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木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

ご質問について

これまでに、たくさんのご質問、コメントを頂きました。まことにありがとうございます。 最近忙しく、なかなかお返事ができませんが、頂いたコメントは全て目を通しております。みなさまからいただくお便りのおかげで、楽しくブログライフさせて頂いております。これからもよろしくお願い致します。

佐渡先生対策講座(5・完)

2012-01-18 07:42:38 | Q&A 採点実感
さて、いろいろな解答をいただきました。

1 立法事実・司法事実と二段階審査

二段階審査Bの二段階目処分審査B、
『急所』では処分審査Bと書いたとこですが、
この問題の処分審査では、

「アカツキ住宅の共有ラウンジのような
 開放性の高い共有ラウンジの連続訪問による選挙運動を
 規制することの合憲性」

 が問われています。


ここで芦部先生の定義を思い出してください。
立法事実とは、「法令の合憲性を支える事実」です。

そして、この規制を合憲とするには、
<開放性のたかい住宅の共用ラウンジでは、贈収賄の恐れは高い>という
立法事実=合憲性を支える事実が必要です。

「開放性のたかい住宅の共用ラウンジでは、贈収賄の相談は極めて困難だ」
という事実の主張は、こうした立法事実の不在の主張になります。
(そういう意味で、「」内は、立法事実ですか司法事実ですか
 という問題は、よくない問い方でした。)

というわけで、少なくとも、「」を司法事実とした方は誤りで
立法事実、または立法事実の存在を否定する事実、と解答するのが正解です。

(なお、
 アカツキ住宅のような住宅が、日本に一つあるいは一群しかなかったとしても、
 「開放性の高い共有ラウンジの連続訪問による選挙運動は処罰すべきだ」
 というのは、一般的・抽象的法規範であり、
 「」内は個別の司法事実ではなく、それを抽象して得られたものです。)


憲法判断で、その有無が検討されるものは、
芦部先生の用語法に従う限り、
法令審査A・Bであれ、処分審査Bであれ、すべて、立法事実です。


処分審査Bで、どのような立法事実が必要かどうかを判断するのに
その処分の要素(司法事実)の参照が必要になるので、
処分審査Bでは、「司法事実を参照する」と言われますが、
これは、処分審査Bでは「立法事実の有無を検討しない」という意味ではないので
注意をしてください。

 *尚、芦部先生は、司法事実やや広めに定義しますが、
  厳密には、司法事実というのは要件事実のことを言います。
  そして、何が要件事実であるかは、
  憲法判断をして違憲部分を画定してみないと分からないので、
  そういう意味での要件事実は、処分審査Bでも参照しません。

第一問・正解
 平民Aさま、k.sさま、YSさま、しがないさま、jiroさま、monaさま
 になります。
 正解者の多くが、立法事実の不在の主張と指摘できている点、すばらしいです。はい。




さて、話はだいぶ整理されてきました。
二段階審査Bと言うのは、要するに、適用審査を二回やる審査です。
なので、処分審査Bでも
①権利保障の根拠・②保護範囲・③制約の認定
④違憲審査基準の設定・⑤目的審査・⑥手段審査
と全て、議論しなくてはなりません。

ただし、先行する法令審査Bと処分審査Bで問題になる権利が同じ場合、
①から④くらいまでは、同じになることが多く、
また、その法令を根拠にする限り、
⑤目的は共通なので、ここの審査もかぶることが多いわけです。
そうすると、手段審査だけをするようなことが多くなります。

というわけで、槇さんの答案が目的手段審査してないように見えるのは
目的審査が一段階目とかぶっているから、省略しているだけ
ということになります。

 正解は colさん、YSさん、しがないさん、monaさんです。
 Jiroさんは、目的審査だけをやりなおしているとのことですが、
 目的審査はかぶっているので、ちょっと違うということになるでしょう。


ここで重要な注意です。

まず、法令審査Bと処分審査Bでは、①から⑤までが被ることが多い、
というだけで、かぶらない場合は、処分審査Bで重複しないところから書く必要があります。

例えば、
法令審査Bを営業の自由の観点からやって、
処分審査Bで表現の自由を議論するような場合は、
後者で、①から書きなおし。
あるいは
典型的適用事例は内容中立規制なんだけど、
この事例は内容着目規制だ、という場合は、処分審査Bでは③か④から
書きなおしになります。


また、
普通、法令審査Bと処分審査Bでは、目的審査が重複しますので、
後者では、その事案は、目的との関連がない、必要性がないと言う議論をします。

ただ、処分審査Bでは、手段審査が共通しつつ、目的審査がずれることもあります。

たとえば、プライバシーに基づく差止請求の場合、
典型事例は、①塀越しに部屋を盗撮して公開すること、で、
今回事例は、②家の外観を撮影し表札部分を含めて公開した事例、だとします。

この場合、
プライバシー侵害を止めるのに差止め制度が、
目的に関連し必要(一度公開されると取り消せないのでLRAがない)だ、
という議論になることが多いですが、
①と②で手段審査は、ほぼ共通になります。

ただ、①と②では、
保護法益は、同じプライバシーに包摂される利益ですが、
その価値は大きく異なるでしょう。

この場合、それが表現の自由の価値を上回るだけの重要な利益かどうか、
という目的審査の内容が、かなり違ったものになる可能性が高いです。

こういうケースもしばしばあります。
そして、目的審査というのは、要するに、立法目的と制約される権利の価値の比較ですから
「処分審査Bは比較考量だ」という説明が流行することになります。


この説明は、概ね正しいのですが、正確には
「処分審査Bは、手段審査が法令審査Bと重複するため
 目的審査つまり目的と権利の価値の比較考量だけを書きなおすことが多い」

ということになります。

これで、二段階審査Bの内容が明確になりました。
ポイントをまとめると、

 法令審査Bとは、典型的適用例(を基礎づけている法令の部分)の憲法判断である。
 処分審査Bとは、当該適用例(を基礎づけている法令の部分)の憲法判断である。
 両方とも憲法判断なので、違憲審査基準を適用し目的手段審査をするが
 処分審査Bで法令審査Bと重複する項目はわざわざ書かない。


と、いうことになります。

また注意していただきたいのは、

 以上の審査方法は、防御権制約の合憲性を検討する方法にすぎず、
 請求権や明確性の判断は、別次元に存在する、ということです。


それでは、みなさん、話を採点実感に引き戻し
「佐渡先生のオフィスアワー(1)」でお会いいたしましょう。

佐渡先生対策講座(4)

2012-01-16 06:46:46 | Q&A 採点実感
練習問題 地域社会圏住宅での戸別訪問 有段者の解答例

一 表現の自由の制約の主張
 戸別訪問とは、選挙運動のために人の住居・店舗(戸)などを
 連続して(別)、訪問する事を言う。
 これは、投票を促す情報を伝達する行為であり、
 表現の自由(21条1項)として保護される行為である。

 表現の自由は、民主的政治過程を維持し、人々がそれぞれに持つ価値を
 実現するために極めて重要な権利である。
 さらに、選挙運動の規制は、表現内容に着目した規制であり、
 こうした規制は、偏見に基づき行使されやすい。
 よって、本件規制は、目的が重要で、また、
 その目的の達成に役立ち、かつ、同程度に実現し得るより制限的でない手段がない限り許されない。

二 法令違憲の審査
①戸別訪問規制に関する違憲審査基準
 これを戸別訪問の規制についてみると、
 規制の目的は、
 贈収賄を防止すること、
 訪問を受ける者の生活の平穏を維持すること、
 選挙運動が煩瑣となり経済力から生じる候補者間の不公平を防止すること、
 という三点だと解されており、判例もそのように理解している。
 これらの目的自体は、重要なものと言えよう。 

②原告の立場からのあてはめ
 過去の判例は、戸別訪問の禁止は、
 これらの目的達成のために関連性があり、必要でもあるため合憲とする。

 しかし、
 各国民は、公職の選挙にあたり合理的で構成な判断をすることがでいる理性的主体であり
 (だからこそ選挙権を付与されている)、
 戸別訪問を放任すれば贈収賄が蔓延するとの事実はない。

 また、セールス・布教活動など選挙運動以外の戸別訪問は日常的に行われており、
 選挙運動としての戸別訪問を許容したところで、
 ことさらに生活の平穏が害されることはない。

 さらに、経済力の不公平の防止は、選挙運動に利用できる資金の総額を規制すれば足り、
 第三の目的については、明らかにより制限的でない手段がある。

三 適用違憲の審査
③二に述べたように、
 経済力の不公平の防止は、選挙運動に利用できる資金の総額を規制すれば足り、
 この目的から規制を正当化することの不当性は明らかである。

 また、戸別訪問の規制が、第一・第二の目的達成に役立ち、
 公選法138条自体が違憲でないとしても、
 Yの行為を罰することは、憲法に反する。

 まず、アカツキ住宅は、外部に対して開放度が高い設計になっており、
 共有ラウンジでは、他の住民の視線もあるため、
 ここで贈収賄の相談・金銭授受を行うことは非常に困難である。

 また、アカツキ住宅の共用部では、
 日常的に、外部の者を含め、人々の交流が行われているのであり
 選挙運動としての訪問を許容することによる
 生活の平穏の侵害の程度は、通常の住宅と比べて、格段に低く無視できる。

 よって、アカツキ住宅のような開放性のたかい共用スペースがある場合に、
 その場所を連続して訪問する行為を処罰することは、違憲である。

四 無罪の主張
④このように、そもそも公選法138条は、それ自体違憲無効である。
⑤また、仮に、公選法138条が合憲だとしても、
 本件Yのような開放性の高い共用スペースを訪問することは処罰すべきではなく、
 公選法138条は、本件に適用される限りで違憲である。


まあ、だいたいこんな感じの解答例になるでしょうか。
司法試験クラブ24のレーティング2300の
槇真紀さん(古都大学京都ロースクール既習2年、
      得意戦法=ゴキゲン行政裁量、一日損訴因変更)
の解答例です。

 *「原告・被告人の主張を組み立てよ
   →反論想定しつつ私見を述べよ」という新司法試験型の問題形式ですが、
  最後に私見を書いて、請求を認容・棄却、被告人を有罪・無罪にする以上、
  原告ないし被告の立場と私見がかぶっちゃうよ、
  と思われる方、多いのではないでしょうか。

  これは、私なりのこの出題形式の理解ですが、
  原告・被告の主張反論ということを素直に読むと
  ここはかなり強く判例を意識して議論を組み立てろ、ということになります。

  実務家になって訴訟当事者の代理人をする場合、
  判例は、ほとんど動かし難い壁です。

  そこで、優秀な実務家は、
  自分に有利な過去の判例を引きつけ、
  不利な判例は射程を切り、と言う作業をします。

  司法試験の現場で、そんなことをするのはなかなか大変ですが、
  原告の主張のときには、とにかく判例を意識してみてください。
  そういう意味で、槇さんの答案は、戸別訪問の判例で挙げられた理由を
  良く意識できていると思います。

  そして判例から比較的自由に私見を述べるのが問2という割り振りを
  想定しているのではないか、というのが、私の理解です。
  ご参考までに。


さて、前回のコメント欄に寄せられた各氏の回答についてです。

>しがない大学生さんの回答ですが、
  概ね良いと思いますが、①や③の部分と処分審査の関係がよく分かりません。
  しかし、戸別訪問禁止の目的を抽出し、それとの関連で論証ができていて
  かなりしっかりした形になっています。

  山本先生、もちろん集合住宅も多数設計してます。
  (二段格)

 >七氏さま
  「うんたらかんたら」、と誤魔化してしまって、
  アカツキ住宅への訪問であるという点が、
  判例の言っている規制目的の認定を前提にすると
  被告人に有利になる、という構造が把握できていません。

  判例がどういう目的を認定しているのか、今一度把握してください。
  ところでそういうことでしたら3月に三田でお会いいたしましょう!
  (4級)    

 >YSさま
  法令審査までは、目的をしっかり認定してそれとの関係で審査ができていますが、
  処分審査で、アカツキ住宅の特性を生かし切れていないように思いました。
  また、法令審査のところで認定した目的が、処分審査のところで
  どう処理されているか、よく分からなかった点があります。
  (初段格)



さて、槇さんの解答例ですが、この②の箇所
いったいなにをやっているのでしょう?

「戸別訪問」の審査をしているので、まるで、
戸別訪問全般の審査をしているように見えます。

しかし、三でアカツキ住宅の審査をしていることからも明らかなように、
ここでは戸別訪問の全てではなく、一般的な態様の戸別訪問の審査をしているわけですね。

皆さんもこの答案の二の箇所を読むとき、
グレーグリーン(いわゆる団地緑)の扉が並ぶ「地元の団地」の中を
あるいはハウスメーカー各社が立てた戸建の並ぶ「閑静な住宅街」の中を
運動員の方がつぎつぎにピンポンしていく姿を
無意識に想像しながら読まれたのではないでしょうか?

(もし、ドラゴンリリーさんの家のような家が並ぶ地域を連続訪問している所を
 想像されたとしたら、その人はかなりのツワモノです。
 司法研修所よりも、Y-GSAに進学することをお勧めします。)

さて、みなさんが無意識に想像してしまった
「戸別訪問の絵」こそ、典型的適用例、ないし最も違憲の疑いの弱い適用例です。
こう考えてみると、私の言っていることって、
抽象的には聞きなれないけど、日常的に見聞きしているものだという気がしてきたのではないでしょうか。


さて、それに続く③のところが問題です。

適用違憲の主張って、こんな感じでしょ、という点に異論のある方はおりますか?
大丈夫ですか?大丈夫ですね。

ここでは、アカツキ住宅という色々な意味でヤバい住宅の特殊事情が主張されています。

これは、アカツキ住宅の訪問というのが、皆さんが②の部分を読みながら無意識に想像していた
「地元の団地の連続訪問」「閑静な住宅街の連続訪問」とは全然違う要素を
いろいろ含んでいるからです。

(ちなみに、仮に事案が、地元の団地の連続訪問だったら、
 ②だけで議論は終わりですね。
 これ、法令の全体審査(法令審査A)をしているようですが、
 実は、アカツキ住宅のような住宅の訪問考えてないから
 一種の処分審査・適用審査なのです。)

これが、典型的適用例とは区別された、処分審査の中で主張しなければならない
「原告固有の事情」なのです。


さて、ここで話は、一般用語に戻ります。
法令審査では立法事実、処分審査では司法事実。
良く効く言葉です。

ところで、③では
「開放性のたかい住宅の共用ラウンジでは、贈収賄の相談は極めて困難だ」
という事実の存在が主張されています。

本日の問題は、ココです。

WLS3年様が、立法事実の定義、挙げてくれました。

「立法目的および立法目的を達成する手段(規制手段)の合理性を裏づけ支える社会的・経済的・文化的な一般事実」
もう少し短く言うと
「法令の合憲性を支える事実」のことです。

対する司法事実は、『誰が,何を,いつ,どこで,いかに行ったか』という,当該事件に関する事実」ですね。

課題1
さて、この③で主張していることは、こういう意味での立法事実でしょうか?
それとも、司法事実でしょうか?(5分で2級)

課題2
も一つ問題です。槇答案の「三 適用審査」では、
目的手段審査をしていないようにも見えますが、これはなぜでしょう?

佐渡先生対策講座(3)

2012-01-15 17:37:38 | Q&A 採点実感
さて、昨日の問題ですが、有段者向け問題ということで、
やや難しかったようです。

この問題を難しくしているのは、「立法事実」と「司法事実」という言葉です。

法律学一般に言えることですが、
定義が不明確ないし定義を正確に把握していない用語を使うと
思考や論証が、却って混乱するので、
この用語良く分からないなと思ったら、それを避けて素直に考え、論証しましょう。

これは「知ったかぶりに巧手なし」という司法試験格言としても有名です。


さて、そういう目で、法令審査Bと処分審査Bの考慮要素はなんでしょう?
と考えてみれば、これは簡単ですね。

法令審査Bというのは、要するに、
典型的適用例(を基礎付けている法令の部分)の合憲性判断のことなので、
ここでは、典型的適用例に含まれる要素を分析します。

これに対して、処分審査Bというのは、
当該事例(を基礎付けている法令の部分)の合憲性判断のことなので、
ここでは、当該事例の要素を分析します。

 そういうわけで、しがない大学生さん、YSさんの解答を優秀例とさせて頂きます。
 (この記事は、朝書いたもので、本日、朝7時受付分までです。
  それ以降解答して下さった方はすいません。)

 両名は、少なくともこの分野については十分に有段者ということですね。
 その他の方の解答も、概ね正しいのですが、ビシ!っと端的に表現する
 という点で、両名の解答に届きません。


あれ、みなさん、抽象的には分かったんだが、具体的にどうやればいいのか、
良く分からんなあ、という顔をしていらっしゃいますね。

では、ちょっとやってみましょう。
『急所』でも素材にした戸別訪問禁止法でやってみましょう。
みなさんも、戸別訪問について、原告の立場から、二段階審査の論証を書いてみてください。
自然に思いつくままに。

というわけで、次のような練習問題を解いてみましょう。

練習問題 地域社会圏住宅での戸別訪問
 ○×市の市街地に位置するアカツキ集合住宅は、
 先駆的な建築家山本理顕が地域社会圏の構想を踏まえて
 設計したもので、次のような住宅である。

 この三階建ての集合住宅では、まず、
 集合住宅の1階部分は、公衆が出入り自由なもので
 カフェ・病院・コンビニなどが配置されている。
 2階部分に上がると、ガラス張りの共通玄関があり、
 そこに入ると、大きな共用ラウンジ、巨大なテレビ、共用キッチン等がある。
 このスペースでは、住民が自由に交流したり、
 家族で団欒したりすることができる。
 また、共有ラウンジは広く作られているので、
 利用規約上、住民、各2名までの来客であれば、特に許可・予約を取ることなく
 ラウンジなどの共有スペースを利用してよい、とされている。

 3階部分には、共用の大浴場と、各住民のスペースがある。
 各住民のスペースは、共用部からガラスドアで区切られ、
 スクリーンで視線を区切ることもできるし、
 玄関部を展示スペースとして利用することもできる。

 政治家Yは、○×市長選にあたり、
 市内のアカツキ集合住宅の各住居の共有ラウンジを次々と訪問し、
 ラウンジの一角で、話を聞く同意をした者に、
 自らに対する投票を依頼した。

問題
 Yは、この行為が公選法138条が禁止する戸別訪問に該当するとして起訴された。
 あなたがYの弁護を引き受けた弁護士だとしたら、どのような主張をしますか? 

 (1時間で三段。有段者の解答例は、明日掲載予定。)

はい。答案をコメント欄に書いていただく必要はありません(笑)

今日の課題は、法令審査と処分審査で、どのような論証をしますか?というものです。
答案構成考えて見ましょう。
(20分で初段)

佐渡先生対策講座(2)

2012-01-14 20:18:47 | Q&A 採点実感
このように「法令審査」という用語は、大きく3つの意味で使われます。

従って、学者の論文だとか、司法試験の出題趣旨・採点実感だとか
そういうものを読んでいて、この言葉が出てきた時は、
AからCのどの意味だろう?と考えないと、言っていることが分からないことになります。

さて、佐渡先生や司法試験の出題趣旨は、常々、
法令審査→処分審査の二段階で審査をしろ、と言っているわけですが、
これはどういう意味でしょう?

一段階目の「法令審査」の意味が問題になります。
この審査を、法令審査Aつまり、法令の全体審査(全適用例の合憲性の審査)と理解しますと、
この審査の結果、次のような判断と処理が得られます。

*そうそう、ここで注意をしてほしいのですが、
 さしあたり、「法令審査A」というのは、
防御権(○×の自由)適合性を判断する場合の審査方法とお考えください。
 明確性への権利や平等権が問題となるときには、
 それに応じた特別の審査方法になります(後述)。

法令審査Aの帰結は、以下の3つです。
(A-2は、さらに幾つかに分かれます)

A-1:全適用例が違憲なので、法令全体が無効になり、この適用例も違憲無効。

A-2:この適用例は合憲だが、この適用例は違憲である。
    -1:ただ、違憲部分を除去する明確で理解容易な解釈が可能なので、合憲限定解釈。
      -1:この処分は限定解釈された法令の要件を充たすので、合憲合法有効。
      -2:この処分は限定解釈された法令の要件を充たさないので、違憲違法無効。
    -2:違憲部分を除去する明確で理解容易な解釈は不可能なので、一部無効。
      -1:この処分は、この有効な部分に根拠を持つので、合憲有効。
      -2:この処分は、この無効な部分に根拠を持つので、法律の根拠なく無効。

A-3:全適用例が合憲なので、法令全体が合憲であり、この適用例も合憲。

ところで、先日、私が指導対局で対局した たけるんさん は、
「最高裁判例は、ほとんどの場合、法令審査をしていて、
 適用審査優先を主張する学説とは違うのではないか」とおっしゃっていました。

ここに言う「法令審査」は、おそらく、このような法令審査Aを言うと思われます。
そして、最高裁判例のほとんどが、そういう審査をしているとの指摘は、おそらく正しいでしょう。
例えば、徳島市公安条例事件、猿払事件、いずれも上告審では、そのような判断をしています。


では、ここで問題です。

まず、徳島市公安条例事件判決のデモ行進の自由と公安条例との関係については、
最高裁は、A-1、A-2、A-3、どのパターンの処理でしょう?

正解は、A-2-1-1になります。

 同判決の論証を、分析すると次のようになります。
  法令「交通秩序を乱す行進は禁ず」
  事例:だ行進
   ①この法令は、
    大人数での行進など通常のデモ行進や
    だ行進、渦巻き行進などの、殊更に秩序を乱す行進に適用される。
   ②デモ行進は・・・と表現の自由の制約を認定し、違憲審査基準を設定。
   ③通常のデモ行進により乱される程度は、社会も甘受すべきであり、
    そうした行進に適用されると、
    本規制は目的が規制される権利の価値を上回るほど重要とは言い難いため、
    違憲である。
   ④他方、だ行進による交通秩序の殊更な攪乱は程度が大きく、
    そうした事態を防ぐという目的はきわめて重要であるため、
    そうした行進に適用される場合は、本規制は違憲である。
   ⑤よって、本件法令のうち、通常のデモ行進に適用される部分は違憲である。
   ⑥本件法令の文言「交通秩序を乱す」は、殊更な交通秩序の攪乱を意味する
    と理解しても、一般人の理解にかなうので、そうした解釈は解釈の枠内にある。
   ⑦よって、本件法令については、そのような解釈を採用すべきである(限定解釈)。
   ⑧しかし、だ行進は、そう解釈した場合の構成要件に該当する。
 *判決では、①から⑥が省略されていて、いきなり⑦から入っているので分かりにくい。
  採点実感名人であれば、「思考過程が省略され、限定解釈する理由が示せていない
  有害な答案である」ととがめるところでしょう。

それでは、猿払上告審判決は、どうでしょう?
これは、典型的なA-3型です。

最高裁は、現業・非現業、勤務時間の内外、地位の利用の有無などにかかわらず、
公務員の政治活動は、全て、国公法の保護法益を害するものであり、
それらの事情の区別は、重要な事案の差異を構成しない、としています。

さて、ここまでは私もたけるんさんのおっしゃっていることに同意します。
皆さんもそうでしょう。



ただ、ここから先が問題で、このような「法令審査A」をやってしまうと、
続けて、処分審査をする意味がありません。

全適用例審査をしているので、その適用例の審査もすでに終わっているのです。
クラス全員(ザッキー含む)の答案を採点した後に、
ザッキーの採点をすることに意味がないのと一緒ですね。

この点について、前回の記事の最後に出題したところ、正解がわんさかと押し寄せました。
このことは、法学徒にとって、
以上のような理屈を理解することが、全く難しくないということの証左でしょう。

そして、佐渡先生や採点実感先生は、おそらく
こうした法学徒のみなさんに匹敵する能力を持っています。
そうすると、そのくらいのことは、先生方も分かっている、と言ってよさそうです。



さて、佐渡先生や出題趣旨先生が「法令審査」と言っている言葉の意味を
判例における法令審査と同じ=法令審査Aと解しますと、
次にやる「処分審査」の内容が、意味不明になるわけです。

しかし、「法令審査A」の後に、「処分審査」のようなものが行われることがあります。

つまり、法令審査Aおよびそれに基づく違憲部分の除去
(限定解釈、一部無効、全部無効、全部有効)をした後に、

その処分・適用例が、そうした処理の施された法令の要件を充たすのかどうか、
を判断する、という過程が生じます。
(『急所』では、これを「3具体的処理」の「当該事例の処理」と呼んでいます)

この過程を「処分審査」と呼ぶのであれば、法令審査Aの後に、処分審査が続くでしょう。
以下これを、処分審査Aと呼びましょう。

例えば、次のような例があります。

  例1 A-2-1-1型
法令審査A このプライバシー保護法制のうち、
      公共利害関連真実の報道を規制している部分は無効。
処分審査A この報道は、公共利害関連真実の報道にあたらないから、規制しても合憲。

  例2 A-3型
法令審査A 公務員の政治活動は、どの地位にある者のどんな行為態様でも
      言語道断・公益侵害であるから、その規制は全て合憲。
処分審査A この行為は、公務員の政治活動にあたるから、規制しても合憲。

こうした処分審査Aの特徴は、
法令の要件を満たすかどうか、その法令を適用することがその要件にてらし妥当かどうか、
という判断がなされるのみで、
「憲法判断」を伴わないというところにあります。
(法令審査Aで憲法判断が尽きるので当たり前ですね)

佐渡先生は、ザッキー君に

 「処分違憲の審査で,法律適用の合法性,妥当性のみを論じる答案が今年も多かった。
  憲法との関係を論じないと,合憲性審査を行ったことにならない。」

と言っているわけですが、
これは、ザッキー君が、「処分審査」ないし「適用審査」という表題の下で、
処分審査Aをやっていたことを示しています。



こうなってくると、佐渡先生が求めているのは、
「法令審査A+処分審査A」の二段階審査(以下、二段階審査Aと呼ぶ)ではない、
ということになります。

従って、判例の憲法判断の方法(法令審査A、ないし二段階審査A)と、
出題趣旨先生が求めている判断方法は、違うものだということになります。

 *先日の指導対局で、たけるんさんは、
 「出題趣旨は、判例と同じ審査方法を採れと言っている」と主張してきました。

  しかし、そもそも、
  判例は、憲法判断としては法令審査Aのみを行う方法論に依拠しており、
  法令審査Aに続けて処分審査をした判例なぞというものは、存在しないのです。
  (というか、理論的に、そのようなものは存在しえません)
  
  私が、たけるんさんに、そういうことを主張するなら
  「法令審査」と「適用審査」の定義を示せ、と指導したのも、
  このことに気づいてほしかったからです。

 *ついでに指導をつづけますと、たけるんさんには、
  たけるんさんが<採点実感先生が「法令審査+処分審査」と呼んでいる審査はこれだ>
  と考えている「二段階審査」の論証(定義ではなく)の具体例を、
  できれば複数、示していただきたいなと思いました。
  そうしてくれれば、こちらの方で分析します。

 *ちなみに、『急所』で書いた私自身の立場は、
  適用審査優先手法と呼ぶものとは違い、
  厳密にいえば、判例と同じ立場です。

  ただ、このブログ等で皆さんと交流するうちに、
  『急所』で、こうした方が分かりやすいだろうと思って書いたことが
  帰って筋道を分かりにくくしている、という面があることが分かってきました。

  たけるんさんが、ここを誤解されたことももっともかと思いますので、
  このシリーズの記事を(違和感のある記載を見つけても、そこですぐに反応せずに)
  最後まで読んで、考えていただければと思います。


こうなると、佐渡先生が求めているのは、
法令審査Bに加えて、その処分の合憲性を基礎づける法令の一部(処分審査)を審査する手法ではないか、
ということになります。

以下、こうした意味での処分審査(『急所』に言う処分審査)を処分審査B、
法令審査B+処分審査B(『急所』に言う二段階審査)を二段階審査Bと呼びます。

 *こうした意味での二段階審査は、これまでの学説が有力に主張するところでした。
  そこで、『急所』では、このような審査方法を紹介しているわけです。
  また『急所』は、新司法試験の出題趣旨を分析して書かれております。
  (「なに、それでも学者か?!」ですと。ほほほ。
   私は「学者」ではなく「准教授」です。
   学界最高水準の理論を説明しつつ、
   司法試験受験生が余計な心配をしないように配慮するというのが
   教育者兼研究者というややこしい職業(法学部の教授)のプロ意識というものです)


ここまで来たところで、今日の問題(30分で初段)です。

佐渡先生は、
「法令違憲と処分違憲を論じる際の考慮事由をしっかり分けろ」と言っていました。
この発言は、おそらく
「①法令審査Bの考慮事由と②処分審査Bの考慮事由をしっかり分けろ」という趣旨です。

それでは、①と②は、どう区別するのでしょう?何が違うのでしょう?

これアカハラだろ(5・完)、そして佐渡先生対策講座(1)

2012-01-13 11:18:06 | Q&A 採点実感
ツツミ先生が時計を確認すると、講義の時間はあとわずかである。
佐渡先生が、どのようにまとめるかを見ていると、
こういった。

「法令違憲と処分違憲の書き分けは一般的になってきたわね。
 でも、正確に内容を理解した上できちんと書き分けている
 答案はほとんどなかったわ。
 ウグイスダニ、前に出なさい。」

こう言うと、佐渡先生は、ピラッと鶯谷君の答案を床に落とした。
「拾いなさい。」

ウグイスダニ君がひざまずいて、拾おうとする。
まるで佐渡先生に土下座しているようだ。

佐渡先生は土下座プレイを続行した。

「あなたの答案、
 法令違憲を論ずるときに、
 立法事実に照らして法令の規定がどうかを論じてないわね。
 Xの個別事情しか考えてないのよ。

 アナタの出来損ないのプリンみたいな脳みその中では、
 法令違憲と処分違憲が混同してるのよ。
 それぞれを論じる際の考慮事由の差違、理解することね。

 ほら、あなたの答案用紙に謝りなさい。
 立法事実と個別事情がぐちゃぐちゃになった
 みじめな文章を書き殴って、申し訳ありません、てね。」

 ・・・。ツツミ先生は、「おい。すごいな。
 これ、先生へのじゃなくて、答案用紙への土下座プレイだったのか。」
 と言った。

 感心している場合ではない。
 すると、さらに佐渡先生は続けた。

「それからザッキー。
 あなたの答案、処分違憲の審査で,
 法律適用の合法性,妥当性のみしか論じてないわね。

 憲法との関係を論じないと,合憲性審査を行ったことにならないの。

 本問では,
 「生活ぶりがうかがえるような画像」の公表を禁じることの
 合憲性をきちんと論じる必要があるわね。

 あなたみたいに、中止命令まで行うことは過剰な規制であるという主張を
 するだけでは、処分審査を行ったことにはならないの。

 ほら、分かったら、教室の後ろに行って、壁に向かって立ってなさい。
 ザッキーがそうやっていると、
 佐渡先生は、出席を確認し、答案を返却しはじめた。
 その間、ザッキーは壁に向かって立たされたままだ。

 「おお。今度は、新手の放置プレイだ。」
 ツツミ先生が、また感心した。

「まだまだ言いたいことはあるけど、それは来週にしましょう。
 いい、アナタたち、来週までに処分審査と法令審査の概念、
 ちゃんと理解してくることね。
 質疑応答するわよ。」

 拷問の予定を宣言すると、佐渡先生は教室を後にした。
 ザッキーは立ったままだ。どうするつもりだろう。

 さて、それはさておき、佐渡先生があんなことを言ったもので
 もう一人の憲法の先生(私だ)のOHに、
 処分審査と法令審査の関係を問う長蛇の列ができたことは言うまでもない。

 そういう訳で、私は、OHで処分審査と法令審査について、
 特別講義をせざるを得なくなったのである・・・。

・・・・・・・・・・・・・(これアカハラだろ、完)



準備しております。しばらく、この画像を見てお休みください。

・・・・・・・・・・・・・(佐渡先生対策講座(1))

「佐渡先生被害対策講座 法令審査と処分審査」

ああ、本日、講師を勤めます木村でございます。

さて、法令審査と処分審査、ということですが、
この概念が混乱するのは、これまでも、お話ししてきたことですが、
そもそも、この「法令審査」という言葉が、
いろんな意味で使われるというところにあります。

まず、最初に整理をしてしまいますとですね、
「法令審査」という言葉は、次の三つ意味で使われます。


法令審査A:法令の全体審査(急所ではこれを「法令審査」と呼ぶ32頁)
 法令の全適用例の合憲性を審査し、
 法令のどこが合憲で、どこが違憲かを完全に画定する作業

法令審査B:法令(法文)全体が違憲かどうかの審査(法文違憲審査『急所』33頁)
 <法令全体が違憲>かどうか、を審査するもの。
 具体的には、法令の典型的適用例*を審査する。
  典型的適用例が違憲→典型的用例ですら違憲なのだから法令全体が違憲 
  典型的適用例は合憲→合憲的適用例があり、法令全体が違憲とは言い難い。

 *法令の典型的適用例とは、
  その法令の保護法益を害していることが明らかで、
  原告が憲法上の主張をする上で、有利な事情が全くない適用例のことで、
  要するに、<違憲の疑いが最も弱い>適用例のことをいう。

法令審査C:明確性の審査
 その法文がその事例との関係で明確であるかを審査するもの。

 その法文がその事例との関係で明確であるというためには、
  ①その事例に適用されることが明確であること(狭義の明確性)
   および
  ②その法文に違憲的適用例がない、
   又は違憲的適用例があっても、それと問題の事案を
   明確に区別することができること=可分であること(過度広汎でないこと)
 の二要件が必要であり、二要件の審査がなされる。


さて、これに対し、
処分審査は、その処分(適用例)の合憲性を審査するものと
一応、定義しておきましょう。
(厳密な定義は、またあとでします)

ここで問題です。私の講義をこれまで聴いてきた人、急所を読んできた人、
あるいは、ここ何日か、たけるん君に指導してきた内容を読んだ方には
分かる簡単な問題です。

いわゆる二段階審査で、最初に法令審査Aをやったとします。
この場合、続けて処分審査をやると、どうなってしまうでしょう?

         (つづく)