ヨーロッパにおける「戦略的な」再配置としていた。削減する米兵のうち、約6400人はアメリカに帰国し、その他は、イタリアやベルギーなど北大西洋条約機構(NATO)加盟国に移すことになった。トランプ米大統領はこの動きについて、NATOの防衛支出目標をドイツが達成していないことを受けたものだと述べている。しかし米議会では、ロシアを大胆化させるとして、反対が広がっていた。そして出てきたのがロシアゲート事件であった。
・朝鮮撤退
2018年6月12日にシンガポールでアメリカのドナルド・トランプ大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長及び国務委員会委員長による史上初の首脳会談が行われた。会談後出された共同声明は次のとおりである。
『……
共同声明
アメリカ合衆国大統領ドナルド・トランプと朝鮮民主主義人民共和国の金正恩国務委員長は、史上初の首脳会談を2018年6月12日、シンガポールで開催した。
トランプ大統領と金正恩委員長は新たな米朝関係や朝鮮半島での恒久的で安定的な平和体制を構築するため、包括的かつ誠実な意見交換を行った。トランプ大統領は朝鮮民主主義人民共和国に安全の保証を与えると約束し、金正恩委員長は朝鮮半島の完全な非核化に向けた断固とした揺るぎない決意を確認した。
新たな米朝関係の構築は朝鮮半島と世界の平和と繁栄に寄与すると信じると共に、相互の信頼醸成によって朝鮮半島の非核化を促進すると認識し、トランプ大統領と金正恩委員長は次のように宣言する。
  1. アメリカ合衆国と朝鮮民主主義人民共和国は、平和と繁栄を求める両国国民の希望に基づき、新たな米朝関係の構築に取り組む。
  2. アメリカ合衆国と朝鮮民主主義人民共和国は、朝鮮半島での恒久的で安定的な平和体制の構築に向け、協力する。
  3. 2018年4月27日の「板門店宣言」を再確認し、朝鮮民主主義人民共和国は朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む。
  4. アメリカ合衆国と朝鮮民主主義人民共和国は朝鮮戦争の捕虜・行方不明兵の遺骨回収、既に身元が判明している遺体の帰還に取り組む。
トランプ大統領と金正恩委員長は「史上初の米朝首脳会談が、両国の数十年にわたる緊張と敵対を乗り越える新たな未来を築く重要な出来事であった」と認識し、この共同声明の内容を「完全かつ迅速に履行すること」を約束した。
アメリカ合衆国と朝鮮民主主義人民共和国は米朝首脳会談の成果を履行するため、「マイク・ポンペオ国務長官と朝鮮民主主義人民共和国の高官の交渉を続けて可能な限り迅速に履行する」と約束した。
トランプ大統領と金正恩委員長は「新たな米朝関係の発展と、朝鮮半島と世界の平和、繁栄、安全のために協力すること」を約束した。
……』
このアメリカと北朝鮮の共同声明では、朝鮮戦争を終結させることで合意した。その後も両国による接触が続いた。
 2019年2月27日、ベトナムの首都ハノイでドナルド・トランプ米大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長による2回の会談が行われ、朝鮮半島の核兵器廃絶に向けた進展について協議したもようであった。
 2019年6月30日、ドナルド・トランプ米大統領は、韓国と北朝鮮を隔てる軍事境界線を挟み、北朝鮮の金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長と握手した後、現職の米大統領として初めて、境界線を歩いて越え、北朝鮮側に入った。これに続き、金氏がトランプ氏と並んで境界線を越え南側に入った。
軍事境界線を挟んでトランプ氏が「また会えて嬉しいです」と声をかけると、金委員長はトランプ氏を招き入れるような仕草を見せ、これに応えてトランプ氏が境界線をまたいで北朝鮮側に入った。両首脳は10歩ほど進み、北朝鮮側で再び握手した。
 満面の笑みの金委員長は「またお会いできて何よりです。まさかこの場所でお会いできるとは思っていませんでした」と、通訳を介してトランプ氏に言い、トランプ氏は「大変な瞬間です」「素晴らしい前進だ」と答えた。両首脳は続いて、にこやかに談笑しながら共に境界線を南側へ越え、そのまま記者団の質問に応じた。金氏もその場に立ったまま、記者団の質問に答えるという異例の展開となった。金氏は、トランプ大統領が初めて米大統領として初めて軍事境界線を越えたことを強調した。トランプ氏は境界線を越えたのは「本当に歴史的」で、「素晴らしい名誉なことだ」と述べ、2人はあらためて握手を交わした。

めでたし、めでたし、である。

  7、日本政府がRUSIの提案する安全保障を受け入れた理由
その後の北朝鮮は狂ったようにミサイルを発射し周辺の緊張を極度に高め、ついには「令和4年日本国国防方針」に仮想敵国と指名されるまでに至った。平成31(2019)年と令和4(2022)年と僅か3年間で如何なる変化が起きたのか理解に苦しむところである。唯、トランプと金正恩による合意書は、日本政府及び外務省を非常に慌てさせたことだけは確かである。
実はトランプと金正恩とが朝鮮戦争終結を合意したことこそが、日本をイギリスに接近させ軍拡に走らせ、ウクライナとロシアが戦争になった直接の動機なのだ。
 そもそも日本の安全保障の考え方は、条約も国内法もすべて朝鮮戦争を基に整備されている。つまり朝鮮戦争が終戦になるということは、少なからず条約や国内法にも影響を及ぼすことになる。それと共に、沖縄などに集中的に配備されている駐留アメリカ軍の撤退が問題となる。朝鮮戦争の終戦の影響について、朝鮮戦争に派遣された朝鮮国連軍の結成と、サン・フランシスコ講和条約まで遡って検証してみる。
朝鮮国連軍に付いては、外務省公式ページ『朝鮮国連軍と我が国の関係について』に次のようにある。
『……
朝鮮国連軍は,1950年6月25日の朝鮮戦争の勃発に伴い,同月27日の国連安保理決議第83号及び7月7日の同決議第84号に基づき,「武力攻撃を撃退し,かつ,この地域における国際の平和と安全を回復する」ことを目的として7月に創設された。また,同月,朝鮮国連軍司令部が東京に設立された。
……』
この時、朝鮮国連軍司令部は東京の連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)におかれ、ダグラス・マッカーサー(Douglas MacArthur)が司令官に任命された。そして、占領アメリカ軍が今度は朝鮮国連軍となった朝鮮半島に向かった。
 その後、朝鮮戦争が膠着状態となった1951(昭和26)年9月になると、日本はサン・フランシスコ市で講和条約を締結することになった。朝鮮国連軍と同講和条約との関係は、占領アメリカ軍の扱いについて規定があるからである。講和条約発効後の占領軍の扱いは次のとおりである。
『   日本国との平和条約
昭和二六年九月八日サン・フランシスコ市で署名
昭和二六年一一月一八日批准
昭和二六年一一月二八日批准書寄託
昭和二七年四月二八日効力発生
昭和二七年四月二八日公布(条約第五号)
……
第六条
  1. 連合国のすべての占領軍は,この条約の効力発生の後なるべくすみやかに、且つ、いかなる場合にもその後九十日以内に、日本国から撤退しなければならない。但し、この規定は、一又は二以上の連合国を一方とし、日本国を他方として双方の間に締結された若しくは締結される二国間若しくは多数国閻の協定に基く、叉はその結果としての外国軍隊の日本国の領域における駐とん又は駐留を妨げるものではない。
……』
 すなわちサン・フランシスコ講和が効力を発すると、その後90日以内に占領軍は日本から撤退することになっていた。この条文通りに占領アメリカ軍を撤収すると、朝鮮戦争で戦闘が継続中にもかかわらず、戦争を継続することが困難となってしまう。併せてマッカーサーも日本を去らなければならず、朝鮮国連軍の司令官が不在となってしまうことになる。そこでアメリカは一計を案じ、講和条約締結の当日、吉田茂とアメリカの国務長官ディーン・アチソンとの間で占領軍が引き続き駐留することを認めるという交換公文が取り交わさせた。
『……
吉田・アチソン交換公文(日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約の署名に際し吉田内閣総理大臣とアチソン国務長官との間に交換された公文)

合衆国国務長官から内閣総理大臣にあてた書簡
 書簡をもつて啓上いたします。本日署名された平和条約の効力発生と同時に、日本国は、「国際連合がこの憲章に従つてとるいかなる行動についてもあらゆる援助」を国際連合に与えることを要求する国際連合憲章第二条に掲げる義務を引き受けることになります。
 われわれの知るとおり、武力侵略が朝鮮に起りました。これに対して、国際連合及びその加盟国は、行動をとつています。千九百五十年七月七日の安全保障理事会決議に従つて、合衆国の下に国際連合統一司令部が設置され、総会は、千九百五十一年二月一日の決議によつて、すべての国及び当局に対して、国際連合の行動にあらゆる援助を与えるよう、且つ、侵略者にいかなる援助を与えることも慎むように要請しました。連合国最高司令官の承認を得て、日本国は、施設及び役務を国際連合加盟国でその軍隊が国際連合の行動に参加しているものの用に供することによつて、国際連合の行動に重要な援助を従来与えてきましたし、また、現に与えています。
 将来は定まつておらず、不幸にして、国際連合の行動を支持するための日本国における施設及び役務の必要が継続し、又は再び生ずるかもしれませんので、本長官は、平和条約の効力発生の後に一又は二以上の国際連合加盟国の軍隊が極東における国際連合の行動に従事する場合には、当該一又は二以上の加盟国がこのような国際連合の行動に従事する軍隊を日本国内及びその附近において支持することを日本国が許し且つ容易にすること、また、日本の施設及び役務の使用に伴う費用が現在どおりに又は日本国と当該国際連合加盟国との間で別に合意されるとおりに負担されることを、貴国政府に代つて確認されれば幸であります。合衆国に関する限りは、合衆国と日本国との間の安全保障条約の実施細目を定める行政協定に従つて合衆国に供与されるところをこえる施設及び役務の使用は、現在どおりに、合衆国の負担においてなされるものであります。
 本長官は貴大臣に敬意を表します。
千九百五十一年九月八日
ディーン・アチソン
……』
と、日本に国際連合が派遣した軍隊、つまり占領アメリカ軍はそのまま駐留を継続することに合意したのだ。この交換公文が、昭和29(1954)年2月19日に朝鮮国連軍が我が国に滞在する間の権利と義務その他の地位及び待遇を規定する「日本国における国連連合の軍隊の地位に関する協定」(国連軍地位協定)となった。これもアメリカ軍が終戦で撤収する条項を確認すると次のとおりである。
日本国における国連連合の軍隊の地位に関する協定

昭和二九年二月一九日東京で署名
昭和二九年五月二一日受諾について内閣決定
昭和二九年六月一日受諾書寄託
昭和二九年六月一日公布(条約第一二号)
昭和二九年六月一一日効力発生
……
 千九百五十一年九月八日に日本国内閣総理大臣吉田茂とアメリカ合衆国国務長官ディーン・アチソンとの間に交換された公文において,同日サン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約の効力発生と同時に,日本国は,国際連合が国際連合憲章に従つてとるいかなる行動についてもあらゆる援助を国際連合に与えることを要求する同憲章第二条に掲げる義務を引き受けることになると述べられているので,
 前記の公文において,日本国政府は,平和条約の効力発生の後に一又は二以上の国際連合加盟国の軍隊が極東における国際連合の行動に従事する場合には,当該一又は二以上の加盟国がこのような国際連合の行動に従事する軍隊を日本国内及びその附近において支持することを日本国が許し且つ容赦することを確認したので, 国際連合の軍隊は,すべての国及び当局に対して国際連合の行動にあらゆる援助を与えるよう要請した,千九百五十年六月二十五日,六月二十七日及び七月七日の安全保障理事会決議並びに千九百五十一年二月一日の総会決議に従う行動に今なお引き続き従事しているので,また, 日本国は,朝鮮における国際連合の行動に参加している軍隊に対し施設及び役務の形で重要な援助を従来与えてきており,且つ,現に与えているので,よつて,これらの軍隊が日本国の領域から撤退するまでの間日本国におけるこれらの軍隊の地位及び日本国においてこれらの軍隊に与えられるべき待遇を定めるため,この協定の当事者は,次のとおり協定した。
   第一条
この協定に別段の定がある場合を除く外、この協定の適用上次の定義を採択する。
(a)「国際連合の諸決議」とは、で九百五十年六月二十五日、六月二十七日及び七月七日の国際連合安全保障理事会決礒並びに千九百五十一年二月一日の国際連合総会決議をいう。
(b)「この協定の当事者」とは、日本国政府.統一司令部として行動するアメリカ合衆国政府及び、「国際連合の諸決議に従って朝鮮に軍隊を派遣している国の政府」として、この協定に受諾を条件としないで署名し、「受諾を条件として」署名の上これを受諾し、又はこれに加入するすべての政府をいう。
(c)「派遺国」とは、国際連合の諸決議に従って朝鮮に軍隊を派遣しており又は将来派遣する国で、その政府が、「国際連合の諸決議に従って朝鮮に軍隊を派遣している国の政府」としてこの協定の当事者であるものをいう。
(d)「国際連合の軍隊」とは。派遣国の陸軍、海軍又は空軍で国際連合の諸決議に従う行動に従事するために派遣されているものをいう。
……
    第二十四条
 すべての国際連合の軍隊は、すべての国際連合の軍隊か朝鮮から撤退していなければならない日の後九十日以内に日本国から撤退しなければならない。この協定の当事者は、すべての国際連合の軍隊の日本国からの撤退期限として前記の期日前のいずれかの日を合意することができる。
……
統一司令部として行動するアメリカ合衆国政府のために
 J・グレイアム・パースンズ(署名)
 国際連合の諸決議に従つて朝鮮に軍隊を派遣している国の諸政府
カナダ政府のために
 R・W・メイヒュー(署名)
   受諾を条件として
ニュー・ジーランド政府のために
 R・M・ミラー(署名)
   受諾を条件として
グレート・ブリテン及び北部アイルランド連合王国政府のために
 エスラー・デニング(署名)
南アフリカ連邦政府のために
 エスラー・デニング(署名)
   受諾を条件として
オーストリア連邦政府のために
 E・ロナルド・ウォーカー(署名)
フィリピン共和国政府のために
 ホセ・F・イムペリアル(署名)
フランス共和国政府のために
 ダニエル・レヴィ(署名)
   千九百五十四年四月十二日
イタリア政府のために
 B・L・ダイェータ(署名)
   千九百五十四年五月十九日
……』
同協定の締結国は、アメリカ合衆国(米国)、カナダ、ニュー・ジーランド、イギリス、南アフリカ連邦、オーストラリア、フィリピン、フランス、イタリアの9カ国であった。この締結国の中心は、イギリスとイギリス連邦(Commonwealth of Nations)に加盟するカナダ、ニュー・ジーランド、南アフリカ連邦、オーストラリアなのだ。ちなみにイギリス連邦には、イギリスの旧植民地であった56国が加盟していて国際連合(United Nations)内で最大の派閥を形成している。国連で安全保障の問題を多数決で決定してはならないのは、最大派閥の意見に左右されることが多いためである。ウクライナ問題はその好例である。常任理事会に、国際連合憲章第27条による拒否権があるのは合理的な方法なのだ。
尚、同連邦の中には「北極の氷が解けると、国が沈没する」と騒いでいた「アルキメデスの原理」もしらないツバル(Tuvalu)があることは象徴的である。
 また、イギリス連邦と日本の関係を考えるならば注目すべき事案が最近おきている。
令和4(2022)年10月25日に、防衛省は、警察予備隊創設70年を記念し、同年11月6日に相模湾で国際観艦式を開催することを決めた。参加国はアメリカ、イギリス、オーストラリア、カナダ、インドネシア(オーストラリアと安全保障に関する協定を締結)、マレーシア、ニュー・ジーランド、シンガポール、タイ(朝鮮戦争参戦国)、インド、パキスタン、ブルネイ、韓国(当事国)の13か国であった。この参加国をみて直ちに思いつくことは、太字の参加国がイギリス連邦諸国であることと、そして朝鮮戦争参戦国なのである。日本はアメリカ以外に安全保障条約を締結した国はない。しかし、朝鮮戦争に参戦した国、若しくは将来参戦する国の地位を定めた「国連軍地位協定」では、朝鮮国連軍統一司令部、つまりアメリカ軍の下で、『……平和条約の効力発生の後に一又は二以上の国際連合加盟国の軍隊が極東における国際連合の行動に従事する場合には,当該一又は二以上の加盟国がこのような国際連合の行動に従事する軍隊を日本国内及びその附近において支持することを日本国が許し且つ容赦する……』という定めがあることからイギリス連邦諸国が観艦式に参加することができるのだ。そればかりかイギリス連邦諸国はアメリカ軍の指揮のものと自衛隊と日常的に戦闘訓練を行うことも可能となっている。近年、自衛隊はイギリス連邦諸国と頻繁に戦闘訓練を行うようになったのは昭和29(1954)年に締結した古色蒼然とした「国連軍地位協定」があったからこそ可能であった。したがって「令和4年 国際観艦式」ではなく「令和4年 朝鮮国連軍観艦式」が正式名称なのだ。防衛省が正式名称にしなかった理由は、やはり「自衛隊指揮権」をアメリカに移譲していることを国民に悟られないようにするためと、憲法違反の論議が出ないための処置だからである。

 ところで、この事例から「国連軍地位協定」が現在も効力を有する協定であることが確認できた。ならば同協定の終了期限は何時であろうか。
それは朝鮮戦争が終戦までなのである。同協定24条に明確に記載されていて、「……すべての国際連合の軍隊が朝鮮から撤退していなければならない日の後九十日以内に日本国から撤退しなければならない。……」と朝鮮戦争が終戦となって朝鮮国連軍が朝鮮から撤退完了したのち90日以内にアメリカ軍は日本から撤退を完了させなければならないのだ。
 すなわち、日本の国防権をアメリカに移譲したことを国民に隠蔽したうえに、法律を捻じ曲げ自ら進んで治外法権となった見返りの褒美である防衛利権を貪って延命を続けてきた自民党の全てのレゾンデートル(raison d'etre)が消滅する日、それが「朝鮮戦争終戦」の日なのだ。
 日本の安全保障に関する法体系は、朝鮮戦争が終戦となると法の根拠が消滅することになるのだ。併せて「アメリカに防衛権を移譲し続けることが仕事であった」外務省の無能さが明らかになる日なのだ。トランプと金正恩の合意書から、さらに進んで朝鮮戦争終戦となると、外務省及び自民党の既得権は全て消滅してしまうのだ。その衝撃がいかに強烈であったのかは想像に余りある。そのため、急遽、外務省と自民党はRUSIの安全保障案を丸呑みすることにして、出来上がったのが「令和4年日本国国防方針」だったのだ。兼ねてからイギリスは、自国の戦力不足を解消するために自衛隊を利用したいと考えていたところに、転げ込んできたのが日本政府であった。イギリスに取って「勿怪の幸い」「棚からぼたもち」だったのだ。
 そしてトランプの行ったデタントで瀕死の致命傷を受けた日本の外交がイギリスの提案する悪魔の安全保障を受け入れたことを示し「国力を誇示」(ショーザフラッグ(show the flag))しようとしたのが「令和4年 朝鮮国連軍観艦式」なのだ。
 付け加えておくならば日本政府は、憲法に「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」とあることを忘れている。いや無視している。
(第五回終了)
P.S.
 「国連軍地位協定」と日米安保条約は別物であるという意見もあろうことから、それが間違いであることを示しておく。
昭和35(1960)年1月19日にワシントンで「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」を締結しているが、同時に付属文書も取り交わされていた。
『……
アメリカ合衆国国務長官
クリスチャン・A・ハーター
日本国総理大臣 岸信介閣下

書簡をもつて啓上いたします。本長官は、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名されたアメリカ合衆国と日本国との間の安全保障条約、同日日本国内閣総理大臣吉田茂とアメリカ合衆国国務長官ディーン・アチソンとの間に行なわれた交換公文、千九百五十四年二月十九日に東京で署名された日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定及び本日署名されたアメリカ合衆国と日本国との間の相互協力及び安全保障条約に言及する光栄を有します。次のことが、本国政府の了解であります。
1 前記の交換公文は、日本国における国際連合の軍隊の地位に関する協定が効力を有する間、引き続き効力を有する。
……
本長官は、閣下が、前各号に述べられた本国政府の了解が貴国政府の了解でもあること及びこの了解が千九百六十年一月十九日にワシントンで署名された相互協力及び安全保障条約の効力の発生の日から実施されるものであることを貴国政府に代わつて確認されれば幸いであります。
本長官は、以上を申し進めるに際し、ここに重ねて閣下に向かつて敬意を表します。
千九百六十年一月十九日
アメリカ合衆国国務長官
クリスチャン・A・ハーター
……』
これは日米安全保障条約がサン・フランシスコ講和会議において締結された安全保障条約、吉田茂アチソン交換公文及び「日本国における国連連合の軍隊の地位に関する協定」(国連軍地位協定)を引続き効力を有することの確認を求めたものである。いわば「日本もわかっているであろうが」という確認文書である。此の確認文書からもわかる通り、日米安保条約を破棄するには1年前に通告する必要がる。ところが日米安全保障条約のもととなる交換公文や「国連軍地位協定」では朝鮮戦争が終戦となり撤退が完了すれば90日以内に駐留アメリカ軍は撤収してしまうのだ。・・・・・・・それが、2018年6月12日にシンガポールでのドナルド・トランプ大統領と金正恩朝鮮労働党委員長との会談後に出された共同声明により、駐留アメリカ軍の撤退日が具体化することになった。








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「令和4年日本国国防方針」批判(第四回) -国防権のない日本の危険な外交と国防-

2023-01-20 | 小日向白朗学会 情報

 5、日本の安全保障の筋書きを作る英国王立統合国防安全保障問題研究所
 ところでコメンテーターとしてテレビに出演する防衛省防衛研究所政策研究部長兵頭慎治には国民に知られていない裏の顔がある。それは彼らが英国王立統合国防安全保障問題研究所(Royal United Services Institute for Defence and Security Studies、略称RUSI)と深い関係があるということだ。兵頭自身も2007年に英国王立統合国防安全保障問題研究所(RUSI)客員研究員をしていたと経歴書に記載していることから間違いない。その他に兵頭は、2019年から「内閣官房領土・主権をめぐる内外発信に関する有識者懇談会委員」だというのである。これは、平成25(2013)年4月、国際関係・国際法・歴史研究などに造詣の深い有識者を集めて設置した懇談会である。安倍晋三が第96代内閣総理大臣に就任したのが平成24年12月26日であることから、安倍の発案で設置した懇談会だということになる。そして兵頭の所属が内閣官房であることから秋葉剛男国家安全保障局長を補佐する役割を担っていたものと思われる。つまり兵頭は「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の下書きを作っていたと考えて間違いない。そんな兵頭であるが、「自衛隊の指揮権」が日本ないにもかかわらず、恰も日本に主権があるかの如く内外に発信し続ける有識者である。すなわち兵頭の仕事は、プロパガンダを流布することだった。それで、頻繁にテレビに出演し「(ロシアによる)一方的な力による現状変更」が日本の安全保障に重大な影響を及ぼしていると流布しているのだ。
 ひとまず兵頭の経歴はこのくらいにして、RUSIであるが1831年に創設された防衛・安全保障分野における世界で最も古いイギリスのシンクタンクとある。そして本部はロンドンで、所長はカリン・フォン・ヒッペル(Karin von Hippel)とある。彼女は、キングス・カレッジ・ロンドンの防衛研究センターに勤務、ワシントンにある戦略国際問題研究センターに勤務、その後アメリカ国務省のテロ対策局の上級顧問として勤務後の2015(平成27)年11月30日にRUSI所長に就任している。ところで彼女(フォン・ヒッペル)名で検索したところ平成28(2016)年5月17日付け外務省ホーム・ページに次のような記載があった。
 『……
フォン=ヒッペル英国王立防衛安全保障研究所所長による安倍総理大臣表敬
平成28年5月17日

本17日午後6時40分から約15分間,安倍晋三内閣総理大臣は,カリン・フォン=ヒッペル英国王立防衛安全保障研究所(Dr. Karin von Hippel, Director General, Royal United Services Institute for Defence and Security Studies(RUSI))所長による表敬を受けたところ,概要は以下のとおりです。
  1. 安倍総理大臣から,RUSIの活動は日英間の安全保障分野での協力強化に貢献している,五輪における英国のテロ対策の知見の共有に感謝する,日英の安全保障分野での協力が進む中,RUSIの役割がますます増大することを期待する旨述べました。
  2. これに対し,2.フォン=ヒッペル所長から,安倍総理大臣によるRUSIの活動への評価に感謝する,日英間の安全保障分野での協力に一層協力していきたい旨発言がありました。』
 なんとRUSIは平成28(2016)年以前から安倍晋三の外交問題をサポートしていたというのだ。つまり安倍晋三の外交政策の下書きはRUSIが作成していたのだ。その後、RUSIと兵頭の関係が途切れたとは考えられないので、兵頭らはRUSIの統括下でロシアとウクライナの地域紛争は国際法違反だというプロパガンダ(propaganda)をメディアに繰り返し流し続け「ロシアは悪である」という情報操作を行っていたのだ。諺に「盗人にも三分の理」という。少なくとも日本は、戦闘を継続している「悪党なロシア」であっても、ロシアの言い分も聞く必要があるはずだ。しかし、日本国内では、ウクライナとロシアの開戦以降、絶えてロシアの言い分を聞く機会を作ってというニュースは聞いたことがない。
 あるのは、令和4(2022)年3月23日に国会内で行われたゼレンスキー(Volodymyr Oleksandrovych Zelenskyy)の演説集会だけである。それも冒頭のあいさつをしたのが「統一教会に頭が上がらない細田衆議院議長」なのである。悪い冗談にしか思えない。
『……
本日は、山東参議院議長、岸田内閣総理大臣、海江田衆議院副議長、小川参議院副議長をはじめ、衆参両院の多くの国会議員が、ウクライナ大統領ゼレンスキー閣下の演説を拝聴するために、一堂に会しています。
……」
と挨拶を行っている。さらにはゼレンスキーの演説が終わると、続いて参加した国会議員がスタンディングオベーショ(Standing ovation)まで行うという猿芝居までして国民間に「ウクライナかわいそう」というマインドを醸成するための世論操作に協力していた。
 ここまでしてロシアを悪者にするにはそれなりの理由があるはずである。その答えもRUSIを調べることで見つけ出すことができる。RUSIは、2012年から日本に地域本部がある。そのホーム・ページに設立目的が示されている。
『……
RUSIは2012年、180年以上の歴史を持つ英国王立防衛安全保障研究所(Royal United Services Institute for Defence and Security Studies: RUSI)のアジア拠点としてRUSI Japanを東京に開設しました。RUSI Japanは以来、日本と英国の安全保障関係を単なるパートナーの段階から同盟の段階へと引き上げるため、両国の安全保障コミュティーの関係強化に取り組んできました。その一環として、2013年10月、日本で初めて日英安全保障会議を開催し、その後も、東京とロンドンで定期的に会議を開催して両国の専門家同士が意見を交換する場を提供しています。また、2020年の東京五輪に向けてテロ対策の専門家会議を開催し、テロ対策では世界で最も豊富な経験をもつ英国の知見を日本国内に発信しました。そのほか、日本の直面する安全保障問題についても米国的な視点に偏らない英国的な視点から分析や情報を発信しています。
……』
とある。つまりRUISは平成24(2012)年から日本とイギリスが再び同盟、つまり、「新日英軍事同盟」を締結するための活動に取り組んでいたのだ。
RUSIは、イギリスと日本が軍事同盟を締結することで、これまでの自民党政権が「日米安全保障条約」を基軸として組み立ててきた「米国的な視点に偏らない英国的な視点」から安全保障を提供すると言っている。
 日本の安全保障の根幹は憲法である。その神髄は憲法前文に記されている「戦争放棄」である。この意味するところは、アメリカに売渡した自衛隊指揮権を、イギリスが取戻してくれると考えるのは大間違いである。「世界軍事力ランキング 2023年」[1]によれば日本の戦闘機が320機に対してイギリスは130機にしか過ぎない。それで日本が独自に進めてきた次期戦闘機の開発をイギリス及びイタリアと共同で進めることになったのも、イギリスの航空戦力が弱体化していることに対する焦りなのだ。それで様々な「うまい話」を持ち出して日本に接近してきたのだ。
 現在のイギリスの思惑は過去の歴史を振り返ることで凡その察しが付く。明治38(1905)年にイギリスが日本と条約を締結した真の目的は、植民地インドを防衛するために不足する陸兵を日本に派遣させることであった。その時に日本の陸海軍をだました手口は、すでに旧式化していたにもかかわらず「強大なイギリス海軍力」で日本の防衛を保証するという幻想を抱かせ安心させて締結させたものだった。つまりイギリスの大芝居だったのだ。この大芝居に乗せられ甚大な損失を出してまで日本が得たものといえば、ビクトリア女王が明治天皇に「大英勲章」を授与してきただけなのだ。
 今度のイギリスもまた、アメリカと同様に自衛隊を傭兵としてインド太平洋で利用したいということなのだ。この欲深なイギリスの要求に対したいして現在の自民党政権は、喜々として要求に応じイギリスに隷属しようとしているのだ。歴史を知らない愚かな話である。
 翻って、今次のイギリスが日本に提供する安全保障に対して、それに見合うだけの要求事項はなにか。それもRUSI Japanのホーム・ページに示されている[2]。
『……
このようにRUSIは日英の安全保障関係を強化し、インド太平洋地域の安定に貢献することを目指しています。RUSI Japanは2019年、それまでの地域本部から日本特別代表部に格上げされ、活動を強化しています。
……』
 案の定である。イギリスが求めているのは、日本の安全保障とは何ら関係もない「インド太平洋の安定に貢献する」こと、すなわち「兵力提供」を求めているのだ。イギリスが求める兵力とは言わずもがな自衛隊のことである。ところが日本国憲法第九条で「……武力による威嚇又は武力の行使は、国際間紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。……」とあることから憲法を改定しない限り「インド太平洋」に自衛隊を派遣することはできない。従ってイギリスが日本と軍事同盟を締結するには、日本が憲法を改正することが絶対条件になっているのだ。さもなければ権利と義務の関係から軍事同盟は成立しえない。
 そのため安倍晋三はRUSIの指導下で犯罪者集団統一教会の強力な選挙支援を受けて国政選挙に臨んで憲法改正に必要な三分の二の国会議員を確保することに全力を注いだ。それもこれも、憲法を改正してインド洋まで自衛隊を派遣できる体制を整えたいからである。さらに、万が一のことを考えて、野党の国民民主党や日本維新の会、さらには立憲民主党内にも改憲賛成議員を忍ばせるという極めて巧妙な戦略を実施してきた。それで野党にも統一教会の支援を受けた国会議員が多数いるのだ。
 RUSIが指導する改憲プログラムは単に国会に留まるだけではなく経済界、労働運動にも及んでいる。日本政府は経済界に対して、軍拡によって生ずる旺盛な軍事需要を提供できる体制を求めている。そのため日本政府は経団連等に「安定的な軍事費を賄う増税をおこない集中的に軍需産業に投下することと、量産効果を考えて兵器輸出も可能となるプランを提供する」ことで改憲に賛成させる段取りなのだ。
 労働界に対する改憲プログラムは日本の政治手法を熟知した自民党の悪知恵であろうが野党分断を中心に進めている。日本の野党二党は、支援団体が連合であることを利用し国政選挙の比例投票では国民民主と立憲民主の両党が「民主」としていることから、2党で投票総数を案分することになっている。つまり国民は、改憲を反対して投票しても、改憲に賛成する国民民主のカウントされてしまうのだ。実にずるい「連合」である。これは自民党政権を支援する連合の「ゲリマンダー」と云って差し支えないであろう。ここまでいい加減な野党では真の民意を反映することは難しい。
 さらにメディア対策として電通とNHKは、平和を希求する国民を「一方的な現状変更を行う」ロシアの脅威の前には軍備拡張と憲法改正が必要であるというイメージ操作を行ってきた。これらを考えるとすでに国会だけでなく産業及び金融まで大政翼賛運動に賛成して改憲を実施できる体制が整いつつある。まさにワイマール憲法崩壊という悪夢の歴史をもう目の当りにするとは皮肉な話である。
 いずれにしろ自民党政権が日本の防衛範囲を「……インド太平洋地域の安定に貢献……」としている限り憲法改正を前提として行動していることは間違いない。
 以上のような観点から有識者会議を考えると、日本外務省は日本の国益をイギリスに売り渡すために仕事をしているのだ。
 RUSIが日本に地方本部を開設した当初のイギリスは、21世紀は世界経済の中心がインドと太平洋に移行することを見越し、極東の中心となる日本に狙いを定めて活動していた。ところが2019年に地方事務所から日本特別代表部に格上げしている。つまりイギリスは、2017から2018年頃に、日本の安全保障が急激に変化したことから、早急に日本と新たな軍事同盟を締結し、日本に安全保障を提供するとともに欧州と太平洋地域にあるイギリス連邦国のオーストラリアとニュージーランドとを結ぶ経済回廊を確保するために自衛隊がもつ海軍及び空軍力を利用する必要が生まれた。そのため日本特別代表部を開設することになったのだ。
 ところでRUSIにとって日本特別代表部が如何なる位置関係にあるかと云えば、そのスタッフから凡その見当が付く。RUSIジャパンのアドバイザーには、サー・ジョン・スカーレット(Sir John Scarlet)元英国秘密情報局MI6(Military Intelligence 6、略称MI6)長官、地政学と歴史学の視点から現代の国際情勢を読み解とくジェレミー・ブラック(Jeremy Black)エクセター大学歴史学教授、イギリス議会の安全保障委員会や国防委員会の特別顧問を務めているマイケル・クラーク(Prof Michael Clarke)RUSI特別名誉フェローが就任している。これはRUSI日本特別代表がRUIS本部の直轄で活動していて、現在のイギリス外交の中で非常に重要な位置を占めている証拠でもある。そのRUISの最大の課題は、クリミア戦争(1853~56年)から現代(2023年)までロシアなのである。
 余談になるがイギリス外交は、しばしば、地政学という用語を多用する。これはイギリスが海軍力を背景に世界覇権を握ってきたことからうまれたドグマ(dogma)なのだ。海軍が駆けつけることができる地域をリムランド、自慢の戦艦が行けない地域をハートランドとした。つまり自慢の海軍力が生かせる地域と、海軍力が及ばない内陸部という勢力図のことなのだ。
 イギリスは、地政学というドグマに従って現代も行動している好例がある。それは安倍晋三がロシアと平和条約締結交渉をおこなったことである。
 令和元(2019)年9月5日付けでイズベスチヤ紙(ロシア)に対する安倍総理大臣書面インタビューで「ロシアと対話を続け,平和条約を締結したい」という書面を提出している。その冒頭で安倍晋三はプーチン大統領と26回にわたり会談を行った実績を根拠に「……プーチン大統領と「粘り強く」対話を重ね,平和条約を締結したい……」ことと「クリル諸島における共同活動と極東の投資」を希望していることを伝えている。結論から言うと、安倍晋三とプーチンは平和条約を締結することはできなかった。
 交渉が失敗した理由は明らかである。安倍晋三はロシアの安全保障に無知であったという以外ない。クリミア戦争のころからロシアという内陸国家が外洋を利用して交易をおこなうにはバルト海、黒海からダーダネル海峡、極東にあるウラジオストクの三つの港しかない。ところが安倍晋三は、ロシアの安全保障を危うくする、ウクライナによるNATO加盟に賛成しているにもかかわらず、ロシアと平和条約を締結して北方領土の返還を勝ち取ろうとした。ロシアとって、日本に北方領土を返還したうえに、そこにアメリカ軍が駐留したとしたらウラジオストクの封鎖が現実のものとなり安全保障としては由々しき事態に陥ることになる。
 まさかと思われるであろうが、外務省が作成した日米地位協定に関する機密文書『日米地位協定の考え方』[3]には、北方領土が返還となった場合に、そこにアメリカ軍の施設が作られるであろうことは疑うべき余地もないことを認めている。
日米地位協定第2条(施設・区域の提供と返還)第1項で「我が国は施設・区域の提供に関する米側の個々のすべてに要求に応じる義務を有してはいない」の中で次のように述べている[4]。
『……関係地域の地方的特殊事情(例えば、適当な土地の欠如、環境保全のための特別な要請の存在、その他施設・区域の提供が当該地域に与える社会・経済的影響、日本側の財政負担との関係)により、現実に提供が困難な(中略)事情が存在しない場合にも我が国が米側の提供要求に同意しないことは安保条約において想定されていないと考えるべきである
……
このような考え方からすれば、例えば北方領土の返還の条件として『返還後の北方領土には施設・区域を設けない』との法的義務をあらかじめ一般的に日本側が負うようなことをロシアに約束することは安保条約及び地位協定上問題があるということになる
……』
という注意書きが付されている。ロシア側からすれば、この条文があることから北方領土の返還により米軍基地の設置を排除できない、つまり、北方領土にアメリカ軍基地を設置できるのだ。これによりロシアの安全保障に重大な支障が生じることになる。つまり安倍晋三の外交方針はRUSIにより策定されていて、その中の一つが北方領土返還交渉であった。北方領土の利用価値を知り尽くしているRUSIは、日本がロシアと北方領土問題で交渉して、あわよくばロシアが日本に北方領土を返還した場合は、ロシアが外洋に出ることができる三つの港湾の内の一つを封鎖できると考えていたのだ。この点をプーチンは見破っていたのだ。「食事をしたり」「ゴルフをする」ことで外交が成り立つと考えていた安倍晋三は暗愚な内閣総理大臣であったと云う以外ないであろう。

・「令和4年日本国国防方針」策定には英国王立統合国防安全保障問題研究所(RUSI)が深く関与している。
・RUSIは英国情報局秘密情報部(Military Intelligence 6、略称MI6)の一部機関である。
・RUSIが日本で活動しているのは新日英同盟の締結のためである。
・RUSIは日本政府にアメリカと同じように自衛隊指揮権行使を求めている。
・防衛省防衛研究所はRUSIのプロパガンダ部門となって内閣府を拠点に積極的な活動をおこなっている。
・したがって「令和4年日本国国防方針」は日本の国防とは何ら関係のないイギリスの都合により作成されていることから、日本の国益とは対極になる‘痴態’である。
(第四回終了)

[1] https://news24-web.com/military-ranking/

[2] http://www.rusi-japan.org/

[3] 琉球新報社編『日米地位協定の考え方』高文研(2004年12月8日)。

[4] 同上書(31頁)。

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「我が祖国の安全がしっかりと保証されるということだ。」~もう片方の言い分~

2023-01-19 | 小日向白朗学会 情報

 2月24日ロシアがウクライナを侵攻する直前に、ロシア国営テレビはプーチン大統領の国民向けの演説を放送した。(出所:NHK2022年3月4日 )

≪NATOの“東方拡大”への危機感≫
親愛なるロシア国民の皆さん、親愛なる友人の皆さん。きょうは、ドンバス(=ウクライナ東部のドネツク州とルガンスク州)で起きている悲劇的な事態、そしてロシアの重要な安全保障問題に、改めて立ち返る必要があると思う。まずことし2月21日の演説で話したことから始めたい。それは、私たちの特別な懸念や不安を呼び起こすもの、毎年着実に、西側諸国の無責任な政治家たちが我が国に対し、露骨に、無遠慮に作り出している、あの根源的な脅威のことだ。つまり、NATOの東方拡大、その軍備がロシア国境へ接近していることについてである。この30年間、私たちが粘り強く忍耐強く、ヨーロッパにおける対等かつ不可分の安全保障の原則について、NATO主要諸国と合意を形成しようと試みてきたことは、広く知られている。私たちからの提案に対して、私たちが常に直面してきたのは、冷笑的な欺まんと嘘、もしくは圧力や恐喝の試みだった。その間、NATOは、私たちのあらゆる抗議や懸念にもかかわらず、絶えず拡大している。軍事機構は動いている。繰り返すが、それはロシアの国境のすぐ近くまで迫っている。
≪西側諸国が打ち立てようとした“秩序”は混乱をもたらしてきた≫
なぜ、このようなことが起きているのか。自分が優位であり、絶対的に正しく、なんでもしたい放題できるという、その厚かましい態度はどこから来ているのか。私たちの国益や至極当然な要求に対する、無配慮かつ軽蔑的な態度はどこから来ているのか。答えは明白。すべては簡単で明瞭だ。1980年代末、ソビエト連邦は弱体化し、その後、完全に崩壊した。当時起きたことの一連の流れは、今でも私たちにとってよい教訓となっている。それは、権力や意志のまひというものが、完全なる退廃と忘却への第一歩であるということをはっきりと示した。当時、私たちはしばらく自信を喪失し、あっという間に世界のパワーバランスが崩れたのだ。これにより、従来の条約や協定には、事実上、効力がないという事態になった。説得や懇願ではどうにもならない。覇権、権力者が気に入らないことは、古風で、時代遅れで、必要ないと言われる。それと反対に、彼らが有益だと思うことはすべて、最後の審判の真実かのように持ち上げられ、どんな代償を払ってでも、粗暴に、あらゆる手を使って押しつけてくる。賛同しない者は、ひざを折られる。私が今話しているのは、ロシアに限ったことではないし、懸念を感じているのは私たちだけではない。これは国際関係のシステム全体、時にアメリカの同盟諸国にまでも関わってくるものだ。ソビエト連邦の崩壊後、事実上の世界の再分割が始まり、これまで培われてきた国際法の規範が、そのうち最も重要で基本的なものは、第二次世界大戦の結果採択され、その結果を定着させてきたものであるが、それが、みずからを冷戦の勝者であると宣言した者たちにとって邪魔になるようになってきた。もちろん、実務において、国際関係において、また、それを規定するルールにおいては、世界情勢やパワーバランスそのものの変化も考慮しなければならなかった。しかしそれは、プロフェッショナルに、よどみなく、忍耐強く、そしてすべての国の国益を考慮し、尊重し、みずからの責任を理解したうえで実行すべきだった。
しかしそうはいかなかった。あったのは絶対的な優位性と現代版専制主義からくる陶酔状態であり、さらに、一般教養のレベルの低さや、自分にとってだけ有益な解決策を準備し、採択し、押しつけてきた者たちの高慢さが背景にあった。事態は違う方向へと展開し始めた。例を挙げるのに遠くさかのぼる必要はない。まず、国連安保理の承認なしに、ベオグラードに対する流血の軍事作戦を行い、ヨーロッパの中心で戦闘機やミサイルを使った。数週間にわたり、民間の都市や生活インフラを、絶え間なく爆撃した。この事実を思い起こさなければならない。というのも、西側には、あの出来事を思い出したがらない者たちがいるからだ。私たちがこのことに言及すると、彼らは国際法の規範について指摘するのではなく、そのような必要性があると思われる状況だったのだと指摘したがる。その後、イラク、リビア、シリアの番が回ってきた。リビアに対して軍事力を不法に使い、リビア問題に関する国連安保理のあらゆる決定を曲解した結果、国家は完全に崩壊し、国際テロリズムの巨大な温床が生まれ、国は人道的大惨事にみまわれ、いまだに止まらない長年にわたる内戦の沼にはまっていった。リビアだけでなく、この地域全体の数十万人、数百万人もの人々が陥った悲劇は、北アフリカや中東からヨーロッパへ難民の大規模流出を引き起こした。シリアにもまた、同じような運命が用意されていた。シリア政府の同意と国連安保理の承認が無いまま、この国で西側の連合が行った軍事活動は、侵略、介入にほかならない。ただ、中でも特別なのは、もちろん、これもまた何の法的根拠もなく行われたイラク侵攻だ。その口実とされたのは、イラクに大量破壊兵器が存在するという信頼性の高い情報をアメリカが持っているとされていることだった。それを公の場で証明するために、アメリカの国務長官が、全世界を前にして、白い粉が入った試験管を振って見せ、これこそがイラクで開発されている化学兵器だと断言した。後になって、それはすべて、デマであり、はったりであることが判明した。イラクに化学兵器など存在しなかったのだ。信じがたい驚くべきことだが、事実は事実だ。国家の最上層で、国連の壇上からも、うそをついたのだ。その結果、大きな犠牲、破壊がもたらされ、テロリズムが一気に広がった。世界の多くの地域で、西側が自分の秩序を打ち立てようとやってきたところでは、ほとんどどこでも、結果として、流血の癒えない傷と、国際テロリズムと過激主義の温床が残されたという印象がある。私が話したことはすべて、最もひどい例のいくつかであり、国際法を軽視した例はこのかぎりではない。
≪アメリカは“うその帝国”≫
NATOが1インチも東に拡大しないと我が国に約束したこともそうだ。繰り返すが、だまされたのだ。俗に言う「見捨てられた」ということだ。確かに、政治とは汚れたものだとよく言われる。そうかもしれないが、ここまでではない。ここまで汚くはない。これだけのいかさま行為は、国際関係の原則に反するだけでなく、何よりもまず、一般的に認められている道徳と倫理の規範に反するものだ。正義と真実はどこにあるのだ?あるのはうそと偽善だけだ。ちなみに、アメリカの政治家、政治学者、ジャーナリストたち自身、ここ数年で、アメリカ国内で真の「うその帝国」ができあがっていると伝え、語っている。これに同意しないわけにはいかない。まさにそのとおりだ。しかし謙遜する必要はない。アメリカは依然として偉大な国であり、システムを作り出す大国だ。その衛星国はすべて、おとなしく従順に言うことを聞き、どんなことにでも同調するだけではない。それどころか行動をまねし、提示されたルールを熱狂的に受け入れてもいる。だから、アメリカが自分のイメージどおりに形成した、いわゆる西側陣営全体が、まさに「うその帝国」であると、確信を持って言えるのには、それなりの理由があるのだ。我が国について言えば、ソビエト連邦崩壊後、新生ロシアが先例のないほど胸襟を開き、アメリカや他の西側諸国と誠実に向き合う用意があることを示したにもかかわらず、事実上一方的に軍縮を進めるという条件のもと、彼らは我々を最後の一滴まで搾り切り、とどめを刺し、完全に壊滅させようとした。まさに90年代、2000年代初頭がそうで、いわゆる集団的西側諸国が最も積極的に、ロシア南部の分離主義者や傭兵集団を支援していた時だ。当時、最終的にコーカサス地方の国際テロリズムを断ち切るまでの間に、私たちはどれだけの犠牲を払い、どれだけの損失を被ったことか。どれだけの試練を乗り越えなければならなかったか。私たちはそれを覚えているし、決して忘れはしない。実際のところ、つい最近まで、私たちを自分の利益のために利用しようとする試み、私たちの伝統的な価値観を破壊しようとする試み、私たちロシア国民を内側からむしばむであろう偽りの価値観や、すでに彼らが自分たち側の国々に乱暴に植え付けている志向を私たちに押しつけようとする試みが続いていた。それは、人間の本性そのものに反するゆえ、退廃と退化に直接つながるものだ。こんなことはありえないし、これまで誰も上手くいった試しがない。そして今も、成功しないだろう。色々あったものの、2021年12月、私たちは、改めて、アメリカやその同盟諸国と、ヨーロッパの安全保障の原則とNATO不拡大について合意を成立させようと試みた。すべては無駄だった。アメリカの立場は変わらない。彼らは、ロシアにとって極めて重要なこの問題について私たちと合意する必要があるとは考えていない。自国の目標を追い求め、私たちの国益を無視している。そしてもちろん、こうした状況下では、私たちは疑問を抱くことになる。「今後どうするべきか。何が起きるだろうか」と。私たちは、1940年から1941年初頭にかけて、ソビエト連邦がなんとか戦争を止めようとしていたこと、少なくとも戦争が始まるのを遅らせようとしていたことを歴史的によく知っている。そのために、文字どおりギリギリまで潜在的な侵略者を挑発しないよう努め、避けられない攻撃を撃退するための準備に必要な、最も必須で明白な行動を実行に移さない、あるいは先延ばしにした。最後の最後で講じた措置は、すでに壊滅的なまでに時宜を逸したものだった。その結果、1941年6月22日、宣戦布告なしに我が国を攻撃したナチス・ドイツの侵攻に、十分対応する準備ができていなかった。敵をくい止め、その後潰すことはできたが、その代償はとてつもなく大きかった。大祖国戦争を前に、侵略者に取り入ろうとしたことは、国民に大きな犠牲を強いる過ちであった。最初の数か月の戦闘で、私たちは、戦略的に重要な広大な領土と数百万人の人々を失った。私たちは同じ失敗を2度は繰り返さないし、その権利もない。世界覇権を求める者たちは、公然と、平然と、そしてここを強調したいのだが、何の根拠もなく、私たちロシアを敵国と呼ぶ。確かに彼らは現在、金融、科学技術、軍事において大きな力を有している。それを私たちは知っているし、経済分野において常に私たちに対して向けられている脅威を客観的に評価している。そしてまた、こうした厚かましい恒久的な恐喝に対抗する自国の力についても。繰り返すが、私たちはそうしたことを、幻想を抱くことなく、極めて現実的に見ている。軍事分野に関しては、現代のロシアは、ソビエトが崩壊し、その国力の大半を失った後の今でも、世界で最大の核保有国の1つだ。そしてさらに、最新鋭兵器においても一定の優位性を有している。この点で、我が国への直接攻撃は、どんな潜在的な侵略者に対しても、壊滅と悲惨な結果をもたらすであろうことに、疑いの余地はない。また、防衛技術などのテクノロジーは急速に変化している。この分野における主導権は、今もこれからも、目まぐるしく変わっていくだろう。しかし、私たちの国境に隣接する地域での軍事開発を許すならば、それは何十年も先まで、もしかしたら永遠に続くことになるかもしれないし、ロシアにとって増大し続ける、絶対に受け入れられない脅威を作り出すことになるだろう。
≪NATOによるウクライナ領土の軍事開発は受け入れがたい≫
すでに今、NATOが東に拡大するにつれ、我が国にとって状況は年を追うごとにどんどん悪化し、危険になってきている。しかも、ここ数日、NATOの指導部は、みずからの軍備のロシア国境への接近を加速させ促進する必要があると明言している。言いかえれば、彼らは強硬化している。起きていることをただ傍観し続けることは、私たちにはもはやできない。私たちからすれば、それは全く無責任な話だ。NATOが軍備をさらに拡大し、ウクライナの領土を軍事的に開発し始めることは、私たちにとって受け入れがたいことだ。もちろん、問題はNATOの組織自体にあるのではない。それはアメリカの対外政策の道具にすぎない。問題なのは、私たちと隣接する土地に、言っておくが、それは私たちの歴史的領土だ、そこに、私たちに敵対的な「反ロシア」が作られようとしていることだ。それは、完全に外からのコントロール下に置かれ、NATO諸国の軍によって強化され、最新の武器が次々と供給されている。アメリカとその同盟諸国にとって、これはいわゆるロシア封じ込め政策であり、明らかな地政学的配当だ。一方、我が国にとっては、それは結局のところ、生死を分ける問題であり、民族としての歴史的な未来に関わる問題である。誇張しているわけではなく、実際そうなのだ。これは、私たちの国益に対してだけでなく、我が国家の存在、主権そのものに対する現実の脅威だ。それこそ、何度も言ってきた、レッドラインなのだ。彼らはそれを超えた。そんな中、ドンバスの情勢がある。2014年にウクライナでクーデターを起こした勢力が権力を乗っ取り、お飾りの選挙手続きによってそれを(訳注:権力を)維持し、紛争の平和的解決を完全に拒否したのを、私たちは目にした。8年間、終わりの見えない長い8年もの間、私たちは、事態が平和的・政治的手段によって解決されるよう、あらゆる手を尽くしてきた。すべては徒労に帰した。先の演説でもすでに述べたように、現地で起きていることを同情の念なくして見ることはできない。今やもう、そんなことは到底無理だ。この悪夢を、ロシアしか頼る先がなく、私たちにしか希望を託すことのできない数百万人の住民に対するジェノサイド、これを直ちに止める必要があったのだ。まさに人々のそうした願望、感情、痛みが、ドンバスの人民共和国を承認する決定を下す主要な動機となった。さらに強調しておくべきことがある。NATO主要諸国は、みずからの目的を達成するために、ウクライナの極右民族主義者やネオナチをあらゆる面で支援している。彼らは(訳注:民族主義者ら)、クリミアとセバストポリの住民が、自由な選択としてロシアとの再統合を選んだことを決して許さないだろう。当然、彼らはクリミアに潜り込むだろう。それこそドンバスと同じように。戦争を仕掛け、殺すために。大祖国戦争の際、ヒトラーの片棒を担いだウクライナ民族主義一味の虐殺者たちが、無防備な人々を殺したのと同じように。彼らは公然と、ロシアの他の数々の領土も狙っていると言っている。全体的な状況の流れや、入ってくる情報の分析の結果が示しているのは、ロシアとこうした勢力との衝突が不可避だということだ。それはもう時間の問題だ。彼らは準備を整え、タイミングをうかがっている。今やさらに、核兵器保有までも求めている。そんなことは絶対に許さない。前にも述べたとおり、ロシアは、ソビエト連邦の崩壊後、新たな地政学的現実を受け入れた。私たちは、旧ソビエトの空間に新たに誕生したすべての国々を尊重しているし、また今後もそのようにふるまうだろう。それらの(訳注:旧ソビエト諸国の)主権を尊重しているし、今後も尊重していく。その例として挙げられるのが、悲劇的な事態、国家としての一体性への挑戦に直面したカザフスタンに対して、私たちが行った支援だ。しかしロシアは、今のウクライナから常に脅威が発せられる中では、安全だと感じることはできないし、発展することも、存在することもできない。2000年から2005年にかけ、私たちは、コーカサス地方のテロリストたちに反撃を加え、自国の一体性を守り抜き、ロシアを守ったことを思い出してほしい。2014年には、クリミアとセバストポリの住民を支援した。2015年、シリアからロシアにテロリストが入り込んでくるのを確実に防ぐため、軍を使った。それ以外、私たちにはみずからを守るすべがなかった。
≪ウクライナ東部の親ロシア派の武装勢力からの支援要請≫
今もそれと同じことが起こっている。きょう、これから使わざるをえない方法の他に、ロシアを、そしてロシアの人々を守る方法は、私たちには1つも残されていない。この状況下では、断固とした素早い行動が求められている。ドンバスの人民共和国はロシアに助けを求めてきた。これを受け、国連憲章第7章51条と、ロシア安全保障会議の承認に基づき、また、本年2月22日に連邦議会が批准した、ドネツク人民共和国とルガンスク人民共和国との友好および協力に関する条約を履行するため、特別な軍事作戦を実施する決定を下した。その目的は、8年間、ウクライナ政府によって虐げられ、ジェノサイドにさらされてきた人々を保護することだ。そしてそのために、私たちはウクライナの非軍事化と非ナチ化を目指していく。また、ロシア国民を含む民間人に対し、数多くの血生臭い犯罪を犯してきた者たちを裁判にかけるつもりだ。ただ、私たちの計画にウクライナ領土の占領は入っていない。私たちは誰のことも力で押さえつけるつもりはない。同時に、ソビエトの全体主義政権が署名した文書は、それは第二次世界大戦の結果を明記したものだが、もはや履行すべきではないという声を、最近、西側諸国から聞くことが多くなっている。さて、それにどう答えるべきだろうか。第二次世界大戦の結果は、ナチズムに対する勝利の祭壇に、我が国民が捧げた犠牲と同じように、神聖なものだ。しかしそれは、戦後数十年の現実に基づいた、人権と自由という崇高な価値観と矛盾するものではない。また、国連憲章第1条に明記されている民族自決の権利を取り消すものでもない。ソビエト連邦が誕生した時も、第二次世界大戦後も、今のウクライナの領土に住んでいた人々に、どのような生活を送っていきたいかと聞いた人など1人もいなかったことを思い出してほしい。私たちの政治の根底にあるのは、自由、つまり、誰もが自分と自分の子どもたちの未来を自分で決めることのできる選択の自由だ。そして、今のウクライナの領土に住むすべての人々、希望するすべての人々が、この権利、つまり、選択の権利を行使できるようにすることが重要であると私たちは考えている。これに関し、ウクライナの人々にも言いたい。2014年、ロシアは、あなた方自身が「ナチス」と呼ぶ者たちから、クリミアとセバストポリの住民を守らなければならなかった。クリミアとセバストポリの住民は、自分たちの歴史的な祖国であるロシアと一緒になることを、自分たちで選択した。そして私たちはそれを支持した。繰り返すが、そのほかに道はなかった。
≪目的はウクライナの“占領”ではなく、ロシアを守るため≫
現在起きていることは、ウクライナ国家やウクライナ人の利益を侵害したいという思いによるものではない。それは、ウクライナを人質にとり、我が国と我が国民に対し利用しようとしている者たちから、ロシア自身を守るためなのだ。繰り返すが、私たちの行動は、我々に対して作り上げられた脅威、今起きていることよりも大きな災難に対する、自己防衛である。どんなにつらくとも、これだけは分かってほしい。そして協力を呼びかけたい。できるだけ早くこの悲劇のページをめくり、一緒に前へ進むために。私たちの問題、私たちの関係を誰にも干渉させることなく、自分たちで作り上げ、それによって、あらゆる問題を克服するために必要な条件を生み出し、国境が存在するとしても、私たちが1つとなって内側から強くなれるように。私は、まさにそれが私たちの未来であると信じている。ウクライナ軍の軍人たちにも呼びかけなければならない。
親愛なる同志の皆さん。あなたたちの父、祖父、曽祖父は、今のネオナチがウクライナで権力を掌握するためにナチと戦ったのではないし、私たち共通の祖国を守ったのでもない。あなた方が忠誠を誓ったのは、ウクライナ国民に対してであり、ウクライナを略奪し国民を虐げている反人民的な集団に対してではない。その(訳注:反人民的な政権の)犯罪的な命令に従わないでください。直ちに武器を置き、家に帰るよう、あなた方に呼びかける。はっきりさせておく。この要求に応じるウクライナ軍の軍人はすべて、支障なく戦場を離れ、家族の元へ帰ることができる。もう一度、重ねて強調しておく。起こりうる流血のすべての責任は、全面的に、完全に、ウクライナの領土を統治する政権の良心にかかっている。さて、今起きている事態に外から干渉したい思いに駆られているかもしれない者たちに対し、言っておきたい大変重要なことがある。私たちに干渉しようとする者は誰でも、ましてや我が国と国民に対して脅威を作り出そうとする者は、知っておくべきだ。ロシアは直ちに対応し、あなた方を、歴史上直面したことのないような事態に陥らせるだろうということを。私たちは、あらゆる事態の展開に対する準備ができている。そのために必要な決定はすべて下されている。私のことばが届くことを願う。親愛なるロシア国民の皆さん。国家や国民全体の幸福、存在そのもの、その成功と存続は、常に、文化、価値観、祖先の功績と伝統といった強力で根幹的なシステムを起源とするものだ。そしてもちろん、絶えず変化する生活環境に素早く順応する能力や、社会の団結力、前へ進むために力を1つに集結する用意ができているかどうかに直接依存するものだ。力は常に必要だ。どんな時も。しかし力と言っても色々な性質のものがある。冒頭で述べた「うその帝国」の政治の根底にあるのは、何よりもまず、強引で直接的な力だ。そんな時、ロシアではこう言う。「力があるなら知性は必要ない」と。私たちは皆、真の力とは、私たちの側にある正義と真実にこそあるのだということを知っている。もしそうだとしたら、まさに力および戦う意欲こそが独立と主権の基礎であり、その上にこそ私たちの未来、私たちの家、家族、祖国をしっかりと作り上げていくことができる。このことに同意しないわけにはいかない。親愛なる同胞の皆さん。自国に献身的なロシア軍の兵士および士官は、プロフェッショナルに勇敢にみずからの義務を果たすだろうと確信している。あらゆるレベルの政府、経済や金融システムや社会分野の安定に携わる専門家、企業のトップ、ロシア財界全体が、足並みをそろえ効果的に動くであろうことに疑いの念はない。すべての議会政党、社会勢力が団結し愛国的な立場をとることを期待する。結局のところ、歴史上常にそうであったように、ロシアの運命は、多民族からなる我が国民の信頼できる手に委ねられている。それはつまり、下された決定が実行され、設定された目標が達成され、我が祖国の安全がしっかりと保証されるということだ。あなたたちからの支持と、祖国愛がもたらす無敵の力を信じている。

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「令和4年日本国国防方針」批判(第三回) -国防権のない日本の危険な外交と国防-

2023-01-18 | 小日向白朗学会 情報

一、「令和4年日本国国防方針」の戦略は何か
   3、林芳正外務大臣の発言意味するところ
 林の発言を吟味し「令和4年日本国国防方針」で仮想敵国をロシア、中国、北朝鮮とした理由を探ってみる。
 林は「……一方的な現状の変更の試み……」が成されたことから「……(世界にとって)一層安全保障環境は厳しさを増す中で、外交・安全保障双方の大幅な強化が求められております……」としている。これを言い換えるならば「ロシアがウクライナに侵攻したことから、これまでの日本周辺にある安全保障上の問題も含め、今後一層の外交及び防衛力の強化が求められる」ということになる。ここで林は、名指はしないもののロシアが国際法をおかしウクライナ侵略してドネツクなどのウクライナ領を不当に併合するという「……一方的な現状の変更の試み……」があったことが「日本の安全保障を脅かすことになった」と言いたいのである。
 おかしな論理である。そもそも、ロシアによるウクライナ領を不当に併合、つまり「侵略」と決定できるは国連安保理常会常任任委員会である。しかし、ロシアによるウクライナ侵攻後、常任委員会においてロシアが侵略国であると認定したことはない。そのため国連内ではロシアとウクライナの戦争を地域紛争としている。もしも国連憲章違反ならば、国連の名の下で朝鮮戦争の時のように「国連派遣軍」を組織すればよいが、その兆候すらない。あるのはNATOとアメリカそしてイギリスを中心にしたウクライナに対する武器支援である。
「国連軍」を派遣するには、安全保障理事会がロシアによりウクライナが侵略だと決定する必要がある。ただし憲章第27条に常任理事国の中の1か国が反対した場合は否決されることになっている。したがって常任理事会では、ロシアを侵略国だと決定していない。ウクライナとロシアの戦争は地域紛争なのである。これに対してロシアが拒否権を発動して世界平和を阻害しているという反論がある。しかし国連憲章も国際法であることを考えると感情的にロシアが悪いとは言い切れない。むしろ国際連合を設立した時の理念通りにうまく機能しているのだ。賛成国数で決める問題ではないかだ。
 もしも、アメリカとイギリスを中心とした国連派遣軍ができたならば、日本はアメリカと集団的自衛権を行使と称してウクライナで参戦することになる。しかしロシアとウクライナの戦争が地域紛争であることから、現在は自衛隊を海外に派兵をしなくて済んでいる。
 既に自民党は、自衛隊を海外に派遣した場合に戦死者がでることを想定している。だからこそ靖国問題がいつまでもくすぶり続けているのだ。

 4、「力による一方的現状変更」とはなにか
 林による「ロシアによる力による一方的な現状変更」という主張から見えてくるのはウクライナ問題が、ロシアと対立するNATO、アメリカそしてイギリス間で安全保障上の大きな利害対立があるということになる。おそらく林を含め有識者会議を準備した外務省の共通認識として「ロシアによる侵略」としたかったのであろうが、国連安全保障理事会でロシアによるウクライナ侵攻を「侵略」と決議することができなかったための方便であろう。
ならば、やはり外務省は、ロシアとウクライナの戦争を地域紛争として認めているのだ。
 それにも拘らず地域紛争が何故に日本の国防方針策定の根拠となるのか、依然として不明のまままである。
ところでロシアとウクライナにある利害対立に関して日本の取るべき立場であるが、ウクライナ問題の当事者であるNATO、アメリカ、イギリスとの間で軍事に関する協定もしくは条約を締結しているのは日米安保協定があるのみである。そして日米安保条約の適用地域は「……日本国の施政の下にある領域……」であって、その範囲を拡大解釈しても「……日本国の安全又は極東における国際の平和及び安全に対する脅威が生じたとき……」なのだ。日米安全保障では、ウクライナの戦争は無関係なのだ。にもかかわらず外務省のウクライナに対する肩入れは尋常とは思えない。日本の国民感情として、中国がウクライナから航空母艦を買い付けて日本近海で運用させたことで、日本近海の軍事バランスが崩れかけたため対抗措置として日本も空母を持たざるを得なくなった。そんな原因を作ったのはウクライナであったはずだ。それが、いつの間にかロシアに侵略されている可哀そうな国に逆転する論理には同調しかねる。もしかすると、この逆転現象の裏には、外務省が国民の知らない秘密協定を結んでいるのならば話の辻褄はあう。その時、外務省は責任を問われるであろう。
 日本はロシアがウクライナに侵攻したとしても、ウクライナ問題に関して日本のとるべき対応は戦時中立でなければならないのだ。林のいう「ロシアがウクライナに侵攻したので近い将来ロシアが日本に侵攻してくる可能性がある。よって日本は防衛力を強化しましょう」と飛躍して軍事増強に走っているのは間違いである。外交努力によって危険因子を減らすのが外務省の役目なはずである。それが具体的な外交努力もせずに日本国民に軍備強化をお願いしたいとは、どういう了見なのだろうか。会議を首謀した外務省は、ほかの意図があったに違いない。
 ところで林の主張は、令和4年3月17日『朝雲』に防衛研究所政策研究部長兵頭慎次が書いた「露によるウクライナ侵攻の衝撃」とする新聞記事の主張と軌を一にするものである。
『……
 2月24日、ロシア軍がウクライナヘの軍事侵攻に踏み切り、第Ⅱ次世界大戦以来、最大の欧州危機となるとともに、国際社会に大きな衝撃を与えている。
 これは、2014年3月のクリミア併合をはるかに越える「力による現状変更」であり、ウクライナの主権と領土の一体性を侵害する国際法および国務憲章への重大な違法行為である。また、ウクライナの独立と領土を尊重し、同国に脅威や武力行使を控える旨の英米露などによる1994年の「ブダペスト覚書」にも反する。
……』
 この論調は、兵頭と同様に他の防衛研究所職員も、開戦から暫くは連日のようにテレビに出演し同様の主張を繰り返していた。特に注目すべきは「力による現状変更」という文言が、ロシアとウクライナの戦闘が始まって1か月後に出現している。その後は、有識者会議では「力による一方的現状変更」となっていて連続性を見出すことができる。
 では「力による現状変更」の何処が問題なのか。その鍵についても、兵頭が種明かしをしている。兵頭は、ロシアがウクライナに侵攻したことが国際法違反とする根拠は「1994年のブダペスト覚書」だと吐露している。
ブダペスト覚書(Budapest Memorandum on Security Assurances)であるが、1994年12月5日にハンガリーの首都ブダペストで開催されたOSCE(欧州安全保障協力機構)会議でアメリカ、イギリス、ロシアの核保有3ヶ国が署名した覚書である。
 覚書を取り交わすことになったのはウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンの三国はソビエト連邦解体前のロシア製核を保持していたからである。そこでウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンは核不拡散条約に加盟して保有する核を破棄することにした。ロシアは、核を廃棄することで生じる安全保障上の空白を生じないように、協定署名国(つまりアメリカ・イギリス・ロシア)は、この3ヶ国の安全を保障するというものであった。
  1. ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナの独立と主権と既存の国境を尊重する
  2. ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナに対する脅威や武力行使を控える
  3. ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナに政治的影響を与える目的で、経済的圧力をかけることは控える
  4. 「仮にベラルーシ/カザフスタン/ウクライナが侵略の犠牲者、または核兵器が使用される侵略脅威の対象になってしまう」場合、ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナに支援を差し伸べるため即座に国連安全保障理事会の行動を依頼する
  5. ベラルーシ、カザフスタン、ウクライナに対する核兵器の使用を控える
これらの誓約事に関して疑義が生じた場合は、互いに協議を行う
 この覚書は、ソビエト連邦に参加していたベラルーシ、カザフスタン、ウクライナが核武装を放棄してもNATOから核攻撃を受けないためのものであった。
 その後のウクライナであるが、2008年4月にルーマニアの首都ブカレストで開かれたNATO首脳会議でアメリカ大統領ブッシュ(George Walker Bush)は旧ソビエト連邦のウクライナとジョージア(旧グルジア)をNATOに加盟させることを提案した。このブッシュの提案にたいして両国とも積極的に加盟することを目指すようになった。つまりウクライナとジョージア両国は、共にNATOの核の傘に入ることを熱望したことになる。ロシアにとってセバストポリスは黒海に面した重要な海軍基地があることから、もしも、ウクライナがNATOにはいればセバストポリスがNATOの基地となる。これはロシアの横腹に核爆弾を仕掛けられたと同様で安全保障上きわめて危険な状況が生まれることを意味する。
 そして2014年、ウクライナでユーロ・マイダン革命が起きたことにより、親ロシア派であったヴィクトル・ヤヌコーヴィッチ大統領を追放して反ロシア政権が誕生した。
 これにより、ソビエト崩壊後の弱体化したロシアがウクライナ、ベラルーシ、カザフスタンにあった核を引き上げたところに、クーデターで政権を奪った新たなウクライナ政府が、今度はNATOの核を配備しようと動き出したことになる。
 しかし嘗ての日本は、朝鮮半島がロシアの影響下にあることは「喉元に匕首をつきつけられたと同じ」と表現していた。ウクライナのNATO加盟は、ロシアにとって「喉元に匕首をつきつけられた」と同じことではないのか。
 兵頭は、ロシアによる「ブダペスト覚書」違反を国際社会に対する重大な挑戦であると問題視して、NATOとアメリカおよびイギリスによる軍事支援が正当であるとするならば、「NATOの核の傘」がロシアにとなって重大な安全保障上の危機であることをどう説明するのか。このことを説明せずに「一方的な力による状況変更」は、NATO、アメリカ、イギリスの一方的な言い分だということになる。
(第三回終了)
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「令和4年日本国国防方針」批判(第二回) -国防権のない日本の危険な外交と国防-

2023-01-17 | 小日向白朗学会 情報
一、「令和4年日本国国防方針」の戦略は何か
 「令和4年日本国国防方針」の核心部分である戦略とは何かを探ってみる。
令和4年9月22日、内閣総理大臣岸田文雄が「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の開催を決定した。この告示を受けて、同有識者会議は、開催決定から僅か一週間の令和4年09月30日には開催される運びとなった。第一回目の会議には、有識者として上山隆大、翁百合、喜多恒雄、園部毅、黒江哲郎、佐々江賢一郎、中西寛、橋本和仁、山口寿一が、政府側として岸田内閣総理大臣.木原内閣官房副長官〔官房長官代理〕、林外務大臣、鈴木財務大臣、浜田防衛大臣等が出席した。
 冒頭、木原内閣官房副長官より同会議の開催趣旨について説明がった。その要点は次の通りであった。
『……
我が国を取り巻く厳しい安全保障環境を乗り切るためには……自衛隊の装備及び活動を中心とする防衛力の抜本的強化のみならず、自衛隊と民間との共同事業、研究開発、国際的な人道活動等、実質的に我が国の防衛力に資する政府の取組を整理し、これらも含めた総合的な防衛体制』の強化について、検討する必要がある。
……』
 次いで、座長の選任が行われ外務省OBの佐々江賢一郎が選出された。続いてこれもまた外務省出身の秋葉剛男国家安全保障局長より「安全保障環境の変化と防衛力強化の必要性」とする資料が配布された。つまり秋葉が提出した資料が、現在の日本が抱える安全保障上の問題箇所で、それを構成している国が日本の安全を脅かす仮想敵国ということになる。国防方針では、もっとも重要な部分なため詳細に検討してみる。

 1、秋葉剛男国家安全保障局長が提出した資料
『……
  • 国際秩序は深刻な挑戦を受けている。
  • 今回のウクライナへの侵略のような事態は、将来、インド太平洋地域においても発生し得るものであり、我が国が直面する安全保障上の課題は深刻で複雑なもの。
  • ロシアによるウクライナ侵略は.力による一方的な現状変更であり、国際秩序の根幹を揺るがす深刻な課題
  • 中国は、力による一方的な現状変更やその試みを継続し.ロシアとの連携も深化.更に.今般の台湾周辺における威圧的な軍事訓練に見られるように、台湾統一には武力行使の放棄を約束しえない構え
  • 北朝鮮は、弾道ミサイルの発射を繰り返しているほか、核実験の準備を進めているとされており、国際社会への挑発をエスカレート
……』
と、日本が抱える安全保障上の脅威が如何なる問題から来るものかをまとめたものである。秋葉の云わんとすることを要約すると、日本の存在を危うくしているのは「ロシアによる力による一方的な現状変更」によって「国際秩序は深刻な挑戦を受けている」となる。これを事実と照らし合わせると次のようになる。
 秋葉が言いたいのは「2022(令和4)年2月24日にロシアがウクライナに軍事侵攻した。その後、同年9月30日、ロシアはウクライナ東部および南部4州(ドネツク州、ルガンスク州、ザポリージャ州、ヘルソン州)の併合を当事国ウクライナの意向を無視して実行した。これは、国際秩序に対する深刻な挑戦である。係る軍事侵攻は、インド太平洋地域でも起こる可能性がり、日本としては安全保障上、看過できない。したがって、不測の事態に備えて日本の国防力を強化しておきたい。」と述べているのだ。そのインド太平洋地区には、尖閣列島と台湾有事及び南沙諸島が含まれていることになる。その結論として成文にはしていないものの、日本の安全保障に脅威を与える国としてはロシアそれと軍事的なつながりが強い中国と北朝鮮と断定している。つまり日本の主要仮想敵国はこの三国なのだ。
 秋葉の発言に次いで、政府側として最初に発言したのが林芳正外務大臣であった。この事実から「国力としての防衛力を総合的に考える有識者会議」の性格が見えてくる。同有識者会議とは、外務省の要請により設置した諮問機関であるということになる。加えて「日本を取り巻く安全上の問題点」を説明した秋葉も外務省関係者で、さらに座長が外務省OB佐々江賢一郎なのだ。したがって同有識者会議は外務省の自作自演でおこなっていることから結論が既に決まっているとみるべきなのだ。つまり外務省が想定している仮想敵国ロシア、中国、北朝鮮を有識者会議の結論として日本政府に提言させようとして開催した会議なのだ。

 2、林芳正外務大臣の全文
『(林外務大臣)
既にお話もありましたが、力による一方的な現状の変更の試み、これが正面から行われるようになりました。こういう意味で、一層安全保障環境は厳しさを増す中で、外交・安全保障双方の大幅な強化が求められております。防衛力の抜本的強化は、急務かつ、実は、この防衛力が強化されると、外交も力強い展開がさらに可能になると、そういう関係もあるということを、御指摘しておきたいと思います。外交実施体制の抜本的強化、外交力の強化にも全力で取り組んでまいります。 外務省としては、日米同盟を深化させる、抑止力・対処力の強化に努めるということを旨としておりまして、今年の5月の日米首脳共同声明においても、総理から、日本の防衛力を抜本的に強化し、その裏づけとなる防衛費の相当な増額を確保する決意を表明いただき、バイデン大統領からも強い支持を受けております。 また、普遍的価値を共有する有志国との多層的な安全保障協力、これを進めるとともに、ルールに基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けて、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)の実現に向けた取組を強化していきたいと考えております。こうしたことを通じて、我が国及び地域の平和と安定の確保に努めていきたいと思っております。
……』
 この林の発言内容を精査する前に看過できない発言がある。林は「……(日本)の防衛力が強化されると、外交も力強い展開がさらに可能になる……」と述べている。よく考えて頂きたい。日本国憲法第九条には「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。」とある。ところが、林は日本の防衛力を強化して外交で威嚇に利用したいと言っているのだ。林が外務大臣として仕事をしているのは憲法を順守してこそ成り立つ。ところが、こともあろうに林は、有識者会議に外交上敵対する勢力には威圧できるだけの武力を整備するよう政府に提言するように求めているのだ。
 林の経歴は、東京大学法学部卒業を卒業していることから「憲法論」は習得済みである。よって日本の国体である憲法を知らないわけはない。林は憲法が日本の国体であることを熟知したうえで無視している。林が自民党所属議員であることから、自民党の党是である「アメリカの要請に従い、日本国憲法を改正して自衛隊の海外派兵を可能にする」ことを実行している確信犯なのだ。そのうえ「令和4年日本国国防方針」の見直しが10年後を想定していることから、それ以前に日本国憲法は改正できると確信しているのだ。
林にここまでの確信を持たせたのは、安部晋三が犯罪者集団統一教会と組んで国政選挙をおこない衆参ともに憲法改正に必要な三分の二を確保したことと、野党の分断が進んで国権回復を目指す勢力もなくなったからである。加えて自民党の野党工作により、野党議員の中にさもしい「隠れ自民党議員」を増殖させることに成功したからなのだ。さもなければ日本国民の宝であり自衛隊をアメリカ軍に売り渡し「海外派兵を可能にするため」に憲法改正に賛成するわけはない。したがって林をここまで大胆にさせるのは現代版大政翼賛会運動が完成したことによる驕りなのだ。
 そして、幾度も言うが、日本の安全保障は憲法と不可分であることから「日米安全保障条約」を完全に機能させるのは日本国憲法を改正する以外に方法はないのだ。それをあえて単純な憲法改正論としているのは、裏に軍事同盟という危険な毒物があることを国民の目に触れないように隠蔽し誤魔化しているだけなのだ。
 日本国憲法を改正する時期をうかがわせる発言を浜田靖一防衛大臣が行っている。
 浜田は「……我々は直ちに行動を起こし、5年以内に防衛力の抜本的強化を実現しなければなりません……」と述べている。つまり憲法改正も5年以内におこなうことが既定路線なのだ。そして憲法改正の暁には、有識者の提言により2023年から開始する「防衛三文書(国家安全保障戦略、防衛⼤綱、中期防衛⼒整備計画」)」で軍備を拡張しておいて「インド太平洋(FOIP)」の防衛に利用できるようにしておくということになる。
 日本の国益とインド洋は如何なる関係があるのだろうか。
これではまるで明治38年に日英同盟を改定したことと同じでインド防衛用に陸兵を派遣すると約束させられたこととどこが違うのだろうか。

・林外務大臣が有識者会議の冒頭で防衛力を強化して「武力で威圧」すると述べたことは憲法違反である。
・日本国憲法と日本の安全保障が表裏一体であることを知らない不勉強な野党が、憲法改正に賛成していることから大政翼賛会体制が出来上がった。
・自民党は日本国憲法を5年以内に改定を完了する予定である。
(第二回終了)

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「令和4年日本国国防方針」批判(第一回) -国防権のない日本の危険な外交と国防-

2023-01-16 | 小日向白朗学会 情報
はじめに
 昭和45(1970)年9月15日、小日向白朗は、アメリカ国家安全保障会議(United States National Security Council、略称NSC)の招きに応じパスポートも持たずに横田空軍基地から渡米した。NSCが白朗に訪米を要請したのは、泥沼化したベトナム戦争を終了させるためにその鍵を握る中国と接触を図る糸口を見つけ出すことをキッシンジャー(Henry Alfred Kissinger)に命じられていたからであった。しかしアメリカ国内には、ニクソン政権が進める中国とのデタント(Détente)に抵抗する勢力があった。その対抗勢力と同調する岸信介、賀屋興宣、佐藤栄作ら台湾ロビーは直ちに行動を開始した。
白朗が訪米すると、その行動を訝った岸信介は後を追うようにワシントンに到着し反ニクソン派の巨頭と懇談した徴候があった。そして岸が帰国すると岸の顧問矢次一夫はすぐさま台湾に出発し、台湾政府は矢次が滞在中に尖閣列島領有を主張した。つまり尖閣列島問題は、ニクソンとキッシンジャーが進める中国とのデタントを妨害するために仕組まれた罠だった。台湾が、石油資源のある尖閣列島を領有することで、中国が台湾進攻を開始した場合に、アメリカは資源防衛と称して台湾を軍事的に支援し、ベトナム戦争の敗北で崩れかけ冷戦構造を再構築する糸口を残す狙いがあった。すなわち、日本の安全保障で問題となる尖閣諸島問題の発端は、ニクソンとキッシンジャーが推し進めた中国とのデタントだった。
 その後、半世紀が過ぎ、前自民党総裁安倍晋三は、内閣総理大臣であるにもかかわらず日本国憲法を改正するために必要な三分の二の国会議員数を確保するため犯罪者集団統一教会を利用し国会の掌握を目指してきた。安倍は、なぜそこまでする必要があったのか。それは祖父の岸信介から代々利権として引き継いできた日米安全保障条約を中心とした防衛利権を維持するために、その秘密を国民に悟られないようにしながらアメリカの要求に応じていたからである。その本質は、自衛隊を海外に派兵するために必須となる憲法を改定してアメリカと締結した日米安全保障条約と行政協定(後の日米地位協定)の定めに従い、アメリカの安全保障政策の中で自衛隊を傭兵として利用できるよう装備や兵員に限らず法体系も整備して提供することにある。そしてその論議の中心に尖閣諸島が出て来るのは当然の帰結なのだ。

 この論文は、日本の安全保障論議を通して自民党が進めようとしている「外交及び安全保障」がいかに危険な代物であるかを明らかにしてゆく。ところで岸田内閣は、令和4年12月16日に急遽、「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の改定を閣議決定した。つまりこの三文書は、日本国の防衛計画だということになる。そのため本論ではこの三文書を『令和4年日本国防方針』として扱うことにした。
 防衛三文書を「国防方針」としたのには理由がある。嘗て日本は「明治40年帝国国防方針」「大正12年帝国国防方針」「昭和11年帝国国防方針」を作成して国防方針、国防に要する兵力及び用兵要領を定め陸海軍の整備を進めた。しかし、不幸にも各国防方針が尽く誤っていたため国を亡ぼす結果になってしまった。特に「明治40年帝国国防方針」は、際立って問題の多いものであった。「明治40年帝国国防方針」を作成した理由は、明治38年に日英同盟を改定し防禦同盟から攻守同盟に変更したことから、その運用を協議するにあたり日本として国防方針を纏めておく必要に迫られて作成したものであった。そのため自国の防衛に必要なものとして策定したわけではなく、イギリスの要求に応じることができる兵力数や派遣地域をあらかじめ見定めておくためのものであった。この日英同盟改訂が持ち上がったのは、日本からの申し入れにイギリスが応じたことからは始まったとされているが、実際は巧妙にイギリスに嵌められたのだ。この話が持ち上がった時は日露戦争の最中で、陸軍の兵力は底をつき、加えてバルチック艦隊がじわじわと日本近海に近づきつつあって、その挙動に国民は固唾を飲んでいるときに持ち上がった。すなわちこの改訂は、日本海海戦前、日本国民の恐怖感が頂点に達しようとしているまさにその時を狙って、イギリスがインド防衛のためアフガニスタン方面に日本の兵力を派遣、と云えば聞こえがいいが、いわば提供することを約束させてしまったのだ。その餌は、日本海軍がバルチック艦隊に敗れた場合に、その仇を自慢のイギリス海軍が取ってくれるものと信じ込ませたことであった。当時のイギリスは、戦艦数だけは整っているもののドイツが艦隊法により着々と戦艦を建造していたことから、イギリスの海軍力に陰りが出ていた。つまり日本は狡猾なイギリスにまんまと騙され日本の防衛とは縁もゆかりもないインド防衛に日本陸軍を派遣することを約束させられてしまった。
 当時の最高機密「明治40年帝国国防方針」が帝国議会にその片鱗をのぞかせたことがあった。それが「二個師団増設問題」である。陸軍が帝国議会に提出した2個師団を増設するための費用を要求したことで初めて最高秘密がほんの一部だけ顔を覗かせた。かといって陸軍は費用だけは要求するものの、その理由がインド防衛用兵力であるとは口が裂けても語ることはなかった。これでは議会は紛糾し政治問題となって当たり前である。
 ところで日本の安全保障は、憲法と表裏一体である。つまり日本の安全保障計画、すなわち「日本国国防方針」は憲法の定めるところに従って策定していく必要がある。だが現在の日本には、国防権つまり「自衛隊の指揮権」を昭和27年に日米安保条約及び行政協定によりアメリカに移譲して早70年が経過してしまった。国防権のない国として70年経過しているのだ。日本のような国防権の無い国家に「国防方針」が存在するであろうか。あり得ない。あるのは自衛隊をアメリカの安全保障を補完する傭兵とすることだということになる。
「令和4年日本国国防方針」を強引に進めようとしている自民党は、憲法9条に自衛隊の存在を明記することも目指している。ならば自衛隊が置かれている現状通りに、憲法9条に「同盟国の傭兵」と書き加えるべきではないのか。いくら自民党でも、そこまではできないはずだ。やはり国民をだまし続けるしかないはずだ。
 それにも拘わらず、日本政府が閣議決定し予算を要求しようとしている「国防方針」は、国民に対する虚偽であるか隠蔽以外の何物でもない。よって本論では「令和4年日本国国防方針」の秘密を戦略から予算まで徹底的に検証してみる必要があると考えている。
 ところで明治の日本は、治外法権という不平等条約に悩まされ多くの国民は憤慨していた。それから一世紀、現在において、いまだ日本には主権が回復されていないばかりか、何のためらいもなく国家主権を他国に移譲することで政権を維持している自由民主党がある。それにも関わらず、多くの日本国民は自民党を支持し続けているのも事実である。実に摩訶不思議な現象である。国民は、よほど上手いプロパガンダに洗脳されているのか、さもなければ自民党はとうの昔によからぬ集団に背乗りされたか、クーデターではと思いつつ論を進めたいと考えている。

 尚、今回この論文を作成するため小日向白朗学会が白朗の業績を顕彰するため収集した小日向関連資料を利用してきた。しかるに、最近は小日向白朗を顕彰のために収拾した資料を使い、白朗の業績を貶め矮小化する情報を流布する輩が出現している。筆者らは「富士ジャーナル」に書かれていた「日本政府がアメリカに国権を売り渡していたこと」等は、公文書で確認しており些かの間違いも発見できなかった。にもかかわらず、不届きな輩は白朗の忠告を過小評価させるため、白朗個人の人間性から白朗の真価を矮小評価しようと試みている。恣意的な白朗の過小評価は、日本の安全保障に影響して日本の針路を誤らせる可能性すらある。筆者は、不届き輩に対して「白朗を大衆娯楽にすることは日本の安全保障を危険にさらすことになる」ことを理解し猛省することを求めるものである。
(第一回終了)

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