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ただの、シナリオ的な、「ペルソナ乱舞」

2021-06-10 07:15:21 | 夢洪水(散文・詩・等)


ただの、シナリオ的な、
「ペルソナ乱舞」

 


 若い男がいる。名をロミと言う。彼は音楽家だ。彼はサックスを吹く。

 近頃、騒がしい音の渦の中で、女の声が聞こえる事がある。コンクリで固められた冷たい地下室で、蒼空の空気の下の空気の感触を求めて叫んでいる様な細い淋しげな声だ。

 彼は、女の顔を想像する。それはモノクロで仮面の様な顔だ。仮面というと無機質な印象だが、その女の仮面は人間の俗臭を取っ払った、例えば怪奇物の主人公、ドラキュラやマッドサイエンティストやサイコ野郎の、少々狂った潔癖さ、峻厳さにも似たようなものだ。

 又、それは実際、ロミ自身の俗臭を何か外部的な力によって削ぎ落として貰い、完全に透きとおりたいという、助力希求とも言えるかも知れない。

 女は彼自身の希求の声であって、又、無意識が作り出した理想の助力者の姿なのだ。

 
 夏の暑い日、ロミは暗いスタジオで演奏している。他にメンバーが5~6人。音は混沌としている。若者達の内包され、出口を知らない理想と、そのためのエネルギーの使い方が楽器を演奏するという行為によって、異なった方向に狂気のように噴出しているのだ。

 彼らは、それによって、大きな錯覚に落ち入っている。しかし、それが、単なる代理的行為だとは誰も考えない。彼らは陶酔する事によって内面の混沌を発露させ、一時の満悦を得ようと言うのか?

 サックスを吹くロミの回りから、突然、音の渦が耐え、例の女の声が聞こえてくる。

 ロミは、スタジオの外へ出る。暑い午後。彼は水を飲む。あたりには夏の攻撃的な光が満ちている。

 ほこり立つ地面から、湧き出したように、黒い不気味な生物が現れる。その生物は傲慢そうに男の前に立ち、命令するように言う。

「そんなオナニー楽器、壊しちまえよ。自分の骨を、しゃぶってるようなもんだぜ。」

 その生物は、くちゃくちゃ風船ガムを噛んでいる。

「なんだよ、君は。」

「へへ、俺はお前だよ。」

「・・・・・・・・・・」

「俺は、お前の事よく知ってるさ。お前は仮面になりたいんだ。だけど、お前である俺は仮面なんか、ぶっ壊すのさ。」

「何を言ってるんですか。」

「ひとつ教えてやろうと思ってな。お前の女は、お前に仮面なんかくれやしないよ。くれるのは、仮面の下だ。」

「俺の女ってのは、何の事だ?」

「お前は、今日、その女に会うんだよ。」

 その生物は風船ガムを膨らます。

 
 ロミは自分のアパートに帰る。アパートの戸を開くと部屋の中で、自分が笑って振り向いた。

 ロミは、ドアを閉め、再び、外へ出る。

 
 ロミは喫茶店で、ガラス窓ごしに外景を見つめている。白く光る歩道。街路樹が立っている。そこに女がいた。

 彼女は、歩いていた。彼女は、しゃがんだ。そして空を仰ぎ、ロミの方を見た。ロミの回りから再び音声がとぎえ、女の声が聞こえてくる。グラスを通して、彼女が見えた。

 
 鋭い斜陽が電車の中に差し込んでくる。ドアを挟んで、ロミと女が手摺りにもたれて、窓外を見ている。

ロミ「ねぇ、俺と、どこか遠くに行かないか。」

女「私と?」

ロミ「僕は君を知っている。君は僕の中で、よく声を出す。」

女「どこへ行くの?」

ロミ「遠くだ。」

 
 プラットフォームにしゃがむロミと女。夕陽が反射するビルが眩しい。女はマッチに火をつける。ロミは煙草を吸う。女は、火を見る。火は街と重なる。

女「内蔵が燃えるわ。」

ロミ「どういう事?」

女「別に意味はないのよ。ただ、そんな街なのよ。」

 
女「私、近頃、変な夢を見るの。」

ロミ「どんな夢?」

女「私は雑草の高くのびた土道を、歩いているの。空が、じわじわ降りてきて、私は急ごうとして、身体を動かすの。すると後ろから声がするの。」

ロミ「どんな声?」

女「話し声よ。ボソボソと、そして、いきりたったような。そして私が振り向くと、あなたが2人、にっこり笑って立ってるのよ。」

 
 ロミと女はラブホテルに入る。広い部屋の中で、ロミは女を吸いとるように抱く。時間が過ぎ、眠っている女の手を男は握ろうとする。すると女は手を返し、金を要求する。

 ロミは、しばし呆然とするが、黙って金を払い、ホテルを出る。女を残して。

 
 ロミと、さっきの生物が向かい合っている。

ロミ「俺は、お前の正体がわかる。」

 生物は、黒い布を取り、もう一人のロミ自身となって現れる。

もう一人のロミ「そうさ、お前も自分の正体が分かっただろ。女を抱いて代償に金を払うのさ。それで、いいのさ。」

ロミ「それは、お前の姿だ!俺は違う。」

もう一人のロミ「ふん、分からない奴だな。お前が、いくら仮面であろうとしても、その下には、ちゃんと肉欲と打算が渦巻いているのさ。」

ロミ「それは、お前のせいだ。」

 もう一人のロミは、ロミに風船ガムを、ぶつける。ガムはロミの顔で弾ける。2人は、しばしの間、殴り合う。

 殴り合ううちに、画面は白くなり、白に様々な色が飛び散り、薄く白くフェードアウトして、後、顔全体に白いパックをし、ところどころ極彩の色が飛び散ったロミの顔が現れる。

 仮面と化したロミの顔だ。闘争は仮面の勝利に終わったのだ。

 
 ロミがサックスを一人で吹いていると、女が来る。隣に座し、誘惑する。ロミは動じず、吹き続ける。女はロミのパックを、ぴりぴりと剥がしてゆく。

女「私、ずっと前に、これと全く同じ行為をしたような気がするわ。同じ人が、いつの世にもいるのよ。」

 女はロミのパックを、半分以上、引き剥がす。

女「私が金を要求したのは、あなたのせいよ。あなたの。」

ロミ「死のうか。」

女「死にましょう。」

 
 ロミと女が首をくくる。ロミと女が、ぶら下がった間から、遠くの道が見える。そこを、ロミと女が、すれ違っている。

女「ほら、同じ人は、いつの世にもいるのよ。私もあなたも。」

ロミ「そうだね。」




 




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