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ごっとさんのブログ

病気を治すのは薬ではなく自分自身
  
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圧倒的な酸度を誇る酢、衝撃の化学的効果

2024-07-07 10:33:28 | 化学
私が属していた農芸化学科は、微生物を使った発酵がかなり重要位置を占めていました。しかし私はこの微生物の取り扱いがどうも苦手で、やや分野の違う有機化学を専攻しました。

日本は遥か昔から発酵文化を築いてきており、ここではそのうちのひとつ「酢」を取りあげます。人類は有史以前から酒を造ってきました。

ブドウや穀物から酒を醸して楽しむとともに、よりおいしい酒を造るために膨大な時間と労力を費やしてきましたが、せっかく作った酒がいつの間にか酸っぱくなって飲めなくなることも珍しくなかったはずです。

やがて酸っぱくなった酒には食物が腐るのを防ぐ効果があり、調味料としても使えることに気が付きました。食酢は英語でビネガーというが、語源は「酸っぱいワイン」であり、食酢が古くなったワインから生まれたことを示しています。

これは酒に含まれるアルコールが、酢酸菌の働きによって酢酸に変化したためです。食酢は酢酸を主成分とした酸性の調味料であり、市販の食酢には酢酸が4〜5%含まれています。日本には4世紀ごろに酒の醸造法とともに食酢の醸造法が伝来しています。

当時は辛酒と呼ばれ、酒の一種として宮廷料理などに用いられていたが、量産されて庶民の間で食酢が使われるようになったのは江戸時代のようです。食酢の最大の料理効果は、当然のことながら酸味の付与です。

食酢は塩とともに最も古くから人類に利用されてきた調味料です。酸味には唾液の分泌を促進し、食品に清涼感を与えるとともに、甘味や塩味を引き立てる効果があります。寿司には酢飯が欠かせません。食酢に殺菌効果があることは、古来より知られています。

冷蔵設備が無かった江戸時代に寿司が庶民の楽しみになったのも、酢飯を抜きにしては語れません。食酢の腐敗防止作用としては、現実的には殺菌より静菌効果が重要です。「殺菌」とは細菌を死滅させる効果であり、細菌を殺さずとも増殖を抑える効果を「静菌」といいます。

雑菌が許容できないレベルに増殖することが腐敗なので、食品の腐敗防止には静菌できれば十分といえます。ほとんどの食中毒病原菌は、一度に100万個以上の細菌を摂取しない限り発症することはないので、静菌作用により微生物の増殖を抑えることには非常に大きな意味があります。

食酢の40分の1の濃度で静菌できることから、夏場の弁当やおむすびには気付かれない程度の食酢が添加され、食中毒の防止に役立当てられています。

その他食酢にはカルシウムの補給や減塩効果もあるとされ、重要な食材といえるようです。

人類によって生み出された「人工元素」は何種類

2024-05-23 10:32:31 | 化学
少し前に原子を取りあげましたが、実はこの原子が私が宇宙に興味がなくなった原因のひとつです。

宇宙に進出すれば地球にない新しいものが見つかるだろうと考えていました。ところが原子は既に知られている118種類以外は、たとえどんな宇宙であっても存在しないことが分かりました。

つまり膨大な金をかけて宇宙に進出しても、想定内の物しか発見されないことが分かり興味がなくなってしまいました。

原子の基本を確認しますが、原子は陽子や中性子で作られた原子核と、周囲を取り巻く電子から成り立っています。陽子の電荷はプラス1なので、電荷がマイナス1である電子の数は、足し合わせた電荷がゼロとなるように決まります。

この原子の持つ陽子の総数、陽子数のことを原子番号と呼びます。原子番号が変われば電子数も変わるので、それに応じて原子同士のつながり方が変わり、様々な分子が形成されます。このような原子の科学的性質を表わすために、異なる原子番号ごとに「元素」という言葉があてはめられました。

水素や鉄、鉛など天然には94種類の元素があります。地上には150万種もの動植物が暮らしていますが、生物に限らずすべての物質がこれらの元素の組み合わせでできていることになります。

古代エジプト時代から20世紀初頭までの長い間、変色せず加工性に富んだ金を他の物質からつくる錬金術という試みが盛んに行われましたが、企てはことごとく失敗しました。1919年に、アルファ粒子を窒素に照射すると、陽子が飛び出してくることを発見しました。

このとき窒素が酸素に変換されました。この反応を「原子核反応」と呼んでいます。原子核を高速で他の原子核にぶつければ、原子核反応を起こせることが分かりました。そこで効率的に反応を起こして原子核を研究するために、原子核を高速に加速する加速器の開発が始まりました。

1963年発明されたばかりのサイクロトロンという加速器を使って重水素を加速し、原子番号42のモリブデンに照射するという実験を行いました。その結果、地上では当時見つけられなかった43番元素のテクネチウムを発見しました。

これが人工的に生成された初めての元素でした。テクネチウムに加えてこれまでに61番元素のプロメチウムと85番元素のアスタチン、118番元素のオガネソンなどの29種類の元素が、人類によって生み出されました。

ただしテクネチウム、プロメチウムなど5種類は、後の研究で微量ながら地上に存在していることが明らかになりました。理化学研究所の研究グループが生み出した113番元素は、2016年にニホニウムと名付けられました。

科学的根拠が貧弱すぎる機能性表示食品

2024-05-19 10:36:08 | 化学
最近ドラッグストアに行くと、健康食品などサプリメントを含めた売り場が非常に広い面積を占めています。

私は基本的に通常の食事をとっていれば、不足する要素はないと思っていますので、こういった類を買ったことはありませんが、いわゆる健康ブームで売れているのかもしれません。

食品衛生法第4条には、この法律で食品とはすべての飲食物をいう。ただし医薬品、医療機器等の品質、有効性安全性の確保等に関する法律に規定する医薬品、医薬部外品及び再生医療等製品はこれを含まないとあります。

要するに医薬品と医薬部外品以外は食品であるという事です。食品はさらに機能性を表示できる「保健機能食品」と表示できない「一般食品」に区分されます。いわゆる健康食品は多数ありますが、機能性が表示できないという意味ではあくまでも一般食品です。

トクホは消費者庁の審査を経た製品であり、許可された範囲内で保健効果を記載できます。トクホであることはヒトを対象に行った実験研究において、ある測定項目の差が統計的に有意であったことを意味しています。

しかしこの有意差が実用的に意味を持つものかどうかは考慮されていませんでした。たとえば食後の血糖値の上昇を数ミリ抑制する保険効果を持つトクホがあった場合に、これを食べることが将来的に糖尿病の予防につながるか否かは全く考慮されていないのです。

トクホは医薬品ではなく食品ですので、効果は小さくて当然です。その効果の小ささが消費者に十分伝えられていないことが問題です。

許可要件として健康の維持増進に寄与することが期待できるものであることさえ要求されていませんので、トクホの存在にどれほどの意義があるか疑問となっています。

機能性表示食品の表示しようとする機能性は、「目の調子を整える」「睡眠の質を向上」「疲労感の軽減」など、トクホでは認められていないものがいくつも登場しています。問題はこの科学的根拠が貧弱極まりない点にあり、表現に問題のある広告も既に出ています。

たとえば「内臓脂肪を減らす」と機能性を表示するヨーグルトの広告は、内臓脂肪面積の減少を図示していながら、体脂肪率が増加したことには言及していません。

その機能性はわずかなもので、食品とは本来そう云うものでありもし医薬品並みの「効果」を発揮したら今度は副作用が心配になります。

エネルギーや栄養素を適切に摂取することの重要性を覆い隠してしまうかのような「機能性幻想」は持つべきではありませんが、残念ながらこれとは逆に幻想をあおるかのような制度が次々につくられているのが現状といえるようです。

原子と元素は何が違うのか

2024-05-04 10:33:55 | 化学
物質を徹底的に細かくしていくと、原子に到達します。この原子というのはいわば私の専門であり非常に身近なものですが、一般的にはあまり考えることもないでしょう。

この原子を大きさ順に並べた周期律表を見ると、いろいろ思い出して非常に懐かしくなります。原子に現われる性質によって分子が作られ、化学反応を起こすようになり体や身の回りのものになっていきます。

ですから原子がものの基本的な単位であるというのは確かなことです。私たちに馴染みのある性質が現れるのが原子という単位からで、眼に触れるすべての物は118種類の原子の組み合せなのです。

118種類の原子は、性質が似ているいくつかのグループに分けることができ、原子をグループ別にまとめたものが「周期律表」です。この周期を生み出すもとになっているのが、それぞれの原子を作っている電子の配置です。

原子の中では原子核を中心にして、いくつかの電子が何重にも取り囲んで回っています。一番外側の輪(最外郭)を回っている電子の数が、原子の科学的な性質に大きく関わっています。

一番外側の輪を回っている電子を「価電子」と呼び、その数が同じ原子同士は似たような化学的な性質をもつようになります。周期律表では縦の列に似ているものが並ぶように配置されているので、縦のグループにどのような原子があるかが重要です。

周期律表の縦の列を「族」と呼んでいます。周期律表の一番左の列に位置する水素やナトリウムなどが属する第1族は、価電子が1個しかなく電子は他の原子に移りたがります(プラスになりやすい)。

逆に右の方の列に位置するフッ素や塩素が属する第17族の原子は、電子があと1個入ってくれば一番外側の輪を満員にできるので、他の原子から電子を引っ張り込もうとします(マイナスになりやすい)。この様な原子たちが出会い、電子をやり取りすることで化学反応が起きます。

そのため周期律表を見るだけで、その原子がどのような化学的性質をもつかが分かるのです。ここまでずっと「原子」という言葉を使ってきましたが、周期律表では「元素」という言葉を使います。同じ水素や酸素の中にも兄弟のような原子がいる場合があります。

兄弟の関係にある原子は、陽子と電子の数は同じですが、中性子の数が異なります。原子といった場合、その兄弟は厳密に分けて考えるのですが、元素という場合には同じ家族の一員とみなします。

これが原子と元素の違いですが、実は私も本当には分かっていないのかもしれません。まあどちらを使っても構わない程度の違いといえるのかもしれません。

ほぼ「接着剤」で組み立てられているクルマがある

2024-03-19 10:34:47 | 化学
このブログでも書いたことがありますが、私は接着剤に興味を持っていました。

残念ながらこの研究はできませんでしたが、カップ麺のようにぺりぺりはがすと簡単にはがれる物や、ウエットティッシュのように何回でもくっつくものなど本当に多彩です。しかしこの接着剤がなぜくっつくのかはいまだに謎になっているという話しもあります。

磁石がくっつくのが不思議なのと同様に、接着剤が物と物をくっつけるのは当たり前ではないようです。どうも「接着」という現象の根本的な仕組みは、まだ完全に解明されてはいないらしいです。

こういった接着の仕組みを調べている研究グループが、「接着剤が引きはがされるプロセスの電子顕微鏡によるリアルタイム観察」に成功しました。この産総研のグループによると、ここ10年くらいで接着剤に対する社会の期待が変わってきたそうです。

自動車、飛行機、建築物などの大きなものをくっつけることを「構造接着」と呼ぶそうです。それも含めて産業界には単に「くっつけばよい」では済まされない課題が山ほどあります。

最も大きなニーズがあるのは自動車業界で、電気自動車に置き換わる流れの中で、車体を軽量化するために鉄以外の軽い素材を使おうとしています。しかし鉄と違ってアルミや樹脂などの材料は、溶接で組み立てることができず、現実的な接合の方法は接着剤を使うことです。

市販されている瞬間接着剤などは、日常レベルでは強力ですが単なる仮止めみたいなもののようです。自動車分野で強力な接着剤の開発が進んでいるのはドイツをはじめとする欧州です。BMW社が製造した「i3」という車は、この分野の研究者や技術者に強い衝撃を与えました。

車体を丸ごとCFRP(炭素繊維強化プラスチック)でつくり、接合にはほぼウレタン系接着剤が使われています。ここで自然と求められたのが、はがれてしまう理由とさらには接着するメカニズムの解明です。

接着剤がくっつく基本的なメカニズムについては、昔から3つのモデルが考えられており、アンカー効果、分子間力、化学結合となっています。

アンカー効果は、いわば「機械的」な接着で、くっつけたいものの表面がざらざらしていると、その凸凹に接着剤が入って固まり、相互に絡み合うようにしてくっつきます。分子間力は、静電気のプラスとマイナスがくっつくような静電的な相互作用です。

化学結合は、基材表面の物質と接着剤の物質が、共有結合や水素結合などによってくっつくとされています。しかし瞬間接着剤がこの3つのどの作用でくっついているのかも、まだはっきり分かっていないとしています。

まだまだ謎だらけの接着材ですので、何とか研究してみたい気持ちが強くなりました。