国内勢が海外再参入に二の足を踏んでいる間に、世界ではその呼び水ともみられるような動きが表面化した。
モトローラの凋落である。3月26日、米携帯電話メーカーの名門モトローラは設立80年目にして携帯電話事業の分離を決断した。携帯電話事業は07年の営業損失は12億ドル以上の赤字となっていた。
分離は、他社との統合、あるいは他社への売却の前準備と受け止められている。
●過去の教訓生かせるか
では、日本メーカーでモトローラと組もうとするメーカはどこか。国内シェアでトップのシャープは3月、日本メーカーが総退陣したあとの中国市場への進出を発表した。
片山幹雄社長は「世界市場で成長する」と明言し、8月の北京五輪までに販売を始めると見られる。
液晶パネル事業では、宿敵のソニーや、パイオニアなどライバルと相次いでパネル供給に踏み切ったシャープだけに、社内にはタブーより挑戦の意気込みがみなぎっているという。
片山社長は、富裕層を中心に中国の市場攻略を狙っているというが、かつてNECやパナソニックモバイルが狙ったのも富裕層だった。
高価格端末は、売れれば利幅が大きいが、在庫が膨らんだときのリスクも高く、高価格路線で失敗し、NECなどが廉価携帯の安売り競争に巻き込まれた経緯を知る必要がある。
また、シャープという薄型テレビのブランドカを生かすとしているが、家電のブランドカがそのまま生かせないのが中国市場の難しさでもある。
●難解な中国攻略法
中国は、独自規格である「TD-SCDMA」の開発にこだわり、これまで3Gサービスを延期してきた。
北京五輪までには間に合わせるとしているが、これも延期になる可能性がある。そもそも、中国の携帯需要は音声が中心で、動画像や音楽をやりとりする3Gニーズは乏しいとの見方がある。
高価格・次世代サービスにかけるのか、安価な音声端末に注力するのかで中国市場の攻略方法は180度変わってくる。
ブランドカや販売ノウハウが足りないシャープにとって、中国市場でシェア3位を誇るモトローラとの連合は、時間を買う意味でも非常に有効な戦略となる。
●三洋の失敗から学べるか
その際、シャープが学ばなければならないのが先の三洋の失敗。
日本メーカーの売りはカメラやディスプレーといったデジタル技術だが、ノキアなど海外の主要メーカーの最大の関心事は膨大に膨らむソフトウェア開発費用の抑制。
ノキアも韓国サムスン電子も、いかにして共通の開発プラットフォーム(基盤)を作って費用を抑え、その上のアプリケーションで勝負できるようにするかに腐心している。
シャープが持つ液晶テレビの技術力を、海外メーカーが欲しがっていると錯覚すれば、落とし穴が待ち構えている。
とはいえ、日本のエレクトロニクス業界で海外勢との提携を果たしたのは、携帯電話でエリクソン、液晶パネルでサムスンと組んだソニーのみ。
シャープがそれに追随すれば、淘汰が進む日本メーカーの次なる課題である「国際化」が一気に進む可能性がある。
【記事引用】 「WEDGE/2008年5月号」