日付はいらぬ。思い浮かんだ事を全て書け。
そして、その女は、俺のレコード板をフライパンがわりにして目玉焼きを焼いた。(俺は、あとで、それはいとこのイワコちゃんだと、決めつけた。)彼女は身体を黄金色に輝かせて部屋を出て行った。 俺は目覚めると、さっそくレコード板に針を落とした。ハリは、レコード板を一気に駆け抜けて、空中へすっとんでしまった。俺は憤怒を覚えた。何故、俺は、こんな目にあわねばならんのだ。俺はイワコちゃんに何をしたというのだ。 俺は激しい孤独感に襲われた。 それから俺は寝間着のままで階段を駆け降りて、おかあさんに言いつけた。 「おかーさーん!イワコちゃんがねーーーーーっ!・・・・・・」 おかあさんは、どこにもいなかった。 フト窓外を見ると緑色の車がガレージから出てきた。おや?運転席には、イワコちゃんが乗っている。俺は焦った。車は遠ざかり、遠ざかり、すぐに緑の点になった。 俺は家の中にたった1人残されて、絶望感を感じていた。あたりが次第に赤く染まってきた。俺の目が充血しているのだ。赤い涙を流した。世界は血に染まっていた。決して夕暮れのドロドロじゅるじゅるの真っ赤な煮え立った太陽が染めているわけではなく、俺の目が充血して目玉に血のベールがかかっていたのだ。 俺は、ただ青い海と空とやわらかな風が欲しかった。
島の中央に小さな山があり、標高100mほどだ。山には横穴があって、俺は穴の動物たちをM1ライフルで掃射して、生活道具を中に運んだ。乗ってきたモーターボートからガソリンを抜き、それで火をつけて燃やし、二度と自分で島から出れぬようにした。さっぱりした。 生活して行くのは思ったより簡単だった。食い物は必要なだけ島の動物や魚をとって殺して食えばよかったし、涌き水も豊富にあった。元来、身体が丈夫なせいか怪我も病気も殆どしなかった。俺は昼間は島をぶらついて狩猟したり持って来た文学を読んだり(ゲーテやドフトエフスキーは何度読んでも飽きなかった)して過ごし、夜は穴で寝た。爽快そのものだった。何もかもが充実した。俺は生きてる。自分の力で生きている。全身が幸福感に満たされ、生命の輝きを身を持って知った。 俺は何度も山の頂きに勇者のようにしてサバイバルナイフを太陽に突き刺して凝立し、世界に向かって絶叫した。
ある日、どしゃぶりが続き熱を出した。熱はいっこうにおさまらず、たぶん俺は肺炎になった。俺は死ぬんだなと思った。俺は自分の力で生きてきた、毎日がぬるい平凡な他人どもとの生活になんか比較にならないほど充実した人生を送った。俺は偉い!偉大だ!! しかし死ぬ間際に俺の口から意外な言葉が飛び出した。 「おかーーーさーーんーーっ!僕ぅーーー!さびちーーーーいっーー!」 えーー?何てことだ!う・嘘だろーーー!そして俺の人生は終わった。 人生って!何だぁぁぁぁぁぁああああ~! |
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