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ミステリ感想-『戻り川心中』連城三紀彦

2006年04月05日 | ミステリ感想
~収録作品~
藤の香
桔梗の宿
桐の棺
白蓮の寺
戻り川心中


~感想~
『戻り川心中』は傑作である。とは方々で聞いていたが、それは一片の誇張も交えない真実であった。
とにかく美文である。作家志望としてはヨダレが出るような比喩や描写の巧さ。あまりに美文すぎて時々なにを描いているのか解らないこともあるが、とにかくすごい。
そしてなによりミステリとしても超一流なのが本書の特色である。全5編にわたり、真相やトリックが明かされたとき、口をあんぐりと開けて呆然としたくなる瞬間が必ず訪れるだろう。

『藤の香』少ない登場人物。限定された舞台。トリックもプロットも目新しいことができなそうな状況で、しかし意外な真相を放ってくれる。反転をつづける物語に圧倒されること請け合い。

『桔梗の宿』真相にあ然。2006年の今ではこの種のトリックもあるにはあるが、本書の発表は1981年。前例が全くない。

『桐の柩』これも幻想が現実へと姿を変えるような、あまりにも明白な動機に唸る。

『白蓮の寺』幼少時のおぼろげな記憶が思いもかけない方向へ飛んでしまう。ちょっと「記憶多っ!」とも思うが、全ての記憶が指し示すたった一つの真相には愕然とする。

『戻り川心中』表題作にしてダントツの大技。あまりにすごすぎて若干「引いてしまった」のも事実。日本推理作家協会賞の短編部門を受賞。この頃はこの賞もちゃんとしてたんだなぁ。

以上、トリックにだけ言及してみたが、氏の真骨頂は物語を描く才にある。
「花」と「恋愛」をテーマに、縦横無尽の筆致で描かれた世界は、思い返したとき映像として脳裏に再生される。「抒情的な」とか、「瀟洒な」とか、「清冽たる」とか、「馥郁たる」という普段使わないような表現のよく似合う作品である。
ミステリを純文学よりも下に見る輩も多いが、ぜひこれを読んでもらいたい。こういう傑作にめぐり会うと僕のようなミステリ狂は「純文学なんてオチもトリックも真相もない泡坂妻夫や京極夏彦じゃないか」と言いたくなる。
これからは泡坂・京極に加えて連城の名も用いていくこととしたい。
僕が読んだのは1981年発行の刊だが、先ごろ光文社文庫でも再刊されたので、本好きは迷わず手にとって欲しい。


06.4.5
評価:★★★★★ 10

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