木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

文面審査とはなんですか?

2011-07-20 22:39:04 | Q&A 憲法判断の方法
さて、レポートの採点も一段落。

先日いただいておりました

「法令審査ではいわゆる文面審査を行い、立法事実に基づいて審査する」のですか?というご質問にお答えいたします。


ええ、文面審査とか、文面上審査とか呼ばれる審査ですが、
これ、いったい、どんな審査でしょう?

二つの事例を見てみましょう。

まず、第一事例。

 審査1 「校長室の前で不穏な集会したら停学3ヶ月」という校則を、
     暴力的な集会に適用したケースで。     

   < うーん、この校則、
     角棒もった暴力的集会に適用する場合は問題ないけど、
     学校運営に対する紳士的な抗議活動に適用すると違憲だよなぁ。
     だから、
     「不穏な集会」は、暴力的集会に限定解釈しよう。    >

 これ、明確性が問題になってる判例で、良く見ますな。


それから、次の例。

 審査2 「生徒会選挙の場合、生徒の家を戸別訪問したら被選挙権停止」
      という生徒会選挙規約を、
     「戸別訪問willkommen」って看板だしてる家だけ訪問した人に
      適用した事例について。

   前段
   < ええと、まず戸別訪問の禁止一般が違憲だといえるか、考えよう。
     そだな、戸別訪問の中には、
     夜間の訪問とか、授業サボっての訪問とか、
     規制されても文句言えない訪問も、たくさんあるから、
     戸別訪問の禁止一般が違憲で、この規約全体を無効ってのは無理だな。 >
             +
   後段
   < でも、戸別訪問OKっていってる家に訪問した事例まで処罰する必要
     ねえだろ。だから、この部分は違憲。              >

  これは、学生の答案でたくさん見ます。
  憲法の試験を受けた方であれば、書き覚えあるのではないでしょうか?


さて、普通、文面審査というと、
審査1の審査と、審査2の前段、両方のことを言うわけですが、
両者は、やってる審査の内容が違いますよね。

(私は、前者を法令審査、後者を法文違憲審査と呼んで区別しています。
 『憲法の急所』第二章第一節参照・・・。)

さて、

前者は、その法文が適用されうる全事例における処分を想定して、
    それぞれの処分について行う審査。
    (ちなみに、この前者の審査の後に、処分審査をするのは無意味です。
     なぜか?この点は『急所』第二章参照!)

後者は、「その法文全体が違憲か?」
    を問題にするもので、この問いにNoと答えるには、
    「少なくとも、合憲的な適用例が1つはある。」
    ということを論証すればOK。

    なので、普通は、いちばん合憲と言えそうな処分例を想定して、
    本当にそれが合憲かを審査します。
    これが、違憲なら、全ての処分例で違憲となるでしょう。


でもって、注意をしてほしいのは、どちらの審査も、
法令の文面そのものを審査しているのではなく、
法令の文面を見て、そこから適用例を想定し、

その適用例における
具体的処分(暴力的集会、紳士的集会、深夜の戸別訪問etc.)を審査している、
という点。

つまりですね、適用例の想定なしに、
法令の文面そのものの審査なんて、できんのですよ。

(まぁ、その法令の文面が差別用語満載で14条1項後段違反になるとか、
 バリバリの措置法律とか、
 極めて例外的なケースでは、文面そのものを審査できる可能性がありますが、、
 そんなケース、なかなかないですよね。)

(あ、ちなみに、文面審査の典型例とされる明確性の問題も、
 実は、文面だけからは審査できず、
 あくまで当該行為との関係で明確か、という形で問題になります。
 この点は、妄想族追放条例事件のメタスコ星人様の主張参照。)


というわけで、文面審査という言葉は、あまりよくない用語であり、
そういう言葉を使うと、議論が混乱して良くないと思います。

そこで、『憲法の急所』では、
法令のあらゆる適用例を審査する「法令審査」と、
法文に合憲的適用例が1例も存在しないかを審査する「法文違憲審査」という、
用語を使っています。

というわけで、法令審査では文面審査をする、というのはややミスリーディングで、
上のように整理していただければよろしいかと思います。

ではでは、ご理解の参考にしていただければ幸いです。






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6 コメント

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初めて書き込みさせていただきます。 (polly&the scandinavian)
2011-10-10 21:55:04
『憲法の急所』を読ませていただきました。とても感動しました。

質問をさせてください。
《司法試験出題趣旨で要求されている「法令違憲/適用違憲」を分ける主張枠組みは、間違っているのか》

『急所』P30以下を読み、そして上記文章によると、要するに司法試験憲法における「法令違憲主張と適用違憲主張」という分類はナンセンスだ、と言わざるを得ないと思います。

ところが、司法試験出題の趣旨では、初年度から「法令違憲主張と適用違憲主張を明確に分けること」を、要求しております。
これは、つまり「当該訴訟における原告にまつわる固有の事情を捨象して、根拠法令の合憲性を検討せよ(法令違憲)」ということだと思います。

木村先生の著作および上記文章からは、具体的事情に鑑みない違憲審査はありえない、とのお立場であるものと見受けられます。
木村先生に言わせると、新司法試験の出題趣旨はナンセンスということになるのでしょうか?
もし、そうだとするのならば、司法試験受験生はナンセンスな要求に我慢して付き合うしかないのでしょうか。

あるいは出題の趣旨が言わんとする「法令違憲/適用違憲」の概念について、私の理解に誤りがあるのでしょうか。


教えてください。
返信する
>polly&the scandinavianさま (kimkimlr)
2011-10-11 08:06:47
こんにちは。
どうもありがとうございます。

さて、出題趣旨との関係ですが、
法令違憲・適用違憲の二段階というのは、
私の枠組みで言うと
法文違憲審査・処分審査の二段階ということになります。

『急所』にも書きましたが、
法文自体が違憲になることを法令違憲、
特定の処分を基礎づける部分が違憲になることを適用違憲と
呼ぶこともあるので、
出題趣旨のいっているのは、
それを区別してね、ということだと思います。

というわけで、とりあえずの回答は
『急所』にも書いてある二段階審査をやるときは、
ちゃんと段階を区別しようね、
という程度のことを出題趣旨はいっているはずですよ、
ということになります。

疑問が残るようでしたら、また
ご質問ください
返信する
再質問です。 (polly&the scandinavian)
2011-10-11 10:43:10
お返事ありがとうございました。
まさかこんなに早くお返事をいただけるとは思いませんでした。

激しく感激しつつ、お返事を踏まえて、もう少し質問をさせてていただきます。

>法文自体が違憲になることを法令違憲、
特定の処分を基礎づける部分が違憲になることを適用違憲と
呼ぶこともあるので、
出題趣旨のいっているのは、
それを区別してね、ということだと思います。

やはりそういうことですよね。
では続けて・・・

木村先生は、『急所』P162におかれまして、「法文があらゆる行為との関係で不明確な場合には、法文自体が無効になります。」
そしてP36におかれまして 
「その法文を根拠として(適用して)行われるすべての処分が違憲である場合」を法文違憲である。

と述べられております。

法文違憲が、全適用事例において違憲性が認められる場合に行えるのだとしたら、そのような場合とは、①漠然不明確か過度に広範な規制に当る場合、か、②合憲限定解釈の余地がおよそありえない違憲丸出しの法令か、しかないと思います。
司法試験に出題された個別法に、②のような法令が出題されるとは想定できず、現にこれまでの出題においてもそのような法令は出題されていないものと思います。どの年度の法令も、合憲限定解釈を行う余地があるものと思います。

前置きが長くなりましたが、以上を前提とすると、
《およそ通りそうもない法文違憲の主張を、原告にさせることを要求することに、何の意味があるのか》
が、理解できません。
H23の出題趣旨には、
「憲法論として到底認められないような主張を書くのは全く不適切である。」
との指摘もありますし。。。



・・・
すみません。ここまで書いて、もう一度H18からH22までの新司法試験問題を読み直して気付いたことがあります。

H18(たばこ表現規制)も、H19(まちづくり条例)も、適用が想定できる事例(大前提-要件Aにあてはまるもの)は数多く想定できるが、効果(大前提-効果B)にあたるものは唯一のものに限定されている。
つまり、
H18で言えば「特別広告文を表示すること」であるし、H19で言えば「住民の過半数の同意を必要とすること」。

効果が唯一である以上、抽出できる法命題が「様々なケースがあろうとも(A)、特定広告文を表示しなければならない(B」と一つしかないから、全適用事例を想定できる。
したがって、かかる事態の違憲性を立法事実に照らして評価した結果、違憲であると判断された結論は、法文(法令)違憲である。
そして、このように、適用事例が唯一のものであるがゆえに、全適用事例を想定するために当該事例における司法事実をも考慮しなくとも、立法事実のみを考慮して判断できるから、その審査過程は法文違憲審査と呼ぶことができる。

以上要するに、
上段の質問において私が前提にしていた
>「…司法試験に出題された個別法に、②のような法令が出題されるとは想定できず、現にこれまでの出題においてもそのような法令は出題されていないものと思います。どの年度の法令も、合憲限定解釈を行う余地があるものと思います。」

の箇所が誤っている。
ということでよいのでしょうか。

もし、この理解が正しいのだとすれば、私の持つ疑問は解消されます。



…自分の疑問に引き付けるために、知らずにひとりよがりな文章になっているかもしれません。解りづらい個所があればご指摘ください。
返信する
>polly&the scandinavian (kimkimlr)
2011-10-11 12:53:59
こんにちは。ありがとうございます。
受験生としては大変切実なお悩みだと思います。

さて、確かに、これまでの新司法試験で登場した法令が、
「②違憲丸出し=全適用違憲」のものではないことが明か、
とまでいうことはできないでしょう。

警告文は、強制された言論
開発同意は、私有財産の他者の意思による制限
にあたり、
それぞれ極めて悪質な表現の自由、財産権に対する制限類型であり、
どのような事案であっても抑制されるべき類型だ、とされます。

なので、そのような制度を置くこと自体が問題になるものです。
出題委員は、そうした問題意識を持ってほしかった、といっているのだと思います。
返信する
解決しました。 (polly&the scandinavian)
2011-10-11 14:24:37
なるほど。
疑問は解決しました!!

木村先生、ありがとうございました。
これからも先生のブログに注目しています。
今後ともよろしくお願いいたします。

返信する
>polly&the scandinavianさま (kimkimlr)
2011-10-11 21:21:55
返信する

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