木の実幼稚園のゆかいな仲間たち

愛媛県松山市にある『木の実幼稚園』の先生たちによるBlog

大寒マラソン大会

2020-01-21 11:06:30 | Weblog

2020.01.20


先週開催された2度にわたる練習会と比べ

風が強く

コースの半分を向かい風の中で走らなければならない大会になりました。



3年間 マラソン活動を続けてきた年長児たちの最後のレースは

どのように幕を閉じたのでしょうか。

今年も この春卒園する年長児にフォーカスして

その様子を記録に残しておきたいと思います。



スタートのピストル音が乾いた寒風を割いた瞬間、

寒さで縮こまった体にため込んでいたエネルギーを

一気に放出するかのように

子どもたちが加速します。


西門を通過した子どもたちが

練習会でも見せた速さで最初の直線を走り切り

そこから左に旋回して最初の坂を一気に駆け上がります。


坂の後に現れる直線コースに入った直後

ペースが ストン と落ち、

隊列がゆるやかに間延びしていきます。


「(息切れした??)」 と

何度も振り返ってはみたものの

高速で進んだ序盤のダメージが出たわけではなく

自分でギアを落としてペースを配分したのだと言いたげなくらい

子どもたちは余裕がある表情を見せていました。


「さすが 3年目」と感心しながら

こちらもペースダウン。



このあたりで、いつもと違う異変を感じます。

2回目の練習会で2位に入り、

優勝候補の1人と目されていた子が

うまく視界にとらえられません。

一方、先頭の子の直後には

2回目の練習会でいずれも3位に入ってきていた子が

静かに追走しています。



最初の折り返しの橋を旋回する頃

隊列のほぼ全景を確認できました。

ペースが安定し それぞれが息を整えていますが

駆け引きのタイミングを待っているかのように

子どもたちは表情を崩さず走り続けています。


長い直線を終えて2週目に向かう橋を右に旋回したあたりで

スッと ペースが上がります。

それに合わせ、一人一人の間隔がわずかに広がり始めます。


序盤の高速ペースの次の駆け引きが

2週目に入ったあたりにやってきました。


それでも ペースをわずかに上げ始めた先頭の子は

淡々とした表情で進み続けます。

2回の練習会で圧倒的な差をつけて自信をもっていたのか、

「このレースのペースは 自分次第だ」 と言わんばかりの余裕を感じます。

事実、あとを追う子どもたちとの差は

ほとんど一定に保たれたままレースが進んでいます。



2回目の折り返しの橋を渡り終えて右に旋回し

再び長い直線を迎えたあたりから

子どもたちの息があがり始めます。

川の対岸を走る子どもたちも

徐々に顎があがり始め

手の振りが弱まり始めています。


長い直線の最中 何度も振り返りますが、

あまり大きな変化は生じていません。

1回目 2回目の練習会において

明らかな差をつけて立て続けに優勝したトップランナーの子が

本番でも見事にそれを再現するかに思えたその先に

別のストーリーが待っていました。



長い直線を終えて園に向かうため

最後の橋を右に旋回して下り坂を迎えようとするあたりです。



「とうじ、つけっ!」



差が開きすぎないようにと

細心の注意を払いながらここまで追走してきた2番手の男の子の耳に

父親の声が届きます。


直後に ドンッ と加速して

下り坂を終えたあたりで

トップランナーを抜いたのです。



そうなんです。


彼の耳に届いた 「つけっ!」 という父親の声援は


「チャンピオンを捕まえろ」


という意味だったのです。



そこから最後の数十メートルで何度もひじをぶつけ合った二人が

ゴールに向かう最後の急旋回を終えた時、

先頭に立っていたのは

優勝候補の たいすけくん でした。

チャンピオンが

挑んできたライバルを抜き返し、

そして退けた瞬間でした。


1,000m 強を走って、

その差、わずか数メートル。

それほどの激戦だったのです。



2回の練習会のレース終盤で

1度も先頭を譲ったことの無かった たいすけくん にとって

ゴール目前で自分より前を走った とうじくん の存在は

驚きであったことでしょう。


それでも落ち着いて即座に反応し

再び抜き返すだけの力を

彼は人知れず

身につけていたのでした。


2回目の練習会の後、

密かに彼に聞いたことがあります。

「練習、がんばってたの?」

「家から幼稚園まで走ってきて、

 帰りも走って帰ったりしとった。

 ...何回もやったよ。」



彼の家と園との間には、

マラソンコースの何倍もの距離があるのです。

幼児が走るには驚くほど長い距離です。



ゴールした子どもたちが

次々とスタート地点付近のウッドデッキに戻ってきました。

順位がかかれたカードを小さなその手で握りしめ

それぞれ違った表情を見せています。


女子最速の双璧 あやちゃん ひいろちゃん が、

ほんの少し浮かない表情を浮かべています。

練習で一度も転倒したことの無かった あやちゃん が、

大会のレースの途中で転倒していたのでした。


それでも10位以内でゴールしたところを見ると

倒れてなお

直ぐに立ち上がり

アクシデントに負けずに走り続けたのでしょう。


ゴールした彼女を気遣うように

すぐ傍で寄り添う ひいろちゃん が、

レースの中でも支えになっていたのかもしれません。



序盤で異変を感じた かいとくん が、

5位に入賞しています。

しかし彼は目を覆うようなしぐさの中で

うっすらと目に涙を浮かべ

悔しさが表にあふれ出ています。

彼にもまた、目指していたことがあったはずです。

それとは違う結果を、

今ちょうど

彼は消化している最中なのでしょう。



今年度最強の たいすけくん を追い詰め

2位に入った とうじくん。

2回目の練習会で3位に入ったあとに

結果に納得いかず

一人 クラスの友だちから離れ

憮然とした顔で遠くを見つめながらしばらく座り込んでいた彼が、

今日は満ち足りた表情をしています。

今の自分が持ち得る限りの力を出し尽くした時、

子どもは こんな表情を見せるのかもしれません。




今、教育の世界では

順位がつく競争を

なるべく避けた方が良いのではと考える傾向が多少あります。

行き過ぎた競争の中で子どもの心に生じるダメージを回避すべく、

大勢の教育関係者が悩んでいるからです。


しかし、明快な競争の機会を無くしてはならないことも、

我々大人は直感しています。



誰かに勝つためだけの競争ではなく、

自分を成長させ、

周りの人の存在や心にも

思いを馳せることができるようになるために、

明快な競争(勝負)という機会が必要だということを

我々は直感しているのです。



何故なら、ライバルの存在が

自分をもう一回り成長させてくれることがあるから。

そして、それに気づくことができた時

人は競争相手の存在に

敬意(リスペクト)を払うことができるようになるから。



学年だよりに書かれてある

マラソン大会にかかわる教員の願いこそが

学校が大切にしていることです。



マラソンには、

順位よりも大切なことがあるのです。

がんばろうとする自分

負けそうになる自分

そんな自分と、じっと向き合うこと。


そのような日々の中で

しんどさ
くやしさ
満足感
達成感
安心感
友情
敬意

そして、自信。


心の中で芽生え

少しずつ積み重なっていくいくつもの感情と

向き合い続けること。

そうして、心が成長していくことが

幼児期の教育活動の核心であることを。




たいすけくん

いつか思い出してください。

君が再び

しんどいことと向き合わなければならなくなった時、

もっと小さかった自分が

くじけなかったことを。



そしてまた

やがて大きくなって

お母さんのことを嫌いになる出来事や時期があった時(笑)、

どうか、

思い出してください。



君が幼い頃に毎日走っていたすぐ横を

君のお母さんが自転車で走っていたことを。


小さかった君が

お母さんと3年かけて優勝をつかみ取った

2020年1月20日のことを。




マラソン大会 完



  



(追伸)
マラソン大会は公道を使用するため、所轄の松山西警察署より道路使用許可を
頂き実施しております。 その為、子どもたちや保護者はもとより、近隣住民の
方々の安全にも配慮した運営が行われなければなりません。

寒い中、練習会を含め数日にわたって安全な大会運営にご協力を頂いた体育部を
はじめとした保護者皆様へ、この場をお借りして御礼申し上げます。

教職員一同

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