元祖・東京きっぷる堂 (gooブログ版)

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「ぼろ雑巾の唄を聴け」:kipple

2011-07-04 20:11:00 | kipple小説

「ぼろ雑巾の唄を聴け」


幼稚園の「もも組」の頃、親戚の家のTVでやってた映画を見て、干からびたボロぞうきんのように死ねたらいいなぁ、と思いました。

それから、50年近くが過ぎて、真っ黒な夜が、ジットリと放射能を含んだ霧でお腹をいっぱいにして、ツヤツヤと輝くように膨張しているので、その中から仰ぎ見ると、お月様は薄く、歪んで、干からびたボロ雑巾みたいです。

ボロ!ボロ!ボロボロぞうきん!ボロぞうきん!
ああ!ボロぞうきん!ボロぞうきんに包まれて死にたいんじゃないんだよ!

ああ!ボロボロ、ボロボロ!ボロぞうきん!
ボロボロボレロを聴きながら!干からびたボロぞうきんになって死にたいの!

あれは夢かなあ、それとも今が夢なのかなぁ。

真っ黒な夜が放射能をたっぷり含んだ霧で満たされて、ぷぅ~っと膨らんでツヤツヤして綺麗で、もったいないけど、一生懸命、ぞうきんで拭きます。

毎晩、毎晩、青白い放射能の霧にたっぷり濡れたツヤツヤの夜を拭くんです。

一晩中、汗だくになって、雑巾で吹いてると、ビショビショの視界の向うで、薄ぅ~くなって黄ばんで歪んで干からびたボロ雑巾みたいなお月様が励ましてくれているのです。

ぼんやりとした、たっぷりと放射能を含んだ白い靄が辺りにたちこめてくると、それは朝がきたと言うことです。

そしたら、帰ります。

たっぷりと放射能を含んだ朝の薄青じみた白い靄と、たっぷりと放射能を含んだ朝露に濡れながら、土手を歩いて帰ります。

湾岸沿いの廃屋になった古いアパートの、ベトベトと塵やらヤニやら埃やら、食べ物の残りカスやら垢やら体液やらがこびり付き、真っ黒焦げみたいに腐った三疊間の敷きっぱなしの万年布団に、汗だくのまま倒れて眠ります。休みます。

ボロ!ボロ!ボロボロぞうきん!ボロぞうきん!
ああ!ボロぞうきん!ボロぞうきんに包まれて死にたいんじゃないんだよ!

ああ!ボロボロ、ボロボロ!ボロぞうきん!
ボロボロボレロを聴きながら!干からびたボロぞうきんになって死にたいの!

あれは夢かなあ、それとも今が夢なのかなぁ。

あれは何ていう映画だったかなぁ。思い出せないけど確かに親戚の家に預けられてる時、「もも組」の時に見た。

こんな感じだったなぁ。


からからに晴れた日に、埃っぽい乾ききった土の上を とぼとぼと歩いてるの

とぼとぼと とぼとぼと 歩いてると 洗濯物を干してる女の人が 何か口ずさんでいるの

とても綺麗なメロディー とても懐かしいメロディー とても染み入るメロディー

それで、

“その、今、口ずさんでいたメロディーを、どこで覚えたんだ?”

って洗濯物を干している女の人に聞いてみるの

“ずっと昔、ウチにいた女の人がよく口ずさんでたのよ”

それで、

“その女は、どうした?”

と、又、聞くと

“その人、ある朝、海辺に倒れてたの。具合が悪そうだったから、ウチに連れてって介抱したんだけど、頭も少し変で何もわからないの。

 彼女、しばらくウチで過ごしたけど、ある朝、死んでたわ

 この曲ね?これは、その女の人、具合が良い時には外に出て、ラッパで吹いてたわ”

♪たぁ~ らららら~ たぁ~ らららら~ ら~らららら ら~ら ♪


そんな感じで、あんな風に、ぼろゾウキンのように死ねたらいいなぁって思ったんだ。

もも組」の頃。

彼女は、きっと!世界中の全てに見捨てられ!ボロ雑巾のように見捨てられ!

ボロ雑巾よりもっとボロボロで!干からびて!

最後にたどり着いたのが洗濯物を干していた女のウチの近くの浜辺で!

その浜辺で、彼女は干からびたボロ雑巾のように倒れていた!

ああ!私の耳は貝の耳!海の音が聞こえる!映画の中の彼女という干からびたボロ雑巾を媒体にして!聞こえてくる!

潮騒の中で死ぬるかと思いきや、土地の女の人に助けられてしまった。

でも、結局、その助けてくれた土地の女の人の家で、ある朝・・・

干からびたボロ雑巾のように!死んでいたんだ!


ボロ!ボロ!ボロボロぞうきん!ボロぞうきん!
ああ!ボロぞうきん!ボロぞうきんに包まれて死にたいんじゃないんだよ!

ああ!ボロボロ、ボロボロ!ボロぞうきん!
ボロボロボレロを聴きながら!干からびたボロぞうきんになって死にたいの!

あれは夢かなあ、それとも今が夢なのかなぁ。


もも組」の頃に干からびたボロ雑巾のように死にたいと思ったんだが、結局、子供時代を元気に生き延びてしまいました。

二十歳までには干からびたボロ雑巾のように死ねるだろうと放浪ばっかりしてましたが、結局、元気に生き延びて、あれやこれやで、50を過ぎました。

そうして、こうして腐った三疊間に暮らして、日が暮れたら、又、放射能をたっぷり含んだ霧で、お腹いっぱいになってツヤツヤした真っ黒な夜が輝き、膨脹しはじめるから、拭きに行くのです。

その前に、お腹が空いてくるので、近所に廃棄施設がありますので、そこにたっぷり放射性物質を含有してるので食べられないと捨てられて腐ったコウナゴとか色々ありますので、そこに忍び込んで、かっぱらってきて食べちゃいます。

お金、無いですし。ボロ雑巾が綺麗な街に出ていっても、皆、嫌がるでしょうから。

それから、お腹いっぱいになりますと、ぞうきん持って、たっぷりと放射能の霧を含んでツヤツヤになって湿気いっぱいに膨脹し続けるグニョグニョの夜を拭きに行くんです。

誰かがやらなきゃならないのです。

毎晩、一生懸命拭いてます。ぞうきんで一晩中拭き続けているのですが、なにせ、放射能の湿気たっぷりのツヤツヤのグニョグニョの真っ黒な夜でして。

とっくに、ぞうきんはボロボロになっているんすが、どんどんビチョビチョと濡れて濡れて、どーもイメージ通りの干からびた「もも組」の時に見たあの映画の、ボロぞうきんのように全てに見捨てられた女の人とは違う気がするんです。

湿気が多過ぎるんです。

ボロ!ボロ!ボロボロぞうきん!ボロぞうきん!
ああ!ボロぞうきん!ボロぞうきんに包まれて死にたいんじゃないんだよ!

ああ!ボロボロ、ボロボロ!ボロぞうきん!
ボロボロボレロを聴きながら!干からびたボロぞうきんになって死にたいの!

あれは夢かなあ、それとも今が夢なのかなぁ。

そうして見捨てられた廃屋アパートの黒焦げみたいに腐った三疊間に寝泊りしながら、滲み混んで夜をツヤツヤに膨脹させている放射能の霧拭きに行く日々の泡がシャボン玉みたいに空に登ってはパチパチと弾けて消えるように続いてゆき、何ヶ月か過ぎました。

梅雨が来まして、何日も放射能豪雨が続きましたけど、そんな中でも、夜が来れば、ちゃんと拭きに出掛けました。

真っ黒な夜は放射能の霧だけでもビショビショでやっかいでしたが、それに放射能豪雨も加わって、ますますビィ~ッチャビッチャに膨れ上がって、身体が、この世界からズレ出してしまいそうなくらい大変で、ぞうきんは、さらにボロボロになりましたが、あの映画の干からびた感じとは程遠いようで、ガッカリと疲れが酷くて、夜を爆破してしまおうかと思ったほどです。

でも、夜空を仰ぎ見れば、お月様も、豪雨の向うで歪みまくってビショビショで、昔の干からびた感じとは違った感じで苦しんでいるみたいなので、お月様があんなんなら、もっと頑張らなきゃ、という気になりました。

前は、お月様は、歪んで干からびた黄色い痩せ細ったトカゲみたいにボロ雑巾で、もうすぐにでも死んじゃえば幸せだねと思ってたのですが、梅雨入りして以来、1000兆トンの高濃度放射能汚染水をぶっかけられたみたいにビチャビチャになっちゃって全然干からびた感じが無くなっちゃって、可哀想で可哀想で、いっそ、夜を爆破して楽をしてしまおうか、なんて考えただけで、お月様のバチが当たりそうで、なおさら頑張って拭きました。

ボロ!ボロ!ボロボロぞうきん!ボロぞうきん!
ああ!ボロぞうきん!ボロぞうきんに包まれて死にたいんじゃないんだよ!

ああ!ボロボロ、ボロボロ!ボロぞうきん!
ボロボロボレロを聴きながら!干からびたボロぞうきんになって死にたいの!

あれは夢かなあ、それとも今が夢なのかなぁ。

何日も続いた放射能豪雨が、やっと止みました。

まだ夕暮れ前で、廃棄施設からかっぱらってきた食べられない放射性物質たっぷりのお魚を沢山食べた後でしたので、お腹いっぱいで、する事もなく腐った三疊間の万年床に寝転がってボケっとしてました。

放射能豪雨は昨日から止んでいるのですが、空はカラッと綺麗に晴れてくれるわけではなく、薄い灰色の曇りが世界を覆い尽くしていました。

寝転がってヒビだらけの天井からぶら下がった壊れた裸電球を眺めてると、異様な程、ムッとする空気を感じ三疊の部屋の中が湿気と暑さで、丸ごとメルトダウンしてしまいそうそうでしたので、

よっこらしょっと立ち上がり、何日も閉ざしていた部屋の窓を開けて、ひょこっと顔を出して外気を吸ったのでした。

心持ち、放射性物質の細かな苦い味を感じたけれども、そんなの気のせいで、外気は特に爽やかという訳でもなかったけれども、部屋の中の湿った空気よりは随分とマシかな?
と思いました。

しばらくそうして窓から顔を出して外気を吸っていると、隣りに住んでいる女の人が隣りの窓から同じようにひょこっと顔を出して外気を吸い始めました。

しばらく、その羨ましいくらい青白く干からびたボロ雑巾のような横顔にみとれてから、その隣の女の人の方に顔を向けて言いました。

「こんにちわ」

隣りの女の人は、こっちに顔を向けて軽く会釈をして挨拶を返しますと、

もも組」の頃の、大昔の夜を飾ってた、物凄くでっかくて、まっ黄色に眩しく輝いていた、失われた満月みたいに、大きくまわるく口を開けて、笑いながら言いました。

「まあ!干からびたボロぞうきん!」


ボロ!ボロ!ボロボロぞうきん!ボロぞうきん!
ああ!ボロぞうきん!ボロぞうきんに包まれて死にたいんじゃないんだよ!

ああ!ボロボロ、ボロボロ!ボロぞうきん!
ボロボロボレロを聴きながら!干からびたボロぞうきんになって死にたいの!

あれは夢かなあ、それとも今が夢なのかなぁ。

隣のボロ雑巾のような女の人に太鼓判を押されましたので、なぁんだ、ボロボロだけど、あの映画のシーンみたいに干からびたイメージじゃないなぁと思っていたのだけれども、この梅雨の合間の曇りのせいか、はたまた、もっとずっと前からか、湿ってると思い込んでいただけで、とにかく、干からびたボロ雑巾に、ちゃんとなっていたんだ。

それじゃぁ、夢が叶いそうなのです。

じゃ、そーいう事で。

腐った三疊間のジメジメした万年床にボロぞうきんになって寝っ転がりました。

ある日、見捨てられたアパートの三疊間の万年布団の上で、死んでいました。

まるで、それは、干からびたボロぞうきん でした。


もう、夜拭きの仕事は交代です。

やる気のある人がいれば、の話ですが。

ボロぞうきんの夢は叶って幸せに死に、隣の部屋から、弔いと祝福の意味を込めて、女の人が口ずさんでいます。

死んだボロぞうきんは、それを聞いて幸せいっぱいで、涙をじゃぶじゃぶ流しました。

♪たぁ~ らららら~ たぁ~ らららら~ ら~らららら~ ら~ら ♪


ボロ!ボロ!ボロボロぞうきん!ボロぞうきん!
ああ!ボロぞうきん!ボロぞうきんに包まれて死にたいんじゃないんだよ!

ああ!ボロボロ、ボロボロ!ボロぞうきん!
ボロボロボレロを聴きながら!干からびたボロぞうきんになって死にたいの!

望み、叶ったけど、やっぱり何もかも夢だったのかなぁ。





                   終


This novel was written by kipple
(これは小説なり。フィクションなり。妄想なり。)



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