内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

集中講義第二日目 ― 酷暑襲来なんのその、蝸牛的超低速訓詁注釈による超高速読書術

2018-08-01 23:44:08 | 雑感

 今年で八年目になる集中講義「現代哲学特殊演習②」は、修士課程の選択科目なのですが、二年連続履修しても二回とも別々に単位になることもあり、過去には「リピーター」もいました。その場合、彼らの最初の履修年に喋ったことはそのまま繰り返さないように配慮する必要がありました。
 今年は「新人」一人ですので、これまでの七年間様々に述べてきた勉強の心構え・読書の仕方・文献の集め方・論文の書き方等についてのアドヴァイスを彼一人のために繰り返すことになりました。この一期一会にそれらをできるだけしっかりと伝えておきたいということもあり、説明には時間がかかり、肝心のテキスト読解になかなか入れませんでした。
 しかし、それらも一通り済み、今日の三コマのうちの二コマ目からいよいよシンモンドン『個体化の哲学』の読解に入りました。彼には「序論」の最初三頁の要旨をA4一枚にまとめてくるように昨日課題を出したのですが、実際にはその半分くらいしかできていませんでした。その難解さにかなり難儀したようです。無理もありません、まだ修士一年ですから。
 それは想定内でしたので、それはそれでかまわないと、読めたところまでについて報告するよう促しました。昨日のイントロダクションでもなかなかに反応の良い学生でしたが、シモンドンのシの字もしらなかったわりには、よく論点を捉えた報告でした。
 しかし、予定していたような快速調で読むのは彼のためにならないと判断し、一行目から一文一文彼に翻訳を読ませ、仏語原文と照らし合わせながら、それこそ一語一語注釈を加えつつ読んでいくという超低速読解法に切り替えました。そのおかげで、けっしてこの称賛すべき翻訳にケチをつけるというさもしい了見からではなく、誤訳・不適切な訳語選択も見つけることになりました。
 この蝸牛のごとき超低速読解法は、私が最も得意とする演習方式です。原書で本文だけにかぎっても小さな活字で三百頁を超える大著にこのような方法を適用すれば、一年間毎日読んだとしても、単純計算で約一年かかります。しかし、例えば、ある一文の中に著作全体にとって重要な鍵概念が出てくれば、それについて著作全体の議論を踏まえて詳細に注解しますので、量的には一頁しか読めなかったとしても、内容的には数十頁を読んだことに匹敵するだけの密度をもった読解になっていると、これは自信をもって言うことができます。それくらいの研鑽はこちらは積んできているつもりです。
 TAもいい合いの手を入れてくれて、今日の演習はなかなかに中身の濃いものにできたのではないかと自負しております。彼一人に独占させるには、ちょっともったいなかったかな。













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