内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

『中世に動物たちと共に生きる』― 出逢えてよかった一冊の本

2022-04-21 23:59:59 | 読游摘録

 今回の執筆した原稿のテーマは、大きく言えば、現代社会における〈食べるもの・こと〉と〈食べられるもの・こと〉との関係を問うことです。特に、肉食批判論の根拠を現象学的存在論の観点から考察しました。その考察の前提として、肉食批判、反種差別主義、完全菜食主義、動物権利論、動物倫理、環境倫理、自然倫理、地球環境危機、生態系破壊などの問題をめぐって前世紀末から欧米で展開されてきた議論を通覧しておく必要がありました。
 そこで、これらの問題に関してフランスでここ十年あまりに刊行された関連書籍を数十冊購入したのですが、その中には、いくら「動物つながり」とはいえ、購入を正当化するのがちょっと苦しい書籍も何冊かありました。その一冊が今年刊行された Chiara Frugoni, Vivre avec les animaux au Moyen Âge. Histoires fantastiques et féroces, Les Belles Lettres(イタリア語原書 Uomini e animali nel Medioevo は2018年刊)です。著者は、著名なイタリア人中世史家で、かねてよりアッシジのフランチェスコの優れた伝記の著者として存じ上げておりました。今月8日に82歳でお亡くなりなりました。ご冥福をお祈り申し上げます。
 本書は、中世人たちがどのように動物たちを見、共に生き、あるいは恐れ慄き、そして表象化し、見たこともない恐ろしい動物をいかに想像力豊かに空想したかを多数の図版とともに生き生きと叙述しています。そのなかには、聖書的な世界観から逸脱する動物観も示されており、キリスト教的世界像には収まりきらない中世人たちの現実生活が空想動物たちも含む動物たちとの多様な関係を通じて鮮やかに描き出されています。
 原稿執筆に倦むと、本書の図版を楽しみながら拾い読みして疲れを癒やしました。今回の原稿の主題に「歴史的な観点から関連している」といういささか無理のある理由づけで自分を納得させて購入しましたが、ほんとうに出逢えてよかった一書と喜んでいます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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