内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

現代社会の「罪」と「罰」― 堀川惠子『裁かれた命 死刑囚から届いた手紙』を読みながら思うこと

2018-12-29 23:59:59 | 読游摘録

 冬休み中ということで、普段のように律儀に連載を毎日書き続けることも予告に縛られることもなく、その日その日に思ったことをより自由に記すことを許されたし。
 夜を徹して読書することは若い頃は珍しいことではなかったが、今ではもうそういうことはほとんどなくなった。しない、というよりも、できない。寝床に本を持って入り込んでも三分ともたない。横になるやいなや、ほとんど自動的に体がおやすみモードに切り替わってしまう。
 昨晩、昨日購入した電子書籍版4冊を走り読みするつもりで、タブレットを枕元に置き、読み始めた。11時半頃だったか。最初に開いたのが堀川惠子『裁かれた命 死刑囚から届いた手紙』(講談社文庫、2015年、初版2011年)だった。何頁か読んで次の本に移るつもりで読み始めたが、その書き出しに引き込まれて読み進め、掛け布団をひっかぶった状態では読みにくいので起き上がり、座り机の上にタブレットを置き直して読み続けた。章を追うごとに更に先が読みたくなり、ふと時計を見たら、午前5時近かった。まだ読み終えてはいなかったが、さすがに眠気を覚えたので横になり、7時頃まで眠った。それにしても、こんなことは実に久しぶりのことだった。
 本書の著者の名前さえ知らなかった。取り上げられている死刑囚のことも彼が1966年に起こした事件についても何も知らなかたった。それだからかえって何の先入見もなしに読むことができたとは言える。
 死刑という極刑が、その時代の社会的状況、政治的傾向、法曹界の趨勢、捜査に関わる諸条件、審理に関わる諸条件、容疑者の幼少期の家庭環境・交友関係(あるいはその無さ)・社会的環境等のきわめて多様な諸要素がいかに複雑に絡み合って、求刑そして確定されるのか、そのプロセスが一人の死刑囚の事例を通じて詳細に解き明かされていく。死刑囚の手紙の注意深い読み、関連資料の丹念な調査、当事者たちやその関係者への度重なるインタビューによって、死刑という国家による「合法的な」殺人が、法治国家に生き、その恩恵を享受している私たち国民ひとりひとりにとってどれだけ深刻な問題であるかを本書は私たちに教えてくれる。それだけでなく、死刑確定後、刑執行に至るまでの期間に死刑囚がいかに人間的に変化を遂げていくかまでを著者は追いかけていく。
 また一つ優れたノンフィクション作品に出会えたことを嬉しく思うとともに、その作品から私自身考えるべき重い課題を与えられもした。












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