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ミステリ感想-『いつもの朝に』今邑彩

2006年04月01日 | ミステリ感想
~あらすじ~
スポーツ万能・成績優秀・容姿端麗と非の打ち所のない兄と、なにをやらせてもダメな弟。
どこにでもいる兄弟だったはずが、ぬいぐるみの中から発見された謎めいた手紙が、二人の運命の歯車を大きく狂わせていく。


~感想~
純文学作品と言ってさしつかえあるまい。
※プロットに関して大きくネタバレしていますのでご注意ください。

浮世離れした画家の母親と、なにもかも正反対だが仲の良い兄弟。平凡な家庭が一通の手紙から、大きく揺らいでいく序盤~中盤にかけての展開は読ませる。しかし、隠された真相は中盤で全て出そろってしまい、後半は解かれるべき謎すらも無くなってしまい、起伏に乏しい。
物語は「隠された真相をあばく」のではなく「明かされた真相にどう折り合いを付けるか」に筆を費やされるので、あっと驚きヒザを打たせるトリックや、目を疑うどんでん返しといったものは存在しない。肝心の物語も言ってしまえばありがちな筋で、結末も予想の範疇を出ず食い足りない。全ての真相を知る母親が物語に関わるのが終盤で、それまでに明かされた真相の"答え合わせ"をするだけに過ぎず、新たな展開を見せることがないのも悲しい。
丁寧な筆致で飽かせず最後まで読ませてくれるが、本格ミステリ書きとしての今邑彩の実力を知っているだけに、逆転もトリックもない物語にどうしても物足りなさを感じてしまうのも確かである。
画廊で始まり画廊で終わる、発端と結末が見事に物語を引き締めたのは大きな救いか。


06.4.1
評価:★★☆ 5

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