1933年、ナチが政権をとった年に子どもたちのために、ケストナーが書いたドイツの児童文学です。
しかしドイツでは出版を禁止され、焚書の対象にされて、彼はゲシュタポに逮捕されてしまいます。
児童文学といってもむしろ現代の大人たちに読んでもらいたい本です。
舞台となるのはドイツの全寮制の学校です。
いきなりNY生まれのジョニー・トロッツ少年の可哀想な身の上話から入ります。
両親が離婚し、4歳のときジョニーは生活苦にあえぐ父親に、船の切符と10ドル札を渡されてドイツ行きの蒸気船に乗せられます。
父親は、船長に「ハンブルクでこの子のおじいちゃんとおばあちゃんが迎えに来ますからお願いします」と頼みます。
しかしハンブルクにいるはずのおじいちゃんもおばあちゃんも迎えには来ませんでした。
もう何年も前に死んでいたのです。
父親に騙された少年の悲しみは一生忘れないものとなりますが、親切な船長の養子となったジョニーは、寄宿舎でたくさんの仲間や素晴らしい先生にめぐり合って救われます。
このジョニーが主人公ではありませんが、寄宿舎を舞台に繰り広げられる人間模様に、ほんとうに心洗われる1冊でした。
好きな1節を紹介します。
「人生で大切なのは、なにが悲しいかではなく、どれくらい悲しいか、だけなのだ」
「心配するなよ。すごく幸せってわけじゃない。幸せだなんて言ったら、ウソになる。けどさ、すごく不幸でもないんだから」
飛ぶ教室 (光文社古典新訳文庫)ケストナー光文社このアイテムの詳細を見る |