内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

「エートス」― Le Grand Robert(ロベール仏語大辞典)の不可解な欠落

2022-01-31 23:59:59 | 雑感

 Le Grand Robert のオンライン版はほぼ毎日利用しているのだが、一つ不可解な欠落がかねてより気になっている。
 Éthos という語を仏語での研究発表要旨に使おうと思って、用法を確認するために Le Grand Robert を引いてみたら、驚いたことに載っていないのである。Le Petit Robert にも載っていない。ところが、『小学館ロベール仏和大辞典』には、éthos がちゃんと項目としてあって、以下のように説明されている。

(1) 【哲学】 【社会学】 習俗を通して形成される気風や性格,特に人間の社会的行動を支えている倫理的規範を指すが,民族学的には各文化に独自な慣習の統合形態をいう.
(2) 【芸術】 作品が単なる審美性を超えて与える道徳的な感銘,気品.
【語源】[ギリシア語 êthos 習慣,性格]

©Shogakukan Inc.

 類義語の mœurs を引いてみると、(→ Éthos)と参照項目として挙げてある。そこをクリックすると、 奇妙なことに、« Ce mot n’est pas présent dans le dictionnaire. » と表示される。いったいどういうことなのだろう。社会学や美学などでは、éthos(あるいは ethos)はよく使われている語である。手元にある本では、例えば、Ruth Amossy の La présentation de soi : ethos et identité verbale, Paris, Presses universitaires de France, coll. « Interrogation philosophique », 2010 を挙げることができる。
 日本語でも「エートス」という言葉を見かけることはそれほど珍しいことではないだろう。『新明解国語辞典』には、「① 同じ行為を何度も繰り返すことによって獲得した、一定の習慣・性格〔広義では、その民族・国家に特有の習俗や精神をも指す〕② 芸術作品の内包する精神的価値」とある。
 ラルースのオンライン版でも、次のようにかなり丁寧に説明されている。

1. Ensemble des caractères communs à un groupe d’individus appartenant à une même société. (Concept de G. Bateson.)
2. Doctrine établissant une relation entre l’art des sons et les mouvements de l’âme et sur laquelle les Grecs fondaient leur conception morale et éducative de la musique.
3. Manière d’être sociale d’un individu (vêtement, comportement) envisagée dans sa relation avec la classe sociale de l’individu et considérée comme indice de l’appartenance à cette classe.

 ところが、TLFi (= Trésor de la Langue Française informatisé) でも、éthos は項目になっていない。わずかに一箇所、mode の項の引用の中に出てくるだけである。
 この不可解な欠落の理由はなんなのでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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