内的自己対話-川の畔のささめごと

日々考えていることをフランスから発信しています。自分の研究生活に関わる話題が多いですが、時に日常生活雑記も含まれます。

日仏合同ゼミ終了 ― 予想を超える成果を自力であげた学生たちを心から称賛する

2021-02-07 23:59:59 | 講義の余白から

 昨年九月から準備を重ねてきた法政大学との遠隔日仏合同ゼミが昨日今日の最終ゼミをもって終了した。法政側のプログラムはまだ三日残っているが、弊学科との合同ゼミとしては今日が最終日であった。昨日今日とそれぞれ二つのグループ発表を行い、それぞれの発表後にグループ・ディスカッション、全員でのディスカッションという順で進行したが、各日に予定されていた三時間を大幅に超過するほど、そしてそれでもグループ・ディスカッションの時間は足りなかったほどに、充実した二日間であった。
 今年度の新機軸と言えば聞こえがいいが、実のところは私が昨年十二月半ばの遠隔セッションのときに思いつきとして、日仏混成チームを作り、両国の学生が協力して一つの発表をこの二月の最終セッションのために準備することを提案した。これは年度当初には予定されていなかったことで、この出し抜けの提案に学生たちは最初明らかに戸惑っていた。
 共通言語として日本語しか使えないことも大きな制約であった。日本人学生たちにとっては、自分たちが普段使っている日本語をそのまま使ったのでは理解してもらえない。どう表現したら通じるのか、つねに問わざるを得ない。弊学科の学生たち(一人はブルガリア人でブルガリアの首都ソフィからの参加)にとって、テーマについていろいろ考えていることはある(日本人学生たちが学部二年生であるのに対して、彼等は修士一年であるから、知識の点では明らかに一日の長がある)のに、それを日本語でうまく表現できない。双方それぞれに困難を抱えながらのコミュニケーションであった。
 正直なところ、過大な要求だったかと私も不安になった。しかし、それは杞憂に終わった。四グループそれぞれ、連絡を取り合う方法の模索から始まり、テーマの決定、作業の分担、最終的な発表原稿の作成と推敲、それと連動したスライドの作成という一連の作業を、実質の準備期間は一ヶ月もなく、集中的に取り組めたのは最後の二週間弱という、とてもタイトなスケージュールだったにもかかわらず、テレビ会議だけでなくLINE も活用しつつ、すべて遠隔で見事にやり遂げた。その成果は昨日今日の発表に十二分に示されていた。
 昨年九月、日仏それぞれべつべつに和辻の『風土』の読解から始めたときは、テキストを前に学生たちが覚えた理解の困難がこちらの予想以上に大きく、教師側も途方に暮れかけた。その後、なんとか理解の緒を彼等が自分たちで見つけられるようにとさまざまに工夫を重ねていくうちに、彼等が次第に問題を自分の経験と知識に引きつけて考えられるようになり、和辻の風土概念そのものの理解という点では必ずしも充分に深まったとは言えないところもあるが、風土概念を巡って、感覚、言語、宗教、神話、民間信仰、慣習、自然、生態系、都市環境、エコロジー、共同体、国家、アイデンティティなど、様々な問題にアプローチし、それらのテーマについて自分の頭と感性で考えを深める機会となったことは、一つの成果と言っていいのではないかと思う。
 一つの概念の理解の困難から始まり、それを参考文献の助けを借りて書物の中だけで解消しようとする(あるいはしたつもりになる)のではなく、自分たちの具体的な経験に基づきながら、それをいかに問題化し、議論を展開するかという演習を彼等はこの五ヶ月継続してきた。昨日今日の発表は、その演習を通じて彼等が驚くほど成長したことを如実に示していた。よくはわかっていない借り物の哲学的概念を操って蝶々とテツガク的風土論ができるようになったところで、それが何の役に立っただろうか。彼等は、この演習を通じて、それとはまったく違った、今後にも応用が効く、問題へのアプローチの方法を学んだのだ。
 学生のみなさん、あなたたちがこの五ヶ月間にやり遂げたことに自信と誇りをもち、このいつまでつづくかわからない困難な状況の中、一歩一歩、前に進んで行ってくださることを心より祈念しています。