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酵素や微生物の有機合成への応用 昔ばなしその2

2022-12-01 10:35:14 | その他
前回生体内では常に酵素反応が行われており、これによって行動したり生命が維持されているという話しをしました。

この優れた酵素反応を有機化学に応用しようと考え、特に酵素の持つ立体選択的反応を利用しようと考えたわけです。そこでここでは立体化学について簡単に説明しますが、これは有機化学の中でも最もややこしいものです。

有機化合物の骨格となる炭素には4本の手があり、ここに4種の異なったものが結合すると、その付き方によって立体的に重ね合わせることができない2種類の化合物ができます。こういう炭素を不斉炭素と呼びますが、いわば右手と左手の関係となるわけです。

見た目はほぼ同じですが、鏡に映った関係となり重ね合わせることはできません。ここでは右手をL型、左手をD型で両方が混じったものをDL型としておきます。

L型とD型は全く同じ構造を持っていますので、性質は完全に同じで唯一旋光度という光の性質がプラスとマイナスで逆になってきます。そこで一方だけになっているものを光学活性体と呼んでいます。

有機化学反応では、4種目の物質が表から結合すればL型となり、裏から結合すればD型となりますが、この確率は全く同じですので必ずDL型ができてしまいます。

酵素反応では原料が酵素の反応点の穴に必ず同じ向きで入りますので、一方向からしか反応できませんので必ずL型しかできてこないのです。そのため天然のアミノ酸はすべてL型で、糖はD型だけとなっています。

さて昔は有機化学ではDL型しかできませんし、これを分離する方法がありませんので、DL型のまま医薬品として使用されていました。たとえL型に薬効があったとしても、同じ構造の効果のない不純物が1:1で混ざったものとして使われてきたのです。

これが問題となったのが1960年代から明らかになったサリドマイドです。多くのサリドマイド奇形児が生まれ、世界に衝撃を与えたことは記憶にあるかもしれません。

その後この問題の究明が進み、L型サリドマイドには良い鎮静睡眠作用があり、D型サリドマイドに催奇性があることが判明しました。つまりL型のみを使用していれば、このサリドマイド禍は生じなかったということになります。

その後不斉炭素がある薬物の場合、光学活性体であることが望ましいという見解が出され、合成するものもD型とL型の一方を作る必要性が出てきたのです。

これを不斉合成と呼んでいますが、現在でも非常に難しく完全に一方だけを作ることはほぼ不可能となっています。そこで一方だけを作る酵素反応を有機化学に応用しようと考えたわけですが、また前置きだけになってしまいましたので次回に続きます。


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