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モトローラ、「偉大な企業」の落日 携帯電話の成功で過信、デジタル化の遅れが影

2011-08-17 |  モトローラ



 「落日」という言葉がこれほど似合う企業も少ない。グーグルに買収されるモトローラ・モビリティーのことだ。

 同社の前身のモトローラは米国を代表する企業の一つで、1990年代半ばまでは次から次にイノベーションを生み出し、「自らを陳腐化することに熱心な企業」(米フォーブス誌)と称賛された。

 40年代にテレビ事業で大成功を収めたが、そこで立ち止まることなく無線通信機器や携帯電話、半導体にも展開した。

 経営メソッドの点でも感度が鋭く、シックス・シグマと呼ばれる品質管理手法をいち早く採用し、米国版クオリティー革命の口火を切った。


●謙虚さ失い傲慢に

 こんなエクセレント企業のつまずきの石は何だったのか。米経営学者のジエームズ・コリンズ氏は、著書「ビジョナリーカンパニー③衰退の5段階」であるエピソードを紹介している。

 95年に同社は「スターTAC」という小型携帯電話機を発売しようとしていた。貝殻型の滑らかなデザインが特徴的で、過去に例のない商品。モトローラには大いに自信があった。
 
 そこで、大手通信会社のベル・アトランティックなどを力でねじ伏せようとした。

 「スターTACを扱いたければうちのルールに従ってほしい。販売する携帯電話でモトローラ製の比率を75%に高め、当社の携帯の展示には特別の棚を用意しないといけない」。こんな命令口調に通信会社側は猛反発したという。

 日本人にとっても記憶に残る場面がある。94年2月、米通商代表部のミッキー・カンター代表は内外の記者団を前に、モトローラの端末を振りかざした。

 「なぜ、これほど優れた製品が日本で売れないのか」と市場開放を迫ったのだ。

 コリンズ氏によると、この時期にモトローラは創業以来の企業カルチャーだった「謙虚さ」を失い、傲慢さが目立つようになった。

 携帯電話の大成功によって10年で売上高が50億ドルから250億ドルを突破するまでに急成長し、「消費者が自分たちの製品を使うのは当たり前」という錯覚が生まれたのだ。だが、「成功のしすぎ」は失敗の母でもある。


●輝き取り戻せず

 影を落としたのが、同社の携帯電話がアナログ技術に準拠していたという事実。

 90年代後半は世界的に携帯電話のデジタル化が進んだが、アナログで成功しすぎたモトローラはこの対応に後れを取り、ノキアやエリクソンといった北欧勢に主導権を奪われた。

 21世紀に入って以降のモトローラは一時ヒット商品を出したり、外部から経営トップを招いたりしたが、以前の輝きを取り戻すことはできなかった。

 ただし、経営手法で参考にすべき点がないわけではない。例えばスピンオフ(会社分割)の積極活用。

 2004年には半導体部門をフリースケール・セミコンダクタとして外に切り出し、今年1月にはモトローラ・モビリティーと業務用無線などを扱うモトローラ・ソリューションズに自分自身を2分割した。

 スピンオフのメリットの一つは、M&A(合併・買収)がやりやすくなること。グーグルにとっても、半導体や無線インフラを抱えた旧モトローラ丸ごとの買収であれば、躊躇したかもしれない。

 1株40ドルというグーグルの買収額は、12日終値を63%上回る驚きの高価格。カール・アイカーン氏などのアクティビスト株主から散々批判されてきたモトローラだが、最後の最後で株主に報いることができた。




【記事引用】 「日経産業新聞/2011年8月17日(水)/16面」


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