木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

憲法判断の方法(11・完) 法律の根拠がないぞ

2011-07-13 20:25:03 | 憲法学 憲法判断の方法
さて、法律の根拠なき処分。

これには、
法律がやっちゃいかんぜよ、と言っているのにやっちゃった処分(違法処分)と
法律がやっていいぜよ、と言っていないのにやっちゃった処分(独立処分)の二つがありますね。

これが、法的にみるとどういうものなのか、説明しようとすると結構大変です。


段階をおっていきましょう。

第一に、国民の権利・利益の制約に関する事項は、
法律により決定すべき事項(法律事項)とされています。
 (されてますよね?)

第二に、法律事項について決定することを、
実質的意味の立法といいます。
 (そのはずです)

第三に、法律の根拠のある処分は、
法律の決定を、法律の定める要件・効果をもとに執行しているだけで、
別に、行政機関が、法律事項について決定しているわけではないです。
 (だから、べつにかまわんですね)

第四に、法律の根拠のない処分は、
処分によって、国民の権利・利益の制約をすべきだと決定しております。
 (行政機関の分際で・・・。)

第五に、そうすると、法律の根拠のない処分は、
処分によって、法律事項を決定する、実質的意味の立法にあたっています。
 (をを、なるほど)

と・い・う・こ・と・で、
法律の根拠なき処分とは、
行政機関の分際で、実質的意味の立法をしちゃっている処分ということになり、
憲法41条に違反します。


こうした「法律事項は、法律に留保されとるので、法律で決定せい」という原理は、

憲法学ですと、実質的意味の立法の国会独占(国会中心立法)の原則といい、

行政法学では、法律の留保の原理といいます。



そんなわけで、法律の根拠のない処分は、この原理に反し、憲法41条違反です。



では、憲法41条違反という事態は、どのような効果をもたらすでしょうか?

憲法98条は、この憲法に反する処分は無効だよ、と定めています。
なので、法律の根拠のない処分は、憲法41条違反ゆえに、98条が適用され、無効になる。
厳密にいうと、こういうことになります。

というわけで、PSPの没収は、こうした理由で、無効になります。
これで、ようやく事案が処理できました。
付随的審査制は大変です。



以上が、憲法判断の三段階になります。
(うーん、このネタで論文一本かけそうな気がする。)

ながながと書いてきましたが、皆様の参考にしていただければ、幸いです。ふぅ。

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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
モヤモヤが晴れてきました (おじ)
2011-07-13 21:39:08
すごく分かりやすいご説明、ありがとうございました。
昨夜にこちらのブログに辿り着き、一気に読んでしまいました。
続きはいつかなと思ってたところ、タイミングよく今夜アップされて、感激です。
一点だけ、ご教示頂きたく、コメ致します。
以下の理解で間違いないでしょうか。
①違憲審査基準を定立して行う目的手段審査は、先生のご説明の第一段階の第二:処分審査の段階で行う。このとき依拠するのは司法事実。
②第一:法令審査ではいわゆる文面審査を行い、立法事実に基づいて審査する。
本来は来週発売の御著書を待つべきなのでしょうが、既に生協で注文しましたので、ご寛恕頂ければと思います。

先生の他の記事も大変面白く読みました。
特に北海道の件、やはりフィールドワークも大事ですよね。
靖国判例も、例大祭や終戦記念日の様子を見たことがあるかないかで、読み方が変わるような気がします。
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>おじさま (kimkimlr)
2011-07-13 21:48:59
コメントありがとうございます。

うーん、本では、あまり書いていないことなので・・・。

新記事を参照してください!
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Unknown (ひとこぶらくだ)
2011-08-10 03:30:30
失礼します。
「急所」もブログの記事もすごくわかりやすいので、参考にさせてもらっています。
ありがとうございます。

ところで、この記事に関してですが、当該PSPの没収は41条に反し、無効と処理していますが、2年D組の掟の一部分は31条に反し、無効であるし、当該没収処分も31条に反し、無効という処理では間違っていますか?
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ひとこぶらくだ様 (kimkimlr)
2011-08-10 20:13:45
「わかりやすい」とのコメント、とてもうれしいです。
ありがとうございます。

ご指摘の通り、憲法31条の筋もあると思います。
詳細は、記事にいたしましたので、ご確認ください。
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