内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

書籍の庭を眼で「散歩」する

2020-01-30 23:59:59 | 雑感

 ちゃんと数えたことはないから、ごく大雑把な数字だが、この四十数年間に購入した本を一切手放さずに持っていたとしたら、少なく見積もって蔵書三万冊は下らなかったであろうと思う。もちろんそれらすべてを収納することができるような家に住んだことはないから、どう考えてもありえない話ではあるが、手放した後にひどく後悔した本もけっして少なくはない。
 今の住まいでは、蔵書はすべて書斎の書架に並んでいる。数えるのも面倒なので、これもまたざっくりした数字だが五、六千冊くらいだろう。特に分野別とか著者別とか時代別とか一貫した配列基準はないが、この程度の量なら、しばらくご無沙汰していた本でもすぐにどこにあるかわかる……いや、かつてはわかった、と言いなおさなくてはならない。というも、耄碌したせいであろう、確かに持っているはずだが何年と手に取ることがなかった本を探す必要があると、見つけるまでに時間がかかることが最近ときどきある。それは前後二列に詰め込んである書棚の後列の隅に追いやられている本だとはかぎらない。灯台下暗しというか、探している本の背表紙が視界にちゃんと入っているのに気づかずに通り過ぎ、しばらく本棚の前をうろついているうちに、十分、いや二十分経ってしまうことがある。やっと見つけても、それまでに費やした時間に愕然としてしまったこともある。
 そこで、今後ますますひどくなるであろう耄碌対策として、ときどき、書棚に並ぶ本を順に眺めるようになった。小さい書籍の庭を眼で「散歩」しているような心持ちである。これがまるで色とりどりの花草木を眺めるようでなかなか楽しい。いずれも自分が好んで入手した本であるし、それぞれに思い出がまといついているから、懐かしくもある。ときに手にとってパラパラと頁をめくっていると時が経つのも忘れてしまいそうになる。これもまた本の愉しみ方の一つではなかろうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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