内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

辞書を読む愉しみ ― 引用例からの始まる思索の散歩

2018-02-13 23:59:59 | 読游摘録

 フランス語の辞書で一番よく使うのは Le Grand Robert のオンライン版だ。オンライン版のよさは、毎年48ユーロ払うだけでつねに自動更新され、つねに最新の改訂版が使えることだ。
 特に、用例検索が便利。単語レベルではなく、表現レベルで辞書の本文全体に簡単に検索をかけることができる。その検索機能も数年前に比べて改善されている。以前は、検索をかけても、用例が出てくる項目のリストはすぐに出てきても、それぞれの項目の中で当該の用例が出てくる箇所は自分で探さなければならなかった。項目が短い場合は問題ないが、長い項目だと、用例を見つけるのに時間がかかり、すこしいらいらすることもあった。何年か前から、用例が出てくる各項目をクリックするだけで、自動的に用例箇所に移動してくれるようになった。
 ある著作家の引用箇所もたちどころにリストを呼び出せる。先日、transcender の用例を調べていて、用例の一つとしてアンドレ・マルローの Les Voix du silence の一節が挙げられていたので、ついでにマルローからの引用例が同辞書にどれくらいあるか検索したら、なんと938箇所もヒットした。同じ引用文が複数の項目に挙げられていることもあるから、引用箇所の実数はいくら下がるだろうが、それにしても多い。
 引用例には、当該の単語を含んだ文あるいは文節だけではなく、前後数文も一緒に引用されていることも多く、それらを読むだけでいろいろと考えさせられたり、引用文献を読んでみたくなったりもする。上記のマルローからの引用もその一つ。

Quelque lié qu'il soit à la civilisation où il naît, l'art la déborde souvent — la transcende peut-être… — comme s'il faisait appel à des pouvoirs qu'elle ignore, à une inaccessible totalité de l'homme.

 同項目のもう一つの引用例は、理論物理学者ルイ・ド・ブロイ(Louis de Broglie, 1892-1987)の Physique et microphysique (1947) から。

La Vie nous apparaît sous des aspects opposés : tantôt, elle semble se réduire à un ensemble de processus physico-chimique, tantôt elle paraît s'affirmer comme caractérisée par un dynamisme évolutif qui transcende la physico-chimie.

 この本、その出版当時の現代物理学の認識論的枠組みの理解に関して、若きシモンドンに決定的な影響を与えた本である。今でも古書で安く手に入る。
 このブロイからの引用例もかなり多く、全部で125箇所ある。そういえば、西田幾多郎は、ブロイの『物質と光』(Matière et lumière, Paris Albin Michel, coll. « Sciences d'aujourd'hui », 1937)の次の箇所(p. 303)を好んで引用している。

« Les couleurs existent-elles dans la lumière blanche avant la traversée du prisme qui va la décomposer ? » Oui, dirons-nous, elle existe... mais seulement comme existe une possibilité avant l’évènement qui va nous faire savoir si elle est effectivement réalisée.

 この箇所の西田による言及をめぐっての「謎」については、2016年2月29日の記事で話題にしているので、ご興味があれば参照されたし(いつもそうしているように、日付をクリックすると当該記事が別のウインドウで開きます)。












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