木の実幼稚園のゆかいな仲間たち

愛媛県松山市にある『木の実幼稚園』の先生たちによるBlog

大寒マラソン大会

2019-01-18 18:20:02 | Weblog
晴天にして無風。

昨年に続く絶好のコンディションでこの日を迎えました。


年が明けて平成31年を迎え、

今年の5月に改元されるため いま世の中では

「平成最後の」という言葉が飛び交っています。

そしてこのマラソン大会も「平成最後のマラソン大会」となり、

1976年の開学当時より42年にわたる伝統のマラソン大会は、

ついに「昭和」「平成」「(新元号)」の三時代をまたぐ伝統となります。


そして、平成最後の大勝負。

今年はどんなドラマがあったのでしょうか・・・。



今年もまた この春に卒園を控える年長さんのお話です。

スタートラインに片足を乗せた子どもたちが

ピストルの合図に反応し

まっすぐに前を見据えたまま 園の西門に向かって駆け出しました。

門を出て右に急旋回したら そこから公道でのレースです。


この時のスピードがレース中において最も早く

先導する私が 子どもたちの足音に急かされるほど

抜群のスピードで序盤を駆け抜けていきます。


そして 少しずつ全体の隊列が伸びながら

先頭集団ができていきます。

そうなんです、100人以上がいっせいに走るので

この序盤で位置取りに失敗すると、

取り返しのつかない差になるのです。



西門を出たあとの公道の直線を終えたら

今度は左に旋回して少しの上り坂を迎えます。

園庭と公道の直線を最高スピードで走り抜けた直後のこの坂で、

一度 一気にスピードが落ちます。



・・・そのはずだったのですが、

何年にもわたり先導していて「初めてのこと」が起こりました。

坂を上り終えたあとの川沿いの直線に出ても

一向にスピードが落ち切らず、

飛ぶようなスピードを保ったまま走り続けるランナーがいました。


本大会前の二度の練習会でいずれも優勝し、

平成最後の大会における優勝候補筆頭の男児でした。



コース一週目の川沿いの直線は

先頭集団がある程度固まった状態で息を整えるのですが、

この男児のスピードに引っ張られるように他の子が食らいつこうと追走します。

息を整えるチャンスを失った先頭集団の十数名の子どもたちの息が全く整わず、

先頭を走る男児を含め、

これまで聞いたことの無いような荒い息づかいが続きます。



( 「これはすぐにパンクするぞ・・・」 )と思い、

頻繁に後ろを振り返って

先導の自分とトップランナーの距離が開きすぎないよう

注意を払いながら走りました。


案の定、川沿いの直線をUターンで折り返した戻りの直線で、

先頭集団が崩壊し始めていました。


例年、一周目は程よい塊の集団が見て取れるのですが

今年に限っては「集団」が消失し、

一人ひとりの間に差がある「隊列」のような姿に変化していました。


結果的に、タイム計測が始まってからの歴代最高タイムとなるこのレースの

「超ハイペース」が既に始まっていたのでした。


トップ10入りを狙う多くの子どもたちは

かき乱されたペースの中でなんとか自分のペースを整えようとしていました。

しかし、先頭の男児だけは一向にスピードが落ちません。

そして、これまで見たことも無い単独飛行が始まりました。



この男児、

どうしても倒さなければならないライバルがいました。

昨年度の年中の時の本大会で、

大会運営の園側のゴールの設営ミスが原因で「同着一位」という、

子どもにはなんともモヤモヤした気持ちになるであろう結果となり、

一位を分け合ったライバルがいたのでした。

逆に言えば、それほど接戦を演じた強力なライバルが

彼にはいたのでした。


その上その最大のライバルは、

昨年秋の運動会のクラス対抗リレーで

優勝チーム(ふじ組)の一員として陸の王者になっていたのでした。


「陸の悔しさを 陸で返す」

彼にしてみればこのレース

それを成し得る卒園前の最後のチャンスだったのです。



ところが、ここまでのレースの最中に

思いもよらないトラブルが発生していました。


一周目を終えて二週目に入る橋をU字に旋回するあたりで、

何度振り帰ってもその最大のライバルの姿が視界に入ってきません。

もっと言うと、レースが公道に入ったときから一度も彼の姿がありません。


( 「これは何か起こったぞ・・・」 )と思ったのですが、

走りっぱなしのマラソンなので全く理由を把握できません。


本大会は、必ず何かが起こりますが

今年度は、最大のライバルにそれが起こってしまったのでした。



レースは続きます。

もう一つの橋でU字旋回を終えて二週目に入っても、

先頭の男児の単独飛行は続きます。

しかし、ちょっとした変化が起こっていました。


一周目に開き続けていた子どもたち同士の距離が

それまでほど開き続けなくなっていました。


二度の練習会でトップ10前後に位置していた子どもたちが

ようやく自分のペースを整えて、

これ以上離されない安定したスピードで追走を開始していたのです。



川の対岸を走る子どもたちの表情や様子を横目にチラッと眺めてみると

それぞれ前を向いて腕を振り 足をあげ

体を揺らしながら進み続けていました。


なんと言うか・・・

ここは想像の範囲なのですが、

スタート直後の位置取りはどうしたって「遅れてなるものか」と

周りを意識した走りにならざるを得ないのですが、

レース中盤に入ると「自分」を取り戻せます。

今の状態はどうか、

果たして最後までもつのだろうか、

これ以上今のスピードでは走れないかもしれない、

でも、○位に入りたい

できたら○位までには入りたい


子どもたちには

きっとこれまでの練習や練習会を通じて

「自分の目標」が芽生えていて

今日を迎えられているように思います。



レースの話に戻りましょう。


レースは二周目に入り、

安定したスピードの中で静かにレースが続いています。

しかし、静かに思えるレースのいたるところで

ちょっと抜いたり 抜き返したり、

子どもたち同士の中で競り合いが起こっています。


二週目も後半になると、さすがにしんどいはずです。

大人が10~15分かけて歩く距離を

わずか数分で幼児が走りきるのです。

しんどくないわけが、ないのです。



いよいよレース終盤、

最後の橋を右に旋回し

公道の直線を終えた先に

園の西門が見えてきます。


最後の橋を渡り始めた瞬間、

このレース

トップランナーであり続けた男児の耳に

父親の声が届きます。


「ゆーしーん! ここでスピード上げろー!」



毎年なんです。

子どもというものは、

一番しんどくなった時、

親の声という魔法で

その小さな体にわずかに残った最後の力を

完全燃焼させることができるのです。



「ハートの点火、今年も成功」



最も苦しい終盤、

2位との距離がありながら

彼の体が反応し始めました。


と同時に、

「(先導が抜かれるわけにはいかない)」と

彼のほんの少しだけ先を行く私の方が

先に息切れするかもしれないと思い始めました。



そして

園の西門が迫ってきたとき

このレース最大の驚きが待っていました。


なんと 彼の足は二段ロケットでした。

公道の直線の最後あたりで もう一度点火し

更に一段スピードを上げたのでした。


私の気づかないわずかな瞬間に

彼がスッと私の横に並び

次の数歩で私の前に出たとき、

私はついていけませんでした。



左に急旋回して西門を通過し、

私の目線の先で彼がゴールテープを切った瞬間

園史に残るであろう「歴代最高タイム」が生まれたのでした。



昨年の年中のレースの時からちょうど365日目。

一年がかりの彼のチャレンジが

ここに完遂したのでした。



さて 次々と子どもたちが幼稚園に帰ってきます。

練習会を通してライバルの出現を感じ、

意識し合い、成長しあった子どもたちが

本大会のゴールに戻ってきます。


この活動を終えると毎年思うことがあるのですが、

自分を成長させてくれる存在の出現は

自分を成長させてくれる友だちの出現は

人生の財産だと。


マラソンは

自分ひとりの力に頼るところが大きく、

誰かが代わりに走ってくれることはなく、

誰かと分担して走れるわけでもなく、

転ぼうが、涙がこぼれようが、

最後まで自分の力でしか進み続けることができません。


そして、判定でも審査でもなく

ゴールに辿り着いた順という

覆ることのない単純明快な答えが存在します。


これから子どもたちが成長するにつれ、

勉学における点数、スポーツにおけるタイム等

こういう明快な順位の存在する出来事に参加し、

大人になるまでに様々なことを味わっていくことでしょう。



そんな中、順位も大切ながら

同じくらい大切なことが、

自分の目標を見つけること。

そして、自分なりのチャレンジを試みること。


誰かに言われてするのではなく、

自ら考え、

自らチャレンジし、

その結果を吸収しながら

次の目標、そして夢を描く力を備えていくことです。



今日のトップランナーを育てたのは、

それができた自分。

そしておそらくは、

彼の周りでライバルが出現したこと。


人とのかかわりが人を育てるという真実を

小さな子どもたちが教えてくれます。




ゆうしん君の最大のライバルと目されていた たくみ君。

彼はどうも、一周目のかなり早い段階で転倒していました。

レース序盤は格段にペースが速く、

序盤の転倒で どうしようもない差ができたことでしょう。

大勢の友だちが自分の前を走っていたことでしょう。

しかし、彼は追走し

順位を上げて7位でゴールしていました。


いろいろなことができる彼は

クラスのスーパースター的存在だったそうです。

自然と注目をされ、当たり前のように周りから認められ

成長するにつれて自分で意識しないうちに

少し鼻高々とした気分が生まれつつあったそうです。


しかしここへきて 二度の練習会で立て続けに敗れ

挽回を期した本番で

おそらくは自分には起こるとも思ってもいなかったトラブルが生じました。


たくみ君、

勝って得るのが結果と自信、

負けて得るのが成長の糧。


ただ、本当に成長の糧にするため必要なことは、

負けたことをそっくりそのまま消化することのできる素直な心。

そして

次になにをがんばるか自分で探し求めることのできる力。


君の先生は知っています。

君が背中に背負えていたであろう

陸の王者の看板をひきずり降ろされてなお、

自ら次のチャレンジを探し出せることを。



もうすぐ春が来て

君は小学生になります。

先生たちが君を導くことは、そろそろ終わりがきます。


ここから先は、自分で考えよう。

そこからが本当のチャレンジです。


これからも 君にいい出会いがありますように。

そして、君の周りに居る友だちにとって

君こそが「いい出会いの人」となりますように。



  


(平成30年度 第42回マラソン大会 完)


追伸:

毎年教育活動の安全確保にご協力頂いております保護者の皆様

おかげさまで今年も大会を開催できました。

この場をお借りし、教職員一同よりお礼申し上げます。

ありがとうございました。