今回の一時帰国中、期せずして、今まで訪れたことのない街をいくつか歩きまわったりジョギングしたりして、気づいたことがある。それは、それぞれの街にはそれぞれの「空気」あるいは「匂い」があるということである。
ほとんど何の予備知識もなくいきなりその街を歩き回るとき、最初は方角もよくわからず、同じところをぐるぐる回ったりもするが、次第に街の中での自分の位置がわかってくる。そして、どこに何があるのかが見えてくる。
とはいえ、そこに住まうためではなく、何ら目的があるわけでもなく、ただ数日滞在するだけの旅行客の目に映る街の姿はその表層にしか過ぎないだろう。それでも、いや、もしかしたら、そうだからこそ、何の先入観もなく、最初にこちらの感覚に触れてくるのは、その街の「匂い」のようなものではないかと思った。それは、嗅覚が捉える匂いというよりも、複数の感覚が関わる共感覚的な「匂い」だ。
その「匂い」は必ずしも心地よいとは限らないが、その街が自ずと醸し出している雰囲気とも言えるもので、それに対して自分が馴染めるかどうかは直感的にわかり、その共感や違和感が自分の嗜好を明らかにしてくれる。
こんな非観光的で無目的な束の間の滞在もまたひとつの「旅」の形なのかもしれない。