スマートフォン革命の衝撃が、社会生活や企業活動など様々な分野に及んできた。
手のひらサイズの端末からネットを経由してあらゆる世界につながる時代の到来で、コンテンツは多様化。情報量も増加の一途をたどっている。
巨大市場を前に、米グーグルが米モトローラ買収に踏み切るなど企業も変革を迫られている。
●カギはスマートフォン
「データ通信量の増加のカギを握るのはスマートフォンだ」。NTTドコモの山田隆持社長はこう断言する。
通信会社が収益の決め手として重視するARPU(1契約者当たりの月間平均収入)。音声通話からメールやネット閲覧などに利用が多様化するなか、音声ARPUは減少を続けており、データ通信のARPUで補う構図が鮮明となっている。
こうした動きをさらに加速するのがスマートフォン革命。
ドコモによると、スマートフォンの利用者のデータ通信量は「iモード」の機種に比べて約1.5倍以上。スマートフォンの普及やコンテンツの大容量化を受け、米シスコシステムズは2015年にはデータ通信量が現在の3倍に急増すると試算する。
スマートフォン需要を取り込めるかどうかが収益押し上げに直結する時代。
ドコモが打ち出している「今期に発売する新機種の約半分をスマートフォンとする」(山田隆持社長)方針も、こうした流れに乗り遅れないための最低条件に過ぎない。
●伝統の破壊
「iモードで視聴できたサイトは、スマホで見られなくなります」。全国のドコモショップではスマホ利用者の増加で、iモード対応の月額課金サイトの解約が相次いでいる。
自前の課金代行システムを持つiモードと異なり、スマートフォン経由のネット閲覧は認証システムが構築されていないため、有料サイトへのアクセスができない。
約2万3000の登録サイトを抱え、利用者約5000万人、市場規模が5000億円とも言われるiモード。
米アップルの「アップストア」にも遜色ない一大生態系をいかに守り、スマホ時代に引き継げるかも、ドコモの命運を握っていることは言うまでもない。
「iモードを引っ越します」。山田社長もこう宣言。今冬をめどにスマートフォンに対応した認証システムを構築。iモードと同様の課金代行サービスをコンテンツ事業者に提供することでiモードからの移行を一気に促す。
コードネーム「NEXTi」。ドコモの社内ではこの合言葉のもとに移行が急ピッチで進む。開発やサービスなどの社内組織、製品構成から意識改革まで、あらゆるものが対象となる。
狙いの1つがiモードで培った伝統の破壊。iモードの携帯電話の開発は2年先の技術進歩を見据えた工程が組まれていたが、スマートフォンの世界では半年に一度更新する米グーグルの基本ソフト(OS)に対応しなければならない。
●80点主義
「スピード重視の開発に切り替える」(スマートコミュニケーションサービス部の伊倉雅治氏)。このために打ち出したのが「80点主義」(山田社長)。
iモードでの完壁主義では、グーグルなど世界標準で進む技術革新の潮流に追いつけないとの思いがある。だが、スマートフォンシフトは通信各社に新たな課題を突きつけている。
「アプリを利用者が自由に組み込めるスマートフォンの登場で、キャリアは差異化が難しくなっている」(証券アナリスト)ためだ。
iモードなど独自のサービスを発展させた日本の携帯電話市場は世界から孤立し、「ガラパゴス」と椰楡されてきた。スマートフォンの登場で動き出した世界標準化の流れも、差異化のため独自サービスを盛り込めば「再ガラパゴス化」する。
このジレンマをどう克服するかが求められている。
【記事引用】 「日経産業新聞/2011年8月18日(木)/1面」