内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

「近代日本の歴史と社会」期末試験問題、成績、講評」

2023-01-17 13:39:07 | 講義の余白から

 クラスの平均点が20点満点で12点と中間試験の出来が良すぎたこともあるが、期末試験の平均点は 10,8 に下がった。それは主に問題の難易度を高めたことによる。もともと出来のよくない学生あるいはそもそもろくに試験準備をしない学生は点数が中間試験よりさらに降下したのは当然である。学力にムラがある学生たちも点数を落とした。その一方で、中間でとてもいい成績だった学生たちは、「期末は中間より難しくするよ」と脅しをかけておいたのが効いたのか、よく準備したことがわかる良い答案を書いてくれた。最高点は18,5、最低点は2点(これでもお情けで上げた点数である)。
 試験時間は正式には一時間だが、多少のオーバーは大目に見た。
 全部で大問3つ。1番は語彙テスト。以下の各語の読みをひらがなで示し、仏語で意味を記せ、という問題。

1独裁 2崩壊 3遊戯 4周知徹底 5著しく 6厳格に 7維持する 8標榜する 9痩せ細る 10推測される

 全問正解で20点満点中の5点になる。授業内容をよく理解していない学生でもここで頑張れば合格点の10点は取りやすくなる。予想通り、明らかにそれ狙いの学生が数人いた。

 2番は各問いに10行程で答える記述式問題3問。各問3点で計9点。第1問は、井上毅の「外教制限意見案」の要点を説明せよという問題で、これは授業でしつこいほど説明を繰り返したので、概してよく出来ていた。第2問は、江戸時代に広く行われ、明治期にも受け継がれた「会読」という共同読書形式が、ロジェ・カイヨワが『遊びと人間』の中で示している四つの遊戯のタイプのうちの一つ「アゴーン」と、それとは別次元の遊戯のカテゴリーとして彼が提案する「ルドゥス」との両方で同時にあり得るのはどのような条件においてか、という問題。これは問題としてはちょっと手が込んでいたのだが、授業中このテーマそのものに興味をもって集中して聴いている学生が多かったせいか、出来は悪くなかった。第3問は、幕末から明治期にかけて、漢文訓読体が日本の近代化にどのような役割を果たしたか、という問題。これは出来がはっきりと分かれた。授業で最後に取り上げたテーマだったのだが、それを上の空で聞いていた学生たちはまったく的はずれな「作文」をしていた。

 最後の大問は和文仏訳2題。各3点で計6点。訳は前2問の出来とかなり異なっていた。というのは、前2問は、よく準備してくれば高得点が可能だが、仏訳は未知のテキスト相手なので、日本語の実力(特に構文理解力と語彙力)がないとうまく訳せない。案の定、前2問では高得点だった学生でもここでは半分の3点を取るのがやっとということが多かった。
 その仏訳問題2題は以下の通り。

1. 宗教の定義は大問題であり、研究者の数だけ異なる定義があるといわれる。いまここでそれを厳密に定義しようとしてもあまり意味はないであろう。ただ言えることは、宗教はこの世界の合理的な秩序を超える問題と関わるということである。この世界の中で解決のつかない問題に突き当たったとき、合理的に検証できる領域を超えなければならなくなる。
   厳密に : exactement / strictement  秩序 : ordre  検証 : vérification 領域 : domaine

2. 基礎知識から応用技術までの学問体系を学ぶための手段化された読書には、難解な書物を読む喜びはなくなり、また他者と討論する楽しみもなくなったといえる。異質な他者と討論する会読の場で得られた自主的な「合点」は、もう用がなくなったのである。
   体系 : système 自主的 : autonome et libre 合点 : consensus