木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

急所第一問における処分審査

2012-04-25 10:17:13 | Q&A 急所演習編
今日は処分審査の使い方についてのご質問を紹介します。

ここからのお話は、基本的に防御権に限定されたお話です。
(郵便法の話も少ししますが)
ちょっと整理しときましょう。

<司法試験は二段階審査が原則らしい>

過去の司法試験の出題趣旨を見ていると
事案の検討は、二段階審査(法文違憲審査→処分審査)を想定しています。

ただ、二段階審査の一段階目は、書くまでもなく明らかな場合は、
いきなり処分審査をやってしまうことでもよいようですね。

この司法試験的いきなり処分審査は、言ってみれば
法文違憲審査を「暗算」で済ませて、いちいち途中式書かないようなもんです。


<判例は処分審査が原則>

他方、過去の最高裁判例は、
処分審査を原則としていますが(立川ビラ判決では、住居侵入全体の審査をしたりしない)、
次の二つの場合には、法令審査(法令の全体審査)をしています。

<最高裁の法令審査1>

法令審査をする場合の第一は、
その法令の想定されるもろもろの適用例の間で、
憲法判断に影響を与える要素がない、と判断できる場合。
(適用範囲が限定されている場合)

例えば、猿払上告審は、公務員の政治活動は、
どのような態様で行われても、同じ程度に悪質で、
現業非現業、勤務時間の内外を問わず、
憲法上同じように評価できる、と考えているので、法令全体審査をしています。
また、薬事法違憲判決も、このタイプの法令全体審査です。

この第一の法令審査は、問題の処分と他の適用例が大差がない場合の審査であり、
処分審査とやっていることは変わらないのです。
ただ単に、その処分を審査することと、その全適用例を審査することで
やることが変わらない、という場合の審査ですから。

<最高裁の法令審査2>

法令審査をする場合の第二は、
その事案の解決とは別に、
明確に適用範囲を示したいと考えた場合(徳島市公安条例でだ行進以外の事案を検討、など)ですね。


このタイプの法令審査というのは、
裁判所が、その事案とはなれて、実務にメッセージを発信したいときに使うものなので、
さしあたり、実務へのメッセージが要求されない司法試験では
あまり使われない(要求されない)審査方法だと言えそうです。

ではでは、次のご質問とあわせて、復習してみてください。



急所第1問について (satoimomoko)
2012-01-13 15:39:26
木村先生こんにちは。satoimomokoと申します。
急所第1問に関連して質問が2つあります。

質問1
急所69頁6行目「本件職務命令について処分審査をした上で、」の「処分審査」は、本ブログ記事「処分審査の概念(まとめ)」の処分審査1という意味だと理解しているのですが、この場合に審査している部分は、職務命令の根拠法たる地方公務員法32条(以下、地公法)のうち、当該職務命令を基礎付けている部分ということでしょうか。

質問2
急所31頁の「処分審査」と、33頁の「二段階審査」の使い分け方がよくわかりません。
急所第1問の場合は、地公法32条全体に疑義はないから、「処分審査」を使っているということなのでしょうか。

お時間ありましたらご回答よろしくお願いいたします。



>satoimomokoさま
質問1については、その通りです。

質問2ですが、
法令全体に疑義がない、とは、
その法令に合憲部分があることは明らか
(という法文違憲審査を即座にでき、またしたこと)
あるいは、
法令のその他の部分が、その事案との関連が薄く
そうした部分について疑義を検討する意義のない場合
ということになるでしょう。

処分審査は、こういう場合に行います。

ご回答ありがとうございました (satoimomoko)
2012-01-13 19:50:07
木村先生

早速のご回答ありがとうございました。とてもすっきりしました。
佐渡先生やたけるんさんの一連の記事と今回の先生のご回答で、処分審査についてやっと自分なりに理解できてきたような気がしています。

佐渡先生対策講座もとても楽しみです!

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8 コメント

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はじめまして (さすらいのロー生)
2012-04-26 13:43:54
地公法32条は、職務命令違反の場合にとりうる処分の根拠となる規範であり、職務命令自体の根拠ではないのではないでしょうか。
返信する
>さすらいさま (kimkimlr)
2012-04-26 15:33:42
ご質問の趣旨がよくわからないのですが
何をききたいのですか?
返信する
不躾ですが (ビデオらーめん選手(プリティ芝))
2012-04-27 16:01:25
先生こんにちは。
わからないことがあるのでもしよろしければお聞きしたく存じます。
質問1
違法な行為は何らかの利益を不当に制約する行為であるがゆえに違法と評価されるものと考えられますが、その利益はU+2460自己の個人的利益、U+2461他人の個人的利益そしてU+2462公益の3種類しかありませんか。
質問2
そしてそうだとすれば、原告適格を基礎付けるのはU+2460の制約だけなのに違法主張はU+2460の制約だけでなくU+2462の制約についても認められ、U+2461の制約についてだけ認められないのはなぜですか。
質問3
また、表現の自由の制約に伴って制約される自己実現の利益はU+2460だと思うのですが自己統治の利益はU+2462でしょうか。
質問4
また、法令違憲の主張は、違憲立法禁止という公益保護規範に反する立法行為である旨の主張すなわちU+2462の不当な制約を主張するものなのでしょうか。仮に違憲立法行為がU+2460を制約するのであればそれだけで原告適格を基礎付ける気がするのですが。
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>プリティ芝さま (kimkimlr)
2012-04-27 16:15:00
御質問の趣旨が良く分かりませぬぬぬ。

とりあえず、
憲法判断の方法カテゴリーの記事を読んで頂ければ、整理できるかと思います。

もし疑問が残ったら教えてください。
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パターナリズムについて (朝倉)
2012-04-28 15:51:34
パターナリズムに基づく規制について教えてください。

パターナリズムに基づく規制は自己加害回避を目的とするものですが、権利制約の根拠として援用される場合、権利の重要性を低める要素として審査基準を緩めるものなのか、自己加害回避という対抗利益を基礎付けるものなのか、いずれと捉えるべきでしょうか??

自己加害行為の権利性が低いというのはそれこそお節介なので後者なのかな、と自分では思うのですが。
ただそう考えると21年の憲法の問題の反論があてはめについてすることになってしまいこれにも躊躇を覚えます。

どう考えるべきか御指南をお願いします。
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>朝倉さま (kimkimlr)
2012-04-28 21:42:17
パターナリズムによる規制だ、という主張は
制約によって得られる利益(立法目的)の存在を指摘するもので、
制約される権利の価値が低いとする根拠ではありません。

ただし
判断能力が未発達な未成年に対するパターナリズム規制の場合、
失われる権利の価値が低いと評価されます。
(判断能力が未発達なので、その人の価値判断に基づく自由を尊重すべき理由が弱い)。
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Unknown (ririrara)
2012-05-01 22:42:46
木村先生、はじめまして。

佐渡先生対策講座等の処分審査の記事を拝読させていただきました。
私は今まで条文の趣旨から文言の解釈を行って本件は要件にあたらないから違法、ひいては違憲などの<処分審査2>の方法を行っていたのでとても衝撃的でした。
(が、とても勉強になりました☆)

なので、まだ頭が混乱していて稚拙な質問をさせていただくことをお許しください。


①処分審査を書く際の目的手段審査の基準は論理必然的に法令審査の基準と一致するか。

原告の立場では原告の立てた法令審査の基準を使って(多くの場合)手段審査を判断することとなり、私見では、(場合によっては)修正した法令審査の基準を使って手段審査をするのか。


②H22本試験の生存権における処分審査についても目的手段審査を使うのか。

採点実感では「『居住地』『現在地』の文言お解釈適用(運用)が問題となっていることを意識し、……その解釈を検討することが求められる」

上記記述を前提とすると目的手段審査を予定していないように思えるのですが、それは社会権であるため自由権とは異なるということでしょうか?
司法試験で求められている処分審査においては必ず目的手段審査を用いるのでしょうか?

どうぞよろしくお願いします。
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>ririraraさま (kimkimlr)
2012-05-02 09:34:44
記事にしました。
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