内的自己対話-川の畔のささめごと

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神秘経験の知解を求める学的情熱、あるいは自己批判契機を内在させているメタ神秘学の探究

2018-07-26 15:37:29 | 読游摘録

 十六世紀スペインの神秘思想家十字架のヨハネ研究において必読文献の一つである Jean Baruzi, Saint Jean de la Croix et le problème de l’expérience mystique, Salvator, 1999 (réédition de la deuxième édition de 1931 dite « revue et augmentée ». 1re édition, 1924) は、小さな活字で行間も狭い頁組みで八百頁を超える大著である。それが今私の前、机上の書見台の上に置かれている。著者の他の論考には、L’intelligence mystique, Berg International, coll. « L’Ile verte », 1985 や 1933年にPUFから出版された Ravaisson, De l’habitude の序論などで触れてはいたが、Baruzi の主著はなんといってもこの十字架のヨハネ研究である。
 博士論文として書かれた原著は、その出版前から評判になっていたという。出版されるとすぐにカトリック思想界の重鎮たちから総攻撃を受ける。その急先鋒の一人がジャック・マリタンだった。それらの攻撃を一言でまとめれば、十字架のヨハネの神秘思想の認識理論面だけを誇張し、実践面を不当に軽視しているということになる。
 しかし、Baruzi にしてみれば、もちろん恣意的にそのようなアプローチを採用したわけではない。

Sa pensée est précieuse en ce qu’elle est encore plus qu’une mystique proprement dite une logique de la mystique. [...] On peut dire en effet que St Jean de la Croix nous apporte une critique de l’expérence mystique (Bulletin de la Société Française de Philosophie, 25e année, 1925 III, IV, p. 26, cité dans Frédéric Nef, La connaissance mystique, op. cit., p. 132).

 Baruzi は、単なる神秘経験ではなく、神秘経験に固有の論理を十字架のヨハネのテキストの中に読み取ろうとしているのである。著者の探究は、メタ神秘学、つまり自己批判契機を内在させた神秘学が十字架のヨハネの神秘思想の核心であると主張するところまで徹底化される。
 この徹底した批判的知解の学的情熱が Baruzi の十字架のヨハネ研究を不朽の名著にしている。











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