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木村草太の力戦憲法

生命と宇宙と万物と憲法に関する問題を考えます。

ご質問について

これまでに、たくさんのご質問、コメントを頂きました。まことにありがとうございます。 最近忙しく、なかなかお返事ができませんが、頂いたコメントは全て目を通しております。みなさまからいただくお便りのおかげで、楽しくブログライフさせて頂いております。これからもよろしくお願い致します。

もひとつクイズ

2012-01-24 07:57:25 | Q&A 採点実感
ここで、佐渡先生のオフィスアワーに戻りたいところですが
もうひとつお付き合いください。


週刊誌などが不倫の事実を公表することは、
名誉権ないしプライバシー権の侵害になります。

ここで二つの事例をみてください。

①週刊電柱が、一般人Aさんの不倫の事実を公表した。

②週刊夕日が、国会議員Bさんの不倫の事実を公表した。

おそらく、
①を不法行為として賠償命令出すことは違憲ではないとされますが、
②を不法行為として賠償命令出せば違憲と言われるでしょう。

問題
なぜ、憲法判断について、このような違いが生じるのでしょうか?
次の中から選んでください。

解答A 
 ①ではAさんの権利侵害がある(ないしその度合いが高い)が、
 ②ではBさんの権利侵害がない(ないしその度合いが低い)から。

解答B 
 ①も②もA・B両名の同程度の権利侵害があるが、
 ①の表現の価値は低く、②の表現の価値は高いから。

解答C
 ①も②もA・B両名の同程度の権利侵害があり、
 表現の価値は①も②も、
 規制の憲法21条適合性判断においては同程度である
 と評価せざるを得ないが、
 ②については表現の自由の制約を正当化できない
 「何か特別な理由」があるから。


はい。解答A~Cのどれが正しいか、
理由とともにおこたえください。
(解答締め切りは1月25日午前1時です)

逆転と講演会クイズの出題趣旨

2012-01-24 07:56:50 | Q&A 採点実感

たくさんのご回答ありがとうございました。

各大学によってプライバシー権の教え方は違うと思いますので
こういうところで、お話を聞かせていただくと
大変勉強になります。
みなさん、かなり考えて下さったようで、とてもうれしいです。


さて、クイズの趣旨です。

逆転判決(前科の実名での公表)と
講演会事件(参加者氏名等の警察への情報提供)とでは、
同じ「プライバシー侵害」の事案とされていますが、
認定された被害額が大きく違います。
前者は数千円、後者は数十万円ですね。

この違いはどこからきているのでしょう?
これを考えてみようというのが、今回のクイズの趣旨です。
(そして、これは、昨年の司法試験の分析のために
 非常に重要なポイントにかかわります。)

この点の説明の仕方は、二つあります。

説明1
両者で、被侵害利益は同じプライバシー権だが、
法益侵害の<程度が>違う。

説明2
両者は、そもそも侵害された権利の〈性質が〉違う。
但し、たまたま二つの権利がプライバシー権の名の下に
包摂されているだけである。
(「憲法上の権利」の名の下にも
  営業の自由と表現の自由が包摂されているように)


この二つの説明、それぞれ課題があります。

説明1については、
両事案で共通している法益の内容をきちんと説明する必要があります。
この点を説明するとしたら、
「個人情報をコントロールする権利と言う点で共通だ」
くらいでしょうが、
個人情報コントロールができないと、
どのような問題がおきるのでしょう?

以下、説明1に依拠した皆さんへのコメントです。

>Jiroさま
 概ねgoodですが、③の部分で両者が
 同じ権利の下に包摂される利益である理由が
 説明できていないと思いました。

>D-Mさま
 公開されない権利を保障すべき理由が観念的になっているように
 思いました。

>TORAJIROさま
 「社会生活上の不利益」というキーワードよいと思いますが、
 そこで具体的にどのような不利益(特に講演会事件)が
 生じるか、考えてほしいところでした。


説明2については、
侵害された異なる権利の内容を明確に定義してもらう
必要があります。

以下、説明2に依拠した皆さんへのコメントです。

>平民Aさま
 ③のところで、説明が不十分な気がしました。
 個人の尊厳に不可欠、人格的な権利利益をそこなう。
 これは、具体的どのような損害が生じるイメージなのでしょう?
 かんがえてみてください。

>gsskさま
 ③のところが不十分です。
 逆転判決の部分について、どのような悪いことがおきるのか、
 もう少し書いてほしかったです。
 講演会事件の方は、よくかけています。

>orsさま
 ふーむ。講演会事件の被告は
 国家に情報をもらした学校法人です。
 もう少し事案に踏み込んでほしかったです。

>k.sさま
 逆転判決OKです。
 講演会事件ですが、介入探知されない権利が保障されるべき 
 理由もすすこし具体的にほしいところでした。

>ますおさんさま
 こんにちは。いつも日曜日の6時30分より
 おたくの私生活を無許可で撮影した番組を
 視聴させていただいております。

 はい。かなりグッドです。
 その権利が侵害されるといけない理由が
 かなり具体的に書かれていると思いました。

はい。まことにありがとうございました。

最後に、私のきき方のせいか、
質問に対応していない解答になってしまっていた
方々についてのコメントです。

>四千番さま
ちょっときき方がわるかったですね。
「侵害された権利」とは、判決により制約された権利ではなく、
不法行為の被侵害利益のことです。

>法学男子様
「②の質問に答えられていないわね。
 キムラは、同じか違うか、をきいてるの。
 下手に質問の趣旨をさぐろうなんてしないで
 素直に問題に応えるべきだったわね。
 あなたを「F」なんて評価したら、
 他の「F」の子に失礼だわ。」
 以上佐渡先生のコメントでした。

 講演会事件の方を情報コントロール権としますが、
 そうした権利を保障すべき理由はなんですか?
 そこが説明できていないように思いましたので
 考えて見て下さい。

>ごんはるさま
 質問に対応していない部分があります。
 情報自体の価値をどう判断するのか不明確だと思いますので
 かんがえてみてください。

休憩のお知らせ&クイズ

2012-01-22 06:14:44 | Q&A 採点実感
佐渡先生シリーズが続いておりますが、
所用で、次の更新は3日後位になります。


カレンダーを確認。うん。2日後でした。


せっかくですので、一つクイズです。

「ノンフィクション逆転事件と江沢民氏講演会事件、
 
 ①そこで侵害された権利は、それぞれ何でしょう?
 
 ②両者で侵害された権利は、同じものですか、違うものですか?
 
 ③そうした権利を法的に保護すべき理由は、何でしょう?
  (②で違うものとお答えになった場合には、
   それぞれお書き下さい。)           」


はい。それでは、また、2日後にお会いいたしましょう。

佐渡先生のオフィスアワー(2)

2012-01-21 07:27:55 | Q&A 採点実感
インテリアは、白い色で統一され、ちりひとつない。
佐渡先生の研究室は、病室のようだった。

研究室に入ると、佐渡先生は言った。

「アナタ、最近、うちの准教授にとってやったキタムラね。
 何?アナタのあの論文。読むのが苦痛で、論文審査は拷問のようだったわ。
 アナタ、あんな論文書いて、私に対するアカハラのつもり?」

 すごい入り方だ。そして、私の名前はキムラである。

「ところで、アナタ、新司法試験って受けたことある?」

「……ありません。」
 当たり前だ。私が学部にいたころには、法科大学院も新司法試験もなかったのだ。

「じゃあ、アナタ、学部時代の憲法の成績は?」

「……。はあ、そんなに悪くはなかったですけど。」
 学部時代、いろいろひどい答案は書いたが、これは本当である。
 生涯打率1割3厘では、プロ野球の打撃コーチはつとまらない。

 しかし、佐渡先生の攻撃はし烈だった。

「『そんなに悪くなかった』ですって?
 あのね、私がいつ、『昨日見た面白い夢の話』をしろって言ったの?」

 いや、夢の話ではなくて……と言おうとしたところ、
 佐渡先生はたたみかけた。

「正確に、『憲法の順位は、ピロリ菌とアオコケの間くらいでした』って言いなさい。」

 面倒なので、適当に復唱して流すことにした。

「……はい。憲法の順位は、ピロリ菌とアオコケの間くらいでした。」
 そういえば、このオフィスアワーは、ラウンジに中継されている。
 中継は、アカハラ防止というより、屈辱公開プレイのためと言っていいだろう。

「まあ、いいわ。私の試験問題は見てるわね。
 そして、アナタは、『この問題で違憲審査基準を立てろ』、って言ってるそうね。

 でも、具体的な分析ができているにもかかわらず,
 結論に近づいたところで,急に審査基準のパターンを持ち出したために
 争点から遊離して説得力を失う答案も多かったの。

 違憲審査基準をつかったせいで、
 事案の検討ができなくなってる人がいるのよ。わかってる?」

 私は違憲審査基準ではないのだが、佐渡先生はまるで私が違憲審査基準であるかのように
 怒りをぶつけてきた。

「はあ。私は別に、違憲審査基準の枠組みでもちゃんとした解答ができるといってるだけで、
 絶対に、そうしろ、とまでは言って・・・。」

「はあ?ちょっと黙んなさい。いい?
 私が求めているのは、この問題のシステムの提供により個人情報が公にされ,
 ①プライバシーや肖像権の侵害の問題が生じることから,
 ②表現の自由とそれらの憲法上の権利が衝突してしまい、
 ③それを調整しなくちゃいけない場面だ、
 というところを踏まえた答案なの。

 目的手段審査の枠にとらわれず,
 両者の人権価値が本問においてどのように衝突しているのかを具体的に分析し,
 解決を見いだそうとすることを求めているの。わかる?」

 佐渡先生は、私をずぶの素人ないしアオコケよりもややましな存在として扱う方針のようである。


「……はあ。あの、違憲審査基準論というのは、比較考量を精密にやるための枠組みなわけですよ。」

 この主張を否定する憲法学者は、おそらくおるまい。

「ですから、別に違憲審査基準をつかっても、
 それは、比較考量を精密にやるだけで、
 比較考量と違う結論が出たり、
 ただの比較考量の論証レベルに劣ったりするはずないですよね?

 ですから、『違憲審査基準を立てるな』という先生のご発言は言いす……。」

 私も研究者なので、しっかり反論してみた。
 しかし、佐渡先生は、また、それを遮った。

「うるさいわね。ガタガタガタガタ、壊れた扇風機みたいな喋り方するんじゃないわよ。
 だいたい、誰が違憲審査基準を立てて解答するな、って言ったの?

 私が批判しているのは、
 『原告の具体的事情を分析すべきところで、抽象的な違憲審査基準の話ばっかりする答案』
 『違憲審査基準論を振り回すだけの形式論』
 『審査基準のパターンを持ち出したために争点から遊離して説得力を失う答案』
 『違憲審査基準の設定,事案への当てはめ,という事前に用意した
  ステレオタイプ的な思考に,事案の方を当てはめて結論を出してしまうという解答』
 『最初から終わりまで違憲審査基準を中心に書きまくる答案』
 『この基準でいく,と判断すると,後は「当てはめ」と称して,ほとんど機械的に結論を導く答案』
 こういう答案なの。」

 ……電光石火答案・出会いがしら一撃答案・一行問題答案のことではないか。

「それを『違憲審査基準を書くな』って言っていると早合点して、
 私を非難するなんて、誤解もいいところだわ。
 やっぱりアナタの理解力、ピロリ菌以下ね。。」

 ……どうやら、佐渡先生が違憲審査基準はゴミ箱行きだと
 考えているわけではないらしい。

「はあ。すいません。」

「いい。私は、違憲審査基準を使うなと言っているわけじゃあないの。
 バカの一つ覚えみたいに、違憲審査基準のパターンのことだけ考えて、
 具体的な事案を分析できないのがダメだと言っているの。」

「はあ。そうすると、違憲審査基準論を『ちゃんと』使えば、
 この問題でも、適切な議論ができる……と。」

「当たり前じゃない。アナタ、憲法勉強したことあるの?
 美濃部達吉の墓の角に頭ぶつけて死ぬといいわ。」

 ・・・。すごい死に方だ。

「よく聞きなさい。私が言いたいのは、この問題で
 違憲審査基準を使っても、きちんと書けば書けるでしょうけど、
 アンタみたいなシロートは、違憲審査基準使うと、
 パターンに引きずられて自滅するから、
 それを意識しないで、
 表現の自由とプライバシーを調整する議論をしてごらんなさい、
 ってことなのよ。」

 あー、そういうことか。

 将棋でも、
 プロ同士が正しく指すとと先手必勝だが、
 正しく指すことが難しいため、
 アマチュア同士でやると普通は後手が勝つ、
 という局面がある。

 今回の問題はそれに近く、
 違憲審査基準を立てて「ちゃんと」解けば、
 正解に到達できるが、
 中途半端に違憲審査基準を使うと自滅しやすい問題で、
 実際、自滅した答案が多々あった、ということだろう。

佐渡先生のオフィスアワー(1)

2012-01-20 07:14:09 | Q&A 採点実感
私の勤める法科大学院は、なかなか楽しい場所にある。
大学院の7階からは、どんどん高くなってゆくスカイツリーを観察することができ、
通勤途中の橋から見える水門は美しい。
これ以上にタモリ倶楽部ポイントの高い法科大学院はなかなかなかろう。

さて、法科大学院に行くと、ラウンジに人だかりができていた。
私の学部ゼミ出身で本院に出身した院生(仙台出身・嫌いなもの寒中水泳)に、
なにをやっているのか、と聞くと、佐渡先生のオフィスアワーが中継されているのだという。

なんでも、佐渡先生は
「オフィスアワーに来た者だけが期末試験で有利になったりしないように、
 また、アカハラなどのつまらない疑いをうけないように」
 オフィスアワー時間中は、その様子を院生ラウンジに中継しているのだという。

モニタをみると、確かに佐渡研究室の様子が映っている。

佐渡先生がアカハラの「疑い」を受けないよう意識しているという点が
まず驚きだが、
その上、それを公明正大に中継し、厳格審査に付しているというのもすごい。

街中でのビラ配りに拷問の上、火あぶりで処刑しておいて
表現の自由からの厳格審査を受けて立とうというようなものだ。


まあ、佐渡先生のオフィスアワーなどという地獄に好んで身を投じる者はおらんだろう
と思って、見ていると、なんとノックの音がする。……。フジイだ。
フジイは、いつものようにモジモジしているが、自信に満ち溢れて、質問を開始した。

「あのー、先生、違憲審査基準なんか、ごみ箱行きだ……っていっていましたよ…ね。
 違憲審査基準の、あの、何が悪いのですか?」

 ごみ箱とは言っていない気もするが、フジイは、
 どうやらそこで頑張るらしい。

 佐渡先生は、このフジイの態度に腹を立てたらしい。
 (佐渡先生が学生に腹を立てるということをわざわざ描写するのも間抜けだが)

「いい。アナタの答案は、原告,被告の主張を戦わせるのに,
 表現の自由とプライバシーとの実体的な関係について論じないで,
 審査密度の濃淡だけで優劣を論じているだけなの。」

  フジイの原告主張は、要するに、
  「本件は内容規制なので厳格審査基準だ」として、
  「プライバシー保護は、やむにやまれぬ政府利益じゃない」といった答案だったのだろう。

  厳格審査基準となったら、ほぼ違憲。
  よって、ほとんど理由なく3行であてはめて違憲。いわゆる電光石火答案なわけだが、
  「プライバシー保護は、やむにやまれません。違憲です。」では、立法府も納得しないだろう。

  本件で厳格な審査基準を設定することは必ずしも誤りではないが、
  被告の側にも、この目的はやはり重要です、規制は必ずしも強力ではありません
  といった、いろいろ主張できるポイントがあるのだ。

  しかし、フジイは頑張った。

「あの…、ふふ、僕の答案ですね、ほら、なんで表現内容規制には
 厳格審査を適用するか、2ページかけて論じているでしょ。
 それ、読んでないんですか?」

  このセリフに、中継を見ている院生たちは凍りついた。
  佐渡先生に反論している。

「……。どうやら、私の目の前にいるのは、人間ではなくて、穴のあいた靴下だったようね。
 さっさと、
 違憲審査基準論を振り回すだけの形式論では説得力が生まれないことに気付きなさい。」

「え?でも僕、違憲審査基準論、詳しいんですよ。
 ほら、比較考量論がいけなくて違憲審査基準立てなきゃいけない理由も1ページかけて書いてあります。」

「……。答案は、アナタのミジンコ並みの脳みそに記録されたゴミ情報を書く場所じゃないのよ。
 さっさとこの部屋から出て行って、5階から飛び降りなさい。」

 佐渡先生は、こう言って、ミジンコ・・・フジイを追い出した。

 フジイの答案の全貌が見えてきた。

 フジイの答案は、審査基準の後、3行で終わっているのみならず、
 なんと「違憲審査基準論」に3ページかけているらしいのである。

 「違憲審査基準論」。これは、本件で厳格審査すべき理由の論証ではない。
 違憲審査基準とは何か?比較考量論と何が違うのか?
 芦部説だとこうで、初期の判例を高橋説がこう批判して、といった
 事案と何の関係もない「違憲審査基準」という概念に関する「論」である。

 このあたりは、司法試験に直結するということで、
 妙に詳しい受験生も多いのだが、それ自体の知識を書くことは試験では問われていない。
 これを「違憲審査基準について」という一行問題への解答のような答案という意味で
 一行問題答案という。
 笑い話のようだが、そういう答案はしばしばあるのだ。

 しかし、一行問題答案は、やはりだめだ。

 ふーむ。やはり、きちんとした答案というものの組み立てを問題に即して解説する必要があるな。

 だいたい佐渡先生は、あんな難しい問題を出した以上、
 模範というか求めている答案のモデルを示す必要がある。
 それが責任というものだろう。


 ……さて、フジイに続く勇者がいるわけもなく、
 佐渡先生は、しばらくボケーとしていたが、ふと何か思いついた様に携帯電話を取り出した。

 院生たちはビビっている。なんでも佐渡先生は、
 オフィスアワーに客がこないと、自ら呼び出すという。怖い。

 まあしかし、犠牲者は可哀そうだが、見世物としては面白い。
 だれになるのだろう? 

 そう思っていると、イッツァスモールワールドが鳴った。
 私の携帯電話の着信だ。

 着信を確認すると、「佐渡先生」と表示されていた……。

 *  明確性の問題は、防御権からの審査が終わってから
    説明した方がよいかと思うので、ちょっと置いておかせて下さい。
    とりあえず、防御権問題を検討していきます。

 *  私の実際の着信音はイッツァスモールワールドではありません。